砂塵の舞う荒野を、足早に駆けるもの達の姿があった。夏の陽射しは、未だ地上を焼き尽くさんばかりに苛烈であり――熱せられた大地にはゆらゆらと、視界を歪ませる陽炎すら立ち上っている。
「…………」
――しかし荒野を往く彼の存在は、涼しげな表情を変える事は無かった。その額に汗の一滴すら浮かべずに、彼は厚手のコートを翻してただ地を駆ける。
「姿は見えない、か……」
彼ら――『エクスガンナー』の名を冠するダモクレスの移動拠点に、先刻ローカストと思しき集団が襲撃をかけ、あろうことかコアを奪取して逃走した。その為に、彼らエクスガンナーは配下を従え、捜索隊としてローカストの捜索に当たっているのだ。
「……ドクターエータ?」
と、其処でふと、コートの男の足が止まる。何かの通信を受け取ったのか――彼は耳に手を当て、微かな声で数度やり取りを交わしたようだった。
「グランネロスに襲撃者――詳細は了解した。ならば、此方は一旦帰還する」
直ぐにダモクレスの男は決断を下し、自身が従える配下たちへと指示を飛ばす。数体は此方に同行し拠点へと帰還、残りは引き続きローカストの追跡を続行するように、と。
「連携……それによる能力の向上が、お前達の強みなのだからな」
整然と配下たちは行動を開始し、男もまた襲撃者に対応するべく来た道を引き返そうとした。しかし、其処でふと――彼の靴が何かを避けるように歩みを乱す。
「……否、問題ない」
彼の行く先、乾いた大地に顔を覗かせていたのは、白い花弁を揺らす一輪の花だった。荒野の中で懸命に咲き誇るその花の名前を――男は、ジェイドは、未だ知らない。
大変だよ、と息せき切って駆けてきたエリオット・ワーズワース(白翠のヘリオライダー・en0051)は、予知による情報を、急いでケルベロス達へと伝え始めた。エリオットの話によると、どうやらローカスト・ウォーで生き延びたローカストである阿修羅クワガタさんが、彼の気のいい仲間達と共に、ダモクレスの移動拠点を襲撃したようなのだ。
「このダモクレスの移動拠点は、グランネロスと言う全長50mの巨大ダモクレスでね……その内部を拠点として、エクスガンナーシリーズと呼ばれるダモクレスが活動していたようなんだよ」
今回阿修羅クワガタさんがグランネロスを襲撃したのは、グランネロスに蓄えられていたグラビティ・チェインが狙いだったと想定される。彼は弱い人間を殺してグラビティ・チェインを奪うのでは無く、強敵であるダモクレスを襲撃してグラビティ・チェインを強奪しようとしたようなのだ。
「こんな所が『ナイスガイ』と呼ばれる所以なのかな……? と、それはさておき。襲撃を受けて、中枢コアとグラビティタンクを奪われたダモクレスの方も、このまま黙ってはいないみたいで」
――どうやらダモクレス側は、最低限の護衛を残したエクスガンナーシリーズの全戦力を、阿修羅クワガタさんの追撃に出したらしい。この好機を生かすため、グランネロスの攻略を行う事になったのだとエリオットは言う。
「でも、グランネロスが襲撃されたという連絡が入れば、追撃に出ていたエクスガンナー達が戻ってきてしまって、攻略は失敗してしまう。だから――」
皆にはそれを阻止する為、帰還しようとするエクスガンナーを迎撃し足止めする役割を果たして貰いたい。そうしてグランネロス制圧まで時間を稼ぐ事が出来れば、作戦は成功となり敵は逃走していくだろう。
「でも、敵は精鋭のエクスガンナーだけでなく、配下として量産型のダモクレスを従えているんだ。だから戦力的に勝利するのは難しいと思うけど……でも、撃破は不可能ではない筈だよ」
――ただ、無理に撃破を狙って敗北した場合、敵はグランネロスを攻略している仲間の元に敵増援として合流してしまう。故に先ずは、敵の足止めをしっかり行うようにお願いするね、とエリオットは頭を下げた。
「皆に迎撃して貰うのは、ジェイドと言うダモクレスになる。彼は完成したエクスガンナーとされていて『ダモクレスのエクスガンナー』とでも言うべき、近代兵器のプロフェッショナルのようだね」
己の鍛え上げた肉体と拳銃の技術だけで戦う、ガンスリンガー――それを機械的に再現したのがエクスガンナーだと言うが、機械の体に柔軟な思考力や経験が加われば、予測がつかない攻撃を繰り出してくる恐れもある。その戦法は、リボルバー銃を扱うガンスリンガーのものと酷似しているだろう。
「更に、配下としてダモクレス……エクスガンナーゼータと呼ばれる機体を4体従えているよ。此方は量産機のようだけど、連携を活かした立ち回りをしてくるから注意してね」
――敵との戦いは、グランネロスへの襲撃が始まってから10分程度後となる。グランネロスの攻略が順調であれば、7分以上足止め出来れば役割を果たす事が可能だ。
グランネロスが撃破されるまで足止め出来ることが理想だが、7分以上時間を稼いだ上でならば撤退と言う選択肢もあるので、状況に応じて判断して欲しい――其処まで説明をしてから、エリオットは一息吐いた。
「……この移動拠点グランネロスは、地球で活動するダモクレスの中でも、かなり有力な集団だと思われるよ。グランネロスの破壊が出来れば、ダモクレスに大きな打撃を与える事になるはず」
しかし、精鋭のエクスガンナーの足止めに失敗すれば、グランネロスを攻略している部隊が危機に陥るかもしれない――故に、この任務に就くケルベロスの存在は非常に重要なのだ。
「それと……移動拠点グランネロスは、戦闘形態に変形する可能性があるんだ。万が一、戦闘形態への変形が確認された場合は、グランネロスを攻略しているチームの支援に向かう必要が出てくるかもしれない」
――戦況の見極め、それが重要になってくるだろう。しかし幾多の戦いを制したケルベロス達ならば、きっと望む結果を勝ち取ってくるだろうとエリオットは信じていた。
「どんなにひとに近づけようと技術を研ぎ澄ませても、心を創ることは出来ないから。皆の決意を、この星を守り抜く覚悟を、どうか相手に示して欲しいんだ――」
参加者 | |
---|---|
トレイシス・トレイズ(未明の徒・e00027) |
日柳・蒼眞(蒼穹を翔る風・e00793) |
流星・清和(汎用箱型決戦兵器・e00984) |
ラックス・ノウン(マスクドニンジャ・e01361) |
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771) |
片白・芙蓉(兎頂天・e02798) |
館花・詩月(咲杜の巫女・e03451) |
筐・恭志郎(白鞘・e19690) |
●荒野に咲く花
灼熱の太陽に照らされた荒野に、砂塵を含んだ乾いた風が舞う。移動要塞グランネロスの危機に駆けつけるダモクレス――それは『エクスガンナー』の名を冠する、精鋭の機体たちであった。
(「グランネロスには、知人も多く向かっています」)
空の景色を見せてくれた飛行船の船長に、夏の海でビーチバレーをした仲間たち、そして他にも――拠点制圧に向かった者たちの姿を思い浮かべながら、筐・恭志郎(白鞘・e19690)はきりっと柔和な表情を引き締める。
――エクスガンナー達が救援に向かわないよう、これを迎撃し足止めする。自分たちに課せられた重要な任務を改めて確認し、恭志郎は決意の言葉を静かに紡いでいった。
「……彼らの為にも、この身を盾に護り通します」
「ああ、阿修羅クワガタさんの作った好機を逃すまい」
吹きすさぶ風に、白外套を靡かせ佇むのはトレイシス・トレイズ(未明の徒・e00027)。元々は、彼らローカストがグランネロスを襲撃したことに端を発しているのであるが――生真面目な表情で『さん』付けをするトレイシスの姿を見て、凄い名前のローカストも居たものだとラックス・ノウン(マスクドニンジャ・e01361)は思う。
「……あかん。一瞬、意識が遠くに行きかけたわ」
茹だるような暑さのせいで、仮面の中が蒸れているからだろうか。しかし、素顔を仮面で隠すのが格好いいと言う信念は曲げられないので、仮面を外す選択肢はラックスに無い。
「まァでも、なあんかややこしい事になってンけど、機は活かさねえとなあ」
口元にへらりとした笑みを浮かべ、踊るように靴音を響かせるキソラ・ライゼ(空の破片・e02771)の瞳は、澄んだ青空を写し取ったかのように煌めいていて。その視線の先には、此方の姿を認めて身構えつつあるエクスガンナーらの姿があった。
(「生存を目的とした行動ならば、否定まではしないが――」)
無慈悲な光を宿した配下――実験機であるエクスガンナーゼータを牽制するように、日柳・蒼眞(蒼穹を翔る風・e00793)は一歩を踏み出して刀を抜く。
(「今回の相手は、違う」)
確りとした信念を持って戦う蒼眞だが、彼らダモクレスは紛れもない侵略者だ。ならば、番犬としての務めを果たすまで――深紅のバンダナを風に舞わせる彼の隣に立つ館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)も、誰かの助けになれればと願い砲身を構える。
(「……大丈夫、やれる」)
その凪いだ表情からは窺い知れないが、彼女は責任感と緊張から若干高揚していた。しかし、戦いに支障が出る程では無い。そうして行く手を阻むケルベロス達の姿に、ダモクレスのエクスガンナーであるジェイドは、微かに瞑目したようだった。
「……否、問題ない。立ち塞がるものは、速やかに排除する」
――やがて顔を上げた彼は、熟練した仕草で銃を構えて。戦闘開始と見て取った流星・清和(汎用箱型決戦兵器・e00984)は、片目を閉じてアイズフォンを用い、突入班へ連絡を行った。
「こんな場所にも、花は咲くのね」
ふわり、足元で懸命に咲く荒野の花――その姿を見た片白・芙蓉(兎頂天・e02798)は、儚げな相貌を和らげつつ懐から銃を取り出す。自分の名の由来もまた、白き花であったから。けれど次の瞬間には不敵に口角を上げて、彼女の照準はぴたりとジェイドに合わせられていた。
「さて、バキュンと行きましょうか」
――確か、ジェイドも花を巻き込まぬよう避けていたか。彼と同じように位置取りを行った恭志郎は、うたうようにそっと、囁く言の葉を風に乗せる。
「その、花に――人が託した花言葉は、」
果たしてその声は、ジェイドに届いただろうか。それを確かめる間もなく戦端は開かれて――鮮やかな陽光に照らされた白い花弁へ、荒々しい銃声が重なった。
●バレット・ダンス
花言葉、とジェイドは聞きなれない言葉を受けて、花に意味を託すひとの心に首を傾げているようだった。しかしそれも一瞬、彼は素早い動きで立て続けに弾丸をばら撒き、此方を威圧するように攻め立てる。
「これがエクスガンナーの銃撃、と言う訳ね」
盾となる仲間たちの足を縫い止める、大胆且つ精密な射撃に芙蓉が唸る中――一行は先ずジェイドの力を少しでも削ごうと、攻撃を集中するべく動き出した。
「……トレイシスさん」
破壊のルーンを描く恭志郎によって、トレイシスの身には魔術加護を打ち破る破剣の力が宿る。足止めに必要な時間――7分に設定されたタイマーが時を刻むのを確かめながら、滅びの閃爍たる杖を翳したトレイシスは、迸る雷を標的に放った。
「いくわ、梓紗……!」
愛銃を手に戦う芙蓉は、エクスガンナーの持つ射撃技術に触れるべく此処に立っている。幼い頃から学んできた巫術とは違い、拳銃の扱いは借り物のような感じが消えていなかったからだ。
(「心が無くとも、エクスガンナーの技術は本物でしょうから」)
だから彼らの戦う姿を、確りと目に焼きつけよう――劣るのならば越えて自信を得る為に。芙蓉は目にも止まらぬ速さで弾丸を放ち、ジェイドの銃を砕こうと一気に迫った。
「花を踏まない奴は嫌いじゃないンだケドね――譲る訳にもいかねぇんだよ」
雷を受けて黒煙を上げ、微かにひび割れた銃を握りしめるジェイドに向かい、更に一撃を加えようとしたのはキソラだ。極限まで集中させた精神力により、派手に爆破してやろうと力を込めたのだが――彼の攻撃は盾となり庇いに入った、配下のエクスガンナーゼータによって阻まれてしまう。
「……ちっ!」
すかさず反撃に転じた彼らは、ガトリングガンから嵐のような弾丸を吐き出し此方に重圧を与え――キソラの元へは爆炎の魔力を秘めた弾が襲い掛かり、彼の髪を僅かに焦がした。
「可変式機関装甲、展開! 全機、味方へ接続し援護に回れ!」
しかし直ぐに、後方で回復役を担う清和が補助ユニットドローンを射出し、回復支援と戦闘補助を同時に行っていく。敵の足止めが最優先であるが、そうだと悟られないよう戦闘する姿勢を見せつける――その為彼は、回復を行いつつも火力の底上げを行い、此方が倒すつもりで挑んでいるとアピールしようとしたのだ。
(「そう、時間稼ぎである事を悟られる訳にはいかない」)
露骨に進路を塞がないよう立ち位置に気を付けつつ、詩月は杖をファミリアへと戻し、魔力をこめて一気に解き放った。そして、前に出て攻撃を引き受けようと決意した蒼眞は、その身に御業を宿して苛烈な炎弾を浴びせていく。
(「さて、どう出る……?」)
初撃で集中攻撃を浴びたジェイドは、有利な地形へと移動し態勢を立て直そうと動いた。其処へすかさずラックスが迫り、苦無を投擲して我流忍術を発動しようとするものの――その一撃は回避されて不発に終わる。
「うああ、何でやねん!」
仮面の奥の表情は、如何ほどのものであったのか。ラックスが歯噛みする間にもトレイシスが動き、翳した茜色の刀身が鏡像を結ぶと同時――ジェイドの得た狙撃能力を奪い去った。
「あ、気をつけて! 来るよ!」
相手の動向に注意を払っていた清和が声を上げる中、再度配下のガトリングガンが猛威を振るう。咆哮の如き轟音を響かせて弾丸が襲い掛かるが、その銃弾の雨を前衛は果敢に迎え撃った。
「……っ、守ると決めたからには、簡単に倒される訳にはいきません……!」
苦痛の声を抑え込む恭志郎は、戦線維持に努めることを第一に考えながら、その身の裡で燃える地獄を強く意識する。陽炎の如く揺らめく炎は、治癒力が高まった証であり――その隣では、緋袴を思わせる装甲のアームドフォートを纏う詩月が、芯を外すようにしていなし直撃を避け、一定の距離を保ちながら交戦していた。
「もし僕が倒れる事があっても、僕に構わず目的を果たして」
確かな決意を胸に、彼女のまなざしは空の月の如き輝きを宿して。前線で攻撃を凌ぐ仲間たちを守ろうと、詩月の操る小型治療無人機の群れが飛び立っていく。
「いや、倒れさせるか。仲間は俺が守ってみせるわ」
共に盾となるラックスは、厄介な妨害を行う配下から倒していこうと蔓草を這わせ締め上げていき――後方からはキソラの翳した縛霊手から、敵群を殲滅せんと巨大な光弾が放たれ、辺りを眩いばかりに溶かしていった。
「纏めて……消えろ!」
その隙にトレイシスが、雷壁を構築して異常耐性を次々に付与していく。――刻々と変わる戦況へ、ジャマーとして動くキソラとトレイシスは見事に対応しており、その様子は正に臨機応変と言うに相応しかった。
相手の戦法を想定し、此方が陥るであろう危機への対処法を具体的に決めて。トレイシスは攻撃と回復を交互に行い、仲間に加護を与えつつジェイドの動きを封じるように動いており――一方のキソラは配下に攻撃を集中させ、状態異常の蓄積を積極的に行っていた。
(「ジェイドからの攻撃は、凌げそうだな」)
ジェイドによる被害が甚大な場合、彼の能力を削ぐことを優先しようとしていたのだが、厚い盾と確りした回復のお陰で安定して戦いを進められている。まるで狩りを行う獣めいた動きで、キソラが黒太陽を具現化していく中、絶望に呑まれゆくダモクレスへ銃口を向けたのは芙蓉だった。
連携は此方も慣れている、と告げるトレイシスの言葉に偽りは無く――身動きが取れなくなった標的目掛け、芙蓉は己の銃技を全力でぶつけるべく引き金を引く。
「此処が、アンタ達の眠る場所よ……!」
――そして乾いた銃声が響くと同時、エクスガンナーゼータの一体が粉々に砕けて機能を停止していった。
●心の在り処
「……!」
今まで表情を変えることの無かったジェイドの相貌に、微かな焦りのようなものが浮かぶ。淡々と目の前の障害を排除し、拠点の救援に向かう筈が――ケルベロス達は思いの外しぶとく、そればかりか此方を倒そうと牙を突き立ててくるのだ。
「動きがブレてるぞっ、焦ってるとしたらそれは感情の一端やでっ!」
――と、その動揺を察したかのように清和の威勢の良い声が響き、咄嗟にジェイドは彼に向けて銃弾を放った。地形を利用して跳弾を繰り返す弾丸は、死角から彼を貫こうと襲い掛かるが――其処で宙を蹴って跳躍した蒼眞が、清和を庇うべく強引に弾道へと割り込む。
「日柳君! ……今治療するから!」
不意に飛び込んで来たのは、蒼眞のジャケットに刻まれた風の団の紋章。その鮮やかな紋に目を奪われながらも、清和は溜めた気力を解き放って彼の傷を癒していった。
「命令に従順、只管実行するのみ……身に覚えのある話だ」
翡翠の瞳に刃の輝きを宿すトレイシスは、かつての自身の姿を照らし合わせているのだろうか。唯一の主と仰いだものの為に、血塗られた刃を振るって――しかし其処には、何の感情も存在しなかった。
「だが今は、知らぬ誰かの役に立っていると思うと嬉しいのだ」
――それが強さだと、トレイシスは考えている。皆を護る盾となるべく、日暈のような光輪が煌めきを放ち――頼もしい光に背を押されるようにして跳び上がったラックスは、戦斧を手に息も絶え絶えな配下の一体を、頭上から叩き割った。
「このままでは、押し切られるか……」
息も吐かせぬ連携でキソラが御霊殲滅砲を放つに至り、ジェイドは戦況を不利と見たようだ。ケルベロス達は長期戦を想定した戦法を取り回復が万全なのに加え、妨害者によって徹底的に相手の動きを封じていった。
――更に、序盤でジェイド本体に攻撃を集中し、彼の力を真っ先に削いだのも大きい。個々の力ならばダモクレスの方が勝っていただろう――しかし連携や作戦の差が、双方の明暗を分けたのだ。
「……止むを得まい」
そして、決断したジェイドの行動は素早かった。彼はグランネロスへの帰還を諦め、踵を返して撤退を開始する。
あ――と詩月が目を見張ったが、無理に追わないと決めていた為に敵を刺激することはせずにおいた。仲間の背面を撃たれることは無いと確信した恭志郎も、其処でようやく構えていた護り刀を下ろす。
「最低限……否、それ以上の役目を果たせたが、どうする?」
ジェイドの姿が荒野の彼方に消えていった所で、トレイシスはぽつりと仲間たちに問いかけた。それには勿論、と芙蓉が胸を張る。
「こっちには、まだまだ余力があるわ。直ぐに、グランネロス制圧に向かった人たちの救援に向かいましょう」
●グランネロスの最期
――そして、グランネロスの元へと向かった一行は、その途中でとんでもない光景を目の当たりにする。
移動要塞はまるで、寄木細工のように複雑に組み合わさり形を変えて――その外観はみるみる内に、巨大なロボットへと変貌を遂げたのだ。
「あんなでっかいロボ、よく今まで見つからんかったもんやな……」
呆然と頭上を見上げるラックスの呟きが空に吸い込まれる中で、既に脱出を終えていた制圧班は直ぐに迎撃を始めたようだ。此処からでもグランネロスの胸部が不吉な明滅を繰り返しているのが分かり、このままでは取り返しのつかない事態が起こると嫌でも想像がつく。
「……このまま、援護射撃を行うわよ!」
梓紗を構えた芙蓉の号令を合図に、一行は制圧班を支援するべく遠距離からの攻撃を行った。神速の銃弾がグランネロスを狙い撃ち、更にトレイシスの放つ雷が、御業を始めとする数々のグラビティが――次々に軌跡を描いて機神に吸い込まれていく。
「――潰せ」
砕雷ノ腕を振るうキソラからは、雷鳴と共に稲妻が迸って――絡み付くそれは、獲物の骨までも砕こうと荒れ狂った。少しでも助けになれたか、と皆が固唾を呑んで彼方を見守る中、先ずグランネロスの足が止まり――膝が地に着くと同時に轟音が響き渡る。
(「やったか――?」)
続いて、背に負った砲身を。そして更に明滅する胸部を、グランネロスと対峙する者たちは次々と破壊していった。大気を震わせる雄叫びが、離れた此処までも伝わってくる――それと時を置かずして、グランネロスの巨体は爆破と同時に吹き飛び、それが存在していた場所には巨大なクレーターが生み出されていたのだ。
「どうやら、任務は無事に成功したようだな」
爆心地に居た仲間たちも大丈夫そうだ、と確認した蒼眞はようやく深呼吸をしたが、清和の表情は複雑そうだった。足止めを行いグランネロスは破壊出来たが、撤退したダモクレスのエクスガンナー――ジェイドの行方が気にかかる。
(「貴様は何を切っ掛けに、心を手に入れられるのだろうな」)
荒野で芽吹いた、名も知らぬ花と彼とを重ねたトレイシスは、帰るべき場所を失ったものの選ぶ道に――只々想いを巡らせていた。
作者:柚烏 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年9月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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