祭りは派手に!

作者:天枷由良


 とある町の小さな神社で行われている、秋季例大祭。
 子供会が太鼓を叩いて、大人たちが神輿を担いで、屋台が美味しそうな匂いを漂わせる。
 ただそれだけの、ささやかな祭り。
「――つまんねぇな」
 マグロを被って浴衣を着た少女が呟き、いきなり境内に組まれた櫓へ頭突きをかます。
 太鼓を叩いていた子供が落っこちて、スピーカーから流れる祭囃子が途切れた。
「もっと派手にやろうぜ!」
 叫ぶ少女が、手にしていた林檎飴を放り投げる。
 それは人混みで炸裂して、浴衣の人々を吹き飛ばした。
「もっと熱くなろうぜ!」
 少女が、金魚を入れていたと思わしき袋を投げる。
 それは屋台にぶつかるなり、爆炎を巻き起こした。
「あーっはっはー!! 燃えろ燃えろー!!」
 高笑いする少女。赤々と燃える炎が、その背に生えたタールの翼を照らす。
 間抜けな格好をしているが、彼女は妖精8種族が一つ。
 炎と略奪を司る、シャイターンであった。


「ちょっと、変なものを視たわ」
 ミィル・ケントニス(ウェアライダーのヘリオライダー・en0134)は、努めて冷静に切り出した。
「エインヘリアルに従う妖精8種族の一つ、シャイターン。その一部隊……マグロの被り物をした集団が、各地のお祭り会場を襲撃しようとしているの」
 祭り会場を狙っている理由も、マグロの被り物をしている理由も不明だが、恐らく祭りという場を利用して多くの一般人を殺害し、効率よくグラビティ・チェインを収奪するつもりなのだろう。
「……彼女たちの名前は、ずばりそのまま『マグロガール』よ。これが現れるお祭りに先回りして、事件を防いでくれるかしら」
 ミィルが視た祭りは、地方の小さな町で行われているものだ。
「小山にある神社の鳥居を中心にして、まず左右へ真っ直ぐ伸びる小路には、幾つもの屋台が広がっているわ」
 鳥居を潜ると、すぐに三叉の長い階段があり、そこにも屋台が並んでいるという。
「階段は、どれも登り切ると神社の本堂がある広い境内に着くの。境内の中心には櫓が組まれていて、子供たちが太鼓を叩いているわ。その周りを沢山の人が囲んで、踊っているみたいね」
 どこもかしこも人だらけだが、人々を避難させてしまうとシャイターンは別の場所へ向かってしまう。
「ケルベロスの皆が現れれば、シャイターンは邪魔者のケルベロスを先に排除しようとするわ。上手く挑発して人気のない所に誘い込めば、被害も抑えられるかしらね」
 先回り出来ることを活用して、戦場に適した場所や、戦闘開始後に人々を誘導する先などを予め考えておくのも良いだろう。
「今の説明で挙げていった場所以外……例えば本堂の裏手とか、小路の屋台が途切れた先とかは元から人も少ないでしょうし、人の流れをどうにか制御して、戦える空間を作ってもいいかもしれないわね」
 マグロガールの戦闘力自体は、然程高くない。
「頭突きが得意で、他には林檎飴型の手榴弾と、可燃性の何かが入った袋を投げるわ。出てくるのは1体だけみたいね。……あと、マグロ被ってるけど泳げないみたいよ、この娘たち」
 無事に倒せたならば、お祭りを楽しむのも良いだろう。
「特に珍しいものの有るお祭りじゃないけれど、お祭りにありそうなものは一通り揃っているみたいだから。飲んだり食べたり踊ったり、好きに出来ると思うわよ」


参加者
夜月・双(風の刃・e01405)
八江・國綱(もののふ童子・e01696)
嵐城・タツマ(ヘルヴァフィスト・e03283)
罪咎・憂女(捧げる者・e03355)
井上・敏道(弔銃・e06000)
タクティ・ハーロット(重力喰水晶・e06699)
コール・タール(多色夢幻のマホウ使い・e10649)
プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)

■リプレイ


 境内から眼下に見る、屋台の数々。
 吊り下げられた提灯。焦げたソースの芳しい香りに、祭囃子の音。
「お祭りワクワクするなー! ホンマ、今日は浮かれても怒られへんやろってな!」
 五感を攻め立てるTHE・祭りという雰囲気にあって、井上・敏道(弔銃・e06000)は高揚感を抑えきれずにいた。
「終わったらたこ焼きとお好み焼きとクレープと焼きそばと……あ! あの『はしまき』ってなんや! オッチャン気になる!」
「……おい中年、はしゃぐのは後にしろ」
 どてかぼちゃのような塊を抱えた嵐城・タツマ(ヘルヴァフィスト・e03283)が、ピシャリと敏道を叱りつける。
 こうして縁もゆかりもない祭りにタツマや敏道が足を運んでいるのは、マグロの被り物をしたシャイターンを狩るため。
 祭りも楽しんでよいとは言われているが、それは戦い終わった後での話だ。
 勿論、それは敏道も分かっている。
「怒らんといてなー。スムーズに避難誘導するために、人の多く集まってる屋台の目星つけとるだけやって」
「……本当かよ」
 一番気にしていたのは『はしまき』ではないかと思いつつ、タツマは問答を打ち切って本堂の裏手へと向かっていく。
「そないなもん一人で担いで、腰いわさんようになー」
「余計なお世話だ」
 振り向きもせず言ったタツマが担いでいる『そないなもん』は、大きな打ち上げ花火の玉だ。
 派手好きという敵――マグロの被り物をしたシャイターンを誘き出す作戦に説得力を持たせるべく、タツマが何処からか調達してきた。
 少々危険なものであるため、恐らくは置物になるであろう逸品。
 軽々と運べているのは、防具から得た特殊な力のおかげであった。
 タツマは涼しい顔で本堂横に張られたキープアウトテープを潜り抜け、裏手に回り込んでいく。
「折角のひと時なのですから、しっかりと守らなければいけませんね」
「あぁ。この後も祭りが続くよう、被害を出さず撃破しよう」
 聞こえてきた声は罪咎・憂女(捧げる者・e03355)と夜月・双(風の刃・e01405)のもの。
 憂女は照明器具の設置を、双はキープアウトテープを貼り付けた後、憂女に手を貸している。
「カメラも、準備終わったんだぜ」
 ミミックを連れたタクティ・ハーロット(重力喰水晶・e06699)にも手伝って貰い、本堂の裏手はちょっとしたイベントスペースのように機材が並んでいた。
 スイッチひとつで、楽しくも厳かな雰囲気を吹き飛ばす色とりどりの光が、本堂を照らしだす予定になっている。
 派手好きのシャイターンを、これで誘いこむのだ。
「……それにしても、なんでマグロの被り物なんだろうね」
 恐らく全員が抱いているであろう疑問を、プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)が口にする。
「……謎だな」
 双も首を傾げるが、こればかりは敵の口から聞き出す以外に解決法がなさそうだ。


 本堂裏での準備を終えて、ケルベロスたちは境内にやってくる。
 人々はシャイターンの襲撃があることなど露知らず、祭囃子に合わせ踊っていた。
 中央に組まれた櫓の上では、子供が張り切って太鼓を叩いている。
(「……あれか」)
 人々の様子をじっと見やっていたコール・タール(多色夢幻のマホウ使い・e10649)は、人混みの中に違和感を覚えた。
 綺麗な輪になっている集団の、流れに逆らっているものが一人、居る。
 幾らお祭りとはいえど、人目を引くマグロの被り物。
 マグロガールが人混みをかき分けて、櫓の真下にやってきた。
 その姿は、仲間たちも確認することが出来たようだ。
(「マグロのセンスは別にして……これ以上ないくらい地球に馴染んでいる気もしますね」)
 浴衣を着て林檎飴などを手にしているマグロガールを眺め、呆れたのか感心したのか、小さく息を漏らす憂女。
 一方のマグロガールは櫓を見上げて、何事かを呟いた後に身体を反らす。
 お得意のヘッドバット。
 それを櫓に向けて放とうとした所で、コールが威嚇するために矢を放った。
「! ……おいッ! 誰だ!」
「やっと来たか。変人。お前用の舞台はこっちだぞ」
 くいっと手招きするコール。
 本堂の裏が、ナイトクラブのようにライトアップされる。
「てめぇ……ケルベロスか!」
 しかし他の一般人とは明らかに違う力を持ったコールの姿を認め、マグロガールは矢のお返しに林檎飴を投げた。
「それはあかんわ!」
「俺達はケルベロスだ! 皆、今すぐ境内から下に降りろ!」
 敏道と八江・國綱(もののふ童子・e01696)が叫んで、林檎飴の前に憂女が飛び出す。
 乾いた破裂音。
 林檎飴手榴弾は一般人にこそ及ばなかったが、憂女の身体を吹き飛ばして境内に混乱を巻き起こした。
「落ち着け! 下だ、下に向かうんだ!」
「お祭りもすぐ再開さしたるから、今はちょい安全な場所に居ってね!」
 國綱と敏道が必死に声を上げるが、地球人の持つ親しみやすい雰囲気や、國綱の凛とした振る舞いでは、混乱を完全に抑えきることが出来ない。
 それでも、逃げ道が三叉の階段しかないことに加え、双が形成した殺界が強制的な排除力を発揮して、一般人たちは雪崩のように境内から駆け下り始めた。
 櫓に登っていた子供たちは逃げ遅れてしまうのではないかと思われたが、意識を完全にケルベロスたちへ向けているシャイターンは、歯牙にもかけない。
 国綱と敏道も懸命に誘導を続けて、やがて二人と一般人たちは、潮が引くように境内から消えていった。
「派手好きってワリにはチンケな爆弾だ、向こうのはアートだぜ」
「なにぃ……?」
「大きな打ち上げ花火だ。お前の林檎飴なんか、霞んじまうくらいのな」
 金魚袋を投げようとするシャイターンを制して、タツマが本堂裏を指差す。
「しかも本堂の裏手はライトアップされていて、言葉では表せない程派手だったな。……その、マグロの被り物も霞むくらい煌びやかだ」
「と言うか純粋に疑問なんだが、なんでマグロの被り物なんざしてんだ? かっこいいと思ってやってんのか? それとも、そーゆー取り決めみたいなのが仲間内であるのか?」
 双とコールが畳み掛けるように言うと、シャイターンは攻撃を止めて口角泡を飛ばす。
「んだテメェ! このマグロをバカにしてんのか!?」
「馬鹿にというか……君、派手好きの割に全体的に派手ではないよねって言いたいんだぜ? 別に君個人が光ったりしてるわけじゃないしだぜ……」
 タクティは言いながら右腕を掲げて、右腕に纏う結晶のようなオウガメタルを見せびらかした。
 主の意志を汲みとったのか、それは提灯や屋台の灯りを反射させて、強く幻想的に輝いている。
「こんな感じで派手さで目を引くような所はないよねだぜ……いや、被り物は……ねぇ?」
「マグロって黒いし暗いし可愛くないし、全然派手じゃないよ」
 派手っていうのはこういう……と、プランも自らを誇示するようにくるりと回った。
 スタイルの良さを引き立てるセクシーコーデは、暗色だらけで奇抜なだけのマグロの被り物と淡い浴衣を纏ったマグロガールより、遥かに派手である。
「まぁどんな理由にしろ、クソダサいのは変わらないがな。……他にも色々と突っ込みたい所はあるが、最後に一言だけ」
 コールはわざわざ一拍置いてから、ついに観念できなくなったように噴き出して言った。
「恥ずかしくないの?」
「は、は、恥ずかしくねぇよ!! マグロだって派手だろぉ! とりあえずデカいし!」
 ごく普通の少女のように、きゃんきゃんと喚いて反論するシャイターン。
「……ていうか、あたいの派手さは見た目じゃねぇ、この手で操る炎の方だぜ!」
「あたい……」
「うるせぇな! いちいち噴くんじゃねぇよ!」
 笑うコールを止められず、悔しげに腿を叩いて金魚袋を投げようとしたところを、今度は立ち直った憂女が押し留める。
「舞台は向こうに……勇姿も記録できるよう準備を整えた」
「あんたの派手っぷりを映像に残すって言ってんだ。まさか、嫌とは言わないよな?」
 何はともあれ、戦場を本堂裏へ。
 呼びかけながらジリジリと退いていく双、そしてケルベロスたちを追って、シャイターンは本堂の裏へと踏み込んでいく。
(「……大の男が寄ってたかって、浴衣少女に見えるアレを人気のないところへ連れ込む、か……」)
 一般人たちが避難していて良かったと、タツマは思った。


「へっ……確かに、あたいに相応しい場所だな!」
 明滅する光を浴びて、マグロガールは満足気に言った。
「だが足りねぇ! もっと、もっと熱がなけりゃなぁ!」
 三度目の正直。放り投げた金魚袋から爆炎が生じて、憂女やタクティを薙ぎ払う。
「あーっはっはー!! 燃えろ燃えろー!!」
 狂気的な本性を露わにする叫び。
 しかしタクティは光の盾を張って熱を軽減し、憂女は――。
「ーーーォォオ!」
 可聴域を超えた龍の咆哮で炎を吹き飛ばすばかりか、周囲のグラビティ・チェインを調節してケルベロスたちの『やりやすい』環境に仕立てあげる。
「行くぜぇマグロ女!」
 タツマは命中率が僅かに上がったことを確かめると、オウガメタルで覆った拳を振り上げ、殴りかかった。
 見た目は少女でもデウスエクス。
 一切の躊躇なく、タツマは上から叩き折ろすようにマグロガールの顔面を打ち抜く。
「っ! ……いいぜいいぜ、祭りも派手に! 喧嘩も派手にやんなきゃなぁ!」
 直撃を受けたというのに、笑って見せるマグロガール。
 そこへ飛び込んだ双が土手っ腹に蹴りを浴びせ掛けると、タクティのミミックが足元に齧り付いた。
「見た目はどうあれ、熱い奴は好きだぜ……勝つのは、俺らだが」
 先程までは笑っていたコールも真剣な面持ちで腕を突き出して、掌からドラゴンの幻影を撃ち放つ。
 あっという間に呑み込まれ、全身を焼かれても、しかしマグロガールは狂喜の声を上げていた。
「たまんねぇぜ! ここで一発、ぶちかましてやらぁ!」
 身体に炎を残したままの突撃。
「もっと女の子らしく、貴女を可愛くシテあげる」
 プランに魔力を秘めた瞳で凝視されても、その勢いは止まらない。
「熱い視線、ありがとよ!」
 そのまま地を蹴って、タツマの元へ。
 鼻先がこすれ合うほどの至近距離から、逸らした頭を力一杯ぶつけようとする。
 タツマも頭突きで対抗したが、体格差からは考えられないほどの衝撃を受けて、吹き飛んだのはタツマの方。
「っ……硬ェ頭だ、脳ミソの代わりに岩とか詰めてんだろテメェ!」
「負け惜しみは情けねぇぜ? それにヘッドバットで負けたら、マグロガールの名折れってんだ!」
 マグロガールは両手を叩いて、次の挑戦者を呼びつける。
 それに応えたのはコール。
 弓を近接武器にして放つ超高速の九連撃が、マグロガールの身体に炸裂する。


 やがて避難誘導を終えた國綱と敏道が戻ってくると、威勢のよかったマグロガールにも息切れの兆しが見えていた。
「食べ物で遊んだらあかんって言われへんかったか! 飴ちゃん投げるなや! もったいない!」
 まるで狙撃手のように卓越した一撃で、敏道は林檎飴を投げようとしていたマグロガールを貫く。
 気圧されたマグロガールの血の気が引いていくのに比例して、國綱の作り出した雷壁も仲間たちを包む炎を鎮めていった。
「くそ、水を差しやがって……」
「――可愛くないのは脱いじゃおうね」
 ふっと息をついた一瞬の隙に、プランがマグロガールの頭を狙って簒奪者の鎌を放り投げる。
 敵を傷つけるのではなく、その被り物を剥ぎとってしまおうと言う魂胆だったが、ぶち当たった鎌はマグロの被り物に弾き飛ばされて、力なく手元へ戻ってきた。
「残念。じゃあ、そのままでいいや」
 あっけらかんと言うプラン。
 そして鎌と入れ替わりに、双と憂女が懐へ飛び込んだ。
「――凍りつけ」
 手元に召喚した冷気を帯びる双剣で、まずは双がマグロガールを十字に斬り裂いて一部を冷凍マグロに。
 その凍った傷口に憂女は小刀を押し込んで、もう二度と元に戻らなさそうなほどズタズタに切り開く。
「逃がさん……!」
「捕えてやろう……」
 追い打ちを掛ける敏道の正確無比な射撃と、刃の届かない間合いから放たれた國綱の連続斬りによる衝撃波。
 その場に磔となったマグロガールを、いきなりプランが抱きしめる。
「気持ちイイコトシテあげる。……マグロなのかな? 大丈夫だよ、咲き乱れちゃえ」
 そのまま唇を合わせ、浴衣の中に手を入れて弄り弄り。
「やめっ、んーっ! んーっ!!」
 名前に反して、ジタバタと激しい反応を見せるマグロガール。
 あまりに唐突な光景に、他のケルベロスたちは一歩も動くことが出来ない。
 釣り上げられたマグロのように跳ねたマグロガールは、やがて落ち着き、力なくプランにすがったまま、びくびくと身体を震わせるだけになった。
「あっ……はっ……」
「あらら、もう壊れちゃった?」
 絡めていた腕を離すと、虚ろな目をしたマグロガールは倒れこみ、燃え上がって消える。
 プランは小さく出した舌で、唇をぺろりとなぞった。
「お、終わっちまったのか……?」
 止めにと花火の大玉を抱えていたタツマは、がっくりと項垂れるしかなかった。


 本堂の裏手と境内の櫓周りを修復して、ケルベロスたちは祭りを再開する準備を整えた。
 一般人には混乱の中で多少の怪我人が出たようだが、どれも軽いもの。
 國綱に呼び戻されて、神社には活気が戻りつつある。
「よっしゃー! 飯食うでー!」
 皆何見るん? と尋ねる敏道は、既にたこ焼きとお好み焼きを手にしていた。
「オッチャンは……『はしまき』気になってんねん!」
 余程興味があるらしい。
 仲間が答えるのもそこそこに、敏道は『はしまき』の屋台に向かっていく。
 コールは再び境内に戻って、遠巻きに踊りを眺め。
「……あの子が持ってたの、探してみようかな」
 プランは林檎飴を求めて、ふらりと。
「うん、なかなか似合ってるんだぜー」
 タクティは『たこせん』を齧りつつ、ミミックにナノナノお面を被せていた。
「お祭りも、無事みたいでよかったですね」
「ああ、こうして無事に祭りが続けられて、本当に良かった」
 寄り添って、互いに落ち着く空間を分け与えながら歩く、双と憂女。
「――あ。……双、射的とかどうかな?」
 あの可愛いのとか気になるのだけど。
 そう言われてしまっては、男として応えないわけにいかない。
「あれか……。ん、挑戦してみよう」
 大将一回、と射的銃を構える双。
 動きまわるデウスエクスに比べたら、おもちゃの的に当てるなど造作も無い。
 落ち着いて狙いを定め、数発。
「……すまない。取れると思ったんだが」
 苦笑交じりに再挑戦しようとする双を、やんわりと止める憂女。
 真に欲しかった景品は、想い人の真剣な横顔なのだ。
 それを十分に堪能して、憂女は満足気に、微笑んでいた。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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