黙示録騎蝗～穿孔のオウル

■リプレイ

●同胞から見捨てられて
　秋田県の山間部。
　のどかな場所であるのだが、ケルベロス達はその雰囲気に浸る余裕すらなく、畑の上で険しい表情をしている。
「先月の戦争の生き残りか。黙示録騎蝗だか知らねーが、一般人はやらせねーよ」
　神宮寺のメイドとして、ヒビスクム・ロザシネンシス（メイドザレッド・e27366）はしっかりと守り通してやるぜと意気込む。
「前回の不退転侵略部隊は自らの意思なのでまだ理解できますが、今回の作戦は……」
　アリエット・カノン（鎧装空挺猟兵・e04501）は表情を翳らせて思い出す。そういえば、ローカストが下級の者を人間に預けたまま放置した１件もあったと。
「アポロンが特に酷いとはいえ、種族としてローカストはそういう傾向があるのでしょうか？」
「太陽神アポロン……ぜってぇ許さねえ」
　部下すらも捨て駒にする相手に、紫藤・大輔（繋がれていた鎧装騎兵・e03653）が激情を露わにする。
「生きた者ですら、同胞すらも捨て駒の兵器として使うか、虫共よ……」
「使い捨て、ね。哀れに思うワ。……容赦はしないけド！」
　嘆息する左野・かなめ（絶氷の鬼忍と呼ばれた娘・e08739）。そのローカスト達の関係など、理解できようはずもない。ドローテア・ゴールドスミス（黄金郷の魔女・e01306）は普段と変わらぬ調子で笑っていたが、その眼差しは真剣そのものだ。
「完全にただの道具として使われている……ひでぇ話だよ」
　コール・タール（多色夢幻のマホウ使い・e10649）は、腕の攻性植物に視線を落とす。
「お前もそんな感じだったよな。『バルドル』」
　種を奪われてなお生き抜いた攻性植物と今回のローカストが、彼にはダブって見えたのだ。
「……まぁ、今はどうでもいいか。ここで止めなきゃ、もっとひどい事になる」
「……人を護るのは、騎士の役目」
　それまでほとんど喋らなかったラームス・アトリウム（ドルイドの薬剤師・e06249）がぼそりと口を開く。
「使い捨ての突撃兵として使われるのは、あまりにも悲しいですが……」
　卯真・紫御（扉を開けたら黒板消しポフ・e21351）も敵の実情に同情を示してはいたが、後ろに立ち並ぶ集落を目にして言葉を続けた。
「私たちも、守らなければいけないものがあります」
　そこには、守るべき人々がいる。ケルベロス達はたくさんの命を背負い、ローカストとの戦いに臨む。

　ケルベロス達はただ、畑の上で敵を待っているだけではない。
　限りある時間内で、ラームスはかなめと一緒に、後方の集落へとデウスエクスの出現を知らせる。
　その上で、人々には護りやすいよう、なるべく集落で比較的大きな建物、役場へと集まってもらうよう依頼していた。これは、敵目標物の拡散を防ぐ為だ。
　直接、避難誘導に当たる仲間を見ていた紫御。
（「こういう山村部には、豊かな自然を求めて外国の方が時々来るんですが」）
　もしかしたら、海外からの観光客などがいて、言葉の壁ができた場合があるかもと紫御は構えていた。ただ、タイミングが良かったのか、今回はその心配もなさそうだ。
　さらに、アリエットは畑と住居の間にキープアウトテープを張り巡らせ、畑方面に一般人が来ることを防ぐ。
　その上で、ケルベロス達が住居を背にして布陣していると……、程なく、そいつは現れた。
　ギラギラと目を光らせた、水色の体躯。そして、頭から生やした２本の長い触覚が目を引く。
「餌だ……グラビティ・チェイン……！」
　よだれすら止めずに獲物を求める『穿孔のオウル』。その名の通り、そいつは長い触手を槍のように突き出して攻撃を仕掛けてくる。それを、ボクスドラゴンのガブリンが抑えた。
「てめーらにくれてやるのは、死と弾丸だけだぜ」
　ヒビスクムは目の前のローカストに言い放ち、仲間の盾となるべく身構える。
「部下すら捨て駒……絶対に許せないぜ！！」
　大輔は捨て駒にされたそのローカストの姿に憐れみを覚えながらも、刀を握り締める。オウルは見境なしに人間へと触手を突き出し、命を奪うはずなのだ。
「例え、飢えぬ為の行動であったとしても、それを見過ごすわけもない」
　ラームスは念を込め、自分達の周囲へと殺界を作り上げていく。
　避難に当たる仲間に敵の出現を告げたドローテアは、そいつへと向き直る。
　相手は食餌のことしか考えておらず、注意力も落ちている。そう考えた彼女は敵へと接近し、先制攻撃を仕掛けようとした。
「貴方を哀れに思うワ、オウル」
　跳躍したドローテアは狙いすまして、流星の煌きのごとき蹴りを食らわせる。それにより、オウルは肩を蹴られ、体を大きく煽られた。
　わずかだが、メンバー達は態勢を整える時間を得ることができた。アリエットは仲間と共に、やってきた敵と住居の間へと入り込んでいく。
　敵は今のところ、ケルベロスを避ける様子はないが、急に逃亡を図ることも考えられる。だからこそ、一行はオウルを囲むようにして布陣していく。
「哀れだ。求め、飢えた所で、結局最後には何も手に入らない。悲しい話だ」
　だからこそ、全力で止める。コールもまた構えを取りつつ、言葉を投げかけた。
「あわよくば、最後に己の誇りを思い出せるように」
「恨みたければ恨み、呪いたければ呪いなさい。全て受け止めてあげるワ」
　着地し、次なる攻撃をと構えるドローテアがオウルへと言い放つと、そいつは触手を振り上げて再び攻撃を仕掛けてきたのだった。

●生きる為に……
　ローカスト、『穿孔』のオウルは触手を操って突き出してきた。鋼のように硬いそれは二つ名が示す通り、ケルベロスの体すらも易々と貫いてくる。
「ガブリン！　回復を頼むぜ！」
　それを、積極的に抑えてくれるガブリンへとヒビスクムが呼びかけると、ガブリンはけなげに主人へと属性をインストールしてくれた。
「さあ、盛り上げて行こうぜ！」
　さらに、ヒビスクムは仲間達の背後へとカラフルな爆発を起こす。
（「相手は理性なき本能だけの……それこそ、虫だ」）
　何をしてくるか分からぬ相手。ヒビスクムは慎重に事へと当たる。
　アリエットは敵を注視しつつ、前衛メンバーの手前にドローンを展開していく。とりわけ、敵の逃走には気を配らねばならない。
「敵は飢えている。目の前に餌があり喰わねば死ぬ……。それなラ、我々を強引に突破して、食事を優先することも考えられるワね」
　ドローテアが主張するように、敵の目的を考えるなら。
　いくらケルベロスがグラビティ・チェインを豊富に有しているからとはいえども、ローカストはケルベロスと戦う必要はない。飢えを凌ぐだけなら一般人を殺害するだけでよいのだ。
　だからこそ、メンバー達は敵が飛んで逃走しないかと気にかける。相手がカミキリムシベースのローカストであれば、その可能性は大いにあると判断したのだ。
　ドローテアは敵に注意を向けつつも、後方に視線をやる。そこには、同じ黄道騎士団に属する戦友でもあるラームスがいた。
「その成長を、ぜひ間近で見せてもらうワ。背中は任せたワよ？」
　戦闘に入ったことでラームスは完全に黙し、首肯だけして応じた。そして、攻性植物を収穫形態にし、聖なる光で味方の進化を促す。
「……さて、アタシも年長者として。毅然とした態度で誇らしく挑まなくちゃね」
　ドローテアはそのまま古代語を紡ぎ、ローカストへと魔法の光線を発射して石化を図る。その右腕に命中こそしたが、脚や羽を狙うのは中々難しそうだ。
　ケルベロス達は、飢えに狂う敵めがけて攻撃を重ねる。
　コールが攻性植物の蔓で敵の体を絡めとって締め上げれば、跳躍した大輔が重力を宿した蹴りを叩き込む。ただ、相手は素早い。理性がなくとも、生存本能だけで致命傷を避けようとしてくる。
「羽根を傷つければ、自由に飛べなくなるはず。少しでも逃げる手段を奪わせていただきます！」
　だからこそ、敵の足止めを。紫御は手にした５本の針に気をのせながら、敵の動きをじっと注視する。
「捉えました！　憑依侵食！」
　針を全て投擲し、紫御は相手の影を縛り付ける。その上で、なおも針に気を飛ばし、ローカストの体を縛りつけようとする。
「全く、暴走機関車を止めに走るヒーローになった様な気分じゃよ」
　ある程度、住民達の避難を一段落させたかなめが駆けつけ、柳の描かれた華の札を天高く放り投げる。
「こんな物はお遊びじゃ……。轟け雷鳴……『ちゅどん！』と落ちて、死に晒せぃ！　『雨柳轟招雷』！」
　詠唱した彼女は指を鳴らす。すると、オウルの頭上高くに形成された魔方陣から、激しい音を立てて稲妻が落ちた。
　しかし、敵はそれに耐え切り、なおも荒い息をしながらケルベロスへと突っ込み、鞭のように触覚を振るう。生きる為、全てを込めた敵の攻撃はあまりに重く、盾役メンバー達を追い込んでゆくのである。

　水色の体の中で爛々と輝く瞳。『穿孔』のオウルは触手を操る最中、ケルベロス達へと食らい付いてこようとする。もちろん、飢えを満たす為だ。
　それを受け止めたアリエット。彼女が日本刀で切りかかって敵を食い止める間、コールの放った竜の幻影が炎を浴びせ、かなめが氷結の螺旋で応戦する。
「必ずここで仕留めるワ！」
　さらに、狙撃役のドローテアが躍りかかり、唸るチェーンソー剣で仲間の付けた傷を斬り広げ、離れていた紫御が敵の背中に爆発を起こした。
　大輔もまた日本刀を握り締め、敵の背後で大きな弧を描く。ローカストの羽はかなり傷んで穴すら開いていたが、オウルは意を介する様子を見せない。
「グラビティ・チェイン、よこせ……！！」
　血走る目で睨み付けてくるオウルは、ケルベロス達へと触覚を伸ばす。それまで敵の猛攻に耐えていたガブリンが触覚に貫かれ、姿を保てなくなってこの場から消えてしまった。
　回復役のラームスとて、傷つく仲間を支えるだけで手一杯だ。敵の触覚に貫かれて砕かれた武器、あるいは鞭形態をとる触覚によって鈍る足。それらを少しでも最善の状態に戻すべく、ラームスは癒しの雨を降らせることでサポートしていたのだ。
「回復するぜ！」
　壁となるヒビスクムも回復のサポートをと、真っ赤なハイビスカスの花々を咲かせ、真紅の光で仲間を癒す。
「Je vous embrasse cordialement!」
『心からあなたを受け入れる』
　そんな言葉と共に、アリエットも傷口に直接手を当てて、仲間を癒していた。
　それでも、徐々に疲弊していくケルベロス。相手は１体とはいえ、極限状態の敵なのだ。
　距離を置いた敵目掛け、大輔はアームドフォート『金剛・改』の砲塔をオウルに向け、砲弾を撃ち込んでいく。
　刹那、痺れを見せた敵だったが。
「うおおぉぉっ！」
　瞬時に大声を上げ、大輔に飛び掛ったオウル。ディフェンダー陣のカバーすらも間に合わない。オウルは大輔目掛けて、鋭い顎を突き立てる。強力なその顎は、レプリカントである大輔の体すらも砕いてしまう。
　倒れ付す大輔。しばし満足していたようにも見えたオウルへ、チェーンソー剣を持つかなめが迫る。
「やれのぅ……会話も出来ぬし、一般人絶対殺す明王と成り果ててしもぅた虫に、救いの手は差し伸べてはやれぬのぅ？」
　敵を小馬鹿にするのが好きなかなめ。今回もややおちょくるような口調で、敵へと言葉をかけていた。
「まっ、すまんのっ！」
　仲間が倒されている。グラビティ・チェインを吸収する暇は与えぬと、かなめは仲間が付けた傷をさらに抉った。
　それによって、動きを鈍らせる敵。ドローテアは隙を見て術式を起動する。
「チェイン接続開始。術式回路オールリンク。封印魔術式、二番から十五番まで解放……いくワよ。《蠍の星剣/Scor-Spear》！」
　蠍座の星剣に魔法を宿し、ドローテアは敵の胸を貫かんとする。
　さらに、紫御が稲妻を帯びた槍の超高速突きを繰り出すが、ローカストはなおも倒れない。
　まっすぐ伸ばしてきた触手に、ヒビスクムが貫かれる。疲労も重なり、彼女はかなり苦しそうだ。
　ラームスが無言で、ヒビスクムへと緊急手術を施していく。彼はじっと敵を見続けていたが、逃げる様子は現状見られない。この場にはケルベロスしかいない。それもあって、敵は何としても眼前の相手を倒し、枯渇から逃れようと必死なのだろう。
　戦闘中にウォンテッドを使い、ローカストの逃走に備えていたヒビスクム。
「風穴を開けてやるよ！」
　彼女は瞬時にオーラを弾丸のように飛ばし、敵の触手の先と顎を貫く。
　アリエットも止めを狙って敵の顔面を踏みつけるのだが、オウルはしぶとく触手を振るってくる。それだけ、敵は生きるのに必死なのだ。
「どうしようもないのに、生き足掻く様は酷く醜く……。それでも、俺はそれを美しいと思う」
　もはや全身ボロボロの『穿孔』のオウルへ、コールが語りかける。だが、オウルがそれを聞いている様子はない。
「その輝きに褒美をやろう――せめて、最後は綺麗なままに」
　コールはグラビティ・チェインの力で、擬似天体を作り出していく。それは完成する為に、対象を、ローカストを飲み込もうとしていく。
「――完全に取り込んだ者に、星は夢を見せる。誰もが願う、都合の良い夢を――」
　飲みこまれたオウルの目からついに光が消えた。乾いたような声を上げたそいつは完全にグラビティ・チェインを枯渇させ、畑の上へと崩れ落ちたのだった。

●修復の最中で
　ローカストが倒れたことで、ケルベロス達は事後処理に当たり始める。
　紫御は先に倒れた大輔を気遣い、彼に幻影を纏わせることでグラビティ・チェインを与えていた。その甲斐あって大輔の意識は回復したものの、傷は塞ぎ切らない。しばらくは安静にする必要がありそうだ。
「可能な限り、傷跡はなくさないといけませんね」
　また、畑での戦いということもあって、一行は紫御が言うようにその復旧に当たることとなる。
　かなめは溜めた気力を撃ち出し、荒れた畑に命を吹き込んでいく。ヒビスクムもメイドらしい振る舞いで、穴の開いた箇所にオーラを撃ち込んでいた。
　コールはふと、倒れたローカストに視線を向ける。その表皮を覆っていたオウガメタルが動き出し、所在なさげにうろついていた。
「……お前の主は『此処』にいるぞ。もう二度と帰ってこないだろうが」
　主の元に行くかとコールが問うと、オウガメタルはやや戸惑ったような素振りをする。
「……冗談だよ。お前の好きにするといい」
　くすりと笑う彼に、そのオウガメタルは近寄っていく。新たな主と認めてくれたそれを、コールはゆっくり拾い上げたのだった。

作者：なちゅい	重傷：紫藤・大輔（機甲武術師範代・e03653）  死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年8月17日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 7／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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