宇宙の驚異

作者:深淵どっと


「えー、9月2日、午前4時……天候、晴れ……噂通りの時間です」
 ここは街の中心部からは少し離れた、景色の良い小さな丘の上。静けさに満ちたこの場所で、事件は起こる。
 安物の三脚に装着された安物のカメラを前に喋っているのは、どこか陰気な雰囲気を漂わせる、細身の青年だった。
「噂ではこの場所ではUFOの目撃証言が多く……何かしらの成果が得られるのではないかと、思っています。ここで見られるUFOは大きく分けて……」
 青年は眠たげな口調でUFOに関するウンチクを喋り続けている。
 そして、その記録映像に、突如として奇妙な人影が写り込んだ。
「興味深い『興味』ですね」
「え!? な……う、宇宙人……っ!?」
 黒い外套を纒った白い人影は、不意に青年の背後に現れると、彼の言葉を無視してその胸元に大きな鍵を突き立てる。
「ある意味、間違ってはないかもしれませんね……地球の外から来た、と言う意味では」
 不思議な事に鍵を抜き取られた青年の身体には傷一つ付いていない。だが、青年は全身の力が抜けたようにその場に崩れ落ち、倒れてしまう。
 そして最後にカメラが写しだしたのは、青年と入れ替わりに立ち上がる、巨大な蠢くモザイクの影だった。
 爛々と輝く円状の双眸がカメラを捉えた瞬間、映像が砂嵐に切り替わる。
 映像はそこで途切れていた……。


「真理くんの調査により、人の持つ『興味』を元にドリームイーターが作り出される事件を察知する事ができたようだ」
「UFO、ですか……確かに熱心な興味を持つ人もいますね」
 機理原・真理(フォートレスガール・e08508)の言葉にフレデリック・ロックス(蒼森のヘリオライダー・en0057)は小さく頷き、話を続ける。
「あぁ、今回奪われたのは未確認飛行物体の目撃情報、すなわちUFOへの興味だ」
 奪われた興味から出現したドリームイーターは人の多い街へと進行している。
「敵は3メートルの痩躯を持つ異形の人型をしている。かつて目撃情報が多発した宇宙人の姿に酷似しているな」
「安易に銀色の宇宙人じゃない辺りが少々マニアックな感じがしますね」
 その姿が少々厄介な問題を抱えている。
 今回のドリームイーターは自分の姿を見て『宇宙人だ』と認識しなかった人間を襲って殺してしまう傾向にあるようなのだ。
「攻撃の意志を見せれば、リアクションに関係無く攻撃してくるので……まぁ、キミたちにはあまり関係の無い話ではあるんだがな」
 しかし、このドリームイーターが街に降りれば間違いなく大惨事になるのは目に見えているだろう。
「そうなる前になんとか撃退してくれ。なに、相手は未知の技術を持った異星人と言うわけではないのだ、キミたちなら勝てる筈だ」


参加者
ルーチェ・ベルカント(深潭・e00804)
宇地有・仁(時卓の騎士・e01350)
ルリナ・ルーファ(あったかいきもち・e04208)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
ノーグ・ルーシェ(二つ牙の狼剣士・e17068)
黍乃津・桃太郎(白き桜華・e17781)
千代田・梅子(一輪・e20201)
出田・ウチュージン(ばるきりわ・e24872)

■リプレイ


 早朝、ケルベロスたちはドリームイーターが通ると予測されていた地点に到着していた。
「んんー……宇宙人って、本当にいるのかなぁ?」
「大丈夫かルリナよ、随分と眠たそうじゃが」
 時刻は事件が発生したと思われる直後、概ね4時半ほど。
 眠たげに目をこするルリナ・ルーファ(あったかいきもち・e04208)を心配する千代田・梅子(一輪・e20201)の声は、この早朝でもハキハキと元気だ。
 今回のメンバーでは一見すると一番年下にも見える彼女だが、その齢なんと61、人は見かけによらないものである。
「ウチュージンは見たことないですよ、宇宙人」
 ルリナの呟きに答えたのは、出田・ウチュージン(ばるきりわ・e24872)。恐らく本当に見たことはなくて、言っていることは正しいのだろうが何だか妙な字面である。
「まぁ、今回に限らず敵も『宇宙人』である事に変わりはないが……」
 他の星からの侵略者、という意味で確かにノーグ・ルーシェ(二つ牙の狼剣士・e17068)の言う通り、デウスエクスも宇宙人だ。
 しかし、ヘリオライダーの予知通りなら、今回の敵はある意味そういう意味合いより遥かに宇宙人なわけだが。
「……どうやら、来たみたいですよ……その、宇宙人」
 その気配にいち早く気付いたのは、黍乃津・桃太郎(白き桜華・e17781)。
 初めに見えたのは、二つ並んだ丸く光る大きな円状。それがドリームイーターの瞳だと理解するのに時間はかからなかった。
 滑るように動く巨躯を前に、臨戦態勢を取る桃太郎の足元でサーヴァントの犬丸が吠える。
「わ……ほんとに宇宙人だっ、ねぇねぇすごいよ!」
「う、うむ! なんだかSFなのじゃ!」
 さっきまで眠そうだったルリナもその風貌に一瞬で目が覚めたらしく、梅子と一緒に驚いているような喜んでいるような、そんなリアクションだ。
「わー、3メートルって聞いてたけど、結構迫力あるねぇ」
 一方、ルーチェ・ベルカント(深潭・e00804)はのんびりとした口調でケルベロスたちの手前で足を止めたドリームイーターを見据える。
 突如現れた宇宙人の姿に各々が反応する中、極めて冷静に機理原・真理(フォートレスガール・e08508)が口を開いた。
「あー、あれは多分フクロウですね、大きな眼を見間違えたのでしょう。服っぽいのは葉っぱとか翼の部分なのですよ」
「フクロウ? イカの化け物じゃなかったのか」
 真理の言葉にノーグが首を傾げる。
 無論、本当に思っているわけではない。敵の特性を使って狙いを偏らせようと言う作戦、なのだが……。
 大きな瞳がこちらを威嚇するように強い光を発し始める。同時に、ドリームイーターから発せられるのはどこかノイズがかった電子音のような、奇妙な音階の羅列。
「……な、何?」
「宇宙語、でしょうか……?」
 無論、あるのかどうかもわからない本物の宇宙語を、地球人の興味から生み出されたドリームイーターが喋るわけはない。つまり、ただのイメージだ。
 そして、ケルベロスたちの狙いは果たして効果はあっただろうか。言語は全くもって意味不明だが敵意は十二分に伝わって来るのは確かだ。
「ソコマデダ!」
 そこに立ちはだかる、妙な震え方をした声。
 瞳の明滅を繰り返すドリームイーターの前に立つのは、宇地有・仁(時卓の騎士・e01350)。手にした携帯扇風機を口元に当てて、多くの人が一度はやったであろう、あの声である。
「ワレワレハ、ウチュウジンダ」
 言語は全くの地球語だが、熱意は伝わってくる。
 尚、彼に関してはちょっと片言で名前を名乗っているだけなので、嘘は言ってない。


「この先にデウスエクスが出現しています! 落ち着いて避難を!」
 最前線より少し街寄りに離れた場所では、たまたま出歩いていた住人の避難が行われていた。
 桐山・優人(リッパー・en0171)が発した殺気によって人を遠ざけ、フローネたちが更に目視で周辺を確認していく。
「さて、こんなもんか? ……後はあいつらが上手くやりゃあいいんだがな」
 優人の視線が遠く、ドリームイーターが来るであろう方角へと視線を向ける。
 ――その一方、件のドリームイーターは地球上では到底聞いた事の無い奇妙な発音の宇宙語っぽい何かを発し続けながら、ケルベロスを一瞥していた。
 そして、不意に円状の瞳が激しく明滅し、緑色へと変色を始める。
「む、まずいですね」
 何の前触れもなく唐突に光は拡散を始め、ケルベロスたちはその緑の光に晒される事になる。
 広範囲に渡って放射される光線に、咄嗟に真理とノーグが前に出た。
「こっちに引き付ける、足止め頼んだぞ!」
 味方への射線の前に立ち攻撃を防ぎ、光線を浴びながら飛び出したノーグの後に真理とライドキャリバーのプライド・ワンが疾走を開始する。
「了解です、一気に攻めるですよ……!」
 その速度は先に出たノーグすら上回り、プライド・ワンと同時に、敵の死角を確実に突く。
 そして、二人の攻撃に翻弄された敵に、ノーグの鋭い爪が襲い掛かった――が。
「ッ、速い!」
 それまでのゆったりとした動きとは裏腹に、ぐらりと反れた身体にノーグの爪は空を切ってしまう。
 3メートルと言う巨躯からは想像できない機敏な動きである。
「どうやら一筋縄ではいかぬようじゃの、まずはあの動きを封じねばな」
 梅子の言葉に数名が頷く。
「じたくていぎを私達と我々の護るものへ一時再編、自陣・防衛線――再認」
「瞳から発せられる光に注意してください、どうやら人体への悪影響があるようです」
 夜明け前、まだ薄暗い夜の街道を不気味に照らす宇宙の光を、桃太郎の剣から溢れる光が押し退ける。
 それと同時に、戦闘態勢へと移行するウチュージンの周辺を紙兵が舞った。
「『此の先我等が陣。汝の進軍を禁ず』」
 どこか普段と異なるハッキリした口調。そして、それに呼応するようにひらりひらりと捉えどころのない動きをする紙兵たちが仲間を守る。
「よしっ、もう一度攻撃をしかける! 援護を頼むぜ!」
「わかった! 羊さんキックで動きを止めるよっ!」
 先に動いた梅子と一緒にルリナが高々とドリームイーターの頭上を取る。
 同時に、仁が取り出したのは、スマートフォンだった。
「宇宙の敵には宇宙ヒーローで対抗だぜ!」
 スマートフォンから伸びるのは、敵の瞳から発せられるものよりも鮮やかな緑の閃光。
 それは一筋の刃のような形を形成し、仁の纏う白銀の魔導装甲と相成って、さながら宇宙の平和も守りそうな風体である。
「確実に! 喰らわせてやるのじゃ!」
 梅子とルリナ、小柄な二人からは想像できない強烈な重圧が飛び蹴りと共にドリームイーターを襲う。
 そこに仁の光刃が重なるも、やはり敵の俊敏性の前に決定打には至らない。
「いや、今は少しでも当たれば十分だ! それに……」
「本命は、こっちなんだよねぇ」
 まるで重力そのものを感じさせないようなふわりとした跳躍。しかし、その先に待っていたのはエアシューズを起動したルーチェだった。
 摩擦から繰り出される強烈な炎がドリームイーターに突き刺さる。
「長丁場になりそうだねぇ、大きいから当てやすいかなと思ったんだけど」
 連携に連携を重ね、ようやく手応えの感じられる一撃を浴びせる事ができた。
 初めから侮るつもりは毛頭無いが、ルーチェの言葉通りあの機動力を徹底的に潰さなくては、長期戦は免れないだろう。


 戦闘開始から約5分。
 戦況はお互いがじわじわとダメージを蓄積していっている状態にあった。
「くぅ、あの赤い光線を受けてから体が思うように動かぬ……」
「うーん……どうやら、麻痺に近い状態を引き起こしているようですね、ささっと治療します」
 幸いなのは、こちらには回復の手段があり向こうにはないことだろう。
 梅子たちの周辺に紙兵を増量させながら、ウチュージンは傷をヒールしていく。
「そろそろ、宇宙の人には地球の重力が辛くなってきた頃なんじゃあないかなぁ?」
 軽口と共に浮かべた笑みを絶やさず、ルーチェは鋭い刃をドリームイーターへと突き立てる。
 それも決定打には及ばないが、確実にドリームイーターの体を傷付けていった。
「いつまでもひらひらと逃げられると思わない事です!」
「そういう事だ、イカはイカらしく海に沈んでいろ」
 間髪入れず、桃太郎が桜の花を舞わせながら羽ばたき、聖なる光が敵を捉える。
 そして、光を受け足が止まったところに、犬丸とノーグが同時に斬りかかった。
 最初に比べ、確実に敵の動きが鈍くなってきているのは間違いない。敵の動きを封じるように立ち回り、攻撃を積み重ねた結果が出てきたと言えるだろう。
 昇たちの援護射撃も、更にドリームイーターを追い込んでいく。勝負が決するのも時間の問題かと思われた、が。
「本物の宇宙人に風評被害が行く前にお帰り願うのじゃ――む!?」
 すっかり回復した様子の梅子のオーラが猛り、一点に収束していく。
 だが、それが解き放たれる瞬間と言うタイミングでドリームイーターの瞳がぐるりと、彼女の方へと向き直った。
 爛々と輝く瞳の奥底から溢れるのは、脳を侵食し夢現の境を破壊する鈍青の光。
「そうはさせないですよ!」
 その光の前に、颯爽と真理が飛び出る。
 強烈な宇宙光が脳へ叩き込む負荷は、直接的な痛みと同等の苦痛を伴い、真理を苦しめる。
「ッ……私が居る限り、誰も傷つけさせないですよ」
「大丈夫ですか? ……むむむ、これは……すぐにヒールしますよ」
 宇宙光に意識を奪われれば、まともに敵を狙うことすらままならないだろう。
 しかし、それもウチュージンの適格かつ迅速な対処によって事無きを得る。
「やはり結局はドリームイーターなのじゃな! もう容赦しないのじゃ!」
 自らを守って傷ついた真理を気遣いつつも、梅子は先ほどの気咬弾を再度ドリームイーターへ向かって撃ち放つ。
「ソノトオリダ、ムダナテイコウハ、ヤメロ」
 そこに重なる地球発宇宙語……もとい、仁のビブラート声と、スマートフォンから拡散される謎の電波。
 ある意味宇宙より謎に溢れた改造スマートフォンが放つ電波がドリームイーターを蝕んでいく。
 見る見るうちに赤青緑と色を変え明滅する瞳は、まるでドリームイーターの焦りを表しているかのようだ。
「そんなところでボーっとしてると……危ないよっ!」
 ようやく隙を晒したドリームイーターを、突然の白い塊が突き飛ばす。
 それは3メートルを軽く凌駕する、とても大きな大きな緩い顔の羊だった。
「人に迷惑かけるなら、宇宙人でもドリームイーターでもお仕置きだよ!」
 ふわふわな見た目とは裏腹に、凄まじいインパクトにドリームイーターが跳ね飛ばされる。
 力尽きたドリームイーターはそのまま地面に落ちてくる事無く、薄れつつある星空へと消滅するように消えていくのだった……。


「大丈夫ですか? ……反応がありませんね」
 戦闘終了後、ケルベロスたちは事件が起こった丘の上で被害者の青年の様子を見に来ていた。
 倒れていた青年を桃太郎がが抱え起こし軽く頬を叩くが、反応が無い。
「ふむ……どうやら、気絶しているだけみたいですね。多分、命に別状は無いですよ」
 その横からウチュージンが青年の状態を診る。顔色は少々よくないが、呼吸も平常なようだ。
 大事を取ってこの後、病院にでも運べば問題は無いだろう。
「しかし、最近の宇宙人と言うのはあんな感じのが流行っておるのかの? わしのイメージではこう、タコみたいなのを予想しておった」
 梅子の脳裏を過るのは、いかにも火星人な感じのシルエット。
 やはりテンプレートな空想上の宇宙人と言えばそれだろう。話を聞いて同じものを思い浮かべながら、ルリナは放置されていたカメラを覗き込む。
「ボクたちもご先祖様は宇宙人みたいな感じだけど……このお兄さん、それじゃ満足してもらえないかな?」
「ウェアライダーの祖先……マスタービーストって言ったか。とは言え、もう俺達みたいなやつらも地球じゃ珍しくもないからな……」
 夜空に広がる無数の星々を見上げ、ノーグは呟く。
「名前だけなら俺も『ウチウジン』だがな、俺じゃあ駄目かね?」
「余計に駄目だと思うのですよ」
 豪快に笑う仁に、真理の冷静なツッコミが刺さる。
 よくよく考えれば、デウスエクスが度々襲撃し多種多様な種族が住むこの地球において、最早宇宙人もそれほど珍しいものではないのではないだろうか。
「まぁ、ご覧の通り宇宙は広いんだし、いつかドリームイーターの作った偽物じゃなくて、僕たちをビックリさせてくれるような本物も現れるんじゃないかなぁ」
 その宇宙人とは友好的な関係を築ければいいんだけどね。と続けるルーチェの言葉には、ケルベロスたちも頷くのだった。
 ふと、真理のアイズフォンにメールの受信が入る。
 そこには、『お疲れ様でした』とよく見知った大切な人物からの労いの言葉が書かれていた。
「……そうですね。こうして様々な種族が地球で共に過ごしているのです。今更宇宙人くらい、きっと仲良くできるのではないでしょうか」
 種族が違えど、こうして通じ合っている。きっと、それは不可能な未来ではないのかもしれない。
 広い宇宙に各々の思いを馳せ、ケルベロスたちは青年を病院へと連れて行くのだった。

作者:深淵どっと 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 6
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