黙示録騎蝗~その羽は刃のごとく

作者:神無月シュン

 早朝の森の奥深く、特殊諜報部族『ストリックラー・キラー』の長であるイェフーダーの姿があった。
 イェフーダーは用意していた宝石――コギトエルゴスムをひとつ手に取ると、グラビティ・チェインを注ぎ込んだ。その直後、宝石は光を放ち形を変えていく。
 復活したばかりのトンボ型ローカストは飢えに苦しみ暴れだしたが、すぐに部下の手によって取り押さえられた。
「グラビティ・チェインが欲しければ、自分で略奪してくるのだ」
 そう言ってイェフーダーはキャンプ場のある方角を指さす。
 解放されたトンボ型ローカストは、イェフーダーの指さした方角へ向かって飛び立った。
「せいぜい頑張ってグラビティ・チェインを集めてくれよ。まぁ、いくら集めたとしてもお前が奪ったグラビティ・チェインは、全て、太陽神アポロンに捧げられるのだがな」
 小さくなっていくトンボ型ローカストを眺めながら、イェフーダーは呟いた。

「ローカストの太陽神アポロンが新たな作戦を行おうとしているようです」
 集まったケルベロス達にセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はそう告げた。
 不退転侵略部隊の侵攻をケルベロスが防いだことで、大量のグラビティ・チェインを得る事ができなかった為、新たな、グラビティ・チェインの収奪を画策しているらしい。
「その作戦は、コギトエルゴスム化しているローカストに、最小限のグラビティ・チェインを与えて復活させ、そのローカストに人間を襲わせてグラビティ・チェインを奪うというものです」
 復活させられるローカストは、戦闘力は高いがグラビティ・チェインの消費が激しいという理由でコギトエルゴスム化させられたもので、最小限のグラビティ・チェインしか持たないといっても、侮れない戦闘力を持つ。
「このローカストはグラビティ・チェインの枯渇による飢餓感から、人間を襲撃する事しか考えられなくなっている様です」
 仮に、ケルベロスに撃破されたとしても、最小限のグラビティ・チェインしか与えてない為、損害も最小限となるという、使い捨ての特攻作戦。効率的だが非道な作戦だ。
「この作戦を行っているのは、特殊諜報部族『ストリックラー・キラー』を率いる、イェフーダーというローカストの様です」
「いずれは、イェフーダーと直接対決する必要があるでしょう。ですが、まずは復活させられたローカストを迎撃することを優先してください」
 セリカの言葉にもちろん。とケルベロス達は頷いた。

「復活したローカストが現れるのは、山林にあるキャンプ場です」
 今の時期、子供連れで泊まりに来ている家族等で、賑わっているだろう。飢えたローカストにとって恰好の餌場だ。
「外見はトンボの姿をしていて、体長は1m。羽が刃のように鋭くなっています」
 攻撃方法は他のローカストと大差ないが、標準の個体に比べてとにかく速い。
「その速度から繰り出される、刃状の羽による攻撃には十分気をつけてください」

「太陽神アポロンの卑劣な作戦、何としても阻止してください」
 セリカはそう言い、ケルベロス達を送り出した。


参加者
流星・清和(汎用箱型決戦兵器・e00984)
恋山・統(リヒャルト・e01716)
武田・克己(雷凰・e02613)
神咲・刹那(終わりの白狼・e03622)
鳳来寺・緋音(鉄拳必倒・e06356)
ヒルメル・ビョルク(夢見し楽土にて・e14096)
時雨・乱舞(サイボーグな忍者・e21095)
ユリア・ベルンシュタイン(奥様は魔女ときどき剣鬼・e22025)

■リプレイ

●腹を空かせたローカスト
 ケルベロス達は予知にあった、トンボ型ローカストが通るであろう小川へと到着し、各々戦闘の準備を始めた。
「ローカストにも仲間を道具のように扱うような者がいるのですね……」
 時雨・乱舞(サイボーグな忍者・e21095)は特攻させられているローカストに同情するが、一般人を守るため仕方ないと気を引き締めた。
「やれやれ。今度は腹減らしたローカストか。作戦としちゃわかるが、認めたくはないな」
 作戦としては有効だろう。しかし犠牲を前提とした作戦を、平然と行うようなヤツを許すことは出来ないと、武田・克己(雷凰・e02613)は怒りをあらわにする。
「お腹を空かせた虫は、なかなかに獰猛……どころか、一種の災害だって聞くけど、これはまた、酷な戦法だ、ね」
 恋山・統(リヒャルト・e01716)が敵の作戦に、思ったことを口にする。虫の大群が作物を食い荒らすことを聞いたことがあるが、今回のそれは意図的に似た状況を作り出している。という事になる。違う点は狙われるのが作物ではなく、人だということだ。
 準備もまもなく終わるという頃、山上の森からトンボ型ローカストがやってきた。体長は1mほどで、左右の羽はカミソリの刃の様に薄く鋭く、太陽の光を反射していた。小川へ向かってくるその動きは、力を温存するためか、ゆっくりとしていた。
 早朝とはいえ、万が一戦闘中に一般人が小川へとやってきてしまったら、トンボ型ローカストに襲われる危険がある。そうならないようにと、敵を確認した、ヒルメル・ビョルク(夢見し楽土にて・e14096)は、周囲に殺界形成を展開する。
「さて、それでは害虫駆除の時間と参りましょう」
 向かってくるトンボ型ローカストへ、ユリア・ベルンシュタイン(奥様は魔女ときどき剣鬼・e22025)は一歩踏み出し、名乗りを上げた。
「私はユリア・ベルンシュタイン。貴方に戦士としての死に場所を与えてみせましょう。故に――名乗れ!」
 ユリアの声でケルベロス達に気がついた、トンボ型ローカストは飢えを満たすことしか考えている余裕もなく、言葉を発することもない。ただケルベロス達を見据える。そして、敵と認識――否、餌と認識して攻撃態勢へと移行した。
 ケルベロス達もまた、戦闘を開始するべく武器を構えた。

●鋭い速さ
 まるで開戦の合図というように、最初に動いたトンボ型ローカストが羽をこすり合わせる。その音は金属をこすり合わせた様な不快な音となり、前衛を襲う。あまりの音に皆が耳を塞いだ。
「最初から飛ばしていくぜ! ……護れ、サキュバスクラウドッ!」
 鳳来寺・緋音(鉄拳必倒・e06356)が後衛を暖かい桃色の雲で包み込む。
 ヒルメルが魔法の木の葉を自身に纏わせ、攻撃の準備を行う。
「可変式機関装甲、展開! 全機、味方のサポートに入れ!」
 流星・清和(汎用箱型決戦兵器・e00984)は前衛へと補助ユニットドローンを射出した。
「さてと、闘るか」
 克己が緩やかな弧を描く斬撃を放つが、トンボ型ローカストは軽々と避ける。
「中々速いな。こいつは楽しめそうだ」
 克己は強い敵との戦いに自然と笑みがこぼれた。
 神咲・刹那(終わりの白狼・e03622)がグラビティブレイク、乱舞が戦術超鋼拳、統がサイコフォースを次々と放つが、トンボ型ローカストはジグザグに動きそれらを躱していく。
「剣以外は得意じゃないけど」
 次々と避けた先、ユリアの放つ、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りが、トンボ型ローカストを捉え、機動力を奪う。
 トンボ型ローカストは体勢をすぐに整え、刹那に噛みつこうとアルミの牙を伸ばした。そこへ統が割って入り攻撃を代わりに受けた。
 緋音が前衛にも夢魔の癒雲を発動し、暖かい桃色の雲で包み込んでいく。ヒルメルはジャマーである、乱舞へとエフェクトの効率アップを狙い、ステルスリーフをかけた。
「続いて、ヒールドローン。3番から5番展開! 味方の回復と護衛に当たれ!」
 清和が前衛へと回復と防御アップのためのドローンを射出する。
 乱舞が螺旋掌を放つも、紙一重で躱されてしまう。そこへ、分が悪い方に好んで賭ける癖の出た克己がイチかバチかの、最大威力の大技『破邪剣聖・一天』を放つ。しかし複眼でじっと攻撃の動作を見つめていた、トンボ型ローカストは軽々とその一撃を躱した。
 攻撃が避けられるだろうと予測して、放った刹那の電光石火の蹴りがトンボ型ローカストを捉えた。
 予想外の攻撃に体勢を崩したトンボ型ローカストへ、統のスターゲイザー、ユリアの剣理が次々と襲いかかる。

●鈍る動き
 激しい攻防が続き、トンボ型ローカストの速度は落ちていき、徐々にではあるが動きを捉えられるようになってきていた。しかし生への執着か、攻撃の手は緩むどころか激しさを増していた。
 トンボ型ローカストが後衛へ破壊音波を放つと、そのまま続けて乱舞目掛け突撃する。それを見た緋音が間へと割り込む。鋭い羽の一撃は展開されていたドローンを切り裂き緋音を襲う。
「ぐうゥッ……流石に重いな……」
 高速で放たれた斬撃を受け、緋音は顔をしかめる。体には深々と刀傷の様な痕が刻まれていた。それを見て統が気力溜め、清和が護殻装殻術で緋音を急ぎ回復する。
「全速でぶつけるのみ!!」
 敵の強さに高揚し、笑みがさらに深くなった克己は、雷の霊力を帯びた神速の突きを繰り出した。トンボ型ローカストは攻撃を受けよろめくも、すぐに空中で体勢を立て直した。
 統のビハインドのフリードリヒが小川に転がっている石へと念を籠めトンボ型ローカストへ向かって飛ばし、刹那と緋音が電光石火の蹴りを放つ。トンボ型ローカストは避けることが出来ずに、攻撃が次々と命中していく。
「失礼いたします。こちらをどうぞ」
 ヒルメルが調合した香水を取り出す。形容しがたい不可思議な香りが、清和達後衛を包み込む。先ほど受けた破壊音波の不快な感覚が消えていき、精神が高揚して活力がわいてきた。
 ユリアが放つ絶空斬がトンボ型ローカストのエフェクトを増やしていく。
 乱舞のライドキャリバー、シラヌイの炎を纏った突撃がトンボ型ローカストを燃やす。そこへ乱舞が螺旋の軌跡を描く手裏剣を放つ。放たれた手裏剣はトンボ型ローカストの羽へと命中し、傷をつけた。
 トンボ型ローカストは克己をローカストファングで攻撃後、突撃の距離を取るため上空へと飛び上がろうとした。このまま上空まで飛び上がり、コテージを見つけられたら、そちらを狙いに行ってしまう可能性がある。
 後方に居た清和がいち早く気がつき、アームドフォートを構える。
「そうは、おっちゃんが逃がさないで! フォートレスキャノン……フルファイアッ!!」
 主砲を放つ。固定砲台から放たれた一撃は、トンボ型ローカストが上空へと飛び上がるよりも速く、撃ち落とした。
 体勢が完全に崩れたトンボ型ローカストへ向かって、ケルベロス達は猛攻をかける。
「そんなに飛びたいなら、飛ばしてやろう! 破邪剣聖・一天!」
 克己が日本刀『直刀・覇龍』を両手で構え一気に踏み込む。速度を乗せた一撃を上段から叩き込んだ。
「痺れますよ!」
 刹那の奥義「神鳴」。雷撃を纏った拳でトンボ型ローカストを殴る。
「粉砕するッ! 受けてみな!!」
 緋音の放つセイクリッドダークネスがトンボ型ローカストをさらに殴る。
 ヒルメルは影の如き視認困難な斬撃を繰り出しトンボ型ローカストを掻き斬る。
 統がスターゲイザーを活性化させ、飛び蹴りを加えると、ユリアが剣理で追撃をかけた。
「さあ、我が幻影達よ……踊りなさい!!」
 乱舞が印を結ぶと、自らと同じ姿の無数の影分身が現れた。乱舞が指示を出すと影分身達は一斉にトンボ型ローカストへと攻撃を開始した。
 ケルベロス達の連続攻撃を受けて、トンボ型ローカストはついに地面へと墜落した。

●満たされず朽ちる
 地面へと墜落した、トンボ型ローカストは、まだ生きていたいともがき苦しむ。しかし、トンボ型ローカストのグラビティ・チェインは、既に底をついていた。一般人を襲うならまだしも、ケルベロスを相手にするには、最初からグラビティ・チェインが足りていなかった。元々一般人を襲えればよし、ケルベロスに見つかって、倒された場合も特に困らないという作戦なのだから……。しばらくもがき苦しんだのち、動かなくなったトンボ型ローカストは光の粒になって消滅しはじめる。
「ただの手駒として使い潰すには惜しい実力者でした……」
「強かったぜ」
 刹那と緋音はそれぞれ敬意をはらう。そしてイェフーダーへの怒りが湧きあがっていた。
 乱舞が目をつぶって祈り、ユリアが礼を尽くし、消えゆくトンボ型ローカストを見送った。やがてトンボ型ローカストは完全に消滅した。
 戦いを終え、周囲を見渡せば、激しい戦闘で小川周辺は砂利が吹き飛び、近くの木は倒れ、川底も抉れていた。これでは折角キャンプに来て、川遊びを楽しみにしていた人たちが気の毒だと、辺りを直すことにする。
「歌え、踊れ、振れて流れよ」
 統が無数の粒子を雨粒のように降り注がせ、周囲をヒールしていく。
 緋音もまた、暖かい桃色の雲で辺りを包みヒールを施す。清和は複数のドローンを展開して細かな部分のヒールにあたった。他のケルベロス達もヒールするべく動き始めた。
 戦いで高揚していた気持ちを落ち着けようと、目を閉じていた克己の傍に、刹那が近づく。手にはお腹が空いたのか、ローストビーフサンドを持っていた。それを一口かじり、話しかける。
「克己、無事ですか?」
 刹那の言葉に克己は片目を開き、大丈夫だ。と目で返事を返した。
 あらかたヒールを済ませ、もう大丈夫だろうとヒルメルが殺界形成を解除した。
 小川へと向かってくる、楽しそうな声を聞き、ここでやるべきことは終わったと、ケルベロス達はその場を後にした。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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