●祭りの夜に
歩道に、いつもと違う『カランコロン』と言う下駄の音が響く夜。
浴衣を着た少女が頬を染め、好きな人と手を繋ぎゆっくり歩く。
子供が、お母さんにアニメのキャラが描いてある綿菓子が欲しいとねだる。
そんな夏の終わりの祭りの夜に、彼女……いや、デウスエクスは現れた。
「このお祭り、主人に代わり、わたくしが滅茶苦茶にして差し上げます! ついでに、グラビティ・チェインも頂いちゃいます!」
突如、祭り会場のメインステージに姿を見せた、浴衣を纏いマグロを被ったシャイターンは、そう宣言した。
●マグロかあ……
「……また、あったま痛いのが出て来たなあ」
大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)は、頭を抱えながらもケルベロス達に説明を始める。
「エインヘリアルに従う妖精8種族の一つ、シャイターンは覚えてるよな?」
『タールの翼』と『濁った目』を持つ妖精族、かつてヴァルキュリアを操り、オーズの種事件にも深く関わっていると推測される種族だ。
「シャイターンが起こす事件が予知出来た。今回のシャイターンの目的は、各地の祭り会場を襲撃し、一般人を殺害してグラビティ・チェインを得ようとするものだ。何故、祭り会場を狙っているのかは不明だけど、人の集まる祭りと言う場を利用して、効率よくグラビティ・チェインを略奪する作戦である可能性が高い」
確かに、祭り会場なら人は大勢いる。
グラビティ・チェインが目的なら、絶好の場と言えるだろう。
「今回現れるシャイターンなんだけど……浴衣を着た女性型。そして、頭にマグロを被っている。この事から、俺達ヘリオライダーは、『マグロガール』と呼称する事にした。みんなには、祭り会場に先回りをして、マグロガールを撃破、事件を未然に防いで欲しい」
雄大が大真面目な顔で言う。
「今回、みんなに向かってもらいたいのは、宮崎県小林市の自治体が行う納涼祭だ。マグロガールは、納涼祭のメインステージに空から降り立ち、襲撃を始める。みんなには、その周辺に待機してもらって、マグロガールが現れ次第、マグロガールを挑発して……そうだな、近くに小学校のグラウンドがあるから、そこまで誘導して、撃破してもらいたい」
マグロガールは、姿がデウスエクスと言うより、祭り中に悪ふざけをしている様な恰好の為、すぐには現場はパニックに陥らないだろうとのことで、余興の様に人々に見せかけ、人々に被害の出ない場所で戦闘すれば良いとのことだ。
「祭り会場の人々を避難させてしまうと、マグロガールは別の場所を襲撃してしまう。だから、現れ次第接触して欲しい。ちなみに、この場に現れるマグロガールは、イケメンのグラビティ・チェインが大好きらしくて、イケメンが声をかければ『ちょっとだけなら』って感じで付いてくるみたいだな。そんな感じで一般人に被害が出ない様に、そして可能なら一般人に、デウスエクスの襲撃だと悟られないようにしてもらえると助かる」
デウスエクスの襲撃だと分かり、場が混乱してしまえば、折角のお祭りが台無しになってしまうだろうと、雄大は言う。
「マグロガールの戦闘方法は、マグロの頭でのヘッドバッド、水風船を使った遠距離攻撃、綿あめを食べての自己ヒールだな。……うん、まあ、シャイターンだから、ちゃんとデウスエクスだから、油断しないようにな」
雄大が自分にも言い聞かせる様に言う。
「マグロガールの戦闘力は、あまり高くないけど、撃破に失敗したら、どれだけの人々が犠牲になるか分からない。気を引き締めて戦って来て欲しい」
そう言うと、雄大はヘリオンへと足を向けるが、すぐに振り返る。
「あ、そうだ。折角、宮崎のお祭りに行くんだから、お仕事終わったら、お祭りを楽しんで来てもいいよ。普通に食べ物の出店とか出てるみたいだし、宮崎地鶏とかも美味いんだよなあ。宮崎は神話の里だし、クライマックスには神事の舞とかもあるみたいだぜ。今年中に浴衣を着る機会も、もうそんなに無いだろうしな」
『俺へのお土産はたこ焼きでいいぜ♪』と雄大は笑った。
参加者 | |
---|---|
久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163) |
水守・蒼月(四ツ辻ノ黒猫・e00393) |
月見里・一太(咬殺・e02692) |
ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196) |
火鳴木・地外(酷い理由で定命化した奴の一人・e20297) |
神野・雅(玲瓏たる雪華・e24167) |
錆滑・躯繰(カリカチュア・e24265) |
シトラス・エイルノート(ヴァルキュリアの降魔拳士・e25869) |
●何故マグロ?
「今回はマグロヘッドのシャイターンの討伐か……」
小学校のグラウンドを囲む様に、キープアウトテープを貼りながら、久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163) は、しみじみと呟く。
『妖精8種族』において『炎と略奪』を司る危険な種族『シャイターン』の新たな作戦。
祭り会場に集まる人々のグラビティ・チェインを略奪する為に投入されたのが、よりにもよって『マグロガール』と言うのは、何の冗談なのだろうか?
「………何でマグロ? アスガルドにもマグロがいるんだろうか? 雄大以外のヘリオライダーも各地でマグロガールが暴れ出したって言ってたし……まぁ、考えても詮無いことか。今はやるべき事に集中しよう」
迷いを消す様に首を、ぶんぶんと振る航。
だが、勿論、この疑問を抱く者は他にも居た。
「マグロガールの撃破……。イケメン好き女子……何処から突っ込むべきか……突っ込み所満載だが、油断せずに行こう……うむ、油断せずに……」
そう自分に言い聞かせているのは、航の対角線上でキープアウトテープを貼っている、神野・雅(玲瓏たる雪華・e24167)だ。
彼……いや、彼女もマグロガールの脅威に畏怖より、疑問を抱いていた。
「ねえねえ、こっちの方は、貼り終わったよー! キープアウトテープ!」
元気に跳ねる様に言うのは、水守・蒼月(四ツ辻ノ黒猫・e00393)である。
「やっぱり、お祭りだから人通り多いね。マグロガール? が近付いて来ても、動かない様なら移動してもらえるようにお願いしなきゃね」
「まあ、あちらにも人員は配置しているし、大丈夫だろう。私達は、マグロガールが侵入次第、キープアウトテープで戦場を封鎖出来る様にしっかり隠れておこう」
雅が凛々しく蒼月に言うも、その言葉を聞いていた航の頭の中では、マグロガールの名前が出る度に、先程から自問している疑問が巡るのだった。
●現れるマグロ
所変わって、駅前の特設会場のメインステージでは、小学生によるコーラの早飲み大会が行われていた。
その時、ステージ上に天から舞い降りた浴衣を着たマグロ……では無く、マグロを被ったシャイターン『マグロガール』が下駄をカランと鳴らして、降り立った。
そのコメディめいた様相に会場の人々も『何だ? 何だ?』と注目する。
人々の注目を集めるマグロガールは勢いよく、右手を振りかざすと、デウスエクスとして恐怖の宣告を始める。
「このお祭り、主人に代わり、わたくしが滅茶苦……!」
「君、可愛いねぇ。面白い被り物してるし。こっちは男だけで暑苦しいし、楽しい事しに……一緒に来ないか?」
「あら、イケメン♪」
髪が長く、やや女性顔だが、高身長のイッケメーンに声をかけられ、マグロガールが目を輝かす。
「ライゼル、君ばかり彼女と話すなんてずるいよねぇ。やぁ、其処の可愛らしいお嬢さん……ふふ、君、中々面白い出で立ちをしているね。マグロが好きなの?」
美しい白髪に中性的でいて、悪戯小僧の様な口振りの美少年にまで声を掛けられてしまえば、マグロガールの頭の中は祭りどころでは、無くなってしまう。
「ゆっくりと、君とお話をしたいなと思ったんだ。此処だと人が多いよね。人がいないところにでも移動しよっか?」
「静かな所で、ボク達と楽しいことしよう?」
錆滑・躯繰(カリカチュア・e24265)とライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)の二人に淡く微笑みながらそう言われれば、マグロガールは語尾にハートマークを付けて『はい』と答える。
そのステージ上のやり取りに疑問を持つ人々も居たが、この時の為にスタンバっていた者達も居たのだ。
「俺達もあの子も関係者だから、これを見れば分かるよな?」
そう言って輝くチケットを人々に見せながら、マグロガールへの人々の接近を抑制しているのは、火鳴木・地外(酷い理由で定命化した奴の一人・e20297)だ。
(「あれがマグロガール……」)
地外は、思わずごくりと唾を飲む。
(「被り物が奇妙だが、些細な話だ。……意外とあるな……浴衣からこぼれんばかりだ。しかも……ノーブラと見た!」)
などと地外が他の方向でテンションがMAXになっている間も、躯繰とライゼルのイケメンペアが、マグロガールをメイン会場から遠ざけていく。
関係者と偽っても、どうしてもマグロガールは目立ってしまう為、興味本位で地元の小学生やおばちゃん達が着いて来てしまう……だが。
「済まねぇが、仕込みの途中だ。関係者以外は遠慮してくれ」
威風堂々とした、月見里・一太(咬殺・e02692)がそう言えば、物見遊山で着いて来ていた、おばちゃん達も。
「あら、そうなの。ほほほ、私ったら、はしたない。運営の皆様が頑張って下さってるのにごめんなさいね」
と、来た方向へと戻って行く。
だが、小学生達はと言うと、素直に従ういい子でなければならないと言う思いと、湧き上がる興味で動けずにいる。
「まぁ。少し待ってくれたら、吃驚するようなイベントがあるんで、今は大人しく従ってくれよ。な?」
一太が小学生の目線で話しかけ、頭に優しく手をやり微笑めば、小学生達も。
「楽しみにしてるから! 約束だよ!」
そう言って、走り去って行く。
マグロガールと距離が取れたのを確認すると、シトラス・エイルノート(ヴァルキュリアの降魔拳士・e25869)は、祭りの関係者達に自分達がケルベロスであることを明かしていた。
「戦闘が始まれば危険ですので、少しの間、小学校の方へ人が行かない様に誘導をお願いします。ご心配なさらないで下さい、僕達がすぐに解決いたしますので」
シトラスが柔らかく微笑めば『それなら安心』と、祭り運営の人々もケルベロスに協力的に動き出す。
「さて、僕も追いつかないといけませんね。なかなか愉快な被り物をしたお嬢さんでしたが、敵である以上は手加減等出来ませんからね」
そう呟いて、シトラスは颯爽と小学校のグラウンドへと向けて駆けた。
●消え行くマグロ
「こんな所まで、連れて来て……私をどうするつもりなのかしら?」
イケメン二人を誘惑する様に、少しだけ浴衣をはだけさせて、マグロガールが乙女の瞳で、躯繰とライゼルを見つめる。
「もう、着いてしまったか……それじゃぁ……楽しい事、やろうか! 変身!」
そう言うと、ライゼルは腰のベルトに鍵を差し込むとバトルフォームに変身する。
「え!? 何?」
「騙してゴメンね、でもこれも運命だと思って」
マグロガールの問いに躯繰は、ドラゴンの幻影を放つ事で答える。
「航殿、こちらは封鎖出来た」
「こっちも、OK! 戦闘開始だ! って……ホントに何でマグロなんだろうなぁ」
雅がキープアウトテープを出入口に貼り、飛び上がって、マグロガールと躯繰の間に入り、黒鎖の陣を敷いている最中も、航の視線はどうしても、マグロガールの頭部に行ってしまう。
そんな航の横を闇色の槍が通り過ぎると、マグロガールの浴衣を切り裂く。
「お祭り壊してどうするつもり?」
戻って来たブラックスライムを再度、腕に絡みつかせ、蒼月がマグロガールに聞く。
「あんた達……ケルベロスね! もしかして乙女の純情弄んでくれちゃった訳? 許せない!!」
「許せないのは、こっちの方だよ。折角の美味しい地鶏……っじゃなかった、美味しいお祭りを壊させたりしないからねっ!」
顔を真っ赤にして、怒りを顕わにするマグロガールにハッキリと蒼月が言い放つ。
その時、航の剣閃が奔った。
「しっかし、変ちくりんとはいえ……女の子を斬るのは気分のいいもんじゃないな……」
刀を構え直しながら航が呟けば、マグロガールは手にした綿あめを頬張る。
「何よ、こんな傷。お祭りパワーがあれば、すぐ消えちゃうんだから」
マグロガールのその言葉通り、マグロガールの滑らかな肌に付いた傷跡が、見る間に消えていく。
「もう始まってるじゃねえか! って、浴衣乱れてるじゃねえか! ……いや、なんて言うの。男の集団で……女一人、人気のないところに連れ込んで囲むとか背徳感あるな……」
地外が来て早々、そんな事を呟けば、雷を帯びた鎖が、地外の頬をかすめる。
「ちょ、ちょ! 雅!」
「すまない。手が滑った」
いきなりの攻撃に一歩たじろいて、抗議する地外だったが、雅はマグロガールの方を向いたまま一言謝るだけだ。
「雅さん、グラビティの乗った鎖は誤射しないと思うぜ」
「でも、今のは地外君が悪いですよ。それにしても…………そんな可愛い浴衣を着て現れるのであれば、普通にお祭りを楽しめばよかったものを」
狼の姿をとった一太がハンマーを振り被り、戦場に飛び込む様に超重の一撃を放ちながら言えば、刃の様な蹴りをマグロガールに叩き込みながら、たしなめる様にシトラスが言う。
「みんな、揃ったね。人々が居るからね、手早く終わらせてもらう。全力で行くぞ」
言うと、ライゼルは空中で3度回転すると、流星の如き蹴りをマグロガールに決める。
「よっし! 俺も行くぜ! ……喰らえ、破鎧衝!」
地外が勢いよく、堅い装甲すら砕く強烈な一撃を放つが、吹き飛ぶのはマグロガールの浴衣である。
ついでに言うなら、地外の掌はマグロガールの胸の上だ。
そのまま動けずにいる、地外の真後ろから、竜の幻影が猛スピードで迫って来る。
地外は間一髪、地を蹴り避けるが、放った躯繰は、素知らぬ顔だ。
「マグロ……マグロねぇ。なんでマグロなんだ? その頭部は本当にマグロなのか、本物なら……食用なのか否か凄い気になるけれど……倒した後に採取とか出来ないかな?」
「もう、許さないんだからー!」
マグロガールの放った怒りの水風船は、躯繰を捉えず、咄嗟に動いたライゼルが受け、グラビティが弾ける。
そこからの三分は、グラウンドで花火でもしているかの様な騒音が響いた。
雅が爆破スイッチを押せばカラフルな煙が立ち込め、航の刀が横薙ぎされれば雷が奔り、蒼月の御業が砲撃となってマグロガールを襲った次の瞬間には、ライゼルの放った炎弾が燃え上がる。
緑の光の粒子となったシトラスがマグロガールを突き抜けた後には、一太の大鎌が月を映して宙を舞った。
躯繰が踊る様なナイフ捌きで、マグロガールを切り裂く頃には、マグロガールのグラビティ・チェインの流出は止めようが無かった。
「占いによればこっちの方角にパンチすれば当たるって聞いたぜ!」
残骸で武装した拳を容赦なく、撃ちすえる地外。
勿論、色んな意味で勿体ないとは、思っている。
「潰れなさい」
シトラスが呟けば、空から巨大な鉄鎚がマグロガールのヘッドに振り下ろされ。
「いいよ、出てきて一緒に遊ぼうよ」
蒼月が自身の影に呼びかける様に言えば、大小様々な猫が這い出て来ると、好物のお魚ガールを喰らっていく。
「今宵語りしは雷剣携えし英傑の譚――彼は切り開く者、導き出しは希望への光」
「貫け! 流星牙!」
雅が自身に英雄の人格を降ろし、その力を持って巨大な魔法陣から召喚した長大な剣でマグロガールを一閃すれば、航の紋章の力を宿した拳がマグロガールの身体をくの字に曲げる。
「テメェに告げる言葉もねぇ。ただ、咬み殺してやるよ――悪魔」
一太はそう告げると、マグロガールの喉元に噛み付き、彼女の命を食い千切った。
「……マグロの味? いや、うん? まぁ、良いけどよ」
炎が燃え尽きる様に消え去っていく、マグロガールを見つめながら一太は言い放つ。
「やっぱり、猫さんはお魚さんが好きなんだね~」
「俺は、猫じゃねえ! 狼だ!」
蒼月の言葉にすかさず言い返す一太の声が、夜のグラウンドに響いた。
●夏の終わりの夏祭り
(「やっぱり、浴衣の女の子はいいよなあ」)
夜店を覗く、浴衣女子を見ながら地外は心の中で呟く。
マグロガールとの熱き戦いを終えたケルベロス達は、着替えると祭りに繰り出していた。
「わ~い!鳥肉~っ!!」
宮崎地鶏の屋台を見つけると、蒼月が一目散に走って行く。
「あまりはしゃぐと迷子になるよ」
ライゼルが、走る蒼月を嗜めるが、他の仲間達ものんびりしたもので。
「ま、無事終わった事だし祭り楽しもうぜ。焼き鳥美味いんだろ? この辺って」
「まあ、宮崎地鶏は有名だからね。折角だから食べられるだけ食べて帰ろうと思うが」
航の言葉に、ライゼルも実は祭りを楽しむ気満々だったと、言葉を返す。
食道楽三人組は、食べ物系の出店を回る度に、両手が塞がって行く。
「あと綿あめにリンゴ飴。カキ氷も食べなきゃ! チョコバナナでしょ! 焼きそばも! 両手じゃ足りないよ~! あぁ、瓶ラムネも~」
「たこ焼きにイカ焼きもあるぞ」
「おいおい、流石に欲張りすぎ」
蒼月とライゼルの尽きぬ食欲に流石の航も呆れ気味である。
「雄大君にはたこ焼き20パックでいいかな?」
「多いよ!」
ライゼルの言葉に突っ込まずにいられなかった航だが、ライゼルは本当に抱えきれない程のたこ焼きを、購入していた。
「女性物のアクセサリーかい?」
「はい、姉へのお土産にと思いまして」
シトラスは、髪飾りやブレスレットを並べている、おばあさんの屋台で腰を屈めていた。
「だったら、これなんかどうだい? 天照石で出来たブレスレットだよ。霊峰高千穂でしか取れない石だからね。あんたの大切な人を守ってくれるよ」
「綺麗な黒ですね。そんな云われのある石なら、姉もきっと喜ぶと思います。頂けますか?」
その黒いブレスレットを優しく手に包むと、シトラスは穏やかな笑みを浮かべた。
雅は、メインステージ前のパイプ椅子に座り、地鶏を頬張りつつこの地の郷土芸能『岩戸神楽』を鑑賞していた。
『天の岩戸開き』『剣の舞』『長刀の舞』どれも神秘的で歴史を感じるのに十分な時間だった。
「夏季の本祭だと、もっと大掛かりなんだな。次、来る機会があったら、絶対見ておきたいよな」
出来る事なら、来年またこの地に足を運べればと雅は思った。
その頃、一太は砲筒の中に居た。
「いや、確かに吃驚イベントつったけど。ケルベロスだけど。え、マジでやんの? マジ?」
マジである。
大丈夫!
人間大砲をやってもケルベロスは大丈夫と言うのは、既にインドで実証済みである。
ケルベロス大運動会は全世界で中継されたが、生で見られるものなら生で見たいのが人と言う者だ。
無慈悲に砲筒に火が入る。
「コンチクショウ飛んでやらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ドップラー効果で叫びを残しながら、一太は夜空に輝く星の一つとなった。
「いい、祭りの夜だね……」
一人、宿の座敷の縁側で酒を飲みつつ、祭りの喧騒を遠くに聞き、夜空を眺めていた躯繰は、知る由もなかった。
夜空に咲いた、花火の一つが一太であった事など……。
祭りの夜に、それもほんの些細なことだったのだろう……。
夜空に咲いた花火が散る音と共に、一夏の終わりを告げるのだった……。
作者:陸野蛍 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年9月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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