カエルに対する『嫌悪』

作者:なちゅい

●そのグロテスクな見た目が……
 バタン!
 叩きつけるように自宅のドアを閉め、鞄などを全て放り投げて家の中に駆け込む少女。学校指定のジャージを着ていることから、どうやら高校生なのだろう。
「…………!」
 彼女はものすごい形相で、そして、荒々しい息遣いで洗面台へと駆け込む。
 まず、胸の中にこみ上げるものを吐き出し、蛇口をひねって勢いよく水を出す。
 それで手を洗い、うがいをし、しまいには蛇口の真下に自らの頭を突っ込み、先ほど見たモノを忘れるべく、全てを洗い流そうとする。
 しかし、一度視界に入れたそれを払拭するのはなかなか難しい。その少女、松谷・美里はそうしてでも、まだ寒気を覚えて身を震わせている。
「無理無理無理無理無理無理無理無理……」
 そんな彼女の後ろから、ゆらりと忍び寄る影。そいつは手にした鍵で美里の心臓を一突きした。
 美里は瞳孔を見開いたまま、その場へと崩れ落ちてしまう。だが、その突いた跡からは血が流れ出るどころか、傷痕すらついていない。
 鍵を突き出したのは、両手が翼のようになった魔女。その翼もモザイクが掛かってしまっている。
 第六の魔女・ステュムパロス。それが彼女の名だ。
「あはは、私のモザイクは晴れないけど、あなたの『嫌悪』する気持ちもわからなくはないな」
 そう魔女が声をかけると、そばに新たなドリームイーターが現れる。
 そいつは、奇妙な姿のイボガエルだ。通常のイボガエルよりも濃い緑色をしており、毒々しさを感じさせる。さらに、寒気立つようなイボを背中に纏い、それらにはモザイクがかかっていた。
「ゲェ、ゲェコォォ……」
 奇怪な声で一鳴きしたそいつは、何かを求めてその家から飛び出していくのだった。
 
 ヘリポートに集まるケルベロス達。
 これから現れるドリームイーターが『嫌悪』に関連しているということで、集まったメンバーは自身が嫌いなモノを語り合う。
 歴戦のケルベロスとて嫌なものは嫌だし、嫌いなものは嫌いなのだ。
「そうだね、ボクも……」
 リーゼリット・クローナ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0039)は毛虫が苦手だと語る。食べようとしたりんごから毛虫が顔を出したときに、嫌悪感を抱いてしまったのだとか。
 そんな思い出を語り合ううちに、ケルベロスが集まってきたのを確認し、リーゼリットは本題に入る。
「苦手なものに対する『嫌悪』を奪って、事件を起こすドリームイーターがいるみたいだよ」
 『嫌悪』を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているようだが、奪われた『嫌悪』を元にして現実化した怪物型のドリームイーターにより、事件を起こそうとしているようだ。
「怪物型のドリームイーターによる被害が出る前に、このドリームイーターを撃破してほしいんだ」
 また、『嫌悪』を奪われた女子高生、松谷・美里は自宅の洗面台で襲われ、倒れてしまっている。両親によって自室へと運ばれ、昏睡状態が続いているようだ。
 このドリームイーターを倒す事ができれば、『嫌悪』を奪われてしまった少女も、目を覚ましてくれるはずだ。うまく事件が解決できたなら、介抱の上でフォローなどあるとよいだろう。
 現場となるのは、徳島県のとある住宅地だ。事件が起こったのは、松谷・美里の自宅となる一軒家だが、ドリームイーターは少女の自宅周囲を徘徊しているようだ。
 「その周辺には、普通に住人が行き来することがあるよ」
 どうやら、そいつは人を求めて住宅地をさまようようだ。一般人が先にドリームイーターと出くわしてしまう前に人払いなど対処を行い、速やかに討伐へと当たりたい。
 現れる怪物型ドリームイーターは1体のみ。大きなイボガエルの形をとっている。
「全長は2メートルを超えるくらいかな。……人間大のカエルはかなり不気味だと思う」
 奇妙な声で鳴くドリームイーターは、背中のイボイボ辺りがモザイクに包まれているようだ。
 また、獲物を見定めた夢喰いは、舌を伸ばして相手を絡めとって嫌悪感を与え、毒を含んだ粘液を飛ばしてくる。高く飛び上がって相手を潰そうとすることもあるようだ。
「そのカエルは被害者の少女にとって、よほど嫌悪感を抱かせる見た目だったようだね……」
 予知でそれを見ていたリーゼリットにとっても、醜悪な見た目と映っていたようだ。比較的カエルが大丈夫な者でも、嫌悪感を持たせる相手なのは間違いないだろう。
 説明を終えたリーゼリットは首を大きく振る。できるだけ、その気持ち悪い予知の映像を頭から振り払いたいと考えたのだろう。
「これ以上、被害者を増やしてはならないよ」
 どうか、この夢悔いの撃破を。リーゼリットは改めてケルベロス達へと願ったのだった。


参加者
ルーカス・リーバー(道化・e00384)
レクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)
ジゼル・クラウン(ルチルクォーツ・e01651)
雪村・達也(漆黒纏う緋色の炎剣・e15316)
メリッサ・ルゥ(メルティウィッチ・e16691)
弓曳・天鵞絨(イミテイションオートマタ・e20370)
バジル・サラザール(猛毒系女士・e24095)
旭那・覇漠(引きこもり系レプリカント・e26922)

■リプレイ

●『嫌悪』とカエル
 現場へと向かうヘリオン内。
 メンバー達の話題は、今回現れるドリームイーターにちなむ話題が多い。
「今回の魔女は『嫌悪』ですか。次々に人を襲うなんて、同じ魔女として許せませんの」
 森で暮らしていたメリッサ・ルゥ(メルティウィッチ・e16691)は、まだまだ見聞を広げている最中だが、人を襲う夢悔いが現れると聞いて憤っているようだ。
「己が嫌悪する対象を知る事は、愛好を知る事と同じく重要だ。自らで学び、対処しようとする意思の表れにも繋がるからね」
 紳士口調で探偵を彷彿とさせる見た目のジゼル・クラウン(ルチルクォーツ・e01651)は、そんな主観を語った。それは、自身を知り、高めることにも繋がる。
「それにしても、蛙かぁ……」
 メリッサは魔法でよくカエルを使うので慣れているというが。確かに苦手な人は多い。
「梅雨の時期でなくて良かったでございますね。あの時期は、道路でよくぺしゃんこになってございますので……」
 ポーカーフェイスな弓曳・天鵞絨(イミテイションオートマタ・e20370)の言葉に、メンバー達はややげんなりとした表情をしてしまう。脳内で思い浮かべてしまったのだろう。
 そんな中、バジル・サラザール(猛毒系女士・e24095)、旭那・覇漠(引きこもり系レプリカント・e26922)はカエルが好きだと語る。
「ナメクジ食べてくれるってのは、いいわよね」
 バジルは、毒々しいカエルも可愛いと語る。それはそれで、良さがあるのだとか。
「可愛いじゃないか……カエル……。そんなに嫌うことないのになぁ……」
 覇漠などは実際に、アマガエルのひろ子さんと暮らしているほど可愛がっている。そんな彼は、見た目がカエルのドリームイーターが相手ということで、ややしょんぼりしていたようだ。
「確かに、アマガエルなどは愛らしいように思いますがね」
 さすがにその2人ほどではないが、としながらも、仮面を被ったルーカス・リーバー(道化・e00384)がやや大仰な仕草をしながら続ける。
「私も大きなイボガエルは、できるだけ遠慮したいところですが」
「カエルは不得手ではないとはいえ、人間大というのは相対したことはありませんから……」
 レクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)も事も無げに語る。天鵞絨だけは苦手気味なようだが、今回参加のケルベロスでカエルが苦手というメンバーは少ないようだ。
「気を引き締めて戦いにあたらないと、ですね」
 それでも、規格外のカエルが相手。メンバーはレクシアの言葉で、気合を入れ直すのである。

●現れた巨大ガエル
 程なく、徳島県の住宅街へと降り立つケルベロス達。
 この近辺を徘徊するドリームイーターの対処の前に、ルーカスが殺界を作り出し、強制的に周囲の人払いを行う。
 さらに、レクシア、ジゼルは近辺に一般人が紛れ込んでいないかと確認する。天鵞絨も見つけ次第、声をかけようと考えていたが、殺界の効果もあって、付近から人はほとんどいなくなっていた。
 その上で、全身黒ずくめの雪村・達也(漆黒纏う緋色の炎剣・e15316)も合わせ、メンバーはドリームイーターの出現に対しても警戒を行う。
 敵はすぐに姿を現した。バジルがダメ押しに殺界を作りだし、メンバー達は現れた敵を見据える。メリッサなどはすかさず前に出て、シャーマンズカードを取り出す。
「おお、立派な体躯だなぁ……!」
 さすがカエル好きの覇漠。その姿を微笑ましく見つめる。それは、2メートルほどもある巨大イボガエル。
「ゲゴゲゴォォォ」
 奇怪な声で鳴くのは、おそらく『嫌悪』を奪われた少女の考えを反映しているのだろう。そして、背中のイボイボにはモザイクが掛かっており、これがドリームイーターであることを再確認させた。
 その間も、覇漠は語る。イボガエル……正式名称ツチガエルは本来大きくて5、6センチの小さなカエルである。
「ちまっとした姿も愛らしいが、大きいというのは、これはこれで圧巻だな……!」
 本当に両生類が好きなのだろう。覇漠は年甲斐もなく目を輝かせている。
 だが、やはり、ほとんどのメンバーは若干引いた反応をしている。ルーカスもその1人だ。
「うーむ、大きくなって、モザイクがかかって、より一層グロテスクなことに……」
「巨大化すると益々不気味でございますね……。さっさと倒して帰りたいでございます」
 これを一般人が見たならば、新たなトラウマを生みかねないとルーカスが語る後で、天鵞絨は表情こそ変えないものの、可能な限り後退していたようである。
 メンバー達が攻撃準備を整える中、カエルがケルベロスを睨んで飛び掛ってくる。前に立つ覇漠も、それで腹をくくったようだ。
「……だが、人に害をなす以上、自由にさせておくわけにはいかない」
 後ろ髪を引かれる思いがありながらも、彼は溜息を1つついて割り切り、構えを取ったのだった。

●新たな『嫌悪』を生まぬ為
 襲ってくるカエル型のドリームイーターに対し、先んじて仕掛けたのはメリッサだ。
「わぁ、おっかない蛙さん!」
 はしゃぐ彼女は舞うようにしてカードにグラビティを込めると、そこから氷の騎士が姿を現す。騎士は目の前のカエル目掛けて剣を一線させ、斬撃痕を凍らせてしまう。
 続けてレクシアは地獄の翼を噴き上げて推力とし、一気に敵との距離を詰めてから日本刀で緩やかに弧を描いて斬撃を浴びせかける。比較的柔らかそうな腹を狙うが、相手は夢喰い。傷こそ負うものの、致命傷は避けて見せた。
 飛び掛ろうとしてくるカエル。ジゼルは敵の醜悪な姿を見ても嫌悪感を抱くこともなく、冷静な態度で戦いに臨んでいた。
「……させないよ」
 ジゼルはライトニングロッドを振りかざし、その先端から迸る雷を放ち、敵の体を痺れさせた。
 それにより、地面へと落下したカエルへ、後方に陣取る天鵞絨も竜の幻影を飛ばし、カエルの体を焼き払おうとする。
 天鵞絨の目論見通りにカエルの背中に火の手を上げることはできたが、それが高く跳躍して飛び上がってきたのを見て、彼女は回避しようと身を仰け反らせる。
 その前に、覇漠が立ち塞がる。人を護ると決めた彼は戦いにおいて迷いは禁物と考え、しっかりとカエルの飛び掛りを受け止め、自らを真に自由なる者のオーラで包み込んでいく。
「やはり、かなりの跳躍力を持ってますね……」
 同じく、前衛にいたルーカスも飛び掛りを受けて傷を負っていた。地面に叩きつけられて縛り付けられる感覚を覚えたが、夢喰いを野放しにするわけにもいかない。ここは住宅街。逃してしまえば、一般人に被害が出るのは必至だ。
 だからこそ、ルーカスは正確に攻撃を当てられるようにと、カエルの周りをアクロバティックに舞い始める。
「さあ、楽しいショーの始まりですよ」
 彼は敵に向けて不敵な笑いを浮かべながらも鎌を振るい、その体へと傷を増やしていく。傷からはドロリとモザイクがこぼれ出ていた。
 仲間の盾となるべく身構える達也も一直線に敵へと飛び掛り、雷の霊力を纏わせた鉄塊剣の刀身をカエルの腹に突き入れる。
 そんな前線で戦う仲間の為に、バジルはライトニングロッドを振るって、雷の壁を構築させていく。
「あまり無理はしないでね」
 マッドサイエンティストといった印象も抱かせるバジルだが、戦いにおいては仲間を気遣い、回復へと徹してくれていたようだ。
「ゲゴゲゴォォォ」
 奇妙な声を上げるカエル。グロテスクにも思える見た目のドリームイーターはさらに、汚らしい舌を伸ばしてくる。
 それを、覇漠がまたも受け止め、舌で絡めとられてしまう。カエルが好きな彼だが、そこは夢喰いのグラビティの力も働き、トラウマを呼び起こしてしまう。
(「盾としての役割を果たす為にも、倒れるわけにはな」)
 これくらいならば問題ないと判断した彼は、ドラゴンの幻影に炎を吐き出させ、敵の背に燃える炎をより大きくしていた。
 敵が仲間へと気を取られている隙に。メリッサはステップを踏みつつ加速し、音速を超える拳で敵の頬を殴りつける。その衝撃で後方に飛んだ彼女は、軽やかに宙返りして着地していた。
 天鵞絨は変わらず、後方から攻撃を続ける。自身のグラビティの命中率は十分。それならと彼女は手のひらを伸ばす。
「――Code:AuroraBeam、起動」
 それは、とあるヴァルキュリアから鹵獲した魔法。伸ばした手のひらを中心に、オーロラのように輝く魔方陣を描いていく。
「……灼き穿け」
 その完成と同時に、天鵞絨が合図を発すれば、陣から極太の光線が放たれ、超高熱で敵を焼き払わんとする。
 さらに、敵の正面に進み出るジゼルが、惨殺ナイフの刃を煌かせる。
「君はどんなトラウマを持っているのかな」
 映し出されたものを確認することはできなかったが、ジゼルが見せつけた何かが夢喰いの視界へと入る。それにより、カエルは奇妙な声をあげ、苦しみ始めた。
 しかしながら、夢喰いはそれに耐え切り、背中からモザイクと共に粘液を飛ばしてくる。ディフェンダー陣のカバーが間に合わず、ルーカスがそれを浴びてしまう。
「鬼さんこちら、ですよ。そんな攻撃が効くとでもお思いですか」
 毒に犯される彼だが、慇懃無礼な態度を崩すことなく夢喰いへと再び大鎌を振り下ろす。虚の力を纏った刃は、夢喰いの傷口から生命力を奪い、ルーカスへと転化してゆく。
「大丈夫!?」
 バジルは仲間へと電気ショックを飛ばし、仲間の体力を回復させ、さらに力を与えていく。回復役として立ち回る彼女は敵の毒、絡めとる舌によるトラウマ、そして飛び掛りによって生じた縛り付けを、グラビティの力で振り払う。
 だが、夢喰いはしつこくぬめぬめとした体液を浴びせかけてくる。
 今度は前に出る達也が身を張って受け止めていた。その際、彼は右腕の地獄を見せつけ夢喰いの反応を窺っていたのだが……。
(「やはり、反応はないか……」)
 駄目元であったのだが、反応があれば、パッチワークの魔女達の手がかりになるかもと彼は考えていたのだ。
「――天命を受けし戦士の身に宿り、その者の礎となれ」
 仕方ないと考え達也は、燃え上がる地獄の炎で仲間の体を覆い、グラビティによる癒し、そして、敵を砕く力を与えていく。
「これ以上、人に嫌悪感を与えられるように進化されては困りますからね……!」
 敵は仲間達の攻撃によってかなり弱ってきている。
 それを確認し、エアシューズで滑走してきたレクシアは高く跳躍し、手に入れたばかりのドラゴニックハンマーを大上段に振りかぶり、超重の一打を叩きつける。
「ゲ、ゲゴォォォォォッ…………」
 カエルの体は弾け、モザイクとなって飛び散る。それもすぐに空中へと消えていく。
 その消滅を見て、レクシアは心底安堵の息を漏らす。
「子どもの頃に出会わなくてよかったです……」
 相手が相手だったこともあり、ようやく気を緩めた彼女はその場に座り込んでしまう。
 ドリームイーターが消えたその跡に覇漠が駆け寄り、手を合わせる。ドリームイーターによって生み出された存在であったとしても、彼はカエルの姿をした相手を倒してしまったことに心を痛めていた。
「うう……、お前が暴れる事で、他のカエル達までが恐怖の対象として嫌われるのを、黙ってみてはいられなかったんだ……。すまない」
 その思いは本物なのだと実感するケルベロス達は、嘆く覇漠の姿にしんみりとしてしまうのだった。

●苦手なモノに対して……
 戦いも終わり、バジルは戦いとなった現場に、電気ショックを飛ばして修復を行い、また、彼女は手術を施すことで仲間の傷を癒していく。
 事後処理を終えたメンバー達は次に、松谷家を訪れる。ドリームイーターを倒したことで、女子高生の美里も目覚めていたようだ。
「運悪く、君の近くに悪趣味な魔女がいただけだ。彼女の行為への対処もしたから、もう何も心配はいらない」
 ジゼルは淡々と、事実とその解決について報告する。
「万一再度現れたとしても……私達が必ずまた、君を眠りから覚ましてみせよう」
 ジゼルは、彼女にそう誓いを立てる。
 ドリームイーターの手から救ってくれた事に関しては、美里は感謝の意を表す。
 ただ、陸上部ということで鍛えている美里だが、それでもトラウマとなるモノを思い出し、身を震わせていた。
「何でカエルが苦手になったのかしら? あ、思い出したくないなら無理しないでね」
 バジルはその解消の為、敢えて口にさせることで吐き出させようとする。
 すると、美里は子供の頃にカエルに触ったことがきっかけで、嫌悪感を抱くことになった思い出を語る。
「美里ちゃんは蛙のどんなところが苦手なんでしょう」
 メリッサが尋ねると、その感触は気持ち悪さしか感じないとのこと。ただ、見ただけでそれを思い出してしまい、その全てを毛嫌いしてしまうのだそうだ。
 ルーカスはそれを肯定しながら受け止める。嫌なものを見ると後を引く。彼もまた、溜め込まずに吐き出させるべきと考えていたのだ。
「確かに、ちょっと気持ち悪いかもですねぇ」
 メリッサは共感しながらも、自身が毛虫や椎茸などが苦手だと話す。誰でも苦手なモノはあるものだと。
「気の利いたことは言えないが」
 達也がそこで、美里にフォローの言葉を口にする。
「対処方としちゃ、『傷口抉って無理やり膿を掻き出す』だな」
 口下手な達也は精一杯自分の言いたいことを伝えようとしたが、上手く言葉にすることができず、苦笑していた。
「カエルは無害なのが多いし、毒があるのも触らなければ大丈夫よ」
 バジルが達也の言葉に付け足すように、彼の言う荒療治の一例を示す。
 例えば、敢えてカエルを知ることで、避け方などが分かるかもと促す。あと、逆に蛇を飼ってみるなんて提案もしてみせた。
「蛇はいいわよ。あのフォルム、可愛い目……」
 彼女は彼女で、爬虫類が大好きだったりする。美里はそれに嫌悪こそ抱かなかったが、ちょっとだけ乾いた笑いをしていたようだ。
「餌である虫がいる所に来るでございますから、虫避け対策をすれば見る機会は減らせると思うでございますよ」
 比較的ソフトな対策として、同じくカエルにやや苦手意識を持つ天鵞絨が語る。これくらいならすぐにでもと、美里は頷いていた。
「苦手なものと折り合いをつけて、苦手のある自分を受け入れることも一つの強さだと私は思います」
 レクシアは仲間とは逆に、苦手なものを無理に克服しないでもいいと話す。そんなレクシアの言葉に、美里は得心していたようだ。
「ありがとう。できるだけ前向きになってみようと思うよ」
 すぐに苦手意識が払拭できるわけでもないだろうが、震えを止めてそう語った彼女を見て、もう大丈夫とケルベロス達は感じたのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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