●壱
暗い明かりのついてない店内で一人のロリータファッションに身を包んだ中年女性が頭を抱えてうなだれていた。
一見、店内は華やかで甘いロリータファッションの店。
中年女性とは少しあべこべな取り合わせに、違和感を覚える者もいるだろう。しかし中年女性はれっきとしたロリータファッション店の店長だった。
「ヒョウ柄がいいならロリータも流行ると思ったのに……」
むしろ、私が流行らせたかった……。みんなで可愛くピンクやフリルで着飾って街を歩きたかった。
店は経営破綻で畳んでいた。やり直すにも、手がない。
潰れた店の中でうなだれる店長の前に、一人の魔女が現れた。カラフルな見た目に、中年女性は目を白黒させる。
「あ、あなた誰?」
応える間もなく、第十の魔女・ゲリュオンは手に持った鍵で中年女性の胸を貫いた。
目を見開いた女性は、胸に刺さった鍵とゲリュオンを見比べ、そのまま気絶するように倒れこんだ。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『後悔』を奪わせてもらいましょう」
中年女性の傍らに現れたのは、ロリータファッションに身を包んだ小太りなドリームイーター。
まるで女性の『後悔』を具現化したような姿だった。
●弐
「ボクなら時計のお店を作りたいな~。皆の中にも、自分の店を持ちたいって人もいる? その夢を叶えたけど、店が潰れて後悔していた人がドリームイーターに襲われたんだ」
ドリームイーターが奪ったのは『後悔』。すでに店からは姿を消しているが、新たに事件を起こそうとしているようだ。
「このドリームイーターによる被害が出る前に、倒してほしい。ドリームイーターを倒すことができれば、『後悔』を奪われた被害者も目を覚ましてくれるはず」
敵はドリームイーター一体のみ。
戦闘場所は、ドリームイーターの力で営業を再開したロリータファッションの店内になる。ケルベロス以外の客はいないため、人払いの必要はない。
「お店に乗り込んでいきなり戦闘することもできるけど、お客として店に入ってサービスを受けて、そのサービスを心から楽しむとドリームイーターが満足して戦闘力が減少するみたい」
あとね、とマシェリスは続けた。
「ドリームイーターを満足させてから倒した場合、意識を取り戻した被害者も『後悔の気持ちが薄れて、前向きに頑張ろうという気持ちになれる』みたい」
落ち込んだ人には大事なことだよね、とマシェリス。
「熟年層をターゲットにって言ってたお店だけど、ロリータファッションが好きな女性なら年齢問わず大歓迎みたいだよ。ぜひ満足させてあげてね!」
参加者 | |
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倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552) |
メリノ・シープ(スキタイの羊・e02836) |
紺野・狐拍(もふもふ忍狐・e03872) |
チェレスタ・ロスヴァイセ(白花の歌姫・e06614) |
レティシア・シェムナイル(みどりのゆめ・e07779) |
ステラ・ハート(睡蓮の君・e11757) |
黒岩・りんご(禁断の果実・e28871) |
アイシャ・スノウホワイト(ウェアライダーのウィッチドクター・e29594) |
●壱
熟年層を対象としたロリータファッション店の前にケルベロスが集結していた。
これからドリームイーター相手に接客をされなければいけない。真似事だが、バレないようにしなければと皆それぞれに気合が入る。
「以前とは別のドリームイーターですか。ロリータファッションは初めてで、似合うか分かりませんけれど楽しみですね」
一人そう笑うのは倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552)。ロリータファッションのほうに興味津々だ。
逆に頬をほんのり赤く染めている、メリノ・シープ(スキタイの羊・e02836)。
「ろ、ロリータファッション、は、恥ずかしい。……め、目立たない奴はないのかな?」
「ロリータ……お洒落には疎いので良くわからないな……。戦闘力が下がるのならばサービスを受けるべきだろう、……興味もあるしな。獣人型ウェアライダーの私に似合うだろうか……?」
紺野・狐拍(もふもふ忍狐・e03872)も気になっていた。獣人型にも似合うのあります。
「ロリータファッション、結構好きなんだけど、お店が潰れちゃったのはちょっと残念かな……。出来れば店主さんには、前向きな気持ちで再起してほしいです。そのためにも、素敵なファッションを楽しんで、ドリームイーターも倒さないと」
チェレスタ・ロスヴァイセ(白花の歌姫・e06614)は接客されるのに前向き。自身は清楚な服装によく身を包んでいるが、もちろん、お洒落としてのロリータには興味があった。
「普段は民族衣装が多いのじゃがロリータファッションも日本の文化的民族衣装といえよう。とっても興味があるのじゃ。で、ロリータというとピンクや黒のフリフリじゃが、余は黒のフリフリ着てみたいのう。ふむ、皆はどういうものを着るのかも楽しみじゃ」
ステラ・ハート(睡蓮の君・e11757)は皆の顔を見回して、その全員が女性であることにわくわくする。全員が着ればきっとさぞ華やかだろう、と。
「ロリィタですか。普段着物が多いだけに、ちょっと楽しみですよ。それに、ロリィタで着飾る女の子を見るのも楽しみです♪」
黒岩・りんご(禁断の果実・e28871)も同じように楽しむ側。見回していたステラと目が合えば、笑い合った。
「えっと、かわいい服はいいなって思いますけど、年齢とかに相応しい格好っていうのもあるし、こういうのって難しいですね? でも、世の中流行り廃りはあるんだし、もしかしたらロリータ全盛の時代も来るかも?」
アイシャ・スノウホワイト(ウェアライダーのウィッチドクター・e29594)は、経営者の気持ちに立って思う。
「ロリータファッションってどんなだろう……って調べたら可愛いお洋服だネ。可愛いカラいくつになっても着たいって気持ちはワカル気がするヨ……」
店頭はすでに片付けられており、その片鱗は見えず。ここに商品が飾られていれば、目を奪われただろうなと思うレティシア・シェムナイル(みどりのゆめ・e07779)。
全員は顔を見合わせ頷き合うと、白とピンクで飾られた扉を開けて潰れた店へと侵入した。
●弐
「いらっしゃませ~!」
爽やかな中年女性の声が薄暗い店内に響く。
小太りの女性型のドリームイーターが、ケルベロス達に向かってきた。全員がうら若き女性だとわかると、ドリームイーターは両手を合わせ、ゴマ擦りのような仕草をする。
「お客様がこんなに! 嬉しいわ。若い方も大歓迎ですよ。さぁさぁ、どんなロリータファッションがお好みですの? 教えてくださいまし。いえ、選ばせていただけるのなら喜んでお選びしますわ!」
マシンガントークのドリームイーターに若干引きつつ、まずはりんごが前に出た。
「いろいろ教えてくれますか? わたくしに似合うものを見立てていただきたいです」
「ええ、ええ! 藍の髪が綺麗で、和装が似合うあなたは、そうねぇクラシカルロリータが似合うと思いますわ。シックで清楚、色合いも落ち着いていますから、服が容姿を引き立ててきっとお人形さんみたいになりますよ!」
ドリームイーターが店内をあちこち回り、一着のシャツとワンピースが一対になったものを持ってくる。りんごにそっと渡すと、試着室に押し込んだ。
しばらくしてりんごが試着室から現れる。落ち着いた茶を基調にしたワンピースに、白いフリルのついたブラウス。いつの間にかヘッドドレスをして、結っていた髪を下ろしている。ウェーブのかかった髪が甘く、クラシックな雰囲気に甘さをプラスしていた。
「似合います?」
くるりと一回り。ふわりと回るスカート。
おおーと、レティシアが声を上げる。別の意味で興味津々だ。
「あのワンピースはどんな生地の重ね具合をしているのですカ? ブラウスのフリルの縫い方も気になりマス」
「あら、あなたは裁縫のほうに興味がおありなの? 素敵ね!」
と説明を始めたドリームイーターに、レティシアはふむふむとメモを取りつつ興味深く聞いていく。フリルの使い方、洗い方、自分で裁縫をするレティシアの目にはロリータファッションは色んな意味で新しい発見だらけだった。
「私、こう言うお洋服自分で作ってみたいナ……どんなの着たら似合うカナ? 教えて欲しいナ」
「あなたは甘ロリしかありませんわ! 妖精のような素敵な容姿をしているんですから、思いっきり人形のように着飾ってあげますね!」
そういうと店内をまたうろつくドリームイーター。しばらくして、真っ白なワンピースに細かい刺繍や天馬がプリントされた服を持ってきレティシアに押し付ける。そして試着室へ。
お客様はまだいる。
「私はサキュバスですからゴシックがいいのかもしれませんね。甘いのも気になりますけれど。折角ですし、選んでもらいましょうか」
柚子が問いかければ、ドリームイーターは奥からゴスロリと甘ロリ二つの服を持ってきた。
「本当は自分が着たいものを着るのが一番なのですけど、お任せいただけたのならお選びいたしましょうっ。大人な雰囲気のお客様には、」
と、持っていたゴスロリのほうを差し出す。黒い薔薇のコサージュが胸元に飾られた一品。カッコよさを極限まで減らした、どちらかというとクラシカルな雰囲気もある。
「甘さも気になるとおっしゃっていたので、ゴスロリらしさが少ないものをお選びいたしました。スカートも長めなのできっといつもと違う雰囲気を纏いつつも、お客様本来のカッコよさは損ないませんわ!」
ぐいぐいと試着室に押し込まれる、柚子。すでに着飾ったりんごはご機嫌に鏡の前でくるくる回っている。残された者たちは不安に思いつつ、次はだれが行くかと顔を見合わせた。
すでに甘ロリファッションに身を包んだステラがうんうんと頷く。いつの間にか店主ドリームイーターが選び、着ていたらしい。色黒の肌に真っ黒なワンピースは、異国のお姫様のようでいて可愛らしさを全開にしていた。小柄な体で飛び回れば、ちょっとお転婆なお姫様だ。
「しかし、ここの店長はかわいいのじゃ。ちょっとふくよかな方が包容力があってよいぞえ。元気もあって何よりじゃ」
ここでドリームイーターに勇気をもって近づくのは、メリノ。
「わ、私に似合う服み、見繕ってもらって良いですか? で、出来るだけ落ち着いた奴で……」
ぷるぷると今にもどこかに逃げてしまいそうな少女の姿を見て、ドリームイーターに雷が落ちる。
「あなたは……甘ロリですわ!!!」
カッと両目(見えない)を見開いたドリームイーターはメリノごと奥へ引っ張って行ってしまう。しばらくメリノのか細い悲鳴が響いてきたが、仲間たちは心配していない。だって今は皆お姫様だもの。その間に、試着室に押し込まれた二人がでてきていた。
しばらくして服を着替えたメリノがドリームイーターに引っ張られて戻ってきた。
淡いピンクのフリルがたくさん使われたワンピース。膝までのスカートに、同色のストッキング。淡いピンクのヘッドドレスに髪型もツインテールにされている、メリノ。顔は真っ赤になって、ぎゅっとスカートの裾を握っている。
「え、ええっと、あ、あの……ほ、他の服が……その……」
「記念写メいただきます」
パシャリとゴスロリ姿の柚子が一枚記念撮影。フラッシュに驚いたメリノはひゃぁっと小さい悲鳴を上げて、さらにぷるぷる体を震わせる。
「見ないで! ヤメテ! と、撮らないで~!」
小さく悲鳴を上げて、メリノは店内の物陰に隠れてしまう。
「あら! あなたは! まぁまぁ!」
ドリームイーターが喜びに声を上げた。視線? の先にはチェレスタ。プリンセスクロスを着用したチェレスタの背後には後光が差し込んでいた。……ようにドリームイーターには見えた。ロリータファッションを極めしもの。金髪碧眼の恵まれた容姿に、プリンセスが如き服装は、まさに『お姫様』であった。
「あなたは……完璧! 素敵だわ。ロリータファッションがお好きなのね?」
にこりとチェレスタは微笑む。同意として。
「はい。私、こういうの好きなんです。童話に出てくるお姫様みたいで。あの、もしよろしければ、店主さんのオススメコーディネートとか、教えていただけませんか?」
「あなたにオススメできるなんて光栄だわ。……ちょっと待っていてくださる?」
そう言いながらドリームイーターが奥から出してきたのは、真っ白なブラウスにショルダーワンピースだった。
「私には白以外、選べませんわ。でもちょっとした冒険ならできるはず……スカートの裾を短くして、白いタイツを履いて、少しカジュアルな感じにしてもいいですね」
シンプルで王道な装いだが、それによって誤魔化しがきかない。チェレスタはドリームイーターに礼を言うと、流れるような仕草で試着室に入っていく。
アイシャが着せられたのはカジュアルロリータ。色合いは淡いものの、黄色や緑を取り入れて遊び心が満載だ。帽子にベレー帽を被れば、軽やかに風を着るシティガールに早変わり。
「うーん、私、胸が大きいからあんまりこういう服は似合わないかも……」
「そんなことはないですわ! 胸が大きくてもこういう服は可愛く見えるように作られているものですの。体型に関係なく、女の子全てが着れるのがロリータファッションです!」
「そうですね、似合う似合わないより、ロリータ愛が大事なのかもですね?」
「その通りですわ!」
これで最後かしら、とドリームイーターはくるくると客たちの面々を見ていく。確か入ってきたのは8人だったのでは……? そう思っていると、物陰からそっと現れたのは狐のウェアライダー、狐拍だった。
「ウェアライダーの獣人型の私に似合うロリータはあるのだろうか」
ドリームイーターは絶句する。老若と謳ってはいたが、獣人や竜派の者達のことを考えたことがあっただろうか。いや、なかった。これでは流行るわけがない! 自分の間違いを再確認する。
「黒の装いだから、ゴスロリとかどうでしょうか?」
チェレスタがそっと助け船を出す。ドリームイーターは一度頷き、いや、と首を横に振る。
「無難……いえ、それでは私のポリシーに反するわ。誰もが楽しみ、遊び心を忘れず!」
ドリームイーターは肩をいからせて店内の奥に消えていく。
やがて持ってきたのは、藍色のワンピース。露出は少な目で、白い襟がワンポイントの可愛らしい一品。フリルは襟とスカートの裾に少しだけ、シンプルだが可愛らしさを忘れない。
「……着てみよう」
意を決した狐拍が試着室に消える。しばらくして、カーテンを開けた狐拍は照れくさそうに尻尾を揺らす。
「似合うだろうか……?」
くるりとスカートを翻して、ぎこちなく一回転。いつもの凛とした雰囲気は潜み、可愛らしさの中に大人可愛さをプラスした可愛らしい大人の女性に変身していた。
「いい……! 皆さん、とても素敵ですわ!」
ドリームイーターが声を上げる。拍手までして、目から涙(見えない)をきらりと光らせた。
「楽しい、接客ってこんなに楽しいものだったのですね……」
涙(見えない)を拭ったドリームイーターは、思い残すことはありませんと呟いた。全身から全ての力を振り絞り、8人のコーディネートをし終えた。これほど幸せなことがあるだろうか。
店をやっていた時は味わえなかった喜びだ。
「店をやっていた……?」
気付いたドリームイーターが顔を上げると、それぞれロリータファッションに身を包んだケルベロス全員が武器を構えていた。
極限まで弱ったドリームイーターは、特に苦戦することなくなんやかんやでボッコボコにされました。
●参
「……私は一体」
目覚めた店主は、ケルベロス達がいることに気づき驚いた。ステラに説明をされ、自分が気絶していたことを知った後は礼を深く、何度も言う。
「助けてくれてありがとうねぇ。お店やっていた時に、こんなにお客様が来てくれればよかったのにねぇ」
しみじみと目に浮かぶ涙を拭う店主の女性に、狐拍が自らが着用したワンピースを差し出しながら語り掛けた。
「熟年層だけではなく老若男女を対象にしてみたらどうだ……? 男はどうかとは思うが」
「ロリータファッション好きな人って、結構多いと思うんです。でも、それなら尚更、中年女性層に限らず幅広い層をターゲットにしても良かったんじゃないかなって。だって、女の子はいつだって『お姫様』ですもの!」
チェレスタはまた頑張ってください、と力強く語り掛けた。
「えっと、ロリータがというより、売り方とかマーケティングが悪かったんじゃないでしょうか?」
アイシャも同じように言う。そんな些細な言葉でも、傷ついた店主の心に深く響いた。
「お店のコンセプトはどんな人でも嫌がらないデ受け入れる姿勢だカラ……凄く良いと思うノデ……頑張って欲しいナ」
レティシアも頷き、ステラもぺちぺちと店主の肩を叩いた。
「店長とやら、しっかりするのじゃ。好きなものを追求する姿はかっこいいぞえ。誇ってもよい! 一度の失敗で人生どん底なんてことはないのじゃ。明けぬ夜はないのじゃよ」
にぱっと笑い、店主を元気づける。
「素敵な服を見立てていただき、ありがとうございます」
りんごも同じように見繕ってもらった服を購入した。意識はなかったものの、趣味趣向は店主のもの、それに礼を言われたことに店主は改めて喜びをじわりと感じて涙を流す。
「ロリータファッションのお店という夢は破れてしまったかもしれません。でもまだ未来は残ってますから、頑張ってほしいです」
柚子は締めくくる。
部屋の端っこでのの字を書いているメリノ。
「……恥ずかしい、死にたい」
大丈夫、めっちゃ可愛かった。
「ありがとうございました……」
ぽろぽろと涙を流し、礼を言い続ける店主に別れを告げ、ケルベロス達はロリータファッションの店を後にした。
店主の未来は明るい。再び立ち上がる日も、近いだろう。
作者:狩井テオ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年8月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 4
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