「グ、グアアァ……」
山奥の森の中、2体の蟷螂型のローカストが対峙していた。1体のローカストが、もう1体のローカストに何か言いたげな表情で訴えている。しかし、言葉にはなっておらず、ただ、今にも飛び掛りそうな様子で睨み、唸る。
すると、睨まれているローカスト、イェフーダーがそのローカストを殴りつけた。
「黙れ。……いいか、状況を説明してやろう」
イェフーダーはそう言って、自分の鎌でそのローカストの首を掴み、吊り上げる。そして、怒鳴りつけながら一方的に話した後、その手を離す。
そのまま、地面に打ち付けられるローカスト。
「……ということだ。グラビティ・チェインが欲しければ、自分で略奪してくるのだ」
「……」
その言葉を聞いたローカストは、何も言わず踵をかえし、その場を去っていった。
「そして……お前が奪ったグラビティ・チェインは、全て、太陽神アポロンに捧げられるだろう」
イェフーダーはそう言いながら、そのローカストが去った方向をみて呟いた。
「また、ローカストや。みんな、ええか」
集まったケルベロスを前に、宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)が、依頼の説明を開始していた。彼女の横には、一人の猫のウェアライダーが控えていた。
「今回は、ローカストの太陽神アポロンの新たな作戦みたいや。不退転侵略部隊の侵攻を何とかうちらが防いだわけやけど、そうするとあっち側は、大量のグラビティ・チェイン得られへんかったんや。そんで新たなグラビティ・チェインの収奪を画策しているらしいわ」
絹の言葉に、やっぱり、と頷くケルベロス達。
「その作戦は、コギトエルゴスム化しているローカストに、最小限のグラビティ・チェインを与えて復活させて、そのローカストに人間を襲わせてグラビティ・チェインを奪うっちゅうことらしいわ。
復活させられるローカストは、戦闘力は高いけど、グラビティ・チェインの消費が激しいっちゅう理由でコギトエルゴスム化させられたものでな、最小限のグラビティ・チェインしか持たへんみたいや。……ちゅうても、侮れない戦闘力はあるやろ。
更にや、グラビティ・チェインの枯渇による飢餓感から、人間を襲撃する事しか考えられなくなってるから、反逆の心配もする必要も無い。
んでな、仮に、ケルベロスに撃破されたとしても、最小限のグラビティ・チェインしか与えてへんから、損害も最小限となるっちゅう作戦みたいやな。まあ、狡猾で効果的……やな」
絹はスマートフォンを見ながら、情報をケルベロス達に伝えていく。
「この作戦を行っているのは、特殊諜報部族『ストリックラー・キラー』を率いる、イェフーダーっちゅうローカストらしいけど、とりあえず今回は復活させられたローカストを迎撃するで。まあ、いずれは、イェフーダーと直接対決する必要があるやろな」
成る程、と状況を把握したケルベロス達。続けて、今回の依頼の詳細を尋ねる。
「今回みんなに向かってもらうんは、奈良県南部にある『蟷螂の岩屋(とうろうのいわや)』ちゅう観光地やな」
それを聞いて、絹の横に控えていたウェアライダーが前に一歩進み出た。絹は頷き、場所を譲る。
「碧川・あいねや。宜しくな。
あんな、ちょっと前から、この辺り怪しいんちゃうかて思て、奈良県の天川村っちゅう場所の『蟷螂の岩屋』をはっとった。んで、どうやらココに、例のローカストが現れそうやっちゅうことが掴めたんや。
敵とかの情報はうちは分からんから、詳しくは絹ちゃん、よろしくな」
碧川・あいね(路地裏のヌシ・e16819)が再び絹にその場を譲る。
「あいねちゃん、有難う。そこの場所は、結構山の方にあるところでな、川もあって涼しいし、温泉もあって、人もそこそこ多い。マイナーなスポットやけど、人はおる。なんとか、一般人に被害が出ぇへんようにしてな」
絹はそう言って、敵の情報を続ける。
「今回の敵はコギトエルゴスムから復活したカマキリのローカスト1体や。それ以外はおらへんで。
ここは洞窟になっててな、その中に敵が潜んでる。人が来たら出てきて襲ってくるみたいやから、うまくおびき出してな。まあ、結構極限の飢餓状態らしいから、すぐに出てくるやろけどな。
攻撃は両手の鎌をメインに、牙と羽根を震わせる音波攻撃や。特にこの鎌は強いから、注意してな」
情報を聞いたケルベロス達は、情報を頭に入れる
「避暑地に集まってくる人たちは、安らぎを求めてやってきてる訳や。それを護るのがうちらの仕事や。頑張ってな!」
「ちゅうことや、ほな、みんなよろしくやで!」
絹とあいねの言葉に、ケルベロス達は気合を入れるのだった。
参加者 | |
---|---|
ヴィンチェンツォ・ドール(ダブルファング・e01128) |
ズミネ・ヴィヴィ(ケルベロスブレイド・e02294) |
輝島・華(夢見花・e11960) |
深宮司・蒼(綿津見降ろし・e16730) |
マロン・ビネガー(六花流転・e17169) |
愛沢・瑠璃(メロコア系地下アイドル・e19468) |
ジャスティン・ロー(水色水玉・e23362) |
唯織・雅(告死天使・e25132) |
●『蟷螂の岩屋』
「へえー。ここから先にある洞窟が、とうろうのいわやって言う洞窟らしいよ」
「なんか、面白そう。早くいこうよ!」
古くから在るお堂のような場所に、二人の観光客の女性が向かっていく。ここは、絹の話にあった、『蟷螂の岩屋』へと続く細い道。晴れてはいたが、木漏れ日がかかる程度であり、ところどころに苔が生えている。避暑地というだけあって、かなり涼しい。周囲には古い木々が乱立し、自然と人間が作り出した荘厳な雰囲気をかもし出していた。
「チャオ! シニョリーネ」
その二人の観光客は、トン、と肩を叩かれ、背後から聞こえてくる声に、思わず飛び上がった。
「ひゃっ!」
「おっと、驚かせてしまったかな?」
二人が振り向くと、自分達よりもかなり背が高く、黒いスーツを着た男性、ヴィンチェンツォ・ドール(ダブルファング・e01128)がおどけたように振る舞い、微笑んでいた。
「俺達はケルベロス。今からここは少し危なくなる。さあ、まわれ右だ」
ヴィンチェンツォの言葉から不思議な力が生み出され、素直に従っていく二人。その横では、ズミネ・ヴィヴィ(ケルベロスブレイド・e02294)が、遠くへと見える老人達に、割り込みヴォイスを使いながら避難指示を出していた。
「蟷螂の岩屋にデウスエクスが潜んでいるとの情報がありました。急いで避難して下さい!」
「こちら、ケルベロスです。洞窟内に……デウスエクスが。潜伏して、ますので……急ぎ、避難を……お願い、します」
輝島・華(夢見花・e11960)と唯織・雅(告死天使・e25132)も、観光客が岩屋に近づく前にてきぱきと避難誘導を行う。
そして上空では、ドラゴニアンの少年、深宮司・蒼(綿津見降ろし・e16730)と、オラトリオの少女、マロン・ビネガー(六花流転・e17169)が他に観光客が居ないかと見渡す。
「マロン、俺はあっちを見てくるぜ」
「では、私はこちらに向かうです」
二人は上空でそう言葉を交わし、少し広範囲に一般人が居ないかと確認する。そして、そのついでにキープアウトテープを張り巡らせていく。
「なんとか、上手く行きそうかなっ」
ジャスティン・ロー(水色水玉・e23362)はその飛んでいる二人を見て、自分は目の前の蟷螂の岩屋を見る。
その入り口の手前には二本の錫杖が立てられ、二本の灯籠を経て穴へと通じていた。
「確かに……。なん……か、嫌な感じがするねっ……」
ジャスティンはそう言いながら、傍らについてきている自らのボクスドラゴン『ピロー』に、指示を出す。
「うん……そうそう、あっちに隠れてねっ……」
「あ、ジャスティンさん。それ以上は近づかないほうが、良いと思うわ」
キープアウトテープを張り終えた愛沢・瑠璃(メロコア系地下アイドル・e19468)が、そっとジャスティンに声をかける。
「うん。僕もそう思っていた所だよっ。なんとなく……だけどねっ」
ケルベロス達は、避難誘導を完璧にこなすまで、ローカストのおびき寄せを待った。近づくと、今にも飛び出してきそうな雰囲気を感じたからだ。
そして、殺界形成を膨らませながら、ズミネが現場近くまで来た時には、既に全員が集まっていた。
「これで大丈夫よ。さて……」
ズミネが頷きながらそう言うと、ケルベロス達はそれぞれに、その燈篭の奥にある岩屋の暗闇を見た。
「じゃあ、行くよっ!」
ジャスティンはそう言い、ワークライトを手に持ちながら、じりじりとその穴の入り口に近づいていく。
すると、いきなり目の前に、緑色の塊が飛び出してきた。
●風切り音
ギィン!
鋭い風切り音の後、直ぐに金属音が響く。そして、ジャスティンが後方に吹き飛ばされた。直ぐにピローが傍に立つ。
「ジャスティン姉様!」
華が構えながら、駆け寄ると、目の前に大きなカマキリのローカストが両手の鎌を前に垂らしながら、進んでくる。
「シュ……キシュ……」
目の色が緑から紫色へと交互に変化し、唸り声のような音を出す。
「華ちゃん大丈夫っ。ちょっと切れただけだよっ」
華がジャスティンを見ると、彼女の左肩から肘にかけてばっさりと切り傷が入っていた。ぼたぼたと血が滴り落ちる。
「おあがりよ!」
ズミネが歌うように、メッセージを投げかける。すると、ジャスティンの傷は治っていく。だが、まだ半分傷は開いたままだ。
「少し、深いですかね。侮れないです……」
マロンがオラトリオヴェールで更にその傷を癒す。
「ん、ありがとっ。十分だよっ」
そう言って、ジャスティンは立ち上がり、ピローと共にまた少し前に出た。そこへ瑠璃のウイングキャット『プロデューサーさん』も並び、翼を広げて、グラビティの風を引き起こす。
「ローカストに個人的な恨みはない、が、駆除の対象であることも変わりはしない」
ヴィンチェンツォが両手に持ったリボルバー銃を乱打する。しかし、その弾丸を素早く避けるローカスト。
「不本意な作戦に翻弄されている相手と戦うのは、ちょっと気が引けますが、倒さなければなりませんよね」
華がバトルオーラを纏い、構える。
「せめて苦しみが続かぬよう早く終わらせてあげます、いざ尋常に!」
そう言って、素早い斬撃を繰り出す。だが、その斬撃も真横に飛び、避けるローカスト。
「へっへー。待ってたぜ!」
ドゴッ!
鈍い音を立て、ローカストの体が吹き飛んだ。その動きを読んでいた蒼が回り込み、掌底を打ち込んだのだ。
「今ねっ!」
瑠璃がドラゴニックハンマーから狙い済ませた砲撃を放つと、その足元に炸裂した。
「上司に、恵まれなかった。事は……気の毒、ですが」
雅が爆破スイッチを押し、前に立つ華、蒼、ジャスティンの背後にカラフルな爆発を引き起こす。
「手心、加える。気は…ありません。私達も……生きたいのは。同じなの、ですから」
雅のウイングキャット『セクメト』が翼を広げ、ヴィンチェンツォと雅へとグラビティの風を送り込んだ。
「シュ……キシュ、キシュ……」
ローカストは、先程の攻撃によろめきながらも立ち上がり、ケルベロス達を睨みつける。そして、両手の鎌を持ち上げた。
●勝機
ローカストの動きはいまだ速く、ケルベロス達はなかなかその動きを捉える事が出来ないでいた。特にその両手の鎌の攻撃は鋭く、ジャスティンは再びダメージを負っていた。そして更に、ローカストが羽根を広げる。
ババッ! バババババババ!!
ローカストから破壊音波が、華、蒼、ジャスティン、それにピローとプロデューサーさんへと降り注ぐ。
「やべえ!」
蒼はそう言って何とか避けるが、華とプロデューサーさんは避ける事が出来ない。
「危険ですの!」
華が構えを取ると、目の前に傷ついていたジャスティンがピローと共に躍り出た。
「ジャスティン姉様!」
華が駆け寄ると、ガクリと膝を付くジャスティン。ピローもふらついている。
「華ちゃん……。大丈夫っ? うっ!」
ジャスティンの頭の中に、何やら得体の知れないモヤとも呼べるものが入り込み、自分の意思をぼやかせる。彼女は必死でそれに抵抗し、そして、叫んだ。
「僕は……華ちゃんのこと、絶対に守るからっ! このモヤモヤ、どっかにいけぇ!!」
ジャスティンの生命力を帯びた気合の声が、そのモヤを吹き飛ばし、傷を塞いでいく。プロデューサーさんも横で、翼を広げて回復の風を送り込む。
『…調理、開始(3分クッキング)…!』
それを見たズミネが、ピローの口の中に良く分からない創作料理をぶち込む。
すると、ピローの動きが、一瞬硬直し、ふらついていた動きが収まる。
「少し、危なかったね」
そう言いながら瑠璃はローカストの動きに集中する。
「別に、あんたたちにドージョーするわけじゃないけど……そんな極限状態で血眼に人をお層だなんて苦しいだけでしょ!」
瑠璃が大きくジャンプし、狙い済ませた流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りをローカストに炸裂させた。
「観光客の人達にも迷惑なんだから、さっさと倒されちゃいなさいよ!」
その飛び蹴りで、ローカストの片足が吹っ飛んだ。そこへマロンが突っ込んでいく。
「貴方の命の輝きを見せて下さい……蟷螂さん」
倒れこんでいるローカストに縛霊手で追撃のごとく殴りつけ、網状の霊力で縛り上げるマロン。ローカストはマロンの霊力に逆らうが、上手く動くことが出来ない。
『Numero.2 Tensione Dinamica』
ヴィンチェンツォはその隙を見逃さなかった。
白銀の光を起き上がろうとしたローカストの額へと打ち込む。
「ガッ!!」
ビクンと身体を震わせるローカスト。
「例えどんな形であれ、一般人に害をなすようならば、放置はできないからな」
「その、通り……です。……セクメト。いき……ます」
雅がそう言った時、セクメトのキャットリングがローカストの左手の鎌と手首を固定させた。そして、間髪いれず雅のバスターライフルからエネルギー光弾が射出され右手の鎌の自由を奪っていった。
●めぐる季節
それらの攻撃を受け、急激に動きが鈍るローカスト。
「ここが、勝負どころね。おあがりよ!」
ズミネが影の弾丸を撃ち込むと、ケルベロス達の一斉攻撃が開始された。
『【1324ー7156891】 汝、至高天に輝き駆ける綺羅星となれ!』
マロンが魔導書に記された数式を光り輝く天馬に転換し具現化し打ち込む。すると、更にローカストが硬直していく。
「よーし、そこだぜぇ!」
蒼が仕上げとばかりに、空の霊力を帯びた螺旋手裏剣『島渡』を投げつけ、ありとあらゆる傷口をジグザグに切り裂いた。
「誰にも、邪魔。される事、無く。お眠り……下さい」
雅がバスターライフルで、ローカストの硬い装甲を砕き、瑠璃がドラゴニックハンマーで、超重の一撃を叩き込んだ。
続けてジャスティンがライトニングロッドから雷をほとばしらせる。
「華ちゃん今だっ! でかいの一発やっちゃってー!」
「分かりました、雷の合わせ技です!」
こくりと頷きながら、二本のライトニングロッドを振りかざし、ローカストの腹に突き刺す。
バリバリバリバリバリ!!
激しい雷光と共に、ローカストに大きな焦げ跡を残した。
「哀れな、とはいわんさ。これもお前の戦いだったのだろう」
ヴィンチェンツォが煙草に火をつけながら、リボルバー銃をがちゃりと構える。煙草の先端に点けられた火が一瞬灯り、煙が消える。
「Addio」
ヴィンチェンツォの口から煙と共に言葉が放たれる。
パン!
そして、一発の銃声が響き、ローカストの眉間を貫いた。
「ガ……!」
ローカストはそう言いながら前のめりに地面へと倒れこみ、消滅していった。
ケルベロス達は、ローカストを討った後、現場近くをヒールしていた。
「あー、めっちゃ汗かいたし、すげー腹減った……。そうだ、確かこの辺に温泉あんだよな? なあ、みんなで行こ―ぜ!」
「まだ時間は有りそうですね……。戦いの疲れを足湯とかで癒して行くのも良いかもです」
蒼の言葉に、頷くマロン。
どうやら蒼とマロンは、温泉街で何か食べ物を探してみようと、考えているようだ。
「あ、ジャスティン姉様。私も是非温泉に行きたいです!」
華の言葉に、顔がほころぶジャスティン。
「いいねっ! ゆっくり浸かって疲れを癒やそうねっ。そうだ、ズミネお姉様も雅お姉様も瑠璃お姉様も、一緒に入ろうよ!」
「ええ、喜んで」
「脚を、伸ばして……入れる、お風呂。格別、ですね……。是非」
ズミネと雅も同意する。
「後で温泉街に行くのも、悪くはないよね。温泉もちょっと考えようかしら?」
瑠璃は、温泉に関してはまだ保留にして、とりあえずこの、自分が救った地は見に行く事にした。
「せっかくだ、ここは皆で行こうじゃないか。ジャポーネは良い湯が多いと聞く、楽しみだな」
こうして、年長者のヴィンチェンツォが取りまとめ、現場を後にしていった。
耳を澄まさずとも、秋の虫の声が聞こえる。ケルベロス達が温泉に浸かり、疲れを癒していると、日の光が山で遮られて行き、その声は大合唱となっていた。
ケルベロス達は、めぐっていく季節を感じながら、ゆっくりと湯を楽しんだ。
作者:沙羅衝 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年9月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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