●ころころ仔犬
緑の芝生の上をふわふわしたものが駆けてゆく。
きゃんきゃんと愛らしく鳴くまるいものの正体は、元気いっぱいの柴犬の赤ちゃん。短い手足で懸命に大地を蹴り、投げられたボールを追う様は可愛くて仕方がない。
「おいで、次はこっちで遊ぼう!」
手を叩いて仔犬を呼んだ少年は骨型のおもちゃを取り出した。芝生の向こう側から駆け寄って来るちいさな柴犬はとても愛らしい。だが――。
「え? えええ? 何でこんなに大きいのおおおお!?」
近付くに連れて大きくなる仔犬の姿。それは遠近法でも何でもなく、その見た目のまま数メートルの大きさまで急成長していたのだ。
其処で少年は目を覚まし、ベッドから飛び起きた。
「……はっ! あれ、夢だったの?」
もう少しで押し潰されそうだった光景が夢で良かったと少年は安堵する。安心感を抱いた彼がもう一度寝ようとした、そのときだった。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
不可思議な声が響いたと同時に少年の胸が鍵によって貫かれていた。
魔女ケリュネイアは鍵を引き抜くと、暗い夜の闇に紛れるように消えていく。残された少年は意識を失い、ベッドに倒れ込んだ。
其処には今しがた夢で見たばかりの仔犬が現れ、ふりふりと尻尾を振る。
しかし、それは新たなドリームイーターだ。仔犬はきゅーんと鳴きながら驚かす対象を探す為に少年の部屋から飛び出した。
●わんわんパニック
「柴犬の赤ちゃん……なのに数メートル……?」
それが今回現れるドリームイーターなのだと聞き、ミケ・ドール(黄金の薔薇と深灰魚・e00283)はその姿を想像してみる。ふわふわした小さい柴犬は可愛い。けれどいきなり仔犬が巨大化したら誰だって驚いてしまうだろう。
「それは夢だったんだけど……ドリームイーターが『驚き』を奪って……現実にしちゃったんだって……。ミケさんも、びっくり……」
このままにしておけばいつか誰かが襲われてしまう。それに夢の主となった少年も目を覚ませないと話し、ミケは皆に協力して欲しいと願った。
そして、ミケはヘリオライダーから伝え聞いた情報を語っていく。
「近くに芝生公園があって、ドリームイーターは……そのあたりに出るみたい。誰かがいれば、向こうから近付いてくるんだって……」
敵は小さい仔犬の姿のまま付近をうろつき誰かを驚かせようと狙っている。現れた時は可愛い姿だが、近付いた瞬間に巨大化して驚きを誘うのだという。
それゆえに誘き寄せは不要。後は全力で戦って倒せばいい。
敵は巨大でもふもふしていて心情的にも戦い辛いが、協力して戦えば勝てる相手だ。
また、このドリームイーターは出会い頭に驚かなかった相手を優先的に狙ってくる。この性質を利用すれば狙いを集中させたり分散させることができ、有利に戦えるかもしれないと話したミケはこくんと頷いた。
「敵はおっきいけど、ミケさん達が力をあわせれば……Non c'e` problema.」
大丈夫。心配はないと告げた少女は淡く微笑む。それは一見すればぼんやりとした表情にも見えたが、確かな信頼が込められていることが分かった。
そうしてミケはそっと掌を握って決意を示す。
いこう、と仲間達に告げた言葉にはケルベロスとしての強い思いが宿っていた。
参加者 | |
---|---|
ミケ・ドール(黄金の薔薇と深灰魚・e00283) |
キアラ・ノルベルト(天占屋・e02886) |
響・千笑(ガンスリンガー・e03918) |
ニュニル・ベルクローネス(ミスティックテラー・e09758) |
東雲・菜々乃(のんびり猫さん・e18447) |
神山・太一(弾丸少年・e18779) |
灰縞・沙慈(小さな光・e24024) |
レオナルド・ドール(沈む獅子・e26815) |
●変幻わんわん
夜の公園に現れるのは巨大仔犬。
その言葉自体が矛盾を孕んでいるが、それは夢が現実となった故の存在だからだ。ミケ・ドール(黄金の薔薇と深灰魚・e00283)はその姿を想像し、小さく掌を握る。
「柴犬の……子犬なんて……卑怯。で、でもミケさんはそんなのに……だまされたりしないから……Forza……」
頑張るという旨の母国語を話したミケに続き、ニュニル・ベルクローネス(ミスティックテラー・e09758)も頷く。荒唐無稽だがそれもまた浪漫だと感じたニュニルは抱いているピンク色のクマのぬいぐるみに視線を落とした。
「巨大な仔犬、ボク達も是非拝見しにいかなきゃ。ね、マルコ?」
「柴犬わんこ、可愛いよね~。写メりたいけど、やっぱり我慢したほうがいいかな」
響・千笑(ガンスリンガー・e03918)は周囲を見渡し、此方を見つけると近付いてくるという仔犬の姿を探す。灰縞・沙慈(小さな光・e24024)はおっかなびっくりながらもウイングキャットのトパーズと共に辺りを警戒していた。
「大きなワンちゃん、ちょっとだけ怖いな……。でも、驚きを返してあげるためにも倒さないと、だよね。怖いけど頑張ろう、うん」
そして、沙慈が芝生公園の向こう側に視線を移した刹那。
きゃん、という小さな鳴き声が聞こえたかと思うと小さな影がケルベロス達に向かって走ってきていた。神山・太一(弾丸少年・e18779)はテレビウムのてっくんに敵が来るよ、と呼び掛けて身構える。
「もふもふで、可愛いわんちゃん……ダメダメ、ちゃんと気を引き締めないと!」
太一は口許が緩みそうになりながら、目の前まで駆けて来た仔犬を見つめた。ふわふわの柴犬は尻尾を振って愛らしい瞳を向けている。だが、次の瞬間。
『きゅーん!』
「あんなちっこかったのに、こない大きなるやなんて!」
「わ、わわ……!?」
仔犬だったそれは突然巨大化し、キアラ・ノルベルト(天占屋・e02886)と沙慈が驚いて後ろに下がった。変化することは事前に分かってはいたが、可愛い犬の姿が急に異様なものに変われば驚愕もしてしまう。
「わあ、おっきーい。仔犬なのに巨大だなんて、すごく不思議っ」
「…………」
ニュニルが彼女なりに大袈裟に驚いてみせ、ミケもびくっと身体を震わせて驚くふりをする。皆が其々に驚きを表現する中、数名はまったく動じていなかった。
東雲・菜々乃(のんびり猫さん・e18447)は敵をしっかりと見つめ、千笑も驚かないように我慢する。
同じく、護り手として動く予定のてっくんは太一の言いつけを守って微動だにせず、キアラの相棒テレビウムであるスペラも塩対応でそっぽを向いた。
「もふもふ……子犬……柴犬。素敵な言葉ばかりなのにこんな物騒な事にしてしまうのは許せないのです」
菜々乃は拳を握り、寧ろ折角もふもふできるというチャンスを邪魔された分だけ憤りを覚える。レオナルド・ドール(沈む獅子・e26815)もその通りだと答え、余裕さの滲む瞳を巨大夢喰いに差し向けた。
「しかし、巨大とはいえ仔犬は可愛いなぁ。倒すのが勿体ないが」
レオナルドは身構えているミケを横目で見遣り、口の端を緩めた。可愛い可愛い妹が予見した事件をこのままにするわけにはいかない。兄弟を代表して頑張ろうと心に決め、彼は手にした槍を強く握り締めた。
愛らしくも凶暴な敵とケルベロス達の視線が交差する。変化に驚かなかった者がいると気付いた夢喰いも身構え、此方を襲おうとしているようだ。
そして――不思議な戦いの幕はあがった。
●もふもふの怪物
動き出した仔犬が地面を蹴り、菜々乃を狙って突進する。
素早く構えた菜々乃は巨体を全て受け止める覚悟を決め、真正面から衝撃を受け止めた。だが、その力はかなり強い。
「子犬も好きなのですよね。でも大きくなる犬というのも本当は怖いですね」
吹き飛ばされそうになりながらも菜々乃は何とか耐え、侮れないと悟った。すかさずウイングキャットのプリンが主人の痛みを癒して補助に回る。そして、菜々乃も爆風を起こすことで仲間の援護に入っていった。
沙慈も掌の上にトパーズと一緒に折った鶴の折り紙を乗せ、息を吹きかける。
「ちょっとだけ皆のお手伝い、させてね」
空へ羽搏くように広がった鶴は仲間達の力へと変わってゆく。その間に太一は精神を集中させ、指先を銃の形に模して敵に差し向けた。
「僕達が、いっぱい遊んであげるからね」
太一がばぁん! と銃を放つ真似をした瞬間、爆発が仔犬を穿つ。きゃん、と鳴いて耐える仔犬は実に痛々しいが相手は夢喰いだ。太一はぐっと堪えて気を強く持った。
対するニュニルは双眸を細め、楽しげに敵を見つめる。
「ふっふふ。今回ばかりはドリームイーターに感謝しなきゃ、かな? こんな愛くるしい戦い、中々出来ないからねっ」
ニュニルは勢いを付けた言葉と共に踏み込み、縛霊の一撃を叩き込んだ。其処に続いたボクスドラゴンのスクァーノが竜の吐息を見舞う。皆を庇ってね、とニュニルに告げられた伴竜は翼を広げて応えた。
更にレオナルドが稲妻めいた突きを放ち、千笑がオウガメタルを解き放つことでミケに力の加護を与えた。攻撃外したらダメだものね、と気合いを入れた千笑にミケも首を縦に振り、時空凍結弾を放っていく。
「Non ci credo……本当に、おおきい……すごい……はー……だきつきたい……」
ミケは素直な気持ちを言葉に変え、もふもふわんわんを見つめた。キアラも確かに、と同意してふわっふわの毛並みに羨望の眼差しを向ける。
「おなかに飛び込んでもふってしたい! でもそーいうわけにいかへんからね」
仔犬が大きい分だけ皆で毛繕いをする光景や背中に乗せて貰う夢が広がってしまうが、目の前の存在は危険因子に過ぎない。キアラはスペラに呼び掛け、凶器で敵を穿つように願った。キアラ自身はカラフルな爆発を起こして仲間を鼓舞する。
しかし、夢喰いも此方に対抗してきた。
ごろんと芝生に転がった巨大仔犬はそのまま体を回転させて迫って来る。レオナルドはその狙いがミケに向けられていると気付き、その身を挺して飛び出した。
「Uhm……まだまだ可愛らしい大きさだと思ってた、が……これは拙いな」
巨体が衝突して来る衝撃はかなりのものであり、レオナルドは眉を顰める。だが、彼は果敢に耐えて反撃に移った。身を翻したレオナルドは夢喰いの頭上まで跳躍し、鋭い三日月を思わせる一閃を落とす。
痛みに敵が悲鳴をあげる最中、菜々乃が縛霊撃を打ち込んだ。翼を広げたプリンがレオナルドの癒しを担い、足りぬ分はトパーズによる属性回復で補われる。スクァーノは次は自分が仲間を庇うとばかりに意気込んで見せ、ニュニルは薄く笑んだ。
そして、ニュニルは流星めいた蹴りを放つ。
千笑も其処に続き、敵を殴り抜きに駆けた。撫でたい気持ちを我慢してぐっと握った拳に力を籠めた千笑は、ごめんね、と小さく告げる。
「あなたのこと嫌いじゃないしむしろ好きだけど、心を鬼にして戦います! ああでももふもふ毛並みが良い!」
思わず本音が零してしまった千笑だが、可愛さにきゅんきゅんしている場合ではない。どんなに可愛くとも倒さなければいけない運命なのだ。
「てっくんとあの子、どっちが早いかな……?」
続く戦いの中、太一はふとテレビウムと巨大仔犬を見比べる。ぴょこぴょこと飛び跳ねるてっくんは懸命に応援動画を流していた。浮かんだ疑問はきっと、戦いの中で判明するはずだ。太一は相棒に頼もしさを感じ、猟犬縛鎖で以て敵を縛りあげる。
沙慈も竜爪をあらわにして一撃を与えに駆けた。
「だいじょうぶ。教えてもらったことをちゃんとやればいいだけ……やるよ」
今はもういない兄の教えを思い出し、沙慈は思いっきり爪撃を放つ。夢喰いとはいえ、鋭い爪が仔犬を切り裂く感触は心地良いものではなかった。だが、沙慈は仲間の為にも頑張り続ける決意を固める。
戦いは激しく巡り、ミケは負けぬように確りと立ち回った。
「もう、モフモフしてる暇は……ないかな。Un vero peccato……」
殺神ウイルスを解放したミケは真剣な目を向け、絶対に勝つと誓う。傍にはレオナルドも、仲間達もいる。懸命に戦うスペラがミケの後に続き、更にキアラも電光石火の蹴撃を見舞いに向かった。
「うちらも『番犬』やからね。おいで柴っこ、もっと過激に遊ぼ?」
挑発的ながらも何処か優しく感じられるキアラの言葉が届いたのか、柴犬の耳がぴくりと反応する。それでいいと緑の双眸を細め、キアラは身を翻した。
●仔犬と戯れ
ドリームイーターとの戦いは巡り、押しつ押されつの攻防が続く。
だが、少しずつではあるが夢喰い仔犬は弱りはじめていた。きゅうん、と鳴いた声は切なく胸を締め付けたが誰も動じない。
プリンやトパーズが癒しに徹することで仲間を支え、スクァーノやてっくん、スペラも必要なときは補助を行う。
ニュニルは展開がうまく進んでいると感じ、敵を翻弄するような動きで回り込んだ。その際、思い出すのは先程に千笑が攻撃がてらに仔犬に触れていたこと。
「ボクも最初から思いきり触りに行けば良かったんだ。よし。今だ破鎧し……わー、手が滑ったー。もふもふー」
破鎧の衝撃を打ち込みながら、ニュニルはそっと敵に触れた。仲間がふわふわして心地良い感触にきゅんきゅんする様を眺め、菜々乃は首を傾げる。
「触り心地は……どうなんでしょうね。いいものなのでしょうか」
だが、今はとにかくがっかり感をぶつけて倒すのみ。それで平和が保たれるならいいじゃないですか、と心を決めた菜々乃は誓いの心を溶岩に変えて攻勢に移る。
太一も此処からが勝負だと感じ、敵を改めて見遣った。つぶらな瞳が太一を射抜いたが、その眼差しはまやかしだ。
「そんな目したって、ダメなものはダメ、なんだよ……! てっくん、行くよ!」
迷いを振り払った太一は相棒を呼び、戦場を黒霧で覆い尽くす。縄張りと化した領域に黒狼を呼び寄せた少年はひといきに敵の力を削った。太一の視線を受けたてっくんも凶器を振り下ろす。
千笑も仲間に続き、敵の動きを更に阻もうと脚を狙った。
「おすわり! きみはできる?」
千笑は柴犬を躾けるような声をかけて容赦のない一撃で夢喰いを穿つ。キアラは彼女の声にくすりと笑み、仔犬なら加減や社会性などを勉強する年頃だと気付いた。
「全力で遊んで、全力で受け止めて、教えたげる!」
炎を纏う蹴りが放たれ、キアラは宙を舞うようにして敵から離れる。
その身軽さに感心しながら、沙慈はここからは一気に攻撃すべきだと感じた。当初は戦いへの不安はあったが果敢に頑張るトパーズの姿に勇気を貰っていた。最後まで一緒に頑張ろうね、と呼び掛けた沙慈は破鎧の一閃を放つ。
「大きなワンちゃんはね。今より小さかった時に飛び乗られて怖かった、思い出があるんだ……でも、今は平気!」
トパーズは勿論、ニュニル達だって一緒に戦ってくれる。沙慈の一撃が敵に多大な衝撃を与え、その身が大きく揺らいだ。
今こそ好機だと感じたレオナルドはミケに強く呼び掛ける。
「――Andiamo su!」
義妹は大人しく守られているだけの娘ではない。だからこそ彼女と共に戦い、支えてやりたかった。地面を蹴って敵の背後に回り込んだレオナルドが構えれば、結んだ青黒の髪がまるで尻尾のように揺れる。
刹那、描かれた弧と同時に鋭い一撃が夢喰いを貫いた。雷に打たれたかのような錯覚が敵に駆け巡って行く最中、ミケが止めをさしに向かう。
信頼を抱き、太一と千笑はその光景をしかと見守った。菜々乃やキアラ、ニュニル達も仲間が戦いを決してくれると確信する。
レオナルドの炎色の瞳とミケの蜂蜜めいた金の眸が一瞬だけ交差し、互いの意志を伝えあった。次で終わりだと信じたミケは穢れのない真っ白な刀を掲げる。
可愛い可愛いわんわん。戯れを終わらせるのは辛いけれど、これも成すべきこと。Mi do da fare、と呟いて応えたミケは真っ直ぐに柴仔犬を見つめた。
「そんな目で見ないで……夢の中に帰ってね……」
そして、一瞬後――振り下ろされた斬霊の一閃は驚夢の化身を切り裂き、全てを無に変える。戦う力を失った仔犬は最期にきゅーんと鳴き、幻の如く消えていった。
●夢の終わり
巨大仔犬という存在は夢に還り、公園に涼やかな夜風が吹き抜ける。
戦いの終焉を感じ取った千笑はお疲れ様でした、と明るく皆に告げて会釈した。そんな中、ミケは仔犬が消えていった場所を眺めてそっと願う。
「Addio……バンビーノに遊んでもらえるといいね……」
ミケが金の瞳を緩やかに閉じて祈り、レオナルドがその傍に立つ。気配に気付いたミケが顔をあげると彼は小さな身体に手を伸ばした。
「お疲れ様、ミケ。よく頑張ったな!」
妹を抱き上げ、めいっぱい褒めてやったレオナルドは笑顔を向ける。Grazie、と義兄に抱き着いたミケも穏やかな表情をたたえた。
ニュニルもスクァーノを労い、スカートの埃を払いながら想いを馳せる。
「ああ、とてもいい体験だったね……。次は巨大チワワとかいいんじゃないかな」
「おっきな、チワワさん?」
それを聞いた沙慈は巨大な小型犬に追いかけられる光景を想像してひそかに怯えた。菜々乃は彼女達のやりとりに目を細め、自らも思いを口にする。
「ちゃんと可愛いもふもふを楽しみたいですね。どこかいい場所があれば楽しみに行って疲れを癒したいのですよ」
「私、帰ったら可愛い柴犬の動画見まくるんだ……」
千笑も希望を語って夜の公園を眺めた。太一はてっくんを連れて芝生の荒れがないかを確認し、必要な箇所にヒールを行っていく。
「それにしても、本当、わんちゃんと一緒に遊ぶには良さそうな場所だなあ」
昼間にまた来たいと太一が感想を零すと、ミケや沙慈も賛成する。少年と少女達が交わした笑みはとても快いものだった。
きっと今頃は驚きを奪われた夢の主も元に戻っているだろう。キアラはふと事件を思い返し、小さな溜息を零した。
「こうも色んな感情狙われたら、おちおち夢も見てられへんよね」
ケルベロスが囮になったりでけへんやろか、とキアラは考え込む。すると、スペラがキアラの腕をぐいぐいと軽く引いた。見上げる仕草は自分達も荒れた公園をヒールしようと言っているようで、キアラは笑みを浮かべる。
「すみずみまでヒールしてこね、スゥ。色んな子供たちが楽しく駆けていけるよに」
まずは自分達が、とキアラは駆け出した。
踏み出した一歩がたとえ小さくともいつか大きな前進になる。そう信じて瞳に映した夜の景色は穏やかで、この心地を守りたいと感じた。
それがきっと、自分達が戦いに身を投じる理由のひとつであるはずだから。
作者:犬塚ひなこ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年8月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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