クヴァシルの孤独

作者:秋月きり

 響く鼾の音と漂う酸っぱい臭いに、ナギサは嫌悪に顔を歪めた。
 熊本駅に近い繁華街も朝になれば静けさを取り戻す。最近では余り見なくなった筈の酔漢はしかし、根絶した訳では無さそうだ。
 駅までのショートカットにこの路地裏を通るのだが、道端にも関わらずゴミ箱を抱いて眠る姿を目にしてしまうと、沸き上る感情を押さえる事が出来なかった。――気持ち悪い。
「大人って……」
 ナギサだって高校二年生だ。大人が日々が辛いのも、その逃避にお酒を飲む事も判らない年齢ではない。
 それでも、自分もそんな大人になってしまうのかと思うと、やるせない。
 その瞬間だった。
 とん、と軽い衝撃が胸に走る。見下ろしたそこには、鍵が生えていた。背中から胸。出血も痛みもない。しかし、巨大な鍵が自分の心臓を貫いていた。
「あはは、私のモザイクは晴れないけど、あなたの『嫌悪』する気持ちもわからなくはないな」
 その声――第六の魔女・ステュムパロスの嬌笑に疑問を抱く暇はなく、ナギサの意識は遠退いて行く。
 自身から零れる靄が人間の形を――ネクタイを額に巻き、酒瓶を片手に握る四十半ばのサラリーマンの姿に転じていく様子をを見なかったのは、彼女にとってはむしろ、幸いだったのかも知れない。

「みんなは苦手なものとかあったりする?」
 ヘリポートに集ったケルベロスを前に、リーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)が切り出した説明はそんな問いかけから始まっていた。
「ゴキブリとかムカデとかの虫、イソギンチャクの様な触手、あと、脂ぎっしゅな男性が苦手、って人もいるかな」
 その苦手な物への『嫌悪』を奪うドリームイーターが現れた様なのだ。
 『嫌悪』を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているのだが、奪われた『嫌悪』を元に生み出されたドリームイーターが残されている。それを放置してしまえば、何らかの事件を起こしてしまう事は必至だろう。
「だから、その前にドリームイーターを撃破して欲しいの」
 なお、ドリームイーターさえ倒せれば、『嫌悪』を奪われた被害者も目を覚ます筈なので、それは安心して欲しいと彼女は告げる。
「ドリームイーターが出現するのは熊本駅近くの繁華街。と言っても朝の事だから、周囲のお店は閉まっているし、駅の利用者が通る可能性がある程度で、人通りは多くないわ」
 とは言え、人通りが全くゼロと言うわけでは無さそうなので、相応の対応が必要そうだ。
「それで、彼女の『嫌悪』は……酔っぱらいなの」
 自身も酒好きを公言するヘリオライダーの視線は少し逸れていた。いや、私はそこまで酷い酔い方しないけど、と言い訳の様な文言を口にした後、説明を続ける。
「だから、生まれたドリームイーターは酔っぱらいに対する偏見が懲り堪った感じの怪物になっちゃってる。外見は酔った四十半ばの男性。その足取りは千鳥足なんだけど、捕捉が困難だし、鍵の一撃は皆の心を深く抉ってくるわ。お酒を飲んで自己回復も行うのも厄介ね。……それと、えーっと」
 一瞬言い淀んだ後、ええいと説明を続ける。
「ブレスの様な攻撃もしてくる」
 その光景を想像してしまったのだろう。うわ、と誰かが口にした。
 ケルベロス達に広がったざわめきを押さえる為か、リーシャはこほんと空咳を行った。
「気持ち悪いと思うのは誰にもあると思う。でも、それを奪ってドリームイーターを生み出す所業も、ドリームイーターそのものを放置しておくことも出来ない。だから、何とか倒して欲しいの」
 みんなにならそれが出来ると信じていると、リーシャはケルベロス達を送り出す。
「それじゃあ、いってらっしゃい」


参加者
五継・うつぎ(ブランクガール・e00485)
四辻・樒(黒の背反・e03880)
月篠・灯音(犬好きの新妻・e04557)
エゼルフィ・セールヴァンツ(さまようメイドール・e07160)
佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003)
ハル・エーヴィヒカイト(ブレードライザー・e11231)
レーナ・ヘンリクセン(シャドウエルフの野良巫女・e20099)
レテ・ナイアド(善悪の彼岸・e26787)

■リプレイ

●午前六時の酔っぱらい
 夏も半ばを過ぎた葉月の頃。時計が指し示す時刻は午前六時。だが、この時間ともなれば周囲には陽が差し込み、ケルベロス達の降り立った繁華街は既に朝の景色へと様変わりしていた。
 通りの殆どの店がシャッターを閉め、眠りについている光景にレーナ・ヘンリクセン(シャドウエルフの野良巫女・e20099)は「この時間やもんね」と関西弁混じりの感想を述べる。
「にしても、耳の痛い話やわ」
 酔っぱらいに対する嫌悪がドリームイーターと化した。その事は酒飲みである彼女にとっても他人事に思えなかった。
(「でも、人に迷惑を掛けるんは酒飲みとしてアカン。それが最低限のマナーやな」)
 うんうんと頷く彼女の隣で、佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003)もまた、同じ様な表情を浮かべていた。
「オッサンも飲むのは好きやけど、周りに迷惑はかけたないなぁ。嗜む程度に飲むのが酒を楽しむ秘訣やろ?」
 飲み方を弁えている、との大人な発言に仲間からの賞賛の視線は熱い。その隣に立つテレビウム、テレ坊のモニターには何故か冷や汗混じりの顔文字が映っていたが、それに気付く者はいなかった。
「匙加減の見極めも羽目が外れるとつい見失ってしまう。……大人の言い訳ですけど」
 レテ・ナイアド(善悪の彼岸・e26787)の言葉も重く響く。この場に集った八人のケルベロスの中で、飲酒が可能な三者は、それぞれ酒飲みに思うところがある様子だった。
「酔った勢い、と言うのはなかなかのものですから、気を引き締めていかないといけませんね。あの時は本当に大変な事に……じゃありませんでしたっ」
 自身の言葉に何故か頬を染めるエゼルフィ・セールヴァンツ(さまようメイドール・e07160)である。見た目ティーンズの彼女に酔いの経験は無い筈だが、身近な人間が酔った時の記憶なのだろう。軽くトリップする様子は別の意味で心配を誘う。
「酔っぱらいは嫌なのだ」
「大丈夫だ。灯。こんな清々しい朝に不釣り合いな泥酔者等、早々に退場して貰おう」
 敵に対する嫌悪感を露わにする月篠・灯音(犬好きの新妻・e04557)に向けられた四辻・樒(黒の背反・e03880)の言葉は力強い物だった。
 そんな微笑ましい光景も、五継・うつぎ(ブランクガール・e00485)の発した声により緊張感漂う物に置き換えられる。彼女の頭に留められたナースキャップは違和感を醸し出すが、幸い、そのツッコミは誰からも発せられなかった。
「――いました」
 レプリカントの目が捕らえたのは、千鳥足で歩く怪人の姿だった。未だ視認距離の為、攻撃を仕掛ける事は出来ないが、顔全体を覆っているモザイクはハッキリと確認出来る。それは怪人がドリームイーターである動かぬ証拠だった。
「大騒ぎにならない内に止めましょう」
「了解だ。境界形成――状況を開始する」
 彼女の言葉に呼応する様に、ハル・エーヴィヒカイト(ブレードライザー・e11231)が静かな声と共に、殺界形成を生み出す。それは繁華街の一円を覆っていた。

●アルコールラプソディ
 千鳥足で歩くドリームイーターはケルベロス達の目の前で、ごんと鈍い音を響かせる。ふらふらと歩いていた彼は、道端に立つ電柱にぶつかったのだ。
「紛れもなく酔っぱらいだな」
「酔っぱらいやわ」
「帰り道、寿司折片手にふらついていそうな見た目ですね」
 照彦、レーナ、レテが三者三様の言葉を発する。あんなにふらふらと歩いていたら電柱にぶつかっても仕方ないと頷く彼らの前で、ドリームイーターの奇行は続く。
 電柱を指差し、激しく上下に振っているのだ。モザイクで覆われた顔では何を行っているか想像するしかなかったが。
「多分、アレ、説教していますね」
「説教上戸なのか」
「いえ、一通り酔っぱらいの行動をするとのお話でしたし」
 うつぎの分析に、ハルが呆れ顔を浮かべ、何故かドリームイーターのフォローにエゼルフィが入ってしまう。
 一通り説教を終え満足したのか、ドリームイーターが懐から何かを取り出し、モザイクに覆われた口元に運ぶ。一口煽った後、満足そうに笑みを浮かべる様子――勿論、モザイクによって笑顔は見えないのだが、その動作に確信する――はとても幸せそうだった。
「今、懐から一升瓶取り出した」
「本当にザ・酔っぱらいって感じですね」
「あれ、やっぱ九州やし、焼酎やろか?」
 スーツ姿ではあるが着崩し、身なりはぼさぼさ。ジャケットを小脇に抱え、ネクタイは額に締めている。極めつけに酒瓶の携帯であった。ナギサと言う少女の抱く酔っぱらいへの嫌悪は、むしろ偏見にすら思える。
「酔っ払い嫌いっ嫌い嫌いきらいきらいきらぁぃーなのだぁー!!」
 ケルベロス側の爆発も早かった。嫌悪感を催す外見に我慢出来なくなった灯音は樒の背中から悲鳴じみた声を上げると、形成した殺神カプセルを投げ付ける。
 すこーんと軽快な音が辺りに響き渡った。不意打ち気味の攻撃が直撃したドリームイーターは額を押さえ、呻きながらごろごろと地面を転がっていた。
「――酒に飲まれるから、周りが見えなくなる」
 恋人に続いた樒のケルベロスチェインは転がるドリームイーターの肢体に絡みつく。捕縛し、無理矢理立ち上がらせようとしたその瞬間。
 蛙が潰れた様な鈍い音が響いた。
 発した主はドリームイーター。そして周囲に訪れたのは劇的な変化だった。
 彼の口から吹きだしたブレスが捕縛した樒を始め、照彦、テレ坊、ハルやレテのサーヴァント、ウイングキャットのせんせいに降り注いだのだ。
「あ……」
 目の前を通過したモザイク塗れの吐瀉物――否、ブレスを見送ったうつぎは額に汗を浮かべ、そしてモザイク塗れとなった仲間達に視線を送る。援護に徹する決意の元、ナースキャップまで用意した彼女は彼らに駆け寄り、汚れを拭い去って上げたい衝動に駆られる。しかし、それを意志の力で無理矢理押さえ込みながら、オウガ粒子を放出した。
 決してモザイクブレス塗れになった仲間に近付くのを躊躇ったとか、そんな事は一切無い。無いのだ。
「情報通り――と言う事か」
 ブレスに汚れた自身を顧みず、駆け抜けるハルの斬撃は照彦の弓撃の援護もあって、ドリームイーターの身体を衣服ごと切り裂く。切り裂かれたシャツから覗く肌も、零れる血液も全て、モザイクに覆われていた。
「せんせい。回復を!」
 うつぎ同様、オウガ粒子を放出しながらレテが自身のサーヴァントに声を向けた。同時に吹く清浄な風が仲間達の身体を撫で、その身体からモザイク痕を消し去っていく。
「やっぱこのブレスは最低やわ!」
 酔っぱらいの嫌われる行動の内、おそらく上位に来ると思われる行為。それを模した攻撃は『嫌悪』のドリームイーターとして当を得た攻撃なのだろう。正しい在り方だとは思うが、やられた方は堪った物じゃない。御業を生み出し、ドリームイーターを束縛するレーナは整った表情を歪める。
「酔っぱらいさんには早く、『一休み』して頂かないといけませんね!」
 自身に分身の影を纏わせながら、エゼルフィが決意の言葉を口にした。

●酩酊は何時か醒めて
 戦いは悲惨の一言だった。
 ブレスに晒された仲間の内、最も体力の劣るレーナをその魔手から庇った照彦は、地震に叩き付けられた衝撃と臭気に崩れ落ちそうになる。
「テレ坊、頑張れるな!」
 それを堪え、自身のサーヴァントに叱咤激励を行うと、何とか微笑みを形成する。浮かんだ微笑みは無理矢理作り上げたものだったが、自身を奮い立たせるのにそれで充分だった。
 ドリームイーターの振るう鍵の一撃、そしてブレスは、ダメージを受けた対象の精神的外傷を刺激する。それは事前の情報の通りだった。おそらく酔っぱらいへの嫌悪が、そんな能力を彼に与えたのだろう。
(「なんやかんやで他人に飲ませたがるのも酔っぱらいの特徴やしな……」)
 ブレスが巻き起こす酩酊感を堪えながら、内心呟く。
 彼が堪えているのは、身体に駆け上がってくる吐き気だ。何とか嘔吐は免れているが、その為、額に脂汗が浮かんでいる。
 見れば同じブレスを受けた仲間達の言動も、酔っぱらいに近いそれに変わっていた。
 灯音は泣きながら樒にしがみつき、エゼルフィに至っては、
「ご、ご主人様?! 皆様が見ている前でっ!」
 艶っぽい声を上げながら地面に倒れ、悶えている。刺激された精神的外傷がどんな夢を彼女に見せているのか不明だが、なんだか幸せそうに見えなくもない。
「私はここにいる。何も怖いものなどない」
「~♪」
 そしてそんな灯音を樒のオーラが包み込み、照彦とエゼルフィが受けたダメージをレテの歌声が癒していく。正気に戻ったエゼルフィが頬を朱に染めていたが、それを追求する暇はない。
 回復の間隙を縫う様に放たれたブレスが、回復とサポートを担ううつぎとレテに叩き付けられたのだ。
「「……」」
 レプリカントの少女とヴァルキュリアの青年が何を精神的外傷と思うのかは不明だったが、灯音の召喚した薬液の雨が彼らのモザイク汚れを洗い流すまでの間、見開かれた二人の目は悲痛な程の色合いに染まっていた。
「大丈夫なん?」
 見えない機雷を散布するレーナの問いに、無表情の少女と感情の起伏に乏しい青年の二人は涙目ながらにこくりと頷く。
「ほな、もうちょっとガンバロな」
 機雷を千鳥足で回避するドリームイーターを、肉薄したハルが袈裟懸けに切り裂いた。
「確かに掴み所のない動きだった。だが、そろそろ決着を付けるとしよう」
 幾合にも渡り、ケルベロスとドリームイーターは切り結んでいた。モザイクブレスや鍵の一撃で無数の傷を負ったケルベロス同様、ドリームイーターも無傷と言う訳ではない。その身体を覆うモザイクは生来の物だけではなく、傷を補修した分も含まれていた。
 故に、ハルは宣言する。己から沸き立つ殺気が覆う結界――殺界に自身の心を投影する事で生み出された幾多の刃は、千鳥足に擬態をしたデウスエクスの翻弄を許しはしない、と。
「君がその動きで私を翻弄すると言うのなら、私はその全ての像を断ち切るまで。無限無窮の刃にて果てよ、久遠の刹那ッ!!」
 諸手に握られた絶望を打ち砕く刃がドリームイーターの身体を切り裂き、その身を削り取っていく。回避の為、身を捩るドリームイーターはしかし、領域内に召喚された無数の刃に切り刻まれ、回避行動そのものを封じられる。
「よくもあのような悪夢を見せてくれたな?」
 追撃の刃は樒の構えた惨殺ナイフだった。愛する者を守れない悪夢を見せつけられた彼女の怒りが、ドリームイーターに放たれる。
「ただ、全てを切り裂くのみ」
 辺りに立ちこめた白い霧が彼らを覆う。その中で光が一閃した。
 切り裂く事だけを追求した銀光は狙い違わず、デウスエクスの喉を真一文字に切り裂いていた。
 悲鳴は上がらなかった。ただ、よろめくドリームイーターは、それでも何とか自身を支えようと、壁に手を伸ばす。
「きゃっ」
 むにゅりと柔らかい音が響いた――気がした。上がった悲鳴はエゼルフィのもの。壁に突くはずだったドリームイーターの掌は、メイド服に包まれた膨らみを握りしめていたのだった。
 二、三度、押し潰す様に動いた掌は、突如飛来したナイフによって腕ごと弾き飛ばされる。
「流石にご主人様以外の方からのお戯れはお断りしておりますので、『お引き取り』願いますね……!」
 丁寧な口調の中に、目に見える程の怒りが混じっていた。怯むドリームイーターに、先程と同じナイフが突き刺さる。しかし、今度は一本だけではなく、無数。エゼルフィが展開した無数のポットから放たれたナイフが、ドリームイーターに牙を剥いたのだ。
「今や!」
「ほな、行きましょうか!」
 ケルベロス達の放つ斬撃によってだろう。足取りが重くなったドリームイーターに攻撃が殺到する。照彦の放つオーラの弾丸、テレ坊からの閃光、そしてレーナの召喚した幻影竜による息吹が、ドリームイーターの身体を吹き飛ばし、壁に叩き付ける。
「悔い改めよ。謝肉祭を終えたのならば」
 レテの詠唱は強慾のカーニヴァルに終焉を告げるもの。告悔を求めるグラビティが、ドリームイーターの身体の中で弾け、その力を縛り付ける。
 その最期は誰の目にも明らかだった。ケルベロス達による一押しが、彼の心臓に『死』を叩き込む事は時間の問題だった。
 だから、うつぎは動いた。
 それは同情であり、憐憫であった。自我が芽生えたばかり――レプリカントとしての生を歩み始めたばかりの彼女は、一歩間違えれば自身も同じだったかも知れないと、優しくドリームイーターを抱きしめる。
「貴方も好んで嫌われる存在になりたかった訳ではないと思います。だからもう」
 ――お休みなさい。
 優しい言葉は引き金と共に。無数の銃声が響き渡る。
 うつぎの持つ弾丸全てを零距離で受けたドリームイーターが最期に触れたのは、少女の優しさか、それとも現実と言う過酷な痛みか。
 ボロキレの様に舞い、空中に霧散していくその表情は、何も語ってはいなかった。

●クヴァシルに捧ぐ孤独
「ナギサさんも無事です」
 街にヒールを施した後、レテが嬉しそうな声を上げる。路地裏に倒れていた彼女を発見した彼は、仲間達の元に運んで来たのだ。今はまだ、気絶しているが呼吸も元気そうであり、一安心、と言った様相だった。
「どの様に説明しましょうか?」
 ナースキャップをふりふりと揺らしながらのうつぎの言葉に、レテもうーんと悩む。ドリームイーター云々の解説をしても混乱させるだけと思えた。
「ちゃんと説明しよか。嘘言っても仕方ないやろ?」
「とは言え、ドリームイーター誕生云々はぼかした方が……」
 照彦とエゼルフィもその命題に頭を悩ませていた。どちらとも無く、ドリームイーター撃破より難題だ、と呟きが零れる。
「ところで皆。匂いは大丈夫か?」
 消臭スプレーを使い切る勢いで噴出させたハルが問う。確かに鼻につく酸っぱい臭気は早いところどうにかしたい案件であった。
「御・神・酒、げーっと!」
 その傍らでレーナが嬉しそうな声を上げる。見れば、芋焼酎に一升瓶を抱え、満面の笑みを浮かべていた。あの様な敵と戦った後と言うのに、酒に執着する姿は酒飲みの鑑だった。
「色々な意味で大変な戦闘だったな。気持ちを切り替えて、帰ったら散歩でもしようか?」
「うん」
 その中で、樒と灯音のカップルの会話は華が咲いた様だった。その華が百合であったが、特別、珍しい事でもない。
 仲間達の喧噪の後、やがて聞こえた「うーん」と言う少女の声に、レテはさて、と再度のヒールの用意をする。
 深い眠りから無理矢理覚醒する事となった少女を襲うのは、おそらく酩酊感にも似た気持ち悪い眠気だろう。少しでもそのケアが出来れば、と柔らかい微笑みを浮かべて。

作者:秋月きり 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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