ゴミはゴミ箱へ

作者:鬼騎

「ゴミ捨てしないでください」
 とある昼の公園。中学生ぐらいに見える少年は目の前で歩きスマホをしながらゴミをポイ捨てした男へ注意する。肩にはハムスターのような見た目をした何かが乗っている。
「あ? んだよ、うるせぇなガキが……」
「社会のルールを守れないのであれば、死んでください」
 少年が腕を振るうと、目の前の男の首が、飛んだ。

「ダモクレスの動きを予知したっす」
 ヘリオライダーのダンテは集まったケルベロス達に事件の説明をはじめる。
「少年はアンドロイドにされ、脳にチップを埋め込まれたことで、このままではダモクレスへとなり果ててしまうっす」
 小動物型のダモクレスがグラビティ・チェインの奪取と、有望なダモクレスとなりうる少年を育てるため、チップを通し、誘導を行っているという。
 ダモクレス達への接触だが、このアンドロイドはルールを破る人間に強く反応するため、この事件がおきる公園にてもっと派手なルール違反をすればおびき出す事が可能だという。また予知で襲われる男を見張る事でも介入は可能だろう。
「アンドロイドはチェーンソー剣を、ダモクレスはガトリングガンの業を所持してるっす。このアンドロイドの少年は規則を破った人を許せるように説得できれば埋め込まれたチップはショートし、人の心を取り戻せるっす」
 なお説得に成功した場合はチップの代わりにダモクレスが直接少年に合体し体を乗っ取り戦闘を継続する。これを撃破できればダモクレスは破壊され、少年を助けることが可能だという。
「説得に失敗した場合っすが、ダモクレスはアンドロイドに戦闘を任せ、撤退してしまうっす。また説得よりダモクレス撃破を先にしてしまっても、チップが暴走してしまって少年は助からず、倒すしかなくなってしまうっす」
 少年を助け、ダモクレスを撃破したければ、少年の説得に力を入れるべきだろう。
「ダモクレスに誘導されるままに罪を犯し続ける少年をどうか助けてあげてほしいっす。よろしくお願いするっす!」


参加者
八代・社(ヴァンガード・e00037)
村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)
ジゼル・クラウン(ルチルクォーツ・e01651)
エリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)
皇・絶華(影月・e04491)
渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)
小鞠・景(凩鎗・e15332)
サシャ・フラヴィニー(矯めるなら若木の内に・e21203)

■リプレイ

●夜露死苦タイム
「それでははじめちゃいましょ〜」
 村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)の一言でケルベロス達の悪行。もとい、おびき出し作戦は始まった。
 彼女は公園の適当な場所を選び、纏っていた服を脱ぎ大胆な水着姿へとなり、ベンチにて日光浴を始めた。サングラスもつけるその様はまるでどこかのビーチに居るかのようだが、一般人対策の殺界形成も同時に使用を開始する。
 次に続いたのはジゼル・クラウン(ルチルクォーツ・e01651)だ。ベンチの横で小型スピーカーを設置し、大音量で陽気な音楽を流し始める。その音楽によってさらに夏のビーチのような雰囲気が醸し出されるが、実際は公園の一角。その音楽を聴きながら横では煙草の吸殻を地面へと捨て、悪逆無道のアピールをする。
「いいですねいいですね。これなら確実にひかかってきますよ……!」
 小声ながらも語気を強めながらサシャ・フラヴィニー(矯めるなら若木の内に・e21203)ら監視組は仲間の悪行を少し離れた木陰から見守っていた。これならば確実にアンドロイドの少年とダモクレスをおびき出すことに成功するだろう。一般人達も殺界形成の効果か、あるいは異様な一角に恐れをなしてかあたりは閑散とし始めた。
 念のためのもう一押しは皇・絶華(影月・e04491)だ。スマホを見ながらあたりを歩き、そして手にした紙くずをゴミ箱に向けて投げ捨てる。それはゴミ箱ではなく、ゴミ箱のすぐ横へと落下した。正確に言えば落下したのではなく、狙って落下させたのだ。
「ゴミ捨てしないでください」
 ふと声をした方を見ればアンドロインドの少年が立っている。肩にはハムスターの形をしたダモクレスを乗せて。
「紙くずも、煙草も、捨てないでください。あと大音量の音楽も、水着姿での日光浴も、社会のルール違反です。歩きスマホも危険です」
 少年は毅然とした態度で矢継ぎ早に注意を促す。無事、おびき出し成功だ。
「嫌、と言ったら?」
 その言葉に少年はチェーンソー剣を取り出し、有無を言わせず攻撃を仕掛けてきた。
「そうはさせません」
 だが少年の攻撃は小鞠・景(凩鎗・e15332)が放った龍脈の教誡(アルトリー・ガザル)によって相殺された。
「ごみはごみ箱へ。正しいことですね。ですが、殺してはいけません」
 攻撃を邪魔されたことに不服そうな表情で、その言葉に少年は反論した。
「なぜ? ルールを守れない悪い人は死ぬべきでは?」
 なぜそう思ったのか。あるいは刷り込まれたのかはわからないが、ごく自然と、悪びれもなく死ぬべきだと言い放つ少年。
 少年に続き、肩にのったダモクレスの背が大きく開き、ガトリングガンがせり上がってきた。戦闘モードへの変形なのだろうが、先にダモクレスを撃破するわけにはいかない。ケルベロス達も全員戦闘態勢へと移行するが、まずは少年の説得を継続する。
「確かにポイ捨てはルール違反だけど、人殺しはもっと重い罪だ。ルール違反だよ。ルールを守らせたいなら、力づくじゃなくて、説得しないと……」
 渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)は人殺しの罪を教えるが、少年は困惑する。
「悪いことをしたら死刑される。それがルールでしょ?」
 ルールを犯したものは死刑される。そう言い放った少年の表情は困惑しながらも真剣そのものだ。何も間違ったことはしていない。そう言わんばかりに少年は数汰に向けチェーンソーを振るう。その攻撃はエリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)が両者の間に滑り込み、庇った。
「あんたがやっているのは公に準じた死刑ではなく、私刑だ。漢字は『わたし』と書く私刑な。それは罪であり、社会のルール違反。只の人殺しだ。兄ちゃんの言ってること、わかるよな!?」
 エリオットはこの少年の真面目そうなところを、双子の弟に重ね見ており、なんとしても助けたいと強く願い、説得をする。
「そん、な……」
 少年は自分がルールを犯していると諭され、苦痛の表情を浮かべる。自らが違反を犯すだなんて思いもしなかったのだ。
 八代・社(ヴァンガード・e00037)が説得のもう一押しをする。
「間違えたら即終わりなんて、窮屈な世界じゃ生きていけねえぜ少年。一切間違えずにルールも犯さずに生きてくなんて、無理な話だ。相手を許し、許されながら生きてくのが人生で、人間だぜ? 人を許すことで、お前さんも許されるんだ」
 少年は震え、苦痛の表情で頭を抱え膝をつく。
「ぼく、は……ぼくはっ! ぅ、ぅぐううう!!」
 ケルベロス達の説得が少年へと届いた。脳に埋め込まれたチップがショートし、ダモクレスが動いた。
「ぎぃぃぃぃぃぃ!!!」
 ダモクレスは奇声をあげ、少年の後ろ首へとまわり体へと密着した。少年の体が一度震えると、チェーンソー剣を手に起き上がる。少年の体がダモクレスに乗っ取られたのだ。ケルベロス達の戦いはここからが本番だ。

●スクラップ
 ダモクレスが少年に合体した後は撃破すれば元に戻せるとはいえ、少年の体を攻撃しなければならないことは気持ち的に嫌なものだ。だからと言って攻撃を緩めるわけにはいかない。
「ルールを犯して排除されるのは機械だけだ」
 ジゼルは少年の懐へ飛び込み、スターゲイザーを繰り出した。軽い少年の体は軽く後方へと吹き飛ぶ。
「忌々シイケルベロスドモメ!」
 少年の口を通し、ダモクレスは吠えチェーンソー剣を唸らせる。攻撃にいち早く反応したのはサシャだ。
「母さん!」
 サーヴァントであるビハインド、ヴィオレットはその声に反応し、即座に敵の前へ躍り出、攻撃を庇った。
 今回ケルベロス達は攻める姿勢でダモクレスへと挑んでいる。少年の体への配慮か、逃がさぬための策なのか。どちらだとしても有効な戦術だろう。攻撃手は全力で攻撃を仕掛け、盾となるべき者達は攻撃手を庇い、回復し、そして攻撃の補助へと徹した。
 少年との戦いは他の種とは違い、武器と武器とが衝突し、火花を上げる。まるで闘技場での戦いのようでもあった。
「人殺しを死刑だと正当化させようなんてもってのほか! ダモクレス、いや、デウスエクスに人々の命を好き勝手されてたまるか!」
 絶華は素早く少年の背後へと回り、ダモクレスへ惨劇の鏡像を打ち込む。少年はルールを犯すものを許さぬという正義心からの行動だったのだろうが、ダモクレスは違う。無垢な少年を戦力にしようとし、さらに人々を殺害し、グラビティチェインを奪おうとしていたのだ。
「お天道様が見てるからっていう気持ちが大事なんですよ? ダモクレスさんにはわからないでしょうか」
 水着の上にブラックスライムを纏い戦うのはベルだ。槍の形状にしたスライムで攻撃をしかける。戦っている最中に水着がポロリしないか心配でたまらなかった彼女は極力手を動かさずに済む戦闘方法を選んだのだが、スライムに覆われ水着が見えない状態は逆にチラリズムを刺激されるような気もする。
「ルール違反を注意できる勇気ってのはたいしたもんだよな。きっと立派な大人になれるぜ!」
 エリオットは少年と同じくチェーンソー剣を振るう。間違ったことを間違ってると指摘できることはとても勇気がいることだ。その勇気があれば、きっと正しい道を選び、生きていくことができるだろう。
 社は自身が保有する魔術回路を用い、業火をまとった蹴りを叩き込みながら言葉を発する。
「確かにな。ただガチガチなルールなんざクソ喰らえだな!」
 少しでも間違ったことをした人たちを根絶やしにするようなやり方では誰も何もできない世界になってしまう。そんな生き方、窮屈意外の何物でもないと思う。
 ケルベロス達のそれぞれの想うところは違えど、共通しているのは少年を利用したダモクレスを許さない気持ちと、少年を助けたいと思う熱量だ。少年を助けるべく、一撃一撃を正確に、そして全力で叩き込んでいく。
 攻防はケルベロス達の有利な状態で進む。
「助かった後、今度は正しい方法で間違った行いを正せれば素晴らしいことだと思います」
 社会の規範を守りながら人々を正しい事を成せる方法はいくらでもあるものだ。淡々とした口調だが、景は少年への想いを語りかけながら降魔真拳を繰り出した。
 少年の体が揺らぐ。首に取り付いたダモクレスは所々ショートし、煙を上げている。
 決着はすぐそこだ。数汰は少年の背後へ回り、拳を振り上げる。雷を纏った拳を振り下ろし、ダモクレスを少年の首から地面へと叩きつけた。
「ゴミはゴミ箱へ。鉄屑はスクラップへ。だな」
 ダモクレスは火花を散らし、動かない只の鉄屑へと成り果てた。この戦いはケルベロス達の勝利となった。

●矜持
 制御を失った少年はその場に倒れこんだがケルベロス達の介抱により目を覚ました。少年は自分の名や住所を覚えていたが、ダモクレスにつけこまれている間のことはほぼ覚えていなかった。
「あ、ええと、私は服を着てきます、ね」
 少年が目覚めた時、ベルはそう言いながら耳や頬を赤く染め、そそくさとその場を退散していた。今は服もちゃんと着用し、数人と戦った場所のヒールへと勤しんでいる。
「その、ぼくは……」
 少年は体が痛むことより、現状に憂いていた。詳細は教えられなかったが、武装したケルベロス達が居て、傷だらけの姿をみれば、自分がデウスエクスが起こす事件に何かしらの形で巻き込まれていたことは明白だ。
「もう大丈夫だ。ご両親に連絡もしたし、君の応急措置も済んだ。気に病むことはない」
 ジゼルは少年の背中をさすりながら、フォローを入れる。それでも罰の悪そうな顔をする少年にエリオットが話しかける。
「兄ちゃん達の傷は気にしなくていいんだぜ? それに……傷がある戦士って、ちょっとかっこいいとか思わないか?」
 笑いながらそう言えば、少年もつられ、少し微笑んだ。
「お兄さんたち……助けてくれて、ありがとう」
 少年の説得に成功し、そしてダモクレスも撃破ができた。ケルベロス達にとって最良の結果となり、皆ケルベロスであることを誇りに思える戦いとなった。

作者:鬼騎 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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