炎天下に泳ぐ巨大金魚を掬いとれ!

作者:麻香水娜

 祭囃子に屋台からは威勢の良い声が溢れる。
 浴衣姿で綿飴を頬張る神長・早苗は、瞳を輝かせてキョロキョロとせわしなく周囲を見渡していた。
「あ! 金魚すくい!」
 恰幅の良い的屋の男性の前には、大きな浅い水槽に沢山の金魚がゆらゆらと泳ぎまわっている。
 早苗が水槽を覗き込むと――、
 ザバーン!!
 自分の身体の何倍もある金魚が、大きな口を開けて早苗に襲い掛かってきた。

 ガバ!
「……ゆめかぁ……」
 飛び起きた早苗は、そこが自室ベッドの上だったことに胸を撫で下ろす。
 熱を出してしまって部屋で寝ていたのだ。
 すると、いきなり目の前に鹿に乗った見知らぬ人物が現れ、大きな鍵で心臓を貫かれてしまう。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 鹿に乗った――魔女・ケリュネイアは、そのまま何処かへ去っていった。
 ゆらゆら揺れる大きな金魚を残して――。
 
「巨大金魚……それって掬えるです?」
 祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が話す予知の内容に、マロン・ビネガー(六花流転・e17169)が首を傾げる。
「……掬いたいのですか?」
 蒼梧は思わず苦笑を浮べて質問を質問で返してしまった。
 こほん、と1つ咳払いして気を取り直すと説明を再開する。
 理屈の通じない、とにかくビックリする夢を見て飛び起きた子供がドリームイーターに襲われる、と。
「『驚き』を奪ったドリームイーターは姿を消してしまっているのですが――」
 早苗の夢を元に現実化した巨大金魚ドリームイーターを倒す事ができれば、『驚き』を奪われた早苗は目覚めるだろう、と続けた。
 巨大金魚が現れるのは午後3時すぎ。早苗の家がある住宅地を徘徊している。
 流石に真夏のこの時間に井戸端会議をしているような奥様達はいないようだが、それでも人通りが全くないわけではない。
 体長は2m程の巨体。見ればすぐ分かるとの事。
「この巨大金魚……誰かを驚かせたくてしょうがないようで……ですから、通りを歩いているだけで向こうから近づいてくるでしょう」
 いくら金魚とはいえ、別に水があろうがなかろうが関係なく、いきなり物陰から飛び出してきたりするようだ。
 しかし、驚かなかった相手がいたら、どうにか驚かそうとして狙ってくるという。
「攻撃方法ですが、大きな尾びれで殴りつけてきたり、口から水鉄砲のようにモザイクを飛ばしてきたり、泳ぎ回る事でモザイクを集めて傷を癒してきます」
 体が大きい分、結構な威力なので注意して下さい、と続いた。
「折角の夏休みなのに熱を出して遊びに行けないだけではなく、更に眠り続ける事になってしまうなんてあんまりです……どうか彼女に楽しい夏休みを……」


参加者
ミューシエル・フォード(キュリオシティウィンド・e00331)
星祭・祭莉(ムーンライダー・e02999)
鷺坂・相模(逆しまの青・e10094)
相馬・碧依(こたつむり・e17161)
マロン・ビネガー(六花流転・e17169)
東雲・菜々乃(のんびり猫さん・e18447)
ゲリン・ユルドゥス(白翼橙星・e25246)
涼風・茜姫(虹色散歩道・e30076)

■リプレイ

●上空と地上の両方から
(「『驚き』は時々は良いものだと思うんだよ。『驚き』の感情はその人のもの。それを奪うなんていけないんだよ」)
 白い翼を広げて上空から一般人はいないか探す星祭・祭莉(ムーンライダー・e02999)が注意深く地上を見回る。
「ボクとデルタさんで成敗するんだよっ」
 隣を一緒に飛んでいるサーヴァントであるウィングキャットのデルタさんをちらりと見ると、デルタさんが何かを見つけたように騒いだ。
「すいませーん」
 デルタさんが見つけた人影に声をかけながらゆっくりと近付く。

「キンギョってお魚だよね? すっごく暑いとこをずっと浮いてて苦しくないのかなー?」
 光の翼を広げて上空を見回るゲリン・ユルドゥス(白翼橙星・e25246)が、右腕で額の汗を拭いながら呟いた。
(「あ、あの人、今から出かけるのかな……」)
 マンションから出てきた主婦を見つけて急いで彼女へ注意を促そうと一気に急降下。
 ――ドン!
「きゃっ」
 ゲリンの見つけた主婦は、いきなり空から降ってきて地面に衝突した何かに小さな悲鳴を上げる。
「いってて……驚かせちゃってごめんね」
 照れ笑いを浮べたゲリンが名乗って状況を説明。少しの間でいいから外出は待ってもらうよう伝えた。

「ミューよりおっきい金魚かぁ……何にも知らなかったらビックリしちゃうよねー」
 白い翼を広げて上空から周辺を見て回るミューシエル・フォード(キュリオシティウィンド・e00331)がぼんやり呟く。
「あ、あれ……もしかして……」
 民家の壁に金魚のような影を見つけた。
「みんなに知らせなきゃ」
 ミューシエルは携帯電話を取り出して仲間の番号を呼び出して耳に当てる。

「うん……うん、分かった。事前にどの辺から出てくるか分かれば驚かないよ。有難う。じゃあ、祭莉とゲリンへの連絡はよろしくね」
 ミューシエルから連絡を受けた鷺坂・相模(逆しまの青・e10094)は通話を終了すると、巨大金魚がいる位置を連絡するべく仲間の番号を呼び出した。
「あ、もしもし――」

「ちょっとごめんなさいね」
 涼風・茜姫(虹色散歩道・e30076)が隣人力を使いながら道を歩く高校生くらいの2人組に声をかける。
「あー、ボク達ケルベロスなんだけど、もうちょっとで危なくなるから逃げといてー」
 茜姫の隣の相馬・碧依(こたつむり・e17161)が、だるそうに口を開いた。
 やる気のなさそうな碧依の言葉に首を傾げた2人だったが、ケルベロスカードを出されると素直に頷いて急いで帰路につく。
 すると茜姫がキープアウトテープを取り出し、壁と壁の間に貼って戻ってこれないようにした。
「こっちは終わったです!」
 2人の下へキープアウトテープを持ったマロン・ビネガー(六花流転・e17169)が、パタパタと駆け寄ってくる。
「一般人もいなかったし、キープアウトテープ貼るのもすぐだったね」
 マロンの後ろからファラン・ルイ(ドラゴニアンの降魔拳士・en0152)が微笑んだ。
「こっちも終わったよ」
 連絡を回してから、ミューシエルから教えられた場所の近く――特に家の玄関に入って中の人が出てこないようにキープアウトテープを貼り終えた相模もゆっくり近付いてくる。
「巨大金魚はどのくらい大きいのでしょうか?」
 茜姫や碧依と共に行動していた東雲・菜々乃(のんびり猫さん・e18447)がのんびりと口を開いた。

●巨大金魚だ!
「おっきい金魚はたくさんいるけど、ミューよりおっきいのは見た事ないなあ」
 どこか楽しそうに瞳をきらきらさせたミューシエルが楽しそうに口を開く。
「金魚を飼うのも嫌いじゃないですし、食べられるお魚なら好きですが……」
 どちらも無理そうですね、と続けた菜々乃の顔は何処か残念そうだ。
「掬えないのは金魚じゃないです!」
 何故か手に金魚掬いで使うポイを持ったマロンは、ぐっと握り締めて力説する。
「ねーねー知ってる? 屋台の金魚掬い覗くと大きい金魚に食べられるって噂」
 碧依が何処とも繋がっていないスマホを耳に当てて少し声を大きめに喋りだした。
 地上で避難誘導をする6人が集まって和やかに雑談をしている。その時――!
『ギョッ!!』
 曲がり角にある民家の塀から巨大金魚が飛び出してきた。
「わぁあっ!?」
「金魚、大き過ぎですー! 食べられてしまうですー!?」
 茜姫が目を見開いて驚くと、マロンが涙目になってわたわたと電柱の影に逃げ込む。
「でっかい金魚が浮いてる!」
「なんだいこの金魚!」
 碧依とファランも態と大袈裟に驚いて動きを止めた。
「まるで風船のおもちゃだ。目新しさや驚きはないな……これでは子供の心も動かせまい」
「大きいだけで美味しくなさそうなのですよ」
 相模が溜め息を吐きながら呆れると、菜々乃は平然としながら残念そうに呟く。
『ギョ?』
 突然自分のような大きな金魚が現れたら驚く筈だと思っていた金魚は、相模と菜々乃を睨んだ。

●巨大金魚は食べられる?
『ギョギョ!!』
 金魚は驚かなかった上に挑発的な態度だった相模に向かって、口からモザイクの塊を吐き出す。
「……っ!」
 相模は顔の前で腕を交差して両腕に物凄い衝撃を受けた。
(「なんて威力……」)
 腕に強烈な痛みと痺れを感じた相模の眉が顰められる。
「金魚が泳ぐのは金魚鉢の中と相場が決まっているんだよ」
 その時、上空から祭莉の声が聞こえたかと思うと、空中に魔法陣が描かれ守護の光が前衛の4人とサーヴァント3体を包み、相模の痺れが消えて傷が多少回復した。
(「7人だからちょっと効果弱まっちゃったんだよ……」)
 ふわりと地面に降り立った祭莉は、回復の威力も落ち、ミューシエルとデルタさんに守護がつかなかった事に内心悔しがる。しかし、相模の腕の痺れを取り払い、驚かない事で囮になる相模と菜々乃にはかかったのでひとまずはよしとした。
「ミューと同じくらいの子、おきられないのかわいそう!!」
 祭莉と同じように上空からミューシエルの声が響くと、ホーミングアローが金魚の背中から腹へと貫通する。
『ギョ!?』
 ――ドスン。
 地面から1mくらい浮いていた金魚は、衝撃で地面に叩きつけられた。
「あの金魚って美味しいのかなー? 冷凍したら新鮮……でもフナくさそうだしにゃー」
 ぶつぶつと呟く碧依が、金魚が地面に縫い付けられた瞬間に大器晩成撃を放ってエラの周辺を凍りつかせる。そんな主人を横目にウィングキャットのララは、祭莉の守護がつかなかった前衛の仲間に耐性をつける為に翼をはためかせて邪気を払う風を送った。ミューシエルとデルタさんにも耐性がつき、相模の傷を微量だが回復させる。
「あの金魚はプリンでも食べるのは無理なのですよ」
 傍らのウィングキャットのプリンに話しかける菜々乃は、爆破スイッチを押した。ミューシエルの攻撃で地面に落ちた瞬間、見えない爆弾を貼り付けており、それを起爆させたのである。話しかけられたプリンは、清浄の翼を前列に使って相模の傷を少し回復させた。
「掬えないのは金魚じゃないです! 滅ぶべしです!」
 手にしていたポイをビシッと金魚に向けると、時空凍結弾で腹を凍りつかせてキュッと締めさせる。
「動くなよ、外したくないんだ」
 相模は金魚を見据え、血襖斬りを放って返り血を浴びる事で体力を回復した。
「暑いとこずっと浮いてるなんてかわいそうだよね! 元に戻してあげるね!」
 全身を覆うオウガメタルを『鋼の鬼』と化したゲリンが、上空から金魚目掛けて突っ込む。
「金魚ちゃんかなり強いみたいね……だから頑張って」
 ディフェンダーである相模のダメージの具合を見た茜姫が、ケルベロスチェインを地面に展開して前衛の仲間達に守護をつけた。茜姫のサーヴァントであるボクスドラゴンの崑崙は相模に駆け寄って属性インストールでその傷を完全に癒し、ファランもサークリットチェインを使って守護の力を強める。
「皆回復してくれてありがとう」
 相模がヒールをかけてくれた仲間すべてにふわりと笑いかけた。
 金魚はモザイクを吐きながら空中を泳ぎまわり、傷を回復させる。
「サナエちゃんにおきてもらうんだから!」
 ミューシエルがドラゴニックミラージュで焼き、碧依が達人の一撃を叩き込む。そこへララが金魚に飛び掛って顔を思い切り引っ掻いた。祭莉が自分を含めた後衛の3人にスターサンクチュアリを使うと、デルタさんもララと同じように金魚の飛びついて尾びれをズタズタにする。菜々乃が縛霊撃で巨大な体に網状の霊力で緊縛し、プリンのキャットリングが背びれを貫いた。
 一気に攻撃されて地面に落ちた金魚がふらふらと浮遊しようとした瞬間、
「氷で締めて、いい具合に焼き色もつきました。切り分けなきゃですね!」
「切られたら串刺しにするよ!」
 マロンが絶空斬で斬りつけてゲリンが稲妻突きで胴を貫く。
『ギョギョ、ギョーーーーーーォォォォ……」
 全身がモザイクになった巨大な金魚は、パァッと周囲に霧散した。


●真夏の昼の悪夢――は終わる
「よくやったんだよ。デルタさん大好きなんだよ」
 祭莉は上空から一般人を探しているときにも素早く見つけてくれ、果敢にも巨大金魚に飛び掛ってくれたデルタさんを撫でて労わると、周辺のヒールに取り掛かる。
「すっごい被害になっちゃったねー。ボクも直すよ!」
「うん、ヒールしないとね」
 ゲリンが明るく声を上げると、茜姫もおっとりと同意して祭莉に倣うように周辺のヒールを始めた。
「少し面白い見た目の敵だったね」
「でもあんなに大きかったら掬えないです。そんなの金魚じゃないです」
 引き付ける為の演技ではなく、本当に内心少し面白がっていた相模が小さく笑うと、マロンがぶぅと頬を膨らませる。
「焼き金魚ってちょっと気になったんだけど……ねぇララ?」
 ミューシエルのドラゴニックミラージュで焼かれた金魚に興味があった碧依がララに話しかけると、ララは嫌そうな顔を返した。
「そういえば、お祭りの金魚すくいって今年まだやってないのですよね。どこかでお祭りないでしょうか?」
「まだまだ夏真っ盛りだからね。探せばどこかにあるんじゃないかい?」
 菜々乃は金魚で思いついた事を口にすると、ファランが笑顔で返す。
「そーいえば、水のゆめを見るとおねしょしやすいってよく言うよね。サナエちゃんはだいじょうぶだったなあ?」
 ミューシエルがぼんやりと呟いた。
「あっ、ミューは平気だからね! もうおねしょなんてそつぎょうしたんだから! ほんとだよ!」
 自分の言葉にハッとして慌てて付け加える。あまりにも必死なミューシエルの様子に一同の顔に笑顔が広がった――。
 

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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