黙示録騎蝗~死への行進

作者:ハル


 鬱蒼と木々が生い茂った、朝方にも関わらず光さえ入らぬ森の中。
 特殊諜報部族『ストリックラー・キラー』を率いるイェフーダーは、手中の宝石化したコギトエルゴスムに、グラビティ・チェインを注ぎ込む。
 すると、ドクン!
 宝石が脈動を始める。脈動はその後も止まることはなく、次第に宝石は形を変えていく。そして、見る見る間に宝石は、三メートルと見上げる程の巨大ムカデに変貌した。
 二本の牙から真っ赤な毒液をダラダラと零す巨大ムカデの瞳に理性はなく、もっと、グラビティ・チェインをよこせ! と咆え猛る。
 しかし、暴れだそうとした巨大ムカデは、すぐにイェフーダーとその部下に取り押さえられ、足蹴にされてしまう。
 イェフーダーは、巨大ムカデの耳元に顔を寄せ、告げる。
「グラビティ・チェインが欲しければ、自分で略奪してくるのだ。分かるな、赤毒のファングよ?」
 思考を飢えで満たされた赤毒のファングは、グラビティ・チェインを追い求めて市街地を目指す。
「お前が奪ったグラビティ・チェインは、全て、太陽神アポロンに捧げられるだろう」
 その後ろ姿を眺め、イェフーダーは無感情に呟くと、その場から去っていくのだった……。
 

「ローカストの太陽神アポロンが新たな作戦を行おうとしているようです!」
 少し慌てた様子で部屋に入ってきたセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、ケルベロス達の顔を見回しそう言った。
「どうも不退転侵略部隊の侵攻をケルベロスが防いだことで、大量のグラビティ・チェインを得る事ができなかった為、新たなグラビティ・チェインの収奪を画策しているようなのです」
 その作戦は、コギトエルゴスム化しているローカストに、最小限のグラビティ・チェインを与えて復活させ、そのローカストに人間を襲わせてグラビティ・チェインを奪うというものだ。
「復活させられるローカスト――――赤毒のファングは、グラビティ・チェインの消費が激しいという理由で、今までコギトエルゴスム化させられていました。最小限のグラビティ・チェインしか持っていませんが、決して侮れない実力を有しています」
  更に、グラビティ・チェインの枯渇による飢餓感から、人間を襲撃する事しか考えられなくなっている為、裏切りや改心を心配する必要も無い。
 そして、仮に、ケルベロスに撃破されたとしても、最小限のグラビティ・チェインしか与えてない為、損害も最小限となるという、効率的だが非道な作戦だ。
「この作戦を行っているのは、特殊諜報部族『ストリックラー・キラー』を率いる、イェフーダーというローカストのようです。まず、ケルベロスの皆さんには、復活させられたローカストの迎撃をしてもらう必要がありますが、いずれはイェフーダーと直接対決をしてもらう事になると思います」
 セリカはグッと手を握る。それが、彼女の今回の案件に関する心情を何よりも表していた。
「現場は岐阜県の美濃加茂市となります。静かで長閑な雰囲気に加え、歴史のある古風な町並みが残っている場所ですので、できる限り被害は抑えたいものですね……」
 セリカは手にした資料を捲り、
「赤毒のファングはムカデ型のローカストです。特徴としては、黒々とした全身はサメ肌のようにザラザラしており、下腹部から突き出た二つの脚によって二足歩行も可能ですし、百本近くあると言われる小さな脚をキャタピラのように動かして高速で移動することもできます。そして、赤毒のファングは真っ赤な毒液を巨大な二本の牙に宿し、触れると焼けて爛れるような痛みと熱を伴うようです」
 その他にも、巻き付いて締め上げる、鮫肌を利用しての突進などの攻撃を繰り出してくるだろう。
 そこまで告げると、セリカは姿勢を正して深々と頭を下げた。
「このような卑劣な行いは、絶対に阻止しなければなりません! 敵は飢餓によって正常な思考ができないとはいえ、強力です。油断せず撃破して、街と人々を守ってあげてください!」


参加者
巽・真紀(竜巻ダンサー・e02677)
月隠・三日月(月灯は道を照らす・e03347)
ソラネ・ハクアサウロ(暴竜突撃・e03737)
ブリキ・ゴゥ(いじめカッコ悪い・e03862)
コスモス・ブラックレイン(レプリカントの鎧装騎兵・e04701)
モニカ・カーソン(大樹の木陰で・e17843)
ジョー・ブラウン(ウェアライダーの降魔拳士・e20179)
千里・雉華(絶望齎す狂犬・e21087)

■リプレイ

● 
 岐阜県の美濃加茂市。長閑な町並みに、歴史ある建造物が並んでいる。その独特な雰囲気に、美味しい空気。本来ならば心安らぐ気候であるはずなのだが。
「……どこにいやがる、ムカデの大将……!」
 歴史ある建造物の屋根の上、目を皿のようにして敵――――赤毒のファングを索敵するジョー・ブラウン(ウェアライダーの降魔拳士・e20179)の姿があった。
「避難誘導は任せるぜ? 敵は俺が引きつける」
「了解です!」
 それに応じるのはモニカ・カーソン(大樹の木陰で・e17843)だ。モニカは翼を開き、これから戦場となる市街地を見つめ、一般市民を探していた。
 早朝という事もあり、人影は多くはない。また、主にランニングや散歩中の人々が占めているので、逃げる手段には事欠かないだろう。
「私たちはケルベロスです。これからここで戦闘が行われますので、みなさんは安全なところへ逃げてください!」
「デウスエクスの襲撃があります! 早く避難してください!」
 モニカに続き、ブリキ・ゴゥ(いじめカッコ悪い・e03862)も大声を上げた。
 すると、一般市民の視線が集中する。
 千里・雉華(絶望齎す狂犬・e21087)含め、ケルベロス達は着用したケルベロスコートを強調する。
「あー皆様、我々はケルベロスでス。今からココでアタシらがドンパチしまスんで、至急広い所に逃げて下サい。あの大百足はアタシらが責任持ってガッてすんで、安心して下サい。成人男性の方は子供とお年寄りの補助もお願いしまス」
「安心しろ、オレたちゃケルベロスだ! あの大ムカデは一般人を優先して狙う。……だが絶対にそんなコトさせねーぜ! ここでオレ達が食い止める! 落ち着いてこの場から離れてくんな」
 雉華が動揺して騒ぎ出しかける一般市民に対し、割り込みヴォイスを届けると、それに連係して巽・真紀(竜巻ダンサー・e02677)がアルティメットモードを駆使しつつ言った。
 現場には、老人の姿こそないが、若い女性の姿はある。雉華と巽の呼びかけに応して、怯える若い女性を男性達が手を引いて走り出す。
「皆さん、私たちの声に従って速やかに避難してください!」
 そんな一般市民達を誘導するのは、この状況でも凜とした所作を崩さないソラネ・ハクアサウロ(暴竜突撃・e03737)の役目だ。
「(ローリスク・ローリターン……という事ですか。私たちがココにやってくる事も、そして私たちが敵を倒すこともきっと思惑通りということなのでしょうね……)」
 その事実に、ソラネの心中には複雑な感情が去来する。だが、まずは一般市民を避難させる事、敵を倒すことが先決だ。
 ……その時だった。
「見つけたぞ!」
 ジョーの声。ケルベロス達が声の方向へ視線を向けると、そこには、二本の牙から真っ赤な毒液をダラダラと零すムカデの姿。禍禍しいソレは、紛う事なき赤毒のファングである。
「わあああああ!!」
 その姿を目にした、まだ残っている少数の一般市民から悲鳴が上がる。
「これより我々ケルベロスが戦闘に入る! 皆さんは落ち着いて避難を!」
 なんとか彼らを落ち着かせようと、ケルベロスコートを脱ぎ捨て、黒い忍装束になった月隠・三日月(月灯は道を照らす・e03347)は、余裕ある笑みを浮かべ、アルティメットモードで声を張り上げた。さらに、モニカが逃げ遅れた人々の補佐に奔走する。
「……グラビティ・チェイン、よこせぇッッ!!」
 赤毒のファングの瞳に、一切の理性は見られない。
「…………」
 コスモス・ブラックレイン(レプリカントの鎧装騎兵・e04701)は、そんな赤毒のファングの前に立ち塞がりつつ、チラリと避難する人々の様子を見る。すると、そこにもうほとんど人影はなく、モニカとブリキによってできるだけ広範囲にキープアウトテープが張られている最中であった。
「こっちは私たちに任せてくれ!」
 コスモスと合流した三日月が、キープアウトテープを貼る仲間の背に、あえて明るい感じで告げる。
 そして、じきにそれも終わるだろう。その時こそ――――。
「(……あなたの終わりの時です)」
 言葉には出さず、内心でそう断じながら、コスモスはケルベロスチェインを伸ばし、まずは相手の出方を探る小手調べの一撃を放った。


「見つけたぜムカデの大将、細かい話は抜きでコイツを喰らいなッ!」
 ジョーは赤毒のファングを挑発するように咆え猛る。建造物を足場に、戦場を縦横無尽にジョーは駆け、その合間に幾度も同じ箇所を狙って執拗に、流星の如く蹴りつけた。
 赤毒のファングは何度かその蹴りを受け止めるが、それでもジョーの身体を捉えて反撃までは至らない。
「グゥッッ!」
 すると、次第に赤毒のファングの表情に苛立ちが表れるようになる。
 そうして、赤毒のファングがジョーに意識を奪われている間にも、
「チーム不退転相手はどうしようもなく人死に出ちまってたけどよ、今度はうまくやりゃ全員どうにかなんだよな? ……オーライ、どうにかすんぜ野郎共!」
 今度こそ、あの時のような悲劇を繰り返してなるものかと真紀は改めて気合いを込め直し、前衛へ光輝くオウガ粒子を放出する。
「ええ、必ず助けてみせます!」
 人死にを出したくない気持ちは、無論ソラネも同じ。AI搭載型外骨格『GUIRTYRA』を身に纏ったソラネは、右腕の口から四枚の恐竜の形に折られた折紙を発射し、守護の態勢を作る。
「ジョーさん、避けてください!」
 その時、ホバリング中のモニカの注意を呼びかける声が響く。見れば、モニカーに続いてブリキもキープアウトテープを張り終え、戦線に合流しようとしていた。
 そして、モニカーの指摘通り、怒りに我を忘れた赤毒のファングは、巨大でジョーの身体を締め上げようと迫っている。
「ああ、分かってる!」
 ジョーは拘束されまいと、赤毒のファングの攻撃を真っ向から受け止める。ギリギリと拮抗し、ジョーの身体に信じられない程の強烈な圧がかかる。
 しかし、
「マリア!」
 ジョーがその名を呼ぶと、ビハインドの『マリア』が赤毒のファングに念を籠め、吹き飛ばす。
「……一般人の皆さんに、アンタの事責任持つって約束シたんでね」
 警察として嘘はつけないし、プライドもある。ゆえにここで倒れろと、雉華が眼光鋭く言う。
「溺れろ」
 マリアに吹き飛ばされ、建造物の瓦礫に埋もれる赤毒のファング。その上から、雉華はさらにケルベロスコートの内側から呼び出した瓦礫や廃棄物で押し潰す。
「後はあなたを倒すだけです!」
 瓦礫の山から這い出てきた赤毒のファングに、ブリキが接近する。手の爪を超硬化し、狙うは赤毒のファングの頭部だ。人も虫も、そこが弱点である事に変わりは無い。
 だが――――。
「グァァッッ!!」
 今までゆったりと動いていた赤毒のファングが、ブリキが近づくと同時にその動きを早める。頭部を狙う爪を躱し、逆にその腕に噛みつこうと二本の牙が不気味に光を反射させる。
「くっ!?」
 ブリキは寸での所で腕を引くと、硬化した爪と牙が直撃して火花が散る。その余波で、僅かに赤毒のファングの牙がかけ、ブリキも毒液を浴びた。
「ブリキ殿! 大丈夫か!?」
 少しでも時間を稼ぐため、三日月が稲妻を帯びた超高速の突きを喰らわす
「大樹よ、そのお力でこの者たちを癒したまえ!」
 その甲斐あり、モニカが詠唱すると、その場に大樹の幻影が現れた。木陰に前衛を包み込み、心身を癒やしていく。
 毒に侵されて苦しげだったブリキの表情が幾分穏やかになり、モニカはほっと息を吐くのだった。
 

 ケルベロス達は、万に一つでも赤毒のファングがキープアウトテープを踏み越える事がないよう、慎重な立ち回りを心掛けている。
 赤毒のファングを取り囲みつつ、標準を定められないように随時動き続ける。
 赤毒のファングの行動を観察しつつ、その背後を取ったソラネは、小型治療無人機の群れを展開させた。
 次いで、雉華がローラーダッシュの摩擦を利用して炎を纏い、蹴りを叩き込む。
「グググッッ!!?」
 赤毒のファングは、身を苛む火傷に苦悶の声を漏らしながら、ジョーを睨み付けた。挑発された怒りは未だ消えず、火傷の傷以上に燃え盛っているのだろう。
 赤毒のファングは、主軸となる二本の脚での歩行をやめ、百本近くあるという小型の脚での駆動に切り替える。小型の脚がまるでキャタピラの如く蠢くと、ジョーもろとも周囲を巻き込むように、鮫肌による突進を繰り出してきた。
 突進を受け、ブリキとコスモスが躱せずに吹き飛ばされる。予備動作を伺っていたソラネが寸での所で躱すと、射線上には赤毒のファングの怒りを一身に集めるジョーだけが残った。
 避けるべきか、真っ向勝負か……ジョーは一瞬迷い、すぐに真っ向勝負を選ぶ。
「ここから先は通行止めだ、どうしても進みたいなら俺達を倒してからにするんだな」
 その理由としては、この勢いでの突進を躱してしまうと、キープアウトテープまで吹き飛ばしてしまう懸念があったためだ。
「既に理性を失って俺の声は届いてないか? まぁ、聞こえてようが聞こえてまいが関係ない。理解するまでテメェを蹴り飛ばしてやるだけだからなぁ!」
 ジョーは自身の拳と拳を打ち合わせ、気合いを入れる。そして、突進する赤毒のファングに拳を突き立てた。すると、同時に網状の霊力を放射され、赤毒のファングを緊縛しようと纏わり付く。
「ぐっ……がぁ!」
 だが、勢いを殺しきることはできずに、ジョーと赤毒のファングは正反対の方向に吹き飛ぶ。
「だ、大丈夫かよ!?」
 派手に吹き飛んだジョーに対し、すぐ様真紀が具現化させた光の盾で防護する。すると、ジャーは身体の誇りを払いつつ、立ち上がった。
 だが、息を吐いている暇はない。
 三日月は、意識を極限まで集中して爆破を起こす。
 しかし、赤毒のファングはそれを身体をグネグネと動かして躱して見せた。
「……やっぱり苦手だな」
 躱された事に、三日月は僅かに唇を噛む。
 相変わらず気持ち悪い動きを披露する赤毒のファングに、今度はブリキがその首を断つようにデスブリンガーを振り下ろす。振り下ろされたデスブリンガーの角度は僅かに浅く、首の中程までしか切り裂けない。
 それでも、赤毒のファングにとってその一撃はかなりの痛手になったらしく、動きは徐々に鈍くなってきていた。戦闘も終盤の予感を感じ、
「特殊弾頭装填。強化薬を散布します、吸い過ぎに注意してください」
 コスモスは艤装用特殊弾を前衛に散布する。
「時空凍結弾ッ!」
 モニカは「物質の時間を凍結する弾丸」を射撃すると、赤毒のファングに火傷のみならず凍傷まで加え、着実に体力を削った。
 

「備えろよ。格上ブッ殺すにゃまずは命中率だ!」
 真紀は、ガンメタリックパープルカラーの霧を放出する。その独自改造を施された霧は、仲間内で最も攻撃の威力を期待できるブリキを万全な状態に整えていく。
「ムシは総じて火器が苦手と聞きます。これはどうですか?」
 戦闘前にアイズフォンで検索した内容を思い出し、ソラネは『GUIRTYRA』の胸部を変形展開させ、射出口からエネルギー光線を放った。炎とはまた違う光の熱に焼かれ、赤毒のファングは煙を上げてのたうち回る。
「哀れでスね」
 今の赤毒のファングにあるのは、グラビティ・チェインという餌を求める本能だけ。それが雉華は哀れで哀れで仕方ない。だが、一般市民のその牙を殺意向けた蛮行は決して許せない。
 雉華は「鋼の鬼」と化した拳を赤毒のファングに腹部に打ち付けた。赤毒のファングの巨体が、衝撃で地面からフワリと浮き上がり、口から毒以外の液体を撒き散らす。
 宙に浮いた隙だらけの赤毒のファングを胸部をジョーの電光石火の蹴りが貫き、マリアが金縛りをかける。
「ギギギッ!」
 瀕死の赤毒のファング。だが、本能は未だグラビティ・チェインを強く、何よりも強く求めている。その原初の欲望……執念が、モニカの首筋に喰らいつこうと襲いかかる。
 しかし、その寸前でコスモスが強引に身体を割り込ませた。赤毒のファングはモニカの変わりにコスモスの首筋に牙をズブリと深く突き刺す。そこから注がれるのは、体内を焼き尽くすかのような毒。
「……ッ」
 フェイスガードを装着しているゆえ、コスモスの表情は窺い知ることはできないが、その苦痛、不快感は相当のものだろう。しかし、コスモスは悲鳴を上げる事無く、口元を歪めるだけに止め、変わりに大きく開いた赤毒のファングの口内にパンドラ・ボックスの銃口をねじ込んだ。試作品であり、決して性能は高くないパンドラ・ボックスであるが、
「ゼロ距離ならばどうでしょうか?」
 言葉通り、コスモスは赤毒のファングの口内に向かって一斉発射を放った。
「ありがとうございます、コスモスさん! ウィッチオペレーション!」
 膝をつくコスモスに、モニカは緊急手術を施す。
「ハァァッッ!!」
 全身から煙を上げる赤毒のファングに、三日月が雷を帯びた突きで貫く。
「グギガガッ……」
 赤毒のファングは、立っているのがやっとの状態だ。反撃しようにも、足元は鈍重で、痺れが全身を襲っている。
「まず感じたのは『空腹』――――求めしものは未知の味覚 ああなぜ全てが食材に見えるのだ。強敵(とも)よ 汝のフルコースで胃袋を満たさん」
 詠唱しながら、ブリキは新たな味覚を覚醒させる。動けない相手への攻撃、それをブリキは卑怯とは言わせない。勝たなければ意味がない。そして、この場における真の勝利とは――――。
 ブリキが赤毒のファングに喰らいつく。その瞬間、周りのケルベロス達は一斉に顔を背けた。
「あー、うまいです」
 ありえないはずのものに、旨みを感じる。ブリキは『万物は全て餌』という渇望を証明するように、赤毒のファングの飢えごと、跡形もなく喰い尽くすのだった……。

 ケルベロス達は、歴史のある街並みを取り戻すため、ヒールを施していく。その甲斐あってか、表面上は無事に元に戻すことができた。
 無論、コスモスの毒の治療も忘れてはいない。
 そんな中、三日月がブリキに残して貰った赤毒のファングの一欠片を地面に埋め、黙祷を捧げている。
 その肩を雉華は優しく叩き、適当な棒っ切れを地面に立てながら、言う。
「……どこぞの戦隊モノの英雄気取りよりも、自分の意思で殺しを選ぶアリア騎士よりも半端に傀儡やらされてるアンタのがよっぽどやりづらかったでスよ。誇れよ、赤毒……同情も敬意も毛ほども無いでスけど」
 言葉通り、その声色には何に感情も浮かんではいない。ただ、自らが手にかけた事に対する責任だけがあった。
 まだ、何も終わってはいない。太陽神アポロンもイェフーダーも健在だ。
 でも、それよりも今は――――。
「ぐぅっ!」
 お腹を押さえて青い顔をしているブリキをどうするかが問題であった。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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