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「やった! 幻の島が見えたぞ!」
菅原高志はそう叫んで跳ね上がる。
それは引き潮の間しか姿を見せない幻の島。
そこに人魚が住んでいるという伝説がその地方には昔からあった。高志は幼い頃からその伝説に見せられて、引き潮の島の調査を繰り返していた。
「いつか人魚を見つけるんだ……!」
人魚はどんな姿をしてどんな能力をしているのだろう。高志は様々な想像をめぐらせる。その高志がの胸が突然、貫かれてしまう。心を抉る黒い鍵で。しかし心臓を穿たれても、高志は死なない。怪我もしない。ただ倒れ伏すのみ。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
現れた魔女は、高志の『興味』を具現化したドリームイーターを生み出した。
それは美しい人魚の形をしていた。
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「人魚伝説に魅せられて、実際にその調査を行おうとしていた菅原高志さんが、ドリームイーターに襲われ、その『興味』を奪われてしまう事件が起こってしまったようです」
セリカ・リュミエールが説明を開始する。
その場にいたラグナシセロ・リズ(レストインピース・e28503)を含むケルベロス達は真剣な面持ちでセリカの説明を聞いている。
「『興味』を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているようですが、奪われた『興味』を元にして現実化した怪物型のドリームイーターにより、事件を起こそうとしているようです。怪物型のドリームイーターによる被害が出る前に、このドリームイーターを撃破して下さい。このドリームイーターを倒す事ができれば、『興味』を奪われてしまった被害者も、目を覚ましてくれるでしょう」
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「その怪物型ドリームイーターは人魚の形をしているのですか?」
ラグナシセロが聞くと、セリカは頷いた。
「人魚はこのような能力を持っています」
死を呼ぶ歌声……美しい歌声で催眠状態に陥れます。
渦潮……渦をまく大量の波で攻撃します。
人魚の肉……魔法の力で回復します。
「また、場所は福井県の沿岸の浜辺となります。地元の人間も滅多に訪れない場所のようですね。そこから見える引き潮の時だけ姿を現す島に、被害者の少年は興味を持っていたようです。浜辺で人魚の噂をしていれば、ドリームイーターは姿を現すでしょう。そうして、『私は何者ですか?』と問いかけてきます。それで正しく答えられないと、相手を殺してしまうのです」
「人魚は日本語を話すのですか?」
ラグナシセロがまた訊ねた。
「はい。ですが、相手はドリームイーターです。意志の疎通は出来ないと思ってください」
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最後にセリカはこう言った。
「どんなものに興味を抱いても構わないでしょう。知的好奇心は大事です。しかし、それを利用してバケモノを生み出すような行動は許してはおけません!」
参加者 | |
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シャーリィン・ウィスタリア(月の囀り・e02576) |
沙更・瀬乃亜(炯苑・e05247) |
ショー・ドッコイ(穴掘り系いけじじい・e09556) |
ベルカナ・ブラギドゥン(心詩の詠唱姫・e24612) |
ソウ・ミライ(お天気娘・e27992) |
ラグナシセロ・リズ(レストインピース・e28503) |
天原・俊輝(レプリカントの刀剣士・e28879) |
佐伯・誠(シルト・e29481) |
●
人気のない浜辺に波がひたすら打ち寄せては打ち返している。遙か向こうには引き潮の時にだけ見える微かな島があった。
(「ここに本当にドリームイーターが現れるのでしょうか……?」)
ラグナシセロ・リズ(レストインピース・e28503)を始めとするケルベロス達は、早速その場で人魚の噂話を始める事にした。
「わたくしが思い浮かべる人魚といえば、童話で有名な人魚のお姫様のお伽噺ですわね。唄を奏でる大切な声を代償にしてまで、得たいと思った想い。わたくしには、未だその想いの深さは分かりませんが、結末の切なさに、初めは衝撃を受けましたわ」
シャーリィン・ウィスタリア(月の囀り・e02576)がアンデルセンの人魚姫の話を始めた。誰もが知っている童話に対してみんなが頷きを返す。
「海の泡になるんは切ないのう。おんなのこが多いみたいじゃが、男はおるんかのー? どうやって増えるんかの。あとやっぱりエラ呼吸なんかの? 男の人魚にも会ってみたいもんじゃて。」
シャーリィンの話に合わせながらショー・ドッコイ(穴掘り系いけじじい・e09556)が疑問を投げる。
「人魚伝説……デウスエクスが伝説の元だったりして」
ソウ・ミライ(お天気娘・e27992)はテンション高くそんなことを言っている。
「なんでも、引き潮の短い時間にだけ現れる島に、人魚がいるとか……。さぞお美しいお姿なのでございましょうね。一度お会いしとうございます」
ラグナシセロ・リズは遙か向こうの島の方を見つめながらそう言った。
「人魚か。娘に見せたら喜ぶだろうな。現に会いたいと言っていた。仕事でなければ画像の一つでも送ってやりたいくらいなんだが……」
佐伯・誠(シルト・e29481)はそわそわとスマホをいじっている。隣でオルトロスのはなまるも落ち着きがない。
「はなまるも興味あるか? お前は魚も好きだったろ……今日のは食えないけどな」
誠はそんなはなまるに声をかけてやっている。
砂浜の上で騒がしく話していると、海の波に少しずつ泡が浮かび始めた。最初はケルベロス達はそれに気づかず、ずっと人魚の噂話をしていた。
「人魚の伝説……ですか。ふるい夢は、ふるい夢においておいたほうがいいものかもしれませんね」
沙更・瀬乃亜(炯苑・e05247)が考え深げに言う。
「人魚かぁ……ロマンチックね! 絵本にも出てきたしたくさん逸話もあって私も興味あるわ。会ってみたいって気持ち、わかるかも」
ベルカナ・ブラギドゥン(心詩の詠唱姫・e24612)は被害者に同情しているようだ。
天原・俊輝(レプリカントの刀剣士・e28879)は自分も人魚の予知能力の話をしたり、噂話を真面目に聞いたりしていたが、波の様子がおかしいことに気がついた。
「……おい」
そう言って、周囲に目配せをする。
最初は小さな泡だったものが次第に大きな泡となり、ボコボコと音を立てながら海の中から何かが浮かび上がってくる。
息を飲むケルベロス達の前に、波の下から大きな物体が飛び上がり、水しぶきを輝かせながら空中で反転した。
それは誰もが一度は絵本で見た事のある、長髪の美しい人魚姫の姿をしていた。
「人魚さんなの! 綺麗なの、憧れるの……ソウもこんな風に綺麗になるの!」
その美しさに、ソウははしゃいだ声を上げている。相手はドリームイーターなのだが。
「はなまる、お出ましだ。お前の炎で焼いてやれ。――じっくり強火でな」
対照的に、誠は険しい顔で警戒心を露わにしていた。
人魚は空中から浜辺に着地すると魚の尾を揺らしてにじり寄ってきながら、硬質の声で話しかけてきた。
「--お前達」
ケルベロス達は固唾を飲んで人魚の次の言葉を待つ。
「私は、何者か?」
知っていた質問に対し、瀬乃亜は口を開く。
「あなたは……素敵な人魚さん」
何人かのケルベロスが瀬乃亜に続いて次々に「人魚」という回答をした。
しかし、約二名は違った。
「さ、さぁ……存じ上げません」
ラグナシセロはやや引きつった声でそう言った。
「自分が何者か? なんて他人に聞かず、自分で定めるものですよ。さて、貴方は何者ですか?」
俊輝はおもむろに眼鏡を外しながらそう答えた。眼鏡はケースにしまってしまう。
途端に、人魚は歌い始めた。
美しい歌声だった--それなのに、その歌声は、鼓膜を突き破るような痛みを伴っていた。気がおかしくなりそうだ。
反射的に耳を塞ぐケルベロス達。
「戦闘開始です!」
シャーリィンが人魚の歌声に負けないように叫び、古の言語で祈りを捧げる。月の竜族の魔術だ。
(「―わたくしの祈りを御受け下さい。月に愛され縛られし竜は、今宵もあなたの為だけに…唄います」)
月女神の慈悲(ルナ・ミセリコルディア)の魔術が発動し、ケルベロス達に妨アップの効果が付与される。
ラグナシセロは装備していた攻性植物を収穫形態に変化させ、その黄金の果実の輝きで仲間にBS耐性の効果を与える。続いてベルカナのサーヴァント、ウィアドが前衛を中心に属性インストールを付与していった。
(「人魚は催眠やトラウマを使うという話です……戦線維持のためにも、回復役を優先で庇わなければ」)
それは同じくディフェンダーの俊輝も同じ事を考えていただろう。
その俊輝は、ブレイブマインを使い、壊アップをケルベロス達に与えている。
瀬乃亜がファミリアロッドを振りかざし、燃えさかる火炎の弾丸を人魚に向けて撃ち放つ。
ショーがヒールドローンをケルベロス一人一人に展開。小型治療機で味方を守る。
サーヴァントのヨッコイはボクスブレスを人魚に向かって吐きかけ、BSを与えようとしていた。
誠ははなまるをディフェンダーとしてソウの側に配置し、自分はグラビティチェインを破壊力に変えて、バトルオーラに乗せ、人魚に叩きつけていった。
人魚が血しぶきを上げる。
しかし、その傷はみるみるうちに癒えていく。特殊な人魚の肉のせいだ。
人魚は誠を振り返ると、周囲の波を大きくざわめかせ、のたうたせ--渦潮を呼んでケルベロス達へとぶつけていった。
波に飲まれ、もがきながら砂浜に叩きつけられるケルベロス達。
うめき声を上げるソウに、ボクスドラゴンのダンタツが必死に属性インストールを行い回復していく。
いち早く立ち上がったソウは、満月に似たエネルギー光球を呼び出し仲間にぶつけ、傷を癒す。たちまち与えられる破壊力アップ。
人魚は息つく暇も与えず死を呼ぶ歌声を歌い、ケルベロス達を苦しめる。
『豊饒を司りし神々よ、我らに赦しを与え給え』
ラグナシセロはフライヤの施し(アマトウィクトリアクラム)を使い、仲間をバッドステータスから守る。
俊輝はバトルオーラに空の霊力を溜めて人魚に斬りかかる。先程、誠がグラビティブレイクを行ったあとを辿るように。
俊輝が突撃していくと、サーヴァントの美雨が人魚の前に出て行って、ポルターガイストを与え、次の瞬間には金縛りを与える。
俊輝は美雨と呼吸を合わせながら雷刃突を繰り出していく。
ベルカナがその直後にエアシューズの摩擦の炎で人魚を思いきり蹴り上げる。
次に重力を宿した跳び蹴りを人魚にお見舞いし、人魚の動きが一挙に鈍くなる。
そこから全身を覆うオウガメタルを「鋼の鬼」と化し、人魚を鉄拳で撃ち抜いていく。
最後に光の翼を暴走させ、光の粒子となって人魚へと突撃。
流れるような、それでいて激しい攻撃に、人魚は反撃する暇さえ与えられなかった。
ベルカナに続いてショーが地裂撃で人魚に殴りかかっていく。
そこから高速回転して人魚へ突撃し、人魚の防御を奪う。
最後に、エアシューズから炎を発しつつ蹴りを入れる。
「ギギ……!」
人魚は美しい歌声からは想像もつかないような苦しげな声で呻き、人魚の肉で与えられた傷跡を急速で癒やしていく。
その人魚に、シャーリィンはフロストレーザーを撃ち放つ。
ゆらゆらと長髪を揺らめかせながら人魚は呻いていたが、やがてひときわ大きなボリュームで死を呼ぶ歌声で歌い始めた。
ショーがヒールドローンを展開させて仲間をぴったりと警護させていく。ヨッコイはボクスタックルで人魚に突撃。
しかし、その歌声はまさにセイレーンとも言うべき魔力に満ちていた。
「んっ……くっ」
瀬乃亜の顔色が変わっていく。
それに俊輝が声をかけるより早く、瀬乃亜はファミリアロッドを振りかざした。
仲間に向けて。
ファイアーボールの渦巻く火炎が、ケルベロス達に襲いかかる。
悲鳴を上げて倒れるシャーリィン。
ソウを庇ったラグナシセロと俊輝、それにソウのダンタツが炎に包まれてしまう。
「しまった!」
誠が溜めたオーラを瀬乃亜に放ち、彼女の催眠を解除する。
「えっ……ああっ!」
自分のしてしまった事に気がついて顔面蒼白になる瀬乃亜。
炎に巻かれて膝をついている三人のケルベロスとボクスドラゴン。
「ソウがみんなを癒しちゃうの! ゴーゴーなの!」
しかし、ソウは自信を持った顔でルナティックヒールを再び使い、ケルベロス達の体力を大幅に回復していく。
ボクスドラゴンのウィアドがシャーリィンの体に属性インストールを行う。
ほぼ同時にショーも癒やしの詩を使っていた。
『迷っている暇はないの、全力で突撃なのー!』
更にソウは人生短し恋せよ人類(ジンセイミジカシコイセヨジンルイ)を歌い上げて仲間にヒールと破壊力アップを与えていく。復活したダンタツはソウの周りを元気に飛び回り、ボクスブレスを撃ち放つ。
「歌は奏でる者の祈りや想いです。貴女の奏でる唄が深淵への誘いならば、わたくしは、誰をも優しく包み込む月燈りの旋律で、皆さまに光を与えたい」
立ち直ったシャーリィンはそう言うと、再び月女神の慈悲(ルナ・ミセリコルディア)を使い、ケルベロス達に力を与える。
「伝承の世界へ帰りましょう……? 海は貴女を拒みませんわ」
そう言うと、バスターライフルからビームを撃ち放って人魚を狙う。
間髪入れずにフロストレーザー。
(「楽しいいい夢ならあってもいいのだけれど、浜辺に人魚は、本の世界でもよくあることですね……」)
悪夢のような出来事を目の当たりにしたばかりの瀬乃亜は、ファミリアロッドを今度は人魚の方に向けて炎をぶっ放す。
肉の焼ける匂いがし始める。
(「確かに、みとれてしまう気持ち、なんだかわかる様な気がします。噂をしてしまうのも……」)
美しい人魚に向かい、魂を喰らう降魔の一撃。
仲間を襲ってしまった衝撃を晴らすかのように攻撃を繰り出していく。
電光石火の蹴りを撃ち放ち、人魚を海へと叩き落としていく瀬乃亜。
「何者か、か……。俺から言えば『化け物』だ。少年や、多くの者を魅了する人魚などではない。この浜に、化け物はいらない」
そう言い放ち、誠ははなまるとともに海から再び浮かび上がってきた人魚に駆け寄って行く。
誠がグラビティブレイクを叩きつけると、はなまるはパイロキネシスで人魚の体を燃え上がらせる。
人魚は既に限界が近く、人魚の肉による回復もろくに追いついていない。
誠は攻性植物を蔓草のように伸ばしていって人魚を捕らえて縛り上げる。
その上で、バトルオーラから気の弾丸を撃ち放った。
ラグナシセロのサーヴァント、ヘルがボクスブレスを人魚に撃ち、それから追いかけるようにしてボクスタックルを行う。
そこにラグナシセロが駆け寄って行き、重力をこめた跳び蹴りで人魚の動きを止めてしまう。
それから自らの体を光の粒子に変えて、人魚に突撃していき、撃ち抜いた。
「かはっ……」
血を吐いたかと思うと人魚は海の中に落ちていく。美しい人魚が波の中に揺られながらどんどん沈んでいく。
そして、二度と浮かび上がっては来なかった。
●
「おはよう少年。探していたモノには逢えたか?」
やがて目を覚ました高志に、誠がそう話しかけた。
高志はぼんやりと目を見開いた後、きょとんとしてケルベロス達を見ていた。先程まで、彼は美しい人魚の夢を見ていたのである。
その無邪気な顔に、誠も、他のケルベロス達も、苦笑するしかなかった。シャーリィンは夜行性で日光が苦手なので、ヴェールを深めにかぶりなおしている。
「人魚捜しのお手伝いをしましょうか? 僕も人魚は見て見たいですから」
ラグナシセロがそう申し出た。
「な、なんで、俺が人魚を探しているって知って……??」
高志は軽くパニックに陥っている。
「例え偽物でも人魚にあえて私は嬉しかったかも。でもいつかホントの人魚に会えるといいね」
ベルカナはそう言って高志に微笑んだ。
「え……? 君たちは人魚に会ったの!?」
高志は驚いて立ち上がり、そこでふらふらと目眩を起こして尻餅をついた。思わず笑ってしまうケルベロス達。
「伝説は伝説がいいですね」
結構、酷い目にあった瀬乃亜は遠い目で海を眺めていた。
最初は何が何だか分からなかった高志だったが、誠から事情を説明されて、ケルベロス達に深々と頭を下げて礼を言ったのだった。
「ありがとうございます……!」
こうしてケルベロス達はまた一つ事件を解決し、少年の命を救ったのだった。
作者:柊暮葉 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年8月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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