夏と河童と、小さな冒険

作者:朽橋ケヅメ

 長いようで、短いような気もする、夏休み。
 その中でも、特別なこの一週間を、ダイチは楽しみにしていたんだ。
「……水の音」
 草をかき分けて木漏れ日のけもの道、上っては下りて、まだ真新しいシューズが土の色に変わるのも構わずに。
 ふっ、と急に空が開けたが早いか、飛び込んでくる眩しさに今の季節を思い出した。
 毎年、お盆の頃には、ダイチは両親とともに小さな山間の村へと里帰りをする。
 いや、都会で生まれたダイチにとっては古里でないそこは、未知の秘密にあふれたおもちゃ箱のような世界だった。
 見れば、ささやかな滝が降るその下には小さな池、そこから清流となって麓へと流れ降りていく、その川辺へと緩やかに下る砂利道がある。
「ここ……かな」
 この川には、河童が出る――と、地元の子供たちから教えられたのだ。
 河童といえば、ダイチでもアニメや何かで知っている。人に似た形で、クチバシと甲羅とお皿と水かきがあって。
 でも本当に居るのだろうか?
 もしかすると、子供たちは都会から来たダイチをからかっただけかもしれない。
 けれど、そんなことは思いもしないのだろう、好奇心と冒険心に突き動かされるままに、ダイチはおそるおそる川面を覗き込んだ。

 河童に会ったらどうしよう。仲良くなれるかな。そんなことを思いながら、しばらくは目を凝らして水の中を観察していたが、そのうちにぼんやりと、流れに映る自分の影を見るともなく見るようになっていた。
 セミが鳴いている。セミの声は街と変わらずうるさかった。
 もう帰ろうか、と思ったそのとき……大きな影が、ダイチの影を覆うように現れた。
 だけど、それは水の中じゃない。
 振り返ったダイチが驚いて叫ぶよりも早く、巨大な『鍵』にダイチの心臓は貫かれた。
 霞んでいく意識の中でダイチが見たモノは、河童よりも作り話のようだったろう。
 夏の山には不似合いな黒衣に、恐ろしいほど白い膚と髪。
 ――私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります。
 倒れ伏せたダイチを見下ろして、鍵を携えたドリームイーター――アウゲイアスはそう告げると、その傍らには、ダイチから奪った『興味』が凝り固まるように形をとって現れた。
「キシシシ……信じてくれて嬉しいゼ」
 少年の思い描いた河童の姿が。凶暴な怪物として。
 
●夏と河童と、小さな冒険
「皆さんも、子供のころって、昔ばなしをほんとだと信じてませんでしたかー?」
 元気よく手を挙げて、笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が呼びかけた。
 そう言う本人もまだ子供に見えるけど……と口を挟みそうになりつつ、ケルベロス達はねむの説明に耳を傾ける。
 それは、お盆の帰省でとある片田舎の村にやってきた少年が、河童に会えると聞いて村の外れにある川を訪れたところをドリームイーターに襲われる――という事件だった。
「このドリームイーターが奪うのは、『興味』の気持ちなんです!」
 そして、ねむが告げるには、奪った『興味』から怪物型のドリームイーターを作り出して、さらに被害者を増やそうと目論んでいるのだ。
「つまり河童なんですけど……男の子が思っていたよりずっと凶暴で強力な怪物が生まれてしまったみたいです……」
 ケルベロス達が現場につく頃には、ねむが視たという黒衣のドリームイーターは既に行方をくらませているだろう。
 それでも、生み出された怪物が人々を襲う前に食い止めることはできる。
 この、『興味』の感情から生まれた怪物型ドリームイーターは、自分を信じている者、自分の噂をしている者におびき寄せられるという。
「つまり、河童を信じているような話をしている人のところに近づいてくるんですよ! 戦いやすい場所に誘い出したりできそうですねっ」
 また、こうしたドリームイーターは、出会った人間にまず『自分は何者か』を問いかけ、答を間違えた者に襲いかかる性質もある。これを上手く扱えば、初手を有利に進められるかもしれない。
「この怪物さえ倒せば、『興味』を奪われたまま倒れている男の子も目を覚ますはずですっ。どうか、助けてあげてくださいね!」
 そう告げる言葉にもいつしか熱がこもり、ねむはすこし暑そうに汗をぬぐった。
 今日も良い天気だ。
「無事に終わったら、すこし、清流で涼んでいくのも気持ちよさそうですねっ」


参加者
エフイー・ジーグ(森羅万象身使いし機人・e08173)
ヨエル・ラトヴァラ(白き極光・e15162)
霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)
フェリシティ・エンデ(シュフティ・e20342)
ジェミ・ニア(星喰・e23256)
灰縞・沙慈(小さな光・e24024)
錆滑・躯繰(カリカチュア・e24265)
レオンハルト・シュトラウス(レグルスの偽冠・e24603)

■リプレイ

●夏の空色
 遠く近く、夏を惜しむようなセミの声が、森を覆うほどに響いている。
 木漏れ日をたどり、けもの道を進んでしばらく、川のせせらぎと目映い光に迎えられたケルベロス達は、誰からともなく足を止めた。
 ヨエル・ラトヴァラ(白き極光・e15162)が額に浮ぶ汗を拭い、息をつく。
「ここが目的地のようですね」
 まだ日本の夏には……この暑さには慣れないけれど、陽射しを浴びて輝く清流の光景には、思わず目を細めた。
「戦場にするには忍びない気もしますね」
 周囲を見渡して地形を確認しながら、ジェミ・ニア(星喰・e23256)も口元を綻ばせる。
「……とはいえ、ドリームイーターを見逃すわけにはいきませんが」
「はい、純粋な少年を犠牲にしようとは許せませんねー、ダイチ様と自分のような」
 レオンハルト・シュトラウス(レグルスの偽冠・e24603)は飄々と言い、傍らのウイングキャット……エニシアを抱き寄せた。
「私も同意するよ。ま、純粋かはさておき、な」
 肩をすくめ、口の端を上げるのは錆滑・躯繰(カリカチュア・e24265)。
「おう、敵が可愛いヤツだったとしても、オイラがぶっとばしてやる!」
 少年を守るんだ。決意をこめて、エフイー・ジーグ(森羅万象身使いし機人・e08173)が拳を握りしめたとき。
「あそこに倒れていますわ」
 川の手前、岸の岩場の上に少年を――倒れ伏せたダイチの姿を認め、霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)が声を上げた。
「お怪我は無さそうですわね。まるで、ただ眠っているかのよう……」
 だが、その眠りはドリームイーターに囚われし軛。少年を救うには、生み出された怪物を打ち倒し、ドリームイーターの魔手を払うより他にないのだ。
 そして――ケルベロス達はそれを為すためここに居る。
「巻き込まないように、戦わないと、ね。ぜったい、守らなきゃ……」
 その、ユメを信じる心も――と、灰縞・沙慈(小さな光・e24024)は想いを胸に抱く。
「あ! ……っちのほうに誘い出すのね」
 元気よく口を開きかけ、フェリシティ・エンデ(シュフティ・e20342)は慌てて声を潜めた。
 敵が、どこかで聞いているかもしれない。照れたように小さく舌を出し、開けた川下のほうを示すと、ヨエルも頷いて、川の上に幾つか突き出た岩の足場を指差した。
「岩伝いに向こう岸に行きましょう。そのほうがダイチくんから離れられますし、足場も良さそうです」
 敵は単独。少年を保護するために近づいて戦闘に巻き込む危険を冒すよりも、敵を離れた場所に誘き出して戦うほうが安全だ――ケルベロス達はそう判断し、岩の足場を伝って、あるいは翼を広げて川を渡り始めた。

●冒険と噂話
「ね、ここ出るんだって、河童!」
 辺りに響くほどの大声でジェミが切り出せば、ジェミに続いて川を渡っていた躯繰は首を傾げてみせる。
「あァ、噂には聞くが、本当にそんな物が居るものだろうか」
「こういう鄙びた山里なら、妖怪が人知れず暮らしてたっておかしくないよ!」
「ヨウカイ……妖精みたいなものですか? 僕の故郷にも水場に潜む恐ろしい妖精がいますけど……」
 と首をつっこんできたヨエルは、話しながらも周囲に視線を巡らせる。
 すると、レオンハルトはエニシアを抱いたまま光の翼でふわりと舞い、
「自分も詳しくは存じませんが、日本には頭にお皿を乗せた妖怪さんが出るそうで」
「ねーねーねーねー! 河童の頭のお皿ってさ、本当にお皿なのかな!」
 と屈託のない笑顔を浮かべるフェリシティに、寄り添う白いボクスドラゴン。
「ね、そば粉、そば粉! 河童ってね、きゅうりが好きなんだって! 食べてくれるかな?」
 川を渡り終えたフェリシティがごそごそとキュウリを取り出せば、そば粉と呼ばれたボクスドラゴンはすかさずかぶりつく。
「あーっ! そば粉のじゃないのよ、もう!」
 そんなやりとりにジェミはくすりと微笑んで、
「キュウリなら僕も持ってきたよ。これでどうかな?」
 と、水際にお供えしてみる。キュウリはともかくとして、皆の噂話を河童が聞いているならば、きっとこちらに誘き寄せられてくるはずだ。
 キュウリを平らげてきゅーきゅーと喜ぶそば粉に目を細めていると……その僅かな間にキュウリが消えている。
(「あそこです」)
 ヨエルが声を潜めて示したのは少し離れた川の中程。
 水面に泡が立ち、そして現れたのは……『河童』の頭だった。
「モグ、モグ……オレ、だぁれダ?」
 キュウリを囓りながら問いかけるその様子は、愛嬌を感じなくもない。ただ、どこか嘲るような、小憎らしさを感じる口振りだった。
 その視線の先……問いを受けたヨエルは、何か言いたげにしつつも仲間達に視線を送り、『河童』からじりじりと距離を取る。
 『河童』が諦めてちさへと視線を移せば、ちさも思わせぶりな笑みを浮かべたまま答えない。
「自分が何者かとは哲学的な問いでー」
 レオンハルトが口を開き、注意を引きながら誘い込む位置を確認。
「フェリスはねー、狼だよー!」
 とフェリシティが元気良く手を振ると、ついに痺れを切らして『河童』は川面を蹴り高々と跳ね上がる。
「……オマエのことは聞いてないんだヨ!」
 腕を振り上げ、その凶暴な本性を現した怪物は、空中から一気にケルベロス達との距離を詰めて襲いかかる。
 もちろん、迎え撃つケルベロス達もそれを待ち構えていた。
「そうはさせないよ」
 ジェミのエアシューズが地を滑り、空中の『河童』を煌めく流星の迅さで貫く。思いもかけぬ迎撃に『河童』は体勢を崩しながらも、緑色の身体を水のオーラが覆い、そこから瞬時に具現化された鉄砲水が前衛へと押し寄せた。
 激流を叩き付けられたケルベロスやサーヴァント達は痛みを堪え、あるいは体勢を崩す。標的が広がりすぎて本来の力を発揮できていないにもかかわらず、相当な威力だ。
「痛くても……立ち止まってなんかいられないのね」
 黒き鎖が守護の魔法陣を描く。自らも前線で傷を負いながら、フェリシティは笑い、励まし、仲間達に力を授けていく。
「見かけによらず、可愛げのない怪物ですわね」
 素早く身を翻して水流を避けたちさが、反撃とばかりに漆黒の魔力弾を生み出し『河童』に叩き付けた。
 僅かに怯んだ隙を逃さず、その懐へ入り込んだ躯繰は掌中から凶刃を繰り出して甲羅の腹に突き立てる。噴き出す鮮血とともに体力を奪い取る一撃。
「ギリリッ、オマエら、ムカつくナ! シリコダマ抜かれて死んじまエッ!」
 咥えていたキュウリの切れ端をかみ砕き、『河童』は弾かれたように距離を取る。
 だが、それを追って飛び出したエフイーの身体を流体金属の生命体が覆っていく。
「その減らず口を塞いでやるぜ!」
 硬質と化した鋼拳に頭部を打ち抜かれ、『河童』はくぐもった呻き声を上げて後ずさった。
「みんな、悪いユメなんかに負けないで、ね」
 沙慈はウイングキャットのトパーズを撫でて頷く。力を合わせて折り上げ、魔力をこめた紙の鶴たちが、沙慈の柔らかな息とともに一斉に羽ばたき、傷ついた仲間達を癒しながら、敵の守りを打ち砕く剣の加護を与えていく。
「ありがとうございますー。心強いです」
 いつもながらレオンハルトは感情をあまり表に出さない。それでも、アスガルドの槍を握るその手には力がこもる。
 その瞳が閃いた、かと思うと、突き出した刃は精緻な軌道を描いて『河童』の甲羅の隙間に突き刺さった。
 身じろぐその足元へと電光石火で迫るのはヨエル、その蹴撃はレオンハルトの槍が開いた急所を正確に衝き、貫く。
「……キシシシ……」
 自らの血に塗れながらも、『河童』は屁でも無いという風に跳ね回り、ケルベロス達を嘲るように嗤った。

●悪夢の果て
「あと一息ですわ、ふぁいとですの!」
 一口サイズに心をこめて、ちさはお手製のお弁当をフェリシティに託す。
「ありがとー! うん、あと一息! だね!」
 それをあっという間にぺろりと平らげて、フェリシティは拳を握りしめた。その側では白き小竜――そば粉も戦っている。
 そしてエクレア、トパーズ、エニシア……三匹のウイングキャット達は手分けして破邪の力を持つ羽ばたきを続け、ケルベロス達を助けていた。
 戦いの始まりは、水を操りながら身軽に跳ね回る『河童』の攻撃力と回避力に押され気味ではあったが、皆が協力して治癒を重ね、破邪の加護とともに耐えながら、一方で着実に麻痺攻撃を積み重ねつつ機動力を削いでいくことで、戦いの天秤ははっきりと傾きつつあった。
「動かないで下さいね」
 ヨエルは穏やかにそう告げる。
 それは天使と死神が踊る刻。大きく広げた白い翼が光に包まれ、光はヨエルの意に従って死神の大鎌となり、敵を――『河童』を襲う。
 振り下ろされた刃の衝撃に、乾いた音を立てて『河童』の頭上の皿にヒビが入った。
「なにッ、しやがルッ!」
 皿への攻撃に、動きを鈍らせるではなく、むしろいきり立つ様子を見て、ちさは興味深そうに目を見開いた。
「特にお皿が弱点というわけでもなさそうですわね」
「見た目は河童なのにね」
 と浮かべた微笑をすぐに引っ込めてジェミは駆け出すと、人ならざる動きで突然速度を変えて『河童』の死角に潜り込み、肘から先の腕を高速回転させてその腹部へと拳を捻じ込んだ。
 鈍く低い音色。
 グゲッ、と声にならない声をあげて大きく後方へ跳ね飛んだ『河童』は、そのまま川面へと落ちた。
「まさか、逃げるのか!?」
 追いかけようとするエフイーを手で制し、レオンハルトが前に進み出る。
「そうではないようですねー、たぶんすぐに、」
 と、その言葉が終わるより早く、川下の方から飛び出してきた『河童』は宙を飛ぶように真一文字でレオンハルトの喉元めがけ鋭爪を伸ばす。
 身構えてはいた――が、手負いの一撃は構えた得物を力任せに弾き、躱し切れなかった爪の先がレオンハルトの胸元を大きく引き裂いて、鮮血が舞った。
「レオンハルトさん!」
 沙慈は思わず叫んでいた。光の羽が薄らぎ、ゆっくりと倒れていく姿が見える。
 ――もう、二度と奪わせない。守ってみせる。
 そんな心の声に従って、今、こめられるすべてを捧ぐ。沙慈の身体から放たれたオーラの塊が、レオンハルトを包み、生命の力を吹き込んでいく。
 『河童』はといえば、片足をひきずりながらも再び距離を取り、ケルベロス達を見渡して、嗤う。
「キシシ……知ってんじゃねーかヨ、オレの名前……河童……」
「いいえ、貴方はダイチ様の夢の欠片……河童などではありませんよ」
 痛みに歯を食いしばりながらもレオンハルトは立ち上がり、傍らで懸命に羽ばたくエニシアをそっと撫でる。
 沙慈も頷き、『河童』を――ドリームイーターの怪物を、鋭く見すえて言った。
「あの子が、思い描いた河童は……決してそんな怪物じゃない、よ」
 レオンハルトが、自らの光の羽から生み出した弾丸を、青空へと高く撃ち上げた。
「降り注ぐ光の祝福、受け取ってくださいねー?」
 そして、雲一つない青空から、無数の光条が……癒しの雨が降り注ぐ。
「あァ、そろそろ終わらせようか」
 そう告げた躯繰が竜の言語を紡げば、その掌は竜の魔力を宿す。現れたドラゴンの幻影が敵を喰らわんとばかりに襲い掛かり、逃げる間もなく怪物の身体は炎に包まれた。
「燃え尽きろっ!」
 エフイーがその身に宿す御業は虚ろなる姿を顕現し、されどそこから放たれる熾炎は現実に獲物を焼き尽くす。怪物は高々と業炎を上げ、力なくよろめいて川へと近づいていく……だが、その身体は水面に届くことなく、岩の上に焦げ跡を残して、灰と消えた。

●夏の向こう側
 こうしてドリームイーターを討ち果たしたケルベロス達は、周囲にもう危険がないことを確認すると、倒れていた少年、ダイチの元へ駆け寄った。
「息もありますし……目立った傷もなさそうですわね」
 ほっと息をつくちさに、エフイーも頷いて、
「ああ! あとは目を覚ませばってとこか! ……っと、そんな話をしてたら、だな?」
 見れば、ダイチがゆっくりと目を開いて、何が起きたのかという風にケルベロス達を見回す。
(「エフイーの声が大きいからではないかな……」)
 躯繰はぼそりと呟いて、ダイチへと向き直る。
「私達はケルベロスだ。君はここで、悪い奴に襲われて眠ってしまっていたのさ」
 ダイチは驚いて起き上がろうとする……が、よろめいたところを、ジェミが支えて助け起こす。
「大丈夫……?」
「ありがとう、ございます……」
 ダイチはおぼろげな記憶を掘り起こすように首を振り、
「真っ黒な女の人が、鍵を……河童、が?」
「もうここに危険はない。平気だよ」
 こうして、安堵の表情を零すケルベロス達へと、おずおずと手を挙げたのはヨエルだった。
「折角ですから、ちょっとだけ川遊びしても良いでしょうか」
 と、その提案に反対する者はいない。

「えっと……私もね、河童さんに会いたいなーって、思ってるんだ」
 落ち込んでいるダイチの隣に座って、沙慈は穏やかに話しかけた。
 村の子供に聞いた河童の話は本当ではなかったけど。怖い目にも遭ってしまったけれど。それでも。
「君は、会えたらどんなお話をしてみたい?」
 どこから来たの、とか。やっぱりキュウリが好きなの、とか。お皿のお手入れはどうするの、なんて……二人で話して、笑って。
「あのね、あのね。きっと、君のユメは叶うと思う、よ。私もトパーズも頑張って探すから……諦めないで、ね」
 お守りにね、と、折り鶴をひとつ。ダイチは微笑んで、大きく頷いた。

 岩場の川縁に腰掛けて、ちさは川の流れにちょこんと足をつけた。
「こんな夏の日は、やっぱり水の冷たさが気持ち良いですわね」
「ええ、生き返りました……日本の夏はびっくりするぐらい暑くて……」
 そう言ってヨエルが、そしてジェミも並んで腰掛け、涼をとる。
「こんなに綺麗な河だから、昔話の生き物が実在するかもなんて話も出るんですね」
 戦いの間は愛でる余裕もなかったけれど、改めて眺めれば、こんなに美しい清流……を流れていく、猫。
「エニシア、流されてるー」
 焦っているのかよくわからない口調でレオンハルトが追いかけていると、ちょうど川下でばしゃばしゃ遊んでいたフェリシティとそば粉がキャッチ。
「はーい、気をつけてね!」
「ありがとうございますー。エニシアも自分も水遊びは初めてで……泳ぐのが面倒だったみたいです」
「そうなのね! 頑張ってねー!」

「……なんだかよくわからないけど……とにかく、良かったですね」
「そうですわね」
 しみじみ頷き合うジェミとちさに、ヨエルも優しく微笑んだ。
「河童は居なくても、この川はこんなに綺麗で、魚や虫や動物たちが生き生きと暮らしてますよ。それはとても素敵な事だと思うんです」
 ふと見上げれば、陽も傾き始めていた。
「帰りましょうか。フクロウが鳴きだす前に」

作者:朽橋ケヅメ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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