キツネと番犬

作者:雨乃香

「ここが件の神社か……」
 池・千里子(総州十角流・e08609)は地図を映し出していた携帯端末を仕舞うと辺りを見回した。
 あまり手入れのされていない林道を抜け、やってきたのはもう人が寄り付かなくなった久しい廃神社。
 先に続く急な上り階段もすっかりと苔むしており、あまり人の行き来がないことが目に取れる。
「杞憂だといいのだがな」
 呟き彼女はゆっくりとその階段を上っていく。
 わざわざ千里子がこの場所へとやってきたのは理由があった。最近彼女の周りで噂されている、廃神社に現れる狐の噂。
 妖狐とも稲荷神ともわからぬものの、長く放置された稲荷神社に現れるそれは参拝する客を騙しては金を巻き上げ、その金で神社を復興しようとしているという、なんともいえない噂だ。
 廃神社への参拝客という辺り信じるもののいなさそうな話ではあったが、これまでに興味を奪うドリームイーターの被害にあってきた者達の信じた噂と照らし合わせると、なんともいえない線ではあった。
 だからこそ念のため確認をしておこうと、千里子はここへと足を運んだのだが……。
 階段を上った先で千里子は息を呑む。
「これは間違いないだろうな……」
 開けた視界の先には、信じられないものがあった。
 立派な朱色の鳥居に掃除された境内、立派な社務所に真新しい本殿。まさに狐に化かされたとでも言うような景色。
 急ぎ踵を返す彼女は端末に手をかけ、番号を呼び出しながら、その場から駆け出した。

「急な召集でしたが、皆さん集まってもらって感謝ですよ。フフっ」
 ニア・シャッテン(サキュバスのヘリオライダー・en0089)は携帯端末を慌しく操作しつつ、ケルベロス達を出迎えると、ちょっとだけ待って貰えますか? と断りを入れると、画面に集中していくつかの操作を終えると、顔を上げ、お待たせしましたと、笑ってみせる。
「今回皆さんに急に集まっていただいたのにはわけがありまして……千里子さんの調査によって、興味を元に生まれたドリームイーターの出現が確認されたためです」
 大方の情報を先程の時間で頭にいれたものの、まだ完璧ではないのか、ニアは端末をしきりに操作しつつ、ケルベロス達に今回の事件について説明をしていく。
「今回の標的は、人を化かす狐を模したドリームイーター、ですね。廃神社を幻覚で真新しい神社に見せ、木の葉を変化させたお守りやご利益のありそうなものを売りつけお金を巻き上げようとしているようですね。まんまと化かされた相手はそのまま帰らせ、気づいたものを襲うといった感じでしょうか」
 そこまで説明して、ニアはむぅっと唸ってからその後を続ける。
「この狐のドリームイーターは人を化かすためにさらに巫女さんに化けるというもはや何がなんだかな状態の様で……騙された振りをして油断を誘うと効果的かもしれません。
 恐らく攻撃は狐にあやかって火や幻術、といったところでしょうかね?」
 敵についての情報を一通り話したニアはもう一度端末の資料に隅から隅まで目を通して、ケルベロス達に声をかける。
「被害者となった一般人の方が周囲にいるはずなので、可能であれば保護してあげてください。あちらも人を騙すのに邪魔になるでしょうから、安全な場所に連れて行っているとおもいますしね? 急な依頼ですが、皆さんよろしくお願いしますよ?」


参加者
柊・乙女(黄泉路・e03350)
狼森・朔夜(ウェアライダーのブレイズキャリバー・e06190)
分福・楽雲(笑うポンポコリン・e08036)
池・千里子(総州十角流・e08609)
ツェツィーリア・リングヴィ(アイスメイデン・e23770)
英桃・亮(謌却・e26826)
イヴァン・ドラクリヤ(龍血公・e27997)
稲成・燐火(お狐様は物ぐさ・e30367)

■リプレイ


 寂れた林道、そこから続く急な苔むした階段。
 人が寄り付かなくなり久しいことが伺える辺りの景色と裏腹に、その階段を上りきった先、やや開けたそこには手入れの行き届いた境内が広がっている。
 真新しい朱色の鳥居に、葉っぱ一つ落ちていないよく掃除された境内。
 そんな神社の立派な社務所の受付に腰掛け、目を細め、鼻歌を口ずさむ少女が一人。
 白い小袖に緋袴、黒く長い髪と一房に束ねたその出で立ちからこの神社に仕える巫女であることが伺える。
 ふと、彼女はピタリと鼻歌を止めたと思うと顔に笑みを浮かべ、竹箒を片手に社務所をでる。
 それからさほど時が立たぬうちに、急な階段を上り、神社へと二人の少女がやってくる。
 鳥居の前、迷い無く軽く一礼をする池・千里子(総州十角流・e08609)は頭を上げると、隣で戸惑っている狼森・朔夜(ウェアライダーのブレイズキャリバー・e06190)にも同じ様にさせる。
 それが終わると、千里子は朔夜の手を軽く引き、参道の端を歩き境内へと入る。
 その様子をしげしげと眺めていた巫女の少女は、やや驚いたような表情を見せつつやってきた二人へと頭を下げ声をかける。
「こんにちは、いや、こんばんは、かの?」
「こんばんは」
 急に巫女に声をかけら朔夜はやや慌てた様子を見せるものの、千里子は冷静に挨拶返す。
「ご参拝かの?」
「ええ」
「若いのに信心深いのう、よいことじゃ。手水舎はそちらゆえ、もし時間があれば、参拝の後社務所にでも顔を出してもらえると嬉しいのう」
「ええ、終わらせたらよらせていただきます」
 どこか年寄り臭い喋りをする巫女ではあったが、その喋りに違和感はなく、自然に感じられる。
 二人が境内の奥へと歩いていくのを見送り、暫くたつと、遠く拝殿からから力強い鈴の音が一度響く。
 そちらにちらりと巫女が視線を投げたところで、また別の二人組が階段を上ってくる気配が感じられた。
 やや照れた様子で、しかしまんざらでもない表情の分福・楽雲(笑うポンポコリン・e08036)と、肩を出した大胆な服装で楽雲の腕に軽く抱きつく稲成・燐火(お狐様は物ぐさ・e30367)の二人組だ。
 いかにも付き合っている風情の二人のだらしない表情に、巫女はいやらしい笑みを一瞬だけ浮かべ、すぐさま二人へと頭を下げる。
「こんばんは」
「あ、こんばんは」
 巫女に声をかけられ、楽雲はおやっ、とその美しい容姿に一瞬見とれる。
「仲睦まじいご様子で、本日はどういう用件で?」
 やや前屈みに白衣の胸元を開け、顔を近づけるようにしつつ、巫女は楽雲へと問いかける。
「近く彼と結婚しようと思ってて」
 対して燐火は強くぎゅっと楽雲の腕を抱き、引き寄せるようにしつつ笑顔で巫女へと言葉を返す。
「ほほう、であれば、ぜひ参拝の後は社務所へとよってお守りを求めるのがよいじゃろう。各種取り揃えておるからのう」
 ここぞとばかりに、巫女はさらに楽雲へと詰め寄り、熱心な巫女という体で熱の篭った声を耳元で発する。
「は、はい是非! 寄らせて頂きます!」
「では、ごゆるりと、じゃ」
 にっこりと笑みを浮かべつつ、巫女は二人を見送る。
「どんな御守りがいい? やっぱりー安産祈願かな?」
 と、燐火が楽雲に元気よく話しかける声に、
「ちょろいのぅ、鴨が葱しょってきおったわい……」
 そんな小さな呟きは簡単にかき消され、誰の耳にも届かない。
「しかし、案外人が来るもんじゃの」
 新たにやってきて手水舎へと向かっていくイヴァン・ドラクリヤ(龍血公・e27997)の姿を見つめながら、巫女はやや驚いたように呟く。
 軽くうなりつつ首をかしげ彼女がそうして考えている内に、参拝を終えた千里子と朔夜の二人が戻ってくる。
「ご苦労様じゃの、若い者二人でこんな辺鄙なところにわざわざ。見たところ学生さんかの? 受験にははやい気がするが?」
「いや、私ではなく」
 狐の問いに千里子は首を振り、隣に立つ朔夜に話を促すように軽く背を押す。
「実は近々、ちょっとした勝負事があって、勝負に強くなるお守りないっすか?」
 困ったように頭をかきつつ朔夜が聞くと、巫女はふむと一つ頷いて、社務所の前に広げられた棚からいくつかのお守りを選び取り、朔夜の前に並べてみせる。
「そうじゃのう、稲荷神にはそういった願いに直接的なご利益はあまりないかもしれん。じゃが、勝負事の内容次第では、例えばこの開運招福なんかはいいかもしれんのぅ? あとは、ちょっとずるい感じがするが、心願成就なんかは大体の願いに効くはずじゃからこれとかの」
 二人が巫女の言葉に耳を傾けるうち、拝殿から二度鈴の音が鳴るのが聞こえる。その場にいた三人は一瞬そちらへ視線をやり、自然、会話が途切れた。
「それじゃ、これもらえるっすか?」
「それならば千円お納めもらえるかの?」
 お守りのかわりにお札を受け取った巫女は、一瞬だけいやらしい笑みを浮かべ、そそくさとお札を仕舞い、そわそわと拝殿のほうを眺め、楽雲が戻ってくるのを心待ちにしているようだった。
「ところで、巫女さん一枚いっしょにいいですか?」
 そこに携帯端末を片手に、千里子にそう声をかけられた巫女は、ハッとしたように飛び上がると、しきりに左右に首を振った。
「い、いや写真はちょっと、のう? 場所が場所じゃからの?」
 今までとはまるで違う、慌てた様子を見せながら、写真を拒否しようとする巫女に、千里子は首を傾げつつも、さらに一歩踏み出す。
「あ、ほらここは実は撮影禁止なんじゃよ、そうそう、忘れておった、だからの、それはしまうべきじゃ、そうじゃろ?」
 写真を撮られては何か都合が悪いのか、巫女は慌てて千里子を止めようとするのだが、彼女は無表情で端末を構え、巫女へと向ける。


「だめじゃといっとるじゃろぉ!」
 巫女の叫びが響くと同時、周囲で何かが同時に動く気配がする。だが混乱している巫女はその事に気づけない。
「沈め」
 消え入りそうな柊・乙女(黄泉路・e03350)の声が静かに響いた瞬間、巫女の足元に伸びる影から何かが這い出す。骨であったり蟲であったり、様々な形の蠢く不気味な何か。それらは巫女を影へと引きずり込むかのように喰らい付き離さない。
「おぉおぉ!?」
 事態を把握しきれていない巫女は悲鳴を上げ体勢を崩す。
 そこに叩きつけられる容赦のないケルベロス達の攻撃。
 朔夜の拳が巫女の鳩尾を穿ち、やや苦い顔をしつつ楽雲の放った槍の一撃が背後からその体を貫く。足元の拘束により、倒れることの許されない巫女をツェツィーリア・リングヴィ(アイスメイデン・e23770)の放った青白いレーザーがその体を撫でるように奔り、その体が大きく揺らぐ。
 それは傾ぐとか、倒れこむのとは違う。
 文字通り揺らぎ歪み一回りその体が小さくなる。
 変わりにお尻にはふさふさの狐の尻尾が、頭には大きな狐の耳が現れ、その目には、不機嫌そうな怒りの色が見て取れた。
 同時に彼女の周りに無数の青い火球が音を立てて現れる。
 巫女、もとい、狐を模したドリームイーターに近寄っていた朔夜と楽雲にとってそれは避けようのない数と距離。一瞬の静寂の後、雪崩をうったようにそれらが一斉に襲いかかる。
 触れるたびに火勢をあげ、青い炎が大きく膨れ上がる。
 だが、その火勢は急激に衰えていく、火種だけで薪をくべ忘れたかのように消えていくその向こうには、英桃・亮(謌却・e26826)と千里子二人の展開した無数の紙の兵の軍勢が朔夜と楽雲の前に整列しその身を犠牲に火球を全て受け止めていた。
「我が血に従い、我が命を聞け。汝が名はレンオルム。海峡に潜む激流の海蛇、、世界を逆巻く水竜也」
 目を剥く彼女の耳に届くのは、イヴァンの朗々たる詠唱。手水舎から立ち上る水が海蛇の形を成し、狐へと襲い掛かる。
「舐めるでないぞ!」
 ケルベロス達の攻撃によりボロボロになった巫女装束を翻した狐は、海蛇に対し無数に生み出した火球を絶え間なくぶつけ、蒸発させ、力任せにねじ伏せる。
「どうじゃ? 狐が狐に化かされた気分は」
 聞き覚えのあるその声に、狐は自分の迂闊さを呪う。突然の事態とはいえ、参拝客の中、一人だけ未だ姿を見ていなかったものがいたことを思い出す。
 あたりにもうもうと巻き上がる水蒸気を掻き分け燐火の放つ蹴りが、狐の体を捕らえた。


「よいせっと! ……ちとはした無かったかの?」
 ひらりと普段どおりの姿に戻った燐火が綺麗に着地を決め、次第に立ち込めていた水蒸気が晴れていく。
「せっかくの鴨かと思えば犬とは冗談じゃないのう」
 口調こそ軽いものの、狐の目は笑っていない。化かすはずの側である自分がまんまと騙されてしまたのだから、そのプライドがどれ程傷ついた事か。
「狐を一匹狩るのには、罠と犬では少々大掛かりに過ぎたでしょうか?」
「抜かせ、タネのわれた罠など何の意味がある」
「正体の露見した狐も同じでございましょう」
 ツェツィーリアの挑発に、狐は舌打ちをしつつも迂闊に仕掛けるようなことはしない。現状の自分の不利をきちんとわきまえているからだ。ケルベロスの側が二重、三重の罠を仕掛けていないともかぎらない。後の先を取るつもりで狐は身構える。
「そっちから来る気がないなら、こっちから、だ」
 狐の消極的な態度に朔夜は間合いを計りつつ、先程狐から買ったお守りを取り出し意地の悪い笑みを浮かべた。
「お守りの効果を試してみるか、似非巫女さんよ?」
 一瞬で炎に包まれたお守りは、一時木の葉となり、その本当の姿を現したものの、瞬時に燃えつき、後には何も残らない。
 軽く手を払い、短く呼吸を切り、朔夜が仕掛けた。
 鋭い踏み込みから、右の腕だけを獣の姿へと変化させ膂力を上乗せする早く重い掌底の一撃。
 対して狐は予め作り出しておいた幻影の側に狙いをつけさせることで回避を試みるものの、彼女の足では避けきることは出来ない。急所こそ外したものの、上体が大きく揺れる。
 続く楽雲の拳をまともに受け、大きくその体が吹き飛び、その体が起き上がるより早くツェツィーリアの放つ氷結の螺旋が追撃をかける。
 ゴロゴロと地を転がりながら狐は狐火を展開する。
 それに気づいた千里子がそれらを迎撃すべく身構えたところで、狐火はその場で強烈な光を放ち自壊する。
 そちらへと意識を向けていたケルベロス達の目は一斉に焼かれ、その視覚を奪われる。正常な視界が戻った時には、ただ一点おかしなところがあった。
 狐のドリームイーターの姿が忽然と消え、かわりに亮が二人に増えていた。
 もとより表情の薄い彼だ、姿形を真似されれば、その判別は常人以上に難しい。
 下手に動けない状況にケルベロス達は固まり、乙女は咥えていた煙草を吐き捨て、舌打ちを一つ。
 互いに睨み合う亮は、全く同じ挙動で一つ距離を離し、呟くような詠唱ともに、指を鳴らす。
「――俺はこっちだ」
 二つの声が重なり、炎から幻影の竜が出でる。牙を剥くそれらは互いに目の前の敵を打ち倒すべく、同時にぶつかり合う。
「奇怪な技だが、所詮は幻覚」
 イヴァンの放った薬瓶が空中で弾け、周囲に薬液を撒き散らす。正常な状態へと戻されたケルベロス達の視覚は、再び狐の姿をしっかりと捕らえる。
「余計なことを」
 幻覚が破られたことを察知した狐は燐火の投擲してきたバールを迎撃しつつ、距離を取る。
 至近から互いに同じ技を受け、亮に比べて狐の消耗が少ないのはデウスエクスの生命力のなせるわざか。亮の治療も乙女の手によりすぐ終わるものの、狐はもはや近接戦闘は不利と読んだのか、朔夜や千里子、楽雲からあからさまに距離を取る様に動き、狐火を中心とし迎撃を主に戦闘を組み立てている。
 しかし消耗戦となればケルベロスの側に分がある。イヴァンと乙女の二人がサポートに回り、他のケルベロス達が攻撃の手を緩めることなく戦い続ける。
 狐もそれは理解している、徐々に狐の動きは鈍り、攻撃の精度も落ち、疲労が目に見えて濃くなっている。そして、狐の足元が乱れ、たたらを踏む。そこに、すぐさま千里子が迫る。
 千里子の放った一撃を受け、目の前の狐の姿が眩む。幻術によって生み出された分身による罠だと気づいた時には、既に目の前に狐の顔。
 至近で目にする白く美しい顔が歪な笑みを作ったと思うと、千里子の唇に微かな痛み。その傷口を通し、自分の体から目の前の敵へと、力が流れ込んでいくのがわかる。
 唇が離れ、意識が遠ざかりそうになるのを堪え、千里子はグッと体に力を込める。
「――この代償は高くつくぞ」
 息のかかるほどの距離、意識さえ手放さなければその距離で逃げられることなどありはしない。
 肩からあたるような強い踏み込み。軽く吹き飛ばされた狐の体を追うように千里子はさらに一歩踏み込み、右の拳を一発。狐はそれを受け、踏みとどまってしまった。
 足を止めた狐に対し、息つく暇も無い連撃が襲い掛かる。足捌きでは受けることが出来ないと完全に足を止めた狐の足元に再び、何かが忍び寄る。
 乙女の放った無数の呪詛、それらが形をなし、狐の足に纏わりつく。今度こそ確実に、地獄へと引きずり込むべく。それらは狐を捕らえ、離さない。
「これより招くは黄昏の訪れを告げし大いなる冬。偽りの幻想を覆いて葬るは白銀の彼方へと。さぁ、来たれ来たれ、冬来たれ。ステップ刻みて冬来る。我が舞踏は汝が鼓動――ご覧なさい、ピリオドはすぐ側に」
 ツェツィーリアの振るう武器が嵐の如く荒れ狂う。突き、切り、払い、銃口が咆える。氷結したその体からキラキラと散る氷の粒、吹きすさぶ暴風のようにツェツィーリアは狐の全身を容赦なく蹂躙し、全てを破壊しつくす。
 後に残るものは何一つ無く、一陣の風に吹き消されるかのように、辺りの景色はで寂れた廃神社へと様変わりしていた。
 

 林の藪の中に放置されていた被害者らしき少年を念のため病院へと搬送した後、ケルベロス達は廃神社の修繕を行っていた。
 とはいえ元々荒れ果てていた場所だ、それ程手間のかかる作業でもなく、元通りになった境内ついで、軽く掃除されたを確認すると、ケルベロス達は安堵の溜息を吐いて、一仕事終えたとばかりに、ゆっくりと寂れた階段を降り、帰路へとつく。
 ふと、何かの気配を感じて楽雲は振り返る。しかし、廃神社に変わった様子もなく何かがいるわけでもない。
「なにしとるダーリン、置いてってしまうぞ?」
「あぁ、待って! というかまだやるの燐火ちゃん?」
 燐火にからかわれながらも、むしろ嬉しそうに駆け寄る楽雲と入れ替わるように、足を止めていた乙女は煙草をもみ消して、一人階段を上る。
 鳥居の前、山と詰まれた栗を目にした彼女ははてと難しい顔をして、どうするべきかを思案する。
 どこかで犬に似た鳴き声が聞こえた気がした。

作者:雨乃香 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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