お菓子な妖精

作者:白鳥美鳥

●お菓子な妖精
「……ここね」
 深夜の森の中。結衣は足元に気をつけながら、森の中の一番大きな樹に辿り着いた。
「……ええと、お菓子、お菓子。何が良いのか分からないから色々持ってきたけれど……」
 結衣は持ってきた鞄の中からお菓子を取りだす。
 飴、クッキー、チョコレート、ゼリー、スナック菓子等、色々なものを用意して来た。それを、樹の周りに置いておく。
「……これで良しっと」
 結衣は鞄から更に写真も動画も撮れるデジタルカメラを取り出して、樹の根元が見える場所に身を隠した。
「このまま満月がこの樹の上に来るのを待っていれば……お菓子が好きな妖精たちが集まって、綺麗な踊りを踊ってくれる筈……。見るだけじゃなく、写真や動画も撮れれば……」
 その時を待っている結衣の元に、第五の魔女・アウゲイアスが現れると手に持った鍵で彼女の心臓を一突きした。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 崩れ落ちる結衣。そこから陽炎の様な翅の付いた妖精の様なドリームイーターが生まれたのだった。

●ヘリオライダーより
「みんな、妖精って信じている?」
 デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)は、ケルベロス達に話を始めた。
「あのね、不思議な物事に強い『興味』を持って、実際に自分で調査を行おうとしている人が、ドリームイーターに襲われて、その『興味』を奪われてしまう事件が起こってしまったようなんだ。『興味』を奪ったドリームイーターは姿を消しているみたいなんだけど、奪われた『興味』を元にして現実化した怪物型のドリームイーターにより事件を起こそうとしているらしい。みんなには、このドリームイーターによる被害が出る前に撃破をお願いしたいんだ。このドリームイーターを倒す事が出来れば、『興味』を奪われてしまった被害者も目を覚ましてくれるから、それは安心してくれて大丈夫だよ」
 デュアルは説明に移った。
「場所は夜の森の中にある一番大きな樹がある場所みたいで、生まれたドリームイーターは、陽炎みたいな翅を持っている人の姿をしているみたいだ。大きさは人間と変わらないけれど、身体がほんのり光っているから、夜だし目立つと思う。それで、このドリームイーターなんだけど、『自分が何者か』って問うような行為をして、正しく対応出来なければ殺してしまうみたいなんだ。でも、このドリームイーターは、自分の事を信じていたり噂している人が居ると、その人の方に引き寄せられるみたいだから、それを利用すれば上手く誘い出せるかもしれないね。で、このドリームイーターなんだけど……お菓子と踊りが好きみたいで『チョコレート』、『キャンディ』、『ダンス』っていう攻撃を繰り出してくるみたいだよ」
 その話を聞いていたミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)は、何故か瞳をきらきらさせている。
「お菓子に妖精! すっごく素敵なの! ミーミアだって、そういうのが見れたら嬉しいに決まっているの。本当に素敵な『興味』だと思うのよ。だから、そこから生まれたドリームイーターなんて許せないの! ねえ、みんな、ミーミアと一緒に倒すのよ!」


参加者
天矢・恵(武装花屋・e01330)
モモ・ライジング(鎧竜騎兵・e01721)
天矢・和(幸福蒐集家・e01780)
立花・彩月(刻を彩るカメラ女子・e07441)
月霜・いづな(まっしぐら・e10015)
クララ・リンドヴァル(錆色の鹵獲術士・e18856)
ゼロ・アルカディア(双剣蒼眼の使い手・e27691)
クローカ・リデル(かの花に捧ぐ青・e29735)

■リプレイ

●お菓子な妖精
 今回の事件は『お菓子が大好きで、お菓子に喜んで踊る妖精』への『興味』。
「良い場所ですね……妖精観察には最高の環境です……」
 クララ・リンドヴァル(錆色の鹵獲術士・e18856)は穏やかにそう微笑んだ。
「ようせいさん! えほんでみてから、わたくしずっとずっと、ひとめあってみたいと、おもっておりましたの!」
 月霜・いづな(まっしぐら・e10015)は、わくわくしながら妖精と出会う事を楽しみにしている。
「うんうん、妖精さんに出会うの、とっても楽しみなの! お菓子が好きだなんて……凄く親近感があるの!」
 同じく妖精に興味一杯のミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)。
「ここが森の中にある一番大きな樹か……。そろそろ満月が樹に登る。妖精が出て来てくれそうな頃合いじゃね?」
 森の夜の空を見上げながら天矢・恵(武装花屋・e01330)が言う。
 この場所は不思議だ。夜の森なのに、月の光と動きが分かる。だから月光に浴びて妖精が踊りだしても可笑しくない気がする。……それは、とても幻想的で綺麗な光景だと想像がついた。
「お菓子と踊りの好きな妖精さん…! さながらお菓子の妖精さんってところかな? こんな森の中だったら確かに妖精さんもいるかもしれないね」
 天矢・和(幸福蒐集家・e01780)の言葉はとても恋愛小説家らしい。優しくて温かい言葉。
(「妖精……か。妖精みたいな子なら、幼馴染にいたよ。……たちが悪くて悪戯好きっていう、よくない方の妖精、だけど」)
 クローカ・リデル(かの花に捧ぐ青・e29735)は、今は亡き幼馴染の少女を思い出していた。
 立花・彩月(刻を彩るカメラ女子・e07441)は、用意したお菓子の他にカメラを三脚にセットする。
「このカメラのセンサー、載霊化されてるから妖精の他に幽霊とかも写るかもよ」
 彩月は、大真面目に妖精が写ってくれないかなーって思っていたりもする。彼女の載霊化されたカメラは、学生時代に付き合っていた彼氏が亡くなり……二年以上経って彼女の護る為に霊として宿ってくれた心から大切なものなのだ。
 いづなは金平糖を道標のように撒いている。
「どちらにいらっしゃいますか。わたくしと、おはなしいたしましょう」
 そんな風に探してみたりする。
 他の人達は用意したお菓子を摘みながら噂話の話をしたりし始める。
 恵が用意したお菓子は猫の形の可愛い手作りチョコとキャンディ。猫の形をしているのは、彼は猫が好きだからだ。
「甘く美味ぇ物があれば来るだろ。沢山あるから好きなだけつまんでいていいぜ」
「わぁぁ恵くんのお菓子! クッキーとかマカロンとかないの?」
 和は喜んでチョコレートを摘む。
「うん、美味しい! 妖精だろうとなんだろうと、こんな美味しいお菓子飛びつかない子はいないよね」
「クッキーとプチケーキを作って来たの! みんなも食べて欲しいの!」
 ミーミアもクッキーとプチケーキを皆に差し出す。
「チョコレートにケーキですか。僕、好きなんですよ」
 ゼロ・アルカディア(双剣蒼眼の使い手・e27691)もにこにこしてお菓子を摘んだ。
「僕はマカロンにチョコレート、それから駄菓子とかだよ。和くんはマカロン好きなのかな?」
「わたしは子供が喜びそうなゼリーとか大人向けのちょっと高級なチーズオムレットよ」
 クローカのお菓子も、彩月のお菓子もとても美味しそうだ。
(「お菓子はあんまり食べた事無かったし、興味もなかったから……ちょっと手を伸ばしてみようかな」)
 クローカも甘いものを楽しんでいると、自然と顔が綻んでいくのを感じていた。
「何だかお菓子が好きな妖精なんて、ファンタジーやメルヘンを感じるねー」
 いつも一口で食べられるアメやチョコをポケットに仕込んでいるモモ・ライジング(鎧竜騎兵・e01721)は、チョコを摘みながら噂話を始める。
「とある地域で蜂蜜と牛乳を混ぜた物を常食するそうですよ。美味しそうですよね……」
「それは美味しそうだね」
「それ、ミーミアも食べてみたいの!」
 クララのお菓子の話に、甘いものが大好きな和とミーミアが飛びつく。というか、ミーミアはその知らないお菓子に夢を馳せているようだ。
「でも、チョコレートも美味しいですよ」
 ゼロは好物のチョコレートを美味しそうに食べて嬉しそうにしていた。
 いづなは樹のうろや葉の影を覗きこみながら、妖精の登場を今か今かと楽しみにしている。
 そんな時、綺麗な陽炎の翅を持った人間位の大きさの可愛らしい顔立ちで……踊り舞うように現れた。それは、とても軽やかなステップ。
「こんにちは、人間の皆さん。私が誰だか分かりますか?」
 ふわりと可愛らしい笑顔で微笑む。とても愛らしい。
「鈴の様な声……親父の資料になるかもしれねぇし、ポロライドカメラを用意し妖精を撮るぜ」
 妖精のドリームイーターが問い掛けている隙に恵は写真を撮る。映るかどうかは別として。
 そして、その問いかけの方にはモモが冷たく言い放つ。
「あなた、只のドリームイーターでしょ? ……それぐらい知ってるのよ」
 彼女の言葉に、妖精は一瞬哀しそうな顔をした後、翅で舞い上がるとケルベロス達へと攻撃を開始した。

●妖精のドリームイーター
 綺麗な姿の妖精のドリームイーターは踊る。それは、華麗に軽やかに。その舞は自らを否定したモモへと向かう。流れる様なステップと共にモモを蹴りつけた。
「妖精さんに会えたのは嬉しいけど返して貰うよ。それはあの子の興味、だ」
 和はドリームイーターへ向かって素早く弾丸を撃ち込む。続いて和のビハインドが金縛りの攻撃を放った。
「本物の妖精だったら良かったのだけれど……残念ね」
 彩月はドリームイーターを殴りつけると同時に霊力で縛り上げて動きを封じる。
「……早速、一発喰らったわね。でも、簡単にやられたりはしないわ」
 冷たい口調でモモは指先からグラビティの弾丸を精製して、リボルバー銃に込める。『黄金の弾丸・幸運と勇気』と名付けられたその技は恵達に向かって撃ち放って護りの力を高めた。
「一曲一緒に楽しく舞う訳には残念ながら出来なかったな」
 ドリームイーターが夢の景色を見せてくれるというなら、一夜の幻を見たかった気がするけれど残念ながらそうはいかなかった。恵は月の光に照らされて輝く蹴りをドリームイーターの足元に向かって放った。
「ようせいが、ゆめをうばうだなんて」
 彼女は紙兵をクローカ達へと護りを与え、彼女の和箪笥姿のミミックはエクトプラズムで作り上げた武器を作り、普段のぐうたらな姿から変貌して凶悪に斬りつけた。
「うーん、僕の想像と違和感は無かったので嬉しいんですけれど……」
 妖精という生き物に興味を持っていたゼロ。それは彼が想像をしていたピュアで可愛いイメージの姿だったので、ありがたいことにイメージは壊れなかったのだが、相手はドリームイーター、倒すべき存在だ。可愛らしい姿だけれど、容赦は出来ない。炎を纏った蹴りをドリームイーターへと思いっきり叩き込む。無表情のままクローカはリボルバー銃の引き金を引き、素早い弾丸を撃ち込んだ。
「『不変』のリンドヴァル、参ります……」
 クララはライトニングロッドを構える。そして、催眠の影響を受けているモモ達に雷の壁を張り護りと癒しを齎した。
 ミーミアは攻撃の要の一人である彩月へと雷での力を与え、ウィングキャットのシフォンは、まだ加護を受けていないいづな達へと守護の風を送り込んだ。
 とんとんっと妖精を舞うとチョコレートが現れる。甘く魅力的なチョコレート。それは、まるで相手の好みを知っているかのように、和に向かってチョコレートが飛んでいく。
「うわっ、チョコレートが来たよっ」
 だが、彼の好みを知っているビハインドが、すっとそこに割り込んで庇ってくれた。
「ありがとう。じゃあ、餅、一緒に頑張るよ」
 和のファミリアは長毛種の白子猫の餅。餅はファミリアロッドに姿を変えるとドリームイーターへ向かって魔法の矢を次々と放っていく。ミーミアからの支援を受けて力を得た彩月はオーラを高めると、その傷へ向かって撃ち放った。
「動かないでね。動くと変な所に当たって、余計に痛いよ!」
 リボルバー銃を構えたモモは死角を狙ってドリームイーターへと弾丸を放つ。続いて恵は古代語を詠唱し、そこから生まれる光が少しずつ固めていった。
「きれいなはねと、あわいひかり。ゆめにまでみたすがたのよう。だけど、わたくしたちは、おかしみたいに、あまくはございませぬ!」
 いづなは御業をドリームイーターへと放つ。それは炎となって燃え上がらせた。そこにつづらが喰らいつく。
 ふわふわと踊る妖精のドリームイーター。綺麗な仕草から生まれるのはキャンディ。ただ、大きくて当たると痛そうだ。そのキャンディは自らに強烈な一撃を加えて来る恵を狙う。その丸い弾丸をくるりとシフォンがじゃれつくようにして守った。
「当たり難くなりますから……動かないで下さいね」
 ゼロは精神集中をして、ドリームイーターへと爆破攻撃を行う。
「……」
 クローカはオーラを溜める。そして、そのオーラの一撃を撃ち放った。
「……力をお貸しします」
 クララは、もう一人の攻撃の要である恵に向かって雷の力を用いて力の底上げを図り、ミーミアはモモ達やサーバント達に向けて雷の壁を張りめぐらして、癒しと浄化を行う。
 くるくる舞い踊るドリームイーター。幻想的なその姿は、やはり目を奪われる。それが、本物の妖精では無いと分かっていても。魅入られそうになるいづなを、つづらがそうならないようにと彼女を守った。
 モモはエクスカリバールを構える。そのエクスカリバールから釘が生まれ、それをドリームイーターへとフルスイングで殴りつける。更に和はリボルバー銃から高速の弾丸を撃ち放ち、その銃弾を受けたドリームイーターはよろめいた。
「敵との距離よし、落下点よし。ここで決めるわ!」
 彩月はドリームイーターと自分の位置を確かめると、エアシューズの力で空高く跳躍する。そして、落下による破壊力を乗せて青白い光を放った蹴りをドリームイーターへと蹴りつけた。
 そして妖精のドリームイーターは、まるで踊る様に、そして、キラキラとした金平糖のような飴の様な光を放って消えていった。

●夜の森の下で
「ねね、折角だからピクニックでもしない? まだまだお菓子はいっぱいあるんだし、みんなで交換会、しようよ」
 和はそう皆に提案する。妖精のドリームイーターを呼び出す為に、用意したお菓子は沢山ある。……そして、ここは月の光に照らされて適度な明るさがあり幻想的で、ピクニックとしては楽しいかもしれない。
 恵の手作り猫型チョコレートとキャンディ。
 彩月のゼリーやチーズオムレット。
 いづなの金平糖。
 クローカのマカロンやチョコレート、駄菓子。
 そして、ミーミアの用意した手作りのクッキーとプチケーキ。
 みんなで食べるには十分位のお菓子。
「飲み物も用意してるよ。栄養ドリンクオンリーだけど」
 モモはドリンクバーで用意した栄養ドリンクを並べる。栄養ドリンクといっても色々な種類があるから、子供でも飲みやすいものもある。
 和はシングルバーナーでお湯を沸かしてコーヒーを淹れ、皆に振舞う。
「ふふ、たまにはいいよねこういうのも。妖精さん様様かな?」
 和はとても優しい笑顔を浮かべていた。
「チョコレートにケーキ、美味しいですね」
 ゼロは好物が沢山あって、嬉しそうに頬張っている。戦った後の甘いお茶会は最高だ。
「色んなお菓子が一杯で美味しいの! クララちゃんもどうぞ!」
「ありがとうございます……」
 皆がお菓子を楽しんでいる姿をニコニコして見守っていたクララにミーミアがお菓子を貰って、くすりと微笑んだ。
 クローカは過去、「お菓子」の何が良いのか分からなかった。でも、こうして皆とお菓子を食べていると自然に綻ぶ顔と共に温かな気持ちが満ちる。そして、そっと首輪に手をやった。
(「……あの時の彼女も、こんな気持ちだったのかもな」)
 今は亡き幼馴染の少女を思いながら。
「おどっていたら、どこかでみていてくださるかしら?」
 いづなが踊りだす。巫女舞しか知らないけれど、見えない妖精がいるような、そんな気持ちを持ちながら。
「僕も踊ろうか。行くよ、餅。ほら、恵くんも!」
 和はファミリアの餅と共に踊りだす。そして、恵も妖精のダンスの再現と誘われて踊り始める。そして、クララも踊り出した。くるくるとダンスを踊る。戦闘後に外した長手袋は、いつのまにか復活していた。
 美しい踊りを踊る四人を見ながら、飲み物を飲んだりお菓子を楽しんで。
 彩月はカメラを構える。彼女のカメラはスマホと連動していて、遠隔でシャッターが切れる。それを利用して、踊る四人や、お菓子を楽しむケルベロス達の撮影をする。この小さなパーティの思い出を写真に残す為に。
 そして、彩月は満天の星空の写真を撮る。どうしても撮りたいものだった。星空の中、妖精がいないかしら、と。チェックした液晶モニターには残念ながら妖精は写らなかったのが残念だった。妖精が写ってくれている事を、そしてこのカメラなら写してくれるかもしれないと願っていたから。
「本物の妖精ってどんなものでしょうね……」
 ゼロはそう呟く。ここにいると思われたお菓子が好きで踊りを踊る妖精とはどんなものだったのだろうか、と。つづらも思う。わらいごえが、きこえたきがして。
 お菓子を食べたり、踊りを踊ったり。……ここに妖精がいるという『興味』を再現して過ごしていく。
 ……どこかで、妖精が見ていてくれないかと、そんな事を思いながら――。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。