降り注ぐ隕石

■リプレイ

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　広場に灯る光は、ケルベロスたちの携行しているもの。
　王生・雪（天花・e15842）はウィングキャットの絹に耳栓をはめてやり、自分も耳栓を用意。
　今回のドリームイーターは、人を驚かせようとする――驚かない人を狙う性質がある。
　仲間を守るためには、毅然とした態度を取る必要があるのだ。
　ディフェンダーとして立つために耳栓を用意したのは相馬・泰地（マッスル拳士・e00550）も同じ。大きい音が来るのだと分かっているから、心の準備も出来ている。
「被害が出る前で良かったわ……」
　空を見上げて独りごちるのは松永・桃李（紅孔雀・e04056）。周防・碧生（ハーミット・e02227）も、その言葉には同意だった。
「これ以上悪夢が広がらぬよう、一刻も早く止めましょう」
　碧生の傍らにいるボクスドラゴン・リアンは体のあちこちに光を灯し、薄く光る。
　リアン、そして自身のサーヴァントであるウィングキャットの瑶が身に纏う淡い光に目を細めつつ、宝来・凛（鳳蝶・e23534）は独りごちる。
「ヤな予感が当たってもうたなぁ……」
　大元の魔女――第三の魔女・ケリュネイアと邂逅することは出来ない……しかし、ケリュネイアの作りだしたこのドリームイーターを倒していくことが、ケリュネイアに近付く手立てにもなるはず。
「……パッチワークは、何が、したい、のでしょう、ね」
　神宮時・あお（忘却ノ未来・e04014）もつぶやく。
　とにかく今は、顕現した悪夢を倒すほかない――あおは、腰に提げたライトの電源を入れる。
　ふわり、翼を広げて降下したのは螺堂・セイヤ（螺旋竜・e05343）。
　宙から敵の様子を窺っていたセイヤが姿を見せるということは、ドリームイーターの接近が近いということ……気を引き締めるケルベロスたちの前に、ほどなくしてドリームイーターが姿を見せる。
「さしずめ、ゴーレムといったところか……」
　岩の塊といった風情のドリームイーターを前に、セイヤはそうこぼす。
　――その時、突如として大音量の爆発が響き渡る。
　間近からの爆音――続く桃李の悲鳴にも、大きい音の苦手なナハト・オルクス（終夜礼讃少女と眠れ・e21881）はびくっと肩を跳ねつかせる。
　ナハト同様、あおも表情は変わらない。しかし反射といった様子であおは体を揺らし、ごくわずかとはいえ反応を示す。
　碧生とリアンは黒い耳と尾を大きく動かした上で、表情にも驚嘆を乗せていた。セイヤも演技としてのぎこちなさはあっても、それに倣う。
　思い思いに驚きを見せるケルベロスたち――だが、泰地と雪、絹に反応はない。
　悠々と、堂々と敵を見据える二人と一匹。
　それを認めて、ごろりと岩の姿が動きだす。

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　顔も、目すらもない岩の怪物のドリームイーター。
　しかしその意識が、驚きを見せない泰地と雪と絹に向けられていることは感じられた。
「全く、レディに突然爆音をふっかけるなんて不躾にも程があるわよ」
　桃李のしなやかな指に絡み付くのはケルベロスチェイン。
「あーもう、やかましいやっちゃな！　耳が劈けてまうやろー！」
　疎ましげに凛が言えば、瑶も驚きに飛び上がった勢いに乗せてリングを回す――その行動をきっかけに、戦闘は始まった。
「いつでもいいぜ、かかってきな！」
　挑発的な泰地の言葉に乗るかのように、落ちる隕石は泰地の頭部を狙う。
　泰地はいくつもの幻影でもって対抗。ドリームイーターに肉薄するあおにも岩の破片が届くが、それらを気にも留めずにあおは煌めく蹴りを叩きこむ。
「下手な演技まで強いられたんだ……粉々にさせて貰う……！」
　翼を広げて蹴りつけるセイヤは、死掠殲装【黒】を翻すことで破片を防ぐ。
「現実と成るべきは、貴方の様な悪い夢ではなく……美しい流星群を見たいという、元々の幼気な夢」
　柔らかく膨らむのは雪の髪。戦場を見渡す絹の眼差しを背に、雪は腕を広げる。
「良い夢を」
　胡蝶のゆらめきと剣舞――桃李はケルベロスチェインを戦場に広げ、魔法陣を展開。
「驚かせてくれたお礼は、たんまりと返してあげなくちゃね」
　包み込む癒しの力に苛立つかのように、ドリームイーターは岩の姿を地面に打ちつける――その姿に、碧生は耳を震わせ。
「子供の夢を、こんな怪物にしてしまうなんて……」
　つぶやく蒼生が温かな感覚を覚えれば、そこにはリアンの姿。
「皆さんの背を支えられるよう……頑張りましょう」
　黒い背を押して、碧生もケルベロスチェインを伸ばす。
　鎖による戒めを受けたところにブレスを吹きつけるリアン。
　凛もまた、日本刀を手に後に続いた。
　ドリームイーターの表面を撫でれば、削ぎ落された表面が落ちて地面とぶつかる。
　更にそこをドリームイーター自身が踏み砕けば、不愉快な音にナハトはバトルオーラを歪める。
「ああ、しかし。だめだ。鼓膜も頭も痛い……」
　早くくたばってくれ――つぶやきと共に仲間を包むオーラは、夜風のように涼しげだった。

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　あおが縛霊手を叩きこめば、必中祈願の鈴が一斉に響く。
　隕石の落ちる爆音ばかりが響く戦場の中、その音ばかりが涼やかで心地良いものだった。
「隕石如きこの足で蹴り砕くまで！」
　筋肉の浮き出た見事な脚を一閃、泰地は隕石を破壊する。
　攻撃が思うようにいかないためか、苛立った様子で岩の姿を地面に叩きつけるドリームイーター。
　これが人の形を取る敵だったら、地団太を踏んでいるところだろうか――想像しながらも、雪は広げた舞扇【夢幻胡蝶】でドリームイーターを指す。
「さぁ鬼さん、此方です」
　戦場へと誘う言葉。
　対峙する岩の怪物にどれだけの知性があるのかは分からないが、雪の言葉に乗るようにドリームイーターは岩の腕で雪を殴りつける。
　防ぎはしても、ダメージを受けてしまう雪。
　ナハトは金の眼差しを雪へと向けると、それ以上何かを語ることもなく癒しを施す。
「助かるで」
　凛の感謝の言葉に、ナハトの眼鏡の奥の瞳が少し動いたのが見えた。
　援護のためにと封印箱ごとドリームイーターに突撃するリアン、爪を出した絹と瑶がリアンに続き、翼を広げた凛は静かに告げる。
「さぁ――覚悟しや」
　オラトリオの力を秘めた弾丸は紅。見た目からは想像もつかない威力に、ドリームイーターの岩の体に小さな穴が開いた。
　風穴へと刃を差し込むのは雪、内側から削り取る斬撃には雷すら含まれ、焼けた岩は赤く変色する。
　岩の姿で暴れ、悶えるドリームイーターへと接近するのはセイヤ。
　振り下ろされる腕のような岩を軽く避け、伏せ、時には軽く飛翔しながらドリームイーターの懐にまで迫ったセイヤは、魔龍凱甲ウロボロスからその魂を喰らう。
「隕石程度に、負けはしない……！」
　裂帛の一撃。
　桃李は呼び起こした龍へと地獄の炎を纏わせると、ドリームイーターへと手を差し伸べ。
「火遊びじゃ、済まないわよ」
　艶やかな言葉と共に、緋龍を喰らいつかせる。
「幼い夢を、人を傷付ける道具にするなど……許しません」
　怒りを秘めた碧生の呟きと共に、月光の魔力が生まれる。
「我が敵を、捕らえよ」
　端的な命令――呼び出された獣は地を蹴り、ドリームイーターへと食らいつく。

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　子供の持つ小さな驚きを利用する卑劣なドリームイーターへの攻撃は、ただただ苛烈。
「木っ端微塵に砕いたろーやないの」
　隕石もどきも、これを生み出したケリュネイアの計略も――そう心に決め、凛は紅蓮を乗せた刃を滑らせる。
　夜の中、炎はどんな光源よりも鮮やかな輝きを持つ。
　照らしだされて居所が明らかだからこそ、狙いがつけやすい……泰地は全力で振りかぶり、神速の拳を浴びせかける。
「いくぜ降魔捷拳！」
　その速度、回避できるものではない。
　ナハトが堅実に癒しを続けたお陰で、仲間達の守りは十全。今こそ攻撃に転化する時だと判断して、ナハトは囁きかける。
「墜ちよ、果てよ。――夢を視ろ」
　祝詞にして呪言。何かをためらうように動きを鈍らせるドリームイーターに襲い掛かるのは、左右からの絹と瑶のリング。
　二匹が退却するのと入れ替わりに、雪は迷いなくひと太刀。力強い斬撃にすぐさま反撃に打って出ようとするドリームイーターを押さえこむのは、桃李の鎖だ。
「おイタが過ぎる輩は、存分に締め上げてやりましょう」
　逃げようとドリームイーターが抵抗するたびに岩の体と鎖がこすれて火花が散る。
　接近戦を仕掛けるあおの体は火花を浴びてちりちりと痛むはずだが、あお自身は何もなかったかのように口を開く。
　紡がれるのは、『風標の唄』。
「……風が、紡ぐ、不可視の、刃。優しくも、鋭い、久遠の、詩」
　終結へと向かう歌の中、セイヤは漆黒のオーラで全身を包む。
「俺の拳に砕けぬ者は無い……滅びろ……！」
　黒龍を象る拳は天空から。
「打ち貫け！！　魔龍の双牙ッッ！！」
　叫びと共に、ドリームイーターは四散した。

　戦いは終わり、泰地やあおは周辺のヒールを行う。
「……パッチワークは、何が、したい、のでしょう、ね」
　つぶやくあおに、泰地は答えを持っていない。
「オレ達には見つけ次第ぶっ倒していくしかねーな」
　１２の魔女達が出てきてからというもの、ドリームイーターの活動も活発になってきている……やれることをやっていく他に、今は道はないだろう。
「少年の方も見てきた方がいいかもしれないな」
　セイヤは言い、今回被害に遭った少年の家の方へと歩み出る。
　ナハトはセイヤを見送ると、静けさを取り戻した夜風を肺いっぱいに吸い込む。
「……お休みなさい」
　ドリームイーターの消えた辺りに囁きかける碧生は、少年へと思いを馳せる。
　敵は倒され、今頃は目を覚ました頃だろうか……夢と純真さを持つ少年を思いつつも、碧生はリアンを呼ぶ。
「僕達も……少し星を見て帰りましょうか、リアン」
「お疲れさん、うちも星見に付き合うよー」
　凛が言い、雪と桃李も星を眺めることにした。
　――悪夢はすっかり晴れて、空は天気が良いから星がよく見える。
「流星群への想いは、きっと叶うと信じましょう」
「星に願うは私も同じ――男の子が、思い出に残る夏の夜を過ごせますよう」
　言葉を交わす雪と桃李。
　凛も心地良い風を頬に受けながら、優しく目を細める。
「空と気分はやっぱ晴れが一番やねぇ」

作者：遠藤にんし	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年8月25日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 2／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
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