●夜中に鏡を合わせたなら
0時丁度に、合わせ鏡を行ったら……。
そんな話がとあるインターネットの掲示板で囁かれている。
例えば、悪魔が呼び出される。あるいは、過去や未来に移動することができる、などなど。
ただ、これは単なる都市伝説の一つでしかなく、荒唐無稽な噂話でしかない。
しかしながら、それを試してみたくなるのが思春期の少女というものである。
夜――。
自宅にいた女子中学生、野々宮・美枝。彼女はとある掲示板で目にした都市伝説を実践してみようとタイミングを見計らっていた。
「0時丁度に……」
美枝は2枚の手鏡を用意する。そして、スマートフォンの画面と交互に目を移す。
「56、57、…………、えいっ!」
両手に持った2枚の鏡を合わせ、美枝はそっと覗き込む。そこには、延々と合わせた鏡は映りこみ、自身の顔が映るだけ。
もしかしたら、呪文が必要だったろうか。そんなことを彼女が考えていると……。突然、美枝は後ろから何かに胸を突き刺された。
それは、大きな鍵だ。そして、それを持っていたのは……確認する前に、美枝は意識を失ってしまう。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
そこにいたのは、ぼろぼろの黒い衣装を纏い、ひどく病的な肌をした魔女だった。
第五の魔女・アウゲイアス。それが魔女の名だ。彼女のそばには、モザイクに包まれた腕が見える。この魔女はドリームイーターなのだ。
倒れる美枝は、確かに鍵のようなもので貫かれたはず。しかし、血が流れ出るどころか、胸には傷一つついてはいない。
その代わりにというべきか、倒れる美枝のそばには、妙な姿の怪物が現れていた。異様に両腕両足が長く、歪な体躯をした大人の女性。顔はモザイクに包まれている。
「あたし、あたしは……」
そいつはぼんやりと宙を眺めながら、部屋から出て行ってしまう。アウゲイアスはそれを見届けてから、いずこともなく消えていったのだった。
夜、ビルの屋上にて。
日が落ちて気温も下がり、比較的過ごしやすくなる時間帯である。
そんな中、ビルの屋上でリーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)はケルベロスを待っていた。
「ごめんね、こんな時間に」
まだ夜半には時間があるが、これから依頼に出るとなれば、遅い時間となるのは間違いない。
そこで、集まるケルベロスの中から、リュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550)が進み出る。
「真夜中の合わせ鏡が気になった人の『興味』が奪われると、聞いたのですが……」
「うん、間違いないよ」
こくりと頷くリーゼリットは、そのまま説明を始めた。
とあるインターネットの掲示板において、一つの都市伝説が真しやかにささやかれている。
「曰く、『真夜中、合わせ鏡を行うと何かが起こる』とのことだよ」
それは、ネットの掲示板に出回る根も葉もない噂話でしかない。
だが、それに強い『興味』を持って、実際に自分で試してみようとする少女がドリームイーターに襲われ、その『興味』を奪われてしまう事件が起こってしまうようだ。
「奪われた『興味』を元にして、怪物型のドリームイーターが実在化してしまっているよ。この夢喰いが事件を起こそうとしているようだね」
すでに 『興味』を奪ったドリームイーターは姿を消している。こちらも気にはなるところであるが、今は被害が出る前に、怪物型のドリームイーターを討伐してほしい。
「このドリームイーターを倒す事ができれば、『興味』を奪われてしまった被害者も、目を覚ますはずだよ」
今回、『興味』を奪われたのは、野々宮・美枝、中学2年生だ。
感情を奪われた彼女は、両親によって自室のベッドで昏睡状態にある。無事にドリームイーターを倒したのならば、何かフォローがあってもよいだろう。
「現場となるのは、愛媛県某所の住宅地。『興味』から生まれたドリームイーターは、夜中、何かを求めるように自宅周辺を彷徨っているよ」
このドリームイーターは、合わせ鏡についての都市伝説を信じていたり、噂していたりする人が居ると、その人の方に引き寄せられる性質がある。これを利用して相手をうまく誘い出せば、有利に戦うことができるはずだ。
「現れるドリームイーターは怪物型1体だけ。配下などは従えてはいないようだね」
そいつは一見すると大人の女性にも見えるが、両手足が長く前屈体勢をしており、怪物だと疑わせぬ容姿だ。また、顔はモザイクに包まれている為、ドリームイーターだとすぐ判断も付くはずだ。
「怪物型のドリームイーターは、人間を見つけると『自分が何者であるかを質問してくる』よ」
この返答によっては、相手を殺そうとするようだ。ドリームイーターと出くわした一般人がこれによって、危機に瀕する可能性がある。
もちろん、ケルベロスとしては見過ごすわけにはいかないので、返答内容に関わらず、早々に討伐してしまいたい。
ドリームイーターは飛び掛って長い爪で薙ぎ払ってきたり、甲高い声でこちらの足止めをしたりして攻撃してくる。また、モザイクを飛ばし、相手の『興味』を奪うこともあるようだ。
一通り説明を終えたリーゼリットは、ケルベロス達へとヘリオンに乗るよう促す。
「それでは行こうか。純粋な『興味』を利用して、怪物を生み出すドリームイーターを許してはおけないよ」
少女を救う為、そして、新たな悲劇を生まぬ為。リーゼリットは事件の解決を強く、ケルベロス達に願うのだった。
参加者 | |
---|---|
メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015) |
シェラーナ・エーベルージュ(剣の舞姫・e00147) |
仁宮・誠(ヴァンガード・e00924) |
天司・雲雀(箱の鳥は蒼に恋する・e00981) |
八千沢・こはる(ローリングわんこ・e01105) |
エンデ・シェーネヴェルト(飼い猫・e02668) |
西村・正夫(週刊中年凡夫・e05577) |
鳴門・潮流(渦潮忍者・e15900) |
●『興味』より生まれし怪物
現地に向かうヘリオン内。
すでに外は暗い。外を見ながら、西村・正夫(週刊中年凡夫・e05577)が口を開く。
「合わせ鏡なんて私の子供の頃からある怪談なんですが、廃れないもんなんですねぇ、こういうの」
見た目はごく普通のサラリーマンといった風貌の正夫。その態度や表情はどことなく頼りない。
「合わせ鏡の怪談って、結構種類多いんだっけ?」
エンデ・シェーネヴェルト(飼い猫・e02668)は仲間達にそれとなく尋ねる。
シャドウエルフの彼は、黒から青にグラデーションしている髪が首の後ろだけ長く、その先を結っている。また、鮮やかな青い瞳、そして、首の黒い首輪が目を引く男性だ。
そんなエンデの問いはまた後で話す話題となるので、一旦返答を保留するメンバー達である。
「『真夜中、合わせ鏡を行うと何かが起こる』ですか……」
噂は噂のままでいてほしかったと、鳴門・潮流(渦潮忍者・e15900)も語る。
「強い思いに惹かれて……。野々宮さんの純粋な『興味』に違いないのでしょうが、それによって怪物を生み出すのは許せませんね」
「野々宮さんは、合わせ鏡に何を夢見たのでしょうか」
潮流の言葉を聞き、天司・雲雀(箱の鳥は蒼に恋する・e00981)は今回被害にあった少女、野々宮・美枝が何かを願ったのだろうかと考える。
「『興味』とか好奇心で危険に首突っ込む奴多いなー……。やっぱ、平和な日常とやらにスパイスが欲しいんかね」
エンデはそう独りごちる。怪談もまた、日常を生きる上でのスパイスなのかもしれない。
愛知県某所の住宅地に降り立つケルベロス達。
「うう、おばけは苦手です。夜の学校じゃないだけマシですかね」
八千沢・こはる(ローリングわんこ・e01105)は身を震わせ、周囲を見回す。深夜ということもあって、ひっそりと静まり返っている。
「兎に角、一般人に被害が出ない様に、さっさと接触して片づけちゃいましょう」
正夫はそんなこはるを元気付けつつ声をかけるが、年頃の娘を見るとどうしても出て行かれた娘を思い出してしまうようだ。
さて、予め仁宮・誠(ヴァンガード・e00924)が確保していた付近の地図を元に、ケルベロス達は戦闘に適している開けた土地を何ヶ所かリストアップしていた。
「……住宅街でドンパチは、あまりやりたくは無いからな」
誠に同意するメンバー達は、その地点……今回は比較的大きな駐車場に目をつけ、そこに向かいつつ都市伝説の話を始める。
「ねえ、知ってる? 真夜中に合わせ鏡をのぞき込むと何かが出てくるっていう話」
仲間達の合図を待って、メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)は話を切り出す。すでに、メンバー達の視界には目的の駐車場が見えてきている。
「『合わせ鏡』、か。 都市伝説にはそれほど詳しく無いし、特に信じてもいないんだが……」
『興味』が薄いなりにも知っている知識を誠も口に出し、風水的な事や霊道が云々といった話を語っていた。
「0時丁度に合わせ鏡を覗くと、未来の自分が見えるって聞いた事があります」
雲雀は自身が聞いた噂話を話しながら、周りを見回す。こうすることで、敵……ドリームイーターを誘き寄せる作戦なのだ。
「合わせ鏡の噂って、昔、『興味』があったのよね」
シェラーナ・エーベルージュ(剣の舞姫・e00147)は嬉々として話に加わる。彼女が語ったのは、幾重にも並んだ鏡面、その1つ、裏側から悪魔が顔を覗かせているという話だ。
「場所によっては年中鏡が合わさった場所もあるから、毎日時間になったらねー……って思ったかな?」
「ギャー、ギャー!」
あはと艶っぽく笑うシェラーナに、こはるが絶叫する。それは、ノリなのか、はたまた素なのか。
潮流も実際に鏡を取り出し、噂話に加わる。しばし、メンバー達が盛り上がるような素振りを見せていると……それは現れた。
のそり、のそりと街を歩いてくる大女、いや、歪なほどに手足が長い怪物。そして、顔はモザイクに包まれている。前屈して歩いてくるそいつ……ドリームイーターは、一直線にケルベロス達の方へと向かってくる。
「全長2m30cmの女性って、結構違和感あるわよね」
「これがリューの言ってたドリームイーターかぁ。代わりにしっかりと退治しておかないとね」
話を止め、シェラーナは敵に向き直る。メリルディは今回の依頼を持ちかけたリュートニアの姉だ。別件で参加できなかった弟に代わり、彼女はこうしてこの依頼に参加していたのだ。
「あたし、あたしは……何なの……?」
その怪物はケルベロスに向けて、質問してくる。
エンデは殺界を作りながら、その返答をディフェンダー陣へと託す。
「自分が何者かーなんて、スパッとわかる方のほうが珍しいんじゃないですか」
こはるはやや挑発的に、怪物へと返答した。
「こはるから見たら、あなたは落ち着きのないデカブツですよ?」
「自分が何者か、だ? 答える義理はねぇな」
誠も同様の態度で、バトルガントレットをはめた両腕を突き出すように構えを取る。
「……俺の仕事は、目の前の不細工なデカブツを叩く事、それだけだからな」
「う、ああああっ!」
2人の言葉を耳にし、怪物は襲い掛かってくる。長く伸ばした両腕の爪を振るって。
「これ以上の犠牲を出さないよう、しっかり討伐しなくては!」
前に立つこはるも、星十字剣を手に戦いへと臨む。隣の潮流も構えを取った。
「さっさと退治して、『興味』を取り戻しましょう」
エンデはその潮流の言葉を聞いて、ふと思いを過ぎらせる。
(「『興味』、ねぇ……。生憎と、俺は『興味』や好奇心で動いてねーんだよ」)
任務は迅速に。これはただの仕事なのだから。
●これは、悪い夢……?
怪物型のドリームイーターが動くのに合わせ、ケルベロス達もグラビティを発動させていく。
敵の注意は、質問に答えたディフェンダー2人に向けられている。
その間にと、正夫が彼らの背後にカラフルな爆発を起こして、前線で戦う仲間を鼓舞し、雲雀は彼らの足元に守護星座を描いて光らせ、守護を行う。
(「貴女は合わせ鏡の中に、一体何を見たかったのですか?」)
雲雀は改めて、少女の考えを推し量る。被害に遭った少女はどういう話を聞いて、合わせ鏡に『興味』が引かれたのかと。
悪魔の存在を確認したかったのか、自身の未来の垣間見たかったのか。それとも戻りたい過去があったのか。
目の前のモノは、それらが複雑に混ざり合った存在。そんな気さえする。
「貴女が見たかったのは、成りたかったのは、そんなお姿ではないでしょう?」
しかし、怪物となった夢喰いは、雲雀の呼びかけに耳を貸そうとはしない。鋭い爪で前列メンバーを連続して薙ぎ払ってくる。
「くッ、そ!」
猛烈な攻撃を防ぎきることはできない。体から赤いものを飛び散らせたこはるは痛みを感じる。しかし、彼女はくるりと宙で体を回転させてから着地した。
「てりゃー!」
その上で、こはるも足元に守護星座を描き、傷を癒してから敵の攻撃に対する耐性をつけていく。
怪物が長い腕を制御できずに振るっている間、エンデが電光石火の蹴りを敵のみぞおちへと叩き込む。彼も敵の薙ぎ払いを受けてはいたが、元々の仕事柄なのだろう。その痛みを意にも介していないようだ。
同じく前にいたメリルディ。彼女は魔導書「Note d'un premier」を広げ、招来した混沌なる緑色の粘菌によって怪物の体を侵食し、そいつに悪夢を見せていく。
合わせる様に、誠が仕掛ける。悪夢に苛まれる敵の周りで派手に立ち回り、怪物の目を引く。その上で、彼は降魔の拳を怪物へと叩きつけた。
それでも、ゆらりと両足で立つ怪物。相手の動きを止めようと、潮流はまず御業につかませて動きを封じさせた後、自然から雷の力を巫術で引き出した。
「紫電に巻かれ、跪け!」
その雷を両腕に纏わせた潮流は、渾身の力で怪物を殴りつける。
痺れを覚える怪物へ、全身に呪紋を浮かび上がらせたシェラーナが迫った。
「今代が剣の舞姫が舞いる!」
仲間から一手遅れて仕掛ける形となった彼女は、素早く敵の周りを動き回り、視認困難な斬撃を斬霊刀で浴びせかけていく。
体勢を整え直した怪物は、顔のモザイクを飛ばしてくる。それは、『興味』を奪い、食らいつくさんとする攻撃。
「その攻撃、こはるが引き受けます!」
それを、こはるが身を張って受け止める。
(「敵への『興味』が奪われるのは厄介よね」)
シェラーナは、目の前の敵を絶対に倒さねばならぬ敵と強く思い、改めて攻撃を仕掛ける。
一方、モザイクによって『興味』を奪われて痺れる体に不自由さを覚えながらも、こはるはすぐさま体勢を立て直し、まるで犬のように飛び掛る。
正夫が展開する精神の盾に守られたことを実感し、彼女は日本刀を手にして怪物に飛び掛る。
「脳髄に一撃ッ! いっきますよー!」
こはるは怪物の頭へと雷の霊力を刃に込め、思いっきり突き出す。
ぐらりと体を揺るがせた怪物。だが、そいつはすっと息を吸い込み、甲高い金切り声を上げてケルベロスの足止めをするのである。
ドリームイーターは怪物じみた動きで襲ってくる。
甲高い声で叫び、モザイクを飛ばしてこちらの足を止め、爪で薙ぎ払い、すくむ足や体に走る痺れをグラビティ・チェインによって強めていく。
こはる、誠がカバーをして怪物を抑え付けようとするが、2人だけで抑えるのは厳しい。火力となるメンバーの体にも傷が増えていく。
ケルベロスもまた、攻撃を繰り返す。地面を疾走するメリルディが燃え上がらせたエアシューズで怪物の体を蹴りつけ、体に火を燃え上がらせる。
外は火、体内は痺れ。苦しむ怪物へ、忍者刀【村雨・覇】を握る潮流が刃を幾度も怪物へと切りかかり、自らと仲間が付けた傷口を広げていき、そいつの動きをより鈍らせていく。
同じく、仲間に続く形で斬霊刀を握るシェラーナは戦場を舞うように立ち回っていた。空の霊力を帯びさせた刃で斬りかかり、怪物の傷口をより大きく斬り広げる。その身軽な体躯を活かし、シェラーナは舞い踊りながら、攻撃の手数を増やしていく。
「あたし、あたしは何? 何なの……?」
怪物は問いかけながら、相手の『興味』を奪おうとモザイクを飛ばしてくる。
「こっちだ、デカブツ」
誠はできるだけそれを自分に向けようと、敵の視界をちらつくように動き、さらに挑発した。その上で、彼は後方に振り上げた足に『グラビティ・チェイン』と『龍の幻影』を凝縮した闘気を纏わせ、怪物の体を蹴りつけた。同時に体力を奪い取り、怪物を弱らせようとする。
正夫は体を張る仲間の為にほぼ回復に徹していた。カラフルな爆発。そして、光る盾。前に立つ仲間を異なる方法で護り、支える。
雲雀もまたケルベロスチェインを操り、仲間を護る為の魔方陣を地面へと描く。
「夢は花のように儚いモノ。いつか終わるからこそ美しい」
雲雀はグラビティを操りながら、淡々と言葉を紡ぐ。
少女でいる時間も、これから紡がれる自分だけの物語も。いつか終わりが訪れるからこそ……。
「さぁ、悪い夢はお仕舞です。目覚める時間ですよ」
雲雀が声をかける手前で、攻撃を繰り返すエンデ。言葉すらなく相手へと拳を、蹴りを怪物へと叩き込む。
そして、彼は何も持たずに飛び掛る……いや、両手のガントレットに紛れた鋭い仕込み爪で、左右から挟撃していく。
「――さようなら、美しい世界にお別れを」
エンデは一言だけ餞の言葉を口にする。怪物の体に食い込む隠し爪。その体を大きく引き裂いた。
「あ、ああ、あああああああああっ!」
叫んだその怪物は全身をモザイクと化し、爆ぜ飛んでしまう。そうして、怪物型のドリームイーターは消滅したのだった。
●好奇心は猫すらも……
ドリームイーターを討伐したことで、お勤めは終了と誠は戦闘態勢を解く。
「……しかし、『興味』を持つだけで付け狙われる、か。襲われた方は堪ったモンじゃねぇな、ったく……」
悪態づく誠だが、襲われた少女が気にあることもあり、メンバー達は野々宮家を訪れることにしていた。
その前に立つ潮流はフォローの為に、見ず知らずの人のお宅を訪問しているこの状況に違和感を覚える。
「こんなところで、冷静になってはいけないのですかね」
躊躇しているのは潮流だけではない。正夫は家に入ろうともしない。
「娘の時に身にしみてますから、いや、ほんと、皆さんよろしくお願いしますね」
年頃の娘にフォローをするのは、正夫にとって、デウスエクスを相手するよりも困難なことなのかもしれない。
残りのメンバーは、玄関口で応対してくれた夫婦にメリルディがケルベロスカードを提示して事情を話し、家の中へとお邪魔する。
娘である美枝の部屋。彼女はすでに目覚めていた。
「びっくりしたでしょ、もう大丈夫かな?」
メリルディが声をかけてきたのに、美枝は頷く。何でケルベロスが訪れているのかエンデから事情を聞き、ようやく合点がいったようだった。
「今回は事故みたいなものだし、気にしないでね」
シェラーナは、ベッドの上で身を起こす美枝へと見舞い品を渡す。
「都市伝説を試したくなる気持ちはわかります! この御時勢、安易に怪しい儀式を試したら危ないですよ!」
こはるはそう告げ、でも助かって良かったと彼女を気遣う。
「ネットの噂を鵜呑みにすると怖いことになるから、程々にしておこうね」
「はい、好奇心や探求心は大切ですが、程々にですよ」
メリルディに続き、雲雀も美枝を窘める。雲雀は念の為と美枝の容態を確認する。とくに体に傷もなく、疲弊している様子もないようだ。
「……何事も、『興味』を持つのは悪くない。むしろ、大切なことだ」
誠もまたその感情を肯定しつつも、彼女を諌める。
「だが、好奇心は猫を殺すという言葉もある。 ネットの情報は見極めないと危ないぞ?」
「好奇心で殺されるなんて、洒落になんねーぞ」
エンデが言うように、心配してくれる家族がいる。夜も遅いのに、部屋の外で両親が見つめていたのだから。
「あんま危ねーことすんなよ」
「うん……」
軽率な行動に反省する美枝。ケルベロス達はそんな彼女の姿に安堵するのだった。
作者:なちゅい |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年8月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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