月の浜辺に漂う少女

作者:そらばる

●みちひの受難
 透明な月の光に白々と浮かび上がる、白砂の浜辺。夜のしじまを、打ち寄せる波音が心地よく揺らしていく。
 その海岸には、夏の夜にだけ、少女の幽霊が現れるという……。
「今日、こそは! 実物を抑えてみせるぞう!」
 地元の女子中学生、みちひは気合十分に両こぶしを握った。頭にはライト付きの防災ヘルメット、背にはごついリュックサック、首には一眼レフのデジカメ。……雰囲気ぶち壊しの方向に気合十分であった。
 みちひは海を右手に浜辺を歩きながら、自己暗示ならぬ自己発揚の大きな独り言を呟きつつ、スマホをスワイプしていく。
「いるはずなんだ、絶っ対、いるはずなんだ! 怪奇・夏の浜辺に現れる幽霊少女! このへんじゃ有名な怪談だもんね~。なんたって昔、この海岸でぇ……」
 画面が、目指す該当記事にたどり着いた、その時。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 ひっそりとした声音が、正面より投げかけられた。みちひは思わず「ひぇっ」と珍妙なポーズで身構える。
「と、とうとう現れたな! ――って、女のひと?」
 幽霊は少女の姿をしているはず。がっかりと安堵のはざまの吐息をつき、瞬きを一つ。
 次に瞼を持ち上げたその時には、女性の白い顔が、みちひの目の前にあった。
「はっ?」
 気の抜けた疑問符を最後に、巨大な『鍵』で心臓を貫かれたみちひの体は、砂浜に崩れ落ちた。
 倒れ伏すその傍らに、月の光をあつめるように、白々とした素足が像を結ぶ。
 放り出され、仰向いたスマホの画面には、『水難事故』の小さな見出し。
 透ける白いワンピースの裾が、儚くひらめいた。

●生み出された幽霊少女
「こたびは、夏の夜の砂浜にて、ドリームイーターの魔女により具現化されたる幽霊少女の一件にございます」
 戸賀・鬼灯(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0096)が語るは、中学生女子の『興味』より新たに生み出されたドリームイーター。
「彼女、みちひさんは、地元の浜に語られる幽霊少女の怪談に強い『興味』を示し、深夜の海辺を探索をしておりました所、女性型のドリームイーターによってその『興味』を奪われてしまいました」
 女性型ドリームイーターは奪った『興味』から新たなドリームイーターを生み出し、早々に姿を消したようだ。
 みちひの『興味』より生み出されたドリームイーターは、白いワンピース姿の少女の幽霊。放置しておけば、またぞろ何がしかの事件を起こすに違いない。
「皆様には、この、幽霊少女の撃破をお願い致します」
 みちひの肉体には外傷やダメージはない。幽霊少女さえ倒す事ができれば、何事もなく目を覚ましてくれるはずだ。

 幽霊少女は夜に現れるというが、広大な砂浜で、出現ポイントまでは絞れない。ただ、浜辺のどこかしらで彼女の噂をすれば、おびき出して戦う事が可能なようだ。
 敵は幽霊少女一人。配下の類はいない。モザイクによる幻影で、水辺に纏わる幻想的な攻撃を仕掛けてくるようだ。
「さて、肝心の幽霊少女の起源でございますが、本来は確たる由来のない、完全な創作の存在であったものと考えられます」
 浜辺に少女の幽霊が現れる――そもそもはそんな単純な、どこにでもありそうな怪談話。みちひはそれを元に、当の海岸に関して調査を行い、怪談に信憑性を付与してしまったようだ。
「その信憑性って、このことかしら?」
 エヴゲーニャ・アヴェルチェフ(エヘイエ・e26805)は独自に調査した資料を示して見せた。
 提示された記事に曰く、現場となった海岸で、何年か前に少女が一人、溺れて亡くなったとある。少女の名前は七海。享年十歳。写真もない簡素な記事で、それ以上はわからない。
 鬼灯は目を伏し、頷く。
「左様に。その事実をもって、みちひさんは幽霊少女を『七海』と決めつけております。故に、こたび生み出された幽霊少女の正体は『七海』という事になりましょう。ですが……」
 具体性のない怪談に、中途半端な事実を組み込まれたドリームイーターは、不安定な存在と成り果ててしまった。彼女は自身の存在について確証が持てない。本当に七海なのか、別の何かなのか。
 故に、遭遇した相手に必ず訊ねてくる。「わたしはだあれ?」と。
 ここで『七海』と答えれば、つまらなそうに姿を消してしまう。他の答えならば、そこにいる全員に強い興味を示してその場に留まり、好戦的な態度を顕わにするだろう。
 ちなみに、会話は通じるが、交渉事には応じない。また、ひとたび戦闘に持ち込んでしまえば、回答者か否かに関わりなく、その場にいる全員を標的に襲ってくる。
「中学生の微笑ましき知的好奇心を利用し、化生の存在と化すなど、決して許すべからざる所業。夢喰いの戯れを打ち砕くべく、皆様、ご尽力をよろしくお願い申し上げます」


参加者
レクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)
レナード・ストラトス(誇りを捨てたスナイパー・e00895)
フィオレンツィア・エマーソン(ハウンドチェイサー・e01091)
ラハティエル・マッケンゼン(黄金炎の天使・e01199)
深山・遼(烏猫・e05007)
九条・櫻子(地球人の刀剣士・e05690)
シャルローネ・オーテンロッゼ(訪れし暖かき季節・e21876)

■リプレイ

●月の浜辺で百物語
 月光に浮かぶ白浜のど真ん中に、みちひは仰向けにぶっ倒れていた。
「ここで眠っていたら、風邪をひいてしまいそうね」
 小さく呟いたエヴゲーニャ・アヴェルチェフ(エヘイエ・e26805)は、レクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)と協力して、潮風に吹かれっぱなしの少女の体を、海から離した内陸側の物陰へと運んでやった。
 二人が浜の中央に戻る頃には、他の仲間達は焚き火を囲んで、砂の上に座り込んでいた。緊張気味にそわそわしていたシャルローネ・オーテンロッゼ(訪れし暖かき季節・e21876)は、合流した二人にホッと安堵の表情を見せると、席をつめて隣に座るよう促した。
 レクシアは示されたスペースに腰を下ろしながら、
(「幽霊なんていませんし……今回はドリームイーターの仕業だと分かり切っていますし……な、何の問題もありません……!」)
 と、必死に己を鼓舞しつつ、おっかなびっくり輪に加わる。
 かくて八名から成る車座は完成し、百物語が始まった。
 一番槍を務めたのは、ラハティエル・マッケンゼン(黄金炎の天使・e01199)。
「噂では……この浜辺で八尺様がリゾートバイト中にコトリバコを拾ってしまい、寺生まれのTさんが破ぁ! と山の測量をしたと……」
「――いやいやいや、色々混ざってる混ざってる」
「どちらにしても、この浜辺の話ではないのでは……」
 即座に、仲間達のツッコミが入った。
「すまない、私の聞いた話は少し違ったか。しかし……寺生まれってスゴい、改めてそう思った。浜辺の霊なんて、出る幕が無いな。フッ……」
 気取った仕草で髪をかき上げ、ラハティエルは次の話者へと手番を譲る。ケルベロス達は一人ずつぽつぽつと、各々の知る怪談を語り、互いの話に、神妙に、あるいは興味深げに聞き入った。
 とりわけ皆の身震いを誘ったのは、深山・遼(烏猫・e05007)の『知人から聴いた話』だ。
「ある雨の晩、その人は携帯を用水路に落として探していたらしい。すると……青白い小さな手が伸びて来たらしいわ」
「え、えっと、それ以上は……っ」
 立て続けの怪談に顔を真っ青にしたシャルローネが、咄嗟に制止を入れた。レクシアも同じく、自分で自分を抱きしめるように身をちぢこめて震えている。
 遼は苦笑を零し、諸々略して種明かしに繋げた。
「後日知ったのは、昔、その用水路で亡くなったお子さんがいらしたそうよ。……この辺りでも、そういうのが出たりするのかしら?」
 気を利かせた話の括りに、ホラーに免疫のない女性陣から小さな悲鳴が上がった。
 良い感じに盛り上がってきた所で、席を立ったのはレナード・ストラトス(誇りを捨てたスナイパー・e00895)だった。
「わりぃ、おっさん怖い話苦手なんだわ。お手洗い行ってくる」
 言葉の割には飄々とした様子で、輪から離脱していく。その背中を、羨ましそうだったり呆れ混じりだったりする視線が追ったが、文句は上がらなかった。
「……やれやれ。一言喋れば万事解決のボロい仕事だと思ったんだがね」
 ひとりごちながら、桟橋状に突き出た防波堤の袂にまで退避したレナードは、テトラポットの上にバスターライフルを乗り上げ、照準器越しに仲間達の様子を見据えた。

●溺れて死んだ名も知らぬ子
 宴もたけなわ、そろそろ仕掛け時だ。ケルベロス達は目配せし合った。
「ねぇ、知ってる? この浜辺に……出るんだって」
 そう切り出したのは、青色基調のサマードレスでいかにも学生の休日らしく装った、フィオレンツィア・エマーソン(ハウンドチェイサー・e01091)。
「その少女は海に潜るのが好きだったんだって。でもある時、大きなシャコガイに足を挟まれてそのままおぼれて死んだんだって」
「それってもしかして、この辺りで噂になっているあの……?」
 話題が核心に至り、シャルローネがずずいと身を乗り出す。
「似たような話なら、聞いたことがありますわ。この海岸で以前、溺れて亡くなった少女がいて、毎年この時期になると夜な夜なその子の怨念が海岸を彷徨うんですって」
 九条・櫻子(地球人の刀剣士・e05690)も積極的に話題に加わった。フィオレンツィアが神妙に頷き返す。
「きっと同じ子だわ。名前は……海がついていたかしら」
 多少の脚色はあるものの――それらは、異なる複数の情報を繋ぎ合わせてみちひが作り上げた、『七海』像そのもの。
 ……唐突に、月の明るさを、ケルベロス達は感じた。
 雲ひとつない空に浮かぶ月が、突然体積を増したわけではなかった。
「おねえちゃんたち、おもしろいお話してるねっ」
 あどけない少女の声が、鼓膜を打った。
 白い人影が、たき火を囲む車座を見下ろしていた。
 ケルベロス達は反射的に席を立ち、各々に身構えた。
 月の光を集めて像を結んだ『七海』は、本当に真っ白な少女だった。ひらひらと裾の透けるワンピースも、肌も、髪も、顔も。あまりの白さに輪郭が潰れて、全体像がぼやけてしまっている。
 『七海』はくすくすと無邪気に笑う。
「ねえ! おねえちゃんたちなら知ってる? わたしのこと!
 ――わたしは、だあれ?」
 待ち受けていた問いかけだった。
「う~ん。広海ちゃんだったかしら?」
 フィオレンツィアは首を傾げてとぼけてやる。
「あなた、私の生き別れた妹かしら!?」
 櫻子も芝居っけたっぷりに頓珍漢な答えを返した。
「初めて会ったのだから分る筈ないわ。むしろ教えて」
 遼は突き放すように肩をすくめる。
 三者三様の答えに、『七海』はきゃっきゃと喜び、他の面々へと視線を移した。はっきりとした輪郭を持たない瞳が、期待に輝いているようだった。
 意を決して、シャルローネが答える。……悪用されたままでは、本物の七海も浮かばれない。
「『ただの空想』……。たまたま形を持ってしまった、ありふれた物語の産物、です」
 ざらり、と『七海』の纏う空気が変質する。くすくすという笑い声に、奇妙に歪んだ迫力が混ざり込む。
「貴様は敵だ、それ以外の事情は興味がない。私にとっては、な。フッ……」
「私達に勝てたらわかるかもしれませんね?」
 ラハティエルとレクシアの発言は、事実上の挑発だった。
「主へ仕える者が述べるべき言葉ではありませんが……噂話と信仰は似ていると思います」
 早くも一触即発の空気の中、エヴゲーニャが静かに口を開いた。
「貴方の事実はどうであれ、貴方はここに居るわ。偶像を存在させることは簡単なのです。故に、貴方の存在は不確定なものかもしれませんが、此処にいる貴方は幽霊でも七海でもない、貴方なのよ。貴方が強く想えば、何にだってなれるの。
 ……ただ、夢喰いである以上、私達が倒さねばならない相手なのは、非常に悲しいことだけれど」
 いつしか、『七海』の笑い声は、明らかに色調を変えていた。童女を思わす無邪気なそれから、あやかし異形の忍び笑いへと。
「……本当に、面白いや」
 大きな両眼が、鋭く細められたのがわかった。
「うん、いいよ、戦おう。わたしが誰なのか、わたしに教えてよ!」
 『七海』の表層を白いモザイクがきらめき駆け抜け――その姿は、水面の向こう側に隠れたかのように、淡く揺らめいた。

●幻想の水難
「桜龍の怒り、その身で味わうといいわ!」
 振りかぶった櫻子の刀剣が、桜吹雪散らす古龍と共に『七海』を貫く。
 グラビティの手応えは確か。しかし『七海』の姿は一瞬でかき消え、離れた場所に現れる。
「ねーえ、『七海』はどうやって溺れたのかなー? 海藻が足に絡まったのかなー?」
 楽しげにうそぶきながら、『七海』は目の前の見えない水面に軽く触れ、波紋を起こした。
 その瞬間、エヴゲーニャの視界ががくりと揺らいだ。
「!? 水が……っ」
 いつの間にか、足元には水が満ちていた。細い足を、幾種幾多もの水草が絡めとり、引きずり込まんとうごめいている。
「幻影か! 誰か回復を!」
 氷結の螺旋を編み上げながら、遼が凛々しく声を飛ばした。ただの幻では済まない、あれはグラビティを帯びた攻撃だ。
「さて、幽霊退治よ」
 フィオレンツィアのドラゴニックハンマーが、氷結の一撃を派手に咲かせ、
「胸に秘める不滅の炎は天下御免のフラムドール、人呼んで黄金炎のラハティエル! マッケンゼン流撃剣術、一差し舞うて仕る!」
 ラハティエル愛用のカタナソード、滅魔刀『レガリア・サクラメントゥム』が、敵の正面から居合で斬り込む。
 ケルベロス達の猛攻は、幾度となく『七海』を砕き、斬り裂き、貫いた。叩き込んだグラビティの反響が伝えてくるのは、確実に敵の存在を削いでいく感触だ。
 しかし『七海』はそのたびに姿を消しては現れ、一向に苦痛の様子を見せない。『幽霊少女』という名分によって、痛覚などの感覚が欠落しているのだろう。
「それとも、くらげに刺されちゃったのかなー?」
 『七海』がもう一度波紋を起こすと、今度はシャルローネの視界が水に満たされた。
「!?」
 驚き、ごぼりと泡を吐くシャルローネを、幾匹ものくらげが囲い込んでいた。青みを帯びた視界に、月光に白く透けるくらげが優雅に泳ぐ。それはどこか幽玄で、神秘的な……。
「だめっ!!」
 レクシアは咄嗟に幻影の海に割り込み、呆然としていたシャルローネを突き飛ばした。その瞬間、漂うばかりだったくらげが、触手を伸ばしてレクシアに殺到する。
「レクシアさん!?」
「っ、大丈夫!」
 つきまとうくらげを引きはがし、偽りの海を脱したレクシアは、微かな痺れに眉を寄せつつも頼もしく返した。役目を遂行したその髪には、『守護』を意味するトリテレイアの花冠が揺れる。
「……みんなは、もう、『誰か』なんだね」
 胸元を、いずこからか飛来したバスタービームに貫かれながら、ケルベロス達を見下ろす『七海』は、ひどくか細く囁いた。
「わたしは……わたしは、何になれるのかなぁ?」
 小さな唇が、薄く空気を吸い込んだ。

●誘う夢もこれでおしまい
 少女の歌が、浜辺に満ちた。わらべ歌のような、民謡のような、聞いたこともない不可思議な旋律だった。
 それは潮騒に紛れがちで、攻撃の手を緩めぬケルベロス達の耳には、途切れ途切れの音の粒にしか聞こえない。
 けれど、『七海』が不可視の水面を弾いたその時、潮の切れ間に、櫻子ははっきりとした旋律として認識してしまった。
「くっ……あァ……っ、――――いかなきゃ」
 頭を抑えたのはほんの一瞬。櫻子は顔を上げ、生気のない目つきで、ふらふらと夜の海へと誘われていく。
「まずいわ……櫻子を正気に戻して!」
 言い置くと、フィオレンツィアは高速ステップで踏み込み、残像を残しながら『七海』を牽制する。エヴゲーニャのヴァルキュリアブラストも追随し、その間に、シャルローネの静かに祈るような歌うような治癒が、櫻子の脳裏にとりついた迷夢を晴らしていく。
 催眠が早々に解かれてしまったのを見取り、『七海』は、失敗しちゃった、と悪戯っぽく小さく舌を出した。
 人々を水底に誘う女怪。このまま捨て置けば、『七海』はそんなものに成り果てるかもしれない。……『なれる』のかもしれない。
 しかし、それとて結局、人と相容れぬ存在だ。
「夢喰いも多様化しているものだな。……往け!」
 ライドキャリバーの夜影に跨り疾駆する遼の、凛とした呼びかけに応え、見えざる番犬が敵に喰らいついた。『七海』の姿が千々に裂かれ、しばしの間を置き、違う位置に像を結ぶ。
 するとすぐさま、どこからか飛んできた、力場を帯びた長距離射撃に撃ち抜かれて消え、また少し時間をかけて姿を現す。……姿の再生にかかるスパンは、わずかずつ明らかに長引いてきている。
「安らかに眠るといいわ」
 迷夢をすっかり晴らした櫻子の達人の一撃が、冷たい斬撃で『七海』を穿つ。
 翼から噴き上げた地獄がレクシアの全身を押し出し、高速で蒼い尾を引きながら敵への軌道を描く。
「この一撃は私の持てる最大熱量―――」
 凝縮された地獄の球体が、掌底により腹部へと叩き込まれる。青白いまでの極高温の輝きに、『七海』は四散した。
 再び現れたその姿は、白浜の上に膝を抱えてうずくまり、モザイクの波紋を帯びて、ひどく不安定にちらついている。
 ラハティエルの黄金の翼が、大きく広げられる。
「迷える死者の残穢よ、我が黄金炎の輝きを見よ。そして……絶望せよ!」
 眩い炎に巻かれた両羽を、一打ち。膨大な灼熱が、『七海』を目指して放射された。
「あーあ……これでおしまいかぁ」
 膝を抱えたままの『七海』は、小さなぼやきを残して、黄金色の熱に塗りつぶされた。

 ほどなく目を覚ましたみちひは、端から大混乱であった。
「――え。えっ、えっ!? なん……え、誰?」
「あ、起きたわ」
「大丈夫みたいですね。よかった」
 無事を確認して、遼は笑みを浮かべ、レクシアはほっと息をつく。
 なおも疑問符を飛ばしてくるみちひに、フィオレンツィアは事の仔細を伝えない事を選んだ。
「ずっと眠り込んでいたみたいね。悪い夢でも見たのかしら? それならもう大丈夫」
「ゆ、夢……?」
「貴方みたいに勇ましいのもいいけど、夜に一人で出歩くのは危険よ」
 そう言ってケルベロスカードを渡し、呼ばれたらすぐにでも駆けつけると確約をして、頭を撫でてやる。
「そうですよ。こんな事をしていると、バチが当たってしまいますよ?」
 シャルローネは困った笑みを浮かべて、念のため、体に異常がないかを見分する。
 つつがなくみちひのアフターフォローに勤しんでいたところに、レナードがしれっと戻ってきた。
「あれ? もう終わっちまったのかい。――おっ、眼鏡外すと雰囲気変わるなぁ」
「ヤダ、そんなに見ないで下さい。恥ずかしいですわ」
 眼鏡を念入りに拭いていた櫻子は、頬を赤らめささっと視線を泳がせた。クールな印象の眼鏡がないと、確かに、童顔で可愛らしい顔立ちだ。
 みちひの無事を見届けたエヴゲーニャは輪から外れ、跡形もなく消え果てた夢喰いを想いながら、海に祈るように手を組み、目を伏せる。
「……いつか貴方がたとも、争い合わぬ関係になる事を願うわ」
 賑やかな仲間達のやりとりと少女の祈りを肴に、浜辺に座り、恋人から贈られたスキットルを傾ける色男が一人。
「良い夜だ、フッ……」
 白い月はひときわ明るく、賑やかになった夜の白浜を、変わらず柔らかに照らし出していた。

作者:そらばる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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