八朔祭りで捕まえて

作者:柊透胡

 八朔――八月朔日の略で、旧暦の8月1日の事。或いは、日本原産のミカンの名前。
 近年は甘い柑橘類が好まれる傾向にあるが、上品な甘さと食感が独特のハッサクは、今尚好む者も多い。
 広島県尾道市――その小さな商店街の秋は、『八朔祭り』と共に始まる。
 八朔祭りの目玉は、何と言っても『ハッサク』を使った物産の数々。広島はハッサク発祥の地であり、今でこそ和歌山に生産量1位の座は譲っているが、それでも広島因島産のハッサクは有名だ。
 昔は毎年八朔の時期から食べられるようになる事から、この名が付いたとされるハッサク。尤も、今では流石にそんな真夏には食べられない。
 代わりに、ハッサクジャムやハッサクワインなど、様々に加工された、菓子やら酒やらが屋台に並んでいる。
 毎年、9月1日の夜に催されるこの秋祭りは、まだまだ暑い頃である所為か、浴衣姿の者も多い。
 何処か素朴な雰囲気の、商店街伝統の夜祭り――場違いな声が響き渡るまでは。
「ハッサクすっぱーい! こんなのいらない! なくなっちゃえ!」
 両手一杯に菓子を抱える浴衣の少女は……何故か、マグロを被っている。
 そして、その背に広がるのは、タールの翼。
「ついでに皆も死んじゃえー!」
 バラバラとハッサクの菓子を投げ捨て、その両手に握るのは、禍々しい刃煌く惨殺ナイフ。
「キャハハッ! やっぱり、お菓子もグラビティ・チェインも、甘いのが1番だよね♪」
 忽ち、八朔の夜祭りは血の海に沈む――少女らしいトーンの高い哄笑が響き渡った。

「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
 集まったケルベロス達を見回し、都築・創(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0054)は静かに口を開く。
「エインヘリアルに従う妖精8種族の1つ、シャイターンが行動を開始したようですね」
 動き出したのは、マグロの被り物をしたシャイターンの部隊。日本各地の祭り会場を襲撃し、一般人を殺害してグラビティ・チェインを得ようとしているらしい。
「祭りの会場を狙う理由は不明ですが、お祭りという人が集まる場を利用して、効率よくグラビティ・チェインを収奪する作戦なのでしょう」
 マグロの被り物をしたシャイターン――その外見から、『マグロガール』と仮称する事にする。
「皆さんは『マグロガール』が現れる祭りの会場に先回りして、事件を未然に防いで下さい」
 今回、マグロガールに狙われるのは広島県尾道市内の商店街。毎年、『八朔祭り』と銘打って、9月1日に夜祭が催されるという。
「商店街主催だけあって屋台も多く、近隣の住民でかなり賑わっています」
 但し、祭りに訪れた人々を避難させてしまうと、マグロガールが別の場所を襲撃する為、事前の避難は行えない。
 しかし、マグロガールはケルベロスが現れれば、先に邪魔者を排除しようとする。挑発しつつ、人の少ない場所に移動するなどすれば、人的にも物的にも被害は抑えられるだろう。
「夜祭の会場は、商店街のアーケードです。閉店後の店のシャッターの前に、ずらりと屋台が並びます」
 事前に、戦闘に向いた場所を探したり、戦闘開始後の一般人の避難方法を考えておくのも良いかもしれない。
「敵のマグロガールは1体のみ。配下はいません。武器は惨殺ナイフ二刀流ですね」
 被り物の下の表情は勝気そうで、我儘そうだ。ついでに、甘いものが大好きで、大嫌いなのはすっぱいもの。
 ちなみに、『八朔祭り』の目玉は、ハッサクのジャムやワインなど、加工品を使った様々なお菓子。ハッサク大福やハッサクゼリーなど、和洋何れも種類が多い。
「幸い、マグロガールの戦闘力は、余り高くないようです。しかし、襲撃の阻止に失敗すれば、祭りの会場は惨劇の場とになってしまうでしょう」
「敗北は、許されないって事ね?」
 強気な表情で呟く結城・美緒(ドワーフの降魔拳士・en0015)。
「皆が心置きなく戦えるように、私は避難誘導に専念しようかしら……あ、マグロガールを倒したら、お祭りの方も行ってみたいな♪」
 先程から、熱心に八朔祭りのパンフレットを眺めている。ドワーフの美緒は飲酒喫煙はNGだが、お菓子やお茶は大好きだ。
「……へぇ、ハッサクブッセに、ハッサクパイサブレ、ハッサクチーズケーキにハッサクの水羊羹、盛り沢山ね。こうなったら、パーフェクトに勝利して、お祭りを思い切り楽しみましょ♪」


参加者
保戸島・まぐろ(無敵艦隊・e01066)
セルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)
熊谷・まりる(地獄の墓守・e04843)
鏡月・空(月は蒼く輝いているか・e04902)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
ゼルダ・ローゼマイン(陽凰・e23526)
フィアルリィン・ウィーデーウダート(死盟の戦闘医術士・e25594)
黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)

■リプレイ

●八朔祭りは仕度から
 9月1日――八朔祭りが始まる日暮れ前に、広島県尾道市内の商店街を訪れたケルベロス達は、周辺の下調べに勤しんでいた。
「避難経路の確保とか、速やかに避難できるよう準備だけ進めておいてくれるかな?」
 セルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)は、ハッサク色の半被姿のスタッフと話し込んでいる。ぶっきら棒な毒舌家、と自認するが、スタッフへは丁寧な物腰だ。
「それから、この近くで戦闘に支障がなく、店舗とか屋台に被害が出にくい場所って何処かないかな?」
 スタッフと連絡先を交換して、仲間の許に戻るセルリアン。一転、ぞんざいに肩を竦める。
「ここからだと、公園とか学校はちょっと遠いかな……商店街から離れ過ぎると、シャイターンも戻ろうとするかも」
 シャイターンの狙いは、祭りに集まる人々の虐殺。商店街から離れる程、誘導の難易度は上がるだろう。
「被害は、少ない方がいいもんねー」
 やはり、スタッフに聞き込んできた熊谷・まりる(地獄の墓守・e04843)。屋台の下見はばっちりだが、表情は浮かない。小さい商店街のアーケードで、戦闘出来るスペースは中央の十字路くらい。屋台が最も集まるその界隈は、流石に危険だ。
「都合の良い所って中々ないものね」
 保戸島・まぐろ(無敵艦隊・e01066)が用意した商店街周辺の地図を眺め、考え込む結城・美緒(ドワーフの降魔拳士・en0015)。まず戦う場所が決まらなければ始まらない。
 だが、幸いにも、最後に合流した黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)とボクスドラゴンのナハトが携えて来たのは、吉報だった。
「駐車場なんて、どう?」
 アーケードの路地から裏通りを抜けた先に、小さな駐車場があったという。きちんと舗装されており、戦闘に支障はなさそうか。
「じゃあ、避難は駐車場と反対側の方向ね」
 最初は、一般人の避難とシャイターンの挑発の二手に分かれる。八朔祭りが始まる間際まで、打ち合せに余念が無いケルベロス達。
(「さて、どこまでいけるか」)
 ボクスドラゴンの蓮龍と並び、鏡月・空(月は蒼く輝いているか・e04902)はクールな風情で、祭り仕度を眺めている。
「うむ、祭りは良いのう。実に皆が楽しそうにしておる」
 浮き立つ雰囲気だからこそ、決意も新たに、自慢のお髭を捻るウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)。
「この楽しそうな雰囲気をぶち壊させないのじゃ」
「八朔祭りパーフェクトを達成する為にも負けられないわよ」
 きりりと頷くゼルダ・ローゼマイン(陽凰・e23526)だが、テレビウムのあるふれっどを見下ろす眼差しは優しい。
「祭りは楽しむものです。皆さんの楽しみの為にも、頑張ってマグロガールを倒さなくてはいけないですね!」
 困った時こそ、攻勢あるのみ――微笑みは浮かべ、ライトニングロッドを握るフィアルリィン・ウィーデーウダート(死盟の戦闘医術士・e25594)。
「自分が嫌いな味だからって、それで殺人をする理由にはならないわね!」
 涼しげなセーラー服のリボンを揺らし、まぐろも気炎を上げる。何より、シャイターンが「マグロガール」と呼ばれるのが許せない。
「どちらが本物のマグロガールか、はっきりさせるわよ!!」
 随分と憤慨している様子に、美緒はくすりと笑んだ。

●八朔祭りで捕まえて
 八朔祭りの始まりは、日没も直の午後6時。集まってくる人々は浴衣姿も多い。
 早閉めした各店舗の前に、爽やかな香りを漂わせる屋台が連ねる。さながら、ハッサクの物産展だ。
「あ、ハッサクチーズケーキ……オランジェットもあるんだ」
 興味津々のまりる。正直、ハッサクの大人の味わいはよく判らないお年頃。でも、今日を機会にハッサクの美味しさに目覚めたいとも思っていたり。
(「マーマレード、お土産に欲しいなぁ」)
 チラチラと目星を付けるゼルダだが……アーケードに現れた影に、ハッと息を呑む。
 ――――!!
「?」
 突然、響き渡ったホイッスルに、怪訝そうな人々。ゼルダの警笛であったが、スタッフはまだしも、一般客の周知は流石に間に合わなかった。
「じゃ、行こうか」
 寧ろ、警笛を鳴らしたゼルダに野次馬が集まっては厄介だ。とり急ぎ、仲間とも連絡先を交換したセルリアンが動く。
 避難担当はセルリアン、まぐろ、空、フィアルリィン、美緒。サポートに駆け付けた木下・昇も加わる。
「こっちに避難して!」
 ざわつく一般客に声を掛けて回るまぐろ。割り込みヴォイスに隣人力を乗せれば、幾許かとも聞いてもらえ易くなったか。
 一方、空は些か戸惑った風情。以心伝心は気心知れた間柄こそ。初対面の不特定多数が相手ならば、積極的に話し掛け、働き掛けなければ、折角の隣人力も十全に発揮されない。
「なになに~? 何が始まるの~?」
 慌しい雰囲気を察したか、屋台を物色していたシャイターンは、マグロの被り物ごと首を傾げる。
「……本当に、マグロ被ってるんだ」
 薄笑みを浮かべ、シャイターン――マグロガールを見詰める紫織。
「なんともおかしなデウスエクスが現れたものね」
「何よー! アンタ喧嘩売ってるの!」
 あけすけな言葉にふくれっ面のマグロガール。ギッと睨み付ける。
「あら、いいじゃない、そういうの好きよ。面白いし」
「褒められた気がしないんだけどー!」
 紫織自身が意図したかどうかは知れないが、ともあれ、最初の足止めは叶った模様。すかさず、ウィゼが声を掛ける。
「甘いもの、好きなようじゃな?」
「これはあげないんだからね!」
 早速ゲットしたらしいハッサク飴を、これ見よがしにペロリ。忽ち顔を顰めるマグロガール。
「何これ! 飴の癖にすっぱいとか! ありえない!」
「爽やかな酸味あってこそ、甘いだけではない柑橘の真骨頂。それがわからないなんてネンネさんね?」
 真似するように、ハッサクシフォンケーキを一口パクリ。ゼルダは間髪入れず畳み込む。
「甘い物好きとか言いつつ、八朔スイーツのすっぱさの裏に潜む甘みが分からないなんて、可哀相に……」
 まりるも、わざとらしく憐れむ表情で肩を竦める。
「全く。八朔のすっぱ旨さが理解できぬとは、マグロの者はまだまだお子様じゃのう」
「何よ!! アンタこそ1番チビの癖に!」
 挑発的なお子ちゃま扱いに、マグロガールは苛々と唇を尖らせる。何より、最年少にして尊大なウィゼが最も癇に障ったようだ。
「すっぱうまいとか、意味不明だし!」
「甘いもの好き……つまり卵焼きは甘い派ね、このシャイターンは!」
「そっちの紫はもっと意味不明!」
 ……何だかんだで、ケルベロスのペースに嵌っているマグロガール。
「本当に、可哀想だな。あのスイーツの甘さを知らないとは……」
「ハッサクスイーツの真髄、知りたければ、あたし達について来るといいのじゃ」
「別に知りたくも無いんですけどー!」
 憎まれ口を叩きながら、ケルベロス達について行ってしまっている。乗りと勢い、これ大事。
「……馬鹿っぽいヤツで助かったな」
 路地に消えるマグロガールと仲間を見送り、セルリアンは殺界を形成する。
 街中での半径300mは広範囲だ。商店街だけでなく、シャイターンを誘導中の駐車場まですっぽり範疇に入る。
(「マグロガール……確かに奇抜な格好でしたが、祭りを楽しもうとしたのはわかりますです。でも、血祭りは駄目です」)
 幸いにして、危惧していた事態は避けられた。後は、間違っても、一般人が商店街から駐車場へ向かわぬよう、フィアルリィンはキープアウトテープで路地を封鎖していった。

●甘酸っぱく戦って
 商店街から少し離れた駐車場は、予めの協力要請で車は無く、広々と感じられた。
 流石に警戒の表情のマグロガールに、ウィゼは抱えていたバッグを差し出す。
「マグロの者よ、この八朔バッグをお主にやろう。大暴れするのはやめてもらえんかのう」
 バッグの口を開ければ、ハッサクスイーツがたんまりと。
「ふーん」
 上から目線でバッグを眺め、マグロガールは目を細める。
「偉そうな事言って、結局、アタシが怖いんだ?」
 ウィゼは祭りという晴れの日を物騒にしたくないだけだが、デウスエクスは独り合点で悦に入る。
「いーわよ? アンタ達のグラビティチェインも差し出すなら、考えてあげない事も無いわ!」
 ガキィッ!
 踊るようにウィゼを襲った凶刃を、まりるが庇う。
「惨殺ナイフ二刀流とな? こっちはスマホ2台持ちだー、勝負!」
 まだ、避難誘導班は駐車場に到着していないが、やむを得ない。改造スマートフォンを両手に掲げ、まりるは不戦余輩を謳う。
 断ち切れ太陽の微笑よ、絶望の雲の切れ間――諦めず信じて護る力を具現化したグラビティが、まず後衛に加護を与える。
「汝に手向けるは雷の文字。さあ、痺れなさい」
 紫織の指先が『雷』と空に書いた瞬間、ジグザグの閃光が夜空から降り注ぐ。祝福宿したゼルダの一矢とあるふれっどの応援動画が、まりるを力付けた。
「私、ハッサク大好きなんだから! お祭りの邪魔なんてさせませんとも!!」
 だが、ウィゼのストラグルヴァインとナハトのボクスタックルは、ナイフの一閃で払われた。
「定命の癖に、生意気なのよ!」
 翻る浴衣の袖から荒ぶ砂嵐が、身構える前衛を襲う。
「っ!」
 微細な砂礫が肌を刻む。同時に、脳髄を冒すような酩酊感に、まりるは小さくたたらを踏んだ。
 ディフェンダーばかりの前衛に然したる被害は無いが、催眠が重なれば危険。今度は、前衛に不戦余輩を使うが……恐らく、この加護だけで厄は払いきれまい。
「この子、ジャマーぽいよ」
「了解なのじゃ」
 まりるの警告に、メディカルレインを降らせるウィゼ。ジャマーの厄にはジャマーのキュアを充てるのが1番手っ取り早い。挑発班にジャマーがいたのは幸いだった。
 だが、今回唯一のメディックであるフィアルリィンはまだ合流出来ていない。敵はさして強くないと言われていたが、半減した戦力で対するのは流石に危険だ。
 なし崩しとなってしまったが、挑発と避難誘導に分かれるなら、全員揃ってから戦闘開始となるよう、時間稼ぎなどを講じておくべきだったか。
「直に皆来るわ。もう少し踏ん張るわよ」
 ホーミングアローを放つ紫織に頷き、白銀の矢を番えるゼルダ。面倒そうにスナイパー達を一瞥し、だが、マグロガールのナイフの切先はジャマーのウィゼへ――。
「酸味も味わえー!」
 ゼルダの掛け声と共に、あるふれっどのTV画面が柑橘柚子カラーフラッシュ! ナハトも盾となるべく小柄を躍らせる。
「うるさいうるさいっ!」
 ウィゼの代わりにボクスドラゴンの息吹を啜り、マグロガールは不機嫌に唇を歪ませる。
「お菓子もグラビティ・チェインも、甘いのがイイに決まってるんだから!」
「ただ甘いだけなんてつまらない。ハッサクは、あの上品な甘さがいいんだよ」
 影の弾丸がマグロガールの脇を穿つ。駐車場の入口で、息を弾ませながら肩を竦めるセルリアン。
「つまり、ハッサクの酸っぱさや苦みが良いという事ですね。もう1つ、大きい所も良いですね」
 納得顔のフィアルリィンがナハトにウィッチオペレーションを施す間に、素早く戦況を見た空は、蓮龍をディフェンダーに向かわせる一方で、無言で猟犬縛鎖を放つ。
 避難も大凡目途がつき、後を美緒と昇に任せた4人は、取るも取り敢えず急いで来た。
「ごめんね! 遅くなって!」
 最後に駐車場に駆け込んだまぐろが、その勢いのまま、ズズィッとマグロガールに差し出したのは。
「……何、これ?」
「ひゅうが丼と、マグロのカルパッチョ。知らないの?」
 曰く、ひゅうが丼はまぐろの出身地、大分県津久見市保戸島の郷土料理であり漁師飯。カルパッチョは、カボスの爽やかな香りが鼻腔と食欲を擽る。
「さあ、どちらが本物のマグロガールか、はっきりさせるわよ!!」
 その反応は――器ごとアスファルトに叩き付け、マグロガールは眉を逆立てる。
「訳わかんない! アンタなんか死んじゃえ!」
 怒鳴るシャイターンより、再度吹き荒ぶ幻砂の嵐。先発組のみならず、まぐろも蓮龍も、諸共に爆ぜた殺傷の渦に呑まれる。
 だが、漸く2班の合流を果たしたケルベロス達は、これからが本番とばかりに反撃する。
「私達は負けないです」
 フィアルリィンがライトニングウォールを編む間に、遠隔爆破でプレッシャーを掛ける空。空が動きを封じた隙を逃さず、ウィゼが地裂撃で畳み掛ければ、忽ちまな板の上の鯉、ならぬマグロガールの出来上り。
 ゼルダのホーミングアローはあるふれっどの凶器攻撃と、息の合った連携を魅せる。
 紫織も再び『雷』の言霊を顕現させ、力一杯叩き付けた。
「漬け焼き照り焼きカマ焼き、どれがお好み?」
 まりる版ブレイズクラッシュはスマホの角。被り物の視界に、死角の何と多い事か!「このこのこのぉっ!」
 セルリアンのドラゴニックスマッシュ、まぐろのフレイムグリードが次々と。血襖斬りで凌ごうとするマグロガールだが、そのドレイン分も消し飛ばす勢いで、ケルベロスは猛攻を掛ける。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、ハロウィン・ナイトの始まりなのじゃ」
 攻性植物に実ったハロウィンボムを投げ付けるウィゼ。爆ぜたハロウィンエネルギーはお化けの幻覚を敵に見せ、グラビティ・チェインを奪っていく。
(「ハッサクの美味しさがわからないなんて……かわいそうなマグロガールよ」)
 憐れみながら、グラビティ繰り出す挙措に容赦ないセルリアン。
「我が身に宿りし暴虐を司る二柱の眷属よ、王座を脅かす虚ろの神を滅殺せし刃と化せ!」
 穿牙・霹靂――斬閃は大鷲と龍を象り、空間を震わす咆哮と共にマグロガールへ襲い掛かる。
「それにしても、頭に被り物、背にタールの翼って肩凝らないのかなー」
 果たして本人の趣味か、それとも主のエインヘリアルの趣味なのか。
 呆れた風情のまりるを横目に、微かに首を傾げる空。
(「確かに、何でマグロの被り物? 何故に八朔祭りに参加しようとしたのでしょうか?」)
 疑問は尽きずとも、攻撃の手は緩めない。2mの弓を左手、神殺しの伝承を持つ槍を右手に召喚。蒼く鋭い魔弾を放つ。
「ま、どちらにしてもご愁傷様。我々ケルベロスが存在を許さないからねー」
 先程と一転、まりるもスマホ2台で何やかんや。途端、マグロガール自身の身体が燃え上がる!
「マグロも美味しいのよねぇ。でも、着ぐるみかー。食べられないわよねぇ」
 再度、白銀の矢を番えながら、ゼルダはちょっぴり残念そう。
 ヘリオライダーの情報に違わず、総攻撃を掛ければ、マグロガールも一溜りも無い。
「すっぱい、果物なんか……大、きら……」
「甘いお菓子も探せばあったでしょうに。マグロガールはせっかちで駄目ですね」
「呼んだ?」
「あっ、まぐろさんじゃないですよ」
 怨嗟吐くマグロガールを見詰め、フィアルリィンは溜息1つ。ここまで来ればヒールも要しないだろう。古代後の詠唱と共に石化の光線を浴びせ掛ければ、紫織も同じ呪文で畳み掛けた。ナハトのボクスブレスが更に強化する。
 そうして、満を持して、まぐろは大上段の構え。
「ギガ・マグロ・ブレイカー!」
 生憎と、オリジナル・グラビティは活性化していなかったので、ブレイズクラッシュだけど。
 見た目も地獄噴き出す焼きマグロ状態の鉄塊剣を高々と、まぐろは勢いよく叩き付ける。
 キャァァッ!
 甲高い悲鳴を上げ、炎に包まれたマグロガールは自らもマグロの姿焼きと化して崩れ落ちた。

●八朔祭りを楽しんで
 濁った瞳は光を喪い、タールの翼はクタリと折れる――マグロの被り物も浴衣も、シャイターンの骸諸共、塵のように失せて、後には何も残らなかった。
「お祭りでの事じゃし、争い事は最終手段にしたかったのじゃがなぁ」
 マグロガールが消えた所を見下ろし、溜息を吐くウィゼ。
(「マグロまみれになりませんようにー」)
 よくよく念じながら、フィアルリィンと駐車場をヒールして回ったまりるは、仲間に笑みを浮かべる。
「これで心置きなくお祭りを楽しめるよー」
 セルリアンが殺界を解除して、人々も少しずつ商店街に戻ってくる。美緒と合流し、シャイターン撃破を商店街の役員に連絡すれば、晴れて八朔祭り再開だ。
「ハッサクブッセとかハッサクの羊羹とか、食べてみたいわ!」
 マグロ柄の浴衣に着替え、まぐろはお目当てのお菓子を探してキョロキョロ。
 セルリアンは、目に付いたハッサクの食べ物やグッズは一通り買っていくつもりだ。空は既にハッサククレープに舌鼓を打っている。
「お婿さんも忘れてないわよ、お疲れさま」
 早速、あるふれっどに、ハッサクタルトをあーん♪ してあげるゼルダ。
「ナハト、どれにする?」
 色々とハッサクスイーツを集め、ボクスドラゴンの前にずらりと並べる紫織の様子も、微笑ましい。
「ねぇ、美緒さん。分けっこしない?」
 お酒のシェアは出来ないが、色んな種類のスイーツを楽しむ為に。ゼルダの提案に、美緒も楽しげに頷いて。
「ハッサク初心者のお子様舌でも美味しく頂けそうなもの、ご指南お願いしますねー。美緒さんっ」
 まりるの言葉に、責任重大ねと笑った美緒は、皆と屋台へ足を向ける。
「成程、日本の祭りは柑橘系なのですね」
 フィアルリィンの大真面目な誤解を解くのもまた楽し――初秋の夜は、賑々しくものんびりと更けていく。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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