闇夜の水着は輝いて

作者:秋月きり

 深夜零時の海水浴場。夏も終わりに近付いた海岸には、その時間帯も相俟って人影は存在しない。
 そんな勝浦の海岸に降り立ったシスターを思わせる容姿のデウスエクス――因縁を喰らうネクロムは共に歩む配下の怪魚に語りかける。
「あら、この場所でケルベロスとデウスエクスが戦いという縁を結んでいたのね。ケルベロスに殺される瞬間、彼女は何を思っていたのかしら?」
 幻視する光景は水着を纏ったドリームイーターが、同じく水着姿のケルベロス達と戦う姿。
 怨嗟、或いは憎悪、或いは恐怖。想像するだけで胸が躍る。死と言う概念を刻み込まれたデウスエクスが最期に抱いた感情をもっと育てて見たい。そう思った。
 だから、彼女は配下の死神に命じる。死したドリームイーターのサルベージを。
「折角だから、貴方達、彼女を回収してくださらない? 何だか素敵なことになりそうですもの」
 微笑みを残し、闇夜に消えていく彼女の命を受け、死神達は空中で遊泳を始めた。
 くるくるくるくると生み出された青白い軌跡はやがて魔法陣を刻み、そして、一体のドリームイーターが魔法陣から出現する。
 鍵を剣の様に携えた水着姿の淑女。そんな外見のドリームイーターはモザイクに覆われた口の端からだらだらと涎を垂らしながら、周囲を一瞥する。モザイク越しの表情から窺う事は難しかったが、それでも、彼女から知性が失われている事は明白だった。
 そして彼女は咆哮した。怨嗟の声は闇夜の海岸に響き渡っていく。

「怪談と海は縁深いものだけども」
 どっちも夏の風物詩だし、と呟くリーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)の表情は渋い。残暑厳しいこの時期とは言え、夏も終わりに近付いている。そろそろ勘弁して欲しい、と言うのが彼女の本音なのだろう。
「貴方達の倒した『水着姿の似合うスタイルの良い存在』を襲う……と言うか、襲おうとしたドリームイーターの事は憶えているかな?」
 彼女の問いに居合わせた御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)はこくりと頷いた。事件そのものは未然に防ぐ事は出来たが、ケルベロス達が自身らを囮にして誘い出すと言う策を講じなければ、更なる犠牲者を生んでいたかも知れない。
「そのドリームイーターが死神にサルベージされたわ。変異強化され、戦力として持ち帰ろうとしている様ね」
 続いた神妙な言葉に、「やはり……」と頷く。その予期はあった。故に白陽はその兆しがないか、調査を進めていたのだった。
 それが杞憂に終わらず、実を結んでしまった事については、複雑な思いに駆られてしまう。
「判った。直ぐに片を付けて来よう」
 頼もしげなその言葉に、リーシャは微笑みを浮かべる。
「死神とドリームイーターの出現場所は千葉県の勝浦にある海水浴場。だけどこの時期の深夜なので、人気は無いわ。人払い等の心配はしなくても大丈夫」
 だから、ドリームイーターと死神を倒す事に専念して欲しい、と告げる。
「ただ、ドリームイーターは変異強化されているから、そこは注意が必要ね。乱戦で対処するか、各個撃破するか、考える必要はあると思う」
 乱戦となれば死神とドリームイーターは連携してくるだろう。各個撃破ならばその順番、そして撃破する迄の間、どのように彼女達を抑えておくかを考える必要がありそうだ。
「抑える事についてはむしろみんなの方が詳しいかな? 生前の彼女は水着姿の似合うスタイルの良い存在からドリームエナジーを奪おうとしていた。それは蘇った今でも変わりない。……強迫観念の如く、ね」
 もしも彼女を引き付けるつもりならば憶えていて欲しい、と告げる。なお、男女を問わない事も、生前と変わらない様だ。
「死神は噛み付いてきたり怨霊弾を放ったりしてくる。下級とは言えデウスエクス。油断は禁物よ」
 その数三体。決して多いとは言えない数だが、甘く見積もれる訳でもない。
「みんなの倒したデウスエクスを蘇らせて更なる悪事を働かせようとする死神の策略は放置出来ない。だから、お願い」
 そうしていつもの通り、彼女はケルベロス達を送り出す。
「いってらっしゃい」


参加者
アギト・ディアブロッサ(終極因子・e00269)
シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)
星野・優輝(戦場は提督の喫茶店マスター・e02256)
阿木島・龍城(翡翠宮の剣英・e03309)
千里・雉華(絶望齎す狂犬・e21087)
アイクル・フォレストハリアー(ラディアントクロスオーバー・e26796)
ジゼル・ガリカ(ツギハギ姫・e28046)

■リプレイ

●夏は名残惜しく
 季節は既に移ろい、海岸を覆う気候も既に秋の色へと変わっていた。
 暦の上では、との言葉もあるが、9月ともなれば完全に秋と言っても差し支えなく。それでも年間を通して漂う潮の香は、残り香の様につきまとう残暑も相俟って、まだ夏への未練を残している様な気がする。
 未練。そう。その未練を断ち切りに自分達は来た。
「死体を動かしたところで、ただの人形遊びに過ぎない」
 腰に下げたベルト型ライトで辺りを照らしながら、アギト・ディアブロッサ(終極因子・e00269)が辛辣な声を上げる。
 因縁浅からぬ宿敵の人形遊びにはそろそろ辟易していた。どのくらいのデウスエクスが彼女に利用され、蘇らせられたのだろうか?
「だとしても、その能力は厄介です」
 白い海軍服を纏った星野・優輝(戦場は提督の喫茶店マスター・e02256)が彼の呟きに応じる。倒した敵を強化し蘇らせるサルベージ能力は、倒した敵が強力になればなる程、ケルベロス達に牙を剥く事になるだろう。今はまだ、対処出来ている。だが、それが何時までとの問いであるならば、残念ながら自分達はその答えを持ち合わせていなかった。
「秋の彼岸はまだですが、ご苦労な事でス」
 眼鏡を押し上げた千里・雉華(絶望齎す狂犬・e21087)は皮肉とも賞賛とも付かない言葉と共に、縁起担ぎのコイントスを行う。手の甲の上、輝くコインさんが示す物は裏。
(「努力次第、でスか」)
 行く先は誰にも見通せない、と言う事だろうか。
「ところで、なんで真夜中の浜辺にも関わらず、水着を着ている者を求めて彷徨くんでしょうね」
 阿木島・龍城(翡翠宮の剣英・e03309)が浮かべた疑問を、リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)は「妄執だな」と答える。
 その彼は先の四人とは違い、黒の競泳水着を身に纏っていた。逞しい半裸がライトの明かりに照らされ、夜闇の中に浮かび上がっている。
 蘇ったデウスエクス――ドリームイーターは生前と同じく、水着姿の似合うスタイルの良い者を狙うと言う。夢を奪い、その夢を叶える為のドリームエナジーを別の人間から奪おうとした妄執は、今や強迫観念の域に達している。それがヘリオライダーの弁だった。
 とは言え、その強迫観念に引き摺られているだけだ。龍城の言う通り、水着の似合う者が抱くドリームエナジーを求めている訳ではない。
 その野望は既にケルベロス達によって挫かれている。つまり、今、サルベージされただけのドリームイーターは。
「死神に無理矢理呼び起こされただけの存在だ。念入りに弔ってやらんとな」
「そうにゃ。あたし達が引導を渡すにゃ」
 リューディガーの言葉に頷きながら、アイクル・フォレストハリアー(ラディアントクロスオーバー・e26796)が胸を張る。正統派アイドルを自称する彼女の身体を覆うのは、清純の証とばかりに輝く白いビキニだった。ドワーフ体型の為、大人への背伸びをしている感も醸すその姿はどことなく物悲しい。夏が終わり、人がいなくなった秋の海水浴場を思わせた。
「……は、恥ずかしい」
 その隣でジゼル・ガリカ(ツギハギ姫・e28046)は自身の身体の線を可能な限り手で隠しながら、羞恥で顔を染めていた。人目を引くグラマラスなスタイルは、薔薇やリボン、フリルにあしらわれたビキニで強調されており、可愛らしさと色気の双方を周囲に伝播している。
 とは言え、周囲にある男性の目は仲間達の物のみだ。邪な視線が無い以上、恥ずかしがっている場合では無いと首を振る。
「いたぞ」
 ワンピース型のAライン水着を纏うシヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)が頭部に装着した光源と共に視線の先を指差す。そのタイミングは、そこに泳ぐ三体の怪魚とドリームイーターがケルベロス達を認めるのとほぼ同じだった。
 きしゃーとの怪音はどちらから零れた威嚇の声だったか。
 ドリームイーターは得物である鍵を、怪魚型の死神は牙を剥き、ケルベロスへ飛び掛かってきた。

●闇夜の水着は輝いて
 鍵が刃の如く夜の闇を切り裂く。そこから放たれた闇に紛れた飛来物を、アイクルの黒曜石を思わせる瞳は捉えていた。
「インプ!」
 ドワーフ特有の暗視が捉えた物は、自身のサーヴァントであるインプレッサターボの車体がモザイクを弾く光景だった。風除けに細かな罅が走るのも構わず、インプレッサターボもまた、威嚇を思わせるエンジン音を響かせる。
「やっぱり判る人には判るにゃ」
「そうでスね」
 にんまりと微笑むアイクルに、雉華が平坦な声で同意を示す。
 水着が似合うスタイルのドリームエナジーを求めるとは、ヘリオライダーの言葉だったか。その中に確か、この文言も含まれていた筈だ。『例え似合っていなくても、似合っていると開き直れば』と。目の前のアイクルがどちらであったかは、彼女を標的としたドリームイーターでなければ判らないだろうが、追求すべきではないと判断した。
「しかし中々シュールな光景ではあるな」
 ドリームイーターに続き、アイクルに殺到する黒色の怨霊弾を叩き落としながら、リューディガーは表情を歪める。
「はん。一丁前に連携か」
 リューディガー同様、得物で怨霊弾を弾いたアギトは皮肉げに鼻を鳴らした。
 怪魚型下級死神に知性は無い。その事を幾度となく彼らと渡り合ったアギトは知っている。その為、彼らがアイクルを集中砲火する行為は、ただの追随に過ぎない。ドリームイーターが狙ったからそれに応じた。それだけの攻撃だ。
 だがそれでも、三度重ねられた死神の攻撃は脅威と言えば脅威だった。
 故にアギトは魔導書を開き、詠唱する。
 紡がれた言葉は呪いとも言える忌むべき力。届かなかった手を、届かせる歪な幻想だった。
「その剣は敵を絶つに敵わず、その鎧は守護には適わず。されど決して守るべきものを背にして屈する事は無い。故に我等は――紅札騎士団」
 飛び出したトランプは力となって、シヴィル、アイクル、ジゼルの三者を包み込む。
 そこにリューディガーが続く。自身の装備した攻性植物から黄金の光を放ち、前衛を務める仲間達を柔らかく照らした。
「さて、手はず通りに連携を崩そうか」
 どこからとも無く取り出した緑縁眼鏡を掛けた優輝の声が冷たく響いた。同時に、彼の召喚した地獄の炎弾が死神の一体に叩き付けられる。
 それが反撃の狼煙となった。
「カジャス流奥義、サン・フレア!」
「ぜぇええええええったいっ! ゆるさに゛ゃああああああいっ! てんっちゅうううううう!」
 シヴィルが召喚した巨大な火球とアイクルの召喚した雷が魚体を焼き、焦げた臭いを周囲に振りまく。雷の轟音に紛れてアイドルに似つかわしくない不穏な声が聞こえた気がしたが、幸い、誰の耳にも届く事は無かった。
「ともあれ、死体損壊の現行犯でス」
 雉華の両手に握られたハンマーが地面に叩き付けられる。その衝撃を起源として引き起こされた大爆発は、焼かれた痛みで身を捩る怪魚達を更に新たなる炎で彩る結果となった。
「来たれ我が刃よ、奔れ光の如く」
 四度に渡る熱量の攻撃に怯む死神へ龍城が肉薄する。己の翼を展開し、地面すれすれを滑空した彼は、手の中に召喚した太刀を居合いの如く抜刀。翻る紺碧の刃が切り裂いた物はしかし、死神の身体ではなかった。
 かしゃりと納刀の音が響く。同時に切り裂かれた空間そのものが、その亀裂を閉じようと収縮を始める。――その中心に浮かぶ死神を巻き込んで。
 ぐしゃりと肉が潰れる音が辺りに響き渡った。
「ええいっ! やってやる!」
 仲間の闘志に後押しされ、羞恥の表情から一転、裂帛の気合いをジゼルが放つ。気合いは炎となって度重なる攻撃に傷付く怪魚を吹き飛ばした。同時に誇らしげに突き出された胸がふるんと柔らかく揺れる。
 そう、今は恥ずかしがっている場合じゃない。囮になると決め、水着姿になる事を選んだ。未だ頬の熱は取れないが、戦いへの高揚感と置き換える事にする。
「さぁ。掛かってきな!」
 地獄と闘気を身に纏い、自身を手で扇いで挑発する。反応したドリームイーターの手の中で、かしゃりと鍵が金属音を響かせた。 

●夏の夢の残滓
 ライトで照らされた闇夜の中で、モザイクが弾ける。刃と化したそれはジゼルの身体を切り裂くものの、唇を噛んでそれを無視。代わりに投擲した大鎌の一撃は、怨霊弾を召喚する死神を切り裂き、その魚体を光の粒子へと転じさせていた。
「まずは一体目」
 身体に走る裂傷は切り裂かれた水着毎、シヴィルの詠唱によって治癒される。幾度となく放たれたモザイクも怨霊弾も自身の身体を蝕んでいたが、それでもまだ戦える。
「だ、だるいにゃ」
 受けた傷を闘気で塞ぎながら、アイクルもまた、荒い息を吐きながら、疲れを意味する言葉を口にしていた。
 ドリームイーターの攻撃を後衛で引き付ける。ケルベロス達が選んだその戦法は、彼らの思惑通り、効果を発していた。水着の似合う者を優先すると言う意志に縛られたドリームイーターは元より、死神達もまた、彼女を追って、同じ人物へ執拗に攻撃を繰り出していたからだ。
 誤算があったとすればケルベロス達の予想以上に、アイクルとジゼルの両名に攻撃が集中してしまった事だろう。同じく水着を纏うシヴィルとリューディガーに魅力が無いと言う訳ではない。ドワーフと地球人の少女二人から沸き上がる自信にも似た己の誇示が、ドリームイーターの狙うべきドリームエナジーに適合しただけだ。
「にゃっ?!」
 再び飛んできたモザイク片を前に、アイクルが猫の様な悲鳴を上げる。だが、その一撃は彼女に届かない。横から突き出された砲塔がそれを叩き落とされたのだ。
「狙いが集中している分、守る方は楽ではあるが」
 砲身を突き出しながら零すアギトの感想も誤りではない。それに伴う防御も回復も、狙いが集中しているのであれば最小限の手数に絞る事が出来た。しかし、彼やリューディガー、インプレッサターボの防御、或いはシヴィルの回復が必ずしも間に合う訳ではない事は、二人の少女に刻まれた外傷が物語っていた。
 だが、外傷を負っているのは死神も同様である。ケルベロス達による猛攻に晒され、動きに精彩を欠き始めたそれらは、既に終局が見えている様でもあった。
「お陰で、俺達が自由に動けている」
 謝罪とも感謝とも取れる言葉を唇に乗せ、優輝は詠唱を紡いだ。炎と氷の魔力が弾けながら彼のドラゴニックハンマーを覆い、必殺の一撃を完成させる。
「聡明と無垢の槍」
 弾かれる様に放出された無は投擲槍の如く、死神の魚体を貫いた。空中で縫い止められたそれは二、三度、ぴくぴくと痙攣をした後に光の粒子と化して霧散する。
 彼女たちに攻撃が集中したからこそ、攻撃の担い手である彼らは自由に動き回れている。そのアドバンテージは勝利をケルベロス達にもたらすのに充分であった。
「彼女たちは勝利の女神って処かな」
 龍城は軽口と共に人懐っこい笑みを浮かべ、竜の爪を振るう。鱗を切り裂かれた死神から悲鳴じみた声が零れた。
「フリーズ。逃がしまセん」
 畳み掛ける雉華は研ぎ澄まされた繋命の一撃を以て死神を貫く。竜の爪とオウガメタルの拳に刻まれた死神が叩き付けられたのは夜の海。派手な水飛沫が舞い、ぱらぱらと砂浜に海水が降り注ぐ。
 それが死神の最期だった。二度とその魚身が浮かび上がる事は無かった。
 そして、ドリームイーターもまた、追い詰められていく。
「――ッ!!」
 声にならない悲鳴が辺りに木霊した。インプレッサターボの前輪がモザイクに包まれた脚を挽き潰したのだ。
「落ちろ!」
 狼を思わせる動きで飛び掛かったリューディガーのバールの一撃は、釘の如く突き出された棘がモザイクに覆われた皮膚を切り裂き、その身体を冥府へ戻さんとの意志で導いていく。
 応戦に鍵を突き出すドリームイーターの動きはしかし、酷く緩慢だった。今まで積み重ねられてきた身体を覆う痺れが、続けざまの攻撃を許さない。
「さあ踊れ踊れ私たちと。踊り狂って死んでしまえ!」
 ジゼルの蹴撃と共に吹きだした地獄の炎がドリームイーターの身体を覆う。脚の一撃から、そして炎から逃れようと身動ぎする様は、彼女の言葉通り、踊り狂っている様でもあった。
 尾を引く赤い燐光は、既に周囲に漂っていた死神の軌跡――青い燐光を侵食していた。
 その光景はまるで、死神の痕跡を全て無くす篝火の様にも思えた。
(「そうだな」)
 アームドフォートの狙いを定めながら、アギトは此処にはいない誰かに言葉を向ける。
(「俺が、お前の痕跡全てを消してやる」)
 それがアギトに出来る唯一の餞。死者は蘇らない。あれは身体を奪われただけだ。その内面は彼の知っている彼女ではない。
 それは理解している。判っている。――だから、それが振りまく災厄を消す事は、間違ってはいない。
「行け。アギト!」
 ドリームイーターの背後に見え隠れする死神に思う事があるのか、毅然とした声がシヴィルから発せられる。
 言われるまでもない。それを砕くのは自身の役目だ。
 主砲が、そして展開された副砲が一斉に火を放つ。闇夜に燦々と輝く光は、ドリームイーターの身体を捕らえ、そして打ち砕いて行く。
「――ゆるりと眠れ、憐れな夢喰いよ」
 まるで葬送の経の如く、リューディガーの声が響いた。

●秋の夜の夜想曲
「終わったにゃ~」
 終わってみれば接触から僅かに三十分程度。そんな短い時間にも関わらず、全てを出し切った。疲れ切ったとアイクルが呻く様に声を零す。
(「次こそはファンの前で水着を見せたいにゃ」)
 存在はさておき、心底そう思った。このところ、ずっとデウスエクスにしか水着姿を披露していない気がする。
「ほらほら。現場復旧しまスよ」
 座り込みそうになる彼女を雉華の声が、そして伸ばされた腕が支える。
「と言っても、殆ど修復の必要な無さそうでスが」
 高温に炙られて硝子化した砂程度だろうか。それもヒールによる修復が完了すると、この砂浜に戦いの後は何一つ残っていなかった。
 まるで、何もなかったかのように。
「さて。帰りましょう。こんな夜更けに水着姿で集まる人々なんて、怪談にもなりませんよ」
「まぁ、確かに」
 龍城の言葉にリューディガーとジゼルが苦笑を浮かべ、そうだな、と優輝が頷く。
「神を怖れぬ冒涜的な修道女。さて、その活動はいつ終わるやら」
 ふと零れたシヴィルの独白じみた問いかけに、アギトもまた、呟きの様に返答をしていた。
「俺が終わらせる」と。
 季節は移ろい、春から夏に、そして秋に変貌している。
(「シスター。あんたはどう思う?」)
 未練は残っているのか? アギトの問いに、答えはない。今は、まだ。

作者:秋月きり 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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