舞踊は心の扉を開く之巻

作者:雷紋寺音弥

●癒しの舞踊
「……お呼びですか、ミス・バタフライ」
「来ましたね。あなた達に、新たな使命を与えます」
 何処とも知れぬ、薄暗い場所。螺旋の仮面を付けた奇術師のような姿の女の前に現れたのは、道化師風の男とエキゾチックな衣装に身を包んだ踊り子のような女性。そんな彼らの顔もまた、同様に螺旋の仮面で覆われていた。
「この街に、ダンスセラピストを生業とする人間がいるそうです。その者と接触して仕事内容を確認し、可能ならば習得した後……殺害しなさい。グラビティ・チェインは略奪してもしなくても構わないわ」
「心得ました、ミス・バタフライ。一見、意味を持たぬこの一件も、巡り巡って地球の支配権を揺るがすきっかけになるのですね」
 奇術師のような姿をした女性から命令を受け、二体の螺旋忍軍は深々と頭を下げる。彼らの行動が、いかなる結末を齎すのか。未来と真実は、未だ闇の中に包まれたままだ。

●不穏なる蝶の舞
「召集に応じてくれ、感謝する。ミス・バタフライという螺旋忍軍が、新たに行動を開始したようだ」
 その日、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)からケルベロス達に告げられたのは、螺旋忍軍の新たなる作戦についての報。
「今回、螺旋忍軍が目を付けたのは、ダンスセラピストという珍しい職業を生業としている一般人の女性だ。言葉ではなく、舞踊を通して傷ついた人々の心を癒し、内なる殻より解放させる仕事らしいな。彼女と接触した螺旋忍軍は、その仕事の情報を得たり、或いは習得した後に殺そうとするようだ」
 直接的には大した事は無い事件だが、巡り巡って大きな影響が出るかもしれない。実際、この事件を阻止しないと、まるで風が吹けば桶屋が儲かるかのように、ケルベロスに不利な状況が発生してしまう可能性が高いのだ。
「被害に遭うのは、荒木・美香(あらき・みか)という名前のダンスセラピストだ。種族はサキュバス。接触出来るのは、事件の起こる3日程前だな。事情を話して仕事を教えてもらうことができれば、囮になって螺旋忍軍にこちらを狙わせることができるかもしれない」
 その一方で、事前に説明して被害者を避難させてしまった場合、予知が崩れて被害を未然に防ぐことができなくなってしまう。また、囮になるためには見習い程度の力量になる必要はあるので、かなり頑張って修行しないと難しい。
 ちなみに、ダンスセラピストになるためには、単に踊りが上手いだけでは駄目である。大切なのは、己の内から湧き上がる情動を、身体の細部まで意識して動かし表現すること。舞踊の技術を学びつつ、恥じらいや躊躇い、プライドや自分の型などを全て捨て去り、在るがままの自分を曝け出すことが重要なのだとか。
「敵の螺旋忍軍は、道化師のような格好をした男が一人と、サーカス団にいそうな踊り子風の女が一人ずつだな。それぞれナイフを武器に使うが、得意な間合いが違うようだ」
 道化師風の男が得意なのはジャグリング。大振りのナイフを十字の形に組み合わせ、螺旋手裏剣の如く投げ付けて来る。
 一方、踊り子風の女が得意なのは、やはり舞踊。両手に持った惨殺ナイフで、踊るように敵を斬り刻む攻撃を得意とする。
「螺旋忍軍が現れるのは、被害者の女性が練習用に使っている施設になる。囮になることに成功すれば、螺旋忍軍に技術を教える修行と称して、有利な状態で戦闘を始めることも可能だぞ」
 状況と作戦次第では、敵を分断したり、一方的に先制攻撃を加えることも可能だろう。その辺りは、よく考えて作戦を練って欲しいと、クロートはケルベロス達に念を押し。
「バタフライエフェクトというのは聞いたことがあるが、それを使いこなす敵は厄介だな。だが……最初の蝶の羽ばたきさえ止めてしまえば、問題は無い」
 つまり、やることはいつもと同じ。ただ、少しばかり趣向を凝らす必要があるだけで。
 最後にそれだけ言って、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
烏夜小路・華檻(夜を纏う・e00420)
天尊・日仙丸(通販忍者・e00955)
巫・縁(魂の亡失者・e01047)
ファン・バオロン(終身譲路不枉百歩・e01390)
山田・ビート(コスプレ刀剣士・e05625)
シャイン・ルーヴェン(月虹の欠片・e07123)
マサヨシ・ストフム(蒼炎拳闘竜・e08872)
ティリクティア・リーズ(甘味大魔王なエルフ・e23510)

■リプレイ

●心の解放
 練習場の扉を開けると、そこには思ったよりも殺風景な部屋が広がっていた。
「こちらが、私の使っている練習場になります。本当に、何もないところなんですけど……」
 そう言って、レオタード姿のサキュバスの女性がケルベロス達を中へと通した。
 ダンスセラピスト、荒木・美香。数日後に襲撃を控えているにしては、随分と落ち着いた雰囲気を醸し出している。人の心と触れ合うことを生業としているだけに、自らの心を制御する術もまた持ち合わせているのだろうか。
「大丈夫、なんとかなります」
 山田・ビート(コスプレ刀剣士・e05625)が必要な機材を運び込む中、マサヨシ・ストフム(蒼炎拳闘竜・e08872)もまた、部屋の防音設備を増強しつつ、使わない場所を一時的に封印していた。
「まぁ、ダンスよりかは大工の方が似合ってるな」
 どことなく自嘲気味な笑みを浮かべ、マサヨシは美香の周りに集まる他の仲間達の方へと目をやった。見れば、部屋の中央に集まって、早速指導を受けているようだ。
「こんにちは! 貴方のダンス、私たちに教えて!」
 威勢の良い挨拶一番、ティリクティア・リーズ(甘味大魔王なエルフ・e23510)は待ち切れない様子で美香にダンスの指導を願った。舞踊の経験はあるが、自分の知らないジャンルにも興味がある。
「ええ、いいわよ。それじゃ……まずは、模範演技を見せてあげるわね」
 優しく微笑み、美香がそっとラジカセのスイッチへと手を伸ばした。途端に流れ出す激しいビート。セラピーというからには穏やかなクラシックでも使うのかと思っていたが、これはのっけから予想外だ。
「すごいわ! すごく素敵! 私も貴方のように踊りたい!」
 煽情的な美香の動きに、早くもティリクティアは魅せられ始めていた。
 この、心から湧き上がる感動を現したい。それを伝えるためには、どのように踊るべきなのか。自分の気持ちを身体の動きに投影する。気が付けば、そのことだけに意識を集中させられていた。
「あら、あなたはダンスの筋も良さそうね。でも、まだ少しだけ身体が固いわ。どんな風に踊ればいいのかなんて、頭で考えちゃ駄目。もっと、自分の内から湧き上がる、本能に従って踊りなさい」
 一瞬、踊る仕草を止めて、美香が穏やかな口調でティリクティアに告げた。その言葉の端々にさえ惹かれるものを感じさせるのは、やはり美香のプロとしての成せる業なのだろう。
「恥じらいや躊躇いを捨てることはさほど難しくありませんが、自分の型を捨てつつ舞踏の技術を捨てず……と言うのは難しいですわね。最終的には無心になって、ただ身体と心の赴くままに踊るのが良いのでしょうか?」
 口で言うほど容易いことではないと悟り、烏夜小路・華檻(夜を纏う・e00420)が美香に尋ねた。型に拘らないのは良いが、それで技術まで見失ってしまっては本末転倒。舞踊の経験があるからといって、それに固執することは、却って習得を遅らせることに繋がり兼ねない。
「そうねぇ……半分は正解だけど、まだ少し足りないかしら?」
 悪戯っぽい笑みを浮かべ、美香がケルベロス達の顔を見回して言った。
 彼女曰く、ダンスセラピーは、あくまで他人の心を『開かせる』ための舞踊。より解り易く言うならば、単に魅せるだけでなく、相手にも『一緒に踊りたい』と思わせられなければ駄目なのだと。
「観客の心に響く舞踊技術を、更に高められればと思っていたが……自分を魅せるだけでなく、同じ舞台を共有したいと思わせるということか」
「やはり、過去に私が積んで来た精神修養とは、異なる切り口で学べる点が多そうだ。実に興味深い……」
 シャイン・ルーヴェン(月虹の欠片・e07123)とファン・バオロン(終身譲路不枉百歩・e01390)の二人が、自分に言い聞かせるようにして呟いた。
 虜にするだけでなく、目指すはその先にあるところ。踊り手と観客という壁さえも取り払い、互いに精神を解放する。単に舞踊の技術の優劣だけでは決まらない難しさが、ダンスセラピーの奥深さ。
「しかし、悩んでいても始まらない。経験も技術もない身ではあるが、既存の概念を砕いてでも習得できるものは習得せねばな」
「まあ、焦っても仕方ないでござるよ。ここはひとつ、基礎からじっくり学ばせてもらうとするでござる」
 巫・縁(魂の亡失者・e01047)の言葉に、天尊・日仙丸(通販忍者・e00955)が落ち着いた口調で返した。大切なのは、相手に共感する心。それを手足の指先にまで伝わらせ、思うがままに表現することこそが、最良の近道なのだから。

●望まぬ来訪者
 練習場に来客があったのは、それから3日後のことだった。
「すみません。こちらで、ダンスセラピーとやらの指導を受けられると聞いたのですが……」
 現れたのは平服姿の、どこにでもいそうな一組の男女。なるほど、これなら美香にも怪しまれずに接触できる。だが、彼女の目は誤魔化せても、ケルベロス達の目は誤魔化せない。
「ようこそ、いらっしゃいました。では、こちらへどうぞ」
 何食わぬ顔で華檻が男女を練習場へと通すが、内心では一時の油断もしていなかった。そのまま奥へ通し、二人に軽い指導を行ったところで、今度はシャインが女の方へと歩み寄り告げた。
「そちらの彼女は、なかなか筋がいいな。個別指導で、よりレベルの高い技術を教えよう」
 予定通り、女の方を別室へと誘導する。先の簡単な指導で、こちらの技量を見極めたのだろうか。
 何ら疑問を抱くことなく、女はシャインに言われるままに、練習場を後にした。その奥底には邪な野望を隠しているのかもしれないが、しかし本音を告げていないというのはこちらも同じ。
 残る男へ指導を再開するケルベロス達。だが、その時間は決して長くは続かなかった。
「焼け付く炎を刃に纏え! 霊刀解放!!」
 裏方に徹していたビートが、唐突に刃を抜いて後ろから斬り掛かったのだ。
「……っ! な、なにをするのですか、いきなり!?」
 さすがに、これは敵の男も面喰ったようだった。が、折角の機会を無駄にするような、中途半端な情は持ち合わせていない。
「不意打ちで卑怯と思うだろうがこちらも必死なのでね。ここで荒木さんを襲わせると何が起こるかわからない。必ずアナタ達を止めます!」
 鬼神の力の残滓が漂う刃を突き付け、宣戦布告するビート。無論、これも作戦の内だ。敵の気を彼が引き付けている間に、今度はマサヨシが後ろから男を蹴り飛ばした。
「ぐっ……! この威力……この感触……。さては、貴様達……!」
 己の身が削られているのを感じ、男もこちらの思惑と存在が何なのかを悟ったようだ。
 デウスエクスは、グラビティでしかダメージを受けない。人に近い姿をしている螺旋忍軍とて、その例外に漏れることはない。
 瞬間、彼が衣服を脱ぎ捨て高々と放り投げると、その姿はナイフを持った仮面の道化師へと変わった。が、そこで攻撃の手を休める程、ケルベロス達も御人好しではなかった。
「騙して悪いでござるが、撤退は許可できぬでござるよ。お主はここで果てるのでござる」
 卑怯なのはお互い様だ。そう結んで日仙丸が掌底を叩き込んだのが攻撃の合図。敵に体勢を整えさせることさえもせず、情け無用の集中砲火!
「貴様と遊んでいる暇はない。悪いが、速攻で仕留めさせてもらうぞ」
 ファンの振るった鉄球状のハンマーが、直撃と同時に男の身体を凍らせる。続けて、オルトロスのアマツが擦れ違い様に男の脛を斬り付けたところで、縁が瞬時に間合いを詰めた。
「……なっ! この私が、こうも簡単に懐を!?」
 驚愕する男だったが、奇襲を絡めれば造作もないことだ。見れば、縁の拳はいつの間にか銀色の鋼に覆われて、その先を鋭く変形させていた。
「この拳で……貫く!」
 狙うべきは、相手の鳩尾。そこを寸分狂わず貫いて、すかさず抜き放ち、距離を取る。堪らず、膝を突いた男だったが、その背後から迫るのはティリクティアと華檻。
「あなた達に、荒木さんは殺させない!」
「さあ、あなたも全身の力を抜いて、死の悦楽へ身を委ねるといいですわ」
 示し合わせたように、男の身体に痛烈な掌の一撃を叩き込む。道化師の衣装が破れ、広がる霊力に身体を捕縛され、男の身体が練習場の端にまで吹き飛んだ。
「お、おのれ……。格なる上は、貴様達を始末し、その技術を……」
 懐から取り出したナイフを十字の型に組んで、男はケルベロス達に投げ付けて来る。空中で分裂した刃が驟雨の如く降り注ぐが、しかしその威力は思いの外に低い。
 前衛過多とも思える陣形。それが逆に、広範囲への攻撃を拡散させ、個々人へのダメージの低減へと繋がっていた。長期戦においては不利の否めない戦い方だが、短期決戦を考えている者達にとっては、さしたる問題でもないのだろう。
 再び繰り出される刃と拳。男も果敢に応戦するが、今の状況では多勢に無勢。
「魂すら残さない極炎の中で――滅べ!」
 その身に宿した怒りと憎悪。それを自らの炎に乗せて、マサヨシが男へと叩き込む。放たれた蒼炎は主の制御さえも受け付けず、ただひたすらに、敵を屠るだけの魔炎と化す。
「ぐぁぁぁっ! おのれ、口惜しやぁぁぁっ!!」
 燃え盛る火炎に飲み込まれ、男の身体はそのまま虚空へと消え去った。後には灰の欠片さえも残らない。地獄の業火が消えると共に、かつて男だった者の痕跡もまた、練習場から消滅していた。

●華麗なる戦舞
 個室に流れる軽快なリズム。女の方を誘い出したシャインは、何食わぬ顔で舞踊の指導を続けていた。
「やはり、飲み込みが早いな。もしかして、どこかで経験でも……」
 だが、そんな彼女の問い掛けは、唐突に繰り出された鋭い刃の一撃によって遮られた。
「……っ!?」
「惜シイ……。モウ少シデ、急所ヲ貫ケタノニ……」
 片言の口調で、女がナイフ片手に言った。見れば、彼女の姿はいつしか踊り子風のそれに代わり、表情から笑顔も消えていた。
「アナタノ踊リ、全部、覚エタ。ダカラ、モウ用済ミ……」
 それだけ告げて、女は問答無用でシャインに襲い掛かって来た。相方の男と違い、彼女の得意なのもまた舞踊。故に、こちらの指導から技術を盗むこともまた容易かったのだろう。
(「拙いな……。このまま一人で戦っても、勝機は……」)
 歯噛みするシャイン。こんなことなら女を先に倒し、男の方を足止めしておいた方が賢明だったか。が、しかし、今さら部屋から逃げ出そうにも、敵もまた逃走を許すほど間抜けでもない。
 流れるように繰り出される斬撃の雨が、容赦なくシャインへと降り注いできた。対するシャインも懸命に応戦はするものの、個々の力では敵の方が数段上手。
 成す術もなく追い詰められたシャインに止めを刺すべく、女が舞いながら間合いを詰める。それは、さながら死の舞踊。だが、しかし、絶体絶命の彼女の身体を、二振りの刃が斬り裂くことはなく。
「甘いなァ……とてもダンスを習いに来たヤツのキレじゃねぇなァ!!」
 その身で刃を受け止めながら、マサヨシがにやりと笑って言った。危機一髪、男を倒した面々が、シャインの窮地に駆け付けたのだ。
「なんとか間に合いましたね。このまま押し切りましょう!」
 雷の霊力を帯びた日本刀で、ビートが女のナイフと切り結ぶ。そのまま相手を強引に部屋の奥へと押し込むと、その隙に日仙丸がシャインの身体へ癒しの螺旋を注ぎ込む。
「大丈夫でござるか? さあ、螺旋の加護をここに!」
 これで流れは完全にケルベロス達の方へと傾いた。それでも、女は未だ諦めずに突破口を開こうとするが、そこはティリクティアがさせなかった。
「逃がさない! そこね!」
 相手の動きから軌道を読み、半透明の御業から炎弾を放つ。敵の挙動から動きを察せたのも、美香の技術を学んだことが、少しは影響しているのだろうか。
「クゥッ! 邪魔ヲ、スルナ!」
 それでも、身を包む炎を気にも留めず、女は強引に包囲網の突破を試みる。が、繰り出されたナイフの切っ先は、ファンの放った鋭い蹴りによって受け止められていた。
「その程度か? 表層の型のみを学び、それで全てを習得したつもりでいるとは……笑止!」
 拮抗する力。瞬間、それを敢えて抜いたことで相手のバランスを崩させ、すかさず身体を反転させて蹴りを叩き込む。脇腹に真横から踵が決まったことで、何かの折れるような音がして女が呻いた。
「さあ……わたくしと楽しい事、致しましょう……♪」
 吹き飛ばされた女の身体を受け止め、華檻が不敵な笑みを浮かべる。そのまま敵の頭を胸元に抱き締めると、しっかりと両手で押さえ、強引に回し。
「……カハッ!!」
 あらぬ方向へと首が捻れ、敵の女が膝を突く。もっとも、敵は人知を超えた存在、デウスエクス。ここまで肉体を破壊されても死なないのは、むしろさすがと言うべきか。
「見た目によらず、タフなことだ、ならば……一は花弁、百は華、散り逝く前に我が嵐で咲き乱れよ。百華ーー龍嵐!」
 未だ倒れぬ踊り子風の女を、縁が鉄塊剣の強引な一撃でカチ上げた。そのまま空中で、舞って散れ。その想いを受け取ったかのようにして、敵の落下してくる場所に構えるのはシャイン。
「舞踊に必要なもの……観客の心を動かし、感動と心を解放すること。その為に、己の情動の全てを曝け出し踊る……それが『魅せる』ということ」
 残念ながら、単に手足を動かしているだけでは、その極みに到達することなどできない。小手先の技術を盗んだ程度で全てを学んだ気になっているなど、傲慢に等しい行いであると告げ。
「さて……ラストダンスだ。私と共に……」
 受け身さえ取れぬ女の身体に、情け容赦のない乱舞攻撃を叩き込む。逝く前に、舞踊の神髄の片鱗を知れ。軽いステップとは裏腹に、恐ろしく重い一撃が、波の如く押し寄せ、斬り払い。
「……ソ……ンナ……」
 信じられない。仮面の奥で驚愕の言葉を述べ、それが螺旋忍軍の女の断末魔となった。
「楽しめたな……」
 苦笑しつつ、シャインは二振りの刃を鞘に納める。敵の目的を阻止できたことで、他の者達も改めて、安堵の溜息を吐き武器を降ろした。
「とりあえず、一件落着ですね」
「うむ、犠牲が出なくてなによりでござるよ」
 ビートの言葉に、頷く日仙丸。身を隠してもらっている美香には、改めて作戦の成功を告げに行くとしようか。
「肉体を動かすと同時に、己だけでなく他者の精神をも解き放つ術、か……。できることなら、今後も定期的に学ばせてもらいたいものだ」
「それに、荒木さんには、これからも頑張って欲しいしね」
 ダンスセラピーの奥深さ。それを知ったファンとティリクティアにとっても、今回の一件は良い刺激となったようである。そんな中、華檻もまた事件の裏に潜むミス・バタフライへ、浅からぬ宿縁を感じていた。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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