黙示録騎蝗~飢えたるモノ

作者:陸野蛍

●暗躍する者達
 ある森の奥深くで、絶叫にも似た叫び声が上がっていた。
「グァァァァーーーーーー!! グラビティ・チェインダーーーーーー!! グラビティ・チェインーーーーーー!!」
 数体のローカストに力づくで地面に押さえつけられているローカストが、力の限り叫ぶ。
「静かにしろ。仮にも、昔は武勇を誇った『グライトブラウン』ともあろう者がみっともない」
 押さえつけられたローカストに静かに言うのは、特殊諜報部族『ストリックラー・キラー』を率いるイェフーダー。
 太陽神アポロンの為なら、どんな汚れ仕事もこなして来た男だ。
「そんなにグラビティ・チェインが欲しければ、自分で略奪してくればいい。地球はグラビティ・チェインで溢れているからな。おい、離してやれ」
 イェフーダーの言葉で、グライトブラウンを開放するローカスト達。
「グラビティ・チェイン……グラビティ・チェイン!!」
「ゆっくりしていていいのか? お前の飢餓感は限界だと思ったが?」
 余裕たっぷりにグライトブラウンに言う、イェフーダー。
「グアアア……グラビティ・チェイン! グラビティ・チェイン!!」
 叫ぶと、欲に急かされる様に飛び立つグライトブラウン。
 グライトブラウンの姿が見えなくなると、イェフーダーは氷の様に冷たい声で呟く。
「……お前が奪ったグラビティ・チェインは、全て、太陽神アポロンに捧げられるだろう。……お前の飢餓は満たされる事無くケルベロス達に殺される。アポロン様のお力になれるのだ……無駄に蘇った訳では無く良かったな」
 そう言うと、イェフーダーは部下に次のコギトエルコズムを用意させるのだった。

●利用する者と利用される者
「みんな、太陽神アポロンが指揮している、黙示録騎蝗に動きがあった!すぐに、依頼の説明を始めるぞ!」
 資料を片手にヘリオンから降りて来ると、大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)はケルベロス達を招集する。
「ローカストの太陽神アポロンは、不退転侵略部隊の侵攻をケルベロスが防いだことで、大量のグラビティ・チェインを得る事ができなかった為、新たな、グラビティ・チェインの収奪を画策している」
 アポロンの最初の一手であった不退転侵略部隊は、指揮官のヴェスヴァネット・レイダーを含めて全て、ケルベロスの手によって撃破されていた。
「今度の作戦は、コギトエルゴスム化しているローカストに、最小限のグラビティ・チェインを与え復活させ、そのローカストに人間を襲わせてグラビティ・チェインを奪うというものだ」
 最小限のグラビティ・チェインしか与えられていない為、復活したローカストは飢餓に苦しみ、それを満たす為に人々を無差別に襲っていくだろうとのことだ。
「この作戦を行っているのは、特殊諜報部族『ストリックラー・キラー』を率いる、イェフーダーというローカストらしい。アポロンの為ならどんな非道な事でも躊躇しないローカストらしい。イェフーダーによって蘇らされるローカストは、戦闘力は高いがグラビティ・チェインの消費が激しいという理由でコギトエルゴスム化させられたモノで、最小限のグラビティ・チェインしか持たないといっても、かなり危険な戦闘力を持っている」
 ハイスペック故にグラビティ・チェインの消費も通常のローカストの比では無いと言った所なのだろう。
「復活したローカストは、グラビティ・チェインの枯渇による飢餓感から、人間を襲撃する事しか考えられなくなっている為、反逆の心配をする必要も無い。そして、ケルベロスに撃破されたとしても、最小限のグラビティ・チェインしか与えてない為、損害も最小限……効率的としか言いようが無いな。……嫌悪感しか覚えないけどな」
 雄大が嫌悪の表情で口にする。
「今は、復活させられたローカストの撃破が優先だけど、イェフーダー……こいつとは、いずれしっかりと決着を付ける必要があるな」
 呟くと雄大は表情を切り変えて、今回の依頼の説明を始める。
「みんなに、向かって欲しいのは、とあるキャンプ宿泊施設だ。夏休みと言うこともあって、30人程の人達が現場に居る。ローカストに襲撃される前に何とかギリギリで現着出来ると思うから、まず、彼等の避難を頼む」
 現場から200mも逃がせば安全とのことだが、その間飢えたローカストの気を引き、足止めする必要が出て来る。
「撃破対象の説明に移るな。個体名称は『グライトブラウン』直立型のクワガタに似たローカストで、特徴としては全体的に茶色の体表なんだけど。巨大な鋏部分だけはクリスタルの様に光り殺傷力が高い。あと、甲虫類だからなのか防御力も高く、タフって感じだな。言語は解するけど、飢餓感から会話出来る状態じゃない」
 飢えた狼が、獲物を求めるのと変わらないだろうなと雄大は言う。
「攻撃方法はクリスタルの鋏を使っての斬撃。鋏で身体を両断しようと挟んでくる攻撃。クリスタルの鋏を掲げることで星の力を借りオーラを飛ばす攻撃の三つになる。グライトブラウンの目的は飢えからの脱出だから逃げることはない。だけど、いくらグラビティ・チェインを得たところで飢えは満たされない。グラビティ・チェインはアポロンに送られるからな」
 ケルベロスが敗れる様なことがあれば、グライトブラウンは、飢えが満たされる事が無い事を知らずに延々と人々を殺戮する事になるだろう。
「撃破対象の『グライトブラウン』は、利用されているだけと言ってもいいかもしれない。だけど、飢えを満たす為の行為が人々の虐殺なら、撃破するしかない。ローカストにも彼を救う気が無いみたいだしな……。みんな、アポロンの策略を阻止する事を第一に考えて欲しい。頼んだぜ!」
 言うと雄大は、資料を持ちヘリオンへと戻って行った。


参加者
天谷・砂太郎(は自分の根源を見失っている・e00661)
スプーキー・ドリズル(弾雨・e01608)
レイ・ジョーカー(魔弾魔狼・e05510)
チューマ・ウチョマージ(荒野の鉄火・e11970)
ガルフ・ウォールド(欠け耳の大犬・e16297)
ジェルベーラ・ラパーチェ(花千本槍・e22230)
折平・茜(群れない羊は葡萄に触れない・e25654)
一瀬・栞里(博学篤志・e27796)

■リプレイ

●避難
 時計の針は午後7時を1分程過ぎていた。
「降下中には、敵影は見えなかったが、急いだ方がいいね」
 仲間達にそう言うのは、スプーキー・ドリズル(弾雨・e01608) 。
「……俺達は、グライトブラウンが襲来したら、足止めに徹する」
 緑の瞳を注意深く動かしながら、ガルフ・ウォールド(欠け耳の大犬・e16297)が言う。
「俺達は周辺警戒をして、敵が現れたらすぐに迎撃にあたるな」
 天谷・砂太郎(は自分の根源を見失っている・e00661)も鉄塊剣『竜牙炎熱刀』を手に仲間達に言う。
「グライトブラウンが現れたらすぐにお知らせします。そのあと、殺界も形成しますから、避難誘導の方はお任せしますね」
 風に靡く髪を手で押さえながら、一瀬・栞里(博学篤志・e27796)が笑顔で言う。
 その言葉に、レイ・ジョーカー(魔弾魔狼・e05510)は頷くと、相棒のライドキャリバー『ファントム』に跨ると笑顔を見せて言う。
「俺は、まず調理施設を見て来る。人が残っていたら大変だからな」
 レイはファントムのグリップを強く握ると、颯爽と走り去る。
「……それでは、わたし達も散りましょう」
 おずおずとした口調で、折平・茜(群れない羊は葡萄に触れない・e25654)が言えば、仲間達もそれぞれ動き出す。
 ケルベロス達は、キャンプ場の人々を避難誘導する組と敵の足止めに全力を注ぐチームに分かれる事を既に決めていた。
 その為、ケルベロス達の動きは迅速だった。
「ここに今からデウスエクスが襲来する。すぐに避難を……異国の者か」
 バーベキューをしていたグループに避難勧告を行おうとした、チューマ・ウチョマージ(荒野の鉄火・e11970)だったが、相手が外国人のグループと知り、一つ息を吐くと、外国人にも伝わるようにハイパーバイリンガルを活用し、一刻を争うことを告げる。
 デウスエクスの襲来に慣れていない、外国人旅行者達は一時パニックになりかけたが、チューマの真摯な言葉に落ち着きを取り戻すと、すぐに避難準備を始める。
「お姉さん達、此処に居るのは君達だけ?」
 ファントムを駆り、洗い場に向かったレイは、そこで4人の女性達に声をかける。
「他のみんなは、テントに居るけど?」
 のんびりとした調子の女性が答える。
「俺はケルベロスのレイ・ジョーカー。すぐに逃げる準備をしてくれ。もうすぐここに、デウスエクスが現れる」
 ケルベロスコートとケルベロスカードで身分を証明した上でレイが女性達に告げると、女性達は途端に青ざめる。
「大丈夫だ、俺達が避難誘導する。時間が無い、急いでくれ」
 レイがそう言えば、女性達は脚を振るわせながらも、レイに続いて駆け出す。
 それぞれのテントの前に立ち、割り込みヴォイスを使って、テント内の人々に危険を伝えて回るのは、スプーキーと茜だ。
「この場にデウスエクスが現れる。僕達と一緒に避難してもらいたい」
 スプーキーがそう言えば、テント内で寛いで居た老夫婦が、バッとテントから出て来て、『デウスエクスが! もう来ているのか』と慌てた様子で訊ねて来る。
「安心して欲しい。僕達、ケルベロスが、避難誘導を行うからね。可能な限り迅速に動いて頂けるだろうか?」
 スプーキーが落ち着いた声で老夫婦に言えば、『ケルベロスががいるなら……』『でも、急ぎましょう、貴方』と会話を交わし、スプーキーの後に続く。
 その後、数分の間に4人のケルベロスは、急ぎながらも人々を不安にさせない様に笑顔を湛え、各テントの人々に避難を促して行く。
「……取り合えず、一か所に集まりましょう。バラバラに逃げるとわたし達が守りきれない恐れがありますから」
 会社の仲間達とキャンプに来たと言う、若者達にそう告げていた茜の耳に『グライトブラウンや!』と叫ぶ、ジェルベーラ・ラパーチェ(花千本槍・e22230)の声が聞こえる。
「……急ぎましょう。デウスエクスは、ケルベロスにお任せ下さい」
 茜は自分の出来る精一杯の笑顔で言った。

●接触
 ローカスト『グライトブラウン』は森の合間を飢えた獣の様に現れた。
 そちらを警戒していた、ジェルベーラの叫びで、警戒していた、栞里、砂太郎、ガルフがすぐに駆けよって来るが、まだ距離がある。
「一番最初に見つけたんが俺とは……時間稼ぎさせてもらうで」
 ジェルベーラは、ライトニングロッドを掲げると、輝く雷をグライトブラウンに放つ。
「…………グラビティ・チェイン!!」
 グライトブラウンは雷を受けるとなお、グラビティ・チェインへの欲が深まったのか、一気にジェルベーラに接敵し、そのクリスタルの鋏でジェルベーラを切り裂いた。
 流れる鮮血と、グラビティ・チェイン。
 それを飢えた獣の目で見る、グライトブラウン。
「足止めをお願いね!」
 少女の声が森に響くと、グライトブラウンの目の前に魔力で構成された土人形が現れる。
「ジェルベーラさんから、離れて下さい!」
 ゴーレムを作り出した、栞里が叫ぶように言えば、砂太郎とガルフが立て続けに戦場に飛び込む様に、グライトブラウンへと鉄塊剣を力の限り振り下ろす。
「不退転部隊の処遇といい、今回といい……ローカストの使い捨ては感心できんが、お前は倒させてもらう!」
「……飢えは辛いよな。……だけど、いくら食べても、アポロンに全部とられるんだろ。……ひどい、な」
 砂太郎とガルフがグライトブラウンに語りかけるが、グライトブラウンから漏れる言葉は『グラビティ・チェイン』だけだ。
「大丈夫ですか? ジェルベーラさん? 手当てしなきゃ」
 ジェルベーラの元に駆け寄ると、栞里は自分のオーラでジェルベーラの傷を塞ぐ。
「おおきに。こっからは、大丈夫や! 俺が皆守ったる! 一般の皆様の方には行かせへんで! ヒールは任せとき♪」
 言うと、ジェルベーラは黒鎖を展開し守りの檻を作り出す。
 その時、後方から声が聞こえる。
「お前はみんなの援護だ、頼りにしてるぜ相棒!」
 その声と共に、『ファントム』が猛烈な勢いで、グライトブラウンに体当たりする。
「ジェルベーラ! 相棒にはお前の指示に従うように伝えてある。相棒を頼んだぜ!」
 レイの言葉にジェルベーラは、『了解や、任せてや!』と答える。
「こっちだ! 距離をおけば奴は追って来ない! 急いで避難だ!」
 人々の道を作る様に先陣を切って走りながら。チューマが叫ぶ。
「走るのが辛ければ、僕の背に。Mrs.達を守るのが僕達の使命だからね」
 そう言って、スプーキーは翼を展開して老夫婦を二人纏めて背負って駆ける。
「……此処の人達は、30人程と聞いています。漏れは、ありませんね。……ここは、ケルベロスが食い止めるので、焦らず急いで逃げてください!」
 茜は確認すると、自分の出せる声の限り精一杯叫ぶと、栞里達に向かって。
「すぐに、戻ります」
 そう言い、最後尾を走った。
 その最中も、グライトブラウンの動きは止んでいなかった。
 クリスタルの鋏を掲げ、星の加護と共にオーラを砂太郎とガルフに浴びせる。
「こっちだって、星の加護は受けてるんだ。そうやすやすと落とせると思うなよ!」
 そう言って、砂太郎はアクエリアブレイドで水瓶座を描くと癒しの波動を広げていく。
「グルァァァァ!」
 獣じみた咆哮をあげながら、ガルフが刃の鋭さを持った蹴りを放つ。
(「……俺は、ローカストの武人には敬意を持っている。けれど、その武人の誇りを汚す、アポロンの駒にされているのは見るに耐えない……だから」)
「アオォォォォォォォォーン!」
(「……終わらせてやる」)
 それは、ガルフの武人故の覚悟だった。

●飢餓
「急ぐぞ、皆。一般人は、これでおそらく大丈夫だ」
 テンガロンハットを手で押さえながら、チューマが仲間達に言う。
「グライトブラウン……強敵の様だからね。急いで合流しないと」
 スプーキーも駆けながら不安を口にする。
 その光景を一番最初に目にしたのは、茜だった。
「…………ああ」
 茜の身体が震えあがる。
「相棒!」
 レイの目に映ったのは、グラビティ・チェインの大量消費で形を保てなくなりかけているファントムだ。
 他の仲間達も、傷が酷い。
 ガルフに至っては、体中が傷つき膝を付いている。
 チューマ達がこの場を離れていたのは、ものの数分。
 それなのに、守りに突出していた筈の砂太郎、ガルフだけでは無く、後ろに控えていた筈のジェルベーラと栞里も浅くない傷を負っている。
「俺らだけでこらえるんは、ちょっとだけしんどかったみたいや……」
 言いながらも、ジェルベーラはガルフに魔術手術を施して行く。
「すぐに援護するよ! 戦線を再構築! Shoot the Meteor!」
 仲間達に指示を出しながら、スプーキーは『clepsydra』を構えると、金平糖を彷彿とさせる角付きの弾丸を撃ち出す。
 その弾丸は彗星の様な軌跡を描くと、グライトブラウンにヒットする。
「動きを止めさせてもらう」
 チューマは、大地を蹴ると飛び上がり、地割れを引き起こす程の威力の一撃をグライトブラウンに与える。
「捨て駒にされ、酷い飢餓感で苦しいんだろう……同情もしてたさ。だけど、悪りぃな。相棒を痛めつけてくれた例はさせてもらうぜ!」
 レイが、魔狼銃『フェンリル』を早撃ちすれば、傷を負ってもなお、栞里が石化の魔力を開放する。
(「駄目……お願い……わたしの身体、動いて」)
 戦場の光景が茜に先の戦いで負った自身の重傷を思い出させる。
(「わたしが……わたしが……みんなを守らないと……ガルフさんも砂太郎さんも……!」)
「恋愛をしましょう……!」
 絞り出した言葉とグラビティチェインで、茜は赤い鋼線を作り出し、自身とグライトブラウンを結び付ける。
 途端に、グライトブラウンの攻撃目標が茜へと切り替わる。
 グライトブラウンの目には、茜が、茜のグラビティ・チェインこそが愛しく、美味なものに映ったのだ。
 予想し得なかった、スピードで鋏に切り裂かれる茜。
「女に手ぇ出してるんじゃねえよっ! 君が泣くまで……いや、泣いても殴るのをやめないっ!!」
 砂太郎が、拳から血を流しながらグライトブラウンにラッシュを決める。
「そうだ……まだ、俺は……倒れてない。……かたいものほど、脆いもの」
 膝を付きながらも、蒼い地獄の炎弾を、グライトブラウンに撃ち込むガルフ。
「俺の最大ヒール行くでー! 豊穣の雨や。傷によう効くで♪」
 ジェルベール特製の薬液の雨は、傷ついた前衛の仲間達の傷を洗い流す様に癒して行く…………だが、それでも、ファントムの消失は止まらず、ガルフの息も荒い。
「攻勢を緩めるな! 奴も、グラビティチェインは殆どない筈だ!」
 アームドフォートの主砲を一斉放射しながらチューマが叫ぶ。
「戦う者の矜持を同族に奪われたと云う点では同情する。だが、手加減はしない。こちらも負けられないからね。だが、君と一戦交えた事、決して忘れないよ」
 スプーキーの雨久花が月光の輝きを放ちながら、グライトブラウンを切り裂けば、レイの銃口がグライトブラウンに向く。
「魔弾魔狼は伊達じゃねぇ……俺の魔弾から逃げられると思うな!」
 レイの放った弾丸は一直線に、グライトブラウンを撃ち抜く。
 痛みに耐えかねたのか、グライトブラウンは狂った様に、膝を付くガルフをクリスタルの鋏で掴むと身体を引きちぎらんばかりに、鋏に力を込める。
「ウグガァア!」
 ガルフの絶叫が響く。
「……ガルフさんを離して!!」
 茜が力の限りチェーンソー剣を振るう。
「魔術切開や!」
「わたしのグラビティ・チェインも!」
 解放され、地に伏したガルフに、ジェルベーラと茜がヒールをかけるが、ガルフの意識は戻らない。
「決着を付けるしかない! 星の聖域よ広がれ!」
 砂太郎のヒールが、仲間達を僅かに癒し、最後の力を振り絞らせる。
「止めは任せる。援護するよ」
 スプーキーが歪な弾丸を放ち、グライトブラウンの注意を引く。
「超銃! 合身!!」
 チューマが叫べば、銃の幻獣である超銃ガングリフォンが召喚され、チューマと超銃合身し、最大火力の銃弾を放つ超銃器神へと姿を変える。「超銃器神! ガンッ! グリッ! オォォォォン!!」
 チューマ……いや、ガングリオンが放った銃弾は、グライトブラウンに大きなダメージを与え、遂にグライトブランの膝を折る。
「チェックメイトだぜ……全てを撃ち抜け!ブリューナクッ!!」
 レイの放ったエネルギー弾は、グライトブラウンの眼前で5つに分かれ、あらゆる角度から、グライトブラウンの装甲を撃ち抜いた。
 支えを失い倒れ伏す、グライトブラウン。
 一陣の風が吹いた時、ケルベロス達はグライトブラウンの意志ある言葉を聞いた。
「……ローカストが……豊かであったなら……神に逆らうこともあったのかもしれぬ」
 グライトブラウンが、残ったグラビティ・チェインで絞り出した最後の言葉だった。

●太陽神
「……どうですか?」
 茜がおずおず聞くと、ジェルベーラが首を振る。
「傷が深すぎるわ。ここでの治療は無理や。応急処置はしたけど、戻って回復を待つしかないな」
 ジェルベーラの前に横たわるガルフは、外傷こそ癒されているが、グラビティ・チェインの流出が多すぎた為、未だ目を覚まさない、
「……そうですか」
 茜にとって、ガルフの重傷は胸が痛んだ。
 自分が動けていれば、傷をもっと肩代わり出来ていれば……後悔はある。
 だが、もう二度と繰り返さないと心に誓う、茜。
「避難した人達を連れて来たよ。僕達が市街まで送ると言うことで、帰り支度をしてもらっているよ」
 スプーキーが仲間達にそう告げると、チューマも言葉を続ける。
「避難の方は順調だったからな。皆、心身共に大丈夫そうだ。俺達に感謝もしていたな」
 レイ、砂太郎、栞里は、グライトブラウンの亡骸の傍らに居た。
「相棒は帰って、グラビティ・チェインさえ補給出来れば元の形を成す事が出来る。……だけど、お前は捨て駒にされて死んだんだな」
 哀れなローカストに、レイが言葉をかける。
「……あんたに次があったら、こんな人生じゃなきゃ……いいな」
 一度死んで、ケルベロスとして生を受けた砂太郎は、心からそう思っていた。
 グライトブラウンの亡骸を見ながら、栞里は憤っていた。
「仲間を利用し、更には使い捨てる……そんなことばかりしていては、いずれ着いて来る者はいなくなってしまいますよ? アポロン……あなたを私は、絶対に許しません」
 栞里の言葉は、ケルベロス達全員の思いだったかもしれない。
 ローカストの中には同情の余地のある者も確かに居る。
 だが、アポロンの計画は全てアポロンの為の様に思えてならなかった。
 あの神が君臨する限り、人々にもローカストにも犠牲が出続けるのであれば、神との対決も恐れる訳にはいかないだろう。
 黙示録騎蝗の終焉はまだ見えない……。

作者:陸野蛍 重傷:ガルフ・ウォールド(欠け耳の大犬・e16297) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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