ドクターエータしかいないグランネロスの制御室。有力なエクスガンナーたちが出払っているために静かだが、低く唸るような独特の機械が動く音は聞こえる。
他の席より一段高くなった、後方の司令席らしい彼女の座る席。その前にある横に広いモニターには、グランネロスの内部がいくつか映し出されていた。
「グランネロスを襲撃し、中枢コアとグラビティタンクを奪った敵勢力は、ローカストである確率が97%。リーダーと思われる個体は、阿修羅クワガタさんと呼称されていました」
冷静な声はドクターエータがまだ落ち着いている証拠だ。可能性の計算もおそらくは正確。
話している声は、独り言ではない。エクスガンナーたちへの指示、指令だ。彼女はこのグランネロスの艦長のような立場である。
「割り出した予測敵逃走経路を送信しましたので、受信後に追跡を開始してください。そして一刻も早く中枢コアとグラビティタンクを取り戻してください」
指令は出撃していたエクスガンナーたちに届いた。彼らは了解、と短い答えを返す。ドクターエータは椅子にもたれると溜息を吐き、少しだけ目を閉じた。
「ローカスト・ウォーで生き延びたローカストである、阿修羅クワガタさんが、気のいい仲間達と共にダモクレスの移動拠点を襲撃したようだ」
ザイフリート王子が集まった多数のケルベロスたちを見回す。その口調は重々しい。
「阿修羅クワガタさんがダモクレスの移動拠点であるグランネロスを襲撃したのは、グランネロスに蓄えられていたグラビティ・チェインが狙いだったと想定される。……弱い人間を殺してグラビティ・チェインを奪うのでは無く、強敵であるダモクレスを襲撃してグラビティ・チェインを強奪してしまうところが、ナイスガイと呼ばれる所以かもしれぬな」
無論、襲撃を受けてグランネロスの中枢コアとグラビティタンクを奪われたダモクレスたちとて、黙ってはいない。
最低限の護衛を残し、エクスガンナーシリーズの全戦力を阿修羅クワガタさんの追撃に出したようだとザイフリート王子は言う。本気の追撃だ。
「つまり、ダモクレスの移動拠点『グランネロス』は、中枢コアとグラビティタンクを失った状態で無防備に廃墟となった町に停止している状況、ということになる」
――これはダモクレスの移動拠点を制圧する、千載一遇のチャンスとなる。ザイフリート王子に言われるまでもなく、ケルベロスたちもそれに気付いた。
「危険な任務となるが、皆の力でダモクレスの移動拠点の撃破をお願いしたい」
移動拠点グランネロスは全長50mという巨大なダモクレスで、4つのタイヤで自走する事ができるが、現在は廃墟となった町に停止した状態ですぐに動き出す事はできないらしい。
この隙にグランネロス内部に突入し、制御室を制圧して自爆させるのが作戦の目的となる。
「グランネロスを襲撃された敵は、阿修羅クワガタさん追撃に向かっている戦力を呼び戻そうとするが、そちらの戦力については足止めの為の防衛部隊を配置する。ゆえに皆は、グランネロス制圧に専念するようにして欲しい」
そして、と王子は続ける。
「グランネロスへの突入は後部ハッチから行う事ができるが、制御室を制圧する為には3つの防衛線を突破する必要がある」
1つ目は、後部ハッチから突入した直後。対するのは作業に従事していた『エクスガンナー・ゼータ』だ。
「『エクスガンナー・ゼータ』は6体いる。彼らは連携行動に優れている」
後部ハッチからの突入は1ターンに3名ずつしか突入できない為、最初に突入し、橋頭堡を確保するケルベロスは、非常に危険な役割となると言う。6体のエクスガンナー・ゼータを撃破すると、後部ハッチ周辺の征圧は完了だ。
2つ目は制御室に向かう通路の制圧。
「通路には、迎撃の為に多数の『ガンドロイド』が送り込まれている。通路での戦闘は、最大で8名しか戦闘に参加する事が出来ないようだ。30体以上の『ガンロイド』が攻撃してくるから、消耗したケルベロスは控えに下がって、戦闘していなかったケルベロスが戦闘に加わるなどして、総力戦で戦う必要がある」
これはガンロイド側も同じ条件で、最大で8名が戦闘に加わり、撃破されると控えのガンロイドが戦闘に加わるのだという。
3つ目は制御室への入り口の確保。
「だがここには、3体のガードロイド・アインが守備を固めているため、激戦が予測される」
ガードロイド・アインとの戦闘も戦場が狭いため、同時に戦えるのは8人までとなる。
ガードロイド・アインを撃破さえすれば、制御室にはグランネロスの指揮官であるドクターエータしか戦力がいないため、制圧は難しくない。
「制御室制圧後は、グランネロスを自爆させる事ができれば、ダモクレスの移動拠点の一つを撃破するという大殊勲をあげることができる」
ザイフリート王子は、最後に、と情報を与えてくれる。
「精鋭のエクスガンナーを迎撃するチームが敗北した場合、精鋭エクスガンナーが増援として現れる場合がある。また、移動拠点グランネロスは戦闘形態に変形する可能性がある。戦闘形態に変形時は拠点内の居住スペースや通路が閉鎖されてしまうため、急ぎ脱出する必要があることを忘れないで欲しい」
君たちが無事に帰還することを祈る、と王子は信頼の眼差しをケルベロスたちに向けた――。
参加者 | |
---|---|
アイリ・ラピスティア(宵桜の刀剣士・e00717) |
アイラノレ・ビスッチカ(飛行船乗りの蒸気医師・e00770) |
八剱・爽(ヱレクトロニカオルゴォル・e01165) |
浅川・恭介(ジザニオン・e01367) |
凪沢・悠李(想いと共に消えた泡沫の夢・e01425) |
天之空・ミーナ(紅風の暴君・e01529) |
ノル・キサラギ(銀架・e01639) |
大神・凛(剣客・e01645) |
星野・光(放浪のガンスリンガー・e01805) |
ベルノルト・アンカー(傾灰の器・e01944) |
伏見・万(万獣の檻・e02075) |
葛城・唯奈(銃弾と共に舞う・e02093) |
弘前・仁王(魂のざわめき・e02120) |
神崎・晟(竜頭竜尾・e02896) |
リヴィ・アスダロス(魔瘴の金髪巨乳な露出狂拳士・e03130) |
赤星・緋色(小学生ご当地ヒーロー・e03584) |
リィ・ディドルディドル(はらぺこディドル・e03674) |
ラプチャー・デナイザ(真実の愛を求道する者・e04713) |
ネル・エオーレ(霧・e05370) |
植原・八千代(淫魔拳士・e05846) |
空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709) |
クーゼ・ヴァリアス(竜狩り・e08881) |
玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497) |
ノア・ウォルシュ(ある光・e12067) |
クリスティーネ・コルネリウス(偉大な祖母の名を継ぐ者・e13416) |
ローレン・ローヴェンドランテ(灰夢・e14818) |
水無月・実里(彷徨犬・e16191) |
レオン・ヴァーミリオン(リッパーリーパー・e19411) |
椿木・旭矢(雷の手指・e22146) |
常磐・まどか(朝焼けの夜鷹・e24486) |
●侵入、そして戦い
巨大要塞・グランネロス。
ダモクレスたちの大型拠点であるそこへ密かに突入したのは総勢30名のケルベロス。要所とあり、多くのダモクレスたちがグラビティタンクを奪った阿修羅クワガタさんのせいで殺気立っていた。当然ケルベロスたちの目的とする中枢にたどり着くまでも激戦が予想されていた。
グランネロスはタイヤでの自走式で、大小のタイヤで地を這っていたようだ。
狭いハッチからまず侵入を果たしたのは玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497)、空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)、そして視界に入ったエクスガンナー・ゼータへ灼熱のドラゴンブレスを放ったのはリヴィ・アスダロス(魔瘴の金髪巨乳な露出狂拳士・e03130)。
「ガアアッ」
見事に敵の前衛へダメージを与えるが、ゼータがやられっぱなしでいるわけがなかった。
「侵入者ヲ、駆除スル」
無感情な声で告げるや、リボルバー銃を突き付けてきた!
「遅いですよ!」
(敵の拠点を落とす重要な作戦ですね……足止めしてくれている仲間のためにも、全力を尽くします!)
決意は剣に込められた。ユウマが巨大剣で敵前衛の4体を横薙ぎに払い、ダメージを与える。
ゼータの手足からミサイルポッドが生じ、敵前衛2体がマルチプルミサイルを、中衛2体がポジショニング、残り2体の前衛が跳弾射撃によるキツい一撃を与えてくる。
何しろ初手は3対6だ。数では敵わない。だからまずは仲間たちが揃うまでの時間は耐えねばならない。
「――果敢なる者に新緑の祝福を!」
大地の気脈を伝って仲間を癒す輝き。モカのその技を『新緑の祝福』と言う。
エクスガンナー・ゼータには余裕が見えた。彼らは単純に6対3の戦闘だと思っていたに違いない。だがそうではない。3人のケルベロスの背後からさらに3人の影が現れ、即座に制圧射撃を食らわせたのはそのうちのノル・キサラギ(銀架・e01639)だ。
「甘く見るなよ、ケルベロスを」
ちらりと約束の指輪を付けた左手、指へ視線を遣る。突入前にこれとロザリオに祈ったのだ、仲間たちの無事と任務の成功を。
祈りは現実にする。
固い誓いの隣、ベルノルト・アンカー(傾灰の器・e01944)が前衛にサークリットチェインを施し、アイラノレ・ビスッチカ(飛行船乗りの蒸気医師・e00770)も同様の効果がある『クロッククロス:オーアル』で巨大な時計を出現させ盾を付与した。
(全員、生きて帰します)
医療の場の末端に籍を置く者としての誓い。
各自、様々な誓いがある。想いがある。それを胸に秘めて戦うことが勇気と力になる!
次のターンまでは持久戦だ。そうすればケルベロスは9人になり、ひとりは交代が可能となる。
攻撃を受ける、庇う。消耗するのはディフェンダー。特にユウマが集中砲火を浴び、アイラノレによるウィッチオペレーションで癒されるも、なお追い付かない。
「く……ッ」
さらにリボルバー銃がユウマを狙う――。
「くらえーひっさーつ!」
どっかーん、と自らの口と大ジャンプからの武器の投擲、さらに大爆発、『PS-CC(パニッシングストライクコエドシティ)』をかましたのは赤星・緋色(小学生ご当地ヒーロー・e03584)。
「ユウマさん、交代するよ!」
「少しの間、頼むよ……!」
頷くユウマが後退しようとするのを目敏く見逃さなかったのはゼータの1体。
「サセヌ……!」
「させないのはこっちのほうだ!」
「そうとも!」
テンションを上げてきたレオン・ヴァーミリオン(リッパーリーパー・e19411)が放った鬼火のような氷が敵に付着していく『悪性因子・英雄葬送』を放ち、右手にした螺旋手裏剣で大量の手裏剣を雨のように敵頭上から降らせたのは天之空・ミーナ(紅風の暴君・e01529)だ。
「グアアアアアッ」
敵中衛ジャマーへの攻撃。相当なダメージを与えた手応え。
「左のジャマーがあと少しだ! モカに続いて!」
ノルの見立てに全員が頷き、狙いを定める。だが思うようにはさせないと、敵ディフェンダーが立ちはだかっていた。
「はっ!」
「どけッ! どかないなら、雷撃をその身に受けろ!」
「喰らえッ」
「避けられますか!?」
モカの降魔真拳に続いたのは怒りから生じたリヴィの雷撃『レイジング・ヴォルティックストーム』、ノルのスターゲイザー。
「グオアッ!!」
頭部を破壊されたゼータが塵と消える。ダモクレスにも仲間という意識があるのかはわからないが、それで残り5体のエクスガンナー・ゼータが発奮したのが見て取れた。
「ヨクモ!!」
跳弾射撃、リベリオンリボルバー、コアブラスター、幾多の種類でケルベロスたちへダメージを与える。
「皆さんは振り返らずに戦ってください!」
アイラノレによる激励に体だけではないところも回復させられた気にさせられる。
「頼もしいね」
ミーナが口許に笑みを浮かべ、左手の縛霊手から放ったのは御霊殲滅砲。ぐあ、と醜い声を上げてゼータが仰け反ったところをベルノルトが上手くサイコフォースを叩きつける。
攻防は一進一退に思われた。
それでもレオンをはじめとした足止め効果やその他バッドステータスのおかげか、ゼータたちの動きは鈍っている。
「とおっ!」
緋色が渾身の力で放った大器晩成撃がゼータの腹をぶち抜いた。がらがらと崩れ、灰になった個体には目もくれずに緋色へ攻撃を仕掛けようとするゼータ。だが銃弾が彼女に届くことはない。
「……大事な仲間に手は出させません」
緋色を素早く庇ったのはベルノルトだ。顔を苦痛に歪めた彼の隣から飛び出したのはノルの星のきらめき、スターゲイザー!
「グオオアアアアッ」
「……よし!」
ぐっと拳を握ったのはたしかな手応えがあったから。その通り、クリティカルヒットした一撃でゼータの1体がまた沈む。
半数になったゼータたちは満身創痍。それなのに臆することなく立ちはだかるのは命令を順守しているのか、それ以外の何かがあるのか。
だがケルベロスたちが今それを気にかけている暇はない。
マルチプルミサイルを後衛の者たちが食らい、前衛にヘッドショットが撃ちこまれ、コアブラスターで裂かれても、アイラノレのライトニングウォール、各自のシャウトや気力溜めで回復。
だがベルノルトがスパイラルアームの手痛い一撃を食らってしまった。
「代わります!」
「……お任せします!」
背後に控えていたユウマと交代。その隣でモカが繰り出したのは降魔真拳。
「いい加減倒れたらどうだ?」
冷徹な言葉を拳とともに叩き込み、横からミーナの、魔力を宿した手裏剣から撃ち放たれた紅の剣がいくつもゼータを襲う! 『舞風【紅剣】(マイカゼベニツルギ)』は確実に命中し、ボロボロになっていたゼータの1体を倒す。
残るは1体。
「さあ、最後に言い残すことはないか?」
リヴィが挑発的な言葉を選んで投げつけると同時、殲輝【憎魔】から敵に喰らいつくオーラの弾丸、気咬弾をジャストで叩き込んだ。
「先ほどは手痛い攻撃をありがとうございました」
ちらりと傍らへ目配せし、ユウマが駆け出す。
「お返しですよ!」
素早くゼータの懐に飛び込むと達人の一撃をアサルト!
「トドメ、いっきまーす! いちげきひっさーつ!」
ドゴォッ!
小さな体から放たれたえげつない一撃はクリティカルヒットでゼータの体を崩壊させた。
塵となって消える最後のエクスガンナー・ゼータに、全員がほっと息を漏らした。
「足止め部隊から連絡です」
ハッチから侵入したばかりの弘前・仁王(魂のざわめき・e02120)がその場にいた者たちに告げる。足止め部隊から通信があったのだという。
「ベータの足止めは成功、ガンドロイド4体以上撃破を目標に戦闘続行するとのことです」
すると、また通信機器に反応がある。仁王がすぐに応答すると再連絡だった。
「こちらグランネロス突入部隊。……、……了解」
通信は長くはなかった。リィ・ディドルディドル(はらぺこディドル・e03674)が身を乗り出してくる。
「通信は、なんて?」
「エクスガンナーは撤退、援護は間に合わないだろう、とのことです」
通信がない他の部隊についてはわからないが、どこの部隊も余裕で勝つということはないはずだ。
「ということは……」
常磐・まどか(朝焼けの夜鷹・e24486)が、ガンドロイド戦を担当する者たちをぐるりと見回す。
「ガンガン行くしかねぇ、ってな」
伏見・万(万獣の檻・e02075)がにやりと人を食った笑みを浮かべると、11人が頷いた。
クーゼ・ヴァリアス(竜狩り・e08881)がふぅと息を吐く。
「さぁて、気張っていこうか!」
「そうね……、きゃっ!?」
頷いたクリスティーネ・コルネリウス(偉大な祖母の名を継ぐ者・e13416)の足下で銃弾が撃ち込まれた。行く手を見れば、廊下の曲がり角からガンドロイドと思われる連中が次々と現れてくる。
「……来ましたね」
冷静な声で水無月・実里(彷徨犬・e16191)は呟くと静かに戦闘態勢を整えた。
その間にもガンドロイドは次々とミサイルやビームでケルベロスたちに攻撃を仕掛けてくる。だがまずは5体のサーヴァントたちが素早く、庇う動きを見せた。
――体勢を整えた影がひとつ、ガンドロイドに肉薄する。
「一番槍でござる!」
飛び出したのはラプチャー・デナイザ(真実の愛を求道する者・e04713)。やればできる心を魔法に変えた一撃を選んだのはダメージ量の多さを重んじてのこと。突入前に女性陣を口説いていたとは思えない落ち着きで叩き込む。
(やっぱり、こういう対複数戦は好きでござるな)
血が滾るというのはこういうことをいうのだろうか。頭は冷静でありつつ、体は興奮し、動きも軽い。コンディションは絶好調。戦うのには良き日だ。
「ゴアアッ」
まずは敵中衛、厄介なジャマーから潰すのが全戦通じての共通事項。当たった一撃はガンドロイド1体をふっ飛ばし大ダメージを与えたが、まだ動いている。
次に動いたのはメディックの浅川・恭介(ジザニオン・e01367)。まずはディフェンダーのリィへマインドシールド、盾を付与する。
そのリィは林檎型のエネルギー結晶体、『タナトスの林檎(フォビドゥン・アップル)』を実里へと与えた。
もちろん戦況が止まっているわけではない。ラプチャーの攻撃に続いたのはまどかだ。
「この一瞬たりとも無駄にはしません、放て極光!」
ぴりぴりとした緊張から一転、気を張った言葉とともにジャマーを狙ったライジングダークは敵ディフェンダーに阻まれたが、ダメージを与えることには成功。
「ギイイイッ」
敵の反撃はこちらの狙いと同様、ジャマーであるまどかをコアブラスターが立て続けに襲いかかる!
「……ッ!」
だがこれはクーゼのシュバルツ、ノア・ウォルシュ(ある光・e12067)のサーヴァントが庇ってノーダメージ。
「助かった!」
サーヴァントたちに礼を言うと、彼らはくるりと回って返事の代わりをする。
「30体いても、私たちには敵わないと教えてあげましょう。……行きますよ!」
仁王がメタリックバーストで仲間を補佐する傍ら、クーゼが先ほどラプチャーが大ダメージを与えてよろよろしていたガンドロイドの1体にクリティカルでとどめを刺す。
「よしっ!」
拳を握ったのも束の間、今度はまどかと実里を狙ったスパイラルアームにそれぞれが苦痛に顔を歪める。
「ッ、く……!」
「う……、」
「マドカ!」
「実里っ」
素早い回復はリィとノアだ。それぞれ気力溜めを使う。
「甘く見てはいませんが……」
先ほどのエクスガンナー・ゼータに比べれば、やはり1体1体の強さは劣る。集中攻撃をしていけばなんとかなると恭介は考えていた。
(というか阿修羅クワガタさん……敵は殲滅しとけよ……)
心の内で強敵に毒づくと、ラプチャーを狙った攻撃を相棒の安田さんが庇う。仲間を庇い、攻撃力を維持することが最優先だ。安田さんの背中はどこか誇らしげに見えた。
背後をちらりと振り返る。そこにはいつでも交代に入れるよう、植原・八千代(淫魔拳士・e05846)、大神・凛(剣客・e01645)、万、クリスティーネが控えている。頼もしい仲間たち、いつもの戦い以上に全力を尽くせる安心感。この場にいる30人全員が感じていることだろう。
そうして絶対に倒すという気迫。それがガンドロイドにも伝わったのか、連中は少しずつ押され始めていた。
最初の布陣は実里、ラプチャー、リィ、仁王、まどか、クーゼ、ノア、恭介。3分が経過した頃に恭介に代わりにクリスティーネ、クーゼの代わりに万、仁王の代わりに凛、ラプチャーの代わりに八千代が戦列に加わった。
この頃にはケルベロスの勢いは止まらない。
サーヴァントは沈められてしまったものの、敵のおよそ半数を灰へと帰した。
「皆さん、あと少しです!」
仲間たちを鼓舞するようにクリスティーネが言い、サークリットチェインをかける。相棒のオっさんの背中をちらりと見た。
(オっさん! 皆さんをどうか守ってください!)
祈りが届いたわけではないだろうが、オっさんと凛の相棒・ライトがそれぞれ八千代とノアを庇う。
「私もライトに負けていられないな……」
手にした二刀、白楼丸と黒楼丸を撫でると、息を深く吸い込む。睨み据えるはガンドロイドの中衛。
「動きを止めよ!」
竜の咆哮を思わせる一声は『神龍の咆哮(シンリュウノホウコウ)』だ。ダメージよりむしろバッドステータスを付けることを目的とした一撃。
「どうにもカタくてマズそうだが、喰ってやらァ! 来やがれ!」
全身の黒毛を威嚇するように逆立てた万のグラインドファイア。口は悪くとも、戦闘では頼りになるのは今の攻撃を見ても明らか。命中を与えると、にやりと口の端を吊り上げて笑う。
(巨大ロボの体の内部での戦闘……)
そんなところにも楽しさを見出しているのは八千代。
「これを受けても立っていられるかしら?!」
光り輝く左手で弱ったガンドロイドの1体を引き寄せると、闇を纏った右手でセイクリッドダークネスを叩き込む。
「ギアアアアアッ」
金属がこすれて軋むような耳障りな声を上げて、また1体が灰になる。
「畳みかけるなら今ね!」
ガンドロイドとの戦闘が始まって5分がたった頃、リィが残りわずかとなったガンドロイドをキッと睨む。仲間のキュアや庇うことに専念していたが、これなら殴りに行ったほうが早く戦闘が終わると判断する。
サーヴァントのイドはすでに倒れていたが、今は心配している場合ではない。構えたのは瞬きする間、高速の拳ハウリングフィストをガンドロイドへ叩き込んだ。
「籠手よ」
落ち着き払った声。手のひらに生じたのは巨大な光の弾。
「その力を示せ」
「グオアアアアッ」
撃ち込んだ御霊殲滅砲が残りの敵を焼き、残っているのは1体となった。
「――切り刻む!」
しなやかな肢体、長く伸びたように見える爪がガンドロイドを襲う!
「ガア、アアア……」
体の至るところを切り刻まれたガンドロイドが、がくりと膝を着く。がしゃん、とその体を床に倒すとすぐに灰になった。
これで中枢までの道程の難関3つのうち、2つを制したことになる。
「また通信がありました」
仁王が皆へと伝える。連絡の主はテレサ・コール(ジャイロフラフーパー・e04242)からだという。
「テレサさんの班は足止めに成功したそうです!」
「よし!」
何人かがガッツポーズを取る。戦況の風向きはケルベロスに有利だと誰もが思った。
●強敵と宿敵と
中枢の制御室まであとわずか。
だがすんなりと行けるはずがなく、伝えられていた予知通りに現れたのはガードロイド・アインだった。そして動いたのはアインのほうが早かった。
気付いた時にはアインのガトリングガンが火を噴いている。
「ッ、く……!」
「この……っ」
「……やってくれるじゃん……!」
「そんなトロい攻撃じゃ当たらねぇぜ!」
八剱・爽(ヱレクトロニカオルゴォル・e01165)とネル・エオーレ(霧・e05370)が雨のような弾丸たちを受け、あるいは身軽に避けつつ呟く。
後衛を狙うとは、なかなか面倒なやつらだ。おまけに一撃が重い。さすが中枢への道の最後の守護者たちといったところか。
すぐに体勢を立て直したのは、初めからアインたちと戦うために戦力を温存していた爽とネルの他7人。アイリ・ラピスティア(宵桜の刀剣士・e00717)、凪沢・悠李(想いと共に消えた泡沫の夢・e01425)、葛城・唯奈(銃弾と共に舞う・e02093)、神崎・晟(竜頭竜尾・e02896)、ローレン・ローヴェンドランテ(灰夢・e14818)、椿木・旭矢(雷の手指・e22146)、そして星野・光(放浪のガンスリンガー・e01805)。
「悪いが急いでいるのでな。そこを退いてもらおうか」
晟が前に立つ。もちろんケルベロス側に退くつもりはない。
ガトリングガンを構える姿を見れば、アインの返答は自ずと知れた。わかっていて訊いたのだ。小さな笑みが浮かぶ。
「まずは……!」
その隙に今のダメージを回復しようと、爽がスターサンクチュアリで後列を癒す。
前後して悠李が自身に分身の術を、旭矢は魔人降臨を、ネルの相棒・アトがボクスタックルを、ネル自身は前衛へメタリックバーストをかけた。それぞれエンチャントを自身へ施したことになる。
腰に下げたリボルバー銃を目に見えぬほど瞬時に抜き、構えたのは唯奈。
「喰らえ!」
狙いはアインから逸れているように見えた。だがそれは計算のうち。銃口から上る煙へ視線を遣るのは確信があってのこと。
そうして機内の壁、床、天井を跳ねた弾丸はアインを撃つ。
「グッ……」
「……?」
確実にダメージを与えたはずなのに、アインのほうは小さく呻いたような声を上げた後、まるでダメージを気にした様子がない。どころか、構えたガトリングガンから放たれたのは大量の炎。
「ッ、あ……!」
「アイリ!」
すぐさま光が気力溜めでいくらか回復する。だが大部分が回復したわけではない。
「この……!」
斬霊刀の宵桜をわずかの間で構え、凍てつく切っ先で月の弧を描くように斬りつける。『宵桜・凍月(ヨイザクラ・ヒョウゲツ)』、仕返しだとばかり、凍てつく冷気を纏った一撃はアインの右腕を傷付けた。
(ちょっと見ない間にずいぶん増えてるとは思ったけれど……)
光は宿敵たちを睥睨する。3体しかいないアインは、図体もさることながら本当の壁のように思えた。
だが、これを打ち崩さなくては中枢に、ひいてはそこにいるはずのドクターエータを打倒することは叶わない。
ガコン、と音がしたかと思うとアインの胸部が開く。反応したのはネルの相棒。
「……!」
放たれたコアブラスターの一撃で沈んでしまった彼に続き、もう1体のアインが放った破壊的な威力のガトリングデストラクションから光を庇ったのは晟。
「ぐ、う……」
低く呻いて片膝を床に着く。
「晟!」
爽がすぐさまネットに接続、優しい世界で晟の体を包み込む。
(これは……余裕ではいられんな)
もともとそのつもりでいたはずだが、今喰らったダメージは3分の1くらいは持っていかれたはず。これがジャストやクリティカルで喰らっていたらどうなっていたのかと考えるとぞっとしない。
光たちの回復グラビティのおかげもありなんとか晟は持ち直したが、さらなるアインの攻撃に、今度はネルが一撃を弾ききれずに深いダメージを受ける。
「やるな……!」
「アハッ、楽しませてくれるよね! でも……彼岸に没せよ――」
神気狼、魔天狼と名付けた斬霊刀、日本刀を手に悠李が同じアインを狙う。『彼岸之太刀(ヒガンノタチ)』。脇に当たった攻撃に、アインの体がぐらりと揺れ――踏みとどまった。
だが唯奈が見逃さなかった。
「好き勝手してくれるじゃないか! けど、コレを避けるのはちーっと骨だぜ?」
戦闘状態で普段と口調が変わっている唯奈がリボルバー銃から早撃ちしたのは『魔法の弾丸(マジックバレット)』!
2体のアインを避け、狙ったアインの左胸を撃ち抜く。
さしものアインも体をぐらりと揺らし――重い音を立てて床に転がった。
敵の装甲は硬く、攻撃によるダメージは重い。それでも倒せない敵ではない。何しろアインは回復の手立てがないのだから。
とはいえケルベロス側も回復の手が完全に回っているとは言いがたい。アインの1体は前衛を、もう1体はどうやら後衛に狙いを定めているらしい。
とにかく唯奈と悠李に攻撃を、と他全員でバックアップの体勢をとっている。その甲斐あり、なんとかもう1体のアインを倒すことができた。
途中、アイリの代わりにローレンが戦列に加わる。笑みを浮かべた彼女が投げたバールは見事にアインの右肘に命中した。
そろそろか、と頃合いを見計らっていたのはネルだ。
(いや、まだ……もう少し……)
だがそれより先に、唯奈の跳弾射撃に続いた悠李の絶空斬をジャストで受けたアインの体が傾ぎ――がくりと両膝と両手を床に着き、ついでゆっくりとその体が床に倒れていく。
「やった!?」
これで中枢への道が拓けた――!
と、誰もが思った。
一瞬の隙。
「グウウオオオアアアアアアアッ!!!!」
「なっ!?」
何が起こったのかと考える余裕はなかった。気付いた時には魔力を秘めた爆炎の弾丸がすさまじい量で軌道にいた者を襲う!
「うあああああああッ!!!」
咄嗟に庇うこともできなかったその攻撃は、不運にもクリティカルヒットし――炎が消えて旭矢が気付いた時には倒れているのはネルで、立ち上がっていたのはアインだった。
(これは……まさか)
凌駕したのか。
「まさかこんなところで……」
晟が低く唸る。ここまでしてもまだ倒せないとは!
下がっていたアイリがネルと代わる。それを横目に歯噛みする気持ちだったのはローレンだ。
(……誰かがいなくなるのは嫌なのに!)
ぐ、と噛んだくちびるを開いた時、零れたのは詠唱。
「……、……絢爛せよ」
俯いた足下にあるのは自分の影。初めは靄ついていた影がすぐに禍々しい大鎌の形状を取ったかと思うと、アインに襲いかかった! 『黒闇の白影(ビエールイチェーニ)』。
「グオオオッ!」
「よくも……、さぁ、一気に畳みかけるぞ!」
晟が前衛に付与したのは龍の力。それを受けると悠李の口ににんまりとした笑みを浮かぶ。
「アハハッ、復活したって関係ないよ! ボクたちが何度でも沈めるからね……♪」
このダモクレスには安らぎや安寧が訪れるのだろうか。かすかな疑問が頭をよぎるが、それを振り払うように二刀を振り下ろす。
続いてアイリが絶空斬を叩き込み、爽すらドラゴニックミラージュを放ち、総員攻撃態勢でアインに立ち向かう。反撃の暇すら与えない猛攻だ。
そして――。
「……こいつは効くよ!」
光が撃ち込んだ『ブラストショット』でアインが火に包まれたように見える。もうあと一息。
おそらくアインが最期に見たのは唯奈と彼女が撃った銃弾だ。魔法の弾丸が頑丈な装甲を撃ち抜き――今度こそ最後のアインが灰になる。
ほっとしている場合ではない。重体となったネルを担いだのは晟。
全員が顔を見合わせてひとつ頷く。光を先頭に、ようやくと中枢へ辿り着いた。
「……グランネロスより最終通告。グランネロスの失陥は避けられない。各エクスガンナーは、即時撤退の上、エクスガンナー計画に必要と思われる行動をせよ」
侵入と同時にその言葉を聞いたケルベロスの何人かが素早くドクターエータの許へ走る。次に何をするか察したからだ。
「させないわ!」
光を始め、リィ、唯奈、アイリ、クリスティーネ、万、クーゼが各々の武器をドクターエータに突きつける。
「……これはずいぶん物々しいですね」
クーゼがコンソールとドクターエータとの間に割り込み、唯奈がリボルバー銃を突きつけた。周りを囲む形だ。
「あなたがドクターエータか。大人しく投降する気はないかい?」
「ない」
クーゼの問いに対するきっぱりとした返答はいっそ潔い。
「自爆スイッチとかある?」
大雑把なリィの問いに、ドクターエータは口の端をつりあげた。
「さあ、どうでしょう」
「おかしな真似をしたら撃ちます」
唯奈の鋭い声に、心底おかしそうに笑う。気でも違ったかと全員が注視する中で、エータはぐるりとケルベロスを見回す。
「話し合いでどうにかなると思っていないのはお互い様でしょう?」
「! いけない!」
ドクターエータがいつの間にか取り出したのはバスターライフル。自分の周囲を薙ぎ払うようにダブルバスタービームを放った。
「チッ……やっぱ一筋縄じゃァいかねぇな!」
万が吐き捨てるように言うと、7人は戦闘態勢に入った。
一対多数だ。だがまずはとクリスティーネが先の戦いで残った傷を癒すべく、アイリを気力溜めで回復。光が気咬弾を撃ち、リィがハウリングフィストを、アイリが絶空斬を、クーゼが二刀残霊波を、唯奈がグラビティブレイクを腹にぶち込むと、万が仕上げとばかりにグラインドファイアで焼く。
「く……ッ」
苦しそうに顔を歪めたドクターエータがエネルギーの弾・ゼログラビトンがクリスティーネを狙ったが、リィが阻んだ。
「……このくらいなら、痛くないわ」
ぐい、と口許を拭ってドクターエータを睨む。お返しに、と間合いを詰めて蹴りの一撃をくれると、続いてアイリとクーゼが攻撃を仕掛ける。
攻防は、長くはなかった。
最後に唯奈と光がそれぞれのリボルバー銃の銃口をドクターエータへと向ける。
そして、引き金は引かれた。
――パァン!!
ほぼ同時の二発の銃声。そして、どさりと倒れる音。
「…………」
光がなんとも言えない表情をする。誰かが彼女に声をかけようとした、その時。
『戦闘形態変形開始、内部の要員は脱出せよ。戦闘形態変形開始、内部の要員は脱出せよ』
聞く者を不安にさせるような警告音とともに、コンソールの至るところに設置されていたモニタが『戦闘形態変形開始』とアラートを表示する。
コンソールを操作するつもりだった者もいたが、全員が一斉にドアの外へ飛び出した。当然、部屋の外にも警告は鳴っている。
「脱出だ!!」
グランネロスが戦闘形態へ変形すると、残された時間は短い。どうにか操作すれば自爆を誘発できたかもしれないが、事前の打ち合わせ通りに全員が退避することとなった。
重傷になったネルはもちろん、各自のサーヴァントも抱えて脇目も振らずアリアドネの糸を辿り、警報に追い立てられるようにして外へと飛び出した。
●驚愕と怖れと闘志と
「ああ……?!」
誰ともなく驚きの声が漏れる。それはひとりだけではない。
グランネロスはタイヤでの自走式、それでいて外見上はあたかも巨大ロボアニメにおける空母要塞のようだった。それが今、あらゆるところが収納、格納、あるいは突出し、開き、また何かがスライドして出て――
まるで立体式パズルを組み替えているかのように、ガコンガコンと音が鳴り、そのたびにグランネロスの形が変わっていく。
そうしてケルベロスたちの前に立ちはだかったのは、巨大なロボット。
グランネロスがダモクレスであることを忘れていたわけではない。だがそれを目の前の光景で思い出させられた。
巨大ロボ型ダモクレスが各地で展開していたが、それらよりも一回り以上巨大で、内包している力もそれだけ大きいと思われる。何しろこれは、高さ50メートルほどもある。
立ち向かえるのか。
呆然と見上げる中。
「けれど……」
誰かが呟いた。
グランネロスの主動力、中枢コアとグラビティタンクは奪われている。だからグランネロスが動けるのはおそらく長い時間ではない。そのことを思い出したのだ。
顔を見合わせたケルベロスたちが大きく頷く。
果たすべきことは、ひとつ。
――グランネロスの破壊あるのみ。
自爆スイッチを押せなかったのなら、物理で破壊するしかない。相手が超大型だろうと小型だろうと、ケルベロスの為すべきことに変わりはなかった。
幸い第一戦、エクスガンナー・ゼータとの戦闘が終わった者たちは回復している。彼らを中心にダメージの少ない者が全員で当たると決めた。
ここに至るまでに足止め班からはエクスガンナー・カッパが撤退したという連絡やこちらに援護へ向かうという連絡も受けている。すぐに援軍も駆けつけるはず、ということも彼らを勇気づけた。
「ゴオオオオオオオオオオオオッ」
巨大なバスターライフルがケルベロスたちに突きつけられる。銃口も大きすぎていっそどこを狙っているのかわからなかったが、正確に判断して動いたのがベルノルトとユウマだった。
「ッあああああ!」
「く、う……ッ」
ジャスト、アサルト。
クリティカルを喰らっていたら、ディフェンダーといえども危うかった。
「ベルノルト、しっかり……!」
旅団の仲間であるリィが戦列に加わり、彼への回復を試みる。他、回復のグラビティを持っている者たちはまず彼らの回復を優先したが、グランネロスは待ってくれなかった。
攻撃を仕掛けてグランネロスの気を引き、ふたりを下がらせようとしていた矢先、グランネロスのバスターライフルから発射されたのはフロストレーザー。狙いは――弱っていたベルノルト。咄嗟に誰も動けなかった。
「…………ッ!!!!!」
内臓まで凍ってしまいそうな一撃が、今度こそクリティカルヒットしてしまった。リィ、万がすぐさま彼をその場から離して安全な場所へと避難させる。
「……バケモノか、ありゃァ」
一瞬だけ振り返ってグランネロスを見上げる。
刹那、暴走を考える者が数名いた。
今がその時か。
いや、まだ早い。
グランネロスに一番近いところにいたリヴィが仕掛けた。
「……、その身で受けろ!」
拳に集めた雷撃を魔方陣に溜め込ませて放つ一撃。
雷撃に続くように、雷の銃弾と変えた魔力を撃ち込んだのはノル。
ここぞと旋刃脚を決めたのは旭矢。
全力でバールを投擲したのはローレン。
螺旋を描く氷を撃ったのはモカ。
レオンが轟竜砲をとどろかせ、緋色がスターゲイザーでの蹴りを見舞い、ミーナが手裏剣の雨を降らせる。
そして、思いもよらない角度から分厚い辞典で攻撃したのが平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)、続くようにレベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)のブレイジングバースト、ニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)のフロストレーザー、片白・芙蓉(兎頂天・e02798)がクイックドロウで強烈な弾丸を、キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)が迸る稲妻を操った一撃を、トレイシス・トレイズ(未明の徒・e00027)がライトニングボルトを、不破野・翼(眼鏡をかけた地球人・e04393)が猟犬縛鎖、上野・零(シルクハットをかぶった地球人・e05125)がフレイムグリード、コンスタンツァ・キルシェ(カウガールスタイルの地球人・e07326)がクイックドロウ、楠森・芳尾(狐の獣人型ウェアライダー・e11157)が氷の一撃フロストレーザーで支援が入る。
これだけの連撃を喰らって、さしものグランネロスも余裕ではいられないはず。
そうして、アスファルト、大地が地震でも起きたかのように揺れた。同時に耳をつんざくような咆哮。――グランネロスの怒りの声。
地が揺れ、視界がぶれる中、ケルベロスたちは見た。グランネロスの背に負った高エネルギー長射程用ビーム砲の砲口があたかも燃えて熱を帯びているかのように赤くなっており、胸部の赤が何かを知らせるように明滅を繰り返すのを。
何人かのケルベロスがハッとした顔をし、次いで背後を振り返り、大声を上げる。
「フルパワー攻撃だ!」
大型ダモクレスたちが戦闘中に一度だけ使えるというフルパワー攻撃。それをグランネロスも使えるというのか。
「でも、今から逃げたんじゃ――」
何しろ50mもあるグランネロスだ。そのフルパワーなど想像を絶する。おまけにあの巨大ビーム砲。どれほどの距離まで被害が及ぶのか、まったく想像ができなかった。
「……なら、今ここで叩くしかない」
「総攻撃だ!」
誰かの声を合図に、体力が残っている者の全員が応と頷き、拳を、武器を、脚を、渾身の力をもって繰り出す!
「おおおおおおッ!!!」
「喰らええええええ!!!」
近距離、あるいは遠距離からの一撃、連打。
「グオオオオオオアアアアアアアア!!」
叫び声を上げたグランネロスの足が止まった。かと思うと、膝を地に着ける。重々しい轟音、土埃。
膝関節へのクリティカル連打はグランネロスの足を止めるのに成功した。だがケルベロスたちがそれで止まるわけがない。
今度はビームを撃たせまいと、背に負った高エネルギー長射程用ビーム砲を狙った連撃。すべてがクリティカルでもなければジャストでもない。だが数撃てば当たるとの言葉通り、反撃の間を与えないほど一撃を加えることが重要だ。
最後に残ったのはグランネロスの動力源と思われる、胸部。
胴の中心、赤く光るソコを目掛け、最後の猛攻が始まった。
「沈めぇっ!!」
「喰らいなさい!!」
渾身の一撃が繰り出されていく。
グランネロスもやられるまいとしてか、まだ生きた腕を振るおうとして――できなかった。八千代が放ったセイクリッドダークネスが、胸部を撃ち抜いたのだ。
「グガアアアアアアアアアアッ!!!!!!」
雄叫び。もしや反撃が、と身構えたケルベロスに、光が異変に気付く。
「いけない、皆離れて!!!」
光が叫ぶと同時、皆反射的にグランネロスから距離を取った。見ようによっては一目散に逃げ出したとも言える。だがそれで正解だ。
次には耳を押さえてもなお鼓膜に響く爆音、身を縮めても吹き付けてくる暴力的な爆風。ガラスが割れる音、ビルが倒壊する音、木々が吹っ飛ぶ音――。
きっと、長い時間ではなかった。
波が引くようにあたりに静けさが戻った時、誰ともなくあたりを見回し、背後を見て愕然とする。
そう、それはたとえるなら巨大なクレーターだ。グランネロスがいた場所を中心にして、深く抉られている。あの巨体は吹っ飛んだのか存在せず、ただ頭部が転がっていた。フルパワー攻撃のために集めたエネルギーがグランネロスを破壊したことで、まるで風船に針を刺したかのように噴き出してしまったのだろう。
「あ……」
はかない光を明滅させていた頭部だったが、その光が消えると同時、輪郭から灰になっていく。さらさらと積もった灰は、一陣の風に乗って宙へ溶けた。
レオンが目を細めてその光景を見つめる。
「……さようなら、グランネロス。地獄で会おう」
こうして巨大移動要塞グランネロスはドクターエータと命運をともにし、地上から消え去ったのだった。
作者:緒方蛍 |
重傷:ベルノルト・アンカー(傾灰の器・e01944) ネル・エオーレ(泥水・e05370) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年9月1日
難度:やや難
参加:30人
結果:成功!
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得票:格好よかった 31/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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