今年も恒例の『氷祭』。
こぢんまりとした神社であったが、道路にまで屋台が並んでいる所を見ると、土地の者たちはこの祭りを大層楽しみにしているのだろう。
お囃子に混じり、屋台で動かしているモータの音、笑い声……。それらと共に、ソースやらコショウやら、甘い香りも入り交じり、訪れた人々の興を刺激している。
神社の境内には、今か今かと何かを待ちわびている市民が祭りを楽しんでいた。
そのうちツンツク踊っていたひょっとこが、かいた氷をフワッと宙に撒くと、ワッと歓声がわき起こり、降り注ぐ冷たい氷は笑顔に触れてとけていく。
その歓声が悲鳴に変わると、マグロを被って浴衣を着たシャイターン娘が櫓から飛び降りた。
「残暑が厳しくてかなわねーんだよ! その冷たい氷、アタイによこしな!」
マグロ娘が目につくあらゆるものにビチビチとヘッドバットを食らわせ始めると、楽しかったはずの祭りは大混乱に陥った。
浴衣を着て、心なしウキウキとした言之葉・万寿(高齢ヘリオライダー・en0207)が姿を表した。
そして咳払いを一つ、真剣な表情に戻る。
「エインヘリアルに従う妖精8種族の一つ、シャイターンが行動を開始したようでございます」
動き出したのは、マグロの被り物をしたシャイターンの部隊で、日本各地の祭り会場を襲撃し、一般人を殺害してグラビティ・チェインを得ようとしているらしい。
祭り会場を狙っている理由は不明だが、お祭りという場を利用して、効率よくグラビティ・チェインを収奪する作戦である可能性が高い。
「シャイターン……その外見から、仮に『マグロガール』と致しましょう。現場となる氷祭会場に先回りし、事件を未然に防いでほしいのです」
敵のマグロガールは1体のみで、配下などは存在しない。
使用する武器はゾディアックソードで、グラビティは炎や幻覚を得意としているようだ。
「ここで困難なことがございます」
祭り会場の人を避難させてしまうと、マグロガールが別の場所を襲ってしまうため、事前の避難は行えないという。
しかし、マグロガールはケルベロスが現れれば、先に邪魔者を排除しようとする。挑発をしつつ、人の少ない場所に移動するなどして戦闘すれば、周囲の被害は抑えられるだろう。
「事前に、戦闘を行えそうな場所を探したり、戦闘開始後の避難方法を考えておくのも良いかもしれませんな。近くには林と公園がございます。どちらも薄暗いため、夕方以降は誰も近寄らないということを覚えておいて下さい」
そこまで言うと若干ウキウキとなり、口元を隠す。
「まあ、せっかくのお祭りですので……マグロガールを撃破した後は……ほれ、あれです。お楽しみを、まあ、ぜひ!」
まだ事件が解決していない手前、あまりハッキリ言えないのであろうが、『マグロガールを倒した後は、お祭りで遊んで来ても良いですよ』という事だろう。
ヘリオライダーのおじいちゃんがそう言うのだから、遠慮なく楽しもう!
参加者 | |
---|---|
メーア・アルケミス(ヴァイストゥーン・e00089) |
シロン・バルザック(彗星少年・e02083) |
眞山・弘幸(業火拳乱・e03070) |
永代・久遠(小さな先生・e04240) |
羽丘・結衣菜(マジシャンエルフ・e04954) |
ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993) |
フリュイ・スリジエ(らでぃかるらびっと・e05665) |
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079) |
●生臭い風……
問題の櫓周辺にたどり着いたケルベロス達は、周囲を警戒しながらマグロガールを目で探す。
まだマグロガールの姿は見えない。
各々人混みをすれ違いながら、内心モヤモヤが激しいようだ。
まあ、当然祭りを襲撃という点から許しがたいのであるが、敵の特徴がひっかかっているらしい3名が固まって歩いている。
「……ところで、何で敵はマグロの被り物なのでしょうかねー?」
永代・久遠(小さな先生・e04240)が素朴な疑問を口にすると、シロン・バルザック(彗星少年・e02083)が憤る。
「なんでシャイターンみたいな姑息なヤツが、マグロガールを名乗ってるんだろうニャー……マグロに失礼ニャ!」
「まぐろーんの名で悪事を働くとは……絶対に許さないデスよ!」
それにメーア・アルケミス(ヴァイストゥーン・e00089)が続くと、後ろで聞いていた羽丘・結衣菜(マジシャンエルフ・e04954)が苦笑いをした。
「……にしても、シャイターンも祭りに混ざりたいのかな? 暴れずに素直に混ざればいいのに」
そんな事を敵に聞かれたら……と思ったのもつかの間、櫓の上から叫び声が上がった。
「バッ、バッ、バッカじゃねーの!? ダダダ誰が祭りなんてガキっぽい事、喜んで混ざるかっつーの! ハアー!? ハアアアー!?」
マグロガールだ!
アレな所は図星らしいが、そこはスルーして、市民の避難をしなくては。
市民はまだマグロガールがシャイターンだとは気がついていない。お祭りの余興の一つなのかと思っている程度、笑いながら上を見上げて何だ何だと集まってくる。敵が暴れる前に速やかに避難させなくては。
遠目からそれを確認したルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)は、眞山・弘幸(業火拳乱・e03070)に声をかける。
「それでは、舞台と演者が整った時にまた会おうか」
「そっちは宜しくな」
弘幸の相変わらずな眉間のしわを目に入れ、ルージュは軽く口元をほころばせる。
警戒行動をとっていたケルベロスたちが作戦通り行動に入った。
まずは櫓の近くにいたメーアが口を開く。
「まぐろーん」
いつもの全身鮪着ぐるみ姿でそう礼儀正しく挨拶し、マグロガールの意識をこちらに向けさせる。
「お、何だアンタ、いいじゃん。分かってる風じゃん、ドコの属? 何科系?」
その道の人達に通じる何かの暗号なのか定かではないが、マグロガールは同じニオイを感じて櫓から下りてきた。
そこですかさずメーアの一言。
「所詮は偽まぐろーん、鰓がパサパサデスね……」
一瞬にして空気が凍る。
道を塞ぐように結衣菜が前に立ち、武器を構えた。
「やーい、そのマグロの被り物、全然似合ってないぞー! 本物のマグロに失礼じゃないのかー!」
「テメ、ケルベロスか! やろってのかコラ!」
大勢の人混みの中、マグロガールが構えると、周囲にいた市民は悲鳴を上げた。
弘幸が挑発する。
「おい女、テメーの遊び場はここじゃねぇ。弱い奴相手にいきがってんじゃねぇよ」
「ざけんなコラ! 誰がイキがってるって!? アーーーン!?」
周囲の市民が慌てだし、その場が混乱になりかけた時、久遠とルージュが凛とした風を使用する。
重ねてフリュイ・スリジエ(らでぃかるらびっと・e05665)が割り込みヴォイスを使って一般人を避難させ始めた。
「危険人物が現れましたっ! 皆さんっ、今すぐ逃げてくださいっ!」
「そーは行くかよ!」
そう言い放ち、マグロガールが一般市民に飛びかかってヘッドバットを食らわせる。
ひやりとしたが、その背後で日之出・吟醸(レプリカントの螺旋忍者・en0221)がのんきな笑顔で手を振っているのが見えた。
よく見れば、マグロガールが頭突きを食らわせたのは、木下・昇(永遠のサポート役・e09527)、ケルベロスだ!
吟醸はたまたま祭りに遊びに来ていたようだが、昇はサポートにかけつけてくれたのだろう。
1人の犠牲者も出させないといったオーラを発生する昇に、市民が目を丸くしている。チャンスだとばかりに久遠が声を上げた。
「落ち着いて下さいっ! わたし達が対処しますので退避をっ! 慌てず騒がず冷静な行動をお願いします!」
間髪入れずシロンが挑発。
「弱い者イジメだなんてしょっぼいヤツニャ! おろされて刺身にされて食われたいかニャ!」
「ウルアァ! 暑苦しい雑魚には用がねんだよ! アタイは祭りの氷目当てで来てんだ! 強いヤツがいんなら上等ゥ! こちとら伊達に属の看板守ってんじゃねえぞコラ!」
族違いだが、あ、だからそんなガラが悪いのかと思った市民がチラホラ。
正直少し怖かったが、スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)がキッとにらみつける。
「ざんねんですけど、この氷はわたせません! そんなに暑いのがいやなら、海にかえりなさいっ!」
「ウルアァァァ!!!」
押している風に見せかけ、徐々に祭り会場を移動しているのをマグロガールは気がついていない。
市民がまばらになった隙間から、坂道に出ると、下の公園を確認する。
「おにさんまぐろさん、ここまでおいで!」
ケルベロス8名がじりじりと間合いを取りながら先導、先に公園についた昇が周囲を見回す。
公園の入り口までたどり着くと、結衣菜が殺界形成で人払いし、シロンがキープアウトテープで出入りを封じた。
移動完了!
●イキの良い戦闘
ミミック『サイ』とボクスドラゴン『メテオ』が現れ、メンバーがそろった。
昇が後方から敵をミニLEDライトで照らしながら、自らを宝石の魔弾・起で回復する。
吟醸も彼の横でライトニングロッドを構え、サポートの体勢も万全だ。
「ハッ、うまく陽動したつもりだろうがな、どっち道お前等倒して、祭りもブッつぶされんだよ!」
言うなり敵がヘッドバットで空中を切り裂く。
「メアのお頭の方がぴちぴちデスよ!」
メーアも負けじと着ぐるみヘッドバットで鍔迫り合いをし始め、戦闘が開始された。
その隙を見て、マグロガールのゲヘナフレイムが放たれる。
横をすり抜ける炎はそのままクラッシャーの弘幸に絡みつき、ボウと場を焦がす。
「本物の熱さってのを分かってねぇようだ……なぁルージュよ、そう思わねぇか?」
グッと眉間のしわが深くなる。
「全く、この程度の炎で身を焦がそうなんて、ちょっと生温いよ」
敵が息を呑んだ瞬間、弘幸が目の前にいた。
地獄の業火を纏った左脚は零距離から敵の膝裏に食い込み、ガクンと折れた体勢のままルージュの追撃を簡単に受け入れた。
青き炎が消える頃、顔を上げたマグロガールに再び攻撃が重ねられる。
「みんなのおまつりを、まもるために!」
スズナの熾炎業炎砲が追い打ちをかけ、サイが武装具現化を施すと、焦げた上にがっつり体力を持って行かれたマグロが激怒した。
「あちーーーーつーの!!! テメエらぜってーブッ殺す!」
久遠の肩に掛けた医療バックが、何やらガチャガチャと怪しい音を立てていたが、ここはウィッチオペレーションで弘幸を回復。
メーアがヘッドバットの構えからフェイントでルーンディバイド! 先程のお返しをして満足そうに鼻を鳴らす。
メテオに属性インストールを頼み、シロンはガツガツとバッドステータスを狙ってライトニングボルトを炸裂。
同じく結衣菜もシロンに続き、星天十字撃でバッドステータスを重ねていくと、二人のジャマーに翻弄されたマグロガールはどんどん動きを封じられていった。
「し、しびれりゅ……」
フリュイはぴょんぴょん跳び回りつつ蹴り主体で攻撃。
「兎の脚力、ナメないで下さいねっ? いーちにーの、えーいっ!」
宙返り蹴りのスターゲイザーを食らわせられ、流星の煌めきに圧巻されたまま、マグロガールは呆気なく撃沈された。
●たのしいおまちゅり
戦闘が終わり、周囲のヒールをしている間に祭りが再開された。
スズナがサイを横に、高台から手を振る市民の喜んだ笑顔を見て言った。
「きょうのおまつりを守れて、よかったです……!」
せっかくのお祭り、年に1回だけの楽しい行事。一緒にはしゃいで、沢山の人の無病息災を祈願したい。
「お祭り! 楽しむニャー!」
シロンがメテオを連れて走り抜けると、その後からはしゃいだメンバーが追い掛ける。
それを見送った後、昇は静かに公園から駅の方角へ抜けていった。
軽快な祭り囃子。
ひょっとこが踊る場所に駆けつけると、至る所で白い氷が空に舞っている。
そのすぐ向かい側で、『変わり種かき氷あります』の妙な看板をみつけた。
牛乳瓶の底眼鏡をかけた変なオヤジと、横に座って笑っている吟醸にルージュが驚く。
「な、何してるんだキミ。さっきまで闘ってたのに、どうしてこんな所に座ってるんだい……?」
「やあ~、吟ちゃん今日バイトでここに来てたの。そしたらマグロ出ちゃって、ワハハ。緊急サポートでござったよ!」
そうだったのかと思っていると、吟醸は祭りの案内を始める。
「あっちに行くと、かいた氷がもらえるでござるよ。お賽銭を入れて、カップをもらってね。じゃあ、かき氷食べたい人~!!」
ハーイ! と数名が寄ってくる。
結衣菜がメニューを見て口を開く。
「私、ミカン味が欲しいよ!」
「ハーイ。凍らせたミカンを削って作るから、おいしいのよ!」
確かに定番メニューでも、液体をかけるだけのかき氷という訳でもないらしい。フリュイがそのメニューを横目でチラチラ見ながら、吟醸に聞く。
「オススメは?」
「フのフフフ。ここは変わり種かき氷のお店でござる。そこらにあるかき氷屋さんとは、違うでござる」
吟ちゃんのオススメは、と続ける前に、嫌な予感がした久遠がそれを苦笑いで遮る。
「変わり種も気になるのですが……ここはやっぱり定番のみぞれを頂くのですっ」
シロンがオヤジさんに聞く。
「何でもあるの?」
「まかせろ」
「じゃあ、煮干しをいっぱい乗せた煮干しかき氷!」
「まいどぉう!! いいシュミだ小僧!」
ドン! と前にだされたてんこもりの煮干しかき氷を見て、ウプ、とその場の生臭いカオリで周囲が開けた。
見えた先では、お魚感ある屋台が出てないか散策中らしいメーアがいる。
そんな彼女を見て、金魚すくいの屋台にいるお兄さんがニコニコ微笑みながら声をかけてきた。
「かわゆいマグロのおじょうちゃん、赤いべべ着たお魚はどうだい?」
淡水魚に対しては泥臭いと軽蔑しているメーアの白い目が突き刺さる。
「所詮淡水魚、糸で釣られる姿がお似合いデス……」
えええ……と、お兄さんが絶句している前を、通り過ぎた。
向こうでは、結衣菜とフリュイが屋台巡りを始めたようだ。
「トウモロコシ焼きとか良いなぁ!」
フリュイの手には、焼きそば、りんご飴、焼き鳥とてんこもり。それをパクパク口に放り込む。
「ん~っ、一仕事終えた後のごはんは格別ですねっ!」
スズナがサイをつれてやってきたのは、無病息災を願うフワフワの氷をもらう列だ。
ようやく自分の番がまわってきたので、お賽銭を入れ、カップをもらう。
そのまま両手にかかる程のフワフワ氷を上からかいてもらい、わあ、と喜んで列を抜けた。
後ろからやってきたのはルージュだ。彼女もカップにやまもりのフワフワ氷を手にしている。そのうち頭上から氷が下りてきたので、背後を振り返った。
そこには眉間のしわが解けた弘幸が。
あ、とその表情に視線が止まったルージュ。次の瞬間、彼女の顔に氷が撒かれる。
「残暑厳しいからなぁ。涼しいだろ?」
ニッと悪戯じみた顔で微笑まれ、ルージュも悪戯顔でカップを構える。
「おいおいおい」
彼女の手からフワリと氷が舞い、弘幸の頬で静かに溶けた。
「驚いた、本当に……だって僕も同じことをしようとしていたんだからね」
弘幸は冷えた手でルージュの頬を挟み、口の端を上げて悪戯気に笑う。
シロンがたくさんのカップに氷を入れてやってきたのに気がつき、スズナが寄ってきた。
「どうするの? そんなに」
シロンがニッと歯を見せてから、それをメテオに持たせる。
メテオはそれを運んで飛ぶと、櫓の周囲を勢いよく一回りした。
「わあ」
こぼれ落ちた氷は、一足早い雪を見たような錯覚を皆に与え、その頭上に恩恵を与える。
どうかみんなが無事に暮らせますように。
今年もその願いは、人の笑顔に触れて、静かに溶けていくのであった。
作者:荒雲ニンザ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年9月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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