乙女の憧れはモンスター!?

作者:麻香水娜

 木々の間から明るい夏の日差しが降り注ぐ――。
 人気がなく美しい森の中、1人の少女がをきょろきょろ何かを探すように歩いていた。
「この森ならきっと居るわよね! 私は乙女だもん! 絶対一角獣は私の前に現れる! それを証明してみせる!」
 ぐっと拳を握った少女は、注意深く周囲を見渡す。
「え!?」
 すると、少女は背後から何者かに心臓を穿たれ、草の上に倒れてしまった。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 大きな鍵を持った黒いローブの女性――魔女・アウゲイアスが一人ごちる。
 その傍らには、体長3mはありそうな大きな白い一角獣が静かに立っていた。
 
「不思議な物事に強い『興味』をもって、自ら調査を行っていた方がドリームイーターに襲われ、その『興味』を奪われてしまう事件が起こってしまいます」
 祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が口を開く。
 蒼梧が見た予知では、1人の少女が森に入り、一角獣を探していたところだったらしい。
「一角獣……清らかな乙女、の前に現れる、っていう話、よね……」
「そういう話もありますね」
 翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)が小首を傾げると、蒼梧が穏やかに頷いた。
「『興味』を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているようですが、奪った『興味』を元にして現実化した巨大な一角獣で事件を起こそうとしているようです」
 被害が出る前に一角獣ドリームイーターを撃破して欲しいと続ける。
「この一角獣を倒す事ができれば、『興味』を奪われた少女は目を覚ますでしょう」
 一角獣ドリームイーターが現れるのは午前11時すぎの森の中。
 木々が生い茂っているとはいえ、ケルベロスにとっては障害になるようなものではない。
「この一角獣……物語に出てくるような綺麗な白馬に角が生えている、というものではなく、大きな体で牙が生えていて蹄も大きく、しかも爪が3本生えています」
 もはや怪物ですよね、と続ける。
「しかも、喋りまして……自分が何者であるかを聞いてきます」
 問われて正しく対応できなければ、襲ってくるそうだ。
「つまり、『一角獣』と答えれば、襲われない、の?」
「そういう事です。怪物のような見た目ですので、『化物』や『モンスター』と答えると襲ってくるでしょうね」
 この特性を使えば戦闘が有利に運べるかもしれない。
「この一角獣の使うグラビティは――」
 戦闘方法や見た目に反して動きが早い事の説明が続けられた。
「人それぞれの知的好奇心があるからこそ、色々な物事が研究されています。しかし、それを奪って、よりによって怪物を生み出す等……一角獣に夢や憧れを持つ方の為にも、このような怪物は撃破してしまって下さい」


参加者
佐藤・みのり(仕事疲れ・e00471)
ベルンハルト・オクト(鋼の金獅子・e00806)
翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)
アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)
土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)
滝・仁志(みそら・e11759)
猫夜敷・千舞輝(ネコモドキ・e25868)

■リプレイ

●森と乙女と考察と
 木々から差し込む夏の日差し。キラキラと輝く光に照らされる地を彩る白や黄色の草花。
「ひと気がない、美しい森。そして、そこを歩く可憐な乙女たち……一角獣は乙女の香りを嗅ぎつけてくるというし、来ないわけがないわよね」
 アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)は、目に映る光景にうっとりと呟いた。
 しかし、その言葉に返事はなく、隣を歩いている筈の『乙女』に視線を向ける。
「あら?」
 はぐれてしまったのかと周囲を見渡すと、少し後方で何かに目を奪われて足を止めてしまっていた。
「ロビン、離れては駄目よ?」
 踵を返して『乙女』に呼びかける。
「あ、ごめん……思わず、きれいで」
 声をかけられた翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)はアリシスフェイルに顔を向けて口を開く。
「♪~」
 アリシスフェイルとロビンのすぐ後ろ、イルルヤンカシュ・ロンヴァルディア(白金の蛇・e24537)が、2人見守りながら鼻歌混じりに歩いていた。
 さながら、2人の乙女達を守る豪快な女騎士、といったところか――。
 
 アリシスフェイル、ロビン、イルルヤンカシュの3人がが散策している少し離れた場所。
「乙女以外には凶暴なアレの話ですかね、これ」
 周囲を警戒しながら木の影に身を潜める佐藤・みのり(仕事疲れ・e00471)がぼそりと漏らす。
「森で一角獣さんを探索だなんて、浪漫一杯の乙女心ですよね」
 背の高い草の中に身を潜めて、葉や枝が擦れる様や音に注意していた土竜・岳(ジュエルファインダー・e04093)は、みのりの呟きが耳に入って少しだけ頬を緩めた。
「一角獣って乙女に魅せられて姿を現すんだっけ? でも、乙女ってよくわからん定義だよなぁ」
 みのりや岳とは少し離れて木の影に潜む滝・仁志(みそら・e11759)が、ぶつぶつと呟く。
「幼女ならわかりやすいし可愛いから納得……それだと一角獣じゃなくて俺か」
 そこまで呟くと、彼のサーヴァントであるテレビウムのカポが仁志の足を軽くどついて少し危険な思考にストップをかけた。
 3人はそれぞれが周囲の警戒に神経を集中する。一角獣を誘き寄せる為の乙女達を視界に捉える事はできるが声は届かない、しかしすぐに駆けつけられるだけの距離を取って――。 

「待ち時間ヒマやなぁ……乙女好きでも乙メン好きでもええから、さっさと出てきてくれへんかなぁ……」
 木の上に登り、生茂る葉に姿を隠す猫夜敷・千舞輝(ネコモドキ・e25868)が退屈そうに小さな欠伸をした。
(「興味、か……好奇心は猫をも殺すというが……」)
 千舞輝のいる木と、地上で散策をする仲間達を挟んで反対側の木の上、ベルンハルト・オクト(鋼の金獅子・e00806)が気配を殺して今回の黒幕について考えを巡らす。
(「……猫……いや、索敵に集中だ」)
 猫耳のように見える寝癖が印象的な千舞輝を視界に映し、考えるのはそこでははい、と頭を振った。

●我は何者ぞ
「神話のユニコーンも、たしか……凶暴なんだっけ」
「騙されたと分かると激しく怒り狂って、殺しちゃうのよね」
 ロビンとアリシスフェイルが一角獣の話をしながら会話を弾ませる。
「それ、ある意味、情熱的?」
 ロビンが小首を傾げた。
「はっ、おっかねぇ生き物だな!」
 2人の会話にイルルヤンカシュが豪快に笑う。
 ――ガサ。
 その時、大きな一角の黒い獣が3人の前に現れた。
 瞬時に3人は身構える。それを視界に捉えたそれぞれ身を潜めて隠れている5人も。
『我は何者ぞ』
 一角獣はアリシスフェイルとロビンに向かって静かに低く問いかけた。
「……一角獣?」
「一角獣、よね?」
 ロビンが表情を変えぬまま短く答えると、アリシスフェイルも平然と答える。
 その答えに満足した一角獣は、2人を通り過ぎてすぐ後ろにいたイルルヤンカシュに近付いた。しかし、そこにはいつの間にか姿を現した5人が彼女の左右に集まっている。
『我は何者ぞ』
 再び静かに同じ問い掛けをイルルヤンカシュを含めた6人にした。
「一角獣さんです!」
「一角獣……だろ?」
 岳が元気に答え、仁志は当然のようにふわりと笑う。
(「これユニコーンじゃないじゃん!」)
(「……結構大きいな」)
 そんな言葉が喉まで出かかったみのりとベルンハルトも、打ち合わせどおり『一角獣』と答えた。
「はっ、お前のような一角獣がいるか!」
「どこが一角獣やねん! どう見ても化け物やろ! クリーチャーやろ!」
 しかし、イルルヤンカシュと千舞輝は、力いっぱい『一角獣』である事を否定する。
『誰が化け物か!!』
 瞳に怒りを宿らせた一角獣は、爪の生えた大きな蹄で千舞輝を蹴りつけた。

●一角獣vs番犬
「……っ! これ見てみぃ! 切れとるで! こんなぶっとい爪生えた馬がおるか!」
 咄嗟に腕を胸の前に交差させて防御姿勢をとった千舞輝が、切り傷のつく腕を見せつけながら叫ぶ。
「角のモザイクはぎりぎりOKとしても、ユニコーンに牙も爪もない。出直して来い!」
 イルルヤンカシュは手元のスイッチを押した。
『!?』
 その瞬間、首に見えない爆弾をつけられている事に気付いた一角獣は、前足の爪で爆弾を弾き飛ばす。
 ふわりと浮き上がったオニクシアは、その翼をはばたかせて千舞輝の傷を癒少しだけ癒し、前衛の仲間達の邪気を払った。しかし、前衛は4人とサーヴァント3体と数が多くて何人か邪気を払いきれない。
「おおきに!」
 千舞輝はオニクシアに笑いかけると、鋭い叫び声を上げて傷を癒して力が入らなかった腕に再び力を取り戻す。その足元から浮き上がった、千舞輝のサーヴァントであるウィングキャットの火詩羽も清浄の翼を使った。オニクシアの清浄の翼で邪気を払えなかったイルルヤンカシュとみのりとカポの邪気を払うのを狙って。しかし、カポにだけまだかからない。
「清らかな乙女に魅せられ、膝元で眠り込んでしまうとは云うけれど」
 呟いた誘き寄せの為の乙女役であったアリシスフェイルが、右前足にスターゲイザーを撃ち込んで重力の錘をつける。
「伝説だと乙女以外には獰猛なんだっけ……思い切り来てみろよ」
 すっと表情を引き締めて挑発的な眼差しを一角獣に投げる仁志が、アリシスフェイルが攻撃したのとは反対の左前足にスターゲイザーを撃ち込んだ。
「おいで、雷獣。今日の遊び相手は、あの人ですよ」
 一角獣がアリシスフェイルと仁志の攻撃でふらついた瞬間、みのりが雷気を纏う雷獣のエネルギー体を召喚。その雷獣は、真っ直ぐに一角獣に飛びかかって胴に喰らいつく。
「少し削りやすくするか」
 小さく呟いたベルンハルトは、剣を握る手に力を込めて破鎧衝を放った。
 凶悪な顔を画面に表示させたカポが、凶器を振り上げて殴りかかる。
『!!』
 しかし、立て続けの攻撃にこれ以上受け続けるわけにはいかないと、一角獣が重い足を引きずって真上に跳躍したかと思うとカポの背後に着地した。
「雷光の守護を!」
 キッと表情を引き締めた岳が愛用のライトニングロットを振りかざして、後衛の3人の前に雷の壁を構築。異常状態への態勢を高めさせる。
「わたしは魔女……一角獣の愛する、清らかな乙女では、なくて……あなたを殺す、地獄の番犬たる、魔女よ」
 静かに言葉を紡ぐロビンが竜語を詠唱した。すると現れたドラゴンの幻影が一角獣を炎で包む。
「さぁ来な化け物。城塞の如く、其のこと如くを防ぎ切ってやるよ!」
『化け物ではない!!』
 イルルヤンカシュが口角を上げて一角獣を挑発すると、一角獣は額のモザイクになっている角からモザイクの塊をイルルヤンカシュに向けて放った。
「……っ! どう見ても化け物だろうがよぉっ」
 顔の前で腕を交差させたイルルヤンカシュが、頭の中にモザイクをかけられたような状態を吹き飛ばすように叫ぶ。
 オニクシアはダメージを受ける主人に、若干面倒くさそうな表情を浮べつつも、翼をはためかせて傷を癒した。更に、前衛で唯一邪気の払われていなかったカポの邪気も払う。
「ネコマドウの九、『苦しい時の猫頼み』! ふぁいとー、いっかーつ!」
 千舞輝が50円玉を空に向かってピンッと弾くと、偉そうな態度の猫が現れた。
『ニャア!』
 現れた猫が一喝。すると、イルルヤンカシュの傷が癒され、頭の中のモザイクも晴らして鮮明な思考を取り戻させる。
「助かったぜ!」
 イルルヤンカシュは、何処かへと去っていく偉そうな猫の背中に精一杯の礼を投げかけた。
 前衛の状況を確認した火詩羽は、尻尾を勢いよく振ってキャットリングを飛ばす。
 一角獣は咄嗟に避けようとしたが、両方の前足が重くて避けられず、角を砕かれてしまった。
「動き回んじゃねぇよ化け物!」
 頭がはっきりしたイルルヤンカシュは、助走をつけてスターゲイザーを放つ。その攻撃に一角獣がよろめいた瞬間、みのりとベルンハルトが達人の一撃を叩き込んだ。
「さぁ、心行くまで味わって―」
 仁志が色とりどりの光からなる重力の波を放つと、視界を塗り替えるほどの色の波は、一角獣に幾重にも重い衝撃を与える。
「激しく怒り狂ったところで、殺される前に殺してあげるのよ」
「さようなら」
 仁志の攻撃に動けず耐えている一角獣に、アリシスフェイルが殲滅の魔女の物語の一節を口にした。片手を軽くひと振りすると、現れた青と灰の光が絡み合う棘の槍を一角獣目掛けて投擲する。更にアリシスフェイルの声と共に一角獣の死角に回り込んだロビンが、魔女の大鎌『レギナガルナ』で一角獣の首を冷酷に斬り落とした。

●美しい森には静寂が似合う
「大地のゆりかごでどうか安らかに」
 一角獣が倒れた場所に近付いた岳は、静かに瞳を閉じて祈る。
「……」
 ベルンハルトも、黙祷を捧げた。
「ユニコーンを期待して来たのに、がっかりです」
 岳とベルンハルトの少し後ろで、みのりががっかりしたように溜め息を吐く。
「そうだねー。凶悪で可愛くもなければ綺麗でもなかったねー」
 戦闘中の引き締まった表情は何処へやら、仁志がへらっと笑って頷いた。
「あ、関係ないけどウチはユニコーンよりペガサスが好きです」
 場を明るくする為なのか、単に思いついたからだけなのか、千舞輝が力説する。
「あー、ペガサスだったら飛び回る可能性があったかも? それはちょっと面倒だったかな」
 イルルヤンカシュが呟くと、『それもそうだ』と口々に笑い声が漏れた。
「女の子、回収しにいかなきゃね」
 ロビンが、ぽつりと口を開く。
「そうね。何時までも倒れたままでは可哀想だわ」
 アリシスフェイルがロビンに同意すると、ケルベロス達は倒れている少女の下へと向かった。

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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