黙示録騎蝗~跳ね回る飢餓の災厄

作者:青葉桂都

●悲しむべき復活
 森の中で、ローカストのひと群れがなにかを行っていた。
 先日行われたローカストとの戦争に関わった者なら、中心にいる1体の名がイェフーダーだとわかったかもしれない。
 ローカストの特殊諜報部族ストリック・キラーを率いる隊長だ。
 イェフーダーは地面に宝石を置いた。
 倒れたデウスエクスが変じる宝石、コギトエルゴズムだ。
「さあ、蘇るがいい」
 グラビティ・チェインを与えると宝石はゆっくりと人型に変わっていく。
 蛍光グリーンの表皮を持つバッタのローカストは、現れると同時に胸をかきむしった。
「足りない……これでは足りない! もっとグラビティ・チェインをよこせーっ!」
 バッタの脚力を発揮して跳躍しようとしたローカストを、イェフーダーの部下たちが素早く取り押さえる。
「あちらに人里がある。欲しければ、自分で調達してくるのだな」
 酷薄に告げると、イェフーダーは部下たちをバッタから離れさせた。
 木を飛び越えるほどに跳躍し、指された方角へ脇目もふらずに向かっていく。
「さあ、行くのだ。そして死ぬまで太陽神アポロンへ捧げるグラビティ・チェインを集めるがいい!」
 背後からかけられたイェフーダーの言葉は、ローカストの耳には入っていなかった。

●ヘリオライダーの依頼
 集まったケルベロスたちに挨拶をして、石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は語り始めた。
「ローカストの太陽神アポロンが新たな作戦を開始したようです」
 不退転侵略部隊の侵攻を防がれて大量のグラビティ・チェインを得られなかったため、今度は別の方策で収奪を企てているらしい。
 コギトエルゴズム化しているローカストに必要最低限だけグラビティ・チェインを与え、飢餓状態のローカストに人間を襲わせようというのだ。
「復活するローカストの戦闘能力は高いのですが、その分消費も大きいためコギトエルゴズム化されていたようです」
 最低限のチェインしか持っていなくても、侮れない戦闘能力を発揮するはずだ。
 飢餓感から人間を襲ってグラビティ・チェインを得ることしか考えられないため、反逆される心配もない。倒されたところで、失うのは与えた最低限のグラビティ・チェインのみ。
「敵にしてみれば、効率を重視した作戦というところでしょう」
 作戦を行っているのは『ストリック・キラー』という舞台を率いるイェフーダーというローカストらしい。
 いずれはこの敵をどうにしなければならないだろうが、まずは復活させられて人間を襲おうとしているローカストを倒さねばならない。
「目標は飛騨山脈の餓鬼岳で復活し、長野県内の市街地に向かって移動しています。おそらくは登山道の入り口あたりで迎撃が可能でしょう」
 敵はバッタを擬人化したローカストらしい。体は蛍光グリーンの表皮でおおわれており、天をつくような巨大な触角と体に不釣り合いな異様に太くて長い脚を持っている。
 非常に強靭な脚力を有し、それを利用した攻撃手段が3つあるらしい。
 まずはローカストトライアングルキック。敵を蹴り飛ばした後、強靭な脚力を用いて反転し、更に蹴りの追撃をかける。
 それからローカストハイパーウェーブキック。大地を蹴った衝撃が地面を伝って遠距離にいる者を吹き飛ばす。衝撃は空中にも届き、麻痺させる。
 最後にローカストスクリューシュート。敵をつかんで回転しながら跳躍、敵を地面に叩きつけて体と防具を破壊する。
 いずれも単体への攻撃だが、非常に高い破壊力を秘めている。
「敵と遭遇する登山口付近に一般人はいません。とはいえ、あまり戦場が移動すると人のいる地域に行ってしまうかもしれないので注意したほうがいいかもしれません」
 飢餓状態にある敵が、ケルベロスとの排除を優先するかどうかはわからない。なるべく人がいない場所で戦うほうがいいだろう。
「最低限のグラビティ・チェインしか与えていないということは、ケルベロスに倒されることも織り込み済みなのでしょう」
 芹架は言った。
「ですが、使い捨ての戦力で戦果を上げさせるわけにはいきません」
 よろしくお願いしますと、彼女は頭を下げた。


参加者
九石・纏(鉄屑人形・e00167)
巫・縁(魂の亡失者・e01047)
水晶鎧姫・レクチェ(ルクチェ・e01079)
リヴカー・ハザック(幸いなれ愛の鼓動・e01211)
ミツキ・キサラギ(御憑巫覡・e02213)
浦葉・響花(ウェアライダーのブレイズキャリバー・e03196)
狼森・朔夜(ウェアライダーのブレイズキャリバー・e06190)

■リプレイ

●登山口で
 周囲に一般人の姿がないことを確かめて、ミツキ・キサラギ(御憑巫覡・e02213)は軽く息を吐いた。
「とりあえず、ヘリオライダーの言ってたことは確からしいな」
 少女にも見える狐のウェアライダーは、見た目にそぐわぬ口調で言葉を吐く。
「迷い込んでくる方がいないとは限らないわ。注意しておきましょう。もっとも、敵ももうここに来るみたいだけど」
 浦葉・響花(ウェアライダーのブレイズキャリバー・e03196)は近づいてくる敵の気配に耳を澄ませていた。
 到着のタイミングはどうやらほとんど同じだったらしい。
 響花だけがとらえていた敵の立てる音はやがて、ケルベロスたち全員の耳に届く。もとより敵に木々を揺らす敵の足音を隠す気もないようだ。
「ようやく不退転部隊の掃討が終わったかとおもえば今度は諜報部族か……黙示録騎蝗もまだまだこれからだな」
 ミツキが呟く。
 しかも、今回の敵は紛れもなく正真正銘の捨て駒だ。
「まあ捨て駒だろうが敵に代わりはねぇ、被害が出る前に止めるぞ」
「飢えたバッタを解き放つなんて、恐ろしいです。すべてを食べられる前に、倒さないとですね」
 水晶鎧姫・レクチェ(ルクチェ・e01079)の言葉をかき消すように、身の毛もよだつ唸り声までもが聞こえてくる。
 前進していたケルベロスたちが足を止めた。
「チェインを……グラビティ・チェインをよこせーっ!」
 枝が折れる音とともに現れたローカストは、ケルベロスたちを見て叫んだ。
 飢餓から来る狂気を、その叫びにはっきりと感じ取ることができる。
「同族の命さえ、奪うためにしか扱えぬのか。今更連中のやりくちや性質を議論することもないだろうが……」
 リヴカー・ハザック(幸いなれ愛の鼓動・e01211)が顔を歪める。
「不愉快だな、すべてが」
 裏切られたローカストを見やり、彼女は武器を構え直す。
「無理やり叩き起こされて、使い捨て同然の扱いか、まあ、同情はする。しかし、容赦はしない。こちらも食われたくはないんでね」
 九石・纏(鉄屑人形・e00167)は顔を隠す眼鏡の奥からそう告げた。
 利用されるだけの敵に同情する者はケルベロスたちの中にも少なくはない。
 だが、同情できる相手だからといって手心を加える者は1人もいない。「悪いが討たせてもらうぞ、文句があるなら無謀な策をしでかす大馬鹿者に言え」
「気の毒だが……倒すよりほかどうしようもない」
 巫・縁(魂の亡失者・e01047)が右に回ったのを見て、狼森・朔夜(ウェアライダーのブレイズキャリバー・e06190)が左に回り込む。
 ケルベロスたちは敵を逃さぬよう、包囲する布陣を敷いていく。
「此処を抜かれたら、ただの蝗害に成果てる……こんな酷い作戦、成立させてたまるか」
 ノーザンライト・ゴーストセイン(のら魔女・e05320)は愛用の弓を敵に向けた。
 なにを考えているのか表情からは読めない彼女だが、なにも考えていないわけではないし、なにも感じないわけでもない。
 戦士として殺してやるのが唯一の慈悲だと考えていた彼女を、否定する者はいないだろう。
 ケルベロスたちの包囲が完成するよりも早く、敵は高らかに跳躍する。
 とっさに行く手をふさいだリヴカーが、その手につかまれていた。

●バッタは跳ね回る
 渦を描きながら上昇していくローカスト。
 リヴカーは猛烈に振り回されながらも、自分の首をつかむ敵から目を離さなかった。
「虫は虫らしく、大自然の中で朽ちてもらおう」
 急速に自分の体が降下していくのを感じながら呟き、彼女はすぐに訪れるであろう衝撃に備えて身構えた。
 錐もみ状態で加速して、サキュバスの後頭部が大地に叩きつけられる。
「! 女性の服を破るなんて、ハレンチです、反省してください」
 衝撃に服が引きちぎれたのを見て、レクチェが顔を赤らめた。
「なに、女性を狼藉者から護るのが盾役の使命だ。名誉なことだよ」
 立ち上がり、微笑んでみせる。
 支援するドローンを作り始めたレクチェに顔を向けていたのはわずかな時間。
「さて、不愉快千万ではあるが、私が相手をしてやろう」
 あらわになりかけている小さな胸を水着のような服で隠す……いや、隠したようで隠してはいない。
 自然の匂いの中に混ざる香水の香りは、サキュバスが放つ癒しの霧や惑わす瞳の力と反応しあって敵をリヴカーへと引き寄せるのだ。
「あ……うあ……」
 再び彼女へと手を伸ばそうとするローカストの気を引こうとしているのはリヴカーだけではなかった。
 縁と朔夜も鉄塊剣を思い切り振りあげる。
 さらりと飛び蹴りで飛び込んできたノーザンライトに合わせて、縁が剣を叩き付ける。
「飢えているのか? ならば狙い先は決まっているだろう、こちらに来い!」
 重力を操る蹴りで足を止めさせた敵に、避けることはできなかった。
 オルトロスのアマツも動きを止めたところに駆け込んできた。縁の背後に隠れようとするノーザンライトとすれ違う。
「アマツ……」
 縁が何ごとか指示を出そうとしたが、オルトロスは言葉を待つことなく敵を切り裂きながら駆け抜けていく。
 攻撃を終えた後も、役目はわきまえていると言わんばかりに攻撃に備えていた。
「グラビティが欲しければ、私たちを倒して行け」
 朔夜の言葉には力がこもっていた。
 小細工なしに薙ぎ払った鉄塊剣をローカストは前腕で受ける。力任せに振り抜こうとする朔夜に、逆の手で腕を支えて対抗。刃が止まった瞬間に敵は後方に飛びのいた。
「がおー!」
 接近したミツキが近距離から放つ咆哮に敵が一歩後ずさる。
 さらに撃った響花のレーザーは、紙一重のところで跳躍されて木々の一本を凍らせるにとどまった。
 纏は仲間たちが攻撃している間に狙いを定めていた。
「ミニレクチェ達、その身を盾として、みんなをかばってね」
 レクチェが生み出した防御用のドローン群が前衛たちを守っている。
 大したことないように振る舞ってはいるが、最初に投げ飛ばされたリヴカーのダメージは決して少なくないようだった。
 また、ノーザンライトに足を止められてなお、敵は何人かの攻撃をかわした。
 あれが町までたどり着くと、きっと後味の悪いことが起こるだろう。
 御霊を奉納した巨大な腕を振り上げ、狙いすましたタイミングで纏は一気に接近。
「逃がしはしない」
 固めた拳で殴りつける。
 網状の霊力が広がっていき、敵を緊縛した。
 縛られながらも放たれた連続蹴りが縁を吹き飛ばす。
 勢いのままローカストは枝の上に飛び乗った。
「そんなに空腹なら、わたし達を喰ってみろ。霜降りグラビティチェインの自信はある」
 ノーザンライトはケルベロスを見下ろす敵に呼びかけた。
 別の獲物を探そうとしたのか、それとも一時避難しただけか、あるいは特に理由もなく勢いあまって登ってしまっただけなのか。
 わからないが、木の上から包囲を突破されるのだけは避けなくてはならない。
「なんで俺のほうを見たんだ、ノーザンライト」
「……気のせい☆ 地球人の縁が一番霜降りだなんて思ってないし、誘導するつもりももちろんない」
「いいけどな。狙われるのは望むところだ」
 会話を聞いているのかいないのか、ローカストの昆虫に似た顔からはわからない。
「しも、ふり……チェイン……よこせぇーっ!」
 ただ、敵はそう吼えて跳躍した。
 飛び降りたところに、リヴカーが氷結する螺旋を叩き込む。
 縁、リヴカー、朔夜の3人が3人とも敵の注意を引く技で戦い、攻撃を分散させてしのぎつつ戦うのがケルベロスたちの策だった。
 ノーザンライトの役目は、彼らがしのぎ続けられるように徹底して攻撃力を削ぐこと。
 再び包囲網を構築するように移動しつつ、魔女は機械弓を敵に向けた。
「外さない……。受けろ、心蝕む呪いの矢」
 引き金を引くと漆黒の矢が飛んでいく。
 魔毒の結晶体であるその矢は、敵に命中すると粒子化し、敵の内部に侵入する。
 飢餓の狂気の中にあってすら毒は敵の意思を挫き、攻撃を弱めるのだ。
(「唯一の問題は……高い原料が要ること……」)
 ぼうっとした表情を変えぬ魔女が、矢を作るために使う希少物質の価格に思いを馳せていることに、気づく者はいなかった。
 朔夜は地を通じて襲う衝撃波から縁を守った。
 狼の耳を持つ彼女の、小柄な体が吹き飛びそうになる。
 だが、金色の瞳でしっかりと敵を見据え、鉄塊剣を地に突き立てる。
 思わず、言葉にならぬ気合が漏れていた。
 攻撃後の隙を狙って仲間たちが仕掛けていく。
「さあ、今度はこちらの番だ。行くぞ!」
 朔夜もまた、鉄塊剣を振り上げて走った。敵は朔夜の言葉には反応しない。グラビティ・チェインに関わること以外は耳に入っていないのだろう。
 だが、そんな敵に対しても……そんな敵だからこそ、朔夜は正面から敬意をもってぶつかってやりたかった。
 足を止めたローカストの懐に入り込み、一度は防がれた鉄塊剣を今度こそ力いっぱいに振り切る。
 感情の読みにくい昆虫と同じ形をした目が朔夜に向けられる。
 うめき声をあげながらケルベロスを狙う敵を、昨夜は真っ向から見据えた。

●災厄は倒れ伏す
 3人と1匹の防衛役がそれぞれに注意を引いているおかげで、攻撃が1人に集中することなくしのげていた。
 ミツキは身にまとうオウガメタルを変形させて枝にひっかけ、空中に体を持ち上げる。
 跳躍した敵を追うためだ。
「よ・こ・せーっ! くわせろーっ!」
 攻撃をしようとされようと、ローカストの口から吐き出されるのは飢えの苦しみを訴える声だけだった。
 悲痛な声にミツキはわずかに顔をしかめる。
 敵といえども、哀れみを覚えずにはいられない。
 ノーザンライトを始めとする仲間たちの攻撃で足止めされて、ローカストはにすでに最初の頃見せていたほどの回避行動はできなくなっていた。
「悪いが飢えを満たしてやることはできねえ。せめて苦しみを長引かせないよう、全力で倒してやるぜ」
 ミツキの体が空中にある間に着地した敵へと、得物からエネルギーを噴射して加速。鈍器を痛烈に叩きつける。
 打撃を受けた敵に、響花が体をつかまれ、投げられる。
 彼女は守りを固めた防衛役ではない。一撃でかなりのダメージを食らってしまう。
「纒さん、ダブル・ヒール・ドローンです!」
 レクチェはドローンを作り出した纏に声をかけた。
「ああ……そうだね。頼むよ、水晶鎧姫さん。……行け、ドローン達よ」
 気合の入ったレクチェとは対象的に、低い声で纏がドローンたちを放つ。
 一歩遅れて放ったレクチェのドローンが、仲間たちをかばうように展開して編隊を組む。
 レクチェの観察するところ、敵は距離を取ろうとすることこそあったが、逃げるつもりはないようだった。
「あれは敵……違うあれは獲物よ」
 ドローンに囲まれた響花が更に自分自身に言い聞かせて、傷を癒やしていた。
 最初から精神的には追い詰められていたローカストだが、今や体力的にも限界が近いようだった。
 縁は飛び蹴りを正面から受け止めた。
 呪いの矢を受けた敵の攻撃が、最初受けた時ほどの威力を発揮していないのが縁にははっきりわかる。
「それでも、やめることはできないのだな、お前は」
 レクチェや纏が回復してくれたおかげでまだ何回かは耐えられる。
 リヴカーの攻撃に続いて、ノーザンライトが獣化した足で敵を蹴り飛ばす。
「絶妙の角度、高さ……撃墜して」
 独り言のように呟くその言葉は、縁への合図だ。
「ああ、いい位置だ、私も続くぞ!」
 剣のない鞘を振りかざして縁は跳んだ。
「一は花弁、百は華、散り逝く前に我が嵐で咲き乱れよ。百華ーー龍嵐!」
 振り下ろす一撃はローカストを撃墜し、大地ごとその体を割る。
 華のごとき血をしぶかせて跳ねた敵の体を、さらに持ち上げるように鞘を振るって打ち上げる。
 木の幹に叩きつけられて……よろめきながら立ち上がった敵は、もう限界が近いのがはっきり見て取れた。
 仲間たちの追撃が残り少ない体力を削り取っていく。
「爆ぜろ」
 接近時にばら撒いておいた電磁爆弾を纏が爆発させる。
 爆炎の中からローカストが飛び出してきた。
 最後の力を振り絞った蹴りを朔夜は重力をまとったエアシューズで蹴り返す。
「さて……、そろそろその不愉快な顔を引っ込めて貰おうか」
 リヴカーの手にした銀弓が雷を纏って敵を貫く。
 響花はブラックスライムを捕食形態に変形させた。
 ボロボロで、動きも鈍った敵を見ても可哀想だとは思わない。所詮は殺し、殺される関係だ。
 ミツキが咆哮を放ち、縁とノーザンライトの蹴りが相次いで敵を吹き飛ばす。
 自己暗示で高めた狩りへの欲求が、的確に敵の落下地点を響花に教えてくれる。
 落下してくる場所で、ブラックスライムが大きく口を開いた。
「まあ、サヨナラしてあげるのも優しさなのかもね?」
 人を喰らわんと暴れていたローカストは、スライムに食われて断末魔の悲鳴を上げた。

●出没注意
 呑まれたローカストが転がり出る。すでに致命的な傷を負っているのは明らかだった。
 最早動かぬ敵のために、朔夜が静かに目を閉じて黙祷する。
 ノーザンライトは常備しているお菓子を、ローカストの口元に持っていく。
「求めるものではないけど。そのまま死なれると後味悪い」
 差し出されたそれを、ローカストが噛み砕く。
 そのまま事切れた敵が食べようとしたのかどうか確かめる術はないが、彼女は受け取ってくれたのだと考えることにした。
「意外に優しいんだな、ノーザンライト」
「そう……?」
 縁に声をかけられて顔を上げた魔女の表情は、いつも通りなにを考えているか読みにくいものだった。
「無事に終わったけど、まだ安心できないわね。 『バッタ人間の出没注意』の看板を用意しておかなきゃ」
「何度も出てこられてもたまんないけどな。ま、出てきたら倒すけど」
 響花の言葉にミツキが不敵な表情で笑った。
「周りに建物はないけど、傷ついた木はヒールしておいたほうがいいのかな?」
 怠そうに纏が言う。
「まあ、しておくにこしたことはあるまい」
 リヴカーが近くの木に向けて霧を生み出す。
(「……このような命でも、その骸を受け入れるのだろうな。 大地は、この星は、偉大なのだから……」)
 木々を癒しながら彼女は思う。
 やがて、周囲や自分たちの手当を終えると、ケルベロスたちはその場を後にする。
「さらばだ。最早飢餓に苦しむこともあるまい。 この星に抱かれ、眠るがいい」
 最後にリヴカーは、振り向くことなくローカストの死体に告げた。
「ローカストも追い詰められて見境がなくなってますね……。必ずや、決着をつけてみせます」
 レクチェが空を見上げて、静かに拳を握る。
 きっと、他のケルベロスたちの多くも、同じことを感じていた。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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