●愛の形を追いかけて
茹だるような暑さに追い立てられ、人々が涼しい場所を求めていく昼下がり。ビルに日差しが遮られている繁華街の外れにて、電信柱の影に身を隠している小学校中学年くらいの少女が一人。
少女はカメラを握りしめながら、妙に豪華な装飾が施されているホテルを監視していた。
「今日こそ見つけてやるんだから。お兄ちゃんも、コウノトリはここから飛んで行くんだ、って行ってたし」
定期的に首に下げているペットボトルから水分を摂取しながら、ホテルの入口を見つめ続けていく。不審な音がしたならば、即座に振り向き凝視した。
もっとも、一時間ほど経っても成果はなし。ぼちぼち飲み物も尽きてきた。
「むー……しょうがないけど、そろそろ……わぷっ」
切り上げようと肩を落としながら踵を返し歩き始めた時、何かにぶつかり立ち止まった。
少女が見上げる先、フード付きの黒い服を着込んでいる白い女性が佇んでいて。
「え、えっと……ぶつかっちゃってごめんなさい!」
「……」
頭を下げる少女をよそに、女性はまっすぐに手を伸ばす。
顔を上げた少女の胸を、一本の鍵で貫いた。
「えっ……」
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
女性はため息を吐きながら、鍵を引き抜いていく。
血を流しているわけでもないはずなのに、少女はゆっくりと崩れ落ちる。
代わりに、立ち上がった。
羽根先が黒く染まっている翼に、黒く長いくちばし……コウノトリを人型にし、赤ちゃんがすっぽり収まりそうな包み型のモザイクを首に下げている……という姿を持つドリームイーターが。
ドリームイーターが翼を広げる中、女性は……静かにその場を立ち去って……。
●ドリームイーター討伐作戦
集まったケルベロスたちと挨拶を交わした黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)。メンバーが揃った事を確認し、説明を始めていく。
「不思議な物事に強い興味をもって、実際に自分で調査を行おうとしている人が、ドリームイーターに襲われてその興味を奪われてしまう事件が起きてしまったっす」
今回は奪われたのは、少女が抱いていたコウノトリ……赤ちゃんを運んでくると言われるコウノトリに対する興味。コウノトリを見つけるのだと繁華街のホテル前でカメラ片手に入り口を観察していたところ、ドリームイーターに襲われて興味を奪われた。そして、その興味により一体のドリームイーターが誕生した。
元凶となったドリームイーターはすでにその場を立ち去っている。
一方、コウノトリへの興味により生まれたドリームイーターは、コウノトリを人型にしたような姿を持ち、首に赤ちゃんがすっぽり収まりそうな包み型のモザイクを下げている……といった姿を持つ。
「この怪物型ドリームイーターが事件を起こす前に、撃破してきて欲しいんっす」
このドリームイーターを撃破できれば、興味を奪われてしまった少女も目を覚ましてくれることだろう。
続いて……と、ダンテは地図を取り出した。
「事件が起きたのはこの繁華街。その裏通りにある……いろんなホテルが立ち並んでいる通りっすね」
ケルベロスたちが現場に到達した時点で、ドリームイーターがどこにいるのかは分からない。
しかし、怪物型ドリームイーターは人間を見つけると、自分が何者であるかを問いかけてくる。正しく応対できなければ、その相手を殺してしまうという性質を持っている。
「今回の場合はコウノトリ、っすね」
また、自分の事を信じていたり噂している人がいると、その人の方に引き寄せられる性質がある。そのため、上手く誘き出せば有利に戦えるだろう。
「肝心の戦闘能力っすが……」
戦闘においては、素早い動きで翻弄しつつ的確な一撃を叩き込んでくる。
技は、トラウマを呼び起こさせる心臓を抉る鍵。怒りを誘う平静喰らい。攻撃を鈍らせる欲望喰らい。
「以上で説明は終了するっす」
説明は終了と、ダンテは資料をまとめ締めくくる。
「何に興味をもつのかは人それぞれっす。そして、それそのものは良いことっす。だから、その興味を利用して化物を生み出すなんて、許せることじゃないっすよねっ。だから、どうかお願いするっす」
興味を奪われた少女を救うためにも……。
参加者 | |
---|---|
十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031) |
ルトゥナ・プリマヴェーラ(慈恵の魔女・e00057) |
メリッサ・ニュートン(世界に眼鏡を齎す眼鏡真教教主・e01007) |
デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203) |
シルフィディア・サザンクロス(この生命尽き果てるまで・e01257) |
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524) |
彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456) |
アイオーニオン・クリュスタッロス(凍傷ソーダライト・e10107) |
●コウノトリはどこにいる?
日陰にいてなお茹だるような暑さが体を蝕む昼下がり。街中を彷徨うドリームイーターの被害を出さぬためにデジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)が避難誘導を行っていく中、源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)もまた仲間と別れ行動していた。
ドリームイーターを作り出すために興味を奪われてしまった幼い女の子が熱中症などにならぬよう、安全な場所へと運ぶため。
力を用いて女の子を抱え上げ、ふわりと翼を広げていく。
「確か、ホテルの方角は……」
周囲にあるホテルは恋人たちの休憩所の意味合いが強く、幼い少女を任せるには若干不敵な場所も多かった。
だから、少しだけ遠くなるけど……と、彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)が調べておいてくれたホテルに向かい、飛び立っていく。
少しずつ人気が失せていき、静けさを増していくホテル街。意味のある音といえば蝉の声、ケルベロスたちの紡ぐ会話くらい。
コウノトリの事を知りたいという仲間のために、悠乃が落ち着いた調子で語っていた。
「コウノトリは特別天然記念物として実在する鳥類であり、迷鳥として通常の生息域以外にも飛来する事がありえます。このコウノトリもきっと、迷い鳥なのでしょう」
「だったらなんで、赤ちゃんを運んでくるって言われるようになったのかな?」
曇りのない口調で、メリッサ・ニュートン(世界に眼鏡を齎す眼鏡真教教主・e01007)が疑問を口にした。
「それって眼鏡が鯖江で生産されるようなものですよね? 国内の眼鏡の9割は鯖江で生産されてるんですよ。眼鏡の赤ちゃんは鯖江から来るんです」
更には新たな話題を付け加え、仲間たちを見つめていく。
前者のみを拾い上げる形で、ルトゥナ・プリマヴェーラ(慈恵の魔女・e00057)は口を開いた。
「コウノトリの話、私も聞いたことがあるけれど。私はコウノトリよりもキャベツの方が印象が強かったのよね」
でも……と、微笑んでいく。
「でも今思えば、コウノトリに布で包まれて運ばれる赤ちゃんも、キャベツの中から出てくる赤ちゃんも可愛らしいわよね」
「そうですね、十夜さんもどちらも聞いたことがありますよ。でも、なんでこんなところにいるのでしょうか?」
十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)も素朴な疑問を挟みつつ話題の中に入っていく。
コウノトリに関する様々なことが語られていく中、悠乃は一人目を細めた。
純真な子供を狙う事はもちろん許せない。
でも、同時に思う。興味を狙う敵であるならば、それこそ研究者の方々も狙われかねないと。
純真なひとときの好奇心からの興味ではなく、生涯を捧げる事すら普通にありえる探究心ゆえの興味。それほどまでに強い思い。
だから、止めたい。興味を奪っていく魔女を。その手がかりを掴むためにも、この依頼を……。
●赤子のいないコウノトリ
……それは少しずつ空が陰り始めた来た頃。ケルベロスたちがホテル街の一角にある、噴水を中心とした公園へと辿り着いた時。木々の間から、白い影が飛び出してきた。
白い影は、羽根の先が黒く染まっている翼を持っていた。鋭いくちばしを持っていた。
されど、体の大まかな造形は人であり、顔の大まかな造形は鳥であり、全体的な造形は……。
「我は何者だ」
「あなたはコウノトリ。命を運ぶもの。それを模したもの」
即座に泉が返答した。
首から下る、赤ちゃんがすっぽり入りそうな袋の形をしたモザイクを見つめながら。
「コウノトリが赤ちゃんを運んでくるってどんな感じなんですか? 詳しく知りたいです」
メリッサは取りかけた。
瞳を輝かせながら、真っ直ぐに。
「……」
コウノトリ型のドリームイーターは首を横に振る。
瞳を細めながら、ケルベロスたちに背を向けていく。
「逃しません」
すかさず、泉が距離を詰めた。
間合いの内側に踏み込むと共に大鎌を横に薙ぎ、コウノトリの羽根を数枚散らしていく。
「少女が、好奇心に殺されてしまわぬように……」
「まずは時間を稼ぎつつ、動きを鈍らせていきましょう」
さなかにはアイオーニオン・クリュスタッロス(凍傷ソーダライト・e10107)が跳躍し、真っ直ぐに脚を突き出した。
右の翼を掲げ、つま先を受け止めていくコウノトリ。視線をかわしながら、アイオーニオンは目を細めていく。
「……ドリームイーターというよりビルシャナみたいね。鳥頭のせいかしら?」
「いずれにせよ……貴様の好きにはさせません……!」
顔を覆う武装を身に纏うシルフィディア・サザンクロス(この生命尽き果てるまで・e01257)は、両腕を露出させていく。
時刻の刃へと形を変え、距離を詰め斬りかかった。
一斬、二斬と羽根を散らしていく中、コウノトリの中から口の形をしたモザイクが飛び出してきた。
メリッサはレンズの群れで刃を為すチェーンソー剣で受け止めながら、神々しい眼鏡空間を創り出した。
「世界に眼鏡を。眼鏡に光を」
様々な思いの詰まった理想郷に抱かれて、メリッサは笑みを浮かべていく。
次は攻撃を重ねるため、チェーンソーを駆動させていく……。
コウノトリの翼から、飛び出てきた一本の鍵。
アイオーニオンめがけて放たれた刺突を、ルトゥナはナイフの柄で受け止めた。
「あなたも、キャベツ畑も、素敵な夢だと思うの。だから守らないとね」
ニッコリと微笑みながらサキュバスの証である翼を広げ、治療のための霧を身に纏う。
シルフィディアが気を重ねていく。ルトゥナの治療を行うため。
「支えます、全力で……」
ルトゥナの治療が行われていく中、悠乃は木々近くにあるベンチを足場に飛び上がった。
飛び出た枝に手を伸ばし、鉄棒の様に一回転。勢いを加速させながら、コウノトリめがけてジャンプキック。
モザイクに囲われた胸へと叩きこみ、そのまま押し倒して踏みつける。
「……」
「この辺とかどうかしら? 潰れてもらうわ」
更にはアイオーニオンが歩み寄り、バールのようなものを振り下ろす。
羽根を大量に引きちぎり、宙に舞わせ始めていく。
風に乗り噴水の方角へと運ばれていく中、コウノトリは立ち上がった。
静かな息を吐いた後、爪でルトゥナを指し示していく。
自らを包み込まんとした勢いで放たれたモザイクを、ルトゥナはナイフを振るい斬り裂いた。
「……」
かけらを受け若干心がざわつくのを感じながら、霧に体を委ねていく。
微笑みは絶やさぬまま、公園の入口の方角へと意識を向けた。
地上から女性が、空から少年が、戦場に向かってくるのが見えた。
デジルと瑠璃であることを確認し、改めてコウノトリへと向き直る。
「ここからが本番ね」
「ごめん、色々としてたら遅くなっちゃったみたいで……」
デジルは艶めかしく唇を濡らしながら、コウノトリとの距離を詰めていく。
その羽毛すらも暴き晒さんという勢いで、鋼で固めた拳を突き出した。
腹部を殴打され、羽根が散っていく。
よろめきながらも戦意を失っていないコウノトリを見つめながら、シルフィディアはオーロラのような光を生み出し前衛陣を優しく抱いた。
「大丈夫、この調子なら……」
「ええ。でも、油断はせずに……」
意あかれながら、アイオーニオンは距離を詰める。
大鎌に虚を宿しながら、コウノトリに斬りかかっていく。
「少し貰うわよ」
刃は胸元を斬り裂き、羽毛を奪う。
コウノトリは傷つきながらも、ケルベロスたちを見つめ続け……。
合流までに場を保ち、呪縛も刻み続けてきたケルベロスたち。戦力が元に戻った今、優位が揺らぐことはない。
証となる一撃を放つため、悠乃はオーロラのような光をコウノトリに収束させた。
内包する力があふれたか、コウノトリの右翼が半分はじけ飛ぶ。
うめきよろめくコウノトリ目がけ、デジルがジャンプキックを放っていく。
「彼女がこの先、ちゃぁんと知る為にも、ここでちゃんと助けてあげないとね」
つま先は頭を捉えた。
コウノトリは両膝をつき、動きを止めていく。
すかさず、瑠璃は放つ雷を。
白き体を貫いていく。
「……止まった」
細められた瞳の中、コウノトリが動きを止めた。
すかさずメリッサが踏み込んで、駆動させた刃を振り下ろす。
翼を、音を立てて削っていく。
「さあ、終わらせてしまいましょう!」
「あなたは命を運ぶもの、奪うものではないはずですよ」
呼応し、泉が竜の幻影を解き放つ。
巨大な顎がコウノトリを飲み込んだ。
立ち上る炎に照らされながら、ルトゥナは自らの指を傷つけていく。
「皆の口に合うかしら……さあ、いらっしゃい?」
血が地面に触れたなら、六の頭を持つ龍が少しずつ顕現し始める。
地面さえも抉り喰らいながらコウノトリへと襲いかかった。
翼が、脚が食まれていくコウノトリに狙いを定め、瑠璃はガトリングガンを連射する。
「一気に……決めてくれ!」
「ええっ」
微笑みながら、デジルは氷の竜の鎧を身に纏う。
弾丸の雨を受け立ち上がれぬコウノトリの元へと歩み寄り、爪を立てていく。
「悪いけど、貴方が連れてくる子供はいないわ。ここで消えて貰うから、ね」
氷竜の爪を左翼に突き刺して、その全てを打ち砕いた。
それでもなお立ち上がろうとするコウノトリに、歩み寄るはアイオーニオン。
凍てつくような冷気を放つメスを構え、冷たく見下ろしていく。
「鋭さも速さも凝縮したから……当たれば致命的ってね」
縦横無尽に斬り裂いて、コウノトリの翼を全て切り落とした。
立ち上がる力すらも失せたのか、コウノトリは空を仰いだまま動きを止める。
全てを終えたアイオーニオンは、静かな息を吐きながら視線を逸らした。
「こんなところかしら」
瞳を閉ざした時、コウノトリが白き羽根への山へと変貌する。
白き羽根は陽光を浴びてきらめきながら、風の訪れと共に消滅し……。
●愛が紡がれていく場所で
平和の訪れたホテル街。その片隅にある公園に、流れているのは泉の唄。
憐れみを望む唄。
静かな時が流れる中、瑠璃は戦場の修復を仲間に任せていく。
「僕は女の子の様子を見に行きます」
可能なら、意識が戻るまで側についていてあげたい。
翼を広げ飛び立っていく瑠璃を見送った後、普段の姿に戻り戦場の修復を行っていたシルフィディアは小首をかしげた。
「そ、そういえば、ホテルとコウノトリって、何か関係あったんでしょうか……?」
「あら、知りたいの? そうねぇ……」
デジルが歩み寄り、シルフィディアの顎に手を伸ばしていく。
ビクリと体を震わせる様子を見せたから、デジルは手を止め肩をすくめた。
「ふふっ、それは貴方がもう少し大人になってから……ね。それじゃ……」
仲間たちへと視線を送った後、背を向け歩き出している。
「人を待たせてるから、私も先に帰らせてもらうわね」
向かう先はホテル街。
恋人たちを中心に、様々な愛が育まれていく場所。
様々な愛が、紡がれていく場所……。
作者:飛翔優 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年8月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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