1つより2つがいいに決まってる!

作者:麻香水娜

 とある営業時間の終了したアニメショップの裏手にある空き地――。
『ツインテール! 至高!!』
 全身に羽毛を生やしたビルシャナが声高に拳を握り締める。
「ツインテのツンデレって王道でいいよなー」
 その周りにいた20代半ばの男性がうっとりと呟いた。
『うむ! ツンデレでも元気っ娘でも似合う至高の髪型である! しかし! ポニーテールは駄目だ。何故高い位置で縛っているのに1つしかない! 魅力が半減だ!』
「そうよね……まず髪を2つに分けないといけないっていう手間があるからこそ、可愛さが際立つんだわ」
 熱く語るビルシャナに30代前半の女性が頷く。
『やるならツインテール! ポニーテールなど必要ない! そんな髪型の者にはしっかり指導してやらねばなるまい!』
「おー!!」
 ビルシャナの言葉に、周囲にいた20代~30代の男女7名が拳を振り上げた。
 
「ボルドウィンさんの危惧した通りでしたね……」
「いたのか」
 祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が軽い溜め息を吐くと、ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)が表情を変えぬまま、ただ一言だけ呟く。
 ビルシャナ化してしまったのは、このアニメショップの常連だったアニメ好きな20代後半の男だった。
 彼はツインテールの美少女が大好きで、逆にポニーテールがどうにも好きではなかったらしい。
 同じように頭の高い位置で縛っているという点で、ポニーテールを敵視するようなところもあったのである。
「髪型を目の敵ってなんだよ」
 ぼそりと呟いたルースに、蒼梧は無言のまま再び溜め息を吐いた。
 時刻はアニメショップ閉店後の夜20時すぎ。
 このアニメショップはビルに入っており、ビルの裏手にある空き地で7名の男女が話を聞いている。
 幸いな事にこの空き地には人気はいない。
 ビルシャナ化した人間の言葉には強い説得力があり、このままでは配下になってポニーテールの女性を襲いに行ってしまうだろう。
「配下になってしまうと、サーヴァントのような扱いになって、戦闘に参加してきます」
 配下化阻止の説得には正論よりもインパクトが重要だと続けた。
「それと、ビルシャナの能力ですが――」
 孔雀の形の炎を放つ単体攻撃、破壊の光を放つ列攻撃、意味不明な経文を唱える単体攻撃があり、全て距離は関係ないと説明する。
「人を見た目で判断すべきではない、とはよく申しますが……髪型だけで判断する等……何の罪もないポニーテールにしてる方が襲われる前に、どうかこのビルシャナの撃破をお願い致します」


参加者
藤・小梢丸(カレーの人・e02656)
エルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)
ピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564)
花唄・紡(宵巡・e15961)
ミア・フィーネ(寂寞の夜明け・e20536)
マーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659)
真神・小鞠(ウェアライダーの鹵獲術士・e26887)
高円寺・杏(ヴァルキュリアのミュージックファイター・e28520)

■リプレイ

●ポニーテールだって素晴らしい!
「君たち、ポニーテールの良さを全然わかってない!」
 ピンクのウェーブがかかった髪をポニーテールにした花唄・紡(宵巡・e15961)がビシっと声を割り込ませる。
『何だお前は!』
 演説の邪魔をされたビルシャナが怒鳴りつけた。周りにいた信者達も紡に注目する。
「運動の時、咄嗟にポニーテールにするのって可愛くない?」
「そう、後ろで一つにさっと纏められてお手軽簡単。それでいてお洒落さを損なわない、うなじとの対比がまさにグッド!」
 紡の言葉を補足するように藤・小梢丸(カレーの人・e02656)が、その場でくるりとターンして揺れる髪から覗く白いうなじを見せ付けた。
「すっきり纏めた髪が見せる普段と違う姿。うなじ。顔のライン」
 どうよ、と言わんばかりに紡もターンして柔らかなピンクの髪と顔からうなじのラインを強調。
「小鞠、髪の毛短いけどポニーテール上手にできたよ!」
 肩に届かない短い髪をポニーテールにした真神・小鞠(ウェアライダーの鹵獲術士・e26887)も、2人のようにくるりとターンする。
「このくらい髪の短い子がするポニーテールも活発で可愛い印象に!」
 小鞠の後ろに移動して肩に手を置いた紡は、その可愛さを力説した。
 ストレートのポニーテール、ウェーブがかかった柔らかなポニーテール、短い髪をキュっと纏めた小さなポニーテール。
 三者三様のタイプの違うポニーテールが並ぶ。
「運動とか料理する時に咄嗟にするポニーテール……」
「元気っ娘のピョンピョン跳ねるポニーテールか……」
 2人の男性信者が何か胸に響くものを感じたらしく、3人の事をじっと見つめる。
『目を覚ませ! あんなもの手間をかけない怠惰な髪型!』
「そうよ! ツインテは2つに分けてバランスを考えて時間をかけるからこそ可愛いの!」
 ビルシャナを援護するように女性信者が声を上げた。
「小鞠、頑張ってポニー作ったんだよ。短いから髪の毛落ちちゃってまとめるの大変だったんだよ……」
 自分の頑張りが認められなかった小鞠が、しゅんと落ち込んで下を向いてしまう。
「でもさ、ツインテールが良いとしても学生までじゃない? いい年したおばさんが似合うか疑問だわ」
 落ち込む小鞠を背後に庇うように進み出た高円寺・杏(ヴァルキュリアのミュージックファイター・e28520)が、静かに口を開いた。
 彼女もきっちり綺麗にポニーテールを結い上げている。
「それに…こうするとすっきりしたうなじも見えていいと思わない?」
 杏は、3人のようにくるりとターンをする事はなかったが、少し俯くようにしてうなじを強調させた。
『お前ら! うなじうなじと言うが、ツインテだってうなじはすっきりしている! それに、歳を重ねてもツインテが似合うよう見た目を若く保つ努力をする。素晴らしいではないか!』
「やはりポニテよりツインテだな……」
 年齢の事を言われて揺れる信者達も、ビルシャナの言葉で思い直してしまう。
『故に! ポニテなど要らぬのだ!!』 

●1つより2つなら3つでどうよ!
「そんなにツインテールがいいの? ツインテールの良さ、もっと聞いてみたいな」
 ポニーテールテの魅力が通じないと判断したミア・フィーネ(寂寞の夜明け・e20536)は、空気を変えようとふわりと微笑んだ。
「ツンデレが勢いよく顔を背けたときに踊る2つの束!」
「元気っ娘が飛び回ると左右が少しずつ違う動きでふわふわ揺れるシルエットなんかもいいぞ!」
「ツインテの女の子って笑顔がすっごい可愛いと思うの!」
 信者達は口々に良さを語りだす。
「なるほど……じゃあ、このお団子ツインテールはどうかな?」
 ミアは長い緩くウェーブの髪を使って、2つに分けた髪で小さなお団子を作ってからのツインテールを作っていた。
『うむ。中々良いではないか。ツインテールにリボンをつける、コサージュをつける、お団子にする。ツインテのアクセントになってどれも良いではないか!』
 ツインテを少しアレンジしたミアの髪型は、ビルシャナのお気に召したらしい。
(「あ、あれ……何か思ってたのと違う反応……?」)
 ミアは予想とは少し違う反応をされて少し困惑したような顔を浮べた。
「皆さんはこういう髪型がお好きなのですわよね?」
 そこへ、縦ロールの髪をツインテールにしたエルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)が微笑みかける。
「良い! ツインドリル! お嬢様系の鉄板!!」
 信者達はエルモアの髪型に歓声をあげた。 
「でも、これをこうすると……」
 さっとツインテールを解いて、両方の耳の横髪を一房ずつとって後頭部でリボンで纏め直す。
「そう! わたくしの様にゴージャスでエレファントな淑女は勿論、縦ロールのツンデレもまた王道ですわ! ツインドリルではなくても縦ロールの素晴らしさを知りなさい! おーっほっほっほ!」
 高らかに笑うエルモアの勢いに、信者達は押され、ビルシャナさえも口を挟むのを忘れてしまっていた。
(「エレファントって、象ではござらんか……?」)
 心の中でツッコミを入れたマーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659)は、水を差すのは良くないと口には出さなかったが、すっと前に出る。
「髪型一種類を限定的に愛することは悪いことではござらんですが、他を悪とするその考え方はいかんのですぞ!」
 びしっと指を指したマーシャ。髪型は普段通りのツーサイドアップ。ポニーテールでもツインテールでもない。
「拙者のこの髪型も、そして……」
 マーシャは、手首にかけていた髪ゴムで、ツーサイドアップはそのままに後ろ髪をさっとポニーテールにして、トリプルテールにした。
「このトリプルテールも! 全部まとめて拙者なのでございまする!」
 髪型が変わっても自分は変わらない。好きなキャラが違う髪型にしていてもそのキャラは変わらないだろうと。
 ビルシャナがエルモアに押されてしまった隙をついてマーシャが力説すると、圧倒されていた信者達にざわめきが起こる。
「縦ロールにトリプルテール……合わせましょう」
 ピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564)は颯爽と前に進み出て、くるりとターン。長さも量も印象的な縦ロールの髪をトリプルテールにしていた。
「一見、ツインテールに見えるが角度によってその見え方が変わるこのトリプルテール……1つより2つの方が良いと言うならば、2つより3つが更に良いと言う事です。ツインテールを越えるこの髪型に免じて矛を収めてください」 
 何処かぼんやりとした雰囲気のピコが表情を変えぬまま続ける。
「な、なんだ、あの髪……」
「2つより3つとかそれよりあの量……」
 エルモアが圧倒し、マーシャがざわつかせた信者達は、ピコの髪のボリュームに息を飲んだ。
「ぇ……な、何だアレ!?」
「ヒッ! 化け物!!」
 すると、4人の信者は次々に顔を青褪めさせる。
「助けてくれ!!」
「イヤー!!」
 目が覚めた4人の信者達は一目散に逃げ出した。

●一般人を片付けてから態勢をまずは準備!
『ツインテが至高なのである!! 縦ロールもツインテにしてツインドリルがいいのだ!! トリプルは多すぎだ!!』
 叫ぶビルシャナが、尾がツインテールのようになった孔雀の形をした炎をピコに向けて放つ。
「させない」
 咄嗟に杏がピコの前に立ちはだかり、その攻撃を代わりに受けた。
「いくよ」
 ミアが爆破スイッチを押して前衛の仲間達の背後にカラフルな爆発を起こして士気を上げると、エルモアが女性信者の1人を手加減して殴る事で気を失わせる。ミアのサーヴァントであるリーチェも大柄な男性信者に飛びついて引っ掻いた。
「ツインテールは両方のバランスを取らなきゃカッコ悪いんだぞ。髪型を整える方の苦労とかも考えたことあるのかぁぁぁっ」
 小梢丸は恰幅の良い男性信者を手加減しながら蹴り飛ばす。
「さぁ、残るはビルシャナだけですわ!」
「ビルシャナって一つの意見に凝り固まっててほんと頭悪いよね!」
 エルモアが声を上げると、紡は前衛の仲間達にメタリックバーストを使って超感覚を覚醒させた。攻撃を確実に当てる為に。
 更には杏の傷を多少回復して足元に纏わり着く孔雀の形をした炎も消し去り、杏のサーヴァントであるテレビウムは、傷つく主人の前で応援動画を流してその傷を完全に癒す。
「凍らせるでござるっ」
「小鞠必殺、肉球ぱんち!」
 マーシャが氷属性の騎士を召喚すると、同時に飛び出した小鞠が気合を入れて思いきりビンタした。
「ダミー投影開始。パターンは命中支援でランダムに。今のうちに、態勢を整えて下さい」
 ピコは説得の為に結っていた髪を解くと、見事な戦場に散布した攻撃的な支援をするようプログラムしたナノマシンに、前衛の仲間達のホログラムを投影する。
「助かるわ」
 杏がダメージを回復してくれたミアとテレビウムに感謝を伝えると、支援がかかった前衛の仲間達も力強く笑いかけたり、言葉を喋る事のできないサーヴァント達も体で感謝している事を表現した。

●女の子はどんな髪型でも可愛い!!
『ツインテが最高! ツインテが至高!! ポニテもそれ以外も不要!!』
 叫んだビルシャナは、エルモアに向かってぶつぶつと意味不明な何かを唱え出す。
「させないよっ」
 ミアがエルモアの前で両手を広げた。すかさずリーチェが清浄の翼を使い、主人のダメージを僅かながらに癒し、前衛の仲間達に守護をつける。
「助かりましたわ……カレイド散布!」
 ミアに礼を言ったエルモアは、鏡のような特殊兵装『カレイド』を無線制御で展開させてレーザーを発射。鏡に反射しながら変則的な動きでビルシャナを貫いた。
「幸いはいつも君の傍に」
 紡は、催眠がかかってしまったミアの万が一に備え、その身に宿す白き龍の魂を喉に憑依させて咆哮する。災いを取り払われ、心を希望で満たされたミアは頭をはっきりさせて傷を完全に癒した。
 小梢丸が右側からドラゴニックスマッシュを叩き込むと、左側からは杏が戦術超鋼拳を叩き込み、正面からテレビウムが顔から閃光を放つ。
『ぐぬぬ……』
 見事な連携攻撃を受けたビルシャナはよろめきながら瞳に怒りの炎を宿した。
 間髪入れずにマーシャが光る猫の群れのエネルギー体を召喚して襲いかからせると、小鞠が飛び上がってスターゲイザーで機動力を奪う。
『ぐあっ』
 更なる連携攻撃を受けると、その反動で氷属性の騎士に貫かれた傷が凍傷のような鋭い痛みを与え、ピコは再び先程使った多重分身の術を今度は己にかけた。
『全てツインテになれば良いのだー!!』
 叫ぶビルシャナは前衛の4人と2体のサーヴァントに向けて破壊の光を放つと、リーチェがエルモアを庇って倍のダメージを受ける。
「いきますわよっ」
 よろよろと落ちるリーチェの後ろからエルモアが声を出して仲間にタイミングを知らせながらフォートレスキャノンを放つと、小鞠が飛び掛って肉球パンチという名の強烈なビンタを、杏がスターゲイザーを撃ち込んだ。
「豊穣なる大地の恵みを受けてほんわか辛い、御出でませい華麗魔神! ああ、カレー食べたい……」
 一気に連携攻撃が決まってよろめいたビルシャナに、小梢丸がカレーを食べたいという願いを高めてムキムキマッチョな華麗魔神を顕現させる。その魔神のホットな拳でビルシャナを粉砕した。
『ギヤァァアアアアア!! ツインテールよ! 永遠にーーーー!!』
 断末魔の叫びを上げたビルシャナは、パァっと光になって消えてしまう。
「ツインテールだって、ポニーテールだって、まとめてなくたって、女の子はお洒落のために一生懸命なんだよ。似合う似合わないだってあるし。その日の気分だってあるんだから!」
 光となって消えたビルシャナに向かって小鞠がぷんぷんと息巻いた。
「そうだよね。皆違って皆いいんだよね」
 ミアが自分を回復してくれたり仲間の盾になったリーチェを撫でて労いながらふわりと微笑む。
「凝った髪型は髪型で女の子の努力が感じられて可愛いし、シンプルな髪型も時間がなかったかな、不器用さんができる精一杯なのかな、って色々想像できていいもんね」
 紡も小鞠やミアに同意して明るく笑うと、他の仲間達も頷いた。

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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