強襲グランネロス~迎撃、魔弾の狙撃手

作者:伊吹武流

●エクスガンナー・シータ
 薄暗き森の中に、ダモクレス達の足音が響き渡っていた。
 その一団を率いていたのは、まるで人形の様に可愛げな少女……だが、軍服に身を包み、その小柄な身に似合わぬ程の大きな狙撃銃を背負った姿には、微かながらも圧倒的な威圧感が漂ってもいる。
「報告します。斥候からの通信ですが……残念ながら、この森には痕跡が無いとの事です」
 全身を黒き鋼で包んだダモクレスが、少女へと近付き、斥候から得られた報告を彼女へと伝える。
「此処もハズレ……阿修羅クワガタさんの、逃げ足の速さ……ムカつく」
 その報告を受け取った少女、エクスガンナー・シータは表情を変える事無く、そう呟くと、配下のダモクレス達へと新た命令を下す。
「全員、直ちに北西の森へ移動して……次はそこで捜索を続行するから」
 その命令に従い、ダモクレス達が揃って移動し始めた中、彼女のアイズフォンに突如として通信が届いた。
「どうした、ドクター・エータ……何があった?」
 シータは配下の者達と共に歩みを止める事無く、自らのアイズフォンに入った通信に意識を集中する。
「……グランネロスに襲撃者? ドクターエータ、もっと詳しい情報が欲しい、急いで送って……」
 シータの発した言葉に続き、すぐさま新たな情報が送られてくる。その情報を素早く確認した彼女は……次の瞬間、表情ひとつ変える事無く、ぴたりと足を止めると、最後尾を進んでいた黒服を着込んだ数体のダモクレスを立ち止まらせた。
「状況把握。これよりシータはグランネロスに戻らないといけなくなった。だけど、捜索の続行も必要……だから、あなた達だけ付いて来て」
 そう言い終えたシータは森の出口……グランネロスが停車している廃墟の方角へと振り返ると、8体のガンドロイド達もまるで同調したかの様な動きで、彼女と同じ方向へと向き直り、元来た道を駆け戻り始めた。
 そんな中、シータの口から小さな決意の言葉が零れ落ち始める。  
「グランネロスを攻撃した奴も、阿修羅クワガタさんも、おんなじ馬鹿。そんな馬鹿は、どっちも見つけ出して……」
 そして、彼女はほんの微かに口元を歪めてから、その決意の言葉を締め括った。
「……完全に、排除する」

●グランドネロス攻略を支援せよ
「ケルベロスの皆さん! 実は今回、すっげー情報が手に入ったっす!」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は、目の前に集まったケルベロス達にやや興奮した口調で話し始めた。
「実は、先日のローカスト・ウォーで生き延びたローカストの、阿修羅クワガタさんがっすね、気のいい仲間達と共に、ダモクレスの移動拠点を襲撃したみたいっす」
 その言葉は、あまりにも突拍子もないものだ……が、彼の表情を見れば、それが真実である事は間違いない。
「で、そのダモクレスの移動拠点なんすっけど……グランネロス、って名前の、全長が50mもある巨大なダモクレスで、そこではエクスガンナーシリーズと呼ばれるダモクレスが。その内部を拠点として活動してるっす」
 いきなりの情報に思わず言葉を失い掛けたケルべロス達。だが、ダンテの話はそこで終わる訳もない。
「阿修羅クワガタさんがグランネロスを襲撃したのは、グランネロスに蓄えられていたグラビティ・チェインが狙いだったみたいっす……弱い人間を殺してグラビティ・チェインを奪うのよりも、強敵であるダモクレスを襲撃してグラビティ・チェインを強奪するなんて、流石ナイスガイっと呼ばれるだけあるっすね」
 そう言って事の経緯を語るダンテの言葉には、何処となく阿修羅クワガタさんの男気への称賛が見え隠れしているのは……きっと、気のせいだろう。
 ……そんな事はさておき。
「とはいえ、勿論っすけど、襲撃を受け、グランネロスの中枢コアとグラビティタンクを奪われたダモクレス側も黙っている訳もなくって、どうやら拠点に最低限の護衛を残した状態で、エクスガンナーシリーズの全戦力を阿修羅クワガタさんの追撃に向かわせたみたいなんっすよ」
 そこで、とダンテは一旦言葉を切ってから、実はこの好機を生かすべく、グランネロスの攻略を行う事になったのだ、と改めて話を切り出した。
 しかし、グランネロスが襲撃されたという連絡が入れば、追撃に出ていたエクスガンナー達がグランネロスに戻ってくる筈だ。
 そんな事になれば、グランネロスの攻略も失敗してし兼ねない、というケルベロス達の指摘に、ダンテはその通りっす、と答えると。
「だから、皆さんには、それを阻止する為、帰還しようとするエクスガンナーを迎撃して足止めする役割を果たしてもらいたいっす」
 グランネロス制圧まで時間を稼ぐ事が出来れば、攻略作戦は成功し、そ敵は逃走していく事だろう。
 だが、その足止め自体も容易ではないのだ、とダンテは話を続ける。
「ぶっちゃけ、敵は精鋭のエクスガンナーだけじゃなく、配下の量産型ダモクレスを従えているっすから、戦力的に勝利するのは難しいと思うっす……けど、撃破は不可能ではないと思うっす」
 とはいえ、無理に撃破を狙って敗北した場合、グランネロスを攻略している仲間の元へ敵が増援として合流してしまう恐れもある。
 だからこそ、まずは敵の足止めをしっかり行なって欲しいのだ、とダンテは集まった者達に念を押してから、今回の作戦についての説明を始めた。
「皆さんが敵と戦うのは、グランネロスの攻略が始まってから、10分程度経ってからになるっす。その時、もしもグランネロスの攻略が順調に進んでいた場合、7分以上、敵を足止め出来れば、足止め自体は成功する事になるっす……まあ、ぶっちゃけ、グランネロスが撃破されるまで足止め出来るのがすっげー理想っすけど、7分以上時間を稼いだ上だったら、撤退するって選択肢もアリっちゃアリっすから、そのあたりは、状況に応じて皆さんで判断して欲しいっす」
 つまり、7分間は敵の攻撃に耐え続ける必要がある、と言う事だ。
「で、敵の情報っすけど……皆さんが戦うのは、『エクスガンナー・シータ』と、その配下の8体の『ガンドロイド』っす」
 次いで、ダンテはケルベロス達の戦うべき相手についての情報を伝え始める。
「えっと、っすね。『エクスガンナー・シータ』はパッと見た感じは、狙撃銃を持った金髪の少女の姿をしてるっすけど、かなり強い奴みたいっす。情報によれば、対ドラゴン、という明確な目的を付与された、エクスガンナーでも、かなり異端な機体っぽいっすね。彼女が装備している対竜スナイパーライフル「バルムンク」から放たれる「ドラゴンバスター」って攻撃は、一撃必殺の威力を秘めているみたいっすから、すっげー注意して欲しいっす」。
 伊達に「対ドラゴン」と銘打っているだけあって、その攻撃力はかなりのものであるらしい。
「加えて『ガンドロイド』の方っすけど、こっちは黒服姿の、銃器の取り扱いに長けた量産型ダモクレスみたいっす。ただ、量産型とは言っても、ケルベロスの皆さん1人1人に匹敵、もしくはそれ以上の戦闘力を持っているっすから、油断は禁物っすよ」
 そこまで話し終えると、ダンテは改めてケルベロス達を見渡してから、
「移動拠点グランネロスの破壊に成功すれば、地球で活動するダモクレスに大きな打撃を与える事になると思うっす。でも、精鋭のエクスガンナーの足止めに失敗すれば、逆にグランネロスを攻略している部隊が危機に陥る可能性もあるっすから……皆さん、どうぞ、よろしくお願いするっす」
 と、言って深々と頭を下げる……が、次の瞬間、彼は何かを思いだしたかの様に顔を上げるとと。
「そう言えば……移動拠点グランネロスは、戦闘形態に変形する可能性があるっす。万が一、戦闘形態への変形が確認された場合は、グランネロスを攻略しているチームの支援に向かう必要があるかも知れないっすけど……まずは、足止めを頑張ってくださいっすね!」
 と、とんでもない情報を、しれっと付け加えたのだった。


参加者
ベルフェゴール・ヴァーミリオン(未来への種・e00211)
東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)
逢魔・琢磨(魔弾の射手・e03944)
シータ・サファイアル(パンツァーイェーガー・e06405)
ジャック・スプモーニ(死に損ないのジャック・e13073)
ヒューリー・トリッパー(胡散臭いのはわざとです・e17972)
ジェニファー・キッド(銃撃の聖乙女・e24304)
キーア・フラム(黒炎竜・e27514)

■リプレイ


 緑深き森の中から現れた幾つかの人影が、廃墟へと踏み込んでくる。
「グランネロスはこの先……急いで」
 先頭を進むやや小柄な金髪の少女……エクスガンナー・シータの声に、後に続く8体のガンドロイドは無言で足を速めようとする。
 が、その行軍は、不意に現れた幾人かの人影と、そこから上がった制止の声によって留められた。
「ここから先は通さない!」
 その声の主は……無論、ケルベロス達に他ならない。
 その姿を見たエクスガンナー・シータは、おもむろに武器を構える……と同時にガンドロイド達も彼女の前方へと飛び出してくる。
「……シータの邪魔するのは馬鹿な事……馬鹿は全員、排除する」
 そう彼女が放った言葉を合図に、両者はともに武器を構え直す。そして、戦いの火蓋は此処に切って落とされた。
「いっくよーっ!」
 その声と共に、東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)が仲間達の背後にカラフルな爆発を発生させ、味方の士気を高めると同時に、彼女のボクスドラゴン、マカロンが仲間の一人へ守りの力を与えると。
「足止めではあるけれど、気を抜かずにしっかりと任務を遂行したいね……」
 続くベルフェゴール・ヴァーミリオン(未来への種・e00211)はそう呟くと、肘から先をドリルの様に回転させ、ガンドロイドに強烈な一撃を与える。
「エクスガンナー、君は歌劇『魔弾の射手』の結末を知っていますか? ロクなものではありませんよ」
 そこへ眼前の狙撃手を半ば挑発しながら、南瓜頭の男、ジャック・スプモーニ(死に損ないのジャック・e13073)は愛用の大型リボルバー銃から轟音と共に弾丸を射出し、更に敵の出鼻を挫く。
 更に仲間の陰から宙を舞うかの様にして、敵前へと躍り出たのは、同じく飄々とした笑みを浮かべたヒューリー・トリッパー(胡散臭いのはわざとです・e17972)だ。
「穿ち、咬み千切れ!」
 彼はマフラーを風になびかせつつ、構えた剣先から敵に喰らい付くオーラの弾丸を解き放つ。
「私と同じ名のダモクレスが相手とは、何とも複雑ね……何にせよ足止めが出来れば私達の勝ち……出来る限りやってみせる!」
 そんな中、シータ・サファイアル(パンツァーイェーガー・e06405)は、彼女と同じ名を持つエクスガンナーを束の間見やってから、手傷を負ったガンドロイドへと白く輝く冷凍光線を放つ。
「ドラゴンは私の獲物……対ドラゴン用だか知らないけど、貴方にやらせるワケにはいかないわ」
 そしてシータ同様、敵の狙撃手に何やら思うところがあるのだろうか。キーア・フラム(黒炎竜・e27514)は全身に纏っていたオウガメタルを「鋼の鬼」と化し、その拳で敵の装甲を打ち砕かんとする。
「エクスガンナー……厄介な敵かもしれません……ですが、作戦成功や後のためにも、必ず倒します!」
 そう決意の言葉を口にしたジェニファー・キッド(銃撃の聖乙女・e24304)は、素早く二丁のリボルバー銃を引き抜く。
 と同時に空から舞い降りた御業が彼女と瓜二つの姿へと変じる。分身達が放つ式神と共に敵群へと弾丸の雨を降らせていく。
 そんなケルベロス達の猛攻を受けたガンドロイド達は、怯む事無く互いを庇い合いながら攻撃の隙を伺うと。
「敵の防衛役を炙り出したい……弾幕を張って」
 彼らはエクスガンナーの言葉に従って機関銃を構えるや、ケルベロス達へ向けて弾丸を嵐の様に撃ち出し、戦場に撒き散らしていく。
「敵に3名の防衛役を確認……初弾は、従属種ドラゴンに」
「……!! 初っ端からドラゴンバスターが来る! 全員、直撃だけは避けるんだ!」
 逢魔・琢磨(魔弾の射手・e03944)の警告の声が響くと同時に、エクスガンナー・シータの構える狙撃銃『バルムンク』から強烈なエネルギー弾が放たれる。
 その光線は、マカロンに直撃し……その半身を吹き飛ばした。
「マカロンっ!?」
 思わず、苺が悲鳴にも似た叫び声を上げる。しかし、既にマカロンはその場に倒れ、ぴくりとも動きはしなかった。
 仲間達を庇い、それなりに傷付いてはいたが、魔力に耐性を持つマカロンを一撃で沈めた威力を目の当たりにしたケルベロス達の背に冷たい汗が流れ落ちていく。
 だが、これは、続く戦いにとっての序曲に過ぎなかった。


「このまま防衛役と妨害役をを同時に排除する……シータに続け」
 エクスガンナー・シータは次なる目標をキーアへと定めると、流れる様な動作で照準を合わせ、正確無比な射撃で彼女の右肩を撃ち抜いた。
 そして、命令を受けたガンドロイド達も、キーアと彼女を庇ったジャックと苺へと爆炎の魔力弾を撃ち込んでいく。
「このままでは……っ!」
 そんな状況を危惧した琢磨がマインドリングから光の盾を具現化し、キーアの前方に展開し、彼女の身を護ろうとする。
 が、その攻撃の多くをその身に受けたキーアは、ぐらりと体勢を揺らす。
「くっ……まだまだっ!」
 だが、キーアは倒れる事無く、裂帛の叫びと上げて己を奮い立たせると共に、圧し掛かっていたプレッシャーを吹き飛ばした。
 そんな彼女の勇姿を見た仲間達も、それに負けじと、デウスエクスへと攻撃を仕掛けていく。
 ベルフェゴールが放った大鎌が宙を斬り裂きながら敵へと飛び、空中で二度目の跳躍を果たしたヒューリーが逆手で構えた二振りの刀を交差させ、鋭い斬撃をガンドロイドへ見舞う。
 そんなケルベロス達の攻撃を、ガンドロイド達は互いに庇い合いながら、損耗を分散させる。
 そんな鉄壁を崩せぬまま……遂に最初の悲劇が訪れた。

 引き続きキーアと前衛達を執拗に狙い続け、ダモクレス達は銃弾の嵐を巻き起こす。だが、ケルベロス達もその猛攻に負けじと、激しい攻撃を繰り出していく。
「あなたの銃は……本当に良い武器ね。でも、私のティーゲルシュヴェルト程ではないわ!」
 シータが愛用のアームドフォートを構え直し、主砲を一斉発射すると、流石にガンドロイドの一体が体制を崩す。
 その姿を見逃さなかったジェニファーは、被った帽子の鍔を指先でピンッ、と軽く弾くと、刹那の抜き撃ちを披露しつつ、体勢を崩した敵へと銃弾を見舞う。
 その攻撃を受け、ガンドロイドの一体が、大きな金属音を響かせて地へと倒れ伏す。
 その様を見たケルベロス達が、反撃の狼煙を上げようとした瞬間。
「ドラゴンバスターが、来るよっ!」
 苺の声とほぼ同時に、エクスガンナー・シータはバルムンクより超強力なエネルギー弾をキーアへと放つ。
「面白いじゃない……私の全力……決して消える事の無い漆黒の炎、受けてみなさい!」
 その攻撃を、まるで予測していたかの様に、キーアの両の掌から黒炎が吹き上がり、魔弾の狙撃手に絡み付かんと放たれる。
 光弾と黒煙とが交差し……そして、その行く末にあったものは。
「残念……あと少しで……相殺できた、のに……」
 そう呟きながら、まるでスローモーションの様な動きで倒れ伏していく、キーアの姿と。
「……敵の妨害役を排除。脅威度、15%低下」
 それを淡々と見届けるエクスガンナー・シータの姿だった。

 再度、ドラゴンバスターの脅威を目の当たりにしつつも、ケルベロス達は攻撃に集中する。
 対する敵勢力は感情の欠片すら見せず、ケルベロス達へと圧力を掛け続ける。
「接近戦はあまり得意じゃないんだけどね……」
「ならば……私もお供いたしましょう」
 動きの鈍っていた1体のガンドロイドベと、ベルフェゴールは、幻影のミサイルを大量に放つと同時に、大鎌を振るって幾多の斬撃を繰り出すば、そこに捕食形態と化したジャックのブラックスライムが敵を飲み込もうとする。
「では、自分は確実に……っと」
 そして、ヒューリーが剣先から再びオーラの弾丸を放つ。
 そんな三者の攻撃を受けたガンドロイドは、その全身に亀裂が走らせながら倒れ込むと、バラバラに崩れて機能を停止した。
 これで倒した敵は2体。だが、それ以上に此方の損耗も蓄積している。
「皆さん、大丈夫ですか!」
 琢磨が特に傷の酷い苺を護るべく、小型無人機をの群れを展開させる。
「勇敢なる戦士に、戦う力を与えたまえ!」
 そして苺自身も己の生命力を高める……が、それでも尚、彼女の受けた傷は深いままだった。
 そして、そんな状況を精鋭たるエクスガンナー・シータが見逃す筈も無く。
 正確無比な攻撃が、苺の急所を撃ち貫く。
「ごめん……みんな、あとはよろしくねっ」
 そう言うと、苺は仲間達へ後を託す様にして笑顔を向けてから、その意識を手放した。
「……中衛は前衛に。他はそのまま、攻撃を続けて」
 そして、金髪の狙撃手はその表情を一つも変える事無く配下に命令を下すと、手にした狙撃銃を構え直し、新たな標的を探し始めた。


 戦いは続き、その行く末にいまだに光明が見えぬまま。
「……私と同じ名前だけあって、一筋縄にはいかないわね」
 シータは、同じ名前を持つ敵狙撃手の力量に感嘆しつつも、それに怯む事無く、己の武器を構え直す。
「……次は恐らく、ドラゴンバスターが来るでしょうね」
 ベルフェゴールが静かにそう告げると、琢磨も倣う様にして敵の動きを注視する。
 そんな中、ガンドロイド達はジャックへと銃口を向け、彼を蜂の巣にせんと弾丸の雨を降らせる。
「これは少々、キツいものがありますね……ですがっ!」
 対してジャックが裂帛の叫びと上げるも、その苦痛の全てを飛ばすまでには至らない。
 そして、エクスガンナー・シータの構えるバルムンクの銃口がジャックを捉え、引き金が引かれる……よりも一瞬早く、シータが動いた。
「リミッターリリース、オーバードライブシステム……ブースト!!」
 リミッターを解除し、極限まで速度を上げたシータは、持てる全武装を展開させる。
「この十秒の間、可能な限り敵に撃ち込む……行くぞ!」
 そして、彼女は青白き残像を伴いながら、苛烈なまでの弾幕を叩き込む。
 流石のエクスガンナー・シータも、そんな彼女の攻撃の全てを避け切れず、少なからずダメージを負っていく。
 その瞬間。
「……なんか……不愉快」
 小さく呟いた魔弾の狙撃手は、構えたバルムンクの銃口をシータへと向け、躊躇う事無く一撃必殺のエネルギー弾を彼女へと撃ち込んだ。
「くっ、流石ね……残像ごと、撃ち抜くなんて……!」
 その強烈にして苛烈な一撃を受けると、シータはゆっくりとその場に崩れ落ちていく。
 その姿を見ながら、彼女と同じ、金の髪と名を持つ魔弾の狙撃手は微かに口元をゆがませると。
「……シータは、二人もいらない」
 誰にも聞こえない程に小さな呟きを漏らすと、再び前衛達へと銃口を向けた。

「どうして急に標的を変えたんでしょう? もしかして……」
「何とも言えませんが……今は攻撃に集中しましょう」
 ほんの一瞬だけ揺らいだ敵の行動に疑問を感じたジェニファーだったが、今は戦闘中だと諭すジャックの声で頭を切り替えると、二丁の愛銃から弾丸を放ち、戦場を跳ね回らせる。
 そしてジャックも、仲間達を庇える位置を取りながら、ブラックスライムの鋭き漆黒の槍でガンドロイドを貫かんとすれば、続くベルフェゴールとヒューリーの放った斬撃とが、傷付いたガンドロイドへと次々と叩き込まれ……遂に3体目のガンドロイドが地面へと倒れ伏すと。
 鉄壁とも言えた敵の防御に、僅かな綻びが生じた。
 だが、それでも。
 ガンドロイド達は怯む事無く、命令に従うまま、前衛に立つヒューリーへと狙いを定めると、爆炎の魔力を込めた弾丸を撃ち込んだ。
「!! 癒しの弾丸よ、彼の物を癒してくれ!」
 即座に琢磨が、癒しの弾丸をヒューリー達前衛に撃ち込むも、彼の回復だけでは、敵の猛攻に追い付けない。
 そして、畳みかける様に、エクスガンナー・シータが敵のグラビティを弱体化するエネルギー弾を射出すると。
「自分は……此れまで、ですか……」
 その悔しさを何時もの笑顔の奥に隠しながら、ヒューリーはその場に崩れ落ちていく。
 残されたケルべロス達は4人。
 この状況で敵を殲滅する事は、ほぼ不可能であろう。
 だが、このまま耐え切る事さえ出来れば。
 完全な勝利でなくとも、任務を無事果たせれば。
 そして、ケルベロス達は覚悟を決めると、最後の戦いへと突入していった。


「私が得意なのは、銃撃だけじゃない事を、教えてあげるわ!」
「……目標の時間までは、もう少し……あと、一分だけは!」
 ジェニファーの召喚した「御業」が炎弾を放ち、続くベルフェゴールが音速を超えた攻撃で、ガンドロイドを吹き飛ばす。
「果たして狩りの魔王の怒りを買うのは我々か、お前達か……魔弾対決と洒落込もうじゃあないか!」
 炎に包まれたガンドロイドへとジャックが愛銃を構える。
 次の瞬間、轟音と共に銃口から放たれた弾丸は、朱色の軌跡を描きながらガンドロイドの身体へと吸い込まれていく。
 続いて響いた重い衝撃音と共に、胸に大穴を開けたガンドロイドがどさりと崩れ落ちる。
「……っ、ドラゴンバスター、来ます!」
 だが、次の瞬間、琢磨の叫びと共に、エクスガンナー・シータの銃口がベルフェゴールへと向けられる。
 そして、一撃必殺のエネルギー弾が放たれんとした時……彼の眼前に白き鳩ならぬ黒き影が颯爽と飛び込んでくる。
「撃ってくると良い、魔弾でも私は斃れませんよ」
 ジャックはにやけた南瓜の表情のまま、ベルフェゴールの身を庇う様にしてその攻撃を受け止めると。
「どうやら、七発目の魔弾は……彼女の物だった様ですね」
 がくりと膝をついたジャックは、それでも南瓜の中に苦痛の表情を隠したまま、地へと倒れ込んだ。
「ジャック……っ! でも、これで時間は稼げました!」
「全員、撤退だ! 急いでこの場を離脱するぞ!」
 ベルフェゴールが高らかに宣言に呼応するかの様に、琢磨も言葉を続ける。
「分かりました!」
 ジェニファーも倒れた仲間に駆け寄るながら、敵を撹乱を狙って、再び弾丸の雨を撒き散らす。
 だが、その攻撃を受けたエクスガンナー・シータは、下ろしかけていた狙撃銃をジェニファーへと構え直し。
「素直に逃げないなら……シータは撃ち抜くだけ」
 その言葉と共にバルムンクから光弾が放たれ、続いてガンドロイド達の放った弾丸の雨が3人へと撃ち込まれる。
 そして。
 ケルベロス達は一人、また一人と銃弾に倒れ……戦場に残ったのは、ダモクレス達のみとなった。
「……待って、彼らはそのままていい。今は、グランネロスの救援の方が大切」
 エクスガンナー・シータは倒れたケルベロス達にとどめを刺そうとする配下を制すると、そのまま配下達を率いて、その場から去っていく。
「……お前達の着く頃には、既に……グラン、ネロスは……」
 金の髪を風になびかせながら去っていく強敵の姿を、薄れゆく意識の中で見送った琢磨は、彼方で戦い続ける仲間達の勝利を信じ……ゆっくりと目を閉じた。

作者:伊吹武流 重傷:シータ・サファイアル(パンツァーイェーガー・e06405) ジャック・スプモーニ(死に損ないのジャック・e13073) ジェニファー・キッド(銃撃の聖乙女・e24304) キーア・フラム(憎悪の黒炎竜・e27514) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 15/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。