お祭りノスタルジア

作者:ハル


 四国のとある集落では、夏の終わりに納涼祭が開催されていた。
 夜の闇を吹き飛ばすような、眩しい電気の明かり。それと共に、ほんの少しだけ涼しくなった風が、神社の中へと吹き込んだ。
 そこかしこから届くのは、子供と屋台の主人達による、活気のある声。
 唐揚げ、フライドポテト、タコ焼きといったジャンク寄りの食べ物から、綿飴、林檎飴といった定番商品。
 もちろん、金魚やスーパーボール掬いもある。
 都会とは違い、喧噪の中にも静けさの混じる雰囲気は、非常に心地よい。
 地元のお祭りと言うことで、若いカップルや子供達のみならず、老人達がその中に入っても、まったく違和感を感じることもない。
 ノスタルジー溢れる、古き良き日本の祭りだ。
 そこへ――――。
「もっと派手にやろうヨー! 花火どっかんどっかん打ち上げてサー!」
 唐突に現れたのは、浴衣姿に……何故かマグロを被った少女。その背には、タールの翼。
 さらに、少女が手にしているのは、鋭い凶器。
「アタシが盛り上げてあげるネー! ついでニ、グラビティ・チェインも頂いちゃうヨー!」
 そう言い、少女は凶器を振り下ろす。
 巻き起こるのは、血飛沫。そして数多の悲鳴。
 少女は生み出した惨劇を前に、ニッと口端を歪めた……。

「エインヘリアルに従う妖精8種族の一つ、シャイターンが行動を開始したようです!」
 並ぶケルベロスを前にして、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が告げる。
「動き出したのは、マグロの被り物をしたシャイターンの部隊で、日本各地の祭り会場を襲撃し、一般人を殺害してグラビティ・チェインを得ようとしています」
 祭り会場を狙っている理由は不明。だが、お祭りという場を利用して、効率よくグラビティ・チェインを収奪する作戦だろう。
「私達はシャイターン……その特徴から、彼女達を『マグロガール』と名付けました。皆さんには、『マグロガール』が現れる祭り会場に先回りして、事件を未然に防いでほしいのです!」
 セリカは資料を捲り、
「現場に現れた『マグロガール』は一体のみです。林檎飴の串を、暗器のように扱い、攻撃してくるようです。また、マグロの被り物から灼熱の炎塊を放ったり、浴衣の裾から砂の嵐を巻き起こしてきます」
 さらに、
「今回の作戦では、祭り会場の人々を事前に避難させる事ができません。何故なら、先に避難させてしまうと、『マグロガール』が別の場所を襲ってしまうためです」
 だが、『マグロガール』は最優先でケルベロスを排除しようとする。挑発しつつ、『マグロガール』の位置を人の少ない方向へと誘導すれば、被害は抑えられるだろう。
「お祭り会場となる神社の周辺には、学校があります。夜ということで生徒さんはいないでしょうし、校庭に誘導するのもいいかもしれませんね」
 そこまで言って、セリカは過去を懐かしむように目を閉じた。
「『マグロガール』の戦闘力事態はあまり高くはありません。が、一歩間違えれば、優しい空気が取り返しのつかない惨劇の舞台に変わってしまいます。どうか、皆さん無事に……」
 そして最後は笑顔でお祭りを飾ろう。


参加者
燈家・陽葉(光響凍て・e02459)
茶斑・三毛乃(化猫任侠・e04258)
ルイアーク・ロンドベル(怠惰の狂科学者・e09101)
春花・春撫(漂流系アイドル蜂蜜取りの春花・e09155)
有枝・弥奈(一般人気質の変な人・e20570)
フィオ・エリアルド(夜駆兎・e21930)
近衛・理沙(インペリアルガード・e29612)
春夏秋・雹(冬の精霊は旅に出て・e29692)

■リプレイ


「さて、いつ現れますかねぇ……」
 心地の良い喧噪。子供達のはしゃぐ声や、屋台から飛ぶ威勢の良い声。そして、ベンチに腰掛け穏やかな時間を過ごすカップルや老人達に混じるように、ケルベロスコートを着た茶斑・三毛乃(化猫任侠・e04258)は呟いた。
「折角の祭りを邪魔するたぁ、ほんと品のねぇヤツだよなぁ」
「確かにノリは寒いな。小さな集落じゃあ、貴重なイベントだろうし」
 三毛乃のすぐ傍を歩く近衛・理沙(インペリアルガード・e29612)が自身の拳と拳を打ち合わせていると、それに春夏秋・雹(冬の精霊は旅に出て・e29692)が同意を示す。
 ……二人の言う通り、祭りに来ている人々は皆笑顔だ。この笑顔がたとえ一瞬だろうとも崩されると想像するだけで、ケルベロス達はじっとしてはいられない。
「いましたね」
 その時、ルイアーク・ロンドベル(怠惰の狂科学者・e09101)が言った。
 ルイアークの視線の先へと三毛乃が顔を向けると、確かにそこには目立つ鮪頭。ソレが手にするのは、リンゴ飴の串。ソレはその飴部分をペロペロと舐めながら、ゆったりと流れるお祭りの時間をつまらなそうに眺めている。
 ルイアークは、ソレ――――マグロガールの真っ正面に立ち塞がった。「ん?」と見上げてくるマグロガールに、ルイアークは告げる。
「お待ちしておりました! どうやら…派手な祭りをご所望のようで?」
「な、なんだヨー! いきなリー!」
 突然の言葉だが、マグロガールはルイアークの浮かべる嘲るような笑みから、それがどういった意図であるかは察してくれたようだ。
「マグロだァ? ぬめったツラ晒しくさって祭の熱気がシケちまう」
 だが、マグロガールの前に立ち塞がるのはルイアークだけではない。三毛乃のドスの効いたハスキーボイスがマグロガールの耳朶を打つ。
「はっ、マグロだぁ? お祭り女名乗るなら鮎かたい焼きの被り物でもしてくるんだな。統一感がねぇんだよ!」
「趣味悪い被り物しやがって。目障りなんだよ」
 続く理沙と雹の罵声。それは、ルイアークのものよりも明確な挑発だ。
「ムーーーー!!」
 マグロガールは瞳に怒りを灯し、地団駄を踏む。
 さらに、
「♪マグロ少女に、赤みが差します。年頃なのに、生臭い♪」
 周囲に熱狂的な空気を振りまきながら、春花・春撫(漂流系アイドル蜂蜜取りの春花・e09155)は歌い、三味線をかき鳴らしながら、人混みから現れた。
「生臭いっテ!? 女の子に失礼じゃんカ!!」
 その春撫の歌う、『生臭い』というフレーズが気に入らないのか、マグロガールを女の子と呼んでいいかはさておき、怒りは最高潮に達していく。
 ほどよく場が熱した所で、ルイアークが凛とした風で落ち着かせる。
 それに伴い、
「大丈夫、落ち着いて。僕たちはケルベロスだよ!」
 ざわめく一般人を落ち着かせる笑みを振りまきながら、そう声をかけるのは燈家・陽葉(光響凍て・e02459)だ。
「あいつはしっかり倒して、人もお祭りも守るから、今は落ち着いて避難してね」
 陽葉の指示に従って、一般人は礼儀正しい様子でゆっくりと動き出す。混乱が最小限で済んでいるのは、ケルベロスコートを着用する等の対応に加え、マグロガールがケルベロスにすべての注意を向けているからだろう。
「花火を派手に上げるってんなら見通しの開けた処の方が映えやしょう。喧嘩を売ったのはこっちだ、よぅく魅せて下せえよ」
「来いよ、どうせならもっと派手なステージでヤろうぜ?」
 最後の仕上げとばかりに三毛乃と理沙が告げ、雹がクイッと指先を曲げて挑発する。
 すると、
「もう許さないヨーー! ギッタンバッタンにしテ、ついでにグラビティ・チェインも頂いちゃうからネーー!!」
 マグロガールは血走った目でそう叫び、ケルベロス達の後を追いかけるのだった。

 お祭り会場のすぐ傍にある学校の校庭には、LEDライトによる光源が、要所要所に設置されていた。
 有枝・弥奈(一般人気質の変な人・e20570)は額に浮かぶ汗を拭いつつ、校庭の中央で仁王立ちしながらポツリと真顔で言った。
「シャイターンが動いた、か。これはイグニスの『再会』の言葉と関係が……ま、さかな。マグロだけに」
 周囲には、念のため弥奈によって剣気が張り巡らされている。今の所一般人の気配はなく、一先ず安心といった所だ。
「うぅ……私もお祭り覗きに行きたいけど……終わるまで我慢我慢!」
 フィオ・エリアルド(夜駆兎・e21930)は、校庭まで届くお囃子にウズウズとしながらも、なんとか光源の設置を終えた所だった。
 後は、仲間を信じて待つだけだ。その点に関する心配は、弥奈にもフィオにも存在しない。
 そして、そんな二人の信頼を仲間が裏切る訳もなく――――。
「来たか。さあ、決戦のバトルフィールドはここだぞ?」
 敵の気配を感じ取り、弥奈が手元のランプを灯し、ケルベロスコートを羽織った。
「早く終わらせてお祭りに行こう!」
 フィオの力強い宣言と同時に、二人の視界にも鮪の被り物がチラリと目に入るのだった。


 複数の風を切る足音。それは、誘導を担当するケルベロスが祭り会場から離れるべく、駆け抜ける音だ。
 だが、挑発によってマグロガールは激昂している。ゆえに、その道程は決してスムーズなものではなかった。
「どこまでイくんだヨーー!!」
 ドロリと殺意に瞳を濁らせて、マグロガールが炎塊を放ってくる。
 炎塊は、手始めとばかりにルイアークを狙っている。
「派手好きも結構ですが、少しは待つという事を覚えたらどうですか?」
「やだネーー!」
 マグロガールと軽口を叩きつつも、ルイアークは慌てず騒がずルーンアックスを振り上げ、迫る炎ごとにマグロガールへと振り下ろす。ルイアークのルーンアックスは、炎塊を散り散りにするも、僅かの火傷を負い、同時にマグロガールにも手傷を負わせる。
「ちょっとは大人しくしてな!」
「理沙に『大人しく』なんて言わせるとは相当だぞ、お前!」
 手傷を受けて少しマグロガールが怯んだ所へ、理沙と雹の流星の煌めきの如き飛び蹴りがほぼ同時に綺麗に入り、マグロガールを吹き飛んだ。
 多少の間合いができたのを確認して、ケルベロス達はマグロガールがちゃんと着いてきているのを確認しつつ、再び駆け出した。
 大事なのは、いかに祭りの雰囲気を壊さないかだ。避難も含め、祭りのショーの一環、あるいは一演目として処理できればそれに越したことはない。
 だからこそ、ルイアークは火傷を負いつつも、それを表情に出さないでいる。その強がりが、無駄にならない事を願っているのだ。
「ほら、こっちでございますよ!」
 オーラを湛えた着流しを翻しつつ、万が一にでもマグロガールの意識が別の方向へと向かないよう、三毛乃がルイアークの傷をオーラを溜めて回復させつつ呼びかける。
「響け、払暁の音色!」
 春撫は厄介なマグロガールの攻撃の威力を少しでも減衰させるため、三味線の弦をはじいて仲間に退魔の力を与えた。
 その時、ようやく学校の校庭がケルベロス達の視界に映る。あと少し! だが、マグロガールも再び距離を詰めてきている!
「逃げてばかりじゃつまらないヨ! 派手ニ! 派手にネ!」
「破っ!」
 迫り来るマグロガールに、陽葉の一切隙や無駄のない動きから放たれる掌底打ちが繰り出された。
 マグロガールの身体は掌底によって浮き上がり、吐血するも、止まらない。
 だが、陽葉の作ったその一瞬の隙に、ケルベロス達は校庭に潜り込むことに成功した。
 遊動班は、待機して戦場を整えていた弥奈とフィオの横を通り過ぎ、通り過ぎざまにタッチを交わす。
「戦闘開始だね!」
 マグロガールは、鋭利な林檎飴の串をジグザグに変形させてフィオを切り刻もうと迫る。
「ブチかましてやって下せえ、フィオ嬢」
 三毛乃の声援がフィオに届く。フィオはその声に力をもらいつつ、串を自らの武器によって捌き、時に躱す。そうして、すべての斬撃を捌ききった所で、フィオは炎を纏った蹴りをマグロガールに叩き込んだ。
「よくやってくれたな」
 弥奈は、仲間を労う。その口元には、淡い笑みが浮かんでいる。そして、溜めに溜めておいた力を弥奈は解放する。
「空の彼方まで登っていけっ!」
 弥奈は、飛行能力、腕力、手にした刀を頼りに、マグロガールを強引に斬り上げて空中に吹き飛ばす。それは、途中までは見事にマグロガールを滝登りさせていたのだが……。
「……久々の影響か」
 弥奈の言葉通り、マグロガールはギリギリの所で受け身をとり、致命的なダメージとまでは及ばなかった。
 最も――――。
 弥奈とフィオの活躍によって、視界は良好。一般人の姿も見られない。後はマグロガールを倒すだけだ。
 一瞬の静寂。全員の耳朶をノスタルジー溢れる祭り囃子が満たしていく。必ず、その中に人々の楽しげな声も加えよう。それがケルベロス達の総意。
 だが、沈黙は打ち破られる。打ち破ったのは、やはりマグロガール。マグロの被り物から、まるで花火にように炎塊が弥奈目掛けて放たれた。
「みーなん、危ないよ!」
 その前に、陽葉は庇いに入る。火傷を負いながらも、「大丈夫?」と微笑む陽葉に弥奈は礼を告げ、反撃の一手を繰り出す。「混沌なる緑色の粘菌」を招来し、マグロガールへと侵食させたのだ。
「くっ! あああア! 違う! 魚臭くなんか、ないヨーー!!」
 マグロガールが見ている悪夢がどんなものか、概ね想像はつくが、今はそんな事に思いを馳せている暇はない。
「隙だらけでございます!」
 三毛乃は腰の帯びに携えたリボルバー銃を抜くと、卓絶の拳銃捌きでマグロガールの手から林檎飴の串を弾き飛ばす。
「陽葉、準備はいいよね☆」
「もちろんだよ、はるはる!」
 春撫と陽葉が互いの目を合わせてタイミングを測っている。二人は、ほぼ同時に阿具仁弓と妖精弓、二丁の弓を構え、
「二人の愛で――――」
「――――貫いちゃうよ☆」
 まるで合体技の如く、絶妙なタイミングでエネルギーの矢を射った。
「そのマグロの被り物の下……一体どうなっていて、どんな反応をするのでしょうかねぇ?」
 ニヤリと笑って、ルイアークが何処からともなく転送された宝剣――――るいるいソードを振り上げる。
「うおぉぉ! 勝利を刻みし究極の刃ァァァ!!」
 多くの装飾で誤魔化されているが、実際にはその剣はなまくらである。
 ルイアークが剣を力任せにマグロガールへと叩き付けると、目も眩むような、目映い閃光が校庭を満たした。
 残念ながら、マグロの被り物が吹き飛んでも、マグロガールはさしたる反応を見せなかった。その派手好きとは思えぬ興が削がれる様に、ルイアークはつまらなそうに舌を打ち鳴らす。
「ちょっとだけヨーー?」
 劣勢をひっくり返すため、マグロガールは浴衣の裾を捲り上げると、浴衣の中から砂の嵐を巻き起こす。
 それによって前衛は手傷を負うが、最早その程度で情勢はひっくり返りはしない。
「結集せよ、遣らずの氷霊。我が敵に寄り添い樹氷の棺となれ!」
 朗々と紡がれるのは、雹による詠唱。校庭に舞う砂塵を吹き飛ばすように、周囲を漂う氷霊が周囲を凍土へと変えていく。マグロガールも例外ではなく、その身体は氷像へと変えられていく。
「(三毛乃さん、お祭り一緒に回ってくれるかな?)」
 フィオが思い出すのは、先程の三毛乃の声援だ。フィオにとって、憧れの人でもある三毛乃に、無様な姿は晒せない。何よりも、楽しいお祭りを邪魔したマグロガールを許せない。
「はあぁッッ!!」
 フィオの決意と共に振るわれたチェーンソー剣は、マグロガールの傷をさらに抉って広げていく。
「痛イ! 痛いヨ!」
 悶え、呻くマグロガールの、本来ならマグロの被り物が守っているはずの頭部。そこは、すでにルイアークによって破壊されている。
 ゆえに、
「ばっちり撃ち抜いてやるぜ?」
 理沙の卓越した技量から放たれる、素早く正確無比な弾丸が、無防備なマグロガールの頭部を打ち抜いた。
 ……祭り囃子が、また始まった。


 満月のような光の球が空にゆらゆら浮かんでいる。
 周辺のヒールや光源となったランプなどを回収した後、
「終わったねー」
 言いながら、陽葉は大きく伸びをした。陽葉に続くように仲間達がそれぞれに労いの言葉をかけ始める。
 そうしていると、いつの間にか陽葉の手は春撫の手に包まれていた。
「ふぅ、これでまた皆さん、お祭りを楽しめますね」
 耳元で囁く春撫に、陽葉はこそばゆそうに柔らかな笑みを浮かべた。
 そのすぐ傍では、理沙が雹の腕を強引に組んで、お祭り会場へ引っ張っていこうとしている。
「無事に片付いたし、あたしらも祭りを楽しむとするかな。ほら、行くぞ雹!」
「よし、帰るぞ! って、……は? マジかよ、お前……その有り余る体力をもっと別の事に使ったらどうだ?」
 雹は面倒そうに抵抗するが、こうなった女の子への抵抗はするだけ無駄というもの。
「胸当たってるだろ? 雹には一生縁がなさそうなんだから、感謝していいぞ!」
「ば、ばか!」
 そんな軽口を叩き合いつつも、結局は仲が良さそうである。

 フィオは、三毛乃と二人でお祭りを満喫している。お祭りは大きな混乱もなく、無事に再開されていた。
「フィオ嬢、こうやるんでございます」
「わっ、三毛乃さん、すごい!」
 三毛乃が射的で見事に景品を落とし、フィオが感嘆する。
 それに負けじと隣で同じく射的に興じる陽葉も、
「クイックドロウ!」
 なんて冗談を言いながら、見事に春撫の欲しがったぬいぐるみをゲットする。
「えへへ、ありがと……♪」
 お礼に春撫は、自分で射的をした時にぬいぐるみの変わりにゲットしたお菓子を手にして、陽葉の口元に「あ~ん」と持っていき、食べさせてあげた。
 その幸せな光景を見て、フィオと三毛乃も顔を見合わせてクスクスと笑った。

 ルイアークと弥奈は、林檎飴を舐めながら、プラプラと出店を見て回っていた。弥奈が、マグロガールの林檎飴を見て、食欲が触発されたためだ。
 このお祭りの雰囲気のせいもあるかもしれない。なんというか、童心に返ったような気にさせる、穏やかな空間。
「マグロガール、生臭かったですね」
「……そうだな」
 最も記憶に残っているのがそれだった。
「マグロ……あ、そうだ。この後、お寿司でも行きませんか? いや、ほら? マグロ繋がりで?」
「この辺にこんな時間までやってる寿司屋がある? ねえ?」
 唐突なルイアークの提案は、冷静な弥奈によって却下されてしまう。
「仕事で来てなければ……有枝ちゃんの浴衣姿を見ることができたのでしょうか……」
 ジト目で弥奈に見られ、幾分しょんぼりした風にルイアークが呟く。
 すると、
「……またな」
 その時の弥奈の顔は、ルイアークからは見ることができなかった。
 でも、今日だけはそれでいいような気がした。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。