舞い降りたるは、睡蓮の花

作者:長野聖夜

●明け方の悲劇
 陽の光が昇り始めて間もない頃。
 一人の庭師の様な恰好をした男が、水に浮かぶ花々の手入れをしていた。
「うん……今日も良い花を咲かせてくれよ」
 とある日本庭園にある池の畔。
 彼……拓哉は、朝から昼にかけて咲きほこる睡蓮の花の美しさをやってきた人たちが鑑賞するのを楽しめるように、そうしやすい様に華の手入れと周囲のゴミの片付けをするボランティアだった。
 ――ハラハラ。ハラハラ。
「? こんな時期に……雪? いや、花粉……か? でもこんなに普段目に見える筈が……」
 怪訝そうに拓哉が首を傾げた時。
 空中から舞い降りたそれが、日が昇りきるのを今か、今かと待ち受けている睡蓮たちへと降り注ぐ。
 それと同時に……突如として、無数の葉を伸ばして睡蓮の花が拓哉に襲い掛かった。
「う……うわぁ!?」
 何が起きているのか分からない拓哉の悲鳴が、明け方で人気のない日本庭園に響き渡った。

●襲い掛かるは睡蓮の花
「レイラさん。貴女が懸念していた事象が予知されました」
「えっ?」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の呟きに、それまでじっと手に持っていた本に集中していたレイラ・クリスティ(氷結の魔導士・e21318) が顔を上げる。
「とある日本庭園に朝~夕暮れ時まで咲いている睡蓮の花が明け方に何らかの胞子を受け入れて攻性植物化してしまい、そのお世話をしている拓哉さん、と言う方を襲って取り込んでしまう、という事件が起きることが予知されました」
「そうですか。それでは……」
 レイラの呟きに、セリカがはい、と1つ頷く。
「その日本庭園に向かい、攻性植物化した睡蓮の花を撃退して来てください。……これ以上の被害の拡大を抑える為にも」
 セリカの言葉に、レイラとその場に集ったケルベロス達が其々の表情で頷いた。

●戦力分析
「まず、攻性植物化した睡蓮の花ですが、一先ず配下などはいません。介入できるのは明け方ですので、周囲に人気もありません。気になるようでしたら、簡単な人払いをしておけばよいと思います」
 セリカの言葉に、頷くレイラ。
 が……程なくしてレイラは表情を曇らせる。
「その……ところで、拓哉さんと言う方はどうなっているのでしょうか……?」
「……残念ながら、現場に到着した時には既に攻性植物に取り込まれて一体化してしまっております。その為、通常通り攻性植物を倒せば一緒に死んでしまうでしょう」
「……救う方法は、あるのでしょうか?」
 レイラの問いに、微かに考え込むような表情になりつつ、頷くセリカ。
「拓哉さんにヒールを掛けながら戦えば、或いは救出することが出来る可能性はあります。ですが、かなり厳しい戦いになるでしょう。特に、今回の攻性植物のポジションはジャマ―です。……更に温帯性の植物と言うこともあり、寒さや暑さ、毒に強いと言う特徴があります」
「寒さや暑さに強い、ですか……」
 セリカの呟きに頷くレイラ。
「はい。ですので、もしも拓哉さんを救いたいのであれば、長期戦を予め想定した布陣が必要になりそうです」
「分かりました」
 セリカの言葉に、レイラ達は其々の表情で返事を返した。
「睡蓮の花に取り込まれてしまった拓哉さんを救うことは非常に難しいと思います。特に、今回の様に温度の変化に強いと言う特徴を持った攻性植物であれば、尚更です。それでも、もし叶う事ならば……」
「拓哉さんも救い出してほしい、という事ですね」
 セリカの呟きをレイラが引き取ると、セリカがそれに小さく頷く。
「ですが、其れで皆様に何かがあればそれこそ本末転倒です。どうか無理だけはなさらぬ様。……どうか、お気をつけて」
 セリカに見送られ、レイラとケルベロス達は、静かにその場を後にした。


参加者
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
入谷・クリス(カレイドプリズム・e02764)
リーア・マルデル(純白のダリア・e03247)
リィンハルト・アデナウアー(燦雨の一雫・e04723)
霞・澄香(桜色の鎧装騎兵・e12264)
レイラ・クリスティ(氷結の魔導士・e21318)
ガラティン・シュミット(遺志苛まれし医師・e24979)

■リプレイ


 ――早朝 日本庭園
「こんなにも綺麗な場所……きっと、とても大事にされていたのですよね」
 水辺に浮かぶ攻性植物化していない睡蓮の花を見て、レイラ・クリスティ(氷結の魔導士・e21318)が、溜息を一つ。
「折角の綺麗な睡蓮だけど、人を害するならどうにかしなきゃ、ね。出来ることなら拓哉君も睡蓮も両方助けたいけど……」
(「攻性植物化しちゃう子達って、どんな気持ちなんだろ……望んでそうなるのかな? それとも――」)
 レイラの言葉にリィンハルト・アデナウアー(燦雨の一雫・e04723)が、ふと思う。
 此方からの敵意を感じ取ったか、周囲に殺気の混じった甘い香りを発する拓哉を取り込んだ睡蓮の花の攻性植物。
 拓哉に育てられていた時、この睡蓮はどんな思いを抱いていたのだろう。
「これ以上、誰も巻き込みたくないから……」
 シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)が決意を固め、攻性植物の殺気に対応する様に、周囲へと殺気を放つ。
 放たれた殺気が周囲を覆い、一般人の侵入を防止する。
(「今度こそ、絶対助けるんだから……!」)
 両手をギュッ、と握り締め、不退転の覚悟を抱くのは、入谷・クリス(カレイドプリズム・e02764)。
「そろそろ来そうですね。……皆さん、行きますですよ」
「ああ。……それにしても花を大事にする人ほど襲われてしまうというのがやりきれないな」
 霞・澄香(桜色の鎧装騎兵・e12264)が戦い慣れた様子で呼びかけると、クリスティ・ローエンシュタイン(行雲流水・e05091)が、強い意志を秘めた眼差しで静かに頷く。
(「私は、あの老人を救えなかった……。あの時の様な想いは、もうしたくないからな」)
 決意と共に静かに呪印を切り、周囲の水辺の澄んだ水を集めて攻性植物の下へと移動させながら。
 

「故郷でよく見た睡蓮は蒼いのが殆どで良いものでしたが、赤い睡蓮も良いものですね。……それが襲い掛かって来なければ、ですが……」
 細剣状のライトニングロッドの柄頭から、雷を放ち、シル達前衛を守る結界を張りながら溜息交じりに呟いたのは、ガラティン・シュミット(遺志苛まれし医師・e24979)。
「グ……グオオオオ!」
 攻性植物とも、拓哉本人の苦しみとも取れる絶叫を上げながら、睡蓮が周囲の水と、他の睡蓮たちと融合し『埋葬形態』となって襲い掛かる。
 だが……。
「ただ静かに時を待つ」
 それを予期していたかのように術式を完成させたクリスティが呟き、澄香達を水に引きずり込もうとしていた攻性植物の動きを僅かに鈍らせた。
「出来ることなら、周囲の睡蓮さん達も助けてあげたいって思うわ~」
 リーア・マルデル(純白のダリア・e03247)が間延びした口調で呟きながら、攻撃の要であるシルを、リーアのウイングキャット、ダールが、澄香を庇う。
 大量の水を飲まされながらも、バタバタとダールが羽を羽ばたかせ、リーア達を守る結界を生み出すその間に、リーアが睡蓮との間合いを詰め、マインドソード。
 指に嵌めたリングから生み出された剣が袈裟懸けに睡蓮を斬り裂いた。
「ちょびっと痛いかも知れないけど、少しだけ我慢してね?」
 応援の声を掛けながら、シルが詠唱を完成させる。
「火よ、水よ、風よ、大地よ……。混じりて力となり、目の前の障害を打ち砕けっ!!」
 4大要素を1つに収束させた大砲の様なエネルギー弾による一撃を叩き込み、睡蓮が驚愕した様に踏鞴を踏む。
 そんな睡蓮にシルがニヤリと笑った。
「切り札は最後って思ってた? ふふっ、最初っから、全力全開で撃ち抜かせてもらうよっ!!」
「最初の内は、全開で行く必要がありますしな」
 澄香がオウガメタルを『鋼の鬼』化し、横合いから殴打を叩きつける。
「舞い散れ! 光の剣刃!」
 殴打により、よろける睡蓮の懐に素早く飛び込み、クリスが至近距離で無数の光の剣を生み出す。
 素早い動きと同時に放たれたそれに体の一部を貫かれ、苦し気なうめき声を上げる。
「う……ぐぅ……」
「必ず助けます、頑張って……!」
 拓哉を励ましながら、レイラが手に持つライトニングロッドから雷を放ち、クリス達、中衛を守るための結界を生み出す。
 拓哉を救う為の要は、リィンハルト。
 万が一彼が催眠を受けてしまえば、拓哉の救出の失敗は避けられない。
「ねぇ、睡蓮ちゃんは、拓哉君を取り込むこと、どう思っているの?」
 睡蓮に囁きかながら、リィンハルトがライトニングウォール。
 レイラの雷の結界と重なり合い、自分達の周囲を守る壁を強化していく。
「ガァァァァァァ!」
 問いには答えず人を喰らう顔の形を取り、リィンハルトを狙う睡蓮。
 その攻撃に肩を喰らわれて鮮血を飛び散らせ、苦痛に顔を歪めながらもリィンハルトは続ける。
「睡蓮ちゃんもお世話してくれてた拓哉君を取り込んじゃったんだよね。寂しいのかな、愛しいのかな。それとも……」
 自分から離れようとする睡蓮の傷に魔術切開とショック打撃による強制手術を行いながら問いかける。
「――大好きな人に触れたい……もしかしたら、ただそれだけなのかな?」
 彼の呟きを洗い流すかの様に、乾いた風がガラティンたちの間を駆け抜けていった。


(「同じ失敗を何度も繰り返すわけには行かない」)
 内心で呟きながら、クリスティ半透明の『御業』を鎧化させ、その身に纏う。
「えいっ!」
 軽快に周囲を走り回りながら、クリスが集中力を極限まで高め、指を一つ鳴らす。
 パチンッ! という音と共に、睡蓮を爆発させて手傷を負わせる。
 続けて澄香が旋風の如き回し蹴りを攻性植物に叩きつけ、シルが大きな翼の意匠を持つ白銀で装飾された空靴に、風の魔力を宿して膝蹴りを叩き込んだ。
「ガ……ガハッ……!」
 痛みからか、喀血する拓哉の傷を心配し、リィンハルトが強制的な外科療法を行い、その傷を癒していく。
「今の内に……!」
 僅かに戸惑う睡蓮の花の様子を見ながら、レイラがその背に何処か清澄な水を思わせる翼を展開し、リーア達前衛を回復していく。
「まだ、大丈夫そうですね~」
 的確に状況を見極めたリーアが接近して縛霊撃。
 霊状の網で睡蓮を締め上げ、負傷を蓄積させていく。
 一方で、ダールは再びバタバタと風を起こして、中衛のクリス達を守る結界を生み出した。
「ダルちゃん、その調子よ、もうちょっと頑張って~」
「まだ、完全ではありませんか」
 ガラティンがレイピアの柄頭から雷を放ち、後衛のクリスティ達を守るための結界を生み出す。
 長期戦に備えて防御を固めていく間に、睡蓮が再び埋葬形態となり、周囲の池と、大気中の水分を結合させ、強大な水流を生み出した。
 生み出された水流が、ガラティン達中衛を襲った。
「! こちらですか……!」
 ダールが咄嗟にリィンハルトを守るが、激流に飲まれたガラティンとクリスが僅かに意識を朦朧とさせている。
「まずいですね……」
 レイラが呟きながら、再びオラトリオヴェール。
 翼から生み出されオーロラがガラティンたちを包み込み傷を癒す。
「くっ……ええいっ!」
 激流から何とか脱出したクリスが光の剣刃を生み出し発射するが、睡蓮はその光刃の軌道を見切り、全て叩き落としてしまう。
「まだまだ、戦いは始まったばかり……!」
 先程自分に施した雷の結界に触れることで意識を保ちながら、ガラティンが接近してシャドウリッパー。
 レイピア状のライトニングロッドの変則的な刃が、クリスティとシルの攻撃で足にきていた睡蓮の足元を更に抉る。
「皮肉なものだな。あの時の花と似たような色か」
 かつて、救えなかった老人のことを思い出して胸を抉られながら、クリスティが動きを止めた睡蓮を、澄んだ水を槍状にして、地面から撃ち出す。
 それは、睡蓮の足を貫き、その場へと睡蓮と拓哉を縫い止めていた。
「い、痛い……た、助けて……」
「頑張って……! 必ず助けるから!」
 シルが応援の声を掛けながら小柄な体で素早く懐に飛び込み、降魔神拳。
 睡蓮の持つ高い生命力を吸収する隙を突いて澄香が戦術超鋼拳を放ち、その身を射抜く。
「拓哉くんのこと、死なせたいわけじゃないって思うから。――だから、その人の事どうか離してあげて?」
 ダールに守られ無傷だったリィンハルトがウィッチオペレーション。
 引き剥がすにはまだ時間が掛かりそうではあるが、何時か引き剥がせるようになることを信じて傷を癒す。
 だが、先程よりも傷の治りが悪い。
「そうですかぁ……」
 状況を判断したリーアがマインドリングから光を放ち、睡蓮の身を包んで癒す。
 睡蓮の蔓が少しだけ太くなったようにも思えるが、拓哉の命には代えられない。
「う……うう……」
 苦しげに呻く拓哉を嘲笑うかのように、全身に纏わりつく花を咲かせてまだ明るみ始めている空から漏れてくる日の光を吸収し、ビームの様に撃ち出してくる睡蓮。
「あうっ……!?」
「シルさん!」
 光線がシルの肩を射抜き、溢れ出る血を抑えるべく、レイラがウィッチオペレーション。肩から広がりかけていた炎傷を食い止める。
「レイラさん、ありがとねっ!」
 礼を述べながら、シルが再び精霊集速砲。
 四大要素を収束された術弾が、容赦なく睡蓮を射抜こうとした矢先に、術式の中に仕込んで置いた追加術式を起動させ、圧倒的な熱量で睡蓮を嬲る。
「ぐっ……ゴアア……?!」
「ガラティン君、サポートお願いだよ」
「任せろ」
 強烈な一撃によろける睡蓮の様子に、拓哉への致命傷を危惧したリィンハルトが緊急手術を行いつつ、呼びかける。
 呼びかけに応じてガラティンがウィッチオペレーションで睡蓮を回復。
「こちらは攻撃を続けるでありますよ、クリスティさん」
「了解した」
 澄香がクリスティに呼び掛けつつ、旋刃脚。
 クリスティがゲシュタルトグレイブに稲妻を纏わせて一突きを放ち、その急所を穿つ。
「回復は任せてね!」
 自分の攻撃が見切られつつあることを悟ったクリスが自らの纏う攻性植物を黄金の果実形態へと変形させてリーア達を回復。
「ありがとぉ。ダルちゃん、私達は、攻撃をするわよ~」
 リーアがマインドソードで睡蓮を斬り払うと同時に、ダールが爪を伸ばしてガリガリと睡蓮を引っ掻き、斬り裂いていく。
 こうして、回復と攻撃を同時に行い、睡蓮への負傷を確実に蓄積させていく……。


 ――気が付けば、かなりの時間が経っていた。
 戦略自体は決して間違っていない。
 拓哉を救出する為に、回復を行う役割の者。
 確実に睡蓮に負傷を蓄積させて睡蓮と拓哉を引き剥がすチャンスを伺う者。
 そして、状況に応じて適宜行動を変化させていく者。
 皆が皆、自分が出来る最善の役割を果たしていく。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
 長時間の戦いの中で、澄香達ケルベロスを守り続けて来たリーアの息が荒い。
 ダールもリーアと同じく息を荒げその姿が消えかかっている。
(「こんなことなら……!」)
 敵に攻撃を見切られてしまい、回復に回っていたクリスが臍を噛む。
 自身の動きで相手を幻惑するのではなく、護り手に回っていた方が、より消耗を軽減できたのではないかという悔しさが脳裏を過った。
「絶対助けるから、だから、もう少しだけ頑張って!」
 何度目になるか分からないウィッチオペレーションを行いながら、リィンハルトが拓哉を励ます。
 睡蓮の隙間から顔を覗かせていた拓哉が、僅かに安堵したような微笑を零したように見えた。
「グルアアアアアア!」
 そんな拓哉を自分から奪わせない、という様に。
 睡蓮が絶叫の叫びをあげ、再び周囲の水を操り水流を生み出し、リィンハルトたちを倒そうとするが……。
「耐性があっても、動きを少し止めるだけなら!」
 意を決した表情でレイラが叫び、敵の真下に魔方陣を展開し、巨大な水柱を噴出させる。
 奇襲として放たれたそれに、睡蓮が反射的に後退し攻撃を躱すが、凍り付いた水柱は、睡蓮が生み出した水流を押し留めるには十分な耐久力を有していた。
 パキン、と音を立てて砕ける氷柱。
「……シルさん! 皆さん!」
 その隙を見て取ったレイラの叫びに応じて、シル、クリスティ、澄香が走る。
「拓哉さん! もう少しだけ頑張って!」
 シルが鋭敏な素早さで接近して風の魔力を帯びた回し蹴りを叩き込み。
「必ず、助ける!」
 高々と睡蓮の上空に飛んだクリスティが、唐竹割にルーンアックスを振り下ろし。
「もう、拓哉さんを離すべきですよ!」
 澄香が竜巻の如き刃を纏った蹴りを叩きつけた。
 怒涛の3人の連続攻撃に、睡蓮から遂に拓哉の体が零れ落ちる。
「今度は……絶対に……!」
 崩れ落ちる拓哉の体をクリスが抱き留める。
 だが……それでも尚、拓哉を逃がさんとばかりに捕食形態となった睡蓮がクリスに咬みつこうとするが。
 ダールがその前に立ちはだかり、キラリ、と爽やかな笑みを浮かべて消え去った。
「ダルちゃん、ご苦労様~」
 リーアがダールを労いながら前線に飛び出し、網状の霊力で睡蓮を締め上げている。
「睡蓮ちゃんは、拓哉君の事、大好きだったんだよね? ……御免ね」
 リィンハルトが悲しげに呟き、緩やかな雨の雫を叩きつけ。
「人と植物。どちらも助かる方法は無いものか……」
 誰にともなく問いかけながら、ライトニングロッドに付いた刃で袈裟懸けに斬り裂き、更に腰の斬霊刀を引き抜いて下段からガラティンが睡蓮を斬り上げて。
「無慈悲なりし氷の聖霊よ。その力で彼の物に手向けの抱擁と終焉を」
 レイラが再び精霊術を紡ぎ……氷柱に睡蓮を取り込み……そして砕いた。


「拓哉さん、拓哉さん!」
 睡蓮の攻性植物から救出した拓哉を抱えたクリスが、必死の表情で呼びかける。
「拓哉さん……ですよね? 大丈夫ですか?」
 レイラがそっと近づき、まるで澄んだ水の様に美しい羽を広げ、オーロラを生み出し、拓哉の身を癒す。
 ……程なくして拓哉の胸が上下する様を確認できた。
「任務完了、でありますな」
 意識はまだ失っているが、救出に成功した、という事実に澄香も肩の荷を下ろす様に息をつく。
「無事でよかったんだよ」
 リィンハルトが笑顔を浮かべながら荒れた周囲の修復を行うと、少しだけファンタジックな外見になりつつも攻性植物化せず、無事だった睡蓮の花達が、朝焼けの光に照らされて、美しく咲き乱れる様を目撃した。
(「……貴方とも一緒にあの光景を見たかった」)
 クリスティが睡蓮の花を見ながら、救えなかった老人を思い、その死を悼む。
「……う……うぅ……」
 拓哉の小さな呻き声。
「よかった。帰りましょう。あなたと私たちの日常へ」
 隣人力を使用したクリスの囁きに、拓哉が穏やかに微笑んだような、そんな気がした。

作者:長野聖夜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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