黙示録騎蝗~暗き行軍

作者:秋月諒

●特殊諜報部族の闇
「……せ、寄こせ寄こせ寄こせ寄こせ……!」
 緑深い森の奥で、その影たちは蠢いていた。
 飢えたローカストの咆哮が木々を震わす。暴れ出した一体の刃は糧を得るその前に、イェフーダーとその部下に取り押さえられ地に伏した。刃を空いた手で払い、イェフーダーが用意したコギトエルゴスムに、グラビティ・チェインを与えられ復活したローカストを見下ろし告げる。
「グラビティ・チェインが欲しければ、自分で略奪してくるのだ」
 追い立てるような言葉に、ローカストが唸る。飢えから落ちた声に特殊諜報部族『ストリックラー・キラー』の長たるローカストは静かに告げた。
「お前が奪ったグラビティ・チェインは、全て、太陽神アポロンに捧げられるだろう」
 ーーと。

●暗き行軍
「皆様、お集まりいただきありがとうございます」
 ケルベロスたちを正面に、レイリ・フォルティカロ(天藍のヘリオライダー・en0114)はそう言って顔を上げた。
「ローカストの太陽神アポロンが新たな作戦を行おうとしていることが判明しました」
 不退転侵略部隊の侵攻をケルベロスが防いだことで、大量のグラビティ・チェインを得る事ができなかった為、新たな、グラビティ・チェインの収奪を画策しているらしいというのだ。
「あちらの作戦は、コギトエルゴスム化しているローカストに、最小限のグラビティ・チェインを与えて復活させ、そのローカストに人間を襲わせてグラビティ・チェインを奪うというものです」
 復活させられるローカストは、戦闘力は高いがグラビティ・チェインの消費が激しいという理由でコギトエルゴスム化させられたもので、最小限のグラビティ・チェインしか持たないとい。
「そうは言っても、侮れない戦闘力を持ちます」
 その上、とレイリは息を吸う。
「グラビティ・チェインの枯渇による飢餓感から、人間を襲撃する事しか考えられなくなっています。ローカスト側としては反逆の心配もする必要も無いということですね」
 仮に、ケルベロスに撃破されたとしても、最小限のグラビティ・チェインしか与えてない為、損害も最小限となる。
「効率的とは、確かに言えるでしょう。ですが、非道な作戦です」
 この作戦を行っているのは、特殊諜報部族『ストリックラー・キラー』を率いる、イェフーダーというローカストらしい。
「そこまで、情報は掴んでいます。ですが……、まずはまずは、復活させられたローカストを迎撃する必要があります」
 勿論いずれは、イェフーダーと直接対決する必要があります、とレイリは言った。
「復活したローカストが出現する地域ですが、人気のない森林地帯から市街地に降りてくることが分かっています」
 襲撃を受けるのは、山間のキャンプ場だ。コテージが立ち並んでいて賑わっているのだという。
「襲撃のルートについては確認済みです。山の斜面を滑り降りるようにしてこちらに向かってきます」
 姿を見失うことはまずないでしょう、とレイリは言った。
 カマキリの姿をしたローカストで、大きな鎌に派手な羽を持っている個体だ。無駄に豪華な羽は広げていればキラキラと輝く。
「目立つんじゃないのか」
「えぇ。目立ちます」
 ケルベロスの言葉にレイリは頷いた。
「追い詰められた身にはその豪華さは圧迫感を与えるものになるんでしょう」
 だが今は、目立つ印だ。
「強力な相手であることはたしかです」
 燃費は悪いが強力なローカストであるということだ。

「滑り降りた先、道路で迎え撃つのが良いと思います」
 道幅は広く、だがその道を突破されればコテージが立ち並んでいるエリアになる。
「今から向かえば……昼頃、襲撃の少し前のタイミングで辿り着くことができます。避難についてはこちらからも私からも連絡をしておきます」
 だが、相手は飢えたローカストだ。避難する人々に興味を示さないとも言えない。
「引きつけをお願い致します。相手の動きは素早く、大鎌を使った攻撃の他、派手な羽を震わせて行う音波攻撃を有しています」
 攻撃に特化しており、回復は持っていない。
「この作戦、成功させるわけにはいきません」
 そう言って、レイリは真っ直ぐにケルベロスたちを見た。
「討伐をお願い致します。ーーでは、行きましょう。皆様に幸運を」


参加者
レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)
春日・いぶき(遊具箱・e00678)
メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)
ユーリエル・レイマトゥス(知識求める無垢なるゼロ・e02403)
サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)
火倶利・ひなみく(フルストレートフルハート・e10573)
朝霞・結(紡ぎ結び続く縁・e25547)

■リプレイ

●山間のキャンプ場
 夏場にしては、随分と心地よい風が頬を撫でた。木々を揺らし、ひゅう、と吹き降りる風は夏場というのに随分と涼しく感じた
「……逃げ遅れている人はいないようですね」
 コテージから視線を上げ、春日・いぶき(遊具箱・e00678)は周囲を見渡した。残っているような人の姿は無い。
「此処は危険だよ。避難を」
 メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)のかけた声に、応える者もいない。どうやら、と口を開いた男に火倶利・ひなみく(フルストレートフルハート・e10573)は、頷いた。
「動けなくなってる人もいないみたい」
 避難は既に完了していると見ていいだろう。吹き抜ける風にひなみくの髪が揺れた。吹く風は強くとも上がる声は無い。ついさっきまでそこにあった日常を背に、守るように立ってケルベロスたちは斜面へと目をやる。
「——」
 マリンブルーの瞳が、す、と細められた。見つけたのはあの煌めき。虹色に輝く羽がローザマリア・クライツァール(双裁劒姫・e02948)の目に映った。
「敵を発見。——右寄りよ」
 告げる声に、レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)は視線をあげた。
「あそこだ」
 大声であげたその声は、相手の注意をひくためのものだ。
「なん……獲物、グラビティ・チェイン……」
 それは低く唸るような声であった。ゆらりとその身を揺らした声の主——カマキリのローカストに、メイザースは雷の一撃を放つ。衝撃に僅かに足を引きーーだがローカストはぐん、とその体を持ち上げた。
「グラビティ、グラビティ・チェインを」
「来ます」
 跳躍に、いぶきが声をあげる。唸る声の主は大きな鎌を手に斜面に着地し、ぐん、とその顔をあげた。
「グラビティ・チェインを」
 最小限のグラビティ・チェインを与えて復活させられたが故に、このローカストは人間を襲撃することしか考えられないという。
(「嫌な戦い方……っていうか、戦わせ方だよね……」)
 朝霞・結(紡ぎ結び続く縁・e25547)は唇を引き結ぶ。
(「こういうやり方がローカスト流ならそれはそれ。終わらせてあげないとね」)
 二度の跳躍の後、斜面を駆け下りたローカストは通りに降り立つ。大鎌を通りに滑らせ、散る火花を視界に、サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)は息を吐く。落とした吐息と共に放たれたのは殺気。ぴん、と張り詰めた空気が戦場を支配すれば一般人は近づいては来ない。
「戦闘準備完了。これより敵ローカストの殲滅を開始します……」
 ユーリエル・レイマトゥス(知識求める無垢なるゼロ・e02403)の静かな声が響く。すい、と視線をあげた彼女の金の瞳に映るのは飢えたローカスト。ガチガチと歯を鳴らし、淀んだ瞳は狂気を乗せた。
「寄こせ、寄こせ寄こせグラビティ・チェインを!」
「来るぞ……!」
 警戒を告げる声が重なる。
 虹色の羽を開き、ローカストが吠える。その飢えた咆哮が戦いの始まりを告げた。

●行先は破滅か飽食か
「寄こせ!」
 咆哮と共に、ローカストが跳躍した。跳ねるように身を前に飛ばしくる相手に、レーグルが踏み込む。邪魔を、と落ちた声にドラゴニアンは口の端をあげる。視線をあげれば日差しを受けるのは山羊の王様「マーコール」の角。かち合った視線の先、ローカストの目に何かが映る。
 それを、レーグルは知っていた。握る拳ひとつ、メイザースは全身を覆うオウガメタルを鋼の鬼へと変幻させーー踏み込む。
(「やれやれ……本当になりふり構わなくなってきたね。申し訳ないけれど君に……いや、違うか」)
 は、と息を吐き、突き出した拳がローカストを穿った。
「ギ、グァア……!」
 衝撃に僅かに体が浮く。だらり、と下げられていた大鎌が持ち上がるのを見据える。
(「君達の「神」にくれてやるグラビティチェインはないのでね。このままお引き取り願おうか」)
 叩きつけられた殺意にメイザースは視線を返す。じゃらり、と地面に描かれるのはサイガの操る猟犬の鎖による陣。力が守護を紡げば、飢えた簒奪者はガチン、と歯を鳴らした。
「邪魔をするナァア」
 咆哮と共に虹色の羽をローカストは激しく震わせた。瞬間、煌めきと高音が前衛陣に向かって弾けた。
「——」
 ばたばた、と血が零れ落ちる。痛みと衝撃に、サイガは息を吸う。声を零すこと無く、だが肩口に乗る違和感はーー。
「石化か」
 痛みと共に落ちた感覚に、拳を握りなおす。きゅ、と落ちた音の傍で「ならば」と振り上げられたのはレーグルの腕。踊るは、紙兵。
「これ以上の、邪魔を……!」
 ローカストの咆哮に、地を蹴ったのは結であった。空で身を回し、流星の煌めきと重力をその足に宿した少女は告げる。
「余所見しないで。私達が相手で不満はないでしょ?」
 にっこりと、結は笑った。釣られるように顔をあげたローカストが、落ちる一撃に腕を前に出す。——だが、一撃の方が強い。
 ガウン、と重い音が戦場に落ちた。
「——ッグ」
 息を詰めるローカストを視界に、結は距離を取り直す。着地と同時に見えた翼はハコのものだ。
「ハコ。ディフェンダーでお願い」
 属性インストールを行ったボクスドラゴンが、結の言葉に頷くように鼻先をあげる。
「セ、寄こせ……」
「空腹のところ申訳ないけど――朝餉は用意してあげられないわ」
 身近な詠唱と共に、ローザマリアの放つ魔法の光線が敵を貫いた。衝撃に、僅かにその身を浮かせながらーーだが、ぐん、と跳ねるようにローカストはその顔を上げる。
「邪魔を!」
 咆哮に、いぶきは手を握る。
「飢えは、お辛いでしょう。理性を失うほどの空腹は、お辛いでしょう」
 望まず、強いられた飢えだなんて、かわいそうに。
「いま、楽にしてあげますからね」
 青年は飢えを知っている。その身が力に目覚めた理由が飢えであったのだ。同情を滲ませ声はおち、上げた視線は覚悟を添えていた。
 同情的であるからこそーー殺してやりたいと、そう思ったから。
「生とは、煌めいてこそ」
 声は静かに、紡ぎ落とされる。白い掌から落ちた硝子の粉塵は、前衛の元へと向かった。血に触れれば、硝子の粉塵は溶ける。傷を癒し、陽光に星を描く煌めきは皮膜によく似たーー盾と、なる。
「邪魔を、邪魔を!」
 唸る声が戦場に響く。晴れ渡った空の下、紡ぎ落とされる怨嗟にひなみくは顔をあげる。
「お腹減ってると、イライラするよね。わたしもお腹減って、タカラバコちゃんのペロキャンを強奪した事あるよ」
「!」
 ひなみくの横、ミミックのタカラバコがパカン、と蓋を開ける。
「あっ、ごめんタカラバコちゃん……」
 でも、とひなみくはローカストを見た。
「これは違うよね」
 飢えを利用した作戦。
「ローカストはお腹が減って死にそうなんだよね。それを利用するなんて、絶対に許せない!」
 同じ仲間にすることじゃないよ!
 ひなみくはく、と顔を上げた。吹く風に靡く髪もそのままに言葉をーー紡ぐ。
「朝が来るよ。獣はもう、目を覚ましているよ」
 羽撃きの音が耳にもぐりこむ。飛翔するように、対象の意識を研ぎ澄ます。さあ目を輝かせろ、さながら射干玉の森に潜む虎の如く。
「【支援プログラム:起動】……、これより黄金の果実を打ち出します」
 言の葉は、研ぎ澄ます力となってユーリエルへと届いた。黄金の果実の力を後衛へと展開する。光が、戦場に満ちた。

●暗き行軍
 戦場には剣戟と火花、そして零れ落ちる血があった。寄こせ、と吠えローカストは十分な鋭さを持っていた。受ける傷は大きい。だが、それに振り回されるばかりではなかった。
「せ、寄こせ寄こせ寄こせ……!」
「羽根の震え……、またあの攻撃が来るわ!」
 気をつけて、とローザマリアが声を上げた。一瞬の煌めきの後——音が走る先はーー後衛か。
「気をつけて」
「は、それしきのことで……!」
 ローザマリアの告げる警戒に、ローカストが笑う。ガチン、と歯を鳴らし、虹色の羽根が一際大きく震え音がいく。
 ——だが。
「なんだ、この程度か」
「!」
 ひなみくの前、庇いに入ったレーグルが視線を上げた。衝撃が肩口を引き裂き、ぱた、ぱたと落ちる血と熱をその身に感じながらも竜は決して倒れることはしない。
「——は」
 息吐き、いぶきの前に立ったサイガが視線をあげる。滴る落ちる血をそのままに、た、と身を前に飛ばせば、結への一撃を受け止めたハコがくん、と顔を上げその口を開いたところだった。放たれたブレスが、ごう、と空を震わせた。
「ックァ、邪魔、を……!」
 するな、と続くはずの言葉はドラゴンの幻影によって焼き尽くされた。炎の主はーー結だ。
「お腹が空くのってしんどいもんね? でも、もう大丈夫……ここで楽にしてあげる」
「ク、ァアア……ッ」
 衝撃に、ローカストは蹈鞴を踏む。その間に、いぶきは薬液の雨を戦場に降らせた。降り注ぐ癒しが石化を払う。
「……」
 相手の攻撃力は高い、とひなみくは思う。
(「強い相手だっていうのは分かってるけど……」)
「攻撃が当たってる……?」
 回復は多くしている。
「ローカストの命中力を下げた方がいいよ〜」
「——えぇ」
 頷いたのはメイザースであった。腕に攻性植物の彼岸花を巻きつかせーーたん、と低く地を蹴る。ざ、と踏み込みの音は静かに落ちた。間合いへと伸ばした手のその先を、宿主の血と魔力を吸い上げて咲く花が伸びる。
「スナイパーでしょう」
 呻くローカストを正面に、メイザースはそう言った。眼前の敵がに、と笑うように動いた。肘をひく動きに、反射的に身を横に飛ばせばさっきまで自分のいた場所を大鎌の一撃が滑っていた。
「寄こせ、満せ!」
 ローカストは吠えた。跳ねるように顔を上げた相手へとローザマリアとサイガの一撃が沈み、蹈鞴を踏んだそこにレーグルの拳が叩きつけられる。
「——グ」
 一撃を、受け止めようと腕を前にローカストが構える。だがーー穿つ竜の一撃の方が、重い。
「グァアア……!」
 地獄化した炎の腕は、一撃に熱を描く。一線、巨大な縛霊手と共に叩き込まれた攻撃にローカストはその身を大きく揺らした。
「我々はグラビティ・チェインを多く持っているぞ?」
 傾ぐ相手に、挑発するようにレーグルは言った。
 敵の攻撃がケルベロス達以外にはいかぬように。
 この地、この場で戦いを終わりとする為に。
 背に守るべきものあれば決して退けぬのだから。
「今一度、汝が牙を受け止めようぞ!」
 レーグルが告げる。
 ユーリエルが中衛へと光り輝くオウガ粒子を放出する。煌めきの中、此処に全ての守護は成った。ならばあとはーー倒すだけ。

●その先にあるもの
「いくよ……!」
 踏み込んだ結が掲げるハンマーがドラゴニック・パワーを噴射して加速した。その勢いを逃すことなく結は一撃として叩き込んだ。
 相手のポジションが分かったのであれば、それ相応の戦い方がある。防ぐことさえ武器に変えて、相手の行動には注意しながらケルベロス達は戦場を駆けた。血は流れた。——だが此処で膝を折るような状況では、ない。
「寄こせ寄こせ!」
 暴れるようにローカストは吠えた。
 その瞳に、声にサイガは思う。彼らとは之で何度目か、と。善悪の観念は無い。
(「之が役目だ」)
 そう己に念じる。だが、胸のひとつ思考が落ちる。
 己と傀儡めいた彼らは本当に何か違うか?
「——」
 縺れる思考、頭痛を振り切るよう、サイガは地獄を呼ぶ。
「よぉくご覧」
 踏み込んだ先、至近のその位置で敵の身に触れるのは地獄の炎。蒼炎模り瞬く間も無く身の内をーー食荒らす。刃も。拳も。信ずるものも。悉く燃え溶ける、ような、在り処を自失す原初の恐怖。
「グァアア……!」
 荒く戦うサイガの一撃がローカストを焼いた。
「残念だろ、折角キレーに生まれたってのに?」
「グ、ァ、終わらぬ、寄こせ!」
 飢えた怨嗟が響き渡り、ローカストは大鎌を振るった。滑る刃は邪魔をするなと振るわれただけか。軽く足を引き、交したサイガの横を抜けたレーグルの一撃がローカストに沈む。
 届いている、といぶきは思った。相手の命中力は確かにまだ高いがーー攻撃力はこちらの方が上だ。例え強力と言われている相手であっても。
「これより敵デウスエクスの防御力、並びに保有グラビティ・チェインを削ぎ落とします」
 戦場に硝子の煌めきがあった。再び紡がれた防御と癒しの中、ユーリエルは告げる。ふわり、と髪の一房がグレーに変わった。
「『蟻型ローカスト因子:起動』……。満ち足りる事を知らぬ小さき者共よ、その無限の食欲で以って対象の全てを貪り喰らい、そして滅ぼせ」
 大量の鋼鉄製の蟻が、ローカストへと嗾けられた。無数の牙に噛みつかれ、ローカストは暴れた。顔を上げ貴様、と落ちたその声が次の一撃を紡ぐより早くローザマリアは斬霊刀を鞘に収める。構えすら解き、そして劒を振るう腕のみを重力から解放する。
 それは一瞬の動作であった。
 淡く光る花弁が舞いーー次の瞬間、ローザマリアの刃は敵を細断していた。
「ル、ァア……ッ」
「その花弁は手向けの葬送華よ――今度こそ、眠りなさい」
「我は、我は、まだ……ッ」
 踊る花弁の中、メイザースはローカストの間合いへと踏み込んだ。とん、と静かな足音に、は、と相手は顔をあげる。逃げるように身を引くがーーだが、刻まれた制約が跳躍を許さない。
「太陽神の使徒が「太陽」に焼かれるというのも皮肉なものだねえ?」
 伸ばされたのは左腕。寄生させた彼岸花から放つは魔力を練り上げて作り出した光球。与えるは「太陽」の名と、夜と闇の幕引きの任。
「な……!」
「――さあ、そろそろ「おやすみ」の時間だよ」
 放たれた太陽がローカストを焼き払う。ぐらり、と大きく体を揺らしグラビティ・チェインを求め続けていたローカストは倒れた。

 戦いが終われば、心地よい風がケルベロス達を撫でる。
「敵ローカストの因子の回収を完了、解析終了後、新たな技の構築に入ります……」
 ユーリエルの声が響く中、いぶきは皆の応急手当に回っていた。今すぐ倒れるようなことは無いが、皆それぞれに傷は多い。
「お疲れ様でした」
 大丈夫だと告げるサイガに、いぶきはそう声をかける。
「……もしわたしがお腹すいたら。郁くんは分けてくれるかなぁ」
 手当を手伝いながら、ふとひなみくは思った。どうだろうか。答えを教えてくれる人は今ここにはいないけれど。
「さて、行くか」
 レーグルはそう言って顔を上げた。戦いが無事に終ったことをキャンプ場にも告げるべきだろう。
「民間人への被害ゼロ……皆さん、お疲れ様でした」
 ユーリエルの声が静かに響く。ふいに、上空で強い風が吹いた。木々が揺らげば差し込む日差しは強くなる。
「終わりは同じ、ならな」
 光の中、ローカストは灰と消える。その姿にサイガは前を見て歩き出した。
 守り抜いた日常の元へ。終わりを告げた先を見送って、ケルベロス達は歩き出した。

作者:秋月諒 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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