売れないアイドルの危機

作者:質種剰

●誘拐勃発
 小さなライブハウス。
「皆さ~~ん、今日はけむりの為に集まってくれてありがとぉ〜〜♪」
 ステージの上に立つ小柄な女性——若く見えるが20代後半だろう——が、群がる観客達へひらひら手を振っている。
「うおおおおお!!」
「けむりちゃああああん!!」
 観客達はそれへ地鳴りのような歓声で応えた。
 せいぜい50人程度しか収容できない小さなライブハウス、しかも大半が立ち見席でこの盛り上がりである。
 ステージに上がっているアイドルの知名度なんざ微微たるものなのだが、どうやら彼女は数少ないファンに愛されているようだった。
 お嬢様らしいコスプレして歌うアイドル自身も、それにファン達も思っていた。満員になるまで集まったのは奇跡に近いと。
「これからも立添煙は、集まってくれたパトロン様の力を借りて、活動頑張ります!」
「…………アンコール! アンコール! アンコール!」
 なればこそ、その嬉しい驚きが、異様な連帯感と盛り上がりを生んだのだろう。
 すると。
「あなたの『お嬢様らしさ』は、わが主の『ドラゴンハーレム』に相応しい」
 突然ステージへずかずかと上がって、名刺を差し出す1体のオークが。
「きゃっ……!?」
 悲鳴を上げるアイドルへ向かい、白いシルクハットとスーツが眩しいオークは、慇懃に頭を下げる。
「是非、ハーレムで繁殖に励んでいただきたい! ……もちろん、ギャラも拒否権もありませんがね!」
 オーク——『ギルビエフ・ジューシィ』がそう言い放った瞬間、奴の背後に控えていたオーク10体が、アイドルを捕まえようと襲いかかる。
「煙ちゃんは我ら親衛隊が守るで御座る!」
「けむりんには指一本、否、触手一本たりとも触れさせんですぞ!」
 観客達がアイドルを守るべくオーク達の前に立ちはだかるも、
 べちっ!
「うぎゃあ!」
 ばちん!
「痛いっ!」
 太く長い触手が鞭のようにしなって、あっけなくステージ下へ払い落とされた。
「嫌ぁああああっ、やめてぇえええ!」
 泣き叫ぶアイドルに、オークの汚らしい触手が迫る。

●アイドルを救え
「ギルビエフ・ジューシィというオークが、各地の地下アイドルを無理矢理スカウトして、ハーレムに連れ帰るという事件を起こしているでありますよ」
 集まったケルベロス達へ向かって、小檻・かけら(袖の氷ヘリオライダー)が説明を始めた。
 ギルビエフ・ジューシィは、地下アイドルのライブ会場へ10体のオークを連れて突如姿を現し、ステージ上のアイドルを襲う。
 抵抗しなければ、アイドルを攫うだけで去っていくが、抵抗した者は殺されてしまうそうだ。
「あらかじめライブを中止した場合は、別のライブ会場を襲撃してしまって阻止が難しくなりますので、オーク達が現れてから戦闘に持ち込む必要があります」
 また、オーク達がアイドルを攻撃する事はないが、会場にいる観客(ファン)は躊躇なく殺す。
 ファン達は、例えその場にケルベロスがいようとも、命掛けでアイドル——立添煙を守ろうとする。
「彼らを避難させるには、『同じアイドル愛を持つ仲間だと思って貰う』『その幻想を打ち砕く』『むしろ自分のファンにしてしまう』……といった、ちょっと特殊な説得が必要となるでありましょうね」
 その説得に成功すれば、集団行動が得意な彼等は迅速に避難するだろう。
「今回戦って頂くのは、ギルビエフ・ジューシィと配下のオーク達……なのでありますが」
 言い淀むかけら。
「その……ギルビエフ・ジューシィは、戦闘が始まるといつのまにか姿を消してしまうので、撃破は困難を極めるであります。皆さんには、立添殿やファンの方々を守るのを優先に、配下のオーク達をしっかり掃討して頂きたく、お願いします」
 配下のオーク達は全部で10体。
 穢らわしい触手で敵を何度も叩いて追撃する、触手乱れ打ちなる近距離攻撃や、
「先を尖らせた触手で敵を貫く、触手刺しという遠距離攻撃を使ってくるであります。こちらは服が破れる危険がありますね。そして両方とも単体にのみ命中するであります」
 戦場となるライブハウスは、立ち見席で50人入るのがやっとの、狭く閉鎖的な空間だ。
 
「ハーレム目的の誘拐事件だなんて、到底見過ごす訳にはいかないであります。皆さん、立添殿やファンの方々を助けて差し上げてください、宜しくお願いします」
 かけらはそう言ってケルベロス達を激励した。


参加者
日柳・蒼眞(蒼穹を翔る風・e00793)
巽・真紀(竜巻ダンサー・e02677)
海東・雫(疫病神に憑かれた人形の復讐者・e10591)
ニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)
月詠・宝(サキュバスのウィッチドクター・e16953)
ロージー・フラッグ(ブリリアントミラージュ・e25051)
西城・静馬(極微界の統率者・e31364)
アイシア・ウノ(番犬の往く先を・e31428)

■リプレイ


 小さなライブハウス。
 ケルベロス達は急いで中へ突入し、アイドル立添煙の保護へ向かう。
「アンコール! アンコール!」
 煙のファンによる割れんばかりの声援。
 ギルボークが舞台へ上がるのはもうすぐだ。
「コアなファンが居るなら説得に骨が折れそうだな……」
 そう危惧するのは月詠・宝(サキュバスのウィッチドクター・e16953)。
 赤く逆立った髪と黒いサキュバスの角が目を引く、端正な面差しの青年だ。
「けむりんはいっつもアンコールん時焦らすんすよねぇ、なんでも早着替え苦手だとか。そんな鈍臭いとこも可愛いっすよね!」
「あ、ああ、そうだな。毎回やきもきさせられるのも醍醐味かもしれん……」
 一応立添煙に興味を持っている態を装っている為、ファンに話しかけられても愛想良く返している。
「あなたの『お嬢様らしさ』は、わが主の『ドラゴンハーレム』に相応しい。是非、ハーレムで繁殖に励んでいただきたい!」
「きゃぁっ……!」
 ギルビエフ・ジューシィが舞台へ立ち、騒然とするライブ会場。
「けむりん!」
 慌てて舞台へ向かおうとするファン達の前へ立ちはだかり、宝は声を張り上げた。
「お前等の気持ちは汲んでる、ここは俺達ケルベロスに任せろ」
 まずはケルベロスと名乗ってみるものの、煙を案じるファン達が押し合いへし合いする勢いの前へ、何の抑止にもならない。
「パトロン様、とやら、お前等が賭けるのは命でなく金だろ?」
 ならば、と宝は煙ファンの気持ちに寄り添うべく、ファンにしか通じない呼称でもって説得する。
「それは……」
 宝を煙ファンの同志と察して、考え込むファン達。
 一方。
「けむりん誘拐は私が阻止してみせますっ!」
 ロージー・フラッグ(ブリリアントミラージュ・e25051)は身軽に舞台へと躍り上がるや、自ら身体を張って煙を背中に庇った。
 ツーサイドアップのピンク髪と大きな青い瞳が可愛い、ケルベロス兼アイドルというヴァルキュリアだ。
 彼女は騒ぎが起きる前でも懸命に声を出して、
「きゃ~けむりんこっち向いてっ♪ けむりんLOVE!!」
 と、他のファンに負けない姿勢で応援していた。
「みんな、私もみんなと同じけむりんファンだから、みんなの分まで頑張ってけむりんを守りますっ! だからみんなは逃げてください!」
 だからこそ、ロージーの必死の訴えに、ファン達も理解を示し始める。
「さっき熱心に応援してた娘だ……」
「同じファンなら任せても安心だろうか」
 その傍ら。
「うちのは箱入り娘なんで、そんなふしだらな相手はお断りだ」
 日柳・蒼眞(蒼穹を翔る風・e00793)の口ぶりが煙の保護者目線なの、プラチナチケットで彼女の関係者と思わせる為だ。
「それじゃ、娘に近付く悪い虫は俺達が追い払うから、悪いけど先に外へ出て場所を空けてくれ」
 そうファンへてきぱきと指示をする姿は、
「俺のハーレムへ入れ」
 と、小檻にヘリオンの中で戯れかかって蹴落とされた奴だとは到底思えない。
(「アイドルのコンサートってどうすれば……仲間のコンサートみたいにケミカルライトを振っていれば良いのか……?」)
 ともあれ内心の動揺を隠して、関係者らしく振る舞う蒼眞。
「……なに、役割分担、というやつだよ。各々が出来る事で応援すれば良いし、そこに貴賤なんてないさ」
「貴方はまさか……普段は裏方のけむりんの家司!?」
 ファン達も、隣人力やプラチナチケットの効果と知らずに、蒼眞を関係者と信じ込んでいる。
 他方。
「幾らけむりんの為でも特攻なんかすんな、生きてこの場を離れろ!!」
 拡声器を使ってライブハウス全体に響けと大音声を届けるのは、巽・真紀(竜巻ダンサー・e02677)。
 サキュバスのダンサーであり、かつてはケルベロスというだけで持て囃され、自力で獲得したファンも他人にはラブフェロモンの賜物と思われる、己のパフォーマンスを正当に評価されない環境に凹んでいたそうな。
 しかし現在では『ケルベロスだからこそ出来るムーブを突き詰めてやんよ』と開き直って活動中。
 それ故にアイドルである煙へ親しみを抱くのか、真紀の説得には熱が篭っている。
「アンタらはけむりんの未来を買い支えて守るパトロンなんだろ? そこの家司が言うように役割分担だ」
 何せ、真紀は予め煙のファングッズやライブ参戦用の法被まで買い求め、それらをフル装備で熱狂的なファンの振りをしている。
「いいか、未来のけむりんはそっちに任せる。だから『今この瞬間のけむりん』はオレ達に任せろ、オレたちゃケルベロスだ!」
 ファン心理を掴もうと入念に行った準備が功を奏してか、ファン達は大分大人しくなった。
「同じ女性としてけむりん様を卑しい触手から守ってみせるのです」
 ニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)は、ファンの説得を仲間へ託してでも自らは煙の保護を最優先すべく、トライザヴォーガーに跨って彼女の前へ滑り込む。
(「通常依頼でオークさんと対峙するのは初めてですが……やはりあの背中から生えている触手は嫌悪の象徴以外の何ものでもないのです」)
 煙を狙って蠢く配下オーク達のぬらぬら光る触手を見やって、思わず身震いしたニルス。
「私を倒して下さい、それが出来るのでしたら留まる事を許して差し上げます」
 それでも気持ちを奮い立たせて、ファン達へ厳しい言葉をぶつけた。
「思いだけで倒せるほど、私もオークさん同様に容易くはないのです。どうか私達を信じて、ここは下がってください」
「そう言われても……」
 ニルスの力強い説得に気圧されて、ファン達が戸惑う。
「……正直に言いましょう。私は彼女を今日まで知らなかった」
 そこへ、仲間の真っ直ぐな訴えの後押しをしようと、海東・雫(疫病神に憑かれた人形の復讐者・e10591)が言葉を添えた。
 元ダモクレスの雫だが、ファン達へ向かって語る説得は実に情感豊か。
「だけど、この場にいる人たちの様子をみて確信した。彼女はここにいる人たちの宝だと。醜悪なドラゴンの部下程度にはもったいない存在だと」
 月見酒を解する心を持ったお陰だろうか、雫の熱弁は煙ファンの心に大きな共感を呼んだ。
「だから私は命を賭して彼女を護ります。ケルベロスではなく一人の騎士として」
「おぉぉ……!」
「ファンの鑑だ!」
 感動に沸くファン達。
「ここに集まった50人のパトロンさん、けむりんの言葉を忘れた?」
 アイシア・ウノ(番犬の往く先を・e31428)もまた、雫に負けず劣らずの素晴らしい演説を始める。
 『言葉は刃、画は魔術』との信念を持つが故に、人の心へ響く説得が出来るのかもしれない。
「アナタの役目は『けむりんへファンとして力を与える』事、立添煙というアイドルが居る事実を一人でも多くの人に伝える事!」
 そう力説する彼女は、予めけむりんグッズを手に入れたり煙ファン用語、アイドル全般の用語、ライブの決まり事等、頭に叩き込んできた。
「けむりんを守りたいというその情熱、私達番犬が請け負うわ。貴方達はけむりんのために逃げて!」
 かような努力の末、煙ファンと心を通わせるべく真摯に言葉を紡いでいるのだから、アイシアの声がファンに届かぬはずは無い。
 それは、宝にしてもロージー、真紀、雫にしても同じだ。
「——それともあなたが死んでけむりんを悲しませたいの!」
 ファン達は、鋭く叱咤するアイシアに、目を見開かされた思いだったのだろう。
「仕方ない、逃げよう!」
「けむりんを頼むでござる!」
 先程までまごついていたとは思えない速さで、サッと波が引くように店外へ飛び出していた。
「みんな……」
 ファン達が皆外へ出ていくのを、煙は安心と不安の入り混じった複雑な目で見送っている。
「あなたを護ります、私の後ろから動かないように」
 そんな彼女へ、西城・静馬(極微界の統率者・e31364)が言葉少なに声をかけ、自分は前方で簒奪者の鎌を構えた。
 柔らかそうな茶色の髪と整った細面が優しげな印象を与えるレプリカントで、長袖のケルベロスコートを愛用している静馬。
(「『ドラゴンハーレム』……ハーレムを作る目的は自明ですが、なぜ地下アイドルを狙うのでしょうか」)
 ふと湧いて出た疑問へ内心首を傾げつつも、静馬は見た目の印象に違わず誠実な物言いで、
「やることは変わりません、仕事はきっちりこなしましょう」
 真面目に護衛役をこなす心積もりである。


「『ドラゴンハーレム』計画の邪魔をするなら容赦しないブヒ!」
「ブヒ!!」
 10体に及ぶ配下オークの触手が、ヌチャヌチャと一斉にケルベロス達へ襲い来る様は、見ていて恐ろしいものがある。
「や、やっぱり、背筋がぞくっとしますね……ザヴォちゃん、大丈夫?」
 ニルスが、乱れ撃ちからトライザヴォーガーに守られつつ、少女らしい脅えを見せる一方で。
「ひゃんっ♪ も、もぉ、おっぱいばっかり……! ホントにえっちなんですからぁ!」
 こちらは大人の女らしい喘ぎ声を上げるロージーが、Pカップ超の爆乳を触手に何度もつつかれて、気持ち良さそうに身を捩っていた。
「数が多い、長丁場になるから頑張ってくれよ」
 そんな中、宝はナノナノの白いのを呼び寄せて檄を送るや、
「これで触手に触られた気持ち悪さも、洗い流せるとよいんだが……」
 自分は薬液の雨をざぁっと降らせ、前衛陣の怪我の治療に努める。
「ナノ!」
 白いのも宝の意志に忠実にナノナノばりあを張って、ロージーの体力を回復させた。
「撃ち負けはしません、当たるのであればっ!」
 悦楽へ負けじと張り切って、全身に装備した火器を全て同時に展開するのはロージー。
 それらをオーク単体へ目掛けて一斉発射、徹底的に粉砕した。
「気合入ったパフォーマーは絶対守る、それがオレの戦いだ!」
 と、己が身体を覆うオウガメタルを『鋼の鬼』へと変化させるのは真紀。
 鬼の拳を勢いよく打ち込んで、オークのぶよぶよした腹を裂く。
「やれやれ……オークだらけの光景というのは、妙な圧迫感があるな」
 蒼眞はそんな事を言いながら、敵群を一刀で斬り伏せるべく斬霊刀を振るう。
 幻惑を齎す桜吹雪と共に浴びせた一閃が、最も負傷していたオークのトドメとなった。
「ファンの安全を図るとは言え、ここに残す事をどうかお許し下さい。でも、決して触れさせはしません、絶対にお守りしますから」
 ニルスは背後の煙へ優しく微笑みかけてから、バスターライフルで魔法光線をぶっ放す。
 事実、既に視界からギルビエフ・ジューシィが消えているのを考えれば、ケルベロス達が煙を屋内に留まらせる判断をするのも尤もであろう。
「A-003。貴方の技、使わせてもらいます!」
 形見のナイフでオークを連続攻撃するのは雫。
 音速にも迫る速さのナイフ捌きは、オークの残り体力を超えるダメージを与えて、その命をも奪った。
「オウガ粒子解放――」
 静馬が呟くと同時に駆動音が高鳴って、肩口から先の衣服が弾けた。
 白亜の機械腕から放たれるのは眩い閃光を放つオウガ粒子で、その光を受けた前衛陣の超感覚を覚醒させた。
「……それじゃ、こっからお仕置きね?」
 愛用のハンチングキャップを被り直して言い放つのはアイシア。
 そして、正確無比な狙いの戦術超鋼拳を叩き込み、オークの胸を貫いた。


 ヌルヌルぬめぬめと数多の触手が乱れ飛ぶ戦いは続く。
「下がれ――」
 静馬は駆動音響く両腕を前面へ突き出し、まるで攻撃を押し返すようにして、アイシアの代わりに触手刺しを喰らった。
 その傍らでは、雫のライドキャリバー、ライドが真紀を守ってダメージを受けている。
「後半分か。皆、殲滅まで持ち堪えてくれ」
 残ったオークの数を数えつつ、宝はサキュバスミストを漂わせて静馬の刺創を塞いでいく。
 白いのもライドをハート型のバリアで包み、傷を治した。
「同じアイドルとしてこんな暴挙は見過ごせません! やっつけてあげます!」
 ロージーは、冥府深層の冷気帯びし手刀を放って、オーク達を一気に凍えさせる。
「セレスティア……使わせて貰うぜ」
 蒼眞もロージーに倣って、一度に複数へダメージを与えるべく、煌翼天翔を繰り出す。
 一時的に顕現せし光の翼を用いた突撃で、オーク達へ少なくない痛みと痺れを齎した。
「オレがパートナーだ。ノり遅れんなよ」
 と、即興のダンスムーブでオーク1体へ接近するのは真紀。
 互いをダンスパートナーに見立てての体捌きで奴を翻弄ざま、変幻自在の徒手格闘を叩き込んで、死に至らしめた。
「触手でこの身を裂かれても絶対死守なのですっ」
 ニルスは決死の覚悟で、別の1体へアームドフォートの主砲を浴びせる。
 そこへトライザヴォーガーが息の合った動きでキャリバースピンをかまし、オークに引導を渡した。
(「人の希望を奪おうとすることはよくない事ですよね」)
「……阻止しますよ、ライド」
 仲間が傷つくのを見て口数の減った雫は、ライドがガトリングを撃つのへ合わせて、肘から先を内蔵モーターでドリルのように回転。
 見事高威力の一撃をぶちかまし、配下オークを絶命させた。
「終わりだ——」
 平常時と戦闘中で口調ががらりと変わっているのは静馬。
 腹の弾創を抉るように配下を斬り裂いて、自ら返り血を浴びる為にも血を噴き出させた。
 潰れた果実のように腹を裂かれ、オークが事切れる。
「アナタの痛いトコは、アナタが1番知ってるわよね?」
 アイシアは、ドッペルゲンガーそのものをポラロイドカメラで撮った写真から具現化。
 相手そっくりに扮した御業が、オークの胸をぶっとい触手で容赦なく刺し貫き、ついに最後の1体を仕留めた。
 こうして、無事に煙を守り通したケルベロス達。
「よく頑張ったな」
 宝は白いのを労いながら、舞台や客席の修復を始める。
「ね、私アイドルの人見るの初めて、普段どんな事するの?」
 アイシアは煙のショックを癒そうと気さくに話しかけた。
「あ……助けて頂いて有難うございます……何とお礼を言って良いか」
「気にしないで、それよりも貴女の歌と話聞きたいな?」
「普段は、執事や家司の皆と一緒に地方へ旅行に行くんです。そこで、パトロンの皆にご挨拶を」
 おっとりした様子で煙が話すのを聞いて。
(「地方営業か、売れないアイドルには苦労があるんだな」)
 蒼眞はそんな感想を抱きつつ、避難したファンを呼び戻しに向かう。
(「ふむ……一見普通のお嬢さんですが、確かに生まれ持って備わった気品というか育ちの良さが窺えますね」)
 煙をまじまじと見つめて分析するのは静馬。
「その、執事さんとやらは今どちらに? 貴方を大々的に売り出す為の商談をしたいのですが」
 雫は煙へ優しく問いかけている。
「色々大変かと思いますけれど、お互いに頑張っていきましょうね!」
「はい、有難うございます!」
 同じアイドルとして仲間意識を覚えたロージーは、煙と明るく握手を交わした。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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