面被りの誘い

作者:狩井テオ

●壱
 とある地方の小さな集落で行われる、仮面祭り。
 顔に被り物をしてあとは自由。屋台をだす主人も、境内を歩く人々も皆被り物をしている。キャラクターものや狐面、おかめやひょっとこ、和洋折衷なんでもあり。
 被り物をしていないと、神社の入り口で狐面を被った二人の男に追い返される。よそからきた人は、残念に思いながら来年は仮面を忘れないと心に誓うのだ。
 神社の奥では、運気を司る謂れがある。祭りに参加する人達はそこへ行き、願いを込める。
 あとは屋台をめいっぱい楽しめば、その集落の大イベントは終わりを告げる。ひっそりとしたささやかなお祭り。
 そこへ、厳密には面被りではない被り物をしたマグロガールが現れた。
 マグロの被りものをした少女は、ちょっとハメを外してしまった外からの人だろうか──集落の人々は遠巻きそう見ていた。
「なにこのお祭り。変なの!」
 道行く人の被り物をかたっぱしから剥ぎ取り、屋台を破壊しつくす。
「こんなお祭り潰してあげる!」
 道行く人達は、すでに阿鼻叫喚。参道を逃げまどっていた。
「ふふふ、被りものはやっぱりマグロに限るよね。他の被り物なんてなくなっちゃえばいいんだ!」
 マグロガールは剥ぎ取った仮面を放り投げて、次の獲物に向かって行った──。

●弐
「エインヘリアルに従う妖精8種族の一つ、シャイターンが行動を開始したよ!」
 ばたばたと現れたマシェリス・モールアンジュ(時計アリスのヘリオライダー・en0157)は何故か頭にキャラクターものの被り物をしていた。
「動き出したのは、マグロの被り物をしたシャイターンの部隊……仮にマグロガールって言うね。……日本各地の祭り会場を襲撃し、一般人を殺害してグラビティ・チェインを得ようとしているみたい。
 祭り会場を狙っている理由はわからないけど、お祭りという場を利用して効率よくグラビティ・チェインを奪う作戦な可能性があるよ」
 マグロガールは一体。配下はいない。
 戦闘場所はお祭りが行われている付近。人混みである参道で戦闘すれば、被害は免れないだろう。
「お祭り会場の人を事前に避難させちゃうと、マグロガールが別の場所を襲っちゃうから注意してね。でも、ケルベロスの皆が現れれば先に皆を排除しようとするから、挑発しつつ人の少ない場所に移動するなりすれば、お祭りの被害も人の被害も最小限に止められるかもしれない」
 皆の作戦に期待するね、とマシェリスは言う。これ、と頭に被った被り物を指差してマシェリスは続けた。
 それを見た綴・誓示(白磁の刀剣士・en0156)は呟く。
「すでに楽しんできた後かと思った」
「そんなわけないでしょ」
 ぷうと頬を膨らませたマシェリスはぷいっと顔を背けた。
「マグロガールを撃破した後は、お祭りを楽しむのもいいかも! お土産話期待してるね!」


参加者
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658)
ロイ・リーィング(勁草之節・e00970)
ディートヘルム・ベルネット(銀色の魔物・e04532)
八朔・楪葉(雲遊萍寄・e04542)
ヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816)
軋峰・双吉(悪人面の黒天使・e21069)
神居・雪(はぐれ狼・e22011)

■リプレイ

●壱
 祭囃子も聞こえぬ静かな夜。秋を知らせる虫の音が響く集落に、またひとり、ひとりと被り物をした者たちが現れた。
 祭りは遠くでひっそり静かに行われている。人々の微かなざわめきだけが、少しだけ祭り会場から少し離れた空地に届いてきた。
 ディートヘルム・ベルネット(銀色の魔物・e04532)は祭り会場から拝借してきたランタンをいくつか空地に置いていく。顔にはガイコツの面をずらして被っていた。
「折角のお祭りを狙うなんて許せませんね……!」
 八朔・楪葉(雲遊萍寄・e04542)は強面の天狗面を被っていた。ディートヘルムにじっと見つめられて、はっとしたように後頭部にずらす。持っていたランタンや簡易照明をぱたぱたと方々へ置いていく。
 シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)も同じように、うまくばらけるようにして照明を設置していく。神居・雪(はぐれ狼・e22011)も最後の一手とさらに光源を増やしていった。
 小さな灯りが照らす空地は、まるで舞台のように丸く何もないところを照らす。

 場所は変わってお祭り真っ只中の会場。
 とある集団を祭り客が遠巻きにしているのは、一風変わった様々な被り物を被る男たち?だった。
「ファ~~マグロの被り物とか有り得ね~~~。被り物系統は“赤いペンギン”コレ一択」
 断言するのは全身ペンギンの着ぐるみのヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816)。顔だけ出ているので係員も迷ったと思うが、通ったのでOKです。
 テレビウムの仮面をつけて一行に混じるのは、八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658)。
「市民の憩いのお祭りを邪魔する悪しきマグロガール許すまじ!」
 そして一等目立つのは、フワフワしたピンク髪をツインテールに束ねた美少女のお面に、明らかな高身長な男子体型をした軋峰・双吉(悪人面の黒天使・e21069)だ。
 何か只ならぬ雰囲気を発していることもあり、祭り客は遠巻きにしていた。
「キャーーー!」
「やめろ!」
 すぐそばで喧騒が響いたのは直後のこと。身を固くして待っていたケルベロス達は各々の役目を果たすために動き出す。
 悲鳴が上がったほうへ走るのは、ヒナタ、東西南北に双吉だ。
 人の流れなど無関係に流れ出す混乱に、どこか優しく微笑んだ狐面をずらしたロイ・リーィング(勁草之節・e00970)は声を張り上げた。
「我々はケルベロスです、敵が現れたので我々とは逆の方向へ逃げてください」
 声を聞き咎めた者は足をゆるめ、ケルベロス一行とは逆の方向へ逃げていく。悲鳴が上がった近くの者に積極的に声掛けをしたことで、安全な避難を確実に支持できた。篠村・鈴音(焔剣・e28705)は逃げまどう祭り客たちを安全な場所まで誘導していく。綴・誓示(白磁の刀剣士・en0156)も手伝い、人の波は一定の方角へ流れ出す。
 悲鳴が上がった先にいたのは、マグロの被り物をしたマグロガールだった。すでに屋台を壊しにかかっている。
「くぁ、だっさ! イマドキマグロの被り物って!」
「なんですって~!?」
 マグロガールが怒りながら振り向く。完全無欠な自分に物言う奴は木っ端みじんとか物騒なことを思いながら振り向けば。
 ペンギンと各自アヤシイ被り物をずらした男たちが立っていた。
「きもい! 被り物きっも!」
 マグロガールの反論に負けず、双吉がニヤリと笑って挑発する。
「自信があるなら追ってきな。俺らについてこれねーならマグロ失格だぜ?」
「むかーっ! 言ったわね、どっちが本当の被り物王座に立つのがふさわしいか見せてあげるー!」
「マグロさんこちら、手の鳴る方へ。ははっつかまえてごらんなさい~」
「むかつくーーー!」
 蝶々と遊ぶように軽やかに飛ぶ東西南北に、さらに怒ったマグロガールの視線は釘づけ。挑発は完璧なまでに成功した。
 がらんどうになった屋台を挟んでケルベロス達はマグロガールに背を向けて走り出す!

●弐
 仲間が待機している空地へマグロガールの挑発しながら誘導する。その間もマグロガールからの執拗な攻撃を受けているが、ディフェンダーのおかげで被害は最小にとどめられた。
 暗がりに浮かぶ舞台に気づいたマグロガールはハッとして危機を感じるが、すでに時は遅く。
 マグロガールを囲むようにケルベロス達が武器を構えて闇から現れた。
「だ、騙し討ち、ちょーずるいんですけど!」
「お祭りをぶち壊すほうが悪いんです! マグロはマグロらしく築地に転がってればいいんです!」
 東西南北が繰り出す、全身を覆うオウガメタルを鋼と化して叩きつける。同じディフェンダー、テレビウムの小金井は応援動画を流し味方を勇気づける。
「くぁ! 全員撃て撃て撃て撃て~~~! のオチ!!」
 赤ペンから号令を受けて何処からとも無く現れた、小型赤ペンギンの群れが戦場に殺到。灯りのステージを、ケルベロス達の足元を小さいペンギンたちが通り抜けていく。小型の赤ペンギンたちは手にした重火器でマグロガールに集中砲火!
 なお命令した本体の赤ペンは腕を組んでふんぞり返り、何もしていない模様。
「ちょっとあんた何もしてないじゃなーい!」
 ぷんすか怒るマグロガール。そりゃ怒る。
「そっちがその気ならマグロガールも負けてられないわね!」
 そう言い、自らに癒しと盾の加護を与える。すかさずそこに肉薄するロイ。
「なんでお祭りを狙うの? 一体何をたくらんでるんだろうね……とはいえ、お祭りを……人々を傷つけるっていうのなら、今は君を倒すだけ、だけれど」
 薄い微笑みを口に宿したロイは、踊るように一撃を落とす。星座の重力を活かしたそれは、全ての加護を無にする重いもの。ふらつくマグロガールに追撃するのは雪。
「ちっ、見た目は変でも、デウスエクスはデウスエクスかよ……!」
 流星の煌めきの一蹴は重い。まだ倒れぬマグロガールにちっと舌打ちをしつつ。雪の傍らを炎を纏って突撃するのはライドキャリバーのイペタムだ。
「ちょこまかと、鬱陶しいやつだな」
 双吉は誘導してきたときの傷を、自らの分身で癒した。
 シィカは味方を奮う歌を奏でる。「紅瞳覚醒」は立ち止まらぬ者たちの歌。愛用のギターを鳴らし、味方の前衛にかけられた加護は堅い盾となり守る。ロックにかける情熱は人一倍。楽しければいいじゃない。
「ボクの歌を聴いて皆頑張るデース!!」
 鼓舞された前衛は力を与えられる。それだけじゃない耳にした味方も勇気づけられる。
 念のためと楪葉が殺界形成を発動させ、攻撃に転じる。対デウスエクス用のウイルスカプセルを投擲した。気持ちは祭りをぶち壊したマグロガールへの怒りと共に。
「ディートさん!」
 楪葉が身を翻したと同時に躍り出たのはディートヘルム。
「焼き尽くしてやるぜ!!」
 狼の獣人へと変化していたディートヘルムから繰り出されたのは、地獄の炎と重力を融合した、巨大な青い炎と化した拳の一撃だった。続けざまに誓示も後方から攻撃を与える。
「くぁ、まがい物はさっさと退散するよ~!」
 ヒナタはドラゴニックハンマーをぶんぶん振り回し、強力な一撃をマグロガールに与える。
「くっ、ペンギンのくせに……!」
 歯ぎしりするマグロガールに、挑発も忘れないヒナタ。
 回復に余裕のあるシィカも攻撃に加わる。流星の煌めきを宿した一撃、飛び蹴りは軽やかにきまった。
「悪い子にはお仕置きデスよ!」
「お祭りとはひと夏の楽しい思い出。それをぶち壊すなんて人間のやる事じゃないですよマグロガール!」
 東西南北は叫び、『東西南北天下』を発動。二重螺旋の如く絡み合い、天へと伸びるケルベロスチェインの中心で火柱が生じる。その巨大な火柱と鎖が不死鳥の幻影を描き、マグロガールを炙りにする!
 高速演算でマグロガールの弱点を、一撃必殺する雪。
「まーだ倒れないのか、よ!」
 雪の一撃にすでに虫の息。
 そこへ双吉の容赦ない攻撃が降る。
「投影、大量受苦悩処。串刺し地獄だぜッ!」
 七本の偽のケイオスランサーと、一つの真実のケイオスランサー。真偽入り混じった攻撃は時に真実ともなる。回避行動をしようとしたマグロガールの行き先を偽物で塞ぎ、最後の本物で貫く。
「なーんてなぁのハッタリだ。まっ、マジモンの地獄行きにならねぇように祈って死にな」
 地面に倒れこんだマグロガールはそれでも立ち上がる。あと一手。
「さぁ、シメオン。毒の味を教えておいで?」
 狼の形をした霊力を武器より作り、マグロガールを襲えと命じる。齧られたマグロガールは激痛に伴い甘美な痛みも感じ、ふらりと膝をつき倒れた。静かな終わりをマグロガールへ。
「一緒に楽しめたら、良かったのに」
 ロイの呟きが、秋を思わせる風に乗って流れた。

●参
 戦闘場所の後片付けを終えたケルベロス達は、各々祭り会場に散っていった。
 人通りが戻りつつある参道は、被害こそ最小に留められたものの、壊された屋台はそのまま営業していた。
 そんな屋台をヒールしつつ、改めてお互いの仮面を見合って、ディートヘルムと楪葉は吹き出した。
「ディートさんの仮面は洋風なのですね。……2ヶ月後くらいに主役になれそうなデザインですね」
 言われたディートヘルムの仮面は、ちょっとリアルな脅かしグッズにありそうなガイコツの被り物。
「去年のハロウィン用に買ったんだけど、使ってなかったから丁度良かったぜ!!」
「今年も被るんですか?」
「考え中だ。っというか、ユズのそれも大概だぞ、チビッ子泣くぞ……。つか、どこで買ったんだそれ?」
 楪葉のは強面の天狗面。これで葉っぱの団扇を持てば、立派にハロウィンの仲間入りができる。
 近くを偶然通った、母らしき女性に手を引かれた少女が二人のほうをまじまじと見つめている。思わず二人も見返してしまえば、瞬間少女は泣き出してしまった。……どうやら両方怖かったようだ。
 二人は顔を見合わせてまた吹き出し合う。
「……屋台回るか!」
「はい!」
 肩を並べて二人雑踏に消える。

 二人並んでクレープを食べる、双吉と鈴音。
 ひょっとこのお面をちょっとずらして、鈴音は苺たっぷりクリームたっぷりのクレープをちょっとずつ齧る。
「ごちそうさまです」
「タイル貸してもらった時の礼がまだだったからな。こんなもんで良けりゃだが」
 双吉は相変わらず、フワフワしたピンク髪をツインテールに束ねた美少女のお面をこちらも後頭部にずらして、チョコバナナクレープを頬張る。チョコスプレーをふりかけてもらって彩りは鮮やかに。
「……双吉さんって義理堅いんですね」
 しみじみと言われ、双吉はがりがりと頭をかいた。
「そのお面も面白いですし」
「似合わないってのは分かってんよ。でも、家の壁に目標をとか張ったりするだろ? そーいうの大事なことだ」
「わかります。大事、ですね」
 大事なことは見えるところにも。心にも。

 東西南北はテレビウムの小金井と手を繋いで歩いていた。テレビウムのお面の東西南北、まるで親子のように。
「七年間ひきこもってたからお祭りも久々だな……子供の頃は家族と地元のお祭りにいったんですけど。あっチョコバナナだ! おいしそう~すいません一つください!」
 小金井が物欲しそうに、東西南北を見上げている!
「すいませんもう一つ追加で!」
 威勢良くかけられた声に「あいよー!」と威勢のいい声が返ってきた。

 笑みを刻んだ狐面でその様子を眺めていたロイは、浴衣だがスチームパンク風の装い。
 ふらりと屋台に、りんご飴の屋台に向かえば。お面の下から明るい声を出して屋台の人も笑顔に。
「わ、この林檎飴美味しそう。鼈甲飴も欲しいなぁ」
「両方買っておいきよ。兄さん、いけめんだからオマケしとくよ」
 店番をしていた老婆に話しかけられ、それならばと思い切って二つ購入。
 帰りもこれで寂しくない。

 神社にお参りをしたヒナタは、境内に屋台を出していた。
「くぁ~ペンぐるみ、ペンぐるみ要らんかね~にぼしもあるよ~」
 売り出した途端、少年少女にペンぐるみは大人気。にぼしは残念ながらあまり売れなかった。
 そのあと表で立っていた狐面の係員につまみ出されたのは秘密。

 愛用のギターを背中に背負ったシィカはドラゴンの被り物をして参加。
 屋台を冷やかし、焼きそばやイカ焼きに舌鼓を打ち、デザートはクレープ。お土産には綿あめ。
 鼻歌混じりに帰路についた。

 楽しいひと時を過ごせば、それだけで救ったかいがあるというもの。
 お祭りは楽しんでなんぼ。壊すものじゃないと改めて思うケルベロス達なのであった。

作者:狩井テオ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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