黙示録騎蝗~降り注ぐ毒

作者:雨乃香

 人里から随分と離れた森の奥深く、長く何者も踏み入ることのなかったその場所に、そのローカスト達は集まっていた。
 その中心に立つ、一体の蟷螂を模したローカストは地に掌ほどの大きさの宝石球を放る。
 緑とも黒とも取れぬ、複雑な色の入り混じったそれはただの宝石などではない。
 そのグラビティ・チェインの消費量の多さから今の今までコギトエルゴスム化されていた戦闘に特化されたローカストのコギトエルゴスムであった。
 そのコギトエルゴスムを前に、蟷螂型のローカスト、イェフーダーは掌をかざし少量のグラビティ・チェインをコギトエルゴスムに注いで行く。
 やがて、怪しげな光を放ったそれは見る間に姿を変え、二対の翅をもつ蛾を模したローカストがその場に新たに現れた。
 それはゆっくりと目を開いたかと思えば、静かな森を震わせる奇妙な声を上げ、周囲の木々をなぎ倒し暴れだす。
 その様子を一歩も動かず見つめるイェフーダーとは対照的に、周囲に待機していたローカスト達は慌ててそのローカストの体を数体で必死に取り押さえる。
 それでも尚暴れ、体を抑えるローカスト達を振り解こうとするそれの前に、イェフーダーは進み出るとしっかりと目を合わせる。
「やはりこの程度のグラビティ・チェインでは不服か?」
 その問いに対し、蛾型のローカストは再び木々を震わせる奇怪な声を上げる。
「ならば、自らの手で略奪してくるのだ。目覚めたお前を縛るものはもう何もない」
 言葉と共にイェフーダーが仲間に合図を送り、蛾型のローカストの束縛をとかせると、それはイェフーダーを一瞥した後、力強く羽ばたき暗い森の中へと消えていった。
 その姿を見送ったイェフーダーは仲間達に撤収の命を出し、蛾型のローカストの消えていった方向を向いて小さく呟いた。
「お前が奪ったグラビティ・チェインは、全て、太陽神アポロンに捧げられるだろう」

「この暑い中わざわざ集まってもらってすいませんね。どうやらローカストが新しい作戦にうってでたようです」
 いい加減諦めてくれませんかね? などとニア・シャッテン(サキュバスのヘリオライダー・en0089)は冗談めかして言いながら、ひとつため息を吐いて現在各地でローカスト達が起こし始めた事件について説明を始める。
「前回の作戦の失敗から、再びグラビティ・チェインを集めるために敵さんは行動を開始したようです。今までコギトルゴスム化させて温存していた戦闘力が高い代わりに、グラビティ・チェインの消費量が多いローカストを少量のグラビティ・チェインで復活させて捨て駒として使うつもりのようですね」
 とはいえ、元の戦闘力が高いため少量のグラビティ・チェインでも十分な戦闘力を有しているため侮ると痛い目にあうかもしれませんよ、とニアは釘を刺しつつ、顔を顰める。
「加えて、グラビティ・チェインが枯渇している為、一般人を襲撃することを第一に考えているというのも厄介です、早急に手を打たなければ被害の拡大に加え、敵は強力な駒も手に入れることになります。
 作戦指揮を執っているイェフーダーというローカストをいずれしとめる必要がありますが、まずはこの復活したローカストを始末しなければいけませんね」
 真剣な顔で呟きつつ、ニアは端末を操作し、ケルベロス達に見えるよう立体ディスプレイに地図情報を映し出す。
「目標はグラビティ・チェインを求め、この山中のキャンプ場を襲うようです。夏季休暇中ということもあり、それなりに人がいますので大きな被害が出ないよう、上手く立ち回ってください」
 すぐさま地図情報が切り替わり、次にディスプレイに映し出されるのは、黒を基調とし、美しい緑の帯と虹色の斑点が輝く翅をもつ一体のローカストだ。
「こちらが今回の目標となる蛾型のローカストです。こういう綺麗な蟲の基本に漏れず、毒を持っており、対多戦闘を得意とするようです。詳しい情報は送信しておきますので作戦立案の役に立ててください」
 端末を操作し、データを送信するとニアはケルベロス達に質問がないことを確認すると一つ頷いてからケルベロス達に順に視線をおくる。
「なりふり構わないこのような作戦に打って出てきているということは敵さんもかなり厳しい状況に追い込まれているはずです、きっちりと阻止して敵の反撃の目を丁寧に潰していけば、此方に軍配が上がるはずです、油断せず確実にいきましょう」


参加者
シルク・アディエスト(巡る命・e00636)
藤波・雨祈(雲遊萍寄・e01612)
相馬・竜人(掟守・e01889)
月見里・一太(咬殺・e02692)
アラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)
参式・忍(謎武術開祖のニンジャ・e18102)
霧崎・柚子(灰色の火・e28617)

■リプレイ


 セミ達の声も静まっても夜のキャンプ場は賑やかな音が溢れていた。
 人々の談笑する声、近くの小川のせせらぎ、火にくべられた薪が時折音をたて、花火の明かりが色鮮やかに夜闇に浮かび上がる。
 夏季休業中ということもあってか人の数は多く、その誰もがこの場にいることを楽しんでいた。
 その楽しげな喧騒はしかし、対岸の藪から現れた突然の来訪者達によって破られる。
「皆さん、落ち着いて聞いてください」
 手にしたライトを振り、人々の注目を集めようとシルク・アディエスト(巡る命・e00636)が声を上げると、川原で寛いでいた内の半数程度が顔を上げ、彼女の方に視線を向ける。
「僕等はケルベロスです、現在この場にデウスエクスの脅威が迫っています」
 続くロストーク・ヴィスナー(庇翼・e02023)の発言に、その場にいた人々は様々な反応を示す。
 慌てて椅子から立ち上がる者、何かの冗談や、あるいは催し物なのかと半信半疑で耳を傾けるもの、突然の事に理解が追いつかず呆然とする者。
 ただ一様に、その場にいる全ての者の意識がケルベロス達に向けられていることだけは確かだった。
 正確な時間こそわからないもののもう敵が近くに迫っていることはケルベロス達にはわかっていた。ただそれでも、段階を踏み出来る限り混乱を避け確実な避難誘導を行わなければ被害はさらに広がる。はやる心を抑え、一つ一つ確実にケルベロス達は手順を踏んでいく。
「今から大きく移動して避難している時間はないんだ、狭くても出来る限りコテージに詰めてはいってくれ」
 大きな混乱もなく人々の意識がロストークとシルクに向けられたのを確認すると、藤波・雨祈(雲遊萍寄・e01612)は時間がなかったせいか、普段より雑に結われた髪を揺らしつつ、グループ単位で人を誘導していく。
「コテージ、入りきらなければテントでも構わないので、速やかに避難し静かに待っていて下さい」
 同様に霧崎・柚子(灰色の火・e28617)も混乱を招かぬ様に、一度に多くの人々を移動させないように気を張りながら避難誘導を行いキャンプ場を回っていく。
 ただ、それでも予想だにしなかった突然の事態に、対応できない人々も少なからずいた。
「暫しの辛抱でござるから、拙者達を信じて欲しいでござるよ」
「ごめんな、でも今外に居ると危ないんだ……」
 そんなパニックに陥る者や、未だに事態を信じられないでいる者、まだ遊び足りない子供達に対しては、参式・忍(謎武術開祖のニンジャ・e18102)やアラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)がケルベロスカードを提示し、諭すようにしながら、対応していく。
 そうして順調に半数程の人々がコテージに避難し終えた頃、月見里・一太(咬殺・e02692)はその獣の耳をピンとたて、その微かな音を聞いた。
「思ったよりも早いな」
 舌打ちを一つ、視線を上げ鬱蒼と茂る木々の方に彼が目を向けると、程なくしてそれは姿を現した。
 闇夜に微かな光を受けて輝く、鮮やかな翅の模様。一時であればその美しさに見惚れる事もあり得たかもしれないが、その大きさと、人と蟲を混ぜたような冒涜的な胴体の禍々しさは、翅の美しさとあいまってより一層見るものの恐怖を駆り立てる。
 現れた蛾型のローカスト、その姿を直視した人々は唖然とし、足を止め、恐怖に表情を歪める。
 そんな彼等の反応を知ってか知らずか、ローカストはただ餌を求め、避難しようとする人々へ向け近づいていく。
「ちっと殺してくる。周りのことは頼んだ」
 その姿を確認した相馬・竜人(掟守・e01889)は仮面を片手に、短くロストークに告げる。
 その返事を確認するまでもないと、その場をロストークに任せ、竜人は手にした仮面で表情を隠し、地を蹴り高く跳躍した。
「おうテメェ、お高く止まってねぇでこっちをむけってんだよ、なぁっ!?」
 高度を落とす敵とすれ違うように、高く跳んだ竜人は狙いを定めるとその脚に重力を宿す。
 敵の頭上からその頭部を踏み抜くような強烈な蹴りを見舞う。
 あたりに、ローカストの奇妙な悲鳴が響く。
「慌てんな! 奴らは俺等が引きつけてる、落ち着いて訓練通り避難すりゃいい!」
 その声に怯える人々に励ましの声をかけながら、その背に人々を庇うように立ち、一太は闇夜に目を凝らす。
 ローカストはすんでのところで竜人の攻撃を防御していたのか、やや高度を落としつつも餌を求めることを諦めず、飛行を続けているようだった。
「一撃を受けてもまた執着しているようですね、それ程飢えているのでしょうか?」
 敵のその執着に、避難誘導よりも敵の注意をひきつけるべきだと判断したシルクは、闇に溶けるような黒を基調とした蝙蝠を模した武装を展開し、迎撃の構えを取る。
「腹が減っているのなら……好きなだけ拳を喰らわせてやるでござる!」
 同じ様に判断を下した忍もまた、避難する人々から離れ、少しでも敵の注意をひきつけようと、自身のカメラアイを点滅させて見るものの、ローカストの眼に映っているのは逃げ惑う人々だけのようで、見向きもしない。
 羽ばたき、巻き起こる風が木々を揺らし、ローカストは狙いを定め降下を開始する。


「番犬様の御成りだ! 飢え狂ってんじゃねぇぞ蟲螻ァ!!」
 闇夜に一太が咆え、迫りくるローカストに対し正面から挑む。
 急激に彼の周りから熱が失われていく、踏み込んだ地が凍てつき、冷気をあげキンと澄んだ音を奏でる。
 高度を下げたローカストの体をめがけ、一太の右脚が振りぬかれる。
 ローカストはその一撃を胴から伸びる腕で受け、一太を弾き飛ばそうとする。しかし、一太は敵に攻撃を防がれた時点で既に、二の矢を放っている。
 凍てついた敵の腕を足場に、獣じみた動きで体を引き上げ、逆の足で弧を描くように敵の顎を蹴りぬく。人であれば意識を刈り取るのに十分な一撃であっても、デウスエクス相手では話は別だ、ダメージを受けつつも、ローカストはグンと首を戻すと、一太を振り落とし、さらに進む。
 未だ避難の間に合わない人々は時折後ろを振り返っては、迫り来る死の恐怖に震え、足取りもおぼつかなくなっていく。
「振り返らず、真っ直ぐ前だけを見て」
 羽ばたきの音にかき消されぬよう、ロストークが声を張り上げ、避難者達を鼓舞するが極限の緊張状態に体力が持たないものも出始めている。
 ローカストはケルベロス達の攻撃を受けながらも、とにかく目の前の人々、すぐにでも手を伸ばせば手に入りそうな餌の群れに異様なまでの執着を見せる。
「その飢えから、歪な生から解き放って差し上げます」
 ぎりぎりまで高度を下げ、餌へと伸ばしたローカストの腕をシルクの蹴りが弾き飛ばす。だがローカストは後退することなく、隙を晒しながらも前進することを選ぶ。
 引き戻した足の勢いのままに踏み込み、地に足を付け、シルクの回し蹴りがローカストの胸元へと突き刺さる。それでも構わぬとばかりに、ローカストは力強く羽ばたく。純粋な力を持ってシルクを押しのけ、得物へと手を伸ばすために。
 いかにケルベロスと言えど、純粋な力比べでデウスエクスに勝つことは難しい。シルクの体が少しずつ押し込まれ、ロストークが避難誘導を諦めその迎撃に加わろうとした瞬間。
「俺らがいる以上、お前に手出しなんかさせねぇよ」
 ローカストの背後から忍び寄った雨祈が、自らの左手の親指に歯を立てる。
「絡め取れ、影法師」
 すぐさま振りぬかれた腕、指先から零れ落ちた血の雫は雨祈の影に落ちると、まるで波紋のように影が波打つ。影はその波に押されるように、地を這うように伸び、高度を下げ、地上へと降り立ったローストの脚を伝い、体を伝い、首元へ伸び、腕にまで侵食し、瞬く間にその体を締め上げ、引き戻す。
 首元を、脚を、別々の腕の組で掻き毟り、拘束を解こうとするローカストのがら空きの体に、自由となったシルクの蹴りが再び見舞われる。
 体勢を崩し浮き上がるローカストの体。
「イヤーッ! 縛霊撃!」
 自由を奪われたローカストの体を、忍の縛霊手が殴りつけ、オマケとばかりに敵を包み込んだ霊力の網を力の限り投げ飛ばす。
 やっと目の前までたどりついた食事から引き離されたローカストは怒り狂い、自らを拘束する網を破り立ち上がろうとして、無様にこけた。
「……飢え、ですか。もっといい方法があるのでは?……どちらが美味しいか、より大きいか。……さあ、どうしますか?」
 腰にベルトで固定された魔導書に手をあて、ナイフを握る左手を照準のように構えた柚子の古代語魔法により、ローカストの下半身は一時的に石化させられていた。
 ケルベロス達に圧倒され、地に這い蹲るローカストのその様子を眼にした人々の眼に再び希望の光が宿る。
「今のうちに立ち上がって! 大丈夫だ僕の仲間を信じて!」
 ロストークの声にハッとしたように人々は立ち上がり、コテージを目指す。
 最後の一人がコテージへと逃げ込むと、内から鍵のかかる音が鳴った。


 蛾を模したローカストは目の前から餌を取り上げられ、酷く怒っていた。
 無理やりに拘束を無視し、羽ばたき再びそれは飛翔する。先程までとは明らかに違う。
 翅を彩る鱗粉は眩しいほどに輝き、ケルベロス達を照らしている。
 自らよりも圧倒的に弱い生命を一方的に嬲り、喰らう、先程までの食事という行為とは違う。
 生き残るために戦い、敵を下し、喰らうための全力の狩りの姿勢をもってローカストはケルベロス達を見据えている。
「退路が無い、先が無い。……それでも進むしかないんだよな。お前たちの種も、アラタ達、地球に住み民もそれは同じだ。命を持つ者は、尽きるまで進むしかない」
 飢餓状態で言葉を解すこともままならぬローカストに対しアラタは語りかける。喋れないだけで言葉は理解できているのか、それともそんな思考すらもままならないのか、それはわからない。
「だからこそアラタは敬意を持って、お前をこれ以上行かせはしない! ここで終わらせる!」
 それでもアラタは種のために、駒として使い捨てられる目の前の敵に、敬意をもって叫ぶ。
 しばしの静寂の後、ローカストは一際強く羽ばたき、周囲に鱗粉を漂わせ、ケルベロス達の動きを待つように、空中に漂う。
 対して、ケルベロスの周囲にもアラタの操るオウガメタルの粒子がきらきらと輝き始める。
「さっきまでとうって変わって余裕かましてかかってこいってか? その態度、最高に気にくわねぇなぁッ!」
 髑髏のような仮面の下、悪態を吐きつつも竜人は一人仕掛けるようなことはしない。避難を終え、憂いのない今、単独で敵に当たる必要などないのだから。
 仲間達と視線を交わし、呼吸を一つ起き、ケルベロス達は仕掛ける。
 一太の構えるチェーンソーの刃が、唸りを上げローカストの体を捕らえ、続く竜人の振るう戦斧が青い輝きの尾を引き、袈裟に深く切りつける。
 ローカストは立て続けに攻撃を受けながらも、焦ることはなく、翅を羽ばたかせ、距離を取りながら周囲に鱗粉を振りまく。
 闇夜の中、虹色に輝くそれは幻想的な美しい光景とは裏腹に少しでも吸い込んだものの体を麻痺させる。至近によっていた竜人と一太は口元を押さえつつ、範囲外へ逃れようとするものの、足元の感覚が徐々に不確かになっていくのを感じる。
 すぐさまアラタは攻性植物を操り、周囲を眩い光で照らす。完治にこそ至らないものの、動く分には問題ない程度に二人の体を浄化し、さらに鱗粉に対する耐性を与える。
 その援護をもてしても敵の周囲を漂う鱗粉の層は厚く、ケルベロス側もやや攻めあぐねる形とならざるを得ない。
 シルクの絶え間ない砲撃が敵の動きを制限し、着実にダメージを重ねるものの、決定打とはなりえない。
 隙を伺う様に、互いの繰り出す攻撃が交差し、弾かれ、闇に散る。
 だが、アラタの治療を受けられるケルベロスと違い、ローカストは受けた傷を癒すことも出来なければ、消費した力を取り戻すことも出来ない。
「イヤーッ! 最大加速! 連・環・腿!!」
 鱗粉舞う夜空に忍の声が響き、炎の軌跡が宙に舞う鱗粉を飲み込む。
 敵の頭部をめがけ刈り取るような軌道を描き、忍の蹴りがローカストを襲う。脚部の火を噴くブースターにより加速されたその一撃を振りぬき、大きく弧を描いた炎の軌跡が地に着くと同時、跳ね上がるように逆の足が再びローカストの頭部を捕らえた。
 瞬く間に炎に包まれ、もがき苦しむローカストは大きな隙を晒す。
「虫捕りなんて得意でもないんだけどな」
 言いながらも雨祈はローカストの体に、縛霊手から伸びる霊力の網をしっかりと絡みつかせ、その自由を奪っている。
「今だ!」
 ロストークの叫びと共に、攻撃の隙を伺っていた柚子は詠唱を開始、それよりも一息早く、ロストークの振るう氷の槍斧が敵の腕を切り飛ばし、防御手段を奪う。
「集え赤、唸れ黒。重き血の処断をここへ」
 詠唱と共に柚子の手の中に生成される一振りの大剣、力を込め振り上げたところで柚子の視界が奇妙に歪む。
 最後の抵抗とばかりに金色に輝く無数の鱗粉が辺りを覆い、もはや柚子の視界は当てにならない。同士討ちの危険を孕むその状況において、ロストークは躊躇いなく叫ぶ。
「大丈夫、僕の声を信じるんだ」
 ロストークの声に柚子は、再び両の腕に力を込めた、ロストークの声を信じ、その声の響く方向へ、力の限り、振り下ろす。
「――吹っ飛べ……!」
 甲高い蟲の断末魔と、確かな手応え。
 視界はなくとも、それだけわかれば十分だった。


 脅威が去った後のキャンプ場では大きな火が焚かれ、コテージやテントから解放された人々がケルベロスを囲み、感謝の念を伝えつつ、宴会騒ぎに興じている。
 キャンプ場の宿泊客の集まりということで、食べるのにも飲むのにも困ることはなく、花火や演奏といった娯楽にも事欠かない。
 そんな喧騒から離れたコテージの裏で、ロストークは一人目をつむっていた。
 しばらくそうしていた彼は近づく足音に気づくと、目を開けてそちらへと顔を向ける。ロストークの視線の先に立っていたのは竜人だった。
「何やってんだこんなところで?」
「特にこれといっては何も」
「ならとっとと混ざってくれ、キャパがたんねぇんだ」
 竜人の指差す人だかりの中央では、他の仲間達が質問攻めにされたり、食べ物を押し付けられたり、手厚い歓迎を受けている。
 その様子に苦笑を浮かべロストークは竜人の後に続き、ゆっくりと歩き出す。その先では、子供達に混じり話をするアラタが空を指差している。
「今の時期は流れ星も多いし、食べ物や花火だけじゃなくて空を見るのもいいぞ」
 つられるように誰もが視線を上げたその先で、瞬く光が夜空を横切る。
 周囲でワッと声が上がり、誰もが笑う。
 彼等の守ったモノがそこに確かに存在していた。

作者:雨乃香 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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