強襲グランネロス~ベータ迎撃戦

作者:のずみりん

「……グランネロスに襲撃?」
 移動拠点『グランネロス』から奪われたグラビティ・タンクと強奪者たちの追跡に出撃したエクスガンナーの一部隊は更なる緊急報に足を止めた。
「ベータ、了解。ドクターエータ、詳細情報を要請……ふむ」
 通信にベータと名乗った白服のエクスガンナーは追跡中の山林と部下たちを確認し、情報を吟味するようにサングラスをいじる。
「……指令、ワン・セブン・エイト、発行。ガンドロイド9に現地指揮権を委譲、追撃を続行しなさい。ガンドロイド1より8、私に同行。グランネロス救援に向かいます」
 ベータの左目が赤く輝くと、黒服の機械人形たちが無言のまま整列した。機械じみた顔にソフト帽を伏せ、拳銃を挿した姿は何処か時代的なギャングにも見える。
「油断も隙もないとはこの事か……」
 指示を終了し、ベータは意外と人間くさく唇を歪めた。
 
「ローカスト・ウォーから生き延びたローカスト『阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達』が、ダモクレスの移動拠点を襲撃した、そうだ」
 リリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)の声が棒読み気味のぶつ切りなのは、資料を読み上げているためである。
「うん。阿修羅クワガタ、さん、なのだ。わざわざ強敵のダモクレスを襲撃してグラビティを強奪しようという考えをナイスガイという事に異論はない、が」
 とりあえずそこは置いておこうとリリエ。
「今回の話の中心はダモクレスの移動拠点『グランネロス』と駐屯していたダモクレス達の方だ」
 移動拠点『グランネロス』は、それ自体が全長五十メートルの巨大ダモクレスであり、エクスガンナーシリーズと呼ばれる強力なダモクレスの拠点となっている。
「本来ならば難攻不落の難敵だが……『阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達』が、グランネロスに蓄えられていたグラビティ・チェインを奪ったことで攻略のチャンスができた」
 グラビティ・チェインを貯蔵したタンク、更に中枢コアも奪われたグランネロスは廃墟の街に停止した状態で、エクスガンナー部隊を追跡に展開してしまっている。
 丸裸と言っていい今のグランネロスなら、電撃的な制圧も十分可能なはずだ。
「今回の作戦で重要なのはエクスガンナーたちの足止めだ。グランネロス襲撃の連絡が入れば、エクスガンナーたちも救援に帰還しようとするだろう。皆には制圧作戦の完了まで、エクスガンナーたちを抑えてもらいたい」
 エクスガンナーはケルベロスの『ガンスリンガー』に似た強力な精鋭ダモクレスであり、配下として多数の量産型ダモクレスを従えている。
 帰還されてしまえばグランネロス制圧部隊への大きな危機になるだろう。
「撃破は……不可能ではないが、難しいだろう。今回は足止めだけでも十分だ。無理は禁物だぞ、ケルベロス」
 
 前置きをして、リリエはエクスガンナーたちの姿を示す。
「皆に頼みたいエクスガンナーはベータという個体……『エクスガンナー・ベータ』と呼ぶか。コイツと、その配下のガンドロイド部隊だ」
 ブロンドのオールバックに白スーツ、サングラスの伊達男。ライフルを手に黒服姿のガンドロイドを従えた姿は、ピカレスク映画から飛び出してきたような決まりぶりだ。
「判明しているベータの能力は火力と作戦立案……前線指揮官タイプのダモクレスだ。ライフルによる射撃のほか、独自のドローンも装備しているらしい」
 まだ隠された能力もあるかもしれないが、部隊の指揮統率で真価を発揮するタイプなのだろうとリリエは推測を述べる。
「ガンドロイドは……まぁ見た目通りだろう。射撃戦向けの量産型ダモクレスだ。ベータが指揮している個体はマシンピストル……連射可能な大型拳銃で武装しているようだ」
 命中重視の連射で削り、精密射撃で止めを刺しにくる……一体一体の性能はケルベロス一人と同等かやや上程度だが、足止め任務では厄介な相手となるかもしれない。
「頼みたい足止め時間だが、七分だ。戦闘が始まるのはグランネロスへの攻撃開始から十分ほど……そこから七分、何とか凌いでくれ」
 グランネロス制圧まで足止めできれば理想だが、七分以上の時間を稼げたなら撤退という選択肢もある。状況に応じて判断してほしいと言った後、リリエは声を落とす。
「……これは不確かな情報だが、移動拠点グランネロスは戦闘形態に変形する可能性がある。万が一だが、戦闘形態に変形した場合は攻略チームへの支援が必要かもしれない」
 もちろん、優先すべきはエクスガンナーたちの足止めだ。失敗すればグランネロス攻略チームへの直接の危機となってしまう。
 だがグランネロスは地球で活動するダモクレスの中でもかなり有力な集団だ。撃破できれば大打撃を与えられるだろうが、それだけに敵も様々な手を打ってくるに違いない。
「頼むぞ、ケルベロス」
 リリエの声は祈るように、少し低く感じられた。


参加者
ジャミラ・ロサ(癒し系ソルジャーメイド・e00725)
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)
緋川・涼子(地球人の刀剣士・e03434)
狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)
鯖寅・五六七(猫耳搭載型二足歩行兵器・e20270)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
マルガレーテ・ビーネンベルク(銀十字の盾・e26485)
フェニックス・ホーク(炎の戦乙女・e28191)

■リプレイ

●其は呼び合う鉄と鉄のように
 山林より踏み出した伊達姿のダモクレスが足を止めた。
 中心に立つ白服の合図で、いかにもな黒服……ガンドロイドの部隊の懐から拳銃が飛び出す。それを掴むかどうかと同時。
「ここから先には行かせない!」
 愛らしくも凛々しい声で光の粒子が切り込んだ。突撃一閃、弾幕を切り裂いた輝きがフェニックス・ホーク(炎の戦乙女・e28191)へと姿を変える。
「迎撃!」
「おーっと! 相手は一人じゃないっすよ!」
 号令と共に拳銃がフェニックスを向くが、先に火を噴いたのは、影だ。
 狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)の忍術『孤村流忍術・月影彩花』が同化して生み出した質量ある影の砲火が反撃を封鎖して懐に飛び込む。
「ふふふ!強そうな敵がいーっぱい! っと!」
 だが台詞を待たず、白服の男のライフルが林を貫く。預かったウイングキャットの
『まろーだー先輩』と共に楓は表へと飛び出した。
「どうやら見た目だけじゃあなさそうっすねー……楓さんは強敵と戦えるの楽しみっす!」
「それはそれは、身に余る光栄、恐縮至極」
 強襲をかわされた楓の狐耳から血が一筋。追撃しようとするガンドロイドを手で制し、慇懃無礼に会釈する白服……これが噂のエクスガンナー、エクスガンナー・ベータか。
「突っ込んでくれれば楽だったんすけど……ここは仁義を切るのが礼儀っすかねー?」
 迎撃と見切っての対応か。あるいはまだ疑っているのか?
 フェニックスたちの強襲にも乱れず対応したダモクレスの部隊を鯖寅・五六七(猫耳搭載型二足歩行兵器・e20270)は油断なく睨みつけた。
「化猫任侠黒斑一家末端構成員、猫耳搭載型二足歩行兵器鯖寅五六七と羽猫マネギ! 地球産グラッチェをギャングするギャング共のタマ、ギャングしてやるっす!」
「理解不能しがたい文化ですね」
「それだけっ!?」
 ちなみにグラッチェとはグラビティチェインの略らしい。
 声に挙げて読みたい見事な仁義の切りっぷりであったが、ベータの返事は淡泊な銃弾だった。
 格好のわりにノリとスジは通さないエクスガンナーに、マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)が五六七たちを庇い出る。
「エクスガンナーシリーズ。面識はないが、精鋭と聞いている」
「その姿……ほう」
 増加装甲の傾斜で制圧射撃を受けたマークの姿に、ベータはぽそり呟く。
「名前は聞いたことある……ってのも、お互い様かしら?」
 様子をうかがう橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)にベータが唇を歪める。
 元は地球を侵略する量産型ダモクレスだったマークの姿を敵も知っていたのか、あるいは不倶戴天のレプリカントたちとの戦いに何かを感じたのか。
 それ以上の読みあいは割り込んだガンドロイドの銃声に阻まれた。
「ちっ……釣れないねぇ!」
 すかさず抜き打ちで応戦する芍薬に、マルガレーテ・ビーネンベルク(銀十字の盾・e26485)も大盾『Kirchenlied』を構えて身を守る。
「コマンダータイプでありながら守りに身を呈す……面白い事をしますね」
「……よくわかったね。けど、今の僕の戦いは護り癒やす事なんだよ」
 二人の対話に緋川・涼子(地球人の刀剣士・e03434)の心が緊張に張り詰めていく。
 こちらが観察しているのと同じように、エクスガンナーたちもケルベロスを観察し、分析してくる。
「エクスガンナー……厄介な敵になりそうね」
 ガンスリンガーを模した精鋭ダモクレス、エクスガンナー。人と同じように思考し、行動する相手が強敵でないわけがない。

●対決、エクスガンナー
「辛い戦いになる、けど――絶対に負けないよ。ルドルフ!」
 マルガレーテの声にウイングキャット『ルドルフ』が風を起こす。邪気を祓う清浄な羽ばたきが傷を癒し、戦場の空気をかき混ぜた。
 漂い出す鉄と硝煙の香り、ジャミラ・ロサ(癒し系ソルジャーメイド・e00725)は静かに息を吸い、不敵に目を細める。
「この空気、この物量……久方振りの戦場らしい戦場でありますね」
 淡々と、しかし記憶が呼び起こす血の騒ぎに応えて彼女の眠れる兵装が目を覚ます。
『SYSTEM COMBAT MODE ENGAGE』
「こちら迎撃班、戦闘を開始するであります」
 機械的に切り変わるマークの声をバックに、ジャミラは短く通信を入れた。
 対象を認識。全兵装のリミッターを解除。照準を固定……比喩抜きで瞬く間にジャミラのセンサーが戦場の情報を視聴覚から送り込んでくる。
「古来より火力は戦場を支配し、砲兵は戦場の女神と称えられたであります。無限の硝煙と弾幕の流れの中で溺れてください」
 手のライフルにミサイル、仕掛け爆弾。ありとあらゆる火力が一点に集中する『エクストリーム・ストリーム』が突出したガンドロイドを爆炎に沈める。
 これで撃破できれば火力が一つ減らせる。言い得て妙だが、防御の実施において重要な手段もまた火力なのだ。
「さすがに一撃とはいかないようね……なら!」
 砲火を突き破り、黒服を捨てた機械の腕が銃を振る。ここまでは予想済みと涼子は手にした斧を振り下ろす、が。
「素晴らしい。が、戦場を支配するものは火力だけではありません」
 ベータの声に、横合いから叩きつけられた質量が刃筋をずらす。装甲が火花と不協和音を散らして刃を跳ねのけた。
「ドローンか!」
「なら力比べっすよー!」
 涼子が叫んだ妨害の正体に、ならばと楓は新たな力を振り回す。ガンドロイドが連射する拳銃を打ち返す超鋼金属の大槌、その名も。
「楓さん特製すぺしゃるうるとらでらっくすはんまー、食らいやがれっす!」
 地面を蹴ったウェアライダーの身体が、後方から噴射されるドラゴニック・パワーで加速される。
「っ、迎撃!」
「させない!」
「っすよ!」
 新たな力に集中しようとするダモクレスの銃口だが、ケルベロスたちも待ちはしない。
 横凪に振るわれたフェニックスの腕が砲身をなぎ、五六七の声に彼女の『マネギ』とフェニックスの『まろーだー先輩』が弾幕を逸らす風を呼ぶ。
「まずはひとーつ!」
 トップスピードで突入した楓のハンマーが真正面からガンドロイドを叩き潰した。

●交錯する思惑
 戦場にうねるような低周波が響いた。
「WARNING! WARNING! UNKNOWN INCOMEING!」
 マークの戦闘システムがアラートを鳴らす。『DMR-164C』バスターライフルの冷凍砲をかわし、ベータの背から無数の子機が飛び立っていく。
「ヒールドローン……じゃねぇな。コイツは……」
 芍薬に応えるようにテレビウム『九十九』が赤い液晶の顔を明滅させる。
『判明しているベータの能力は火力と作戦立案……独自のドローンも装備しているらしい』
 ヘリオライダーからの情報にあった、これがその補助ドローンか。
「反省しましょう……データをはるかに超える力です、ケルベロス。戦力の逐次投入は避けたいところでしたが」
 エンチャントは有用だが、ごく短期かつ優勢な戦場ではその一手を攻撃に回した方が手早く片付く事はままある。
 平押しで手早く片付け、グランネロスへと急ぎたかったのだろうベータの目算は焦りか、あるいは侮りか。
「敵を知る能力が欠けていたようですね。戦場での戦力評定ミスは致命的であります」
「同意しましょう……前半だけね。お嬢さん!」
 声と共に引き金を引く瞬間、ライフルを手にしたジャミラの腕が弾かれた。
「指令、エイト・トゥ・エイト」
 ベータの瞳が赤く光る。ガンドロイドたちの動きが変わった。素早く交錯し、複数方向からの連射が叩きつけられる。メイド服が裂け、火花が散る。
「火力が……うわっ、先輩!」
 カバーしようとするフェニックスたちにも三方向からの集中射撃が襲い掛かる。
 額を強打され、『まろーだー先輩』の重量級な身体が吹っ飛んだ。
 かわせていた弾丸が当たってくる。かすめていた弾丸は直撃弾に。
「通信が増大している……管制、情報共有、これがキミの能力?」
 大盾の銀十字に『Berkana』……癒しのオーラを付与し、マルガレーテは守りを大きく広げた。呟きの問いに眼前の敵は答えないが、確信するに十分な弾痕が周囲を抉る。
 指揮統制のための子機、さしずめドミナンスドローンとでも言ったところか。
「負けはしない……臆病や、不安、女々しい足踏みは少しの悲惨も救う事が出来ない……」
『Keep the breath』祈るように構えられたマルガレーテの盾は、押し込まれかけた戦場に少しだが均衡をもたらした。
「今よ……守っても長くは持たない、踏み込むわ」
「いえっ、さー! ちっこくてもこのボディ、ドローン如きにゃ負けねぇっすよ!」
 覚悟を決めた涼子の気の高まりに高密度の弾幕がスライドしてくる。庇うマネギが紅く染まった白毛を散らしてよろめく。
「えいせいへー! えいせいへー!」
 五六七は叫んだ。
「……って。あちき自身が、ヒールドローンになるのだった」
 面倒くさいは進化の母。『おいしゃさんごっこ』とはよく言ったもので、五六七の肉体からいかにもな手術道具が飛び出してはマネギの傷を直に癒す。
 ヒールドローンよりも素早く確実に。更にその効果は共鳴し、マネギの癒しをも高めていく。
「こ、こんなもんでどうっすかねー!?」
「十分よ。一振りで絶ち斬ってあげるわ」
 弾丸の雨を縫い、突き込むように惨殺ナイフを切り上げ。離脱する涼子を追おうとしたガンドロイドが火花を散らし、人形のように静止した。
「む……神経系への攻撃ですか……」
 ベータがスーツの懐からヒールドローンを飛ばす。その顔はまだ負けはしないという自信を保っていたが、厄介な敵への焦りもにじんで見えた。
 銃撃の引いた隙に芍薬は腕時計を確認する。
「(六分経過……第一目的は達成とみていいわね)」
 次の問題は第二目的……眼前のベータとガンドロイド部隊をどれだけ撃破できるか、だが。
「お帰りにはまだ早いんじゃないですか、ご主人様ッ!」
 思考を中断し、再起動しようとするガンドロイドに赤熱した拳を叩きこむ。ここまできた以上、後はやれるだけをやるだけだ。

●パーペチュアル・チェック
「迎撃班より攻略部隊、足止めは成功、引き続き撃破を目指し作戦を継続するであります。オーバー」
「してやられた、というわけですか」
 芍薬の合図にジャミラは攻略班へと通信を入れる。その行動はベータに作戦目的を確信させるに十分だったのだろう。
 ベータの尊大な澄まし顔が目に見えてひきつった。
「おっと……ま、もう間に合わないっすけど? いやぁ、いい顔っすねー」
 挑発を交え、五六七は戦況を確認する。戦果はガンドロイドが二体……いや、三体か。会話を続ける間も激しい戦闘は続いている。
「MODE ASSAULT READY……ON FIRE」
 強引なまでのマークの突撃、カスタマイズされた『DMR-164C』バスターライフル下部のパイルバンカーが銃弾の雨を突破してガンドロイドの頭部を撃ち抜く。
「まだ動くの!? なら……天を翔けよ! 鳳凰の翼!」
 なおもガンドロイドは離脱するマークに掴みかかろうとするが、すかさずフェニックスが炎の翼から喚び出した火の鳥を叩きつける。
「ち……奪えるものは確実にいただきますよ!」
 ドミナンスドローンを巻き込んでの大爆発がベータのスーツを汚す。荒げる声に続くのは猛烈な集中射撃だ。
 敵数は確実に減らしているものの、ケルベロスたちの負傷も比例して増していく。
「く……耐えて……ルドルフっ。まだ……!」
 盾となり続けたディフェンダー、サーヴァントたちに蓄積した被弾が限界を超え始めた。地に伏せたルドルフを庇い前に出るマルガレーテも痛々しく傷つき、足跡に点々と血跡が続いている。
「入れ替えの頻度があがってきたっす。面倒っすね」
「あと一、二体くらいは喰いたいっすけど……」
 シャッフルするように小刻みに動くガンドロイドのかく乱を注視しながら五六七は変化を報告する。
 ハンマーを構え直す楓には有言実行の自信があったが、代償となるだろう被害は無視するには重い。
 密度を増した数分の攻防。攻め合いと治癒。千日手の様相を見せ始めた消耗戦だったが、それは意外な形で幕切れとなる。

「……ベータ。任務、了解」
 戦場の騒音の中、低い声は妙に響いて聞こえた。
「そちらもコールかしら、ご主人様?」
 瞬く仕草はアイズフォンによる通信だろう。芍薬は素早く察し、観察する。グランネロスの側で動きがあったのか? 攻略成功か、それとも失敗か。
「……ここは勝ちを譲るとしましょう、ケルベロス。総員!」
 意味を問う間もなくベータのライフルがフルオートで地面を叩く。掃射の勢いと砂煙のかく乱の中、ガンドロイドたちが一気に身を引くのを涼子は見た。
「……追撃、できる?」
「勿論……と、いいたいところだけど。正直キツいね」
 涼子の問いかけに応えながらマルガレーテは膝をつく。
 首を回せば芍薬の『九十九』がドンマイ! と『応援動画』でサーヴァント仲間たちを癒しているが、立ち上がれそうなものはいない。
 防御を重視した構えもあり、後に残る怪我は少なかったが想定した被害は大幅に上回っていた。
「迎撃班より攻略部隊……」
 ベータと部隊の撤退方向はグランネロスとは逆方面、また通信は新たな指令を受けたようにも見えた。攻略班へ撤退と報告の通信をジャミラが入れる。
 グランネロスでの戦闘も大詰めのようだ。これから支援に向かうと伝えはしたが、恐らくは間に合わないだろう。

「……ちょっと不完全燃焼というか、かっこつかない終わり方っすねー」
 楓の目前でグランネロスとの戦いは終わろうとしていた。
 戦闘モードに変形したグランネロスに攻略部隊と支援するケルベロスたちの攻撃が突き刺さり、その巨体を追い込んでいく。
 巨大ダモクレスの最期の力が爆発し、その巨体を消し去っていく。その爆轟と閃光の暴力は中途にいた八人にも十分すぎる威力を伝えていった。
「SYSTEM REFORMATION……いや。まだ終わりには早いな」
 戦闘モードを解除したマークが、人間味を取り戻した声で答えた。
 グランネロスは破壊され、拠点のエクスガンナーたちも倒されたが、問題は生き残ったエクスガンナーたちだ。
 ベータは明らかに陥落前のグランネロスから指令を受け取っていた。恐らくはグランネロス失陥を予想した司令部からの、その後の指令を。
「エクスガンナー……ベータとはまた戦うことになるでしょうね」
 涼子はベータの様子を思い返し、呟く。次の戦いは今回以上に厳しいものになるだろう。

作者:のずみりん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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