黙示録騎蝗~オーバーロード・ランペイジ

作者:鹿崎シーカー

「GRRAAAAAAAAHHHHHHHH!」
 獣めいた絶叫が木々を揺らす。激しい地鳴りに小鳥たちが飛び去ってく中、イェフーダーは満足げにうなづいた。
「クククッ……これはまたイキのいい……」
「GRAAAAAH! モット、ダッ! モット、ヨコセッ!」
 イェフーダーの部下に組み伏せられた、大柄なローカスト荒れ狂う。必死に力を込めながら、早くしてくれと訴える部下たちの視線に、イェフーダーは余裕の態度で言い放った。
「すまんな、それ以上はやれん。我らとて枯渇寸前。お前だけに多くやるのは無理なのだ」
「GRAAAAAAAHッ!」
 飢えに襲われ、ますます暴れるローカスト。部下が危うく落とされかける。アゴをガチガチ鳴らすローカストに、冷徹な言葉を投げかける。
「だが、自分で取ってくる分には問題ない。幸い、この山のふもとに地球人共の巣があるのだ。好きなだけ狩るといい」
「GRRRRR……GRAAAAAAAAAAAHHHHHH!」
「なっ……こ、こいつ……グワーッ!」
 大柄なローカストが吠え、組みつく者を吹き飛ばす。周囲の木々に叩きつけられる部下を横目に、イェフーダーは森を拓きながら走る背を見送った。
「……単細胞は扱いやすくて実にいい。せいぜい暴れて、アポロン様の供物となれ。クククククク……」
 不気味な含み笑いが、森の深くをざわめかせる。生木を粉砕する音は、徐々に遠く離れていった。


「不退転の次は諜報部隊……厄介だねえ」
「ちょうほう?」
 小首を傾げるミッシェル・シュバルツに、跳鹿・穫は説明を始めた。
 ローカスト率いる太陽神アポロンが、新たな作戦をくわだてているとの情報が入った。
 不退転侵略部隊を退けられたことでグラビティ・チェインを得られなかった彼は、新たな収奪作戦を画策しているらしい。
 その作戦とは、コギトエルゴスム化しているローカストに、最小限のグラビティ・チェインを与えて蘇生し、人間を襲わせるというものだ。
 蘇生対象のローカストは、戦闘力が高い反面、グラビティ・チェインの消費が激しいため封印された個体で、最小限のグラビティ・チェインしか持たないといっても、侮れない戦闘力を持つ。
 加えて、グラビティ・チェイン枯渇による飢餓感から、殺戮しか考えられなくなっている為、反逆の心配も無い上、仮に撃破されても、損害を最小限に抑えられるという、効率的だが非道な作戦だ。
 この作戦の指揮をとるのは、特殊諜報部族『ストリックラー・キラー』率いる『イェフーダー』というローカストらしい。彼とは、いずれ直接対決するだろうが、今は蘇生されたローカストを倒すことに専念してほしい。
 復活したローカストは、人気のない森林を伝って石川県のとある市街地に現れる。外見はサシハリアリ、別名パラポネラと呼ばれるアリに似た姿をしており、2メートル以上ある巨体と四本の剛腕、さらには毒を飛ばして戦う強敵だ。仲間はおらず、単独で出撃しているが、十分注意してほしい。
 市街地には当然だが大勢の人がいる。一般人がローカストに襲われればひとたまりもないので、避難も必要になるだろう。
「オウガメタルのときといい、仲間を使い捨てるやり方を許しちゃだめだよ。絶対阻止しなくちゃ!」
「うん……!」


参加者
久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)
セレスティン・ウィンディア(墓場のヘカテ・e00184)
メラン・ナツバヤシ(ハニカムシンドローム・e00271)
加賀・マキナ(自由人・e00837)
クリム・スフィアード(水天の幻槍・e01189)
ジド・ケルン(レプリカントの鎧装騎兵・e03409)
ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)

■リプレイ

●飢えたパラポネラ
 石川県、某市街地。山と隣接した地区で、人々は足を止めていた。
 きょろきょろと周囲を見渡す学生、OL、ご老人。彼らは皆一様に、足元の異変を感じていた。
「……なんの音?」
「土砂崩れ、とかじゃないよね。雨降ってないし」
 響く地鳴りめいた謎の音。遠くでは、バキバキと生木が砕ける音もする。地震か? それにしては警報がない。
「なんだ?」
 見上げるのは山の方。コンクリートの斜面と、フェンスの向こう側。かすかに聞こえるうなり声。嫌な予感が風のように去来する。直後!
 CRAAASH! 山と街を隔てる緑のフェンスが吹き飛んだ。ボーリングのピンめいて跳ね跳ぶ木々とともに、地面に巨大な何かが着地する。赤みがかった黒い巨体。ガントレットをはめた四つ腕。目を血走らせた頭部は、アリのもの。ガチガチと鳴る牙からよだれをしたたらせ、パラポネラは獣めいて咆哮した!
「GRAAAAAAAAAAAGHッ!」
 大気を震わす鬼気迫る怒声。呆然とする人々を置き去りに、アリは拳を振りかぶる。事態を飲み込めず、ぽかんと口を開ける少女に向かって!
 SMASH! 地面が爆ぜた! 重い拳はアスファルトをあっさり破壊し、灰色の煙を巻き上げる。無力な少女を挽き肉に変えたパラポネラは、腕を引き、頭をおさえ低くうめいた。飢餓感が引かない!
「ふー……間に合った」
 アリの目が、声の方を見た。輝く銀の騎士鎧。エディス・ポランスキー(銀鎖・e19178)は広げた翼で少女を包み立ち上がる。地面の破壊痕には、血の一滴もない。代わりにケタケタとあざ笑う黒い染み!
「GRAAAGHッ!」
 獲物を奪われたアリは吠え、エディスめがけて飛びかかる。その目に刺さる一本の杖!
「ARRRRRRRRGHッ!?」
 目を抑え悶絶するアリ。懐に潜ったメラン・ナツバヤシ(ハニカムシンドローム・e00271)は落ちてきた杖をキャッチし、鋭く突きこむ! 絶叫に重なる激しい雷鳴! それらを切り裂きメランの声が周囲に響く。
「何してるの! 早く逃げてっ! 航!?」
「任せて」
 口早に返事し、久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)は手近な老人を背負い上げる。武装変形したエディスと素早く目配せ。
「皆さんッ! この一帯は危険です! 俺の仲間が足止めしてる内に向こうへ! 急いでッ!」
「こっちよッ!」
 二人に促され、人々は慌てて動き出す。電気を流し込まれたアリは、大きく腕を振り上げた。
「メラン、下がって! 護衛を!」
「わかってるわよっ! ロキッ! 後はお願いね!」
 クリム・スフィアード(水天の幻槍・e01189)に従い、メランは杖を放り上げ後退。入れ替わりでボクスドラゴンがブレスを放ち、強制的にノックバック。空中で杖を取った加賀・マキナ(自由人・e00837)は、急降下の勢いを乗せてアリの頭を殴りつけた。
「GRAAAAGH!」
「うおっ、おう!?」
 闇雲に振り回された手がマキナをかすめる。慌てて上空に退避したスキに、パラポネラは踏み込んだ。狙いは当然、背中を向けた一般人!
「やらせはせんッ! こちらを見ろ、ローカストッ!」
「GLLッ!」
 BRRRRRRR! 真横から、ジド・ケルン(レプリカントの鎧装騎兵・e03409)が弾を浴びせる。炎の弾幕がスライドし、パラポネラの眼前に展開。なおもかき分けて進もうとするアリの体をセレスティン・ウィンディア(墓場のヘカテ・e00184)の殺気が包む。制圧射撃を繰り返し、セレスティンは毅然として言い放つ。
「グラビティ・チェインが欲しければ、私たちを狙いなさい! それ以上は行かせないわ!」
 足を止められ、不服げにうめくパラポネラ。食い込む弾丸の痛みも全て、飢えが削り取っていく。BLAM! BLAM! 銃声、背中に泥めいたシミ。甲殻に付着したそれはぱっくりと割れ、飢餓に苦しむアリをあざ笑う。
「さて、何とかしないと大変なことになりますね。ずいぶんな暴れようです」
 パラポネラの背後に立ったジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)はリロードしつつつぶやいた。
「空腹のところすみませんが、彼らはエサではありません。私たちが相手になります……!」
 飢餓、弾幕、笑い声。アリは牙をガチガチ鳴らすと、それらを吹き飛ばして咆哮した。
「GRRRRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAGHッ!」
 体をひねって回転し、振り向きざまに拳を放つ。エンジンめいた音を立てパンチが加速! 飛び退いたジュリアスの足元を破壊!
「そうそう、こっちを狙ってきなさい……!」
「すまないジュリアスッ! 少し頼むぞ! クリム!」
「大丈夫! 周りには誰もいない!」
 杖で円を描きつつ、クリムはジドに叫び返した。ジドは即座にドローンを展開。テープをくっつけたドローンは住宅地を飛び交い、戦場をたちまち切り離す。テープのない一機がアリに接近。ジュリアスの弾を受けて笑い出す!
「ヘハハハハハ! ヒャハハハハハアバッ!」
「GRRRRRRR!」
 パラポネラの裏拳に撃ち抜かれ、ドローンが撃墜! 半身で振り返ったアリの胸に、マキナは高速で飛び込んだ!
「仲間はずれはずるいって! ボクも混ぜてよッ!」
 ジャキッ! 仕込み杖の先端がL字に変形! フルスイングで先を撃ち込み、殻を引き裂く!
「ARRRRGH!」
「おおっと!」
 悲鳴を上げ、パラポネラが右フック! 顔をかすめる巨大拳を、マキナは海老反りになって回避。空ぶりのスキに、傷に狙いを定めるセレスティン!
「マキナさん、もう少し上に!」
 BLAM! 言うが早いかライフル発砲! 銃弾が子竜に変化、ブレスを吐いて傷口を焼く! そしてジュリアスは、無防備な背中を斬りつける! 広がる染みと嘲笑の声。
「ARRRRRRRRRRGHッ!」
 雄叫びと共に口を開くパラポネラ。発射した毒針はマキナの肩に被弾しセレスティンの頬をかすめる。残った片手でジュリアスを攻撃。連続する攻撃の中、クリムは魔法陣に杖を立てた。
「キャスト。豊饒なる大地、揺るがぬ大樹。幻となりて、輝きを」
 クリムの背後に現れる、ガラスめいた巨大な樹木。枝葉が透明な光を注ぎ、傷を瞬時に癒していく。KBAM! アリの顔面にジドが砲撃!
「大丈夫!?」
「ええ、なんとか。しかしさて、どこまで耐えれるかですね……おっと!」
 再び裏拳! バックステップを踏むジュリアス! 向き直ったアリはさらに剛腕を振りかぶる! セレスティンは銃をリロード!
「冥府に住まう蒼き黒き炎の精霊、我が呼び声に応えよ。我が弾となり敵を打ち抜け!」
「GRAAAAAAAGHッ!」
 ガントレットが火を放つ! ロケットめいて発射される拳が炎上! 青黒い炎に構わず撃ち込まれるストレート! 砕けたナイフが宙を舞う!
「あ、やばいかも……っ!」
 マキナは杖の柄をひねると、杖全体からトゲが飛び出す。パラポネラは突進の構えを取る彼女をにらんだ。
「SHHHHHッ!」
「ちょっ!?」
 横殴りの雨めいて、多数の毒針が噴出する。マキナは杖を回してこれを防御。同時に握られる二本の左手に、ジドの弾丸が襲いかかる。ガントレットの装飾が飛ぶ!
「セレスティンさん! 奴の気を逸らしてください!」
「ええ。ジドさん、左目を!」
「了解したッ!」
 BRRRRRRR! マズルフラッシュが連続で閃き、パラポネラの頭を狙う。追撃を放つ直前に、子竜がドーム状の目に食らいつく! 火炎放射! 毒針が止む!
「ぃよっし! きたこれっ!」
 回転の勢いを乗せ、マキナは杖を撃ちこんだ。絶叫するアリの脇を走り抜け、クリムはジュリアスの元へ。
「ジュリアス……!」
「少し油断しましたか……まさかこれほどとは」
 クリムの杖が、ボロ雑巾のようになった腕に触れる。電気ショックが砕けた骨を修復していく。
 パラポネラは幻影の子竜を振り払い、多量の針を撒き散らす。小刻みなタックルで方向をずらすロキを捕らえる。KBAM! KBAM! 砲撃が着弾し爆発するが、気にも留めない!
「GLLLL…………GRRRAAAAAAAAAAAAAAGHッ!」
 手にしたロキを叩きつけ、パラポネラは体を縮めた。折りたたまれる四本の腕。焼け焦げた目は銃撃を繰り返すセレスティンをにらみつけた。
「いかせないよッ!」
 L字になった杖の先をアリのアゴに突きこむマキナ。無理矢理上向かされたアリは暴れ、二本の腕でマキナをつかんで投げつける! 四つ腕がブースト! とっさに展開されたドローンを全て突き破り、ジドに拳をたたき込んだ!
「GRAAAAAAGHッ!」
「が、はッ……!」
 SMAAASH! 胴に食い込む四連拳! 激しくうなるガントレットはその場で勢いを増し、ピンボールめいて吹き飛ばす! セレスティンは飛ぶジドめがけて引き金を引く。銃弾は不思議に輝く木の葉に変じ、クッションとなって受け止めた。パラポネラの背中で再び嘲笑!
「さて、どこまで耐えれるかですね……!」
「犠牲は出させないよ、絶対にッ!」
 血に染まった手を確かめながら、ジュリアスは銃に手を添える。急速旋回アリに、クリムは雷を浴びせかける! だが、止まらない!
「くっ、止まれ……!」
 電圧を上げるクリムの顔に焦りがにじむ。怒声とともに、アリは二本の腕を引き絞る。突進は失速するが止まるに至らず。ガントレットが再びブースト! 速度を上げて襲い来る!
「GRAAAAAAAAAAAAGHッ!」
 電撃を浴びるパラポネラの、丸太の腕がプレス機めいて一気に閉じた! 炸裂するインパクト! 電撃が消え失せ、ぱらぱらと銀粉が落ちた。
「クリスさん……っ!」
「GLLLL……GLLLLL……」
 腕を挟み込んだ体勢で動かないパラポネラ。漏れ聞こえるのはうなり声と、ギチギチという音。アリの腕は閉じ切らず、込められた力で震えている。それらを抑えているのは、ふたりをかばって仁王立ちするエディスの腕だ!
「無事、みたいね!」
「……ええ、おかげさまで」
 二人を背中越しに見返すエディスの、両の拳に血が収束する。新たな腕鎧に包まれた手を握りしめ、エディスは獰猛に笑う。
「待たせたわねッ! 真っ向勝負と行きましょうかッ!」
 アリの拳を振り払い、厚い胸板に拳を突きこむ! 一歩踏み込み、もう一打! パラポネラを弾き飛ばす! 真上では、航が大上段に刀を構える!
「捨て駒にされたのは同情するがな! だからってこっちの犠牲は見過ごせないんだッ!」
 三日月めいた弧を描き、刃が一閃。後頭部から背中までを裂き、返す刀で突きを繰り出す! 稲光を放つ剣が切り傷を開いた!
「ARRRRRRRGHッ!」
 身をよじり、打ち出された裏拳が航を撃つ。毒と唾液したたるアゴが開かれると同時、マキナは杖を投げ槍めいて振りかぶる! 重なる緑の幻影竜!
「やらすもんか! 行けぇぇぇっ!」
 エメラルドの炎をまとい、竜が羽ばたく! 真っ直ぐ飛んだ仕込み杖は狙い違わずアリの口に突き刺さる。突如生える無数のトゲに口内の肉が引き裂かれ、竜の炎が吹き荒れる! 柄尻に巻き付いているのは、メランの鎖だ!
「ロキに……なんてことしてくれたのよぉーッ!」
 紫の子竜を片腕に抱き、メランは鎖を引き寄せる。引きずられてきたアリの首を一周し、背中を蹴ってさらに引く! 無防備にさらされた上体に、火の弾丸が突き刺さる! BRRRRR! 魔法の葉に支えられたジドは弾ける炎を厳しく見据える。
「全く、恐ろしい力だ。中々効いたぞ、お前の拳は! だが、まだ負けられんッ!」
 BRRRRRRRR! 胸板に食い込む銃弾の嵐! 声なき声を上げて苦しむアリは縛られた首をかきむしり、背中のメランに手を伸ばす! 暴れ馬の騎手めいて振り回されるメランは鎖を強く握りしめるが、ついに足が蟻の背から離れた!
「きゃっ……!」
「メランさん! 危ない!」
 復帰した航が鎖を切断。フレンドリーファイアを恐れ、ジドの銃撃が一旦止まったスキに開いた腕で航を殴る! 直後、身を低くしたアリの頭をエディスが蹴りで地面に埋める。GLOOP! 続けざまに飛ぶ赤黒の液体!
「理性もなく、矜持もないなら! せめて戦士として果てろッ!」
 黒い鎌がギラリと輝く! はいつくばった頭部に一撃が降るその寸前!
 CRAAASH! 地面が爆ぜた! アリが飛ぶ!
「冥府に住まう蒼き黒き炎の精霊、我が呼び声に応えよ。我が弾となり敵を打ち抜け!」
 宙のアリが青黒く発火! 鬼火に焼かれるパラポネラに、セレスティンは冷たく言い放つ。
「逃げても無駄よ。私の弾丸は、お前を冥府の底へ落としていくわ」
 ゴウゴウと燃え上がったまま、アリは弧を描いて落下する。落下地点には……ジュリアス!
「GGGGGGGGG……!」
 BOMB! ガントレットが炸裂し、パラポネラは方向転換。右腕二本を握りしめ、エンジンを吹かす。ジドはガントレットを狙って発砲! 火花弾け、しかし壊れず! 無事な片目に、深淵めいた闇が浮かんだ。SMASH!
「ごふっ!」
 二重拳打に道路が沈む! 液体をたぐってエディスが跳躍! ダイブの勢いを乗せて右パウンド! 迎撃のパンチと激突し、血潮を噴くも、構わず左ストレート! 血みどろの殴り合いの傍らで、クリムはセレスティンに駆け寄った。
「セレスティンさん……連携、行けますか」
「ええ、もちろん」
 ライフルのバレルにロッドの柄尻が添えられる。極光めいて広がる魔法陣。銃口を雷がちろちろ舐める。
「フェイフュー、ソウイル、ベルカナ、イングワズ。豊饒なる大地。揺るがぬ大樹。幻となりて、輝きを此処へッ!」
 BLAM! 魔法陣が一転に凝集すると同時、引き金が引かれる。戦場の中空で広がる透明な世界の樹。その根元から、蛇に似た物体が産声を上げる! 漆黒の雷で姿を成した、竜の幻影!
『GYAAAAAAッ!』
 暖かな光が流星群のように降り注ぐ中、幻影はエディスと殴り合うアリに肉迫! 焼けた目を食い破り、巨体を貫く! 光による再生と電撃による負傷を物ともせず、エディスは右の牙を撃ち抜いた! ちぎれ飛ぶ!
「GGGGGGッ!」
 緑の血を振りまきながら、パラポネラは再び四つ腕を構える。エンジンめいて震えるガントレット。その排気口に、淡い青のレーザービーム! 背後の、クレーターからだ!
「ははは……さすがに何発も貰うと、きついですねえ……後はお願いします」
 BOOOM! ガントレットが暴発破壊! 推進力を失った拳をやすやすと避け、アッパーカットがめりこんだ! 垂直になった杖に飛びつくマキナ!
「悪いけどさ、そろそろこれ返してもらうよッ!」
 柄をつかみ、一本背負いの要領で投げる! 三日月型に振り回されたアリの口が、トゲが引っ込んだ杖と口内の血を同時に吐きだす! 再び吠えるアリの背後、メランの影が不気味にうごめく。
「そうだ、忘れてたわ。この子も……お腹減ってるのよねえッ!」
『GRRRRRRR!』
 漆黒の影が姿を変える。尖った耳に野獣の眼。大口を開けた影狼は、アリを地面にたたきつけた。
「GRAAAAGHッ!」
『GRRRRRRRッ!』
 アリを下に、狼が食いつく。飢えた獣同士の乱戦の真上、刃を構えるのは航だ!
「こんなんなるまで戦わせるのか。また随分と胸糞悪いやり方を……おう、終わらせる。貫け!」
 煌々と輝く日本刀。紋章の光がひときわ輝き、一条の矢めいて突き抜ける! 光は狼もろとも、アリの胸を貫いた!
「ミーティアファング!」
「GRRRAAAAAAAAGHッ!」
 傷だらけの甲殻が、限界を超えて砕け散る。おびただしい量の血を流し、飢えた獣は動かなくなった。

●反撃準備
「よしっ! こんなものかしら?」
「ああ。すまないなメラン。助かった」
 応急処置をしてもらい、ジドはメランに頭を下げた。当の彼女は、ぷいっとそっぽを向いてしまう。
「本当よ。私たちのいない間に散々やられてくれちゃって。心配……し、心配なんてしてなかったけど、感謝することね」
「う、うむ……?」
 首を傾げるジドの前で、ロキがメランに尻尾制裁。けらけら笑うマキナの隣で、同じく傷の処置を終えたジュリアスが立ち上がった。
「残心……よしっと。さて、行きますか」
「行く? どこに?」
「調査に、です」
 指を差すのは、吹き飛ばされたフェンスの向こう。開拓された獣道。
「無駄に暴れ回ってくれたなら、足跡も完全には消せないでしょう。勿論、途中で消えてはいるでしょうけど……そこまでの色々は、貴重な情報源なのでね」
「ふーん……?」
 一方で、セレスティン、クリムとガレキを撤去していた航が振り返る。
「待ってくれ。僕も手伝う。セレスティンさん、クリム君。悪いんだけど……」
 言葉を遮り、クリムが先んじて頷いた。
「大丈夫。これくらいなら二人でやれる」
「そうね。市民の皆様には、私から説明しておくわ」
 ヒールに専念していた二人に頭を下げる。次に手を挙げたのは、騎士鎧を修復したエディス。
「アタシも行くわ。二人とも結構ボロボロでしょ? アタシも人のこと言えないけど」
「エディスも? んー……じゃあボクもついていこっかなぁ」
 伸びをしつつ、立ち上がるマキナ。街のヒールを残った仲間たちに任せ、四人は獣道へ踏み込んだ。
「さて。蟻地獄に嵌った事を、自覚させてあげましょう」

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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