強襲グランネロス~デッドエンドヒート!

作者:螺子式銃

●チェイス・ゲーム
「オラ、出て来いつってんだろ阿修羅クワガタ野郎!」
 荒々しく怒鳴りつけた後、響く銃声は二発。
 騒音の主は、双銃を持つダモクレス――エクスガンナー・ゼロだ。
 彼の銃撃は周囲の岩を破壊し、ぱらぱらと破片が飛び散るがそれだけで他に生命体の気配はない。
 それでも周到に首を巡らせるエクスガンナー・ゼロに従い、幾体ものダモクレスが岩場に回り込んだり海を覗き込んだりと捜索に忙しい。
 彼等が探しているのは、阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達。
 エクスガンナーの拠点であるグランネロスから、グラビティタンクを強奪したとなれば逃がす訳にもいかない。
 この辺りは入り組んでおり、隠れる場所には事欠かない。
 とは言え、十分に捜索は終えたろう。見切りをつけて、エクスガンナー・ゼロは次の指示を出す。
「海の捜索は終了、この辺りにゃ居やがらねえ。全員、反転。南南東方面に出発――、あのふざけた虫野郎を炙りだす」
 そうして、彼も次の捜索ポイントに移ろうとしたその時のことだった。
 緊急の通信に、エクスガンナー・ゼロのアイランプが明滅する。
「こちら、ゼロ。――あァ?」
 一定の調子を保っていたゼロの声が僅かに乱れる。
「ドクターエータ、センスの悪いジョークは……なんだって、そいつはマジか? オーケイ、――エマージェンシー・コールを認識」
 何事かと動きを止めるダモクレス達に、エクスガンナー・ゼロは首を振り指示を飛ばす。
「我らが『グランネロス』に呼んでもねェ客がパーティに押しかけて来やがった。本隊は指示通り捜索を続行、虫共を任せた。――でもって、俺様が指揮する分隊を四体程で構成する。分隊だけでグランネロスに超特急で帰還だ!」
 銃口で帽子の鍔を押し上げ踵を返す。コートが大きく海風を孕んで翻り。
「今から呼ぶ奴はついて来い! 急がねェと、パーティタイムに乗り遅れちまう」
 粗暴な態度とは裏腹、最短ルートを素早く弾き出して配下を率い彼は帰投を開始する。
 エクスガンナー・ゼロは遠からず、『グランネロス』に辿り着くだろう。
 ――道中に何事もなければ、だが。

●敵は、エクスガンナー・ゼロ
「今日もお疲れさま。――じゃあ、始めようか」
 招集に応じてくれた皆へと一礼すると、トワイライト・トロイメライ(黄昏を往くヘリオライダー・en0204)は資料を手に口を開く。今回彼が説明するのは、ローカスト・ウォーの生き残りとダモクレスの事件だ。
「先だっての戦争で、生き残ったローカスト――阿修羅クワガタさんの動向が掴めた。彼は、どうやらダモクレスの移動拠点『グランネロス』を襲撃したらしい。これは、エクスガンナーと呼ばれるダモクレス達が集う、全長50mの巨大ダモクレスだ。
 恐らく目的は、ダモクレス達が蓄えていたグラビティ・チェインだろう」
 この地に取り残されたローカストに必要な、グラビティ・チェイン。阿修羅クワガタさんは、その入手手段を弱い人間ではなく、脅威たるダモクレスから強奪する手法を選んだ。そんな彼だからこそ、気のいい仲間達も協力しているのかもしれない。
 しかし、今主眼に置くべきは阿修羅クワガタさんではないのだ。トワイライトが資料を捲り、口にするのは。
「グランネロスは、グラビティタンクと中枢コアを奪われている。勿論、内部に住まうダモクレス達にとっては大変な事態だ。よって、最低限の護衛を残したエクスガンナーの全部隊が、阿修羅クワガタさんの追撃に向かっている。
 となれば、――グランネロスは今、非常に手薄。攻めるにあたって、これ以上の好機はないだろう。だからこその、強襲作戦だ」
 警備の薄い移動拠点を一気に強襲、そして制圧する作戦が始動しようとしている。
「しかし、敵とてただ見守る訳でもない。グランネロス襲撃の一報が入れば、当然追跡を止めてでも帰還するだろう。エクスガンナー部隊が戻れば、勝機は途端に潰える。そこで、だ」
 トワイライトは、静かに皆へと視線を向ける。ヘリポートに集ってくれた彼等が参加する作戦は、その問題を解決するためのもの。
「帰還するエクスガンナーの足止めを、君達にお願いしたい。複数いる個体の内、相手をして貰うのはエクスガンナー・ゼロだ。
 必要なのは撃破ではなく、グランネロス制圧までエクスガンナーを合流させないこと。即ち、時間稼ぎだ。勿論、撃破をするという手もあるが――」
 敵はエクスガンナーの精鋭に加えて、配下の量産型ダモクレスまでいるという。
 その能力と人数から考えれば戦力差は明らかに相手が優勢、完全撃破は不可能とは言わないが、かなり難しいことは間違いない。難易度は、足止めと比べて一気に跳ね上がるだろう。
 更に、無理に撃破を狙っての戦闘作戦で敗北してしまった場合、グランネロスへの敵の合流は当然行われてしまう。足止め自体が出来なくなってしまっては、作戦は勿論失敗に終わるのだ。
 エクスガンナー・ゼロは、二丁拳銃を操るダモクレスだ。火力と命中力に長ける、生粋の射撃手だという。
 そして、彼の部下としてエクスガンナーゼータが四体配置されている。こちらは量産機のようだが、思考能力を持ちチームでの連携を行う。後衛に配したエクスガンナー・ゼロを守りながら、的確にポジションごとの行動をするだろう。
 単純な戦闘能力の面だけでも、エクスガンナー・ゼロは勿論、エクスガンナーゼータもけして侮ることが出来ない強さを持つ。
「グランネロスの襲撃が始まった後、そうだな――十分程度後には、君達が交戦を開始することになるだろう。グランネロス攻略の方が順調である場合、交戦開始から七分以上足止めできれば作戦は成功と思われる。
 グランネロスの撃破を確認するまで足止めすることが理想ではあるが、七分以上の時間を稼いだのであれば撤退という選択肢も考えられる」
 何しろ、同時進行の作戦だ。状況次第の部分も多く、応じての判断が必要になるだろう。
 更に、移動拠点グランネロスは強襲チームの状況次第で『戦闘形態』に変形する可能性がある。そのような事態に万が一陥った場合は、強襲チームへの支援行動に向かう必要があるかもしれない。
 このように、色々と考えるべきこと、対応すべきことは多い。
 それでも――困難に挑戦する時が来たのだ。
「移動拠点グランネロスは、地球で活動するダモクレスの中でも恐らくはかなり有力な集団だ。この撃破が出来れば、ダモクレスに対して大きな打撃を与えられる。――どうか任務を果たし、無事に帰ってきてほしい。いってらっしゃい」
 トワイライトは最後に皆の顔を一人ずつ見渡して、穏やかな笑みでケルベロス達を見送る。


参加者
ギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)
五継・うつぎ(ブランクガール・e00485)
月見里・カヤ(神秘捕獲巫女・e00927)
百鬼・澪(澪標・e03871)
鋼・業(サキュバスのウィッチドクター・e10509)
マユ・エンラ(継ぎし祈り・e11555)
ドミニク・ジェナー(激情サウダージ・e14679)
卯真・紫御(扉を開けたら黒板消しポフ・e21351)

■リプレイ

●エクスガンナー・ゼロ
 ゼロは一路グランネロスへと急ぐ、その道中――。
「ちょっと待ちな!」
 真上から炎が舞う。威嚇射撃を放つのは、シスターじみた戦装束に身を包む天使、マユ・エンラ(継ぎし祈り・e11555)。唇には、好戦的な笑みを湛えて。
「この先には、行かせません」
 凛とした声は、海風を渡ってよく響いた。飴色の髪を靡かせ、最前線に舞い降りるのは百鬼・澪(澪標・e03871)。肩からするりと滑り降りる花嵐も、花を揺らし敵へと向き合う。
 その傍ら、竜の羽根がゆっくりと羽ばたき降り立つギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)は、斬霊刀を正眼に構える。
「あァ? なんだ、テメエら。――退けよ」
 ゼロが顎を上げる動作に合わせてゼータが陣形を取る。統率された動きは、まさしく精巧な機械故のもの。ゼロを後衛に守る姿勢を固めるとほぼ同時、――無数の銃声が響き渡る!
 立ち塞がった彼等でなく、ど真ん中を目がけて叩き込むのは威を持って捻じ伏せようとする意志の表れか。
 けれど、無慈悲なまでに荒れ狂う紅炎と煙が晴れれば、ボクスドラゴンのミーガンに庇われた卯真・紫御(扉を開けたら黒板消しポフ・e21351)は無傷で立つ。小さく息を吸い、煙に掠れる喉を励まして声をあげた。
「残念ながら、パーティーに貴方達は招待されていません。代わりに私達が全身全霊をもってお相手をさせて頂きます」
 我が身を炎に焼け焦げさせながら五継・うつぎ(ブランクガール・e00485)を庇っている澪へと、まずは幾つにも分身する幻影を纏わせていく。
「さて、相手のジャマーエクスガンナー、そしてエクスガンナー・ゼロとの根競べと行きましょうか」
 消耗覚悟の持久戦。護りは手厚く、決死の削り合いが予想される。ジャマーとして紫御は徹底的な支援を請け負っていた。
「元ダモクレスとしてどちらが優れているか試したい気持ちはありますが、今は『私達』がお相手しましょう」 
 澪が標的の目印のよう先んじて雷撃を放つ後ろからうつぎはひたりと敵を見据える。怯んだ様子は全くなく。
「この先通行止めでーす」
 茶化すような、軽い口調で鋼・業(サキュバスのウィッチドクター・e10509)が嘯くと、尻尾をゆらりと揺らすナース服のビハインドがポルターガイストを仕掛ける。
 その攻撃に意識を向かせた瞬に業は雷鳴を宿す杖を手品師の如く操る。迸る雷は受けた傷を和らげ活力を宿すもの。
「まずは勢いを削ぎます。出し惜しみは無しで行きましょう」
 うつぎも頷いたかと思えば全身のミサイルポッドが露出し、一気に無数のミサイルが前衛に着弾する。
「雑魚風情が、偉そうに喚きやがって」
 ゼロは煩わしげに告げるが、包囲の輪は確かに在る。血路を、と命じればクラッシャーたるゼータは銃を構え巨大なエネルギー弾を放つ。
 ギルボークは咄嗟の踏み込みで受け止めると同時、瞬きの速さで抜刀した。
 閃いたその刃はゼータに全身に細かな傷を刻み、それに意識を取られる合間にはもう納刀までが一連の所作。
「エクスガンナー、この一刀は招待状代わりです。飾りつけは間に合いませんでしたが…盛大におもてなしさせてもらいます」
「おう、てめェは此処でパーティーじゃ!」
 ドミニク・ジェナー(激情サウダージ・e14679)は間髪入れず銃を構える。ダモクレスを見れば微かに胸中を揺らすも、トリガーにかかる指先に淀みはない。一発では終わらずにもう片手はハンマーへと掛かって、――トリガーは引いたままでの連射!
 尾を引く銃声は一つに重なるほどの早撃ちが、盾役たるゼータへと突き刺さる。
「てめえら如きのパーティに付きあう暇なんざねえんだよ!」
 ゼロが紅い光をぎらりと凄ませ、電子の網がジャマーから放たれる。高い精度で前衛を一気に捕まえ、電流が迸った。
「すぐに治すわ!」
 癒しの術を紡ごうとする月見里・カヤ(神秘捕獲巫女・e00927)の指先は少しだけ震えていた。この作戦は、強襲する別部隊の結果にもつながるものだ。そんな大掛かりな作戦に従事するのは久方ぶりで――それでも集中しようと前を見ると。
 ふとカヤの唇が緩んでしまう。ミーガンの姿が、目に入ったのだ。既に無傷でもないのに小さな体にやる気を漲らせ、はちまき代わりの包帯も凛々しく尻尾で素振りなどしている。和むように笑ったら、肩の力が驚く程に抜けた。
「これで大丈夫、――行って!」
 とん、と軽やかに指先が爆破スイッチを押すと、万色の煙が立ち上る。
「ありがとな! さあ、仕事を始めるぜ!」
 痺れが嘘のように解ければ、マユの足取りは軽い。一歩、二歩、三歩目は空へ。羽根を伸び上がらせれば、一気に駆け上がった天空から、細腕でルーンアックスを軽々と担ぎ上げる。通っていく、巨大な魔力。
「しっかりこっちを見てねえと危ないぜ?」
 風を切る音が、威勢良く響く。ゼータの装甲を砕き割り、地面まで罅割れさせる威を示して、マユは地面をしっかり踏みしめる。
 全員が、一丸となり統率された動きで叩きつける挑戦の意味を受け止められぬ程ゼロは愚かではなかった。
「そこまで言うなら、付き合ってやるぜ雑魚。パーティの土産はてめえらの命で頼むぜエ!」
 言うが早いが放たれた散弾は、前衛を包み込む。無数の弾丸は黒く影のよう、踊り狂って蝕む凶悪な攻撃。
 譲れぬ戦いが、始まろうとしていた。

●死闘
 ジャマーから電子の網がマユを中心に襲い掛かり、更には傷口を悪化させるレーザーが肌を焼く。
 ギルボークが動けなくなるのを覚悟で網を重ね受けたかと思えば、花嵐が身を挺してマユを突き飛ばしレーザーへと晒される。
「僕、パーティではちゃんとデザートまで戴く主義なんです。焦らなくてもちゃんとあなた達を皿の上に乗せて見せますよ!」
 ギルボークは挑戦的に叫び未だ戦えると拳を強く握り、また開いて剣を掴む。
 静かな笑みを崩さぬ澪とてダメージは積み重ねられている。すらりと鎌を抜き払い、地を蹴って一気に接敵する。
「手強い相手ですが……であればなおのこと、先に進ませる訳には参りません……!」
 鎌はゼータを貫き、虚の力がどくりと脈動し澪へと生命力を満たしていく。見据える眼差しは、普段の彼女からすれば想像もつかぬ程に冷え切っていて。
「お医者さんが付いてるからね、任せなって」
 銃弾の飛び交う戦場を小器用に岩場を使い飛び回りながら業がギルボークへの傷を傷を手早く癒していく。
「てめえらも邪魔だ! 死にやがれ!」
 ゼロの怒声と共に降り注ぐ炎は業の身を直に襲うが、ふん、とばかり鼻を鳴らして治療の手は止めない。
「――ええ、絶対に落とさせないわ」
 カヤの前に飛び出してきたミーガンはドヤ顔で炎を引き受ける。更にカヤの指示に従い、業へと己の属性を分け与えに行く。
 カヤの方はといえば、色とりどりの爆破を仲間に重ねる。少しでも、攻撃力を跳ね上げに。
「こちらからも、お返しです」
 爆発をバックに援護射撃とばかりミサイルを再度注がせるうつぎの攻撃で一瞬膠着したかに思えるゼータは、味方の治療でまた勢いを取り戻す。
「根競べは、負けません。――見た目は怖いかもしれませんが……痛みも無く、効果は抜群ですよ?」
 打ち込まれた一撃が庇いを擦り抜け、大きくドミニクを削ったのを知れば紫御はすかさず気を乗せた五本の針を彼へと打ち込む。癒しの力は共鳴し合い大きく膨れ上がる。
「おう、ぶちかましたるけェ、ワシにまかしとけ!」
 盾役を先に落とす為に、高火力の敵を後回しにする。それは、味方の回復と行動阻害、そして庇いを最大限に信じた戦略だ。火力役に求められるのは、――一刻も早く落とすこと。
 ブラックスライムが自ら意志を持って、敵を喰らいに行くのに合わせマユが真正面から突っ込む。ルーンアックスを大きく振りかぶり、御業が生み出す炎が彼女の手元でごうごうと炎を撒き散らす。
 ばきり、と罅割れるような音がして受け止め損ねたゼータが一体、真っ二つに爆ぜ割れた。
 次手のジャマーを着実に削る合間にも、ゼロから黒弾が放たれ支援を手厚くしたばかりの前衛から加護を喰らっていく。
「お前、ホント強いね。――あっちに向かわせる訳には行かないな!」
「何度でも、かけ直します。ここが、正念場ですから」
 小さく嘆息混じりに業が再度雷の壁を形成し、紫御は分身を纏わせる。癒しても癒しても、削られ、陣形を崩させる程の火力にサーヴァント達は特に消耗が激しい。
「さーあ、神秘の力付与すっぞ!!」
 戦況は未だ五分、自らを鼓舞するように声を楽しげに上げてカヤは神秘を行使する。ジャマーから放たれる数々の阻害を切り抜けているのは彼女らの功績あってのこと。
「――捕らえました」
 雷の杖を翳して轟かせた澪の一撃が、一体になった盾役をかわしてジャマーへと直撃する。すかざずギルボークが空の霊力を注ぎ込み、雷鳴の勢いは更に重ねられた。好機とばかりうつぎが飛び込むのを痺れの所為か避けることも出来ず、稲妻の如き高速の槍がジャマーの肩を大きく貫く。
「よし、――そこを動くなよ!」
 シスター服を血に染めながらも、マユの唇が弧を描く。身を低く走り込んで距離を詰め、巨大なルーンアックスが袈裟懸けにジャマーを切り捨てた。
「そろそろ、てめェにもでけェ風穴空く頃合いじゃな」
 ボクスドラゴン達が仕掛ける傍らで、ドミニクが挑戦的に顎を上げて指を鳴らせば、残った盾役が爆発に包まれる。
 その一方で、クラッシャーの攻撃を粗方受け止めているのはギルボークだ。痛烈な銃弾を腹部に叩き込まれて膝を折りかけるが、――魂は未だ折れない。強く、なるのだ。護る為に、ならばここで倒れる訳にはいかない。唇を引き結び、萎えた体を叱咤して身を起こす。表情を歪めながらも愛刀を手放さない。
「大丈夫、この傷ならオッサンが治しちゃうからね」
 業が臓腑を抉る傷の深さに眉を揺らすも、医師たるもの動揺は見せない。胡散臭い笑みは崩さずに神速で動く指は、石化すら癒す会心の治療を彼へと齎す。
「はい、まだ動けます。――揺光の瞬き、ご覧あれ!」
 再度叩き込むのは自分を標的にする為の布石。これが無ければ、よりこの戦いは熾烈だったろう。彼だけではない、的確な役割分担、標的の集中。庇い手を敢えて先に剥がしていく戦術――。機運もあり、巧く運用されていく作戦で更に流れを変えたのは、ドミニクの銃弾だった。
「とっときじゃ、アタマで受け止めやがれェ!」
 ショルダーホルスターから抜き払った、もう一丁のリボルバー。重いトリガーを躊躇なく引けば、その一動作だけで放たれる銃弾の勢いは真っ直ぐ頭部へと向かい、弾け飛ばさせる。
 足止めとされた七分を凌ぎ切るのと、ほぼ同じ頃合い。
「なかなか、やりやがるじゃアねえか」
 ダモクレスたるゼロに動揺はない。だが、裂帛の気合は返礼の如く一弾に。最大火力の弾丸が避けきれぬ速度でマユの頭を的確に狙う。触れればただでは済まない銃弾に果敢に立ち向かうのは、澪だ。身を蝕もうとする痺れが咄嗟の動作を遮ろうとするが、折しも紫御が施してくれた分身が体を護る。
「必ず、癒します。行って下さい」
 最前線へと背中を押す声を、紫御は振り絞るような力と共に澪へと向ける。七分耐えたとて、誰にも下がる気はなかった。更に踏み込み、撃破を目指す為に最善を尽くす。
「はい、大丈夫です」
 己の胸に引き寄せるように庇う瞬、微かな笑みすら浮かべて見せる澪は背を大きく穿たれる。痛烈な銃弾は急所を捕らえ、体の中で尚も荒れ狂う。鮮血が彼女の唇から零れ落ちた。
「よく耐えたね、――未だ、治せるよ」
 澪の細い背中を無残に抉る傷跡に、やはり飄々とした笑みで業は治療を続ける。底の無い柄杓で水を汲むように、傷は幾度も仲間達に刻まれ、己の手で癒せる量は嫌に成る程限られている。――それでも、だから、彼は医者だった。相棒たるナースが力を振り絞り崩れ落ちても、己の腕すら石に変じかけていても、医者であることに変わりはない。指は、まだ傷を塞げる。
 綱渡りの戦場で、ミーガンがギルボークへの攻撃を身を挺し庇い、とうとう限界に地へと伏せる。カヤは、それも見ていて。
「私たちを、舐めないで!」
 振り絞るように声を張り上げる。湧き上がる力はルーンの加護を、マユへと宿す。心だって、ひとつも負けやしない。
「ああ、足止めの時間は終わりさ。――二次会はもっと、派手に行くぜ!」
 周囲の空気すら凍り付くの集中。斧を翳す少女に、冷気が纏わりつき、相手との距離を瞬時で詰める。躍動感に溢れる跳躍から、氷の一撃はゼロの体を大きくそぎ取った。
「――訂正する。お前らは、雑魚じゃねエようだ番犬共」
 はじめて、ゼロが皆を見据える。一人一人、個体を認識するように。そして――。
「俺様の、敵だ」
 低く響く声と、ゼータが放つ電子網に合わせて業炎の掃射。重なる攻撃に息を飲んだその先、ゼロのコートは翻り後方へと跳んでいた。
 グランネロスへではない。――離れる、方向へだ。
「――撤退、でしょうか。向こうの状況は未だ分かりませんが」
 冷静にうつぎが告げる。片目を瞑り、アイズフォンで連絡を確かめる間も短く。
「追撃というわけにもいきません。僕達の仕事は他にある」
 ギルボークもまた、口を開く。追えば支援は叶わない。惜しむ心を誰もが持たぬ訳でもないが向かうべきはグランネロスと皆の意見は一致し、足を急がせる。
 巨大なる移動拠点、遠目からでもその威容は直ぐに目に入ったが。
「変形を、始めてます――!」
 紫御が声をあげた通り、グランネロスは轟音と共に部位を組み換えその様相を全く違うモノへと変えていく。そう、巨大な――ロボットに。
 あまりにも存在感のある姿に、けれど立ち竦む者はいない。脱出した仲間達が挑む姿を見れば、なすべきは。
 澪が電撃を、うつぎがミサイルをまずは放つ。応じて仲間達が次々と遠距離攻撃をぶつけていけば、ダメージを着実に積み重ねていける。
「最後の仕上げだ、凱旋の手伝いと行くぜ!」
「デカブツの土手っ腹に穴が開けば風通しもようなるのォ!」
 未だ殴り足りないとばかり、機嫌よく声を弾ませたマユが業炎を思い切り叩きつけに動けば、ドミニクはトリガーを引く。無数にばら撒かれる銃弾と炎が絡み合い、狙い違わず着弾するのが見えた。
 誰もが最後の力を振り絞り、少しでも疾く距離を詰めながらの援護射撃。長いようにも、短いようにも感じる時間の後。
「――グランネロスが」
 業と共に味方の傷を塞いでいたカヤが、呟く声は不思議と爆風に掻き消されず静かに響く。それは、終わりの合図だった。
 猛攻に晒されていた満身創痍のグランネロスは暴虐の風と音に包まれる。あらゆるものをなぎ倒し、巨大なクレーターを刻みながら潰えていく。
 残るのは、――確かな勝利の実感だった。

作者:螺子式銃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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