●蘇る強兵
人里離れた森の奥。
太陽神アポロンの命を受けたローカストが、秘密裏に作戦を行っていた。
作戦を指揮するイェフーダーは、用意したコギトエルゴスムにグラビティ・チェインを注ぎ込み、宝石化したローカストを復活させる。
宝石より噴き出した、黒く輝く靄。
その中から姿を現したのは、背面に丸みを帯びた甲殻を持つ、ダンゴムシ型ローカスト。
その艶やかな漆黒の甲冑は、金の縁取りがなされており、美しさと共に高い戦闘力を有しているのが見て取れる。
「ァァァァァァアアア――――ッ!!」
だが、蘇ったローカストからは、知性や理性が一切感じられない。
どうやら非常に餓えているらしく、『もっとグラビティ・チェインをよこせ!』というように暴れだすのだが――。
イェフーダーとその部下により、あっさりと押さえつけられてしまう。
「グラビティ・チェインが欲しければ、自分で略奪してくるのだ」
イェフーダーは、なおも暴れようとするローカストにそう言い放つと、人里の方へと向かって追い立てる。
「フン……せいぜい死力を尽くすのだな。
お前が奪ったグラビティ・チェインは、全て、太陽神アポロンに捧げられるだろう」
既に姿の見えなくなったローカストの方を見やったイェフーダーは、誰へともなく呟くのだった。
●黒き鋼のダンゴムシ
「お集まりいただき、ありがとうございます」
セリカ・リュミエールは、集まったケルベロス達に小さく頭を下げると、すぐさま事件の説明を始める。
「ローカストの太陽神アポロンが、新たな作戦を行おうとしているようです」
不退転侵略部隊による虐殺をケルベロスが防いだ事により、求める量のグラビティ・チェインを確保出来なかった為に、再度の収奪作戦を画策しているようなのだ。
「その作戦とは、コギトエルゴスム化したローカストに最小限のグラビティ・チェインを与えて復活させ、そのローカストに人間を襲わせるというものです」
復活させられるのは、戦闘力こそ高いものの、グラビティ・チェインの消費が激しい為にコギトエルゴスム化させられていたローカストである。
最小限のグラビティ・チェインしか有していないといっても、油断できない相手だろう。
「グラビティ・チェインの枯渇による飢餓状態にしておくことで、人間を襲うことしか頭になく、反逆の心配もない。
――そして、仮にケルベロスに撃破されたとしても、作戦に用いたグラビティ・チェインは最小限のために自軍の被害も抑えられる……」
そんな、効率的ではあるものの非道な作戦なのだと、セリカは嫌悪感をあらわにする。
「この作戦を担当するのは、特殊諜報部族『ストリックラー・キラー』を率いる、イェフーダーというローカストのようです。
もちろん、いずれはイェフーダーとの直接対決が必要ですが、まずは彼によって復活させられたローカストの撃破をお願いします」
今回撃破対象となっているのは、強力な戦闘力を持ったダンゴムシ型ローカストである。
前面以外を覆う、艶やかな漆黒の甲殻には金の縁取りがされており、美しさと共に高い防御性能を誇っている。
また、ボール状に丸まることで脆い部分を敵の攻撃から遠ざける防御行動をとるが、この形態からの突進は破壊力も高く、まさに攻防一体といったところだ。
攻撃方法は、以下の三つ。
「『黒い鋼弾』は、ボール状になった体で力強く転がり、標的に激突して破壊します。極めて高威力なので、注意が必要です。
『齧り取る』は、標的に素早く喰らいつき、切り裂くと共に生命力を吸い上げます。
『隠し針』は、甲殻の内側に隠された毒針で刺します。魔法じみた力を持つ毒液は、対象の体を石になったかのように鈍らせます」
鋼弾と針は力強さを、齧りは素早さを生かした攻撃であり、すべて近くの一体のみを対象とする。
「現場は、山を切り開いて造成された、新興の住宅地です」
付近にはまだまだ自然が残っており、問題のローカストは、住宅地の背後に広がる森の奥からやってくるようだ。
平日の昼間であり、人通りは少ない。
とはいえ、幼い子供を連れた母親が歩いていたりするので、犠牲者を出さないようにするには、それなりの対処が必要だろう。
「ダンゴムシって食べられるんだってね!
どっちが食べられる側か、しっかり教えてあげないといけないよね!」
共に説明を受けていた夏川・舞は、そう言って人々を襲うローカストに対して強い敵意を見せるのだった。
参加者 | |
---|---|
シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する人形娘・e00858) |
リアトリス・エルス(冥途忍者さん・e01368) |
久遠寺・眞白(勇ましき衝動・e13208) |
長船・影光(英雄惨禍・e14306) |
リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540) |
氷鏡・緋桜(矛盾を背負う緋き悪魔・e18103) |
ジョー・ブラウン(ウェアライダーの降魔拳士・e20179) |
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545) |
●餓えたムシにはご用心
「ダンゴムシは昆虫ではないんだが……。
いや、しかし……要は改造人間なのか……人為的に進化させた……」
ブツブツと考えを口から漏らしているのは、氷鏡・緋桜(矛盾を背負う緋き悪魔・e18103)。
一般人の避難は他のメンバーに任せておいて、自分は標的であるローカストを探すのだ。
「Pensee...スポアローカスト達の情報を得たいところでしたが、どうやら無理そうですの……」
(「故意に極限状態にして戦わせるなんて酷過ぎますの。
この調子だとスポアローカストも攻性植物達に酷い事をしていそうで心配でならないですの」)
今回のローカストについて、飢餓状態を利用して行動を操られた――いわば犠牲者の側だと考える、シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する人形娘・e00858)。
出来ることならば、名前を聞き出して弔ってやりたいと、そう思っているのだった。
「ここは危ないのであります。
われわれケルベロスが障害を排除するまで、避難しておいてほしいのであります」
一足早く現地入りした、重鎧のヴァルキュリア少女、クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)。
クリームヒルトは付近の一般人に危険を説明し、戦場から遠ざけるように誘導していく。
(「……ん、今度も使い捨ての部下なんだね。
形振り構ってられないっていう事かな……?
まあ、生きるか死ぬかだし、しょうがないのかなって思うけどね」)
そんな事を考えるのは、虫はよく捕まえるが、ダンゴムシは食べない系の白毛皮ボクスドラゴン『ステラ』を連れたメイド忍者、リアトリス・エルス(冥途忍者さん・e01368)。
「ん、舞さんもいざってなったら火事場のなんとかで、すごいパワーを出せそう?」
「みぎゃ?」
「ぅえっ!? も、もちろん! イザとなったら、ボクの螺旋パンチが火を噴くよ!?」
唐突なフリに、変なテンションでテキトーなことを返してしまう夏川・舞。
シュッシュッ! とシャドーボクシングをしてみせる、挙動不審な舞はとりあえず置いておいて――。
リアトリスもステラと共に、一般人の避難のために声かけに出るのだった。
(「……使い捨ての駒か。
奴を見ていると……何だろうな……。
憐れみ……同情……共感…………いや、どれも違うか……」)
「……ああ、これは、同族嫌悪か」
何時かの、誰かを、見ているようだ。
そんな風に自嘲するような笑みをかすかに浮かべるのは、元暗殺者の英雄志望、長船・影光(英雄惨禍・e14306)。
クリームヒルトに合流した影光は、シエナの指示を受けた舞と共に、周辺の人間に声をかけてこの場を離れるようにと促していく。
「仲間を、こんな風に使い捨てに利用するなんて……許せない……っ」
滅多に感情を見せることのないリーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)だが、仲間であるはずの者に対する仕打ちに対しては、思うところあるらしい。
だが、怒りを露にしつつも、やるべきことは冷静に。
リーナは殺界形成を使って、一般人が近づいて巻き込まれることのないようにと配慮するのだった。
「飢餓状態に陥らせてからのグラビティ・チェインの強制的な回収か、ひどいものだな……」
殺界形成での人払いの後は、『任務を忠実に遂行する忍び』である久遠寺・眞白(勇ましき衝動・e13208)の出番。
通り道となり得る箇所を、手の空いた影光と手分けして、キープアウトテープでもって封鎖していく。
地味な仕事を着実にこなすというのも、彼女の考える『格好いい忍者』像に合致しているのだ。
そうして、住宅地の一角を心置きなく戦える戦場に作り変えて、待つことしばらく。
裏手の森の方から、轟音が届いてくる。
「そこまでだ、そこで止まれ!」
凄まじい勢いで木々を薙ぎ倒し迫ってくる、巨大な黒い球体。
その行く手に立ち塞がり、住宅地は襲わせないと強い意志をローカストに叩きつけるのは、カンガルー獣人のジョー・ブラウン(ウェアライダーの降魔拳士・e20179)。
「ガァゥァアアアアアッ!?」
「……言ったところで既に理性を失って聞こえてないか。
いや、そもそも言って止まる訳もないか」
やれやれ、というように首を振ってみせたジョーは、気を取り直して不埒な破壊者に対して声をかける。
「まぁどちらにしろこれ以上進むなら力ずくで止めさせて貰う!」
「小さなダンゴムシであれば可愛らしいのでありますが。
このサイズと動きではなかなかに筆舌しがたいものでありますね」
実際にその巨体を目にしたクリームヒルトが、思わずげんなりと呟く。
たとえそれなりの虫好きだったとしても、二足歩行の虫人間など、正気を失う光景だろう。
「俺は無暗に命を奪う趣味はない。
おとなしく投降しろ……つっても、今の状態じゃ伝わんねぇか……」
一応の警告をするだけはしておいて、緋桜も戦闘モードに入る。
掻き上げた髪は天を衝くように逆立ち、右腕に集められた虹の光は、真紅のガントレットと化して装着される。
「以前戦ったダンゴムシにはまだ誇りがあったが、それすらも無いか……せめて楽に眠ってくれ」
そう言って構えをとる、忍者娘の眞白。
ローカストの出現を感知し、影光も現場に急行。
標的に意識が他へ向く前に始末すると、静かな殺意を漲らせている。
「ァァアオオオオオオオッッ!!」
対するローカストも、障害であると同時に、求めるグラビティ・チェインを有するケルベロスを前に、弾丸形態を解いて咆哮を上げる。
閑静な住宅街を舞台に、餓えたデウスエクスから人々を護る為の戦いが始まるのだった。
●弾丸疾走
「いくよ……!」
標的の出現と同時に行動に移っていたリーナが、敵味方の誰よりも早く最初の一撃を叩き込む。
軽やかに街灯の上まで跳んだリーナは、街灯を蹴り放して、矢のように鋭く相手の懐へ飛び込み。
雷を帯びた突きで、装甲を隙間から斬り剥がしにかかる。
「……」
リーナの正確に弱所を抉る攻撃に続くのは、同じく先手をとって仕掛けた影光。
駆け寄る最後の一歩を前方への低い跳躍に変え、衝突の寸前に体を翻して、流れる星の煌きと重力を宿した蹴りを喰らわせる。
「まだまだ行くぜ!」
遠間からの狙いすました二発に、僅かによろめきを見せるダンゴムシローカスト。
そのまま体勢を整える前に、緋桜が至近距離から、地面を蹴る力をそのまま相手に伝えるような飛び蹴りをお見舞いする。
破壊力に優れた急所狙いの蹴り技は、しっかりと敵デウスエクスにダメージを蓄積させていく。
「皆様はボクが守るであります!」
仲間の攻撃に合わせ、ボクスドラゴンの甲竜タングステンもタックルで参戦。
絶え間ない攻撃で敵の対応力を奪っている間に、クリームヒルトはヒールドローンを展開する。
撃破役の緋桜に、護り手である自分と眞白。そして、盾役を務める三体のボクスドラゴン達への攻撃を軽減するべく、小型の無人機が護衛につく。
「そこで震えて止まってな!!」
無数のドローンに気を取られかけたダンゴムシを、ジョーが背後から狙い打つ。
漢牙龍震脚(カンガリュウシンキャク)。
力強く大地を踏みつけて起こした衝撃、振動は地面を伝わり、標的であるローカストに襲い掛かる。
さらには足場を崩すことで、回避性能まで低下させるのだ。
――が。
「かわすだと!?」
あえて脆い部分をと、衝撃を相手の前面へ集中させたのが悪かったのか。
普通に仕掛けていれば当たっていたはずの攻撃も、寸前で回避されてしまう。
主に合わせて、ビハインドのマリアも念力による物品投擲を行うが、彼女の方も同様に、脆そうなボディ狙いである。
「ギィチッッ!」
こちらは、なんとか上手く当たった。
確かに弱点らしく、より大きな痛手を与えられることが確認できたが――。
攻撃箇所を限定することで当て難くなることを考えれば、積極的に狙っていくべきかは微妙なところだろう。
と、部位狙いの有用性はひとまず置いておいて。
この連続攻撃の流れを切らないように、眞白も仕掛けていく。
ドワーフらしい力強さを活かした、地面を割るほどの拳をローカストに――。
「ギィィッ!!」
放つが、意外なほどの動きのよさで、空を切らされる。
飢えに飢えて思考力すら無い状態とはいえ、けして侮れない相手のようだ。
「S’arreter! これ以上先には行っちゃだめですの!」
攻撃を躱したダンゴムシローカストが攻撃行動に出ようとするのを、シエナは大声で制止しつつ、とっておき発動。
リュジスモン・ヴァジー・フォンス。
真っ赤なバラの攻性植物であるヴィオロンテによる咆哮で、傷を癒すと共に、グラビティの特殊効果をより強く発揮できるようにするのだ。
その目立つ行為で、主が標的にならないように。
スズメバチのような見た目のボクスドラゴン、『蟲竜』ラジンシーガンは、タックルを行って注意を引く(いかにも毒をもってそうな容姿ではありますが、特にそういった能力はありません)。
「ん、お腹が空いて暴れてるって考えると、ちょっと可哀想だけど、だからって容赦は無しだからね」
「がぅぅ!」
さらに追い討ちをかけるのは、三つ目のボクスドラゴンコンビ。
リアトリスの、視認を拒む影の斬撃に続いて、ステラが激しいタックルを敢行する。
「ォオオオオオオオオ!!」
腹が減りに減っているところにチクチクと攻撃されて怒ったのか、黒弾虫は雄叫びを上げると共に、勢いよく丸まり――。
激しさと荒々しさの結晶ともいうべき、回転突撃を繰り出してくる。
「っ!」
標的となったのは、最初に攻撃を仕掛けたリーナ。
そんな彼女を護るために、甲竜タングステンが身代わりとなって立ち塞がるが……。
小さなボクスドラゴンの体はピンボールのように跳ね飛ばされ、アスファルトを転がったあと近くのビルに激突する。
「凄い、威力……」
回復役として参戦した舞が咄嗟に分身を使ったこともあり、一撃でノックアウトとはならなかったが。
ケルベロスといえど、当たればただで済まないのは間違いないようだ。
この戦い。
飢えた哀れなローカストを倒して、はい解決。
と、簡単にはいきそうもない。
●武人の情け
「っ、この程度、止めてみせるであります!」
仲間の盾として黒い鋼弾の前に立ったクリームヒルトは、その強烈な体当たりを受けつつも、なんとか踏み止まってみせる。
ウォールと呼ばれるコンクリート製のタワーシールドを複数携えるその姿は、まさに動く城壁。
さらには傷を受けるたびにマインドシールドを展開し、治療と共に護りを固めるため、想像以上のしぶとさを誇るのだ。
「まだだ! まだ折れるわけにはいかない!」
一方、もう一枚の盾として、同じく仲間を護り続けてきた眞白。
極力痛みを隠し、庇われた側が負担を感じることがないようにと努めてきたが、ダメージの蓄積についてはいかんともしがたい。
自身を奮い立たせる言葉を口にし、傷を物理的に塞ぎ、肉体を硬化して次の攻撃に備えるのだった。
「ギィチギィチチチッ!」
しつこく邪魔をする二人に、黒弾虫が苛立ちを見せる。
それはそうだろう。これまでの戦いで、ローカストの方も無数の攻撃を受け、もはやいつ倒れてもおかしくないという状態なのだから。
ダンゴムシローカストの高い戦闘力の前に、盾となったボクスドラゴン三体は次々と倒されていった。
突撃に潰され、喰いちぎられ、針の毒に侵され、名誉の戦死を遂げた(戦闘後、しばらくすれば復活します)のだが、少しずつでも攻撃を引き受けてくれたのは、けして無駄ではなかった。
ボクスドラゴン達が襲われている間にケルベロス達は回復を済ませ、また、クリームヒルトによる積極的な防御強化でダメージを抑えていくという作戦を成立させられた。
敵デウスエクスの強さと、高い生命力に随分と手こずらされたが……。
勝負は、次の一分の間に決まるだろう。
「手術を行いますの」
唯一の回復役として盾役と共に戦線を支えてきたシエナは、自己治療では回復しきれなかった眞白の傷を治しにかかる。
エアシューズ『ラジャンプ・リエール』による跳躍で、素早く怪我人のもとへ移動すると――魔術を併用した緊急手術で、一気に完治一歩手前まで持っていく。
「いよいよ攻撃に移るのであります」
十分に護りを固め、また大きな傷を負っているものもいないという状況に至り、クリームヒルトも攻めに転じる。
標的の防御の薄い箇所を正確に貫き、続く攻撃を通りやすくするのだ。
「喰らえ、そしてその身に刻み込め。これが……鬼の一撃だ!」
続いて、同じ盾役の眞白が攻撃を仕掛ける。
鬼神降臨・拳魂一擲。
今までに喰らった数々の魂を憑依させ、一時的にデウスエクス化。
その『鬼』の姿に相応しい強烈な一打を、クリームヒルトが開けた傷口へと叩き込む!
「ギィアアアアアアッ!!」
苦痛の叫びを上げ、戦うためではなく、身を護るために丸まるローカスト。
「例え強固な殻に覆われていようが……俺の拳で突き崩す!」
だが、その程度では、ケルベロスの攻撃を凌げはしない。
「エンド……ブレイカー!!」
緋桜が放つ、『最後の一撃(エンドブレイカー)』。
周囲も、喰らっている本人すらも一撃にしか感じられない『自慢の拳』による怒涛の連撃は、凶悪なまでの破壊力でもって、相手の体を自慢の護りごと打ち砕く。
「ボディがガラ空きになってるぜ!」
強烈な攻撃による苦痛で、護りの体勢を解いてしまうローカスト。
ジョーはその隙を見逃さず、脆く柔らかい腹を狙って、獣を開放した拳を叩き込む。
見事に直撃させられたのは、これまでの戦いの蓄積もあるが、直前にマリアが金縛りで援護したのも大きいだろう。
「ん、続けていくよ」
間髪いれず、リアトリスも遠間から黒影弾を撃ち込み、追い討ちをかける。
「世に満ち充ちる影に立ち。人に仇なす悪を断つ。骨には枯木を、肉には塵を、濁る血潮は溝鼠。擬い物の手にて、散れ。偽・管理者権限実行」
偽・管理者権限実行(クラッキング・イミテーションヒーロー) 。
影光は、世界に残る英雄の記憶から情報をダウンロードし、英雄の力の一端を振るうという大技で、さらに黒弾虫を追い込んでいく。
「ギィ、ギ、ギギギ……」
「わたしの全力で……貴方を苦しみから解き放つ……!」
目前まで迫った死に、それでも抗おうとするローカスト。
そんな彼を苦しみから救わんと、リーナが駆ける。
ラスト・エクリプス。
戦域に漂っている魔力やグラビティの残滓を集束させ、自身の力と合わせて黒く輝く刃を形作り。
強化した肉体でもって振るう、必殺の一撃だ。
体への負担が非常に大きい、まさに奥の手が、ローカストに引導を渡す。
――いや、このまま終わりにはさせない。
「……このまま空腹で死んでいくのも辛いだろう」
死にゆくローカストへ近づいたジョーが、せめてもの情けだと、グラビティ・チェインを与えて飢餓状態の苦痛を和らげようとする。
「ゥ、ア、あ……」
最後の最後、正気を取り戻したローカストへ、シエナが近付く。
弔いの為に名前を知りたいという彼女へ、残った力を費やして応え。
暴威をふるった黒弾虫は、ついに最期の時を迎えるのだった。
●さらば、強敵よ
「……このローカストも、本来は誇り高い戦士だったのかな……」
戦いは終わった。
リーナは、利用されたローカストが安らかに眠れるようにと祈りを捧げる。
「戦争に勝ったはいいが、ローカストの動きは未だ健在か……。
やはり指揮官を潰すべきか……」
「ローカストの残党への対応が後手に回っている印象でありますね。
敵の拠点を見つけてこちらから襲撃をかけるなどして、一気に殲滅できないものでありましょうか?」
一方、眞白とクリームヒルトは、ローカストとの戦いの方へと意識が向いているらしい。
「ん、ボクは昆虫食ってちょっと無理だけど、舞さんは結構食べたりするの?」
そんなシリアス組とは別に。
戦闘での被害箇所の修復を終えたリアトリスは、舞に向かってそんなことを尋ねる。
「がぅがぅ?」
「ステラが山で見つけて来たカブトムシの幼虫を舞さんへ進呈だって。
あ、ボクは都会派ニンジャだから、非常食はカロリー某のチョコ味が基本かな」
「……昆虫食は問題ないが、命を賭けて戦った相手を食う気はしないな」
「どっちも食べないよっ!?」
まさか、このローカストも?
という目で見てくる緋桜に、慌てて反論する舞。
どうにも騒がしく、気の抜けた空気になってしまったが……。
無事、犠牲者を出すことなく事件を解決できたのだ。
次の戦いが訪れるまで、戦士たちもしばしの休息をとるのも、悪くはないだろう。
お疲れ様、そしてありがとう、ケルベロス。
作者:紫堂空 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年8月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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