強襲グランネロス~紅き武闘派射手

作者:陸野蛍

●襲撃されしグランネロス
「ドクターエータ! グランネロスが襲われているとは、どう言うことアルか? 阿修羅クワガタさんは陽動あるか? 他のエクスガンナーは、戻っているアルか? ドクターエータ!! くっ! 訳が分からないアルよ!」
 紅きチャイナドレスを纏ったダモクレスは、そこで通信が途切れた事に苛立ちを覚える。
「ワタシは、グランネロスに戻るアル。ガンドロイド601から608はワタシに着いて来るアル。残りのガンドロイドは、指示があるまで阿修羅クワガタさんの捜索を続行するアル。急ぐアルよ!」
 そう言うと、ダモクレス……エクスガンナー・カッパは、猫の様な俊敏さで大地を駆け、グランネロスを目指した。

●エクスガンナーを足止めせよ!
「みんな! 緊急のお仕事だ! すぐに説明を始めるぞ!」
 資料を持ってヘリポートに駆けて来ると、大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)は、口早に説明を始める。
「ローカスト・ウォーで生き延びたローカスト、阿修羅クワガタさんを覚えているか?」
『阿修羅クワガタさん』ただただ『強い』と言うだけでで原初のオウガメタル『烈火』や『太陽神アポロン』と肩を並べ、仲間達の信頼も厚いと言われるローカストだ。
「大胆な事に、奴が気のいい仲間達と共に、ダモクレスの移動拠点を襲撃したみたいなんだ。阿修羅クワガタさんが、ダモクレスの拠点を襲撃したのは、拠点に蓄えられていた、グラビティ・チェインが狙いだったって言うのが、俺達ヘリオライダーの見解だ」
 弱い人間を殺し、グラビティ・チェインを奪うのでは無く、強敵であるダモクレスを襲撃して、グラビティ・チェインを強奪しようとする辺りが、彼がナイスガイと呼ばれる所以かもしれない。
「阿修羅クワガタさんが襲撃した移動拠点は『グランネロス』という名の全長50mの巨大ダモクレスで、その内部を拠点としてエクスガンナーシリーズと呼ばれるダモクレスが活動していたみたいだ」
『エクスガンナーシリーズ』と言う聞き慣れない単語に、疑問を浮かべるケルベロスも少なくない。
「阿修羅クワガタさんは、グランネロスの中枢コアとグラビティタンクを奪うことに成功した模様だけど、当然主要機関を奪われたダモクレス側も黙っていない。最低限の護衛を残し、エクスガンナーシリーズの全戦力を阿修羅クワガタさんの追撃に当てた」
 雄大の話では、エクスガンナーシリーズの主力機体は9体。
 ダモクレス達はそれを全て、阿修羅クワガタさんの追っ手としたのだ。
「で、ここからが本題になる。この好機を生かす為に、『グランネロス』の攻略を行う!」
 ダモクレスの拠点攻略と言う言葉に、ケルベロス達からざわめきが起こる。
「現在、グランネロスに主力機体はいない。だけど、グランネロスが襲撃されたと言う連絡が入れば、当然追撃に出ていたエクスガンナー達が、グランネロスに帰還し、攻略は失敗してしまうだろう。そこでみんなには、それを阻止する為に、帰還しようとするエクスガンナーを迎撃、足止めする役割を担ってもらいたい。グランネロスの制圧までの時間を稼ぐ事が出来れば、作戦は成功となり、エクスガンナーも逃走するだろう」
 足止めと簡単に言っても、これが失敗してしまえば、グランネロス攻略部隊の成功率は格段に下がる事になる。
「足止め対象のエクスガンナーは、配下として量産型ダモクレスを連れている。量産型はともかく、エクスガンナーの撃破を含めた勝利は不可能ではないけど……正直厳しいと思う」
 資料に目を通しながら雄大が渋顔になる。
「無理に撃破を狙って敗北した場合、グランネロス攻略中のケルベロスの元に敵の増援として合流してしまう。今回の作戦を成功させる為にも。まずは、敵の足止めを確実に成功させて欲しい」
 あくまでグランネロスの制圧が今回の作戦の目的であり、エクスガンナーをしっかりと足止めする事が本作戦の肝だと雄大は念を押す。
「みんなに足止めをお願いしたいエクスガンナーは、『エクスガンナー・カッパ』だ。エクスガンナー・カッパは、ガンスリンガー×降魔拳士のケルベロスをモデルに作られたダモクレスで、エクスガンナー計画においては、カッパ単体での運用では無く、他のエクスガンナー計画機のサポート機として設計されているらしい」
 ケルベロスをモデルに作られていること、単体運用型ダモクレスで無いことなど、エクスガンナーシリーズの中でも特別な位置に居るであろうことが察せられる。
「サポート機と言っても他のエクスガンナーと比べて弱いと言うことでは無く、サポートに徹した時こそ本領を発揮すると言うだけだ。決して侮っていい相手じゃないからな。そして、カッパ自身もサポート機と言う自覚がある為、グランネロスに急行しようと言う意志も他の機体に比べて強い。邪魔する者は全力で排除しようとするから気を引き締めてかかって欲しい」
 真剣な瞳で雄大はケルベロス達に言う。
「カッパ及び配下の戦闘力の説明だ。カッパは、サポート機と言うだけあって、どんな状況にも対応できる様に、他の機体より多くのグラビティを扱うことが出来る。旋刃脚、降魔真拳、クイックドロウ、制圧射撃、ブレイジングバースト、バレットタイム、この数のグラビティを状況に応じて使い分ける、技巧派タイプだ」
 仲間ががどんな状況にあってもサポート出来る能力があると言うことは、グランネロスに増援として戻られれば、今回の計画そのものが揺らいでしまうだろう。
「カッパが連れている配下は、ガンドロイドと呼ばれる量産型ダモクレスが8体。カッパが連れているガンドロイドは、全員、武器がリボルバー銃でヘッドショットと跳弾射撃を使って来る。数が多いし、戦闘力も1体につきケルベロス1人分位の力がある。カッパの為に、壁や囮になる可能性も極めて高い。こっちの警戒も怠らない様にして欲しい」
 カッパの忠実な配下であれば、カッパの意志を優先して動く事になる。
 十分厄介な相手である。
「カッパとの戦闘は、グランネロスへの襲撃が始まってから、およそ10分後になる。攻略部隊の作戦が順調に進めば、7分以上の足止めが出来れば、役割を果たしたと思っていい。グランネロスが撃破されるまで足止めする事が出来るのが理想だけど、7分以上時間を稼いだ上でなら、撤退という選択をしても構わない。現場の状況判断に任せるよ」
 撤退を進言すると言うことから、雄大がカッパとその部隊を強敵と認識している事がケルベロス達にも感じ取れる。
「移動拠点グランネロスはダモクレス達にとって、重要拠点の一つだ。そこを守るエクスガンナーは、強力な敵だと思う。だけど、足止めが成功しなければグランネロス攻略部隊の成功率もぐっと下がる。仲間達の為に7分だ。7分、エクスガンナー・カッパをその場に足止めして欲しい」
 言って、雄大が資料にもう一度目を通すと言葉を付け加える。
「移動拠点グランネロスは、戦闘形態に変形する可能性がある。万が一、戦闘形態への変形が確認された場合は、グランネロス攻略部隊の支援に向かう必要性が出て来るかも知れない。……その事も頭に入れておいてくれ」
 グランネロスの戦闘形態への変形は攻略部隊の危機と直結していると考えていいだろう。
「急な作戦で、準備がバッチリって訳じゃないけど、今回の作戦が成功すればダモクレスに大打撃を与える事が出来る。頼んだぜ、みんな!」
 そう言うと、雄大は顔を引き締め、ヘリオンへと駆けて行った。


参加者
ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)
ジン・シュオ(暗箭小娘・e03287)
ソラネ・ハクアサウロ(暴竜突撃・e03737)
イリア・アプルプシオ(機械仕掛けの旋律・e11990)
アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)
参式・忍(謎武術開祖のニンジャ・e18102)
ジョー・ブラウン(ウェアライダーの降魔拳士・e20179)
山蘭・辛夷(裸に兵器を持つ女・e23513)

■リプレイ

●迎撃作戦
 紅き雌豹が走る様に、エクスガンナー・カッパは部下のガンドロイドと共に、大地を駆けていた。
「お前達、もっと急ぐアルよ! ……ドクターエータとの通信は途切れたまま……。嫌な予感しかしないアルヨ。ガンドロイド605、グランネロスの異変から何分経ったアルか?」
「12……いえ、13分を経過します、カッパ様」
「何にしても、許さないアル。阿修羅クワガタさんもグランネロスを襲った者も! スピードを上げるアルよ! ……!?」
 部下から時間経過を聞き、焦るカッパの進路上に人影が見える。
「エクスガンナー・カッパ! テメーをグランネロスには戻らせねぇ!」
 正面から聞こえる男の声……。
(「相手はワタシがカッパだと分かっている……と言うことは」)
 カッパのサポート機故の理解そして判断の早さ。
「ガンドロイド、このまま前進アル! アタックモードで障害を早期撃破。撃破次第、グランネロスへ帰還。始末した個体の調査は、グランネロスの異常を取り去った後、確認に戻るアル」
 カッパの指示を受け、ガンドロイド達はリボルバー銃を構えると、次々に弾丸を撃ち出して行く。
「マリア! 前だ!」
 最初に声を発した獣人、ジョー・ブラウン(ウェアライダーの降魔拳士・e20179)は、ビハインドのマリアに指示を出すと自身も、黒鎖を大地に展開し守りの障壁を作りだす。
「エクスガンナー・カッパ、あなたの相手は私達よ」
 ガンドロイドの銃弾を受けてもなお、そう言うと、イリア・アプルプシオ(機械仕掛けの旋律・e11990)は、絶望しない魂の歌を歌い、カッパの聴覚に旋律を届ける。
「ここから先は通行止めです。貴方達の相手は私達がします!」
 そう言うと、アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895) は、最前のガンドロイドにアームドフォートの主砲を放つ。
「グランネロスへは行かせない、ちょっと邪魔させてもらうよ」
 紙兵の守りを仲間達に与えながら、山蘭・辛夷(裸に兵器を持つ女・e23513)が宣言する。
「お前達! ケルベロスアルか! ローカストと手を組んだアルか!?」
「ちょっと違いますね。ですが、阿修羅クワガタさんのお陰で機会が掴めました。サポート機と言えど、油断はしません……貴女には、ここで暫く止まって頂きます!」
 前に突出しながらも仲間を癒し、ソラネ・ハクアサウロ(暴竜突撃・e03737)が己が信念を込めて言う。
「エクスガンナーシリーズ……拙者、元ダモクレスでござるが覚えは無いでござるな」
 ガンドロイドに刃の鋭さを持った蹴りを放ちながら、参式・忍(謎武術開祖のニンジャ・e18102)が呟く。
「エクスガンナー・カッパですわね……申し訳ございませんが、グランネロスへ行かせる訳には参りませんわ……!」
 縛霊手を構えると、巨大な光弾を放ち、一気に数体のガンドロイドを巻き込む、ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)。
「狩らせて貰うよ」
 ガンドロイドにその声が聞こえると、脇腹に雷の衝撃が走る。
 視線をやれば、マフラーで口元を隠した、ジン・シュオ(暗箭小娘・e03287)の刃が深く刺さっている。
(「ケルベロスが、これだけ待ち構えていたと言うことは、グランネロスを襲っているのはケルベロス……アル」)
 カッパは思考しながら、自らの感覚を増幅させる事に集中する。
(「こちらの手駒は8体アル。二度目の知覚強化をすれば、ワタシの力が劣ることはないアル。1体や2体、停止されても問題無いアルね……」)
「ガンドロイド、ポジションを優先し展開アル。殲滅目標ケルベロス! 早期決着アルよ!」
 カッパの指示が的確なものになれば、ガンドロイドも銃を構えながら隊列を整えていく。
 その動き、そしてカッパの淀みない指示を聞きながら、イリアは心の中で呟く。
(「私達と同格が8人、それにカッパ……。言われるまでもなく、厳しい戦いになるわね……欲をかいて足元を掬われないようにしなければ……」)
 星剣を握る両手に更に力がこもって行くのをイリアは感じた。

●譲らぬ激戦
「さて……一発、派手にぶちかましますわよ……!」
『ヘルヘイムの氷鎚』を砲撃形態に変え、竜砲弾を撃ち放つミルフィ。
 その砲撃はディフェンダーを飲み込み、多大なるダメージを与える。
(「ある意味、阿修羅クワガタさんのお陰で、ダモクレスと合間見える機会が出来ましたかしら……何にせよ、役目を全うしますわ!」)
 強い決意のもと、次の攻撃の為のグラビティを右手に蓄積させていくミルフィ。
「さぁ、ダモクレスの裏切り者は、ここでござるよ! 遠慮はいらないでござる! かかって来るでござる!」
 岩や、地面を跳ね自分を狙って来る銃弾をその身に受けながらも、動きを止めず、忍が地面を蹴る。
「神に逢うては神を斬る! デウスエクスよ……さらば!」
 触れた者を捩じ切る螺旋の力は、忍が鷲掴みにしたガンドロイドの首を引き千切り、グラビティの奔流に呑まれた首の無い身体は宙を舞う。
「黒き鎖よ、癒しと守りの力を引き出せー!」
 ジョーが叫ぶと、黒鎖は命を持った蛇の様に、新たな陣を敷いていく。
(「俺達と同等の部下が同じ数……カッパは間違いなく、それよりつえぇ筈だ。1体でも多く、迅速にガンドロイドを片付けねぇとな」)
 ジョーの心の声を察したかの様にマリアが1体となった、ディフェンダーに束縛のグラビティをぶつける。
「……準備は整ったアル」
「脇からすり抜けようなんて考えるなら、背中から蹴り飛ばす」
 静かに呟くカッパに、予防線を張る様にジョーが言う。
「ふん、その必要すらないアルよ!」
 カッパはそう言うと、ガントレットの様な紅い籠手から夥しい量の銃弾を撃ち放つ。
 その弾幕は、ソラネ、イリア、忍を纏めて撃ち続けると、彼等に張られた、グラビティの障壁すら打ち砕き、更に彼等の機動力をも確実に奪っていく。
「ガンドロイド! 畳みかけるアル!」
「そうは、いかないんだよねぇ」
 カッパの言葉に答える様にそう言うと、辛夷は、優美な動きで癒しの兵を仲間達に付与する。
「雑魚に用は無いね」
『闇妖』をディフェンダーの傷口を抉る様に差し込みながら、ジンが無表情で呟く。
「プログラム起動……識別コード、『トメルモノアラズ』……ええ、どこまでも、一緒に……行きましょう、ギルティラ!」
 武装AIギルティラを呼び起こし、捕食と搾取のプログラムを開放し、暴れ狂う恐竜の様に、ソラネの腕はディフェンダーを貪るように蹂躙する。
「次のターゲットに移ります。その力、削ぎ落させて貰います!」
 クラッシャーの力を奪い取らんと、アーニャのバスターライフルから眩い光弾が放たれる。
(「本隊や別のチーム、この作戦に参加した全員……。みんなで無事に帰還して見せます!」)
 アーニャの強い思いが彼女のグラビティ・チェインを活性化させていく。
「調子に乗るんじゃないアルよ! ……!?」
「カッパ、あなたの怒りは全て私に向けてもらうわ」
 構えた剣を囮に使い、イリアはカッパの思考回路に、怒りを植え付ける歌を音波として流し込む。
「そんなに、ワタシに相手をして欲しいのなら、相手をしてあげるアルよ」
 カッパの瞳には殺戮者の光が灯っていた。

●怒りの撤退
「イリアさん!」
 叫びと共に、辛夷は自らのグラビティ・チェインをオーラに変えてイリアを癒す。
「大口を叩いていた割にもう終わりアルか?」
 イリアを打ち飛ばした魔を降ろした拳を引くと、カッパがそう口にする。
 その時、ジョーの腕時計が激しい電子音を鳴らした。
「みんな、予定の時間は過ぎたぜ!」
 予定の時間……雄大に言われた、足止めの最低リミット。
 この時間を過ぎれば撤退をしても構わないと言われている。
 今の時点で、倒し切れたガンドロイドはクラッシャーとディフェンダーが2体ずつ、スナイパーが2体。残りの2体の内1体も瀕死だ。
 ガンドロイドだけなら、殲滅することは十分可能に思えた……ただ唯一の懸念は、カッパの回路に怒りを完全に植え付けた、イリアの負傷が酷いことだ。
 グランネロス攻略部隊の事を考えるなら、もう少し時間を稼いでおきたい…………だが。
 ケルベロス達の迷いを打ち払ったのは、イリア自身だった。
「ジョー! 回復をちょうだい! 私なら大丈夫よ……」
「……分かったあ! その言葉信じるぜ! みんなも腹くくれ! 気合を入れろ! お前ならできる!」
 ジョーは叫ぶ様に言うと、イリアの自己治癒能力を活性化させ、潜在能力を引き出すべく、最大限のグラビティを送り込む。
「それなら、ガンドロイドの始末をつけるね」
 ジンの侵食する弾丸は、瀕死のスナイパーの息の根を止め、ミルフィの縛霊手から放たれるエネルギーとアーニャの凍結光線、そしてソラネの胸部から発射された光線が、残るガンドロイドを一気に追い詰めていく。
「イヤーッ! さらば、元同胞よ! 御霊殲滅砲!」
 忍の叫びと共に、全てのガンドロイドが倒れた時、ケルベロス達の耳に福音書の一節が聞こえて来る。
「Agnus Dei, qui tollis peccata mundi, miserere nobis」
 弱々しくも力強いグラビティがこもったその歌は、イリアの最後の力。
 カッパの聴覚から、グラビティを取り去って行く力。
 そして、遂にイリアは地面に横たわる。
「マリア! イリアを回復する、運べえ!」
「そうは、いかないアルよ。ちゃんと止めは刺させてもらうアルよ」
 カッパの素早い蹴りがイリアを襲うかに見えたが、ほんの数瞬の差で忍がその蹴りを受ける。
「アナタ見てると……厭な事を思い出す」
 ジンがナイフを突き出しながら無表情で言う。
「こんなもの喰らわないアルよ」
「それ……囮ね。―――――――縛」
「!?」
 カッパが下がった先に張り巡らされていたのは視認困難な影の糸。
 触れれば触れただけ拘束力を上げていき、それは刺の様に食い込んで行く。
「さしずめ、支援合戦のようあるね」
「黙るアル!」
 怒りの形相のカッパから放たれた、爆炎の魔弾がジンの衣を焼いていくが、辛夷がすぐに癒しの陣を敷く。
「あまり無茶するんじゃないよ」
 辛夷の言葉に無表情で頷くと、ジンはバックステップの要領で下がる。
「誰も犠牲にしません! これが、私の力……! 時よ止まれ! テロス・クロノス……フルバーストっ!」
 アーニャから放出される大量のグラビティ・チェインは時に干渉する力。
 ほんの僅かな時間、アーニャにもたらされる時間。
 その一瞬でカッパとの距離を詰めると、アーニャは全武装火器を一斉にカッパに浴びせる。
 そして、動き出す時間……。
「グッ! もう許さないアル、ケルベロス。お遊びの時間は終わりアル!」
「許さないのは、こちらの方ですわ。【首狩り白兎】が、その素っ首――貰い受けますわ……!」
 首狩り兎の如く、カッパの懐に入るとミルフィは刃を振り下ろす。
「拙者、エクスガンナーシリーズとやらに思う所があるのでござるが、ご教授願えませぬか?」
 縛霊手を振り下ろしながら、忍がカッパに問うが、カッパはそれをかわすと、強い瞳で答える。
「エクスガンナー計画をお前たちが理解するのは不可能アル!」
「それでは、『黒白の双子のダモクレス』と聞いて、何か心当たりはありませんか?」
 雷を纏わせた槍で突きを放ちながらソラネが問えば。
「意味の無い質問アルね。ならば、お前は全ての地球人を答えられるアルか?」
 ソラネの突きもかわし、カッパが笑いながら言う。
 カッパは一度回転しながら距離を取ると、ヒールグラビティを高めていく。
「お前達、動きが鈍っているのに気づいていないアルか? いくらヒールしようと、ワタシは少しずつお前達の自由を奪っていく。勝ち目はないアル。その娘の様になるだけアル」
 そう言って、カッパはまだ意識の戻らないイリアを指差す。
(「確かにそうですわね……このまま攻めても撃破できる可能性は薄いですわ……撤退を……」)
 ミルフィがそう考えていた時だった。
 カッパが急に叫び出したのだ。
「どう言うことアルか!? ドクターエータ!!」
「何? 誰かと話をしているのかい?」
 辛夷が疑問に思うのも無理はない、それは、カッパのアイズフォンにだけ聞こえる撤退命令。
『グランネロスより最終通告。グランネロスの失陥は避けられない。各エクスガンナーは、即時撤退の上、エクスガンナー計画推進に必要と思われる行動をせよ』
「他のエクスガンナーは? ドクターエータ!! …………エクスガンナー・カッパ、了解アル」
 ケルベロスが撤退に転じるまでも無く、カッパは後方へと大きくジャンプする。
「今日の所は、命を預けておくアル、ケルベロス。けれど、ワタシはお前達を許さない。エクスガンナー計画を進めていく中で、必ず全員殺すアル。それまでの命を有意義に使うといいアル」
 そう言い残すと、カッパは俊敏な動きで姿を消した。
「……次は、アナタを狩る」
 ナイフの切っ先をカッパが消えた方へ向けると、ジンは静かに呟いた。

●勝利の先に
「エクスガンナー・カッパ迎撃班、参式・忍でござる。エクスガンナー・カッパは、撤退したでござる。その際、誰かに撤退を指示されたと思うでござ……え!? 拙者達もすぐに向かうでござる!」
 アイズフォンでグランネロス攻略部隊に連絡を入れていた、忍が叫ぶ様に言う。
「グランネロスが戦闘形態に変形したらしいでござる! グランネロスの意志で暴走しているとのことでござる!」
「行きましょう。何かの力に……いえ、力になれなかったとしても、攻略部隊のもとへ!」
 ソラネの言葉に、皆頷くと、グランネロスを目指し駆け出す。
 未だ意識の戻らない、イリアはジョーが背負って走る。
 巨大なグランネロスの暴走……。
 自分達が駆け付けたところで何も変わらないかもしれない。
 それでも、駆ける足を止める者はいなかった。
「もうすぐの筈です……!?」
 あと数百メートル行けば、グランネロスが見える、そう思っていたアーニャの声は、巨大な爆音に掻き消され、次に来た爆風でケルベロス達は吹き飛ばされる。
「なんだったんだい? …………これは!?」
 爆発の中心へと駆けた、辛夷は、言葉を失う。
「…………グランネロスの破壊に成功したんですわ」
 ミルフィがその事実を呟く。
 大きくクレーター状に凹んだ大地に転がるのは、グランネロスの頭部。
 ダモクレスの移動拠点『グランネロス』は、消え去ったのだ。
「ボーっとしてんじゃねえ。攻略班のヒールに行くぞ。俺達は、まだ余力があるんだ。少しでも助けにならねえと」
 ジョーの言葉に促される様に、カッパ迎撃班は、傷ついた仲間達のヒールを開始した。
「残された者は……どう動くあるかね……」
 ポツリと呟いたジンの言葉は誰の耳にも入らなかった。

作者:陸野蛍 重傷:イリア・アプルプシオ(機械仕掛けの旋律・e11990) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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