強襲グランネロス~創造に長けた女傑、動く

作者:質種剰


 薄暗い森の中を、十数体にも及ぶであろうか、ダモクレスの集団が忙しなく前進している。
「捕まえたらタダでは済まさんぞ……」
 シルクハットに黒いスーツ、青白い肌が特徴的なダモクレスや、黒尽くめの装いの中に赤いゴーグルだけが不気味に光るダモクレスが、我先にと草木を踏み締めて突っ走る中、彼らを統率しているダモクレスが歯噛みする。
「必ずやコアとタンクを取り返してみせる……阿修羅クワガタさんめ……!」
 阿修羅クワガタさん——そう、あの阿修羅クワガタさんだ。
 ローカスト・ウォーを生き延びた阿修羅クワガタさんと気のいい仲間達が、移動拠点型ダモクレス『グランネロス』を襲撃した。
 あまつさえ、中核コアとグラビティタンクを奪って逃走したと言うのだから、ダモクレスも当然見過ごさない。
 故に、拠点に居た『エクスガンナー』9体と配下のダモクレス達が、阿修羅クワガタさん一味を追跡すべく飛び出していった訳だ。
 ダモクレス達を指揮するふわふわした金髪の女は、エクスガンナー・デルタである。
 赤に紫のアクセントが艶かしい生地に金縁で飾ったコートを着て、とてつもなく高いヒールのブーツを履いている。
「グランネロスがまた襲撃に遭ったですって!?」
 突然、デルタの緑色の瞳が驚愕に見開かれた。
「ドクターエータ、詳細情報を……全く、何て事なの?」
 どうやら、基地から通信を受けたらしい。黒い爪先が苛立たしげに土を抉る。
「貴方達は阿修羅クワガタさんの追跡を続行、私はグランネロスに戻ります……ガードロイド2体は私に同行なさい!」
 エクスガンナー・デルタの指示により、ダモクレスの中でも無骨な全身鎧に身を包んだ護衛型——ガードロイド・アインが、素早く彼女の後を追った。


「ローカスト・ウォーで生き延びたローカストである、阿修羅クワガタさんが、気のいい仲間達と共に、ダモクレスの移動拠点を襲撃したようであります」
 小檻・かけら(袖の氷ヘリオライダー・en0031)が、集まったケルベロス達を前に、説明を始める。
「ダモクレスの移動拠点は、グランネロスという名の全長50mに及ぶ巨大ダモクレスであり、その内部を拠点としてエクスガンナーシリーズと呼ばれるダモクレスが活動していたのであります」
 阿修羅クワガタさんが、グランネロスを襲撃したのは、グランネロスに蓄えられていたグラビティ・チェインが狙いだったと想定される。
「うふふ、弱い人間を殺してグラビティ・チェインを奪うのでは無く、強敵であるダモクレスを襲撃してグラビティ・チェインを強奪してしまう辺り、阿修羅クワガタさんがナイスガイと呼ばれる所以かもしれないでありますね♪」
 勿論、襲撃を受けて、グランネロスの中枢コアとグラビティタンクを奪われたダモクレス側も黙っていない。
「最低限の護衛だけをグランネロスに残し、エクスガンナーシリーズの全戦力を阿修羅クワガタさんの追撃に出したみたいであります。これはまたとない好機でありますよ」
 その好機を最大限に生かすべく、今回グランネロスの攻略を行う事になった。
「しかし、グランネロスが襲撃されたという連絡が入れば、追撃に出ていたエクスガンナー達が、グランネロスに戻ってきてしまい、攻略は失敗してしまうであります」
 それを阻止する為、帰還しようとするエクスガンナーを迎撃して足止めする役割をお願いしたい、とかけらは言う。
「グランネロス制圧まで時間を稼ぐ事が出来れば、作戦は成功となり、敵は逃走していくでありましょう」
 敵は、精鋭のエクスガンナーだけでなく配下として量産型のダモクレスを従えているので、戦力的に勝利するのは難しいと考えるが、撃破も不可能ではない。
「ただ、無理に撃破を狙って敗北した場合、グランネロスを攻略している仲間の元へエクスガンナー達が敵増援として合流してしまうので、まずは、敵の足止めをしっかり行ってくださいましね」
 かけらはそう忠告した。
「さて、皆さんに戦って頂くのはエクスガンナー・デルタと、配下ダモクレスのガードロイド・アインが2体。合わせて3体でありますが、どちらも結構強そうなので油断なさいませんように」
 エクスガンナー・デルタは、青い遠隔誘導端末を用いた遠距離攻撃
『デルタガラノス』で攻めてくる。
 複数人に命中しては威圧感を齎す、理力に満ちた魔法攻撃だ。
 また、手にした刀で『デルタクシフォス』なる技も浴びせてくる。
 単体へ追撃を加えてダメージをいや増す、頑健な斬撃である。
「稀に、ガードロイド・アイン単体をそのユニット製作能力で改造し、体力を回復させる事もありますのでお気をつけくださいね」
 ガードロイド・アインは、両手に携えた武器を用いて、リベリオンリボルバーと物理で殴るに似た攻撃をしてくる。
「敵との戦いは、グランネロスの襲撃が始まってから10分程度後となります。グランネロスの攻略が順調であるなら、7分以上足止めしたところで、役割を果たした事になりましょう」
 グランネロスが撃破されるまで足止めできるのが理想だが、7分以上時間を稼いだ上でならば、撤退と言う選択肢もあるので、状況に応じて判断して欲しい。
「精鋭のエクスガンナーの足止めに失敗すれば、グランネロスを攻略している部隊が危機に陥るかもしれないであります。皆さんの御武運をお祈りするでありますよ」
 かけらはケルベロス達を激励してから、更に補足する。
「移動拠点グランネロスは、戦闘形態に変形する可能性があります。万が一、戦闘形態への変形が確認された場合は、グランネロスを攻略しているチームの支援へ向かう必要があるかもしれないでありますよ」


参加者
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
フォート・ディサンテリィ(影エルフの呪術医・e00983)
スウ・ティー(爆弾魔・e01099)
レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)
テレサ・コール(ジャイロフラフーパー・e04242)
ニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)
白刀神・ユスト(白刃鏖牙・e22236)
アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)

■リプレイ


 森の周縁部。
 ケルベロスによる襲撃の連絡を受けたエクスガンナー・デルタと配下が、グランネロスへ急行すべく最短ルートを取るのは必定。
 それ故、足止め班たる8人はグランネロスと森を結ぶ直線上に迎撃位置を定め、じっと待機していた。
「自分は未熟とはいえ、大事な足止め仕事の一助となってみせるで御座るよ」
 フォート・ディサンテリィ(影エルフの呪術医・e00983)が、時代がかった口調で決意を語る。
 施術黒衣と白く長い嘴のついた仮面が独特の雰囲気を醸し出すウィッチドクターで、頭のコルドバスハットがよく似合うフォート。
 黒衣は紫外線に弱い肌を、マスクは排ガス等から呼吸器を守る為に装着しているらしい。
 新種の病気へまずは自ら罹って症状を体感、治療法を確立する為には身を投げ出すのも厭わないシャドウエルフの青年だ。
「銃撃のエキスパートと戦えるって聞いて来たんだ。相手に足止めを悟られない為にも、倒す気概で臨みたいところだな!」
 と、気合を入れるのは白刀神・ユスト(白刃鏖牙・e22236)。
 ある時から竜派から人派へと転向したドラゴニアンで、ワイルドな顔立ちが特徴。
 戦闘を生業とするも、自らが破壊した分だけ何かを造りたい、と創造も好む。さっぱりとした性格の元傭兵である。
「無力な一般人からグラビティチェインを奪うのではなくデウスエクスから奪うとは、阿修羅クワガタさんとやらも敵ながら天晴れな奴じゃのぅ……」
 その傍ら、アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)が、素直に阿修羅クワガタさんの所業を褒めていた。
 水色の襟がついたセーラーワンピースを見に纏う彼女は、ツーサイドアップにした白い髪や携えた簒奪者の鎌、更にはヴァルキュリアの光の翼が、どことなく魔法少女を思わせる。
 当人も若干中二病のきらいがあり、何より格好いい自分を演出するのへご執心、やたら正義という言葉に拘るようだ。
「とはいえ、これはチャンスじゃ。一気に巨大ロボ退治と行こうかのぅ」
 アデレードはうきうきと元気良く宣言し、愛用の鎌を構えた。
「なんか面白い事態になりましたね。巨大ロボの破壊工作とその支援」
 レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)も、その大人しそうな面に笑みを浮かべて、黒い瞳をやる気でキラキラと輝かせた。
 セミロングに切り揃えた漆黒の髪と、褐色の肌、深い緑色の翼を持つ人派のドラゴニアンで、整った顔立ちも人目を惹く美少女だ。
「なんか燃えるシチュエーションって感じです」
 愛用のアームドフォートの砲門を突き出し、レベッカは力強い声音で呟いた。
 一方。
「……眼鏡の仏さま、メイドの神さま、エクスガンナー足止め作戦が無事に成功しますように。かしこみかしこみ……」
 何やら真剣に祈りを捧げているのは、テレサ・コール(ジャイロフラフーパー・e04242)。
 果たして彼女のいう神様仏様がおわすのかはともかく、作戦祈願する気持ちは紛う事なき本物。
 短く整えられた白い巻き髪と、腰に浮かぶジャイロフラフープが印象的な水陸両用フレンチメイド服【マリンスノー改】を纏った、全体的に色素の薄いレプリカント女子である。
「足止めはいいが、別に倒してしまっても構わんのだろう? ってね!」
 平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)もやる気満々で独特の高い声を響かせる。
「攻撃は最大の防御って言うしーガンガン攻めるぜ!」
 と、物言いこそ男らしいものの、和は面差しから声からとにかく女の子に間違われやすい、地球人の可愛らしい青年だ。
 背が低い故に余計勘違いされ易いのだろうが、それに加えて当人の子どもっぽい言動も女の子っぽさに拍車をかけているとかいないとか。
「ローカスト・ウォーの生き残りさんがダモクレスさんと戦った?」
 他方、ニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)は大きな瞳を瞬かせて、こてんと首を傾げるも。
「事情はよく分かりませんが、色々と迷惑をかけてる有名なダモクレスさんをぎゃふんと言わせる好機が到来したという事ですね。微力ながら、加勢させて頂きますね」
 すぐに明るい笑顔を見せて、ライドキャリバーのトライザヴォーガーのハンドルをぎゅっと握った。


 エクスガンナー・デルタとガードロイド・アイン達がケルベロス達の前へ姿を現したのは、彼らが待機を始めてから約15分経った頃だ。
 グランネロス突入班が作戦行動を開始してからも、少なく見積もっても13分は経過しただろうか。
「まぁた困るタイミングで遭うなぁお嬢さん。折角だから遊んでくかい?」
 早速狙いをつけ易い地形へ移動し、戦闘態勢を整えたスウ・ティー(爆弾魔・e01099)が、ナンパのような軽さで呼び掛ける。
 目深に被った黒い帽子がトレードマークの男で、ストイックそうな外見に反して賑やかさを好む楽天家。
 スウはM686 Tricksterなるリボルバー銃と、Happyなる爆破スイッチを用いての妨害戦術を得意とし、この日もジャマーとして立ち回る腹積もりである。
「困るタイミングですって、わざとらしいわね……」
 エクスガンナー・デルタは何か言いさして舌打ちするも。
「そんな事はどうでも良いのよ、元々相手してる暇なんてございませんの!」
 と、周囲に浮かべた誘導端末を操り、デルタガラノスを放ってきた。
 チュイーン!
 緑色の光球から撃ち出されるビームが、次々と後衛陣に襲いかかる。
「私がお引き受け致します」
 しかし、すんでのところでテレサがフォートを背中に庇い、彼のダメージを全て肩代わりした。
 見ると、トライザヴォーガーも咄嗟にユストの前へ滑り込み、代わりに車体を撃ち抜かれている。
「ふはははは、ダモクレス発見なのじゃ!」
 アデレードは、デルタ達を見るや飛び上がりそうなぐらい勇躍して、鎌の刃へ地獄の炎を宿らせる。
「ここであったが百年め、正義の鎌の錆となるのじゃ!」
 そして、例の如く正義を謳いながら鎌を振り下ろし、アインの甲冑を肩口からバッサリ斬りつけた。
 燃え移った地獄がめらめら燃え残る様は物凄まじい。
「綺麗な金髪のガンナーさんよ! 遠近取り揃えて戦えるのは、お前さんだけの専売特許じゃないぜ!」
 と、力いっぱい弓を引き絞るのはユスト。
 射掛けられたエネルギーの矢が、デルタを護るアインの肉体のみならず意識をも貫いて、体力を削ると同時に催眠も施した。
「できればグランネロスの自爆まで数十分間保たせたいところですね。その間に敵を倒せるならそれもよし」
 レベッカはアームドフォートの主砲を一斉発射して、アインの行動を阻害すべく立ち回る。
 見事な正確さで砲弾の群れがアインの腹へ吸い込まれるように命中、激痛と僅かな痺れを齎した。
 ガードロイド・アイン達は、それぞれが銃器を用いて、全方位射撃や強烈な打撃を仕掛けてくる。とても火傷が身体を蝕んでいると思えぬ威勢に満ちた態度だ。
「その程度、痛くも痒くも無いのじゃ!」
 和を庇いに入ったアデレードが、己が腕で殴打を受け止め嘯いた。他の前衛達も皆じっと炎の熱さを堪えている。
「ざんねーん、ここは通行止めでーす!」
 和の物言いこそやはり子どもっぽいが、狙い澄ます挙動は熟練したケルベロスのそれである。
「喰らえー、てややー!」
 半透明の『御業』が彼の意思に忠実に炎弾を浴びせ掛け、デルタを焼き尽くさんばかりにした。
「……あ、襲撃班でございますか。こちらデルタ班、只今戦闘開始した事をご報告します」
 テレサはアイズフォンで他班へ連絡を取りつつ、フォートレスキャノンを見舞う。
 だが、デルタを狙った一斉射撃はアインの身体を張った妨害によって阻まれた。
 それはそれでアインの体力を奪う事になるから、決して無駄撃ちでは無い。
「お急ぎのところ申し訳ございませんが、ここを通す訳にはまいりません。名の通った方のようですね、一つお相手願います」
 丁寧にお辞儀したニルスが繰り出す初手は、命中率を鑑みたロックオンレーザーだ。
 基本的にはデルタを狙いつつ、同時に照準を定めし敵群へ無数のレーザーをブッ込んだのである。
 その横では、トライザヴォーガーが体に炎を纏って、こちらはアインへ突撃をかましていた。
「ここは行き止まりで御座るよ。……もしかするとここがその命の行き止まり(デッドエンド)になるかもしれんで御座るが」
 フォートはデルタへ向かって軽く挑発してから、薬液の雨を降らせて後衛陣が受けた怪我を癒した。
 本当はステルスリーフで守りを固めたかったのだが、彼が今使えるヒールはメディカルレインと混合薬の霞。
 ライトニングウォールも無い為多少戦術の変更を余儀無くされるも、傷の治療が恙なくこなせるのは幸いである。


 戦闘が始まってから5分ぐらい過ぎただろうか。
 デルタクシフォスやアイン達の全方位射撃へ何度晒されても、ケルベロス達は互いに声をかけつつ体力の維持に努めた為、誰1人として倒れていない。
「急いでるって言いましたでしょう?」
「……気持ちの良い弾筋だな。佳い女の一撃だ」
 今またデルタガラノスの射撃に見舞われたユストは、言葉の端々に余裕を滲ませ、誘導端末を斧の刃で打ち落とさんと試みる。
「叩き斬れッ! 黄道十二星剣――『アルデバランの星骸斧』!!」
 それは出来なかったが、右腕より迸らせた冥く紅きグラビティの豪刃を勢いのまま振り下ろして、アインの全身鎧を両断。
 ついに1体へトドメを刺した。
「燦然と輝く正義の告死天使を前にどこまで耐えられるか楽しみじゃ!」
 アデレードは対デウスエクス用のウイルスカプセルを投射、もう1体のアインの体力回復を阻害した。
「道具を扱う者同士、エスコートさせておくれよ」
 水晶形の『見えない機雷』を透明化させ。暗く笑うのはスウ。
 ばら撒かれて空気中を緩やかに飛んだ機雷は、デルタへ着弾すると同時に中に仕込まれた爆薬が炸裂。
 ドーーー……ン!
 派手に爆炎を上げ、水晶の破片を飛ばしながら爆ぜた。
 また、アインの片方が息絶えたのを機にブレイブマインを起爆、前衛陣の傷を癒すと共に彼らの士気を高めた。
「まだまだ撃ちますよ!」
 レベッカはバスターライフルから魔法光線を発射。
 その長く太い砲身をも超える光の帯で、アインの土手っ腹に風穴を開けて尚、言い知れぬプレッシャーをもかける。
「うぐっ、我は何としてもデルタ様をお護りせねば……」
 必死に手足を動かして攻撃動作に移ろうとするアインだが、重い威圧感に竦んで何も出来ない。
「当たれっ!!」
 その隙を逃さず、テレサはジャイロフラフープ内の弾丸を発射。
 ——ビスッ!
 命中に難がある筈でしかも一発きりのそれを、しっかりとアインの胸へぶち当てて、ループバレットの威力の高さをこれでもかと知らしめた。
「よーしっ、トドメだー!」
 和はアイン目掛けて、稲妻纏いし超高速の突きを繰り出す。
 ゲシュタルトグレイブが全身鎧毎胴体を貫いて、痛みを齎すのみならず内部の神経回路をも麻痺させた。
 後はデルタのみをグランネロスの活動限界まで食い止めれば良い。
「……よくも私が調整を施した部下達を壊してくれましたわね……!」
 だが、早くグランネロスへ駆けつけたいだろうデルタの攻撃も苛烈で、デルタクシフォスの鋭い斬撃にずっと仲間を庇い続けていたトライザヴォーガーが倒された。
「どんな事情があろうと関係ありません、もう罪の無い方々を襲うのは止めて降伏して下さい」
 ニルスが車体をバラバラにされたザヴォちゃんを抱くようにしながら、デルタへ言い募る。
 例え相方が戦闘不能になっても時間稼ぎを忘れず、ロックオンレーザーをぶっ放す彼女は冷静だった。
 また、デルタのケルベロス達へ与えたダメージは、フォートやアデレードが逐一ヒールで怪我の治療に当たっている。
 アデレードのウィッチオペレーションは、メディックでなくとも共鳴のお陰で深手を立ちどころに治せたし。
「実戦で他人相手に使うのは初めてで御座るが、一応変な副作用とか無いようで安心で御座る」
 フォートの投げた複数の自作薬液入り試験管は、内容物が空中で混ざる事で特殊な霧を生み、味方のジャマー能力も高めてくれる。
「あぁもう、相手にしてられませんわ!」
 デルタは独りになっても3分程粘って戦い続けていたが、とうとう音を上げた。
「ひとまずは損傷を修理しませんと……」
 そう呟いて踵を返すデルタへ、ユストが無造作に酒瓶を投げる。
「よう、酒の味はわかるかよ? 俺は白刀神・ユストってんだ。アンタは?」
 デルタは反射的に酒瓶を掴むも、緑の瞳に憎々しげな光を宿らせて。
「敵と馴れ合う気はございませんの。他のエクスガンナーや、私の調整したガードロイド達にやられてしまえば良いんですわ!」
 刺々しく言い捨てて去っていった。
 捨て台詞にしては長かったなどと考えつつ、スウは遠ざかる彼女の背中を眺めて、楽しげに笑う。
「やれやれ、今度はデートの申し込みぐらいさせて欲しいもんさな」
 ともあれ、足止めの次にやるべきはグランネロスへ直行、襲撃班の援護である。
「目標達成! グランネロス攻略チームの支援に行くぞー!」
 急いで走り出す和。
「こちらデルタ班。先程足止めに成功、現在そちらへ急行してございます」
 テレサは襲撃班へ連絡を入れた。
 8人が駆けつけた時、既にグランネロスの変形は始まっていた。
「ああ……?!」
 前方で上がる驚愕の声。
 巨大な移動要塞という趣きだったグランネロスは、今や自走式のタイヤも露わに車高を伸ばし、あらゆる機構の駆動、開閉を繰り返し姿を変えていった。
 そして、テレビでよく見るような巨大ロボが、画面越しでは到底感じられぬ威圧感でもって、中から脱出してきたばかりだろう襲撃班の前に立ちはだかる。
 だが、ケルベロス達は怯まない。
 襲撃班も、彼らを助けるべく集う足止め班も、考えは同じ。
 グランネロスの破壊あるのみ。
 なればこそ、和は他の味方に倣って早速援護射撃にかかる。
「事典の角で殴り殺すぞゴルァー!」
 一刻も早い撃破を目指して出現させたのは一冊の分厚い事典。
 それをグランネロスの頭上へ落雷並みの速度でズシリと落とし、角による地味に痛い一撃を叩き込んだ。
「本当に巨大ロボそのものといった見た目ですね……」
 次いでレベッカが爆炎の魔力篭りし弾丸を大量に連射、グランネロスに火を着けんと奮闘する。
「手伝いますっ」
 バスターライフルを向けるニルスは、しかと狙いを定めた凍結光線でグランネロスの熱を奪った。
 その後も8人は他班と共に援護射撃を続け、遂に見届けた。
 地に膝を着き、背中の砲門も砕かれたグランネロスが、赤く明滅する胸部を撃ち抜かれ、周囲の様々な物を吹っ飛ばして自爆する様を。
 後に残ったのは、風に吹かれてさらさらと宙へ溶けゆく灰だけであった。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年9月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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