ザリアーの碧き宝

作者:秋月諒

●ザリアーの碧き宝
 かの地には、宝が眠っているという。
 なお深き地の底に、星々によって『それ』は隠された。満ちる祝福と、二つの守りと、ひとつの囁くような願いを込めて。
 深き青の先『それ』は微睡みの中にあって目覚めの時をただただ待ち続けているという。
「ザリアーの碧き宝。目覚めをもたらしたものたちに祝福を齎すって言われちゃぁ、探すほかないよな」
 三つの祝福が、星の名を示していることは分かった。
 そうなれば、たどり着くのはこの鍾乳洞なのだ。滝の裏の鍾乳洞、その奥地に宝が眠るという。 
「かーっ出てこねぇなやっぱ簡単には!」
 そこがまたお宝の香りがするというものではあるのだが。
 拳をひとつ握り、恍惚な顔をひとつした男はもの言わぬ端末を見る。見事連絡はなし。
「なんで信じねぇかなぁ……鍾乳洞の奥地が危険ってのは当たり前として、でも宝が眠るってなったら気になるに決まってんのになぁ」
 その上祝福だぜ。
 一人そう言って、男は口の端を上げる。宝に祝福。胡散臭い言葉が揃ったと友人は言ったが、男にとってこれ以上心揺さぶるものはない。
「ま、今んとこなーんも見つかっちゃいないんだが……」
 鍾乳洞の奥は、ちょうど天井の高い空間になっていた。なだらかな斜面に、予想以上に大きな空間に期待は膨らむのだがーーそれらしい場所も、宝箱も見当たらなかった。
「地底湖はあるんだけどなぁ……こう、祝福を齎す宝っつーとこうどどーんとあるべきで……」
 続くはずの、言葉は空に消えた。
 あ、と溢れる声も、息を飲む音をこぼす声さえ許されぬまま、ぴく、と固まった男には己の胸を一突きにしたものが何であるかなど分かりやしないだろう。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 ぴしゃん、と滴り落ちる水音と共に、静かな声は言った。
 男の心臓を一突きにした鍵を引き抜くと、第五の魔女・アウゲイアスは男の真横に現れる影に目をやった。
「ふふ、うふふふふ」
 零れ落ちるは笑み。
 その身を包帯に覆われた娘が随分と大きな宝箱を抱えて、笑っていた。
「えぇ、えぇ! 待ッテいたワ!」
 ガチン、と宝箱が獣の歯をむき出しにする頃には、アウゲイアスの姿は鍾乳洞から消え、ぴしゃん、と静かな水音と笑い声だけが響いていた。

●探し人
「滝の裏に鍾乳洞、奥地に宝が眠る話に興味を持った方被害に合うのが分かりました」
 静かな言の葉がヘリポートに落ちた。
 紫の瞳を開き、告げたのは蓮水・志苑(六出花・e14436)であった。この地にちょっとした宝の話があるのだと志苑は小さく笑みを零した。
「はい。志苑様の情報通り、この地には『宝が眠っている』という噂があるそうです」
 ザリアーの碧き宝、という噂話なのだという。
 レイリ・フォルティカロ(天藍のヘリオライダー・en0114)はそう言って、顔を上げた。
「不思議な物事に強い『興味』をもって、実際に自分で調査を行おうとしている人が、ドリームイーターに襲われ、その『興味』を奪われてしまう事件が起きていることをご存知の方もいらっしゃると思います」
 この鍾乳洞でもそれが起きたのだと、レイリは言った。
「被害にあったのは、この鍾乳洞の奥地に眠る宝の話に興味を持ち探索に来た男性です」
 男性は『興味』を奪われたのち、意識を失ったままだ。『興味』を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているようだがーー奪われた『興味』を元にして現実化した怪物型のドリームイーターは存在したままでいる。
「出現したのは、大きな宝箱を抱えた女性です。古びたドレスの姿で、目を古い包帯で巻かれています」
「ミイラか、それともバンシーってとこかな?」
 口を開いた三芝・千鷲(ラディウス・en0113)に、レイリは小さく笑う。
「さて、どうでしょう。この怪物型ドリームイーターは被害者の興味を具現化したような形をしているそうです」
 鍾乳洞の奥地に眠る宝がモチーフとなっているのだろう。
 このドリームイーターを倒すことができれば『興味』を奪われてしまった被害者も目を覚ますだろう。
「皆様に依頼です。この怪物型ドリームイーターによる被害が出る前に撃破してください」
「ドリームイーターは、大きな宝箱を持った女性の姿をしています」
 宝箱は獣のような鋭い刃を持ち、嚙みつきのほか、口からは煙も放つという。
「宝物らしい、といえばそうかもしれませんが。相手はこの一体です」
 それと、この怪物型ドリームイーターにはとある習性があるのだという。
「決まって『自分が何者であるかを問う』ような行為をするようです」
 ザリアーの碧き宝、と答えることができれば何もしないで去っていくそうだ。逆に、答えられなかったり、化け物だといえば怒って相手を殺してしまうのだという。
「上手く答えれば見逃して貰えるかもしれませんが、目的はこの怪物型ドリームイーターの撃破です」
 この後にやってくる全ての人が、正しく答えられるとは限らない。被害者が出ないとは言い切れないのだ。
「倒しましょう。ザリアーの碧き宝を模した宝箱と女性が何かを奪ってしまう前に」
 怪物型ドリームイーターは鍾乳洞の中を移動しているようだ。中を探索するにも時間がかかりすぎてしまう為、誘い出すのが良いだろうとレイリは言った。
「このドリームイーターは、自分のことを信じていたり噂をしている人がいると、その方に引き寄せられる性質があるようです」
 戦場には、鍾乳洞の中、天井の広い区画がいいだろう。ほど近い場所に男性も倒れている。鍾乳洞の中は広く、足元こそつるりとしているが歩き回るのに問題はないらしい。少し行った先には小規模ではあるが地底湖もあるという。
「戦いには問題はないかと」
「何に興味を持つのかはそれぞれですが、その想いはその方のものです。好き勝手にされてそのままって訳にも勿論いきませんので」
 情報を、頂きました。この事件を知ったのだからーーあとは行くだけ。
「では行きましょう。皆様に、幸運を」


参加者
銀冠・あかり(夢花火・e00312)
ダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435)
ディートヒリ・エヴァルト(ガンスリンガードール・e03317)
ルードヴィヒ・フォントルロイ(キングフィッシャー・e03455)
アッシュ・ホールデン(無音・e03495)
蓮水・志苑(六出花・e14436)
巽・清士朗(町長・e22683)
三廻部・螢(掃除屋・e24245)

■リプレイ

●滝の裏には
 ごうごうと、滝の唸る音がしていた。
「ゎ……俺、鍾乳洞って、はじめて、で。なんだか、不思議な感じで、どきどき、します」
 銀冠・あかり(夢花火・e00312)は周囲に目をやった。
 差し込む日差しを背につるり、とした道を行けば高い天井がケルベロスたちを出迎える。
「これでいいだろ」
 一般人対策で入り口に立ち入り禁止のテープを張ったアッシュ・ホールデン(無音・e03495)が顔を見せれば、他に出入りに使われそうな場所は無かったとダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435)が振り返る。腰に手に、それぞれ持ち込んだ灯りのお陰で薄暗い洞窟の中も随分と明るくなった。
「滝の裏に鍾乳洞、遥か太古から時間を掛けて形成されるそれはそれだけでも十分な宝と言っても良いでしょうが更にそこに財宝が存在するという話になれば興味を持つ人々も少なくないでしょう」
 唸る滝音に対して頬を撫でる風は優しかった。
「その興味とても素敵だと思います」
 揺れる黒髪をそのままに、蓮水・志苑(六出花・e14436)は言った。
「取り戻さないといけませんね」
 この地にきた青年は、その宝に対する興味を魔女に奪われてしまった。
「皆さんどうぞ宜しくお願いします」
 一礼をした彼女に、こちらこそ、と声が重なる。
「巽さん、ホールデンさん、本日は宜しくお願いします」
「こっちとしても、一緒に戦えるのは嬉しいもんだ。けどま、あんま力み過ぎなさんなよ?」
 アッシュが、ふ、と笑みを浮かべ、静かに巽・清士朗(町長・e22683)が視線で頷けば「あそこに」とディートヒリ・エヴァルト(ガンスリンガードール・e03317)の声が落ちた。
「倒れている男性がいます」
「と、んじゃぁ向こうにでも移動させておけば大丈夫だろ」
 巻き込むこともない、と言うダレンにそれでしたら、とサポートにやってきていた昇が青年を引き受けた。
 行く背を見送り、戦いの邪魔にならぬようーーそれでいて辺りを照らせそうな場所に持ってきた灯りを置いていく。
「宝の正体って何だろう。火の無いところに煙は立たぬ、何もなければ噂もないもんね」
 興味深そうにルードヴィヒ・フォントルロイ(キングフィッシャー・e03455)はそう言った。
「ガキの頃を思い出しますね。やりませんでした? 探検とか言って」
 三廻部・螢(掃除屋・e24245)は視線をあげる。
「ま、昔はこんな立派な鍾乳洞や、宝を守る怪物なんてのはなかったですけど」
 さて今日は、見事に揃った舞台。星々に目覚め。その道を辿る為にはーーまず、此処にいるものを誘い出すのだ。

●噂話と宝物
「宝の正体って何だろう。火の無いところに煙は立たぬ、何もなければ噂もないもんね」
 歌うようにルードヴィヒ・フォントルロイ(キングフィッシャー・e03455)はそう言った。
「滝の裏の鍾乳洞ってもうそれだけで秘密基地っぽくて燃える。トレジャーハントって夢だよね」
 子供の頃、1度は夢見る冒険譚。
 紡ぐ言葉は、この地に『いる』ものを誘い出す為の噂話。
「ね、『それ』の正体って何だと思う?」
 すい、とルードヴィヒは仲間の方を見る。
「ま、鍾乳洞の奥にお宝がっつーと一種の浪漫だわな。個人的には、願いっつーのが気になるところだが……」
 伝わる言葉を思い出し、アッシュは静かに息をつく。
「ザリアーの蒼き宝……どの様なものでしょうか」
 とても興味深いですが、祝福を齎す物であれば物体とは限りませんよね。
 ディートヒリがそういえば、確かにねぇ、と三芝・千鷲(ラディウス・en0113)が頷く。
「碧き宝とはどのようなものでしょうね、暗い鍾乳洞に碧いとは水に関係あるのでしょうか」
 志苑の頬に感じる空気が変わる。風が止んだ、と志苑は思った。
「洞窟の奥に潜むのは幻の秘宝……。いや、オトコとしては浪漫を感じざるをえないシチュエーションよな。冒険心を掻き立てられるっつうか、知的探究心を擽られるってつうか?」
 言いながらダレンは視線を巡らす。何かがいるようなーー見られているような気配を感じながら、顔をあげた。
「被害者のニーちゃんが思わず踏み込みたくなるのも分かっちゃうね。ご期待通り、大層なお宝が眠っててくれるとありがたいんだが」
 言葉は宝の噂話を口にして、ひとつ吐いた息に冷たい空気が混じる。
「ぉ、俺、あんまり星に詳しくないし、謎解きとかも苦手、なんですけど、みっつのお星さまの名前、気になります」
 やっぱりこの碧き宝物に関連のあるものなんでしょう、か?
「祝福も気になるけど、碧い宝物っていうくらいだから、とっても、綺麗なんだろうなって……」
 ひやり、とした空気があかりの肌に触れる。
「ザリアーの碧き宝が見つかったらどうしますか?」
 ゆるり、と螢は視線を向ける。
「たまにはいいですよね、一攫千金。夢がある」
 口元にほんの少しばかり笑みを浮かべれば、正面、見えていた空間が揺らぎーーそれは現れた。
「ふふ、うふふふ」
 闇の中から足を踏み出すように、古びたドレスを着た女が姿を見せる。目元を包帯で覆い、大きな宝箱を抱えたドリームイーターはケルベロスたちを見て問うた。
「ワタシは誰かしラ?」
 静かに息を吸い現れた者の目を志苑は真っ直ぐに見る。
「宝を護る者……のつもりですか?」
「『守り人』っぽいけどイミテーションビューティってトコかね?」
 息を吐き、ルードヴィヒは告げる。
「欲しいのは浪漫な宝であってミミックちゃんじゃないってね」
「正式名称:デウスエクスジュエルジグラッドと認識」
 ディートヒリの声が静かに響く。
 ダレンは口の端をひとつ上げ、笑う女を見た。
「宝を護る化け物か、でなければ妖精サンってところか。どっちにしても俺らが探してるのはキミな訳だが」
「全部ハズレヨ」
 ふふ、うふふ、と女は笑う。腕の中にあった宝箱が口を開く。
「えぇ! 待ッテいたワ!」
 目覚めの時ヨ、と女の笑い声と同時に大きな宝箱からぶわり、と毒の煙が放たれた。

●喰らいし夢の果て
 吐き出された毒が煙となって前衛陣を襲った。指先に感じる熱が痛みとなって全身を巡る頃には、じくり、と身に毒が落ちたのがわかる。
「せめてその姿じゃなきゃァ、もうちょい楽な気分だったんだケドな!」
 少々複雑な気持ちはあるがーー仕事は仕事だ。
 痛む体に息だけを吐き、ダレンがポジションを定めれば、黄金色の炎が戦場にたった。
「出たな『化け物』――……悪戯に生み出されし哀れなる魂に安寧を」
 ぶわり、と清士朗は黄金色の炎を身に纏った。その横を、とん、と駆ける者があった。一歩、大きく、身を飛ばすように前に出たアッシュの伸ばした腕が、纏う蔓が女を捉える。
「アラ?」
 巻きついた蔦が女を締め上げればガチン、と宝箱が口を開いた。軋む音を振り払うように大口を開いた相手に、アッシュは身を横に飛ばす。
 一瞬奪った視線。絡みついた蔦は相手を束縛する。
「美女に対面するなら無粋な眼隠しはお取り願いたいトコだな」
 ルードヴィヒの掌から、放たれたドラゴンの幻影が炎を吐く。ゴウ、と唸る炎を以って一撃に気がついた宝箱がぐわっと、その口を開いた。
「うん、祝福くれるのはそんな歯をガチガチさせないと思う」
「そうですね」
 真顔のルードヴィッヒにひとつ頷いて、螢は視線をあげる。瞬間、光輝くオウガ粒子が解放された。前衛陣の感覚を研ぎ澄まし、毒を散らす。宝箱が歯を鳴らすのを見ながら、螢は千鷲に声をかけた。
「どうぞガンガンバッドステータスの付与を。サポートはお任せあれ」
「仰せのままに。心強いな」
 ふ、と笑い頷いた千鷲が刃を抜く。男が地を蹴り行けば、すぅ、とひとつ息を吸ったあかりの指先が敵へとーー向く。
「――出ておいで、鬼火さん」
 その声に、応じて顕現するのは虹纏う御業。鬼火は宙舞い上がり悪しき瞳すら魅了する耀きを放つ。光に視線を奪われ、火薬の香に気付いた頃にはもう全てがーー後の祭り。
「——!」
 衝撃が、ドリームイーターを襲った。ぐらと揺れた女の腕の中、宝箱が大口を開くよりも先に志苑が踏み込む。しゅるり、と真っ白な桜が相手に絡みつく。
「ふふ、ふふふ」
 衝撃に、欠け落ちた己の欠片にさえ女は笑う。宝箱の牙が、食らいつくように動くより早く、志苑は身を逸らした。攻撃というよりは、踏み込んだ間合いを嫌うような相手の動きを視界に収める。次の一手、打ち込む機を逃さぬよう、腰の刃に手を添える。
「トップオーダー:対象の撃破」
 キュイン、と力が収束する。
 ディートヒリが展開したアームドフォートの主砲がドリームイーターに向く。
「攻撃開始します」
 光が、熱が戦場を駆け抜ける。狙い澄ましたその一撃を交わすことなどできはしない。熱に焼かれ、衝撃に蹈鞴を踏んだドリームイーターは、ゆらり、ゆらりとその身を揺らしながらーー笑った。
「さァ、もット見セテ!」
 鍾乳洞に火花が散る。ランプの灯りで照らし出された戦場を、ケルベロスたちは駆ける。ぐわ、と食らいつく宝箱の牙に蹈鞴を踏み、その衝撃に僅かに態勢を崩しながらもーー踏み込む。
 負けるつもりも、この地を抜かれるつもりも無いのだ。
 踏み込んだ先、伸ばした刃を交わした女にサポートに姿を見せたシメオンが制圧射撃を放つ。
「アラ」
 足を撃ち抜かれ、引く動きが僅かに揺らげばーーそこは好機だ。
「まっ、少し惜しい気持ちもあるが……こちとらケルベロス、正義の味方なんでな」
 ドレスの裾を翻す女の間合いへとダレンは踏み込む。
「手荒になるのは勘弁してくれ……よっと!」
 大口を開けた宝箱に身を横に飛ばし、続く足で体を支えて剣をーー抜く。
「コレが目にも止まらぬ早技ってヤツさ!」
 電光を纏わせた一刀が、宝箱を切り裂いた。ギィイ、と鋼がぶつかり合う音が響き火花が散る。
 バキン、という音と共に宝箱が欠けた。欠片は地に落ちる前にふわ、と消え、残る燐光の中を千鷲の刃が行く。貫き、届いたその先、ぐん、と顔をあげたドリームイーターを撃ち抜いたのはルードヴィヒの時空を凍結する弾丸であった。
「ふふ、うふふ」
 衝撃に女は身を揺らし、だらり、と下ろした手が氷に包まれる。宝箱の端が炎に焦付き、ガチ、と鳴らす音が僅かに歪む。刻んだのは氷と炎を纏う攻撃、敵の動きを鈍らせる制約を重ね、一撃、一撃を確実に与えて行けば、毒と火花が散る戦場も流れも引き寄せられる。
「サァ、コレハイカガ?」
 ぐらり、と身を揺らしながらも女は宝箱を掲げる。大口を開き、宝箱が大量の針の雨を後衛へと降らせる。
「足を止めるには、足りませんよ」
 ぱたぱたと落ちる血に、眉ひとつ寄せることなく螢は顔をあげる。回復を、と短く告げた彼の横、ディートヒリが6基の端末を打ち出す。
「ファンネル、攻撃用意……てい!」
 遠隔より放たれる攻撃は、高い命中率を以ってドリームイーターを撃ち抜いた。
「ァア」
 衝撃に、宝箱が欠ける。くら、と身を揺らしーーだがすぐに、跳ねるように顔をあげた相手にあかりは踏み込んだ。
「ぁ、ぇっと、この先には、行かせま、せん」
 後衛を、狙い放とうと宝箱を抱えた女をあかりの達人の一撃が貫いた。衝撃に、踏み込む足が止まる。大口を開いた宝箱が、溜め込んだ毒を吐きだせずにいる。その機に、アッシュは駆けた。一瞬で死角に回り込んだアッシュの一撃が、女の健を撃つ。
「卑怯? 笑わせんじゃねぇ……此処は戦場、綺麗事で生き残れるほど甘かねぇよ」
 声も無く、女は傾ぐ。大きく揺らいだその身を視界に、志苑と揃いの羽織をはためかせ清士朗は言った。
「氷炎の共演と行くか――……あわせられるな志苑?」
「はい、勿論です。日頃からの訓練の成果を御見せします」
 応えた志苑に、清士朗は身を前に飛ばす。踏み込みに、僅かに受けた傷が傷んだがーー足を止める理にはならない。
「幾千幾万と繰り返し練り上げたこの技――そうそう避けられると思うな」
 握る拳に乗るは降魔の力。
「吾身ひとひらの忌火と成りて祓い清めん」
 清士朗の縦拳が、ドリームイーターの体に沈む。鋭い突きに、宝箱が開いた口がカタ、と揺れた。
「咲くは白磁の結晶染まるは緋の色」
 その牙が、一撃となって届くよりもーー剣戟の方が、早い。傾ぐ女の体を受け止めるように氷の花が咲いた。
 雪花が、舞う。
 剣圧で貫き咲いた結晶が、ドリームイーターを切り裂きーー散らす。
「ふふ、ふ」
 声が零れ落ちる。ガチ、ガチと歯を鳴らす宝箱がやがてカチン、と閉まり、古びたドレスを纏った女と共に溶けるように消えていった。

●ザリアーの碧き宝
「ぁ、ぇと、お怪我はありません、か?」
 戦いが無事に終われば、心地よい風がケルベロスたちを労った。あかりは、怪我をした仲間を労わるようにヒールをする。重傷のものはいなかったがーー多少の怪我はあった。
「あの男の人もそろそろ起きてるでしょう、良かったら探索に行きませんか」
 螢の言葉に皆が頷く頃には青年も目を覚ましていた。良ければ一緒にどうかというあかりとアッシュの誘いに、青年は目を輝かせて頷いた。
 そうして、青年が加わったところで、鍾乳洞の探索は始まった。鍾乳洞の天井は程よく高い。
「冒険の報酬と言えば美女と財宝……と相場が決まってるハズなんだが、なあ」
 くぅ、と背を伸ばしてダレンは息をつく。
「いや、美女は居たには居たんだケドさ」
 ドリームイーターの美女にやたら鋭い牙を持つ宝箱つきだ。
「ザリアー……ロシア語の様ですね?」
 宝の名をディートヒリはなぞり落とす。
「あぁ。ザリアーとはロシア語で夜明けを意味するらしいが――さて」
 頷いて、清士朗は鍾乳洞の奥へと視線を向けた。
 なだらかな斜面で続く道は、多少分かれてはいるが青年の話によれば基本は突き当りの空間に辿り着くのだという。
(「ザリアー……夜明けにのみ出現する等制約があるのでしょうか……。 宝探しはロマン、というのはよくわかりませんが……地球人は物体スキャニング出来ないので、物を探すのは大変ですね?」)
 今回の場合、物ではない可能性が大いにありますが。
 太陽の位置により、見れる時期が限定されてる自然現象、ととるのが妥当かと思うがーー。
(「男性の考え通りのモノ、とは限らないという事ですね。幸福に思うほど美しい、という事でしょうか」)
 兎に角まずは鍾乳洞の奥だろう。
「満ちる祝福って何だろね?」
 天井開いてるなら示す星がそこを通ったらなのか。
 わくわくとした様子で、ルードヴィヒは奥を見る。薄暗い空間が揺らいで見えた。あの辺りか湖か。
「地底湖の底に沈んでるなんてケルベロス試しなことはないよねぇ」
 口元笑みをしき、トン、と足を進める。
「千鷲は宝の正体気付いてる?」
「ん〜形は無いもの、とかかねぇ?」
 ぴしゃん、と水の落ちる音がする。
「天上に開けた地底湖に、碧き宝……星が宝を隠したと言うなら」
 そう考えながら、瞳李は見えてきた地底湖に視線を合わす。
「……空が映ったこの湖、とか? 確証はないんだが」
「はしゃぐのはいいがこけんなよ?」
 見渡せば横でアッシュのそんな声が届く。考え事を先にして応えとしていれば、とん、と進んだ先で足元がーー滑った。
「——!」
 とっさに、瞳李はアッシュの腕に掴まった。掴んでしまったのが恥ずかしくて、瞳李は体勢を整えながら言った。
「何で私を呼んだんだ? 敵を倒すのにはお前達で十分じゃないか」
「……祝福を齎す宝だっつーなら、どうせならお前にも見せたかった」
 湖だと誰かが言う。開けた天井に、わ、と上がる声は青年のものか。
「呼んだ理由はそれ以外にゃ特にねぇよ」
「お前は理由は特にないって言うが……私は、お前と一緒に来れて嬉しいよ」
 顔をあげる。体を持ち上げれば、自ずと目線も近く。
「祝福を齎すものなんて、お前と見れて初めて意味があるんだし」
 紡ぐ瞳李の声が、傍に響いた。
 ぴしゃん、とまた水が落ちる。地底湖に幾つもの波紋が描かれては消えていく。
「なんかこれで十分幸せなんだけど違うんだよねぇ。月星灯りを宿した湖は幾千の宝石秘めてるけど、深き青の先って、湖の底なんかな?」
 言いながらルードヴィヒは湖の中を見ようとする。ふいに、夜明け、とディートヒリの静かな声がした。
「夜明けの時に、変化が起きるのかもしれません」
 静かに告げた彼の上——開いた天井の向こうに見えていた夜の空が少しずつ変わってゆく。深い青に白い帯のような朝日が差し込んでいく。
「そうか」
 ひとつ、清士朗は息をついた。
「地底湖の水面に満ちゆく夜明けの光かと思ったが……」
 光が明けてゆく。星々が去ってゆくーーその先、地底湖の底に煌めくものが見えた。
「光苔、かな? 湖の底一面にあるみたいだね」
 ルードヴィヒは目を輝かせた。夜明けの光を受けて輝きは広がっていく。水底から一面、広がるように。
 ほう、とあかりは息をつく。
(「今度は大好きな人と一緒に、来れたら」)
 滝の裏から見る碧の景色が大切な人の瞳に映れば、きっとそれはかけがえない宝物になったはずだから。
「綺麗で素敵な所、ここの全てが財宝なのですね」
 志苑はそう言って微笑んだ。
「ふふ、戻ったら町の皆にも話してやろうな。志苑」
 巽の言葉に微笑み頷く。視界いっぱいに広がる美しい光景。
 ザリアーの碧き宝。
 その煌めきがケルベロスたちを祝福していた。

作者:秋月諒 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 0
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