黙示録騎蝗~飢蛾

作者:流水清風

 日中でも太陽の光が木々の枝葉に遮られ、地面にまばらにしか届かない森の奥。
 だが、意外にもここは人間の住む土地にほど近い位置である。少し移動すれば人が踏み鳴らした道に至り、さらに進めば人里に出る。
 そんな森の中に、人ならざる者が佇んでいた。
 巨大昆虫といった風体の地球外種族、ローカスト。その中でも有力な存在の一体であり、特殊諜報部族『ストリックラー・キラー』を率いるイェフーダーが、手中の宝石にグラビティ・チェインを注ぐ。
 すると、宝石が生き物のように脈動し、その形状を変えていった。無機質な宝石は細胞分裂のように変化を繰り返し、やがて生物になる。
 コギトエルゴスムから復活したのは、体長が人間の数倍ほどもある巨大な蛾であった。 巨大蛾は復活すると同時に人間には聞こえない咆哮を上げ、暴れ始める。が、イェフーダーとその背後に控えていた部下達によって押さえつけられた。
 イェフーダーは意図的に巨大蛾ローカストが復活する最低限のグラビティ・チェインしか与えておらず、巨大蛾ローカストは飢餓に苦しみ暴れているのだった。
「グラビティ・チェインが欲しければ、自分で略奪してくるのだ」
 森を出た先の人里へと、イェフーダーは巨大蛾ローカストを解放して部下と共に追い立てた。
 己の飢えを満たすためのグラビティ・チェインを求め、巨大蛾ローカストは一心不乱に人里を目指し飛び去って行く。
「お前が奪ったグラビティ・チェインは、全て太陽神アポロンに捧げられるだろう」
 間も無く引き起こされるであろう惨事を想像したイェフーダーは、無慈悲な呟きを残し、部下を引き連れその場を後にした。
 
 先のローカスト・ウォーを生き延びたローカストの太陽神アポロンが、新たな行動を起こしたと、ヘリオライダーからケルベロスに報せられた。
 不退転侵略部隊の作戦をケルベロスによって阻まれたために、大量のグラビティ・チェイン獲得は失敗に終わった。
「ローカストが新たに画策した計画は、コギトエルゴスム化しているローカストに最低限のグラビティ・チェインを与えて復活させ、飢えたローカストに人間を襲わせるというものです」
 予知によってその事実を知った静生・久穏は、ケルベロス達に復活し人を襲う巨大蛾ローカストを倒して欲しいと告げる。
 復活させられるローカストは戦闘能力が高いものの、グラビティ・チェインの消費効率が悪いためにコギトエルゴスム化させらていたものだ。ギリギリのグラビティ・チェインで復活したとは言え、その戦力は侮れない。
 このローカストは極限の飢餓状態のために人間を襲ってグラビティ・チェインを収集することのみに専念する。そのため、このような扱いをされていようが反逆される可能性は無い。さらにはケルベロスに討たれようと作戦に用いたグラビティ・チェインは必要最低限であるために損耗は少ない。
「ローカストにとって、とても効率の良い作戦ということです」
 同胞を使い捨てる非道な手法に依って成り立つ手段だが、それを躊躇する理由は無かったのだろう。
「この作戦の実働を担っているのは、特殊諜報部族の『ストリックラー・キラー』を率いるイェフーダーという個体です」
 まずは予知された事件に対処しなければならないが、根本的な解決のためにはいずれはイェフーダーとの直接対決が必要になるだろう。
「巨大蛾ローカストは、森の中から人里に現れます」
 畑作と林業によって生計を立てている村であり、市街地に比べて人口は少ないものの、飢えたローカストにとっては十分な人数だ。
「巨大蛾ローカストは、羽がまるで魔法陣のような異様な模様になっており、この羽から放出される二種類の鱗粉と、口から突き出される針によって戦います」
 今回の事件で対応するのは、この巨大蛾ローカスト一体のみ。幸か不幸か、イェフーダーはこの場に現れることはない。
「敵はグラビティ・チェインが不足している状態ですが、だからこそ油断は禁物です。強力な個体であることを失念せず、撃破してください」
 戦いの場へとケルベロス達を送る久穏は、そう激励しヘリオンを起動させるのだった。


参加者
ミリアム・フォルテ(緋蒼を繰る者・e00108)
槙野・清登(惰眠ライダー・e03074)
アイビー・サオトメ(あなたの・e03636)
ラーヴル・アルージエ(花に嵐の喩もあるさ・e03697)
斎藤・斎(修羅・e04127)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
ラズェ・ストラング(青の迫撃・e25336)
神藤・聖奈(彷徨う術士・e27704)

■リプレイ

●襲来
 山の麓に位置する農村に、風に乗って奇妙な音が聞こえて来る。
 巨大な何かが空気を打つような音と、何らかの声。
 山に住む熊や猪や鹿といったような獣の声とも違う。得体の知れない異常な存在が、苦しみの声を上げているかのようだ。
 2つの怪音は、少しずつ大きくはっきりと聞こえるようになっている。発生源が、この農村に近づいているのだ。
 やがて、それは姿を現した。木々の隙間を縫い、山中から出現したのは人間の数倍にも及ぶ体躯を誇る蛾であった。
 巨大蛾は人里を見回し獲物をその複眼に捉えると、極限の飢えを満たすという欲求に突き動かされ、口内から針を伸ばした。

●防衛
 巨大蛾ローカストが農村へと現れる直前。
 山道に立ち並ぶ木の1つに登り、予知された敵の出現を警戒していたラズェ・ストラング(青の迫撃・e25336)は怪音を発する敵を視認した。
「……やれやれ、虫共の残党かよ」
 敵を待ち構えているという状況のために煙草を吸えずやや不機嫌であったが、すぐにそんなことは振り切って戦闘の構えを取り、仲間達に告げる。
「目視した、来るぞ! 状況開始だ!」
 出現した巨大蛾ローカストは、咆哮を上げ口針を伸ばす。その先には、ケルベロス達の避難勧告を上手く飲み込めずにいた村人が農具を手に右往左往している。
 巨大蛾ローカストの口針は、人間など容易く貫き命を奪うものだ。一般人が耐えられる代物ではない。
「キリノ、その人を守れ!」
 村人が自力で口針を回避することは不可能であった。けれど、間一髪で庇われ難を逃れた。
 村人の代わりに口針を受けたのは、古めかしい学生服のような出で立ちの存在であった。顔を隠し下半身の無いそれは、君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)が使役するビハインド、キリノであった。
「危なイところだっタな。さあ、早ク避難するンだ」
 独特のアクセントで、眸は村人に避難を促した。
 予知を知らされ現場に急行したケルベロス達がそうしようとすれば、半ば強引にこの場から村人達全員を退避させることは可能だっただろう。だが、そうしてしまえば予知とは異なる状況になってしまうという懸念もあった。故に、少人数の村人が残っているのはケルベロス達にとって苦渋の決断であった。
 当然ながら、その少数の村人から犠牲が出るという事態は、どんな手段を用いてでも防ぐという決意があればこそだ。
 もっとも、ケルベロスやそのサーヴァント同志ですら、戦闘中に味方を敵の攻撃から庇うという行為は、狙っても確実に行えるものではない。眸がキリノに予めこうした事態に備えさせていたとは言え、庇うことが出来たのは幸運だったのだ。
「逃げろ!」
 予知が実現した今、村人達には一刻も早くこの場から逃れて貰わなければならない。ミリアム・フォルテ(緋蒼を繰る者・e00108)は、殺気を放ち村人達に退避を促した。
「空腹……。辛いでしょうね」
 村人達を逃がすための防壁となり、巨大蛾ローカストに立ち塞がるケルベロス達。その中で後衛に立ったアイビー・サオトメ(あなたの・e03636)は、一際高く跳び上がり、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを繰り出した。
「けど、ここで止められなかったら、色んな人に被害が出ちゃいます……!」
 サキュバスという種族であるアイビーにとって、飢えの苦しみは決して他人事ではない。しかしその辛さを鑑みようとも、この敵をここで討つという決定を翻すことなどあり得ない。
「どうやらアタシ達を標的にしたようね。後ろは気にせず戦えそうよ」
 巨大蛾ローカストの意識は、明らかにケルベロス達に向けられていた。飢えを満たすためには、ケルベロス達を排除することが必要だと認識したのだろうか。
 ミリアムの声を受け、ケルベロス達は村人達を護るという意識から、敵デウスエクスを撃破するという意識に切り替えた。

●迎撃
 村と山との間には、明確な隔たりは無い。けれど、人々が普段の生活を営む上である程度の境界は出来ている。草が刈られていなかったり、土が踏み固められていなかったりといった自然に近い環境だ。
 そうした村と山との境目が、ケルベロス達にとっての防衛線であった。
 この防衛線を越えることは許さないと、槙野・清登(惰眠ライダー・e03074)は、ライドキャリバーを駆った。
 村人の避難誘導を終え参戦した清登は、自らは飛び降りるもライドキャリバーは勢いそのままに巨大蛾ローカストへと迫る。
「行け、相棒。キツイのをお見舞いしてやるんだ!」
 真剣な面持ちで平素は内に眠らせている熱い気概を表に出し、清登は相棒と名付けたライドキャリバーに突撃を敢行させた。炎を纏った相棒の突進は、衝撃と炎による痛みを巨大蛾ローカストに与える。
 直撃を受けた巨大蛾ローカストだが、その巨体は空中を浮遊したまま揺らぎもしない。
「見た目通り、強靭な相手です。簡単には倒れてくれそうにありませんね……」
 己の感覚を増幅する斎藤・斎(修羅・e04127)には、相棒の突撃がスローモーションのように知覚出来た。そうして敵の様子を余す処無く見定めた結果として、その頑丈さを認めるしかなかった。ただ頑丈なだけのデクノボウならば楽なものだが、予知の情報からそれはあり得ないと知っている。
「これ程の強力な個体を使い捨て、ですか」
 ローカストの戦略に疑問を感じる斎だが、現時点で敵の思惑を推し量るには情報が少な過ぎる。それならば、目の前の敵を倒すことに集中するしかない。
「その無駄にデカイ身体を斬ってやりたいところだが、まずは役割をこなしておかないとな」
 華奢で儚げな外見とは正反対の好戦的な態度と口調のラーヴル・アルージエ(花に嵐の喩もあるさ・e03697)は、手にしたゾディアックソードと短刀を振るい、前衛に立つ仲間達に守護星座の守りを与える。
「頼むぜ、お前達。このデカブツに、僕の分もしっかり思い知らせてやってくれ」
 前衛の仲間達を激励するラーヴルは、この場で最も戦いを楽しんでいるのだろう。仲間達との連携のために前衛に立ちはしなかったが、そうでなければ真っ先に敵に挑み掛っていただろう。
「俺からも、支援を送ろう。コレで調べれば大概の事は分かる……しゃべってエンジェル、起動ッ!」
 ラーヴルが防御面での支援を行うなら、自分は攻撃面での支援をと、清登はスマートフォンのアプリケーションを起動する。可愛いミニ天使が情報を検索するアプリによって、周囲の地形や一般的な蛾の弱点など、役立つかどうかは不明瞭な大量の情報を調べ上げ、仲間達へ伝えた。
 慎重な立ち上がりで戦いを進めるケルベロス達に対して、巨大蛾ローカストは奇妙な動作を見せる。羽に描かれた魔法陣のような文様が光り輝き、空に浮くためのそれとは異なる羽ばたきを行うと、大量の鱗粉がケルベロス達へと降り注いだ。
 鱗粉は魔法による痛みと身体の自由を奪う効果を持っているため、受け続ければ戦いは明らかに不利になる。
「本来ならば、対複数戦闘に秀でている個体なのでしょうね」
 神藤・聖奈(彷徨う術士・e27704)は、フードに隠したポーカーフェイスを崩す事なく、敵の能力を分析しそう評した。
 おそらくは、この巨大蛾ローカストは多数対多数、例えば戦争と呼ぶような戦いでその真価を発揮する個体なのだろう。しかし、消費するグラビティ・チェインの膨大さから、こうして使い捨てられる事となったのだ。
「……不退転部隊とはまた違った理由で命を放り出してきますね。これがローカスト……いえ、アポロンのやり方という訳ですか」
 理解できない、或いはしたくもない。冷たく淡々と、聖奈は呟いた。

●接戦
 ケルベロスと巨大蛾ローカストとの戦いは、互いに決定打に欠け長引いていた。
 巨大蛾ローカストの鱗粉攻撃は威力はさほど脅威ではないが、その効果によってケルベロス達の行動が阻害されてしまう。そのためにケルベロス達は今一つ攻め切れない。
 それでも、少しずつ均衡が崩れているという確信がケルベロス達にあった。
 ラーヴルの雷の霊力を纏った刺突が、巨大蛾ローカストに突き刺さる。
「こうすれば、少しはダメージも通り易くなるだろうよ」
 確かな手応えに満足感を覚えながら、ラーヴルは仲間達に簡単な動作で合図を送った。
「なかなかしぶといわね。空腹の獣は厄介なものだけど、虫も同じみたいね」
 電光石火の蹴りを急所と思しき箇所に叩き込んだミリアムだが、未だに健在の巨大蛾ローカストに呆れたと溜息を漏らさずにはいられない。
「砕くぜ!」
 次いで、ラズェがグラビティ・チェインを破壊力に変え、武器に乗せ叩き付ける。
 半長靴から伝わる感触に、この一撃が会心の一発だったと理解しラズェは数回戦場を共にした眸に余裕の笑みを見せる。
「どうだ? 君乃。腕を上げたと言ったろう?」
 けれど眸はそれに応じず、キリノが飛散させた石礫に合わせ、ドリルのように回転させた拳を繰り出していた。
「まダだ。油断すルな」
 手短に、そう忠告するのが精一杯だったのだろう。直後、巨大蛾ローカストの口針が手近な斎を襲う。もし眸とキリノの攻撃が無ければ、或いは口針はラズェに向かっていたかも知れない。
「痛み分けと言いたいところですが、こちらの被害が上です……」
 口針に身体を抉られるのとほぼ同時に、斎は身に纏ったアオザイの裾を跳ね上げ神速の斬撃で敵の巨体に裂傷を与えていた。同じような傷を与えあった両者だが、どちらがより深手を負っているかは、誰よりも当人が否応無く理解している。
 清登の真に自由なる者のオーラの癒しがなければ、斎は戦闘の継続が危ぶまれるところだっただろう。
(「……一般人を襲おうとしても、仲間を傷付けられても、この相手を敵としては考えられない。どうしても、自由を奪われた被害者と思ってしまう」)
 そんな迷いが、清登の頭の片隅から離れない。迷い無く直進する相棒が、いっそ羨ましいくらいだ。
「こうなった事情はどうあれ、好き勝手させるわけにはいきません。他に方法もありませんし、ご退場願いましょう」
 清登は仲間の士気に配慮して悩みを口に出してはいないが、仲間達の中にも同じような思いはあった。ただ、聖奈は清登と違いそれを引き摺りはしていなかったが。
 聖奈は半透明の御業で、巨大蛾ローカストを容赦なく鷲掴みにする。
「苦しいから、奪って楽になる。それじゃあ、あなたは他者にとって害でしかありません」
 さらに、捕食モードになったアイビーのブラックスライムが、巨大蛾ローカストを丸呑みにしようと喰らい付いた。
 ケルベロス達が勝利を手繰り寄せていると確信している理由は、攻撃によって巨大蛾ローカストに蓄積する数々の不利な効果や影響であった。
 これらを打ち消す手段を有していない巨大蛾ローカストは、当初に比べて確実に戦闘能力が低下していた。

●撃墜
 戦いは終局に差し掛かっている。経験や勘によって、ケルベロス達はそう感じ取っていた。ここからは、戦術よりも一手でも早く押し切ることが重要になる。
「落ちるように、墜ちるように、堕ちるように、陥るように……さあ、蕩けて」
 ここに至り、アイビーは攻撃を威力重視に切り替えた。猛毒の雨は、巨大蛾ローカストの巨体に降り注ぎ、その巨体を苛んでいく。
 空腹の苦しみと、戦いの負傷による苦しみ。二重の苦痛に巨大蛾ローカストは苦悶し慟哭する。
「ただの駒でしかない貴方には、哀れみしか覚えません。せめて少しでも早く、苦しみから解き放って差し上げましょう」
 握った日本刀で、斬るよりも殴り付けるように破壊力を叩き込む斎の攻撃は、介錯の意味を持ったものだっただろうか。
「……燃え上がレ」
 ナックル型のマインドリングから形成された刃に炎を纏わせ、眸は巨大蛾ローカストを斬り付ける。
「焼くぜ? 消し炭も残さねぇよ」
 炎に身を捩る巨大蛾ローカストの隙を突き、ラズェは密着し触れた掌から零距離での大爆発を巻き起こす。自身をも危険に曝しかねない爆破は、致命的な一撃となった。
「そろそろ限界みたいね。いい加減、楽にしてあげるよ!」
 一定の拍子で羽ばたいていた巨大蛾ローカストの羽が、今は辛うじて巨体を浮かせている有様となっていた。
 死角から射出されたミリアムの矢は、羽と胴体を貫通し、巨大蛾ローカストは遂に浮遊を維持できず地面に降り立った。その様は、航空機であれば不時着と呼ばれるものであっただろう。
「もウ少しだ、行けキリノ。今度は、決しテやらせはしナい!」
 キリノに攻撃を指示する眸の口調からは、確固たる決意が滲んでいる。
 同じ場所で同じ経験をし、同じ思いを抱いた戦友の決意に、清登も迷いを振り切った。
「俺には飢えを満たす糧を与える事は出来ない。ただこれ以上、飢える事の無い眠りを齎すことしか……」
 地に立った巨大蛾ローカストの羽を相棒が激しいスピンで轢き裂き、清登は拳を胴体に叩きつける。
「Alea iacta est」
 そして聖奈が天高く形成した魔法陣から創造された隕石群が降り注ぎ、巨大蛾ローカストは文字通りに虫の息となった。
「そろそろ飽きた。お前とは正気の状態で戦いたかったな」
 冷徹にトドメを刺すラーヴルに、巨大蛾ローカストは抗う力を残してはいない。
 最後にボロボロになった羽を一度だけ羽ばたかせ、息絶えた。
 長引いた戦いも、ようやくケルベロスの勝利で幕を閉じた。
 長期戦となりはしたものの、結果的には人的被害は皆無であり、村にもさしたる損害は見られない。ケルベロス達の完勝である。
 それでも、ケルベロス達は勝利に喝采する気分にはなれなかった。
 念の為にと村人の安否を確かめたり、村の建物や畑の被害確認を行うケルベロス達の表情は、晴れやかとは言い難い。
「何かあれば、これを使ってください」
 この戦いで農業などに不都合が生じていた場合のケアにと、村人にケルベロスカードを配布する斎の表情も、不安にさせないための作り笑顔だ。
 巨大蛾ローカストが得たグラビティ・チェインを搾取する仕組みのような何かがないか調査したものの、成果が無かったからという理由ではない。
「使い捨て……良い気分はしませんね。本当に」
 俯き表情を隠したままの聖奈の呟き。
 気に留めない者もいるが、聖奈と同じ思いを抱く者もいる。
「相も変わらず戦いは続く。平和は程遠いわな」
 紫煙を燻らせながら独白するラズェの言葉に、アイビーはいつも通りの笑顔を崩さないよう努めなければならなかった。
「まだこんな事が続くんでしょうね……」
 勝利を収めようとも、割り切れないこんな戦いが。
「早く元凶を潰したいわね」
「同感だ。こんなマネをする下衆野郎には虫酸が走る」
 ミリアムとラーヴルはこの事態の元凶を断つ事を望む。
 だが、ケルベロスの刃を突き付けるには、太陽神アポロンは未だ遠い……。

作者:流水清風 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年8月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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