黙示録騎蝗~蟷螂之太刀

作者:久澄零太

 とある山の奥深く。コギトエルゴスムにわずかなグラビティチェインが注がれ、一陣の風が吹く。
「相変わらず穏便なのか血の気が多いのか分からんな」
 来ると分かっていれば備えられるものだ。復活した者が動き出す前に部下に押さえさせたイェフーダーは蘇ったローカストを見下ろした。言葉の一つも発せず、暴れることなくイェフーダーを見据えているローカストだが、周囲は夏の夜だというのにうすら寒ささえ感じさせる殺気を放っている。
「グラビティ・チェインが欲しければ、自分で略奪してくるのだ。見ろ」
 イェフーダーが示したのは、木々の間から見える町の灯。キラキラと輝くそれは、グラビティチェインが不足している彼の目には美味しそうな御馳走にも見えた。
「あれは地球人達が夜を照らす光だ。さぁ行くがいい。存分に殺し、存分に喰らえ」
「……」
 部下を下がらせれば、何事もなかったかのように町に向かって去っていくローカスト。足音も立てずに去りゆく背を見送り、イェフーダーは不敵に笑う。
「お前が奪ったグラビティ・チェインは、全て、太陽神アポロンに捧げられるだろう」

「皆、大変だよ……」
 大神・ユキ(元気印のヘリオライダー・en0168)は沈痛な面持ちで口を開いた。
「不退転侵略部隊は覚えてるかな? あの作戦を皆が防いだから、ローカスト達が新しい作戦を考えたみたいなの。コギトエルゴスムにほんのちょっとだけグラビティチェインをあげて、お腹を空かせた状態で復活させて人を襲わせるみたい」
 一見すれば、大して動けない相手にトドメを刺すだけの簡単な仕事にも思えるが、そうはいかないことはヘリオライダーの表情が如実に伝えている。
「そのローカストがコギトエルゴスムになってた理由は、グラビティチェインをたくさん使っちゃうからなの。でもそれって、それだけ強い力を持ってるってことでもあるよ」
 ふと、少女は目を足元に落し、顔を番犬達から隠した。
「こんなローカストだけど、どうやら捨て駒みたいなものなの。ちょっとしかグラビティチェインを渡されてないから倒されても向こうの被害もちょっとだけ。しかも、この作戦を指揮してるローカストもいるみたい。いつかは、そいつとも……」
 僅かな、沈黙。彼女はパン! と頬を叩くと顔をあげ、コロコロと地図を広げてとある田舎町を示した。
「敵はこの山から降りてきて、この町の人を襲おうとするよ。出現地点は分かってるから、山の中で迎撃して!」
 いつまでも不安がってはいられない。そう自分に言い聞かせるように、ユキは真っ直ぐな瞳を番犬へ向ける。
「敵の名前はカリキリ。カマキリみたいなローカストで、二本脚に二本腕、二本の鎌を持ってるよ。物凄く速くて、一瞬で連撃を叩き込んだり、素早く回り込んで肉を喰いちぎってきたり、目に見えないレベルの一閃で腱を断ち斬ったりしてくるの。予備動作として、普段は畳んでる鎌が居合斬りの前に鯉口を切るみたいに、ちょっとだけ揺れるからそれを見逃さないで。たとえみんなでも、直撃を食らったら一撃で戦えなくなるかも知れないの」
 説明を終え、再び押し寄せる不安に飲み込まれたのか、ユキの瞳が微かに揺らぐ。
「相手は凄くお腹が空いてるかもしれないけど、それでも凄く強いの。お願いだから、無理だけはしないで。絶対に……また、会おうね?」


参加者
萃・楼芳(枯れ井戸・e01298)
ビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)
井伊・異紡(地球人のウィッチドクター・e04091)
フィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)
空舟・法華(ほげ平・e25433)
ヒビスクム・ロザシネンシス(メイドザレッド・e27366)
北條・計都(神穿つ凶兆の星・e28570)

■リプレイ

●そこに救いなどありはしない
 とある山中。月明かりだけが木々の合間から差し込む夜の帳の中、番犬達は狼の群れの如く息を潜めて獲物を待ち構えていた。
「会話はできない、か」
 事前に渡された資料の一節を思い返す井伊・異紡(地球人のウィッチドクター・e04091)はそっと目を伏せる。カリキリもまた、捨て駒に選ばれてしまった被害者の一人。叶うのなら和解したかったが、そもそも話ができないのでは意味がない。
「うぅ……助けて……」
 北條・計都(神穿つ凶兆の星・e28570)はフラフラと姿をさらし、比較的木の少ない開けた場所へ倒れ込む。
「熊が……熊が出たんです……助けを呼んでください……!」
 瀕死の一般人を装い、月の逆光で姿がよく見えていないカリキリに手を伸ばせば、スッと片脚を引いたのが見える。
「死と希望を象徴する主の花よ……その花言葉に刻まれし呪詛を開放せよ……」
 木の上で息を殺し、掌に乗せた呪われた弾丸に丸めた人差し指を添えるヒビスクム・ロザシネンシス(メイドザレッド・e27366)は勘付かれぬよう、静かに祝詞を捧げる。
「スノードロップの花言葉、俺はお前の死を望む……!」
 指先を撃鉄代わりに鉛弾の尻をぶっ叩き、狙うはカリキリの首。
(お嬢さん特注の弾丸だ。とっときな!)
 一瞬で距離を詰め、計都に手を伸ばすカリキリめがけて迫る弾丸。白い尾を引いた風切り音に、甲高い音が続く。
「にゃろ、お嬢さんの弾丸を斬りやがった!?」
 完全に隙だらけに見えたカリキリだが、畳まれていた鎌を素早く開き、迎え撃つように弾丸を両断する。しかし。
「だがそいつは、ただの弾じゃねぇ!」
 二つに割れた弾丸がカリキリの背後で繋ぎ直されるように重なり、大きく弧を描いて舞い戻る。
「オラ! 数の暴力を見せてやんぜ!!」
 直撃した弾が甲殻に弾かれ、傷を残しながら火花を散らすと同時にヒビスクムがライトを点灯。
「餓えるのは辛いだろうけれど、人を襲っていい理由にはなりませんよね。個人的に刃物に少し嫌な思い出があるから、その払拭も兼ねてあんたを叩き潰すけどいいですよね?」
 照明に一瞬視界を奪われた隙に計都がスイッチオン。ジャコッとパーカーからマスクがせり出し顔を隠す。
「吹き飛べ……!」
 手をかざし、見えざる鎚を思念するが……グラビティの活性を感じない。
「チッ!」
 本来の作戦からずれてしまうが、過ぎたことを気にして撃破されてはそれこそ笑えない。すぐさま身を丸め、跳ね起きるようにして顎を蹴り飛ばす。しかし踏み止まり反撃せんとする彼へ向かうように、木々が捻じ曲がった。
「穿て、【四奪】!」
 入り組んだ位置に身を潜めていた萃・楼芳(枯れ井戸・e01298)が植物に道を開かせ、砲台に取り付けたi-686を点火。即席の滑走路を駆け抜けて、風切り音を響かせる高速の拳の軌道を逸らし、その速度を重ねた重力の杭を打ち込みカリキリの腕に負荷を返す。
「何という速度……」
 それでもなお、カリキリの方が速かった。片腕を弾いている間に逆の腕による拳が楼芳の鎧をぶち抜き、腹を抉っている。彼を蹴り飛ばして腕を引き抜いたカリキリが他の番犬を先に潰そうとするが、ウルが炎を吹きつけて注意を逸らさせはしない。再度楼芳を狙う異形の前に、空舟・法華(ほげ平・e25433)が割り込んだ。


●相棒を盾に
「貴方は、利用されているんです。たとえグラビティチェインをお腹いっぱい食らっても……!」
 例え伝わらなくとも、真実を知ってほしい。法華の想いは届かず、手刀を持って右脇腹を深く斬り裂かれ、カリキリを返り血に濡らすが……鉄臭さとは違う異臭がする。見れば、傷は深いが致命傷には程遠く、仕込まれていたペイントボールが転がった。
 血に混じった蛍光塗料が光り、ライトを当てなくてもカリキリの鎌の動きが見えるようになり、ゾゾ・シュレディンガー(被染・e00113)は見切りが楽になったと鼻で笑う。
「腹減ってんのに奪われる餌を探すのもみじめなもんだな」
 狙いやすいように、とあえて急所を開けて体中にライトを装備した法華による照明を、カリキリの背後を取ったことでもろに受けるゾゾだが、目が眩むような素振りすら見せずにカリキリを踏んで隙を作りながら計都の下へ。ミスを補うようにグラビティチェインを叩きこみ、一撃の威力を底上げさせる。
「人間程じゃないけど、活きの良いグラビティチェインが此処に有りますよ」
 ビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)の声を発する、巨大なアジ。餌と認識してか、単に敵と認めてか、素早く踏み込んでアジを粉砕するカリキリだが……砕かれた食用魚はモザイク状に崩れ落ち、繋がり、鍵盤状の結晶は黒く細長い、回遊型アジを形成する。
「なめろう……超鋼拳!」
 拳を振り抜いた懐に潜り込み、一本釣りの如く顎を殴りつけて打ち上げた。自身もまた釣られたかのように跳ね、ナメビスとスイッチ。彼女を庇うように目の前に現れた赤い弁当箱をデウスエクスは叩き落とし、一撃で亀裂を入れる。
「ナメビスくん!?」
 相棒の危機に悲鳴に似た声を上げるビスマスの前で瀕死の箱竜にトドメを刺さんとする拳を弾丸が掠め、ビリビリと神経を痺れさせてその軌道を逸らした。
「中距離は慣れないね……!」
 量産銃Lostを速射してナメビスからカリキリを引き剥がす異紡が舌打ち。しかしカリキリが飛び退くうちにフィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)は判断に一瞬迷うも、楼芳へ駆け寄り、手荒ながらも傷口を縫合。
「うーん……結局コイツ、僕らが居なかったとしても人殺して戻ったら仲間に殺されるってコトだよね? 獲ってきたグラビティチェインのために……ま、どのみち僕らが引導渡してあげるだけの話、ではあるんだけど」
 ケラケラと笑って見せるフィー。それは味方への鼓舞を込めた空元気だった……自身を含めて。耐久性が番犬に劣るサーヴァントを盾に置いても、今回の敵相手では一撃耐えられるか否か、というところ。早急に手を打たなくては瓦解すると気づくことは、後衛で全体を俯瞰していた彼女には容易い事だった。
「クソッ、なんでこんな時に……!」
 戦術を崩してしまった計都は焦りながらも、狼狽えるような無様な真似はしなかった。戦線が崩れる前に決着をつけるべく、振るわれる拳を掻い潜り素早く踏み込む。それはナイフ一本で敵と渡り合う為に身に着けた、特殊な歩法。相手の脚の間に自身の足を置き、多少避けたところで逃がしはしない必殺の一突き。
「さっさとぶっ倒れろカマキリ野郎!」
 瞬時に硬質化させた破軍でさえ亀裂を走らせる、文字通り鉄拳の一撃でカリキリを殴り飛ばし甲殻にヒビを入れた。
「おっしゃ、吹っ飛べ!」
 ヒビスクムが後方へ飛び、木に足をついて膝をバネに、自身を回転する弾丸としてローカストへ迫る。狙うは、主が託してくれた弾丸の傷跡。
「お嬢さんのような馬鹿火力はねーが、託された以上は勝って帰らねえとな!」
 つけられたそれは微かな風穴。しかし、それで十分。主のつけた傷に従者の拳がぶつかり、メギィ。鈍い音を響かせて大きく陥没させる。
「今のうちに……!」
 ケタ外れの硬度を誇る外殻を変形させられ、内臓への苦痛にカリキリがたたらを踏めば、その隙に法華が中衛に陣を描き、加護を与える。それに乗じて楼芳は前衛の前に浮遊機を展開。傷を癒しながら浮遊機に射線を塞がせる。しかし、それが目障りだったのだろう。ローカストは浮遊機を駆る彼へと肉薄。
「ガブリン!」
 ヒビスクムの声に、傷の言えないナメビスに代わってガブリンが盾になろうとするが、食いつかれ、肉を引きちぎられて消えていく。
「おいおいふざけんなよ……!」
 消滅したガブリンが己の内に帰ってくることを感じながら、ヒビスクムは再生したカリキリに冷や汗を流した。

●守らば散るなら攻めるのみ
「くっ、回復を許しましたか……!」
 ビスマスは板状に展開したソウエンに飛び乗り、大地を駆ける。
「皆さん、一気に畳みかけますよ……やられる前に、決着をつけましょう!」
 ソウエンの後方から薄く光を展開。それを波代わりに、森の中に輝くビッグウェーブを呼ぶ。銀色の津波を前に飲み込まれていくカリキリだが、鎌の一つを振るい引き裂いた。ふざけた切れ味を誇る得物に、波から更に跳び上がったビスマスの姿が映る。
「ガイアグラビティ生成……」
 月光を背にその身をグラビティの鎧で覆っていく彼女を前に開いた鎌を閉じ、カチリと少しだけ開いた。
「おっとそいつは抜かせないよ?」
「これ以上怪我人を増やすのは許さないからねぇ?」
 心臓のように鼓動を持つ、緋色の光をこぼすロッドを構え、フィーが突っ込む。現状では回復の意味がない。そう判断した彼女は自身もまた攻め手に加わり、雷を纏う得物を叩きつけて鎌を押し戻そうとするが押し返され、カリキリは本を投げ上げるゾゾに迫る!
「……おっし、でかした相棒」
 実に柔らかな、弾力ある体を貫手で貫通されて消えていく水琴。澄んだ鳴き声を残してゾゾのグラビティチェインへと帰っていく箱竜が作った隙を無駄になどしない。
「俺と相棒、二人分だ……!」
 中空で開いた本から放たれる光条に飲み込まれるローカスト。全身から白煙を上げる彼に、影が落ちる。
「馬の亡霊の如く蹂躙し……暴れ狂え……」
 左肩に馬の頭を象った栗色の装甲に身を包み、三日月のように淡く輝く馬蹄状の円刃を振りかざした。
「サクラホフテッド・チャクラムッ!」
 天より舞い落ちる金の円刃と、地より迎え撃つ銀の湾刃がぶつかり合い、激しい火花を散らしてその一部だけ昼間のように明るく照らしながら拮抗。
「消えていく。失っていく。焔によって焼けていく」
 飛び散る小さな炎を前に、異紡の胸に蘇るのは『あの日』の記憶。
「全能なる神は失われ独り立ちの時は告げられた。古き時代は終わり新しき時代が始まる」
 己の独唱を持って古き物語は語られた。演目は喪失の追憶。今ここで、過去を再演する舞台の幕が上がる!
 胸に手を添える異紡の前で、焼ける、灼ける、ヤケテイク……喪失の記憶を歴史の記録として引き出させ、今再びの業火をここに呼び起こす。記憶の炎に炙られるカリキリと円刃だが、金だった刃は段々その輝きを桜色に変えていく。まるで、真っ赤だった肉の鉄分が空気に触れ、その色を和らげていくように。
「お盆は過ぎちゃいましたけど、馬に連れられせめて穏やかに……!」
 ビスマスの願いを受けてか、炎の中から骸の馬が具現する。荒々しく嘶き……労うようにそっと鼻先を寄せた。命を吸い取られるように脱力したローカストが、燃え盛る中に崩れついに膝をつき……カチリ、甲殻がこすれる音がした。

●散りゆく刃は椿が如く華やかに
「楼芳さん、鎌来るよ!」
 微かな蛍光塗料の揺らめきと轟々と燃える炎の喧騒の中に響く異音を見逃さなかったフィーは素早く小瓶を構える。
「翠は安寧を齎す色……何にせよ安全第一、ってね?」
 どれだけの意味があるかなど分からない。それでも備えずにはいられない。それが癒し手たるフィーの役割と矜持。
「サーヴァントの皆が頑張ってくれたものねぇ。番犬まで倒れるなんてあっちゃいけないよ……」
 投げられた薬瓶から翡翠の液体が楼芳に降りかかり、その身に盾を描く陣が浮かび傷を塞ぐ。その直後、一閃。
「ぐ、ぬぅ……」
 浮遊機を犠牲にして、盾の陣に守られて、くると分かっていた一撃に備えてなお竜人の身は大きく切り裂かれて鮮血を散らした。
「まだ、だ……!」
 敵の攻撃を引き受ける身として、倒れるわけにはいかない。意地と根性だけで楼芳は踏み止まり、足元に真っ赤な水たまりを作りながらも荒い息を吐きながら立ち続けて見せた。
 対するカリキリもまた満身創痍なのは明白。全身に傷を刻まれ、熱に煽られて立っているのもやっとなのだろう。それでもなお、極限状態に追い込まれ、生存本能だけで……生きたいという想いだけで、立っている。既にふらつく足取りで再度鎌を振るわんと備えるローカストの前に、法華が歩み出た。
「もう、終わりにしましょう」
 太刀筋を見れば、彼が本来は誇り高き剣客であったことは見て取れた。だからこそ、利用されていると理解しているのかいないのか、醜く意地汚くも生きようともがく様を見ていられなくて……法華は隠し持ってきた刀を腰だめに構えた。
「せめて居合蟷螂の名に相応しい最期を私達と共に。悔いを残さぬよう、戦い抜いて散って下さい」
 鯉口を切る法華に、カリキリもまたスッとそれまでの死に体が嘘のように揺らぎなく構え、炎の熱と熱帯夜の暑さでさえ凍てつかせるような殺気を放つ。
「居合いアタック番外編、いざ勝負!」
 フッと炎が消えた。
「あっ……」
 一瞬で場所を入れ代わり、互いに刃を振り抜いた二人。法華は肩から脇腹にかけてを深く斬り開かれ、ライトは砕けてボールが転がる。ゆっくりと倒れる彼女からはとめどなく血が溢れ……その傍らに、斬り捨てた鎌が突き刺さる。
「……」
 刃を失い、血を垂れ流す肩口を見つめ、カリキリは法華に迫り、斬りおとされた鎌を抜き取ると……何を思ったのか、計都に向かって投げた。「嫌な思い出くらい、乗りきって見せろ。そのための餞別だ」。そう言わんばかりの様に固まる彼の前で、カリキリは法華の髪をそっと撫で、柔らかな微笑みを湛える。
「ありがとう、戦士として逝かせてくれて」
 小さな言葉を残し、居合蟷螂は霧散してしまった。
「法華……しっかりしろ……!」
「いや、楼芳さんもね? 結構ザックリいったよねぇ」
 敵の消滅を確認した楼芳が駆け寄り、浮遊機で治療に当たる傍ら、フィーが彼の傷口にどう見てもヤバそうな液体をかける。不穏な香りと怪しい煙が上がってるけど、急速に傷が繋がってるから大丈夫。多分、恐らく、メイビー……。
「こんな事して何ですけど、アポロンを逃がさなければ黙示録騎蝗には……」
 馬型の武装が消え、青い装甲を解除し、桜色の髪を夜風に揺らすビスマス。カリキリが最期に消えた場所、法華の側に桜肉のなめろうと彼岸花をそっと捧げると、彼女もまた意識を取り戻した。消えたローカストと、突き立つ大鎌を見て事態を察した法華はそっと顔を伏せる。
「私は……私たちは……彼を、救えたんでしょうか?」
「救えたさ。きっと、な」
 楼芳の言葉に、顔を伏せたまま震える少女はやがて目元を拭い、笛を取り出した。
「どうか、安らかに……」
 地より天に昇る龍の嘶きの如く、低く重くも、どこか神々しく澄んだ、高らかに響く音色が夜の森に響き渡る……。
(やべぇ、すごく行きにくい……!)
 そんな中、計都は兜を外すまでビスマスの事をずっと男だと思っていたことを謝罪しに行きたいのだが、こんな状況で言いだせるわけもなく、マスクの下で一人百面相をしているのだった。

作者:久澄零太 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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