金髪碧眼の王子様

作者:狩井テオ

●壱
「金髪碧眼の王子様がいるっていうのはここね!」
 ばばーんと効果音つきで廃墟の前に立ったのは、寧子(ねいこ)。20代も半ばに差し掛かり、彼氏無しも年齢イコール。結婚適齢期を逃しそうな雰囲気ぷんぷんだ。
「昔、ヨーロッパから来た貴族が住んでいたこの廃墟で、金髪碧眼の王子様の幽霊に出会うと、運命の人に出会える……」
 まぁいっそのこと、その金髪碧眼の王子様が運命の人でもいいんだけどね! と寧子は続けた。もう気持ちは結婚秒読みである。
 いざ廃墟の扉を開けると、今にも朽ち果てそうな建物が現れる。かつての栄光は見えず、今はただ蜘蛛の巣が張られていた。
「……ほんとにいるのぉ?」
 半信半疑。でも絶対会いたい。寧子がぐっと廃墟の奥に進まんとした次の瞬間。
 目の前に、金髪碧眼とは程遠い見た目の黒いローブの人影が現れた。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
「王子様……じゃないわよね」
 現れた人影、第五の魔女・アウゲイアスは手に持った鍵を寧子の胸に突き刺した。事切れたように気絶した寧子と入れ替わるように、ドリームイーターが現れる。
 寧子が会いたいと望んで叶わなかった、金髪碧眼の王子様の幽霊だった。

●弐
「不思議なことに強い『興味』を持って、実際に行っちゃった人がドリームイーターに襲われたよ」
 マシェリス・モールアンジュ(時計アリスのヘリオライダー・en0157)は集まったケルベロス達に向かって説明を始める。
「『興味』を奪ったドリームイーターはもういないみたいだけど、奪われた『興味』を元にして具現化したドリームイーターが事件を起こそうとしてるみたい。このドリームイーターによる被害がでる前に、倒してほしいんだ。倒すことができれば、『興味』を奪われた被害者の女性も助かるよ」
 敵はドリームイーター一体。金髪碧眼の西洋の王子様のような格好をした幽霊型のドリームイーターだ。
「戦う場所は廃墟になるけど……散らかっててちょっと足場が悪いから注意して戦ってね。ゴミとか落ちてるみたい」
 それと、とマシェリスは続ける。
「このドリームイーターは、自分の事を信じていたり噂している人がいると、その人のほうに引き寄せられる性質があるみたい。うまくすれば廃墟の広い場所で戦うことができるよ」
 そこは皆にお任せします、と頭を下げた。
「人の好奇心って底知れないのに、それを利用してドリームイーターを生み出すなんて許せないよ。皆なら無事に助けてあげられるって信じてる」


参加者
クロノ・アルザスター(彩雲に煌く霧の剣閃・e00110)
アシュヴィン・シュトゥルムフート(月夜に嗤う鬼・e00535)
ラリー・グリッター(古霊アルビオンの騎士・e05288)
御剣・冬汰(夜空に願いを・e05515)
ユーカリプタス・グランディス(神宮寺家毒舌戦闘侍女・e06876)
撫子桜・千夜姫(双刃一体・e12219)
ルテリス・クリスティ(時護りの礎・e13440)
ミュルミューレ・ミール(ヴァルキュリアのミュージックファイター・e24517)

■リプレイ

●壱
 夜の帳が降りた廃墟。その前に8人と一体の姿があった。
 廃墟には8人以外の人気はない。静かな夜の気配と、生き物が息づく気配がそっと周りを包んでいた。
 廃墟の前の広い場所で金髪碧眼の王子風のドリームイーターを誘き寄せる。それが今回のケルベロス達の作戦だ。
「第五の魔女ねぇ。こそこそ動き回っているみたいだけど、その連中にはいつお目にかかれるんでしょ」
 クロノ・アルザスター(彩雲に煌く霧の剣閃・e00110)は思い、まだ見ぬドリームイーターを苦々しく思う。
 アシュヴィン・シュトゥルムフート(月夜に嗤う鬼・e00535)は妙に苛ついていた。理由は簡単。知り合いに見た目だけはいい気に食わない奴がいるからだ。早くドリームイーターをぼこぼこにしたくてたまらない、といった様子。
「なるほど! 運命の人の事は分かりませんが、霊の存在は分かります!」
 ラリー・グリッター(古霊アルビオンの騎士・e05288)は、廃墟の静寂を裂く、大きく響き渡る声で言う。ラリーは幽霊は本物だと思っていた。敵かどうかは別にして、そういう霊的なものに信を置いている。生まれも育ちもイングランドなおかげだろう。きっと運命を知らせるモノは存在すると考えていた。
 御剣・冬汰(夜空に願いを・e05515)はくすっと笑う。まるで歌うように悪戯を思いついた少年の如く、囁いた。
「金髪碧眼の王子様かぁ……。素敵な響きと言えど、廃墟の主となるとちょっと残念感漂うよね♪
「まあ、男の趣味はそれぞれでございますね。私の趣味ではございませんが」
 どこか冷たく、他人事のようにきっぱりと言い放つユーカリプタス・グランディス(神宮寺家毒舌戦闘侍女・e06876)。彼女の関心事はしっかりと仕事をこなし、神宮寺家に恥じない働きをすることのみだ。
「僕も同じ金髪碧眼で……境遇含めとてつもなく親近感も興味も覚えるのだが、敵だ。被害が出る前に倒してしまおう。しかし……王子といえば金髪碧眼なのが鉄板なのだろうか」
 ことりと首を傾げ、思案するように顎に手を当てて言うのはルテリス・クリスティ(時護りの礎・e13440)。実は王子様に会うのを楽しみにしているひとり。現れる王子様がルテリスと同じように、綺麗で優雅であれば、の話だが。
「西洋の王子さま……ミュル、絵本でみたことありますよ。赤いマントをはためかせ、お姫さまのピンチに駆けつけるのですよね?」 無邪気に笑ってそういうのは、ミュルミューレ・ミール(ヴァルキュリアのミュージックファイター・e24517)。勿忘草色の大きな瞳を輝かせて、何が出てくるのだろうかと未知との遭遇に胸を躍らせている。
 ばばーんと効果音つきで暗い廃墟の中に向けてすうっと、息を飲みこむ。撫子桜・千夜姫(双刃一体・e12219)。
 ケルベロス達による、誘き寄せ作戦は始まっていた。

●弐
 未だ出てこないドリームイーターを誘き寄せるべく、それぞれ思い思いに金髪碧眼の王子様への意見を口にしていく。
「運命の方にも逢えるとはどう言うことでしょう? ミュルの運命の方……素敵なペンギンさまだったらいいなぁ。ねっ、イス」
 夢見る少女のように語るミュルミューレ。呼びかけたのは真っ白なファミリアのエゾモモンガ。ミュルミューレの言うことを理解しているように、小さな体を折ってミュルミューレに寄り添う。
「王子の幽霊に会えば、自分の運命の王子に出会えるというのも不思議な噂だな。ロマンチックといえばそうかな? こういう噂に胸を躍らせるのも、たまにはいいのかもしれないね」
 ミュルミューレの言葉に頷き、ルテリスは早く出てこないかな、と廃墟のほうを振り返った。廃墟は静まり返り反応はまだない。
「まさか、白馬に乗ってはこないだろう」
「噂の金髪碧眼の王子様が出現するってほんとかなぁ?」
 冬汰はルテリスの言葉に便乗する。
(「金髪碧眼は確かにカッコイイけど……オレの趣味じゃないなぁ。超絶どえすな王子なら少しは惹かれちゃうけどね。うん。やっぱり、オレの褐色彼氏様の方が大好きだなぁ……なーんて♪」)
 想い人を思い出して冬汰の胸はときめく。ここは個人の趣味主張。
「金髪碧眼、出てきたら運命の人に出会えるのですね!」
 ラリーも同調する。ラリー自身が出てきそうな外見をしているが、残念ながらラリーは女性。
「金髪碧眼の王子、本当に居るなら見てみたい」
 アシュヴィンも渋々ながら噂話に参加する。見てみたいの後に続く言葉が物騒でないことを祈りつつ。
「絵に描いた様な王子ってほんとその辺にいるもんじゃないしねぇ、居るなら見てみたいよねぇ~。ドリームイーターってのが残念だけどー」
 クロノはどこか他人事のように。クロノの持論は、こう。
(「格好いい男に憧れない女なんていないわ。付き合うとかならやっぱそこは身近な人だったり優しいとか、面白いとかそういうのなんだろうけど、イケメンを見るのはまた別腹よね」)
 イケメンは別腹。名言いただきました。
 千夜姫はすっと息を吸い込み、一気にまくしたてた。
「噂の運命の人が見つかるって本当ですかね、もしも噂通りならバレンタインとかクリスマスにもう独り身の友達だけで集まって残念会とかしなくていいってことですよね高望みはしてないんですお金持ちとかイケメンじゃなくてもいいんです私をケルベロスだとか年齢とか関係なく一人の女の子として愛してくれる人ならそれで」
 とてもじゃないが演技に見えない必死さに、全員、苦笑を浮かべつつちょっと後ずさる。
 千夜姫は花も恥じらう乙女。年齢はごにょごにょだけど、心だけはいつでも真っ白なウェディングドレスを夢見ているのだ。だって女の子だもの。
「金髪碧眼の王子様-----! 出てきてほんとお願いしますこの通りです」
 柏手を打ち始めた千夜姫の声に応えるように、黒く染まった廃墟の入り口付近に白くぼうっとしたもやが沸き上がった。
 それはやがて人の形──白馬に乗った人の姿を形作る。色がついた人の姿は、まさしく、白い肌にさらりとした薄い絹のような金髪、空色の瞳を憂いげに伏せ、まつ毛までもが金色──、まとう服は西洋の貴族風の白を基調とした礼服。伸ばした背筋はピンとし、立ち振る舞いも凛とし爽やか。金髪碧眼の王子様のご登場だった。
「乗ってきちゃったね、白馬」
 クロノが誰に言うでもなく言う。わぁとはしゃぐミュルミューレと冬汰に、額に指をあてどこか悩ましげなルテリス。その姿をみてさらに苦々しく顔をしかめたアシュヴィン。
 現れたドリームイーターに折り目正しく、スカートの裾を摘み一礼するユーカリプタス。
「神宮寺家筆頭戦闘侍女、ユーカリ。参ります」
「きゃーー王子さまー!!」
 千夜姫だけが、黄色い声で王子様の登場に湧きあがっていた。しかしその手にはしっかり武器が握られている。戦闘はすでに始まっている。
 それぞれも武器を持ち、白馬から降りている金髪碧眼の王子様を迎え撃つ!

●参
 金髪碧眼の王子様は全員に向かって『お待たせ!』というような仕草──投げキッスをしてくる。
 ミュルミューレはその意味がわからず、首を傾げる。傍のイスも体ごと首を傾げていた。
「女性の夢に形を与えて表に出すなんて悪趣味この上ございませんし、きっちりと潰させて頂きます」
 庇うように前に出たユーカリプタスがハートを受け止める。ハートの残滓を払うように、ユーカリプタスは腕を振り払った。イケメンからの投げキッスとはいえ気分のいいものではない。
 すぐさまユーカリプタスは攻撃に転じた。
「攻撃は不得手なのですが」
 そう言いながら、星の煌めきを瞬かせ強烈な蹴りを放つ。王子様はまともに喰らい、足止めも付与された。ミミックのトラッシュボックスが主人の傷を癒す。
「魔女が織り成す霧世界に戸惑い迷え♪ 」
 冬汰が召喚する、『ニブルヘイムの魔女』。 霧の国に幽牢されし魔女のエネルギー体を武器に宿した一撃。残像や幻覚で連撃を受けたようになるそれは、必殺。
「これで守って!」
 クロノはゾディアックソードを地面に突き刺し、守護星座が浮かび上がる。味方前衛の不浄の耐性となって守る。
「大人しくしててもらおうか」
 アシュヴィンが流星の煌めきを瞬かせ蹴りを放った。狙うは顔。ボコボコにする気満々である。足止めを喰らっていたドリームイーターは更に足止めを重ねられ、身動きがとりにくくなる。
「覚悟してくださいね!!」
 ラリーの声が響く。雷の霊力を帯びた武器で、神速の突きを繰り出し、ドリームイーターを蹂躙する。
「これで運命の人に出会える!」
 螺旋を込めた拳でドリームイーターを抉る千夜姫。出会えるかはわからないけど。
 ミュルミューレは捕食形態にブラックスライムを変形させ、ドリームイーターを丸のみに。
「がぶっとするのです。痛いですよ」
「王子様のおでましだ」
 回復手として立つルテリス。補助の役目も負い、前衛に立つ仲間の背後にカラフルな爆発を起こした。力を得た味方は更に強力に。
 金髪碧眼の王子様は自分に酔った。キラキラと背景が光り、薔薇が咲くエフェクトが散る。
 アシュヴィンがイラっとして目元をぴくりと動かすが、その心ドリームイーター知らず。
 ユーリカプタスが動く。高速演算ではじき出したドリームイーターの弱点、主に顔とか顔とかを狙いすまし攻撃する。
「あんたもう逃げられないわよ? ……最後まで付き合ってよね」
 握りしめた拳の上に稲妻を発生させ、敵に向かって打ちつけるクロノの斬り抉る雷神の鎖。ドリームイーターに走った稲妻は体中を駆け巡り、鎖で絡め取るが如く動きを封じる。
「お前の顔、なんかムカツクんだよ」
 アシュヴィンの血染花が散る。見事な右フック。決まる右フック。止まる刻。金髪碧眼の王子様はキリモミして消えていく。
 やけにすっきりした顔のアシュヴィンは一息ついて、右手をぶらぶらさせていた。

●四
 廃墟前を片付けるケルベロス達。
 クロノはぽつりと、零す。誰にも聞こえないような呟きだった。
「これで彼氏、できるかしら」
 優しく、明るく、笑顔の似合うクロノのことだから、きっと素敵な彼氏ができるはず。
 アシュヴィンはやはりすっきりした顔をしていた。口元に笑みさえ零れている。
 冬汰は想い人に早く会いたいな、なんて思いながら片付けに勤しんだ。
「後片付けもメイドの仕事でございます」
 ユーカリプタスはヒールで壊れた場所を癒している。その姿は最後まで凛としたメイドだった。
 廃墟の中で倒れている寧子を見つけたミュルミューレとラリー、千夜姫。
「お怪我はないですか?」
 そう言いながら寧子にヒールをかけるミュルミューレ。寧子は力なく頷く。
「ありがとう、可愛い子……ここの子? まだ夢でも見てるのかしら」
「信じることは悪い事ではありません! でも、誰かに頼るだけで、何もしない人は誰が見ても魅力的に感じません! 自分を磨き、何かを成せる強さは大きな魅力です! がんばって下さい!」
 大きな声がやはり廃墟の中に響き渡った。寧子は驚きつつ、この子も廃墟の子かな? と首を傾げていた。そのわりにはとても現実的で夢のあることを言うものだと思いながら。
「今回はデウスエクスに邪魔されましたが今度また来るです! 不安ならケルベロスの私が同行するので安心です! あ、私が運命の人捜してるとかじゃないです! 優しい男性がいいなとか考えてないです!」
「あなたも、私と同じなのね……」
 寧子に同情され、心に矢が突き刺さる千夜姫。しかし本来の目的を忘れてはいけない。
「そうです! 甘酸っぱい恋をして、大恋愛して結婚したいな! なんて考えてません!」
「……ふふ、あなたを見てると元気が出てきちゃった」
 千夜姫に笑いかける寧子。千夜姫も、つられて笑った。
 夢を見たっていいじゃない。だって王子様はどの女の子の胸にいるものだもの。

作者:狩井テオ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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