「はぁああ、気持ち悪かったぁああ」
少女は洗面台で水が服にはねるのも気にせず、かなり念入りに手を洗っている。
「もーほんと、なんで風呂場の排水溝って毎度毎度あんなに髪の毛詰まっちゃうのかなぁあ」
手を洗い終え、顔を上げると洗面台の鏡には自分の後ろに立つ何者かが見え、そして胸に何かの衝動を感じ、そのまま意識を失い崩れ落ちた。
「あはは、私のモザイクは晴れないけど、あなたの『嫌悪』する気持ちもわからなくはないな」
後ろに居たのは第六の魔女・ステュムパロス。その手には少女の胸を貫いた鍵を持っていた。
崩れ落ちた少女の横には頭のてっぺんから足元まで届く長い長い黒髪に覆われた恐ろしい外見のドリームイーターが現れた。
「皆集まってくれてありがとー。ドリームイーターの動きを予知したから説明するね!」
ヘリオライダーの籏本・杏鶴は集まったケルベロス達を見渡し、説明を始めた。
「どうやら今回のドリームイーターは苦手なものへの嫌悪を奪ってくみたい。嫌悪を奪った本人はすでにいなくなっちゃってるんだけど、嫌悪が具現化した怪物型のドリームイーターが事件を起こすよ」
怪物型ドリームイーターをなにかしらの被害が出る前に撃破してもらうのが今回の目的となる。撃破すれば嫌悪を奪われた被害者の少女も目を覚ますという。
「敵との接触に関してだけど、時間は夕暮れ時。ちょうどこの少女の家の前に到着した段階で家の中から出てきて接触できるよ。攻撃方法はながーい髪を絡ませ縛りあげてくる麻痺攻撃、髪を振り回して汚れた水を飛ばしてくる毒の攻撃、ぬるぬるの水? 汚れ? を飛ばしてくる足止め攻撃の3種類だよ」
とにかく髪をメインとした攻撃方法のようだ。敵はこの怪物型ドリームイーターの1体のみとのこと。
「嫌悪を具現化したってだけでもなんだか嫌な敵だけど、倒さないと被害者の子が目覚めなくなっちゃうし、皆がんばって倒してね!」
参加者 | |
---|---|
リスティ・アクアボトル(ファニーロジャー・e00938) |
ルーノ・シエラ(月下の独奏会・e02260) |
ローレン・ローヴェンドランテ(灰夢・e14818) |
御簾納・希(不撓不屈の拳・e16232) |
ミーシャ・クライバーン(トリガーブレード・e24765) |
ケオ・プレーステール(燃える暴風・e27442) |
アミル・ララバイ(遊蝶花・e27996) |
モニカ・キャロル(紫の隠者・e29847) |
●住宅街に現る恐怖
「おお!? なんだかホラーで井戸から這い上がってきそうな奴が出てきたな! 呪われそうだ! だがそれ以上に面白い!!」
夕暮れの住宅街、響いたのはケオ・プレーステール(燃える暴風・e27442)の声だ。
今ケルベロス達である彼女たちの目の前に家の中から現れたのは全身を覆う長い髪をもったドリームイーターの怪物だ。どうやら彼女にとっては面白いと思えるビジュアルだったようだ。
「うええ……ビジュアル最悪ね……」
彼女とは反対に全身で嫌悪感を出したのはルーノ・シエラ(月下の独奏会・e02260)だ。いつ何時果敢に戦うケルベロスといえど、これが普通の反応だろう。倒すだけとはいえ、受付にくい見た目だ。
「嫌悪感を奪う、か……そんなパターンもあるんだね」
「今度は人の嫌がる物に変化して襲いかかるとは。好き勝手されるわけにはいかないな」
リスティ・アクアボトル(ファニーロジャー・e00938)とミーシャ・クライバーン(トリガーブレード・e24765)は冷静に敵を見て感想を口にする。そうこうしている間も髪の毛の怪物は生れ出た家の中から汚い水をしたたらせ、玄関からこちらへ歩みを進めてくる。これは怪物が通った道は悲惨な状態だろう。
「ぬめぬめ、してますね……苦手なんですよねぇ……」
モニカ・キャロル(紫の隠者・e29847)は一般人が紛れ込まぬようキープアウトテープをあたりに貼りながら、歩いてくる怪物を見てつぶやく。みるからにぬめっている。早く倒してしまいたい。敵をみてより一層その気持ちが強まった。
「排水溝に絡んだ髪って自分のって分かってても、ヨゴレだらけなんだもの……。チャロのお風呂も大変だし…あら、怒った?」
アミル・ララバイ(遊蝶花・e27996)の言葉にはウイングキャットのチャロが少し抗議したように見えた。ウイングキャットはお風呂は好きなのだろうか、嫌いなのだろうか。普通の猫でも好き嫌いは個体差があるのだから、彼らもそうかもしれない。
「嫌悪感を覚える前に掃除してればいいのに……」
夕暮れ時だが汚いドリームイーターなど見たくないという思いからローレン・ローヴェンドランテ(灰夢・e14818)はサングラスを着用していた。
「こまめにお掃除すれば溜まることは無いんやけど……溜まった時は、ね。ボクも結構悩むし嫌や思うわぁ」
御簾納・希(不撓不屈の拳・e16232)は今回唯一の男性……ではあるのだがまわりの女性たちと同じ悩みを共有していた。まだ幼い彼は声も高く、少女にしか見えない。
しかし怪物にとって相手が男だろうが女だろうが関係なく、体から汚水を滴らせ、目に付いた者へと襲いかかろうと身構えた。
気持ち悪い敵とはいえ、侮れば脅威。被害者が出る前に討伐すべく、ケルベロス達も各々得物を手に、戦闘態勢へと移行する。
●毛刈り? 毛狩り?
まずはじめに動いたのはモニカだ。
「いきます!」
エアシューズのローラーに摩擦をあたえ、炎を纏い敵を蹴り上げた。敵は髪だ。炎で燃え上がるかと思いきや、濡れているせいか火のつきが悪かったようで燃え上がらせることはできなかった。
「次は私が。全力でいくわよっ」
続いたルーノは大鎌で遠心力をうみ、クルクルと踊るような身のこなしでスピードをあげ、旋刃脚を繰り出した。完全に叩きのめすだけの敵だ。遠慮しなくて良いのは非常に戦いやすい。
ここでドリームイーターが動いた。
「ごぷぽぉぉおお」
口があるのかは定かではないが、あの水が大量に吸い込まれるような、嫌な音を発しながら体ごと髪を回転させ、毒をもった汚水を前衛へと振りまいた。むしろ吸い込むより何か出てきそうな勢いだ。
「あぶない!」
敵の攻撃に素早く反応したディフェンダー達は攻撃手達を庇う。汚水を被り、一瞬嫌悪感に負けそうになるも、踏ん張り、その状態から希は行動へと移る。
「スピカ、皆を一緒に守るで!」
希は地面に守護星座を描きスターサンクチュアリを、ウイングキャットのスピカは引っかき攻撃で敵をひるませる。
「体が見えないな? 髪だけで出来てるなら全部毟ってやろう! オキノス! 毛狩りを楽しもうか!」
ドリームイーターの様子に物怖じせず、ケオとテレビウムのキオノスティヴァスが動く。
キオノスティヴァスは手にした凶器を敵に殴りつけ、ケオはブラックスライムで敵を丸呑みにしダメージを与える。攻撃を与える度に、ドリームイーターの髪の毛が千切れ、舞う様子はなんとも言い難い光景だ。
「あら、髪は女の命だもの。あたしは斬ったりなんかしないわ。性別なんて、知らないけれど」
アミルは霊体のみ汚染破壊できる斬霊斬を放つ。これなら直接刀も触れないし髪の毛も散らないし良い感じの攻撃かもしれない。主人に続いたチャロは清浄の翼を使い、味方の補助へと回る。
「さて、着実にいこう」
攻撃手としダメージを確実に与えるのが役目と考えたミーシャは、ホーミングを主体にした攻撃を選ぶ。光の翼を暴走させ、全身を光の粒子に変え突撃するヴァルキュリアヴラストを放つ。
「嫌悪か。デウスエクスを嫌悪してたらどんな奴が出てくるんだろうね」
どうでもいいことだと思いながらもローレンは笑顔で容赦なく攻撃を繰り出す。黒闇の白影。白い鎌のような形に変化させ、敵を切りつけた。今一番大事なのは目の前に居る大嫌いなドリームイーターを倒すことだ。
最後の行動となったリスティはコートをなびかせ、敵の直線上へと躍りでる。
「まったく気分の良い敵じゃないね。とっとと掃除してパイプに流しちまおうか!」
ドラゴンの幻影を放ち、敵を炎上させた。火がつきドリームイーターは身悶える。
ケルベロス達は初撃から着実に攻撃をし、敵の体力を削っていく。良い滑り出しと言えるだろう。
●振り撒かれる汚水と髪の毛
「うぅん……凍ればちょっとは綺麗にみえる?」
時空凍結弾を放つアミルはちょっとした苦笑いだ。倒さねばならないという気持ちより不快感が上回り始める。
何をどうしても、汚いのだ。ふざけたような見た目をしていたとしてもやはりデウスエクス。一筋縄でいくわけもなく、攻防が続く。
「さあ、収穫の時間ですよ!」
モニカは攻性植物を操り、収穫形態へと変化させ味方前衛を回復する。列の人数が多いため、敵は列攻撃を多用してきているのだ。一人一人の傷はそこまで深く無いが、かといって安心できる傷の深さでもない。
続いてチャロとスピカも清浄の翼を使い味方前衛を回復した。
「あまり触れたくはないが」
ミーシャは淡々とした調子だが螺旋を込めた拳ですこーし触れ、螺旋掌を叩き込んだ。触れなければ発動しない系の攻撃はかなりためらわれる。
ミーシャの攻撃を受けながらもドリームイーターはキオノスティヴァスへと髪を絡ませようと髪を伸ばし攻撃を仕掛けてくる。
「っと、危ない」
ルーノはいち早く攻撃に気づき、攻撃を庇った。腕に絡みついた髪をドレインスラッシュで狩り落とした。
庇われたキオノスティヴァスは次にまた攻撃が飛んできても大丈夫なよう自身に応援動画を使用する。回復しきれなかった毒で奪われた体力も大きくなりつつあった。
「さすがに水分がなくなってきて燃えやすくなったかい?」
リスティの愛用フリントロック・リボルバーから放たれた弾丸が着弾したところから炎が燃え上がる。炎は時間が経つほどに敵に焼け付く。
「ボクももう一回、回復使うよ!」
希はケルベロスチェインを操り、サークリットチェインを展開する。味方の守りをより堅固なものへと念をおして仕上げる。
「まったくもって汚い敵だ。さっさと潰してしまいたいね」
潰すというよりは燃やし尽くすと言ったほうが正確かもしれない。ローレンはドラゴニックミラージュを放ち、さらに敵を炎を畳み掛けていく。
「そろそろこちらも毒で蝕んでみよう! チクッとな!」
ケオは再びブラックスライムを操るが、今度は鋭い槍のような形態に変形させ、ドリームイーターを貫き、毒を与えた。回復を持っていない敵にはケルベロス達が与えたバットステータスが蓄積されている。時間が経つほどケルベロス達の形勢は有利へと傾いてった。
●掃除の時間
いまや炎はドリームイーターの全身を蝕み、動きを制限するバットステータスも多く付与され、動きが鈍ってきていた。
「これでどうだ」
そろそろ頃合いだと判断したミーシャは一番威力の高い魔剣を放ち、大ダメージを与えると、その攻撃でドリームイーターへの体がぐらつき、隙間からモザイクが散り始めた。
「そろそろ幕引きなのね。畳み掛けるわ」
続いたルーノも敵の様子から判断し、高威力である降魔真拳を繰り出した。
「おおおおおおお」
ドリームイーターは呻く。反撃しようにも体が動かず、ただされるがまま攻撃を耐え忍んでいる。だがもはやそれも限界だった。
「いい加減おきなよ。悪い夢はもうおしまいだ」
最後に動いたのはリスティだ。大鎌を振るい、刃に「虚」の力を乗せ激しく斬りつける。大きく切り開かれた傷口からドリームイーターのモザイクが霧散し、消滅した。
「ふぅ……倒し終わったねぇ」
「終わったな! 面白い相手だった!」
やっと嫌悪感から解放され、アミルは大きく息をついたが、その対称にケオは生き生きとしていた。嫌悪などないというケオは特に問題なく対峙できる敵だったようだ。
パンパン。ローレンは自分の体と服を叩き、防具特徴のクリーニングを使用した。
「さっぱりするね。皆もどうだい? クリーニング必要な人はボクに言ってくれ」
その言葉に彼女の周りに数人集まる。やはり汚れたままなのは気持ちが悪いものだ。
「クリーニングしてもろたら、壊れた箇所のヒールやね」
希があたりの被害状況を確認する。そこまでの被害にはなってないが、家の塀や道路は所々陥没してたりといった具合だ。まずは瓦礫集めからとなるだろうか。
「あ、被害者の女性も家の中で倒れてますよね。もう目が覚めてるでしょうか?」
モニカは女性の安否を確かめ、ケアするために家の中へと進む。
ケルベロス達の掃除の時間は、まだ少し続きそうだ。
作者:鬼騎 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年8月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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