校長先生の生徒改造計画

作者:鹿崎シーカー

 夏休みの登校日。体育館に整列させられた生徒たちは、口々に不満を漏らしていた。
「暑いよー」
「校長先生のお話ってなにー?」
 ざわざわと騒ぐ生徒たち。彼らを呼び出した校長はステージに上がるとマイクを手にした。
「えー、みなさん、夏休みはいかがお過ごしでしょうか。突然ですが、みなさんに残念なお知らせがあります」
 突然異様な音が響く。生徒たちが振り向くと、体育館の扉は、いつの間にか頑丈そうな金属に覆われていた。
 異様な状況に、生徒はぽかんとする。その背中を見ながら、校長は言った。
「夏休みは、今日でおしまいです。今日からみなさんはアンドロイドとして、我々のために働いてもらいます」

「来ていただいたばっかりで申し訳ないんすが、さっそく事件っす」
 ヘリオライダーの黒瀬・ダンテは固い表情で口を開いた。
 校長のふりをして学校に潜入していたダモクレスが、新潟県某所にある小学校の体育館に、生徒と教師、合わせて80人を閉じ込めてしまうというのだ。
「ダモクレスは、夏休みに登校していた生徒と教師全員を体育館に集めて、みんなに改造手術をするっす。このままだと、みんなアンドロイドにされてしまうっす」
 そうなる前にダモクレスを倒し、囚われた人々を救出しなければならない。
 ダモクレスは人型のアンドロイドで、バスターライフルを装備している。
 戦闘時には人々を捕えたカプセルを守ることを優先し、体育館からは出ない。
「体育館の出入り口は、塞がれた正面の扉だけっす。扉を破壊して入るか、窓から入るかはお任せするっす」
 また、中は壁際に捕えた生徒を入れたカプセルが並んでいることを差し引いても、かなりの広さがある。
「あ、それと、ダモクレスはカプセルを攻撃しないっすが、カプセルを放っておくと生徒たちはダモクレスとなって出てくるかもしれないっす」
 そうなる前にダモクレスを倒すか、先に解放する必要がある。
 もし救助を優先するなら、避難経路も考えておこう。
 一通り説明を聞き終えた小野寺・蜜姫は、眉間にしわを寄せた。
「80人をたった一体で捕まえるなんて……自信家ね」
「ええ。こんなことを一体で実行するようなやつだから、きっと強いはずっすよ。でも、みなさんなら、絶対倒せるはずっす」
 こくこくと頷くダンテ。少し不安そうな彼をはげますように、蜜姫はぐっと拳を握りしめた。
「もちろんよ! みんなでダモクレスをやっつけて、捕まった人たちを助けましょう!」


参加者
小日向・ハクィルゥ(はらぺこオートマトン・e00338)
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
ジャミラ・ロサ(はぐれメイド看護兵・e00725)
月影・木ノ葉(噴射鉄拳・e00848)
貴石・連(砂礫降る・e01343)
シェリン・リトルモア(癒やしの盾・e02697)
泉・星流(地球人の鹵獲術士・e09405)

■リプレイ

●野望をくじきに
 新潟県某所にある小学校、そこにある体育館は、物々しい雰囲気で満たされていた。
 壁際にずらりと並べられた巨大なカプセルを見まわし、校長……否、校長に化けていたアンドロイドは、無感動につぶやいた。
「経過は順調。これならじきに作戦が始められる……」
 全ては大いなる野望のために。そう思ったところで、校長の耳が何かを察知した。
 誰かが、小声で何か言っている。金属で覆い、封鎖した扉の向こうで……。
「1……2の……3! 今です!」
「了解です!い、いきます!空間魔法陣-雷胴-展開!」
 突如、扉がど真ん中からへこみ、ばごぉん!! という音とともに、吹き飛んだ。
 扉は校長の頭上をこえ、ステージ上の演壇を巻きこんで壁に激突した。
「何者だ」
 巨大な銃を取り出す校長に向かって、ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)はぶんと斧を振り、さけんだ。
「我が名はジョルディ・クレイグ! 幼子を狙う外道を倒しにここへ来た! 我が嘴を以て…貴様を破断する!」
「ほう。ならばやってみるがいい」
 校長はおもむろに引き金を引いた。巨大な銃口から太い光線が噴き出し、まっすぐに伸びる。だが。
「はっ!」
 必殺の威力を持つ一撃に向かって、泉・星流(地球人の鹵獲術士・e09405)は魔法の矢を叩き込んだ。光線が拡散したスキをついて、ジョルディと月影・木ノ葉(噴射鉄拳・e00848)は全力で走りだした。
「シェリンさん、星流さん! そっちは任せましたよ!」
「了解した!」
「は、はいぃ!」
 木ノ葉の声に、星流とシェリン・リトルモア(癒やしの盾・e02697)が返事を返す。
 別々の方向に走り出した四人を不審に思いながらも、校長は再度引き金を引こうとする。瞬間、ギィンギィン! と甲高い音を立て、銃口が明後日の方に向けられた。
 レーザーは何もない空間を突き抜け、体育館の一部を破壊するにとどまった。
「武器破壊、失敗しました」
「ま、攻撃は逸らせたし、結果オーライでありますよ、ハクちゃん」
 キャットウォークの上で、小日向・ハクィルゥ(はらぺこオートマトン・e00338)とジャミラ・ロサ(はぐれメイド看護兵・e00725)がじゃきっと銃を鳴らす。それと同時に、校長を挟むような形で、貴石・連(砂礫降る・e01343)とパール・ワールドエンド(界竜・e05027)が体育館に降り立った。
「工場見学にしては、マナーがなっていなのではないかね」
「デウスエクスに、マナーなんて説かれたくないわ」
 ぴしゃりと言い捨て、連はこぶしを握る。
「さあ、始めましょ。デウスエクスの悪行、ケルベロスが見逃すとは思わないで」

●救出作戦
 ズキュン、と空気を鳴らし、レーザーが木ノ葉を狙う。
 避ければカプセルに当たる位置。しかし、レーザーはギリギリのところで星流の矢に撃ち落とされた。
「すっ、すみません!」
「いや、いいよ。全く、油断もスキもない」
 話をするひまも惜しいとばかりに、がしゃこがしゃことカプセルを開いていく二人。救援に来たケイトやノル、ドリーにアリスを始めとした面々とともに、どんどん開いていく。そんなケルベロスたちに校長は銃を向けるのだが……パールの炎の拳に打たれ、体勢を崩してしまう。
「……♪」
「きゃははははは!」
 ガントレットを腹話術のように動かしながら、パールはぴょんぴょん遠ざかる。攻撃のスキを突かれた校長に、銃弾が雨あられと打ち込まれ、さらには周囲が爆炎に包まれる。
「ぐむぅ……」
「どうしたの? 攻撃の手がにぶってるわよ」
 一気に接近していた連が、校長の腹部に蹴りを放つ。ボールのように飛んでいった校長を、パールが同じように蹴りつけた。
 背後での戦闘を気にしつつ、木ノ葉はどんどんカプセルを開いていく。
「向こうはうまくいってるみたいですね」
「みたいだね……こっちもさっさと終わらせて、早くみんなと合流しよう」
「星流殿の言う通りよ。我とてあれだけのタンカを切ったのだ。あの外道に一撃与えなければ気が済まぬ」
 文字通り集中砲火を加えるハクィルゥとジャミラ、その合間をぬって拳や蹴りを入れる連とパール。さらに校長はカプセルが気になって攻撃がしづらいようだ。さっきのような攻撃にさえ気をつければ、救出はうまくいく。あとは、スピードと、子供たちの避難が問題だ。
「早く、早くあの人たちを見つけない、と……!」
 やや焦りながらも、木ノ葉はカプセルを開く。そして。
「いた……いました! 先生がいました!」
 救出した子供たちよりも、明らかに年上の女性を引っ張り出す。直後、その体にシェリンは少し強引な緊急手術をほどこした。
 教師は苦しげに顔をゆがめたが、すぐに目を覚ます。蜜姫のオーラに魅了された女性教師は、てきぱきとした動作で生徒たちを誘導しはじめた。
 これで少しは……。ほぼ開ききったカプセルを見て、救助に当たっていた面々は胸をなでおろす。
 だが。
「みんな、危ないっ!」
 連が悲鳴じみた声を上げた瞬間、体育館が揺れた。
「やってくれたな、虫けら共め」
 地震のように揺らぐ中、校長はあくまでも無表情に言った。
 棒読みに近い恨み言を口にする彼の体は、あちこちがひび割れ、受けたダメージの大きさを物語っている。それでも表情ひとつ変えないために、かなり不気味だ。
 それと、さっきとは違うところがもう一つ。
「貴様らが来た時点で、こうしておけばよかったのだ」
 そう言って校長は、出現させた二丁目の銃を持ち上げた。

●鉄の悪意を打ち砕け
 天井の一部が崩れ落ちる。
 巨大な照明をくっつけたそれは、パールの近くに落下した。
「……!」
「ちょっとちょっと、あぶないじゃないのさー!」
 パールは両手をぴこぴこ動かして抗議するが、校長は頬をぴくりとも動かさずに言った。
「もうすでに……いや、貴様らが来たときから、こうするべきだったのだ。だが、こうなってしまった以上、ここはもう使えん。外のなり損ない共々、貴様らを始末せねばならん」
「どこまでも外道だな、貴様は!」
 叫ぶと同時に、ジョルディは飛びあがった。両手に持った斧を、校長の頭部に向けて振り下ろすが、校長は銃をクロスさせて防御する。激突の衝撃で、地面が揺れる。
「まずい、これじゃあ先に体育館が崩れる!」
「任せてください!」
 星流の叫びに合わせて、シェリンは桃色の霧を噴出する。
 崩壊寸前の建物が、まるでビデオの逆再生のように元の形に戻っていく。
「シェリンさん、ナイスです!」
「長くはもちません! 行ってください!」
「Yes,Sir! やるでありますよ、ハクちゃん!」
「了解。攻勢に出ます……システムチェンジ、モード・アクィラ起動。突貫します、周囲の味方は巻き込まれないよう退避を推奨致します」
 早口で唱えた瞬間、ハクィルゥは風になった。
 白い翼が刃に代わり、ジョルディとせり合う校長の腕を斬り飛ばす。
 置き去りにされた風が、ワンテンポ遅れて校長の体をさらに切り刻んだ。
「ぐゥ、おオ…!」
 ノイズ混じりにうめく校長。関節部がきしみ、火花を散らす。
 体勢が傾いたそれに向かって、ジャミラと星流は銃口を向けた。
「さぁて、ちょっと遅れちゃったでありますが、こっちもぶっ放すとするでありますよ」
「つきあうよ」
「Yes,Sir! 対象を認識……全兵装のリミッターを解除……照準を固定……鎮圧、開始。無限の硝煙と弾幕の流れの中で溺れてください」
「一発必中…一撃必殺!!!!」
 ジャミラの全身に仕込まれた火器と星流のリボルバーが、同時に火を噴いた。
 銃弾の嵐と重なる爆撃。戦争を一か所に凝縮したような鉄と火の暴風雨を、必殺の弾丸が貫いていく。そんな圧倒的な破壊に向かって、連はなんの迷いもなく走り出す。
「なななナナなメメるなヨぉオォおこノ、むむむ虫けラどどどモがァ」
「ダモクレス、人間の力を教えてあげる!」
 煙の奥から、校長が壊れたラジオのような声を上げる。最後の力を振り絞っているのだろうか、巨大な銃がさっきよりも強く輝く。
「ほろォオぉぉォぶェえええぇぇエエエエエ!」
 耳ざわりな絶叫とともに、巨大な光線が発射される。
 大人が三人ほど、すっぽり入ってしまいそうなほど大きな光を前に、連はこぶしを振りかぶる。
「我が前に塞がりしもの、地の呪いをその身に受けよ!」
 白銀の一撃が、閃光と真っ向からぶつかった。
 互角なのは数秒間。先に限界を迎えたのは、連の方だった。
 結晶化したこぶしが、音を立ててひび割れる。
 大技を繰り出した後だからか、キャットウォークの二人やハクィルゥも、援護できずにうずくまっていた。
「つブれロ! ツブレろォォォォ!」
 あちこち壊れかけたせいか、奇声をあげるアンドロイドは気づけなかった。
 体育館を満たしていた桃色の霧が、きれいに消えていたことに。
「空間魔法陣-雷胴-展開!さぁ響かせますよ……!」
 おされる連の背後で、シェリンは魔法陣を展開する。両手に持ったバチをひらめかせ、魔法陣にたたきつけた。
「ダン!」
 一撃目。雷が光に刺さる。
「ダカ!」
 二撃目。光が少し後退する。
「ダァン!!」
 三撃目。白銀のこぶしが光をかき消し、雷が輝きを失った銃をはね飛ばした。
「ァ……アァ……」
 残った腕ごと空中で爆発した銃の残骸を、校長はうつろな目で見つめていたが、ジョルディに首をつかまれ、ぶら下がる格好となった。
「わわワわヮ、我れれレレッ……ヤボォッ、ツ……えヌ……!」
「いいや、終わりだ。子供達の悲しみと苦しみ…その身に刻め! 外道! Raging Fist!」
 ジョルディの鉄拳が校長の胸を貫く。その手ににぎったコアを、容赦なくにぎり潰した。
「Break!」
 地獄化を解いた手から、ぱらぱらとコアの破片がこぼれる。
 ふう、と一息つくジョルディは、ふと気づく。なんだか、皆の顔が青ざめているような……。
「ジョルディさん、後ろ……」
「後ろ? 後ろがどうしたというのだ」
 木ノ葉に指さされて振り返ると、そこにはニタァッ、と楽しそうに笑うパールの姿が。
「……♪」
「たべていーい? ねえ、それたべていーい?」
「ちょっと待ってくれパール殿。……何をする気だ?」
 パールは無言で左腕を持ち上げると、小声でなにかつぶやき始めた。
「くらうは【わたし】 のまれるは【あなた】 【あなた】というなのそのせかい やみでおおって あますことなく くいつくせ」
「おい待ってくれ! 食べるのはいいが少し待ってくれ! 腕がぬけな……」
 その場にいた全員の顔から、さっと血の気が失せる。パールは、周りの様子など気にせず、左手にできたアゴを開いた。
『ジョルディさーん!?』
「ミスタークレーイグ!」
 全員が同時にさけんだ直後。
 ごきゃばきぐきゃあっ! と聞くも無残な音が響いた。

●黄昏時に
「ハクちゃん、おなかが空いたでありましょう? どうです、本機の店にて食事でも。今日はおごりであります」
「おかわりは可能ですか?」
 関節から蒸気を出しながら、ハクィルゥは首を傾げる。その背に向かって、連は声をかけた。
「あ、それなら、みんなで打ち上げなんてどう? 近くのカフェでさ」
「おかわりは可能ですか?」
「それはまぁいいんだけど……た、助けてぇ!」
「はい、動かないでください、連さん。治療が終わりませんよ」
 シェリンが連の腕をがっちり捕まえ、割れたこぶしを治していく。魔術切開とショック打撃を使う荒っぽい手術に、連は悲鳴を上げた。
「暴れないでくださーい? 僕、この後体育館のヒールしなくちゃいけないんですから。新学期から、笑ってここを使えるように」
「じゃあそっち優先していいよ!」
「だーめ。光線殴るなんて無茶しちゃってもう……」
 連の悲痛な悲鳴をよそに、星流は走り回る子供たちを眺める。
 なんとか無事だった腕を振り回すジョルディと、ときどき何かを探すようにしながらジョルディと子供たちから逃げるパール。事件の被害を感じさせない元気っぷりを見せる子供たちが、懐かしい面影と重なった。
「生きていたら……今年で小学校卒業って歳か……」
「ん? 誰がです?」
「いや……なんでもない」
 ぽつりと出たつぶやきに、木ノ葉は首を傾げる。木ノ葉自身を模したヒールドローンを操りつつ星流の横顔を見てみるが、それ以上、星流はなにも言わなかった。
 沈みかけた夕日が、戦いの跡を優しく照らす。
 明日はきっと、晴れるに違いなかった。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年9月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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